説明

コイルスプリング

【課題】潤滑剤の注入用管継手に潤滑剤の円滑な流れを担保しつつ、かつ逆止弁機能及びその強度を十分に担保し、なおかつ製造に当たり製造効率を上げ製造不良の可能性を低下させる、潤滑剤の注入用管継手用のコイルスプリング構造及び当該コイルスプリング構造を使用した潤滑剤の注入用管継手を提供すること。
【解決手段】潤滑剤の注入用管継手用のコイルスプリングが、潤滑剤注入口側から潤滑剤排出口側へ向かって、コイル径が一定である第1の円筒状部分と、潤滑剤排出側に向かって徐々にコイル径が広がっていく拡大部分と、コイル径が一定である第2の円筒状部分とによって構成され、かつ、コイル線の中心軸に直交する断面が楕円状に構成されていることからなること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の輸送機を始め、汎用機械部品の潤滑部に充填される潤滑剤の注入用管継手(grease nipples)に使用されるコイルスプリングに関する。
より詳細には、潤滑剤の注入用管継手に用いられる逆止弁機能用のコイルスプリング、及び当該コイルスプリングを使用した潤滑剤の注入用管継手に関する。
【背景技術】
【0002】
機器の軸受部や油圧機械、車両等の輸送機を始め、汎用機械部品の潤滑部に充填される潤滑剤の注入用管継手は、一般的に、潤滑剤を流すための略筒状の空洞を有する注入用管継手本体と、コイルスプリングと、ボール状部材からなり、ボール状部材は、コイルスプリングにより潤滑剤注入口に向けて付勢され、逆止弁としての機能を果たしている。
【0003】
そして、ボール状部材側から、グリースガンにより潤滑剤の注入を一定以上の圧力で行うと、ボール状部材が押圧されることによりコイルスプリングが圧縮され、注入口に隙間が空き、ボール状部材と注入用管継手本体との隙間を通して、潤滑剤を注入することが出来るものである。
また、コイルスプリングは、そのコイル径(コイルの平均径)が、ボール状部材に当たる部分から、潤滑剤排出側に向かうにしたがって徐々に大きくなっていく、円錐状のコイルスプリングが使用されることがある(例えば、特許文献1参照)。これは、潤滑剤排出側において、注入用管継手本体にしっかりとスプリングを固定し、かつボール部材を適切に支えるための構成である。
【0004】
したがって、潤滑剤の逆止弁構造を維持するためには、コイルスプリングは必須の構成であり、かつ所要の強度を持っていなければならない。しかしながら、潤滑剤の注入用管継手のコイルスプリングは、それ自体が潤滑剤通路に対して抵抗となってしまい、潤滑剤の円滑な流れを阻害することになるという問題点がある。
【0005】
すなわち、潤滑剤の円滑な流れを向上させるとすれば、スプリング線径を細くするか、コイルスプリングのピッチを広くして、注入用管継手本体の空洞内の空間量を上げることが考えられる。しかし、この構成を過度に採用してしまうと、コイルスプリング強度が落ちて、コイルスプリングの復元力が足りず、ボール部材が十分に付勢されず、逆止弁機能が損なわれて、潤滑剤の漏洩を起こす可能性がある。または、ボール状部材とコイルスプリングが直線的運動からはずれてしまい、ボール状部材が正しく付勢されず、潤滑剤の漏洩を起こす可能性がある。
【0006】
一方、コイルスプリングの直径を太くして、またはコイルスプリングのピッチを狭くして、コイルスプリングの強度をあげてしまうと、抵抗が増えて潤滑剤が円滑に流れることが阻害されてしまう。
【0007】
さらに、潤滑剤の注入用管継手の製造においては、加工と組立において、パーツフィーダなど、自動機械を使用することが、生産効率上必須の要件になっている。すなわち、従来の円錐状のコイルスプリングは、コイル径の小さい側を先に、コイルスプリングのコイル径の大きい側を後にして、方向を揃えて複数個順次整列させると、コイルスプリング同士が干渉しあって結合してしまい、個別に部品を供給する機能を損ねてしまい、製造効率を低下させたりする場合があるという問題点があった。
【特許文献1】実開昭63−53998号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の目的は、潤滑剤の注入用管継手に潤滑剤の円滑な流れを担保しつつ、かつ逆止弁機能及びその強度を十分に担保し、なおかつ製造に当たり製造効率を上げ製造不良の可能性を低下させる、潤滑剤の注入用管継手用のコイルスプリング構造及び当該コイルスプリング構造を使用した潤滑剤の注入用管継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明の潤滑剤の注入用管継手用のコイルスプリングは、潤滑剤注入口側から潤滑剤排出口側へ向かって、コイル径が一定である第1の円筒状部分と、潤滑剤排出側に向かって徐々にコイル径が広がっていく拡大部分と、コイル径が一定である第2の円筒状部分とによって構成され、
かつ、コイル線の中心軸に直交する断面が楕円状に構成されていることからなる。なお、本願において潤滑剤の注入用管継手用とは、グリースニップルを意味するものである。
【0010】
また、コイル線の中心軸に直交する断面の楕円の長軸と短軸の比が、5.3〜8.0:4.9であることが好適であり,さらに好ましくは6.0±0.5:4.9であることが好適である。
また、潤滑剤注入口側のコイル平均径と、潤滑剤排出側のコイル平均径の比が、2.7±0.5:4.9±0.5であることが好適である。
また、第1の円筒状部分と、拡大部分と、第2の円筒状部分との長さの比が、7±1:7〜15:7±1であることが好適である。
【0011】
さらに、本発明は、上記コイルスプリングを備えた潤滑剤の注入用管継手からなる。
また、上記コイルスプリングを備えた潤滑剤の注入用管継手であって、第1の円筒状部分が配置される空洞の直径が、第2の円筒状部分が配置される空洞の直径より小さく構成されていることが好適である。
【0012】
本発明者は、鋭意研究の結果、コイルスプリングのコイル線(巻き線)に楕円状の断面を持つコイル線を使用した上で、かつコイルスプリング形状を、所謂ボトル状とし、コイル径が一定である第1の円筒状部分と、潤滑剤排出側に向かって徐々にコイル径が広がっていく拡大部分と、コイル径が一定である第2の円筒状部分とによって構成すると、前記課題を同時に解決できることを発見したものである。なお、拡大部分は、一定の割合でコイル径が広がる円錐状にしても、非一定の割合で広がり、外形視で曲線的に広がっていく形状としても良い。
【0013】
すなわち、コイル線に断面が楕円状のコイル線を使用し、さらにスプリング形状を所謂ボトル状とすると、通常の断面が円形のコイル線を使用した場合と比べてもその強度を失わせず、かつ潤滑剤の円滑な流れを十分に確保することに成功したものである。また、楕円の長軸と短軸の比が5.3〜8.0:4.9、特には6.0±0.5:4.9であれば好適であることを発見したものである。
なお、本願における楕円状とは、必ずしも幾何学的に完全な楕円でなくても良く、円が潰れた形状や曲線の連続からなる略楕円状であれば良い。
【0014】
また、コイル線の楕円の向きに関しては、特に限定されず、求められるコイルスプリングの復元強度や、想定される潤滑剤の流量や速度に合わせて適宜設定すれば良い。
例えば、コイル軸を含むコイルスプリングの断面視において見受けられるコイル線の楕円の長軸が、少なくとも第1又は第2の円筒状部分においてコイル軸に略平行な向きである場合、潤滑剤の円滑な流れも確保しながら、よりコイルスプリングの復元強度を高く保つことができる。このため、より広いピッチ幅や少ない巻き数で高い強度を保つという利点を有している。
一方、コイル軸を含むコイルスプリングの断面視において見受けられるコイル線の楕円の短軸が、少なくとも第1又は第2の円筒状部分においてコイル軸に略平行な向きである場合、より潤滑剤が円滑にコイルスプリングの円筒内に流入しやすく、潤滑剤の円滑な流れをより確実に担保できる利点を有している。
このように、本発明によれば、様々な設計を可能とするため、利用価値の高いものである。
【0015】
また、潤滑剤注入口側のコイル径と、潤滑剤排出側のコイル平均径の比が、2.7±0.5:4.9±0.5であることが、強度や注入用管継手内への納まり具合、ボール状部材の大きさのバリエーション等の観点から、好ましいものである。
【0016】
なお、コイルスプリングのピッチ幅は、弾力性能などを考慮して適宜選択すれば良い。特に、本発明によれば、拡大部分において、潤滑剤の流路を確保するためにピッチ幅を必要以上に空けなくても、潤滑剤の円滑な流れを確保することができる。このため、コイルスプリングの強度を損ねることもない。このように、本発明の構成はピッチ幅の選択の自由度を上げるという利点もあるものである。
【0017】
さらに、本発明のコイルスプリングは、潤滑剤注入口側から潤滑剤排出口側へ向かって、コイル径が一定である第1の円筒状部分と、潤滑剤排出側に向かって徐々にコイル径が広がっていく拡大部分と、コイル径が一定である第2の円筒状部分によって構成されていることにより、上記の効果を維持しつつ、かつ製造効率を上げることが可能となる。このため、コイル径が一定である第1の円筒状部分と、潤滑剤排出側に向かって徐々にコイル径が広がっていく拡大部分と、コイル径が一定である第2の円筒状部分との長さの比が、7±1:7〜15:7±1であることが好ましい。
【0018】
すなわち、製造前段階において、コイルスプリングは、コイル径の小さい側を、他のコイルスプリングのコイル径の大きい側に差し込まれるように整列されて自動機に取り込まれるが、本発明の構成として潤滑剤排出側に向かって徐々にコイル径が広がっていく拡大部分を中間に設けたことにより、従来の円錐状のコイルスプリングと比べ、コイルスプリングが互いに接触しあって噛み合う部分が減り、より容易に互いに引き離すことが可能となったものである。したがって、パーツフィーダやセパレータによって引き離す際に、より容易にかつ高速で引き離すことが可能となり、製造効率を上げることが可能となったものである。
【0019】
コイルスプリングは、例えば硬鋼線材など、公知のコイルスプリング用線材を使用し、当該線材を巻きながら楕円に圧延するなど、公知の材料及び公知の方法で製造することが可能である。
【0020】
本発明のコイルスプリングを使用した注入用管継手は、一般的な注入用管継手本体に使用することが可能である。しかし、本発明におけるコイルスプリングの形状にあわせて、潤滑剤排出口側の空洞の直径が、潤滑剤注入口側の注入用管継手本体の空洞の直径より大きいことが好ましい。すなわち、第2の円筒状部分が配置される空洞の直径が、第1の円筒状部分が配置される空洞の直径より大きく構成されることで、ボール状部材の支持も適切に行う一方、注入用管継手の小型軽量化を維持しつつ、空間量を増やして潤滑剤の円滑な注入も行うことができるものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の以上の構成により、潤滑剤の注入用管継手に潤滑剤の円滑な流れを担保しつつ、かつ逆止弁機能及び強度を十分に担保し、なおかつ製造にあたり製造効率を上げ製造不良の可能性を低下させる、潤滑剤の注入用管継手用のコイルスプリング構造及び当該コイルスプリング構造を使用した潤滑剤の注入用管継手を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のコイルスプリングのコイル軸を含む断面を示す図である。
【図2】本発明のコイルスプリングの、コイル線の断面を示す図である。
【図3】本発明のコイルスプリングを収納した注入用管継手本体の構造を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の実施の形態の例を図面にしたがって説明する。
【0024】
図1は、本発明のコイルスプリングのコイル軸を含む断面を示す図である。
コイルスプリング1は、潤滑剤注入口側から潤滑剤排出口側へ向かって、コイル径が一定である第1の円筒状部分2と、潤滑剤排出側に向かって徐々にコイル径が広がっていく拡大部分3と、コイル径が一定である第2の円筒状部分4とによって構成されている。
【0025】
また、第1の円筒状部分2と、拡大部分3と、第2の円筒状部分4の長さは、それぞれ7mm,7.5mm,7mmとなっている。
潤滑剤注入口側のコイル径と、潤滑剤排出側のコイル平均径は、それぞれ2.7mm、4.9mmである。
コイルスプリング1を構成する線材は、硬鋼であるSWRH62Aを使用している。
【0026】
コイル線すなわちコイル線5の断面の楕円は、長軸6と短軸7の比が、6.0:4.9である(図2参照)。そして、コイルスプリング1は、コイル軸8を含むコイルスプリング1の断面視において、楕円の長軸6がコイル軸8に対して略平行な向きに巻かれている。このような構成によって、コイルスプリングの強度を保ちながら、より円滑に潤滑剤が流れるものである。
【0027】
図3は、本発明のコイルスプリング1を収納した注入用管継手本体9の構造を示す図である。注入用管継手本体9には、潤滑剤が流れる空洞10が設けられ、当該空洞10にコイルスプリング1及び鋼のボール状部材11が設けられて、逆止弁構造を構成している。
【0028】
そして、潤滑剤注入口側の注入用管継手本体9の空洞10の直径は、潤滑剤排出口側の空洞10の直径4.95mmよりも小さい。すなわち、配置されるコイルスプリング1のコイル径が大きい部分は空洞の直径が大きく、コイルスプリングのコイル径が小さい部分は、空洞の直径が小さく構成されているものである。
なお、本実施例においてはJIS規格におけるA型の例を示したが、B型やC型であっても適用可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 コイルスプリング
2 第1の円筒状部分
3 拡大部分
4 第2の円筒状部分
5 コイル線
6 長軸
7 短軸
8 コイル軸
9 注入用管継手本体
10 空洞
11 ボール状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑剤注入口側から潤滑剤排出口側へ向かって、コイル径が一定である第1の円筒状部分と、潤滑剤排出側に向かって徐々にコイル径が広がっていく拡大部分と、コイル径が一定である第2の円筒状部分とによって構成され、
かつ、コイル線の中心軸に直交する断面が楕円状に構成されていることを特徴とする潤滑剤の注入用管継手用のコイルスプリング。
【請求項2】
コイル線の中心軸に直交する断面の楕円の長軸と短軸の比が、5.3〜8.0:4.9であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑剤の注入用管継手用のコイルスプリング。
【請求項3】
潤滑剤注入口側のコイル平均径と、潤滑剤排出側のコイル平均径の比が、2.7±0.5:4.9±0.5であることを特徴とする請求項1乃至2のいずれか1項に記載の潤滑剤の注入用管継手用のコイルスプリング。
【請求項4】
第1の円筒状部分と、拡大部分と、第2の円筒状部分との長さの比が、7±1:7〜15:7±1であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の潤滑剤の注入用管継手用のコイルスプリング。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の潤滑剤の注入用管継手用のコイルスプリングを備えた潤滑剤の注入用管継手。
【請求項6】
第2の円筒状部分が配置される空洞の直径が、第1の円筒状部分が配置される空洞の直径より大きく構成されていることを特徴とする請求項5に記載の潤滑剤の注入用管継手。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−32796(P2013−32796A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168217(P2011−168217)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(307047081)日盛金属工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】