説明

コイル及びトランス

【課題】コイル及びトランスにおいて、小型・軽量化を図りつつ磁気飽和し難いものにする。
【解決手段】コイル1は、下部磁性材基板2と、下部磁性材基板2上に形成されたループ状導体3と、ループ状導体3の周辺に設けられた磁性材コア層4と、上部磁性材基板5とを備えている。また、ループ状導体3と磁性材コア層4との間にエアギャップ6が形成されている。エアギャップ6における下部磁性材基板2に垂直な方向のギャップ長は、ループ状導体3に近づく程大きくなり、離れる程小さくなるように変化していて、磁性材コア層4の厚みは面内分布を持つ。これにより、ループ状導体の近くを通る経路における磁気抵抗と、遠くを通る経路の磁気抵抗とが略同一になるので、コア部内の磁束密度が均一になって磁気飽和し難くなる。また、トランスは、上記コイル1を一対備え、各ループ状導体とコア部同士が対面するように接合することにより構成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性材基板上に形成されるコイル及びトランスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型・軽量の電子機器に用いられる電源の小型・軽量化が求められており、電源回路の中で比較的大きな部品であるコイルやトランス等の磁気素子の小型・軽量化が課題となってきている。このために、磁性材基板上に平面コイルを形成し、平面コイルを磁性樹脂層で覆い、その上から上部磁性材基板で挟み込むような構造とした磁気素子が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、このような磁気素子は、平面コイルの近傍を通る経路における磁気抵抗が、平面コイルの遠くを通る経路の磁気抵抗より小さいので、平面コイルの導体近辺に磁束が集中する。このために、平面コイルの導体に大電流が流れると、導体から離れたところでは磁束密度があまり高くないにも拘らず、導体付近では磁束密度が高くなって磁気飽和するので、インダクタンスが低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−173384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題を解消するものであり、小型・軽量化を図りつつ磁気飽和し難いコイル及びトランスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、磁性材基板と、前記磁性材基板上に形成されたループ状導体と、前記ループ状導体の周辺に設けられ前記ループ状導体に通電されたときに発生する磁束が通る磁性体から成るコア部と、を備えたコイルにおいて、前記コア部は、前記ループ状導体との間にエアギャップを有し、前記エアギャップは、前記磁性材基板に垂直な方向のギャップ長が前記ループ状導体に近づく程大きくなり、前記ループ状導体から離れる程小さくなるように変化しているものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載のコイルにおいて、前記エアギャップは、前記コア部と磁性材基板との間に形成されるものである。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載のコイルにおいて、前記エアギャップが、前記磁性材基板及びコア部の材質よりも透磁率の低い材質によって置換されたものである。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のコイルを一対備え、前記一対のコイルは、各磁性材基板が外側に位置し、各ループ状導体とコア部同士が対面するように接合されたものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、エアギャップ長が位置によって変化していて、コア部の磁性材基板に垂直な方向の厚みが面内分布を持つことにより、ループ状導体の近くを通る経路における磁気抵抗と、遠くを通る経路における磁気抵抗とを略同一とすることができる。このため、コア部内の磁束密度が均一になって磁気飽和し難くなり、全体の小型・軽量化を図ることができる。
【0011】
請求項2の発明によれば、エアギャップが磁性材基板とコア部との間に位置するので、磁性材基板の上に材料を積層していくMEMS(Micro Electro Mechanical System)技術によってエアギャップを作り易くなり、コイルを容易に製造することができる。
【0012】
請求項3の発明によれば、エアギャップが透磁率の低い材質によって置換されるので、エアギャップを形成する手間が省かれ、コイルを容易に製造することができる。
【0013】
請求項4の発明によれば、トランスを構成するそれぞれのコイルが磁気飽和し難いので、トランスも磁気飽和し難くなり、請求項1と同等の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)は本発明の第1の実施形態に係るコイルの分解構成図、(b)は同コイルの斜視図。
【図2】(a)は同コイルの断面図、(b)は(a)における断面図の部分拡大図。
【図3】本発明の第2の実施形態に係るトランスの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施形態)
第1の実施形態について図1及び図2を参照して説明する。本実施形態に係るコイル1は、下部磁性材基板(磁性材基板)2と、下部磁性材基板2上に形成されたループ状導体3と、ループ状導体3の周辺に設けられループ状導体3に通電されたときに発生する磁束が通る磁性体から成る磁性材コア層(コア部)4と、ループ状導体3上に配置される上部磁性材基板5とを備えている。また、ループ状導体3と磁性材コア層4との間にエアギャップ6が形成されている。下部磁性材基板2及び上部磁性材基板5はフェライトを、ループ状導体3は銅を、磁性材コア層4はNiFeをそれぞれ用いることができる。
【0016】
ループ状導体3、磁性材コア層4、上部磁性材基板5、及びエアギャップ6は、例えばMEMSプロセスを用いて、下部磁性材基板2の上に形成することができる。ループ状導体3は、下部磁性材基板2、磁性材コア層4及び上部磁性材基板5が絶縁体でない場合には、全表面を酸化膜等の絶縁層で覆って絶縁分離する。磁性材コア層4は、ループ状導体3の内周側と外周側に設けられる。この磁性材コア層4を通る磁束密度を均一にするために、磁性材コア層4の厚み(磁性材基板に垂直方向の厚み)が面内分布を持つように、エアギャップ6における下部磁性材基板2に垂直な方向のギャップ長を、ループ状導体3に近づく程大きくなり、ループ状導体3から離れる程小さくなるように変化させている。
【0017】
エアギャップ6の形成は、エアギャップ6を形成する箇所に一旦、SiO等の部材を形成し、その後に形成した部材を除去することによって行う。エアギャップ6の下部磁性材基板2に垂直な方向における位置は、下部磁性材基板2と上部磁性材基板5の間ならば、いずれの位置に形成してもよい。しかしながら、磁性材コア層4の上部磁性材基板5側にエアギャップ6を形成すると、エアギャップ6を形成した後に上部磁性材基板5を磁性材コア層4に接合するときに接着剤等によってエアギャップ6が埋まってしまう虞がある。そこで、ループ状導体3や磁性材コア層4がMEMSプロセスによって下部磁性材基板2の上に積層して作られるので、エアギャップ6を下部磁性材基板2と磁性材コア層4との間に設けることにより、コイル1を製造し易くなる。
【0018】
次に、上記のように構成されたコイル1の作用効果について、図2を参照して説明する。ループ状導体3に通電されると、発生した磁束が下部磁性材基板2、磁性材コア層4、上部磁性材基板5及びエアギャップ6を通る。このときの、ループ状導体3に近い位置を通る経路Iと、ループ状導体3から離れた位置を通る経路IIとにおけるそれぞれの磁気抵抗を、エアギャップ6が無い場合と比較して簡易的に求める。ここで、下部磁性材基板2及び上部磁性材基板5の比透磁率μ1=1000、磁性材コア層4の比透磁率μ2=500、エアギャップ6の比透磁率μ3=1としている。また、経路Iにおいて、下部磁性材基板2及び上部磁性材基板5を通る経路相当の長さをd2、ギャップ長をh1とし、経路IIにおいて、下部磁性材基板2及び上部磁性材基板5を通る経路Iと経路IIとの差に相当する距離をd1、ギャップ長をh2としている。
【0019】
エアギャップ6が無い場合は、
経路Iの磁気抵抗HI=2×d2/μ1+2×h3/μ2
経路IIの磁気抵抗HII=2×(d2+2×d1)/μ1+2×h3/μ2=2×d2/μ1+4×d1/μ1+2×h3/μ2
となり、経路Iの磁気抵抗のほうが、(4×d1/μ1)分、経路IIの磁気抵抗より小さくなる。このように、エアギャップ6が無い場合には、磁気抵抗が、ループ状導体3に近い位置を通る経路の方が遠い位置を通る経路より小さくなるので、磁束はループ状導体3に近い方に集中する。
【0020】
エアギャップ6が有る場合は、
経路Iの磁気抵抗HI=2×d2/μ1+2×(h3−h1)/μ2+2×h1/μ3=2×d2/μ1+2×h3/μ2+2×h1(1/μ3−1/μ2)
経路IIの磁気抵抗HII=2×(d2+2×d1)/μ1+2×(h3−h2)/μ2+2×h2/μ3=2×d2/μ1+2×h3/μ2+2×h2(1/μ3−1/μ2)+4×d1/μ1
となる。
ここでd1=(h1−h2)×(1/μ3−1/μ2)×μ1/2=499×Δh (ただしΔh=h1−h2)
であれば、経路Iの磁気抵抗HIと経路IIの磁気抵抗HIIが同じになる。例えば、d1=1mm、h2=0μmとすると、h1=1000/499≒2μmのときに、磁気抵抗HIと磁気抵抗HIIが同じになる。従って、エアギャップ6の断面を底辺1mmで高さ2μmの直角三角形状にすると、ループ状導体3から1mmの距離までの位置における磁気抵抗が略同一になるので、その範囲における磁束密度が均一になる。
【0021】
このように、エアギャップ長を変化させ、磁性材コア層4の厚みに面内分布を持たせることによって、ループ状導体3の近くを通る経路と遠くを通る経路とにおける磁気抵抗を略同一にすることができるので、磁性材コア層4内の磁束密度が均一になって磁気飽和し難くなり、コイル1の小型・軽量化を図り易くなる。
【0022】
また、エアギャップ6の形成には、μm単位の厚み制御が必要になるが、図2(a)、(b)に示すような断面が直角三角形形状でなく、斜辺部分の断面が階段状の形状であっても底辺と高さの関係が保たれていれば、略同等の効果を得ることができる。
【0023】
本実施形態において、一対の下部磁性材基板2と上部磁性材基板5とでループ状導体3と磁性材コア層4とを挟持する構成のものを示したが、磁性特性が若干低下してもよい場合は、上部磁性材基板5を省略することもできる。
【0024】
次に、本実施形態の変形例について説明する。上記実施形態では、エアギャップ6が空隙そのものの例を示したが、このエアギャップ6部分に、下部磁性材基板2、上部磁性材基板5、及び磁性材コア層4の材質よりも透磁率の低い材質である、例えば、SiO等を形成することによりエアに置換したギャップとしてもよい。この透磁率の低い材質の比透磁率は、1乃至10の範囲がよい。このギャップの長さを調整することによって、磁性材コア層4における磁気抵抗が略同一になるので、磁束密度が均一になる。このように、エアギャップ6を透磁率の低い部材によって置換したギャップにすることにより、エアギャップ6を形成する手間が省かれ、コイル1の製造を容易にすることができる。
【0025】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について図3を参照して説明する。本実施形態は、第1の実施形態に係るコイル1を用いてトランスを構成したものである。トランス7は、一対のコイル1,1を備えている。各コイル1は、上部磁性材基板5を除いた構成であり、トランス7は、各コイル1の下部磁性材基板2を外側に位置させて、ループ状導体3と磁性材コア層4同士が対面するように接合されている。このような構成にすることにより、各コイル1が磁気的に結合してトランス7として動作し、各コイル1が磁気飽和し難く、トランス7も磁気飽和し難くなる。
【0026】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限られず、発明の趣旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、ループ状導体3は、1ターンでなく複数ターンとしてもよい。
【符号の説明】
【0027】
1 コイル
2 下部磁性材基板(磁性材基板)
3 ループ状導体
4 磁性材コア層(コア部)
5 上部磁性材基板
6 エアギャップ
7 トランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材基板と、前記磁性材基板上に形成されたループ状導体と、前記ループ状導体の周辺に設けられ前記ループ状導体に通電されたときに発生する磁束が通る磁性体から成るコア部と、を備えたコイルにおいて、
前記コア部は、前記ループ状導体との間にエアギャップを有し、
前記エアギャップは、前記磁性材基板に垂直な方向のギャップ長が前記ループ状導体に近づく程大きくなり、前記ループ状導体から離れる程小さくなるように変化していることを特徴とするコイル。
【請求項2】
前記エアギャップは、前記コア部と磁性材基板との間に形成されることを特徴とする請求項1に記載のコイル。
【請求項3】
前記エアギャップが、前記磁性材基板及びコア部の材質よりも透磁率の低い材質によって置換されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコイル。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のコイルを一対備え、
前記一対のコイルは、各磁性材基板が外側に位置し、各ループ状導体とコア部同士が対面するように接合されたことを特徴とするトランス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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