説明

コガネムシ科害虫防除用粒状製剤、該製剤の製造方法及び該製剤を用いたコガネムシ科害虫の防除方法

【課題】コガネムシ科害虫の幼虫に致死活性を示すバチルス ポピリエの多量の胞子を、摂食可能状態で土壌中に長期間安定に維持することにより、高い防除効果を発揮するコガネムシ科害虫防除用粒状製剤、該製剤の製造方法及び該製剤を用いたコガネムシ科害虫の防除方法を提供する。
【解決手段】(1)バチルス ポピリエ(Bacillus popilliae)の胞子、(2)コガネムシ科害虫に対して摂食誘因性を有する植物質粉末、(3)ワックス類、油脂類、ワックス類又は油脂類の酸化物及びそれらの酸化エチレン付加物からなる群から選ばれる少なくとも一種と、を含有するコガネムシ科害虫防除用粒状製剤、及び(1)〜(3)を混錬、造粒後、40〜80で乾燥する該製剤の製造方法、並びに該製剤を作物の定植前及び/又は定植時に、土壌と均一に混合して地表から少なくとも10cm以上の深さに散布するコガネムシ科害虫の防除方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サツマイモ、ダイコン、ニンジン、ジャガイモ等を生産する農業分野に多大の食害をもたらす各種コガネムシ科害虫を防除するための、バチルス ポピリエ(Bacillus popilliae)の胞子(以下胞子という)を含有する粒状製剤、該製剤の製造方法及び該製剤を用いたコガネムシ科害虫の防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の作物や園芸植物を食害するコガネムシ科の幼虫、特にドウガネブイブイ、セマダラコガネ、マメコガネ、ヒメコガネ等は、野菜畑、農園、果樹園、庭園、山林、温室、芝地、牧草地などの圃場及び園芸施設等において、作物や園芸植物の根部(塊茎)に食害をもたらし、これらの生育に重大な被害を及ぼす害虫として知られている。近年、これら害虫によりもたらされる、特にサツマイモ、ジャガイモ、ニンジン、ダイコン等の根菜類の塊茎の食害発生による収穫物の品質不良と生産量の低下は大きな問題となっている。
【0003】
これらのコガネムシ幼虫に対しては従来、合成殺虫剤、特に有機リン系農薬(例えば、ダイアジノン、フェンチオン、イソキサチオン等)及びカーバメート系農薬(例えば、ベンフラカルブ、カルボスルファン、メソミル等)の水和剤や水中懸濁剤(ゾル剤)が、土壌混和や土壌表面処理や茎葉部散布の施用によって使用されてきた。しかしながら、作物の栽培地では上記コガネムシ科害虫類は、土壌中での加害行動を行なうため、地上部からの薬剤散布では土壌中の幼虫生育環境に農薬が到達し難く、また、粒状製剤や水中懸濁製剤の土壌混和処理等では製剤自体の安定性に問題があったり、有効成分の土壌中での分解が生じたり、また幼虫の忌避行動などによって十分なる防除効果を示さないことも多く見られてきた。
【0004】
これらの問題点を解決する方法としては、多回の農薬投下も考えられるが、作物定植後の農薬の施用は多大の労力を必要とするばかりでなく、その効果も上記理由によって十分に発揮されにくい場合が多かった。さらに、これら合成農薬の多量の土壌施用は往々にして、土壌残留の増大を伴い、降水や土質によっては地下水や河川水への混入の危険が伴ってきた。
【0005】
一方、寄生微生物を利用する防除技術としては、既に1933年に米国において、日本からの外来昆虫であるマメコガネの幼虫から単離されたバチルス ポピリエに属する微生物が、コガネムシ科害虫の幼虫に対して乳化病を誘発することが知られていた(例えば、非特許文献1参照)。しかし、実際の圃場試験ではドウガネブイブイに対して効果は見られなかった(例えば、非特許文献2参照)。
【0006】
また、人工培養したバチルス ポピリエの胞子を水に希釈して芝草の上から散布した報告(非特許文献3参照)も見られるが、地表から数センチと浅い位置に幼虫が生存する芝草の場合にのみ有効で、地表から数十センチと深い位置に幼虫が生存する根菜類のコガネムシ科害虫の防除手段としての報告は行なわれていない。
【0007】
さらに、セマダラコガネとドウガネブイブイに対して殺虫効果を有する微生物として、バチルス チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)に属する微生物が報告されている(特許文献1参照)。BT剤と総称される該微生物の胞子又は芽胞を含有する水和剤や水中懸濁剤は、農薬として登録を取得しているものの、散布時に紫外線の影響を受けることで防除効果が不安定になると考えられ、殆ど普及していないのが現状である(例えば、非特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平8−228783号公報
【非特許文献1】Walter E.Fleming,(1968) Biological Control of the Japanese Beetles. US. Department Agriculture Technical Bulletin 1383. Washington D.C
【非特許文献2】農業有用微生物−その利用と展望− 梅谷献二、加藤肇 P.236(1990年)
【非特許文献3】DIC Technical Review No.9 2003年
【非特許文献4】農業有用微生物−その利用と展望− 梅谷献二、加藤肇(1990年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
乳化病菌として知られるバチルス ポピリエに属する微生物が実際の圃場でコガネムシ科害虫に対して十分な防除効果を発揮するためには、栽培体系や昆虫生態を考慮した製剤の最適化が必要である。サツマイモ、ジャガイモなどの塊茎作物の栽培に関しては、苗の定植は4月下旬から5月中旬にかけて行われ、夏の高温時期に成長し、塊茎の収穫は9月から10月に行われる。この間、コガネムシ成虫が高温期の6月から8月に掛けて飛来して土壌中に産卵し、孵化後、幼虫が1齢から3齢に成長していく過程で土壌内を移動し、生育中の塊茎に食害を与えることになる。従って、この期間に有効に作用する製剤型でなければ、実際の圃場で十分な防除効果をあげることができない。また、併せて、幼虫体内に胞子が多量に取り込まれないと、幼虫に乳化病を誘発することが出来ない。バチルス ポピリエ胞子のみを有効成分とする水和剤や水中懸濁剤などの製剤を水希釈して定植前の土壌に混和した場合では、防除に必要な十分な量の胞子が幼虫に有効に取り込まれないため、殺虫効果が限られたものであった。また、従来の農薬粒状製剤の製剤化技術を用いたバチルス ポピリエ胞子を含有する粒状製剤等を用いて土壌混和処理しても、幼虫が摂食しないばかりか、土壌中で容易に製剤が崩壊して胞子が死滅するなど、幼虫に有効に作用し難いという問題点があった。さらに、作物が生育する長期に渡って何回も施用する必要があるという問題点があった。
【0009】
本発明の課題は、ドウガネブイブイ、セマダラコガネ、ヒメコガネ、マメコガネをはじめとするコガネムシ科害虫の防除方法として、これら害虫に種特異性が高く、選択的に寄生し、速い体内増殖性によって乳化病を発生して幼虫致死活性を示すバチルス ポピリエの胞子を土壌中に長期に渡って安定な形態で存在させ、且つ、摂食誘因性を有し多量の胞子を摂食可能状態で維持することによって、定植前及び/又は定植時の少ない土壌混和処理回数(1回処理)で確実に高い防除効果を発揮することができる新規なコガネムシ科害虫防除用粒状製剤、該製剤の製造方法及び該製剤を用いたコガネムシ科害虫の防除方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、摂食誘因性を有する基材中に、広範なコガネムシ科害虫に特異的に寄生して高い幼虫致死活性を有するバチルス ポピリエの胞子を必要量含有させ、且つこれを土壌中に長期に渡って安定に摂食可能な形態に維持するために撥水性を有する成分を含有させて製剤化することにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の第一の発明は、(1)バチルス ポピリエ(Bacillus popilliae)の胞子と、(2)コガネムシ科害虫に対して摂食誘因性を有する植物質粉末と、(3)ワックス類、油脂類、ワックス類又は油脂類の酸化物及びそれらの酸化エチレン付加物からなる群から選ばれる少なくとも一種と、を含有すること特徴とするコガネムシ科害虫防除用粒状製剤である。
【0012】
また、本発明の第二の発明は、第一の発明に記載のコガネムシ科害虫防除用粒状製剤の製造方法であって、(1)バチルス ポピリエ(Bacillus popilliae)の胞子と、(2)コガネムシ科害虫に対して摂食誘因性を有する植物質粉末と、(3)ワックス類、油脂類、ワックス類又は油脂類の酸化物及びそれらの酸化エチレン付加物からなる群から選ばれる少なくとも一種と、を混錬した後、該混錬物を造粒し、該造粒物を40〜80℃で乾燥することを特徴とするコガネムシ科害虫防除用粒状製剤の製造方法である。
【0013】
さらに、本発明の第三の発明は、第一の発明に記載のコガネムシ科害虫防除用粒状製剤を、対象作物の定植前及び/又は定植時に、土壌と均一に混合して地表から少なくとも10cm以上の深さに散布することを特徴とするコガネムシ科害虫の防除方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、通常の農薬粒状製剤とは異なり、土壌水分や土壌微生物等によっても崩壊することなく、長期に渡って粒状製剤形状を保持することができるコガネムシ科害虫防除用粒状製剤が得られる。本製剤を用いることで、当該作物の生育期中、例えば5月から10月に亘って不定期に飛来する成虫が土壌中に産卵し、幼虫が不定期に発生しても、これら幼虫は土壌中に密に散在する摂食性の粒状製剤に接する機会が多く、バチルス ポピリエの胞子がより確実に幼虫に取り込まれることによって、長期間に亘る、高い殺幼虫効果を発揮して、作物への食害を防止することができる。また、本製剤は、散布後2〜3ヶ月後に最大の防除効果を発揮するため、例えば、4〜5月の作物定植前及び/又は定植時に散布すると、6〜8月にかけて飛来するコガネムシ科害虫の成虫が産卵し、これが孵化して幼虫になった場合に、特に高い防除効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について詳しく説明する。
(製剤組成)
本発明のコガネムシ科害虫防除用粒状製剤(以下、製剤と略記することがある)は、(1)バチルス ポピリエの胞子、(2)コガネムシ科害虫に対して摂食誘因性を有する植物質粉末及び(3)ワックス類、油脂類、ワックス類又は油脂類の酸化物及びそれらの酸化エチレン付加物からなる群から選ばれる少なくとも一種、の三つを必須成分として含有する。これらのうち、(1)バチルス ポピリエの胞子は、コガネムシ科害虫の幼虫に特異的に摂取されて乳化病を引き起こす成分であり、(2)植物質粉末は、該胞子と併用することでコガネムシ科害虫の該胞子の摂取を促進する成分であり、(3)ワックス類、油脂類等は、その撥水作用により土壌水分や土壌微生物による製剤の分解を抑制する成分である。
また、本発明の製剤には、これら必須成分以外にも、結合剤、希釈剤、造粒促進剤、防腐剤等、必要に応じて一般の農薬粒状製剤に用いる物質を任意成分として、本発明の機能を損なわない範囲で添加することができる。
【0016】
(製剤組成の特定)
なかでも、製剤1gに含有されるバチルス ポピリエの胞子数は好ましくは106〜15個/gであり、且つ、製剤100質量部中、前記植物質粉末は好ましくは1〜90質量部、より好ましくは20〜60質量部であり、ワックス類、油脂類、ワックス類又は油脂類の酸化物及びそれらの酸化エチレン付加物からなる群から選ばれる少なくとも一種は好ましくは1〜90質量部、より好ましくは5〜50質量部である。
【0017】
(胞子)
バチルス ポピリエの胞子はドウガネブイブイ、セマダラコガネ、ヒメコガネ、マメコガネ等のコガネムシ科害虫の幼虫に特異的に摂取されて乳化病を引き起こすが、本発明において使用されるバチルス ポピリエの胞子は、コガネムシ類やその他の昆虫から採取されたものでも、また、人工培養によって得られたものでもいずれでも良い。人工培養の方法は特に限定されず、従来公知の方法を適用すれば良い。得られた胞子は、菌体を含む培地等を含んだ状態でも、滅菌水などで洗浄したものでもいずれでも使用できる。さらに、これらは凍結乾燥やその他の方法によって乾燥した粉末状のものでも良い。
【0018】
(胞子の量)
本発明の製剤1g中に含まれるバチルス ポピリエの胞子は、好ましくは106〜15個/gであり、より好ましくは108〜11個/gである。
【0019】
(植物質粉末)
本発明で使用する植物質粉末は、コガネムシ科害虫に対して摂食誘因性を有するものである。好ましい植物質粉末としては、禾穀類、キビ類、ソバ類、マメ類、イモ類及び根菜類からなる群から選ばれる少なくとも一種の粉末を挙げることができる。禾穀類としてはコメ、コムギ、オオムギ、エンバク、ライムギ等、キビ類としてはキビ、ヒエ、アワ、モロコシ、トウモロコシ等、マメ類としてはダイズ、インゲン、エンドウ、ソラマメ、ササゲ、アズキ、リョクトウ、ラッカセイ等、イモ類としてはジャガイモ、サツマイモ、キャサバ、サトイモ、タロイモ、コンニャク等、根菜類としてはカブ、ダイコン、ニンジン、ゴボウ等、が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0020】
本発明において植物質としては、例えば、種子や塊茎を使用する場合は、外皮や外殻を取り又は取らずに乾燥し、粉末化したものを使用することができる。また、これら以外にも、これらの二次的産物、例えば、米ヌカ、籾殻、フスマ、ソバ殻、オカラ、ピーナッツ殻等も粉末化して使用することができる。
【0021】
(ワックス類、油脂類等)
本発明で使用するワックス類、油脂類、ワックス類又は油脂類の酸化物及びそれらの酸化エチレン付加物は、撥水性を有するものであり、且つ幼虫忌避の効果を有しないものが好ましい。
【0022】
(ワックス類)
本発明で使用するワックス類は、天然ワックス類及び合成ワックス類に分類される。
【0023】
(天然ワックス類、天然ワックス類の酸化物及びそれらの酸化エチレン付加物)
天然ワックス類としては、例えば、好ましいものとして、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムワックス、カルナバウワックス、モンタンワックス、キャンデリラワックス、木ロウ、ライスワックス、セレシン、ミツロウ、鯨ロウ、ラノリン及び松脂等を挙げることができ、本発明においては、これら天然ワックス類の酸化物、あるいは、天然ワックス類又は天然ワックス類の酸化物の酸化エチレン付加物も使用することができる。
これらの中でも、土壌中において長期間安定であり、製剤として優れた殺虫効果を示すことから、カルナバウワックス及びキャンデリラワックスが好ましい。
【0024】
(合成ワックス類、合成ワックス類の酸化物及びそれらの酸化エチレン付加物)
合成ワックス類としては、例えば、好ましいものとして、ポリエチレンワックスやポリプロピレンワックス等を挙げることができ、本発明においては、これら合成ワックス類の酸化物、あるいは、合成ワックス類又は合成ワックス類の酸化物の酸化エチレン付加物も使用することができる。
【0025】
(油脂類、油脂類の酸化物及びそれらの酸化エチレン付加物)
油脂類としては、例えば、好ましいものとして、ヤシ油、牛脂、ホホバ油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油、菜種油、ゴマ油、コーン油及び天然脂肪酸類等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、本発明においては、これら油脂類の酸化物、あるいは、油脂類又は油脂類の酸化物の酸化エチレン付加物も使用することができる。
【0026】
(ワックス類、油脂類等の形状)
前記ワックス類、油脂類、ワックス類又は油脂類の酸化物及びそれらの酸化エチレン付加物は、微粉末の形で使用しても良いし、水中分散状又は乳化状液体として使用しても良い。
【0027】
(担体)
従来の粒状農薬製剤には、担体としてベントナイト、カオリン、クレー、珪藻土、炭酸カルシウム、各種粘土鉱物等の鉱物質微粉体や胡桃殻、とうもろこし殻等の乾燥植物粉類等を主体とするものが使用されており、コガネムシ等の害虫に対して摂食誘因性を有する成分を含有した粒状製剤は知られていない。一方、本発明の製剤は、前記必須成分を含有することにより、コガネムシ科害虫に対して摂食誘因性を有するだけでなく、土壌中でも長期間、粒状製剤形状を保持することができる。
【0028】
(結合剤)
結合剤としては、例えば、CMC(カルボキシメチルセルロース)とその誘導体、PVA(ポリビニルアルコール)とその誘導体、リグニンスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、酢酸ビニル−アクリル酸塩共重合物、エチレン又はスチレン−酢酸ビニル共重合物、スチレン−アクリル酸塩共重合物、エチレン−マレイン酸共重合物等を必要に応じて使用することができる。
【0029】
(希釈剤)
希釈剤としては、通常の農薬粒状製剤に使用されているもの、例えば、ベントナイト、クレー、カオリン、炭酸カルシウム、硅石、珪藻土、パイロフィライト、陶石等の鉱物質粉末を必要に応じて使用することができる。
【0030】
(造粒促進剤)
造粒促進剤としては、例えば、各種非イオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤等、通常の農薬粒状製剤に使用されるものを必要に応じて使用することができる。
【0031】
(その他の添加剤)
また、その他の添加剤としては、防腐剤、着色剤、pH調整剤等、通常の農薬粒状製剤に使用されるものを必要に応じて使用することができる。
【0032】
(粒状製剤の形状)
本発明に係る粒状製剤は、最大径が0.2〜20mmであるものが好ましい。具体的には、平均粒径0.2〜3mmの球状粒剤、粒径0.2〜3mm、長さ0.3〜20mmの棒状粒剤、大きさがこれらの範囲に入る非定型状粒剤を好ましいものとして挙げることができる。最大径が小さ過ぎると土壌中での製剤安定性が劣り、最大径が大きすぎると、単位面積あたりの散布量を一定とした場合に、土壌中における製剤粒子数が少な過ぎて幼虫との接触頻度が低下して、いずれも防除効果が不十分となる場合がある。
これらのものも含めて、本発明の製剤の形状は、例えば、その製造方法から練りこみ型、吸着型、表面コーチング型、破砕型等に分類されるものを挙げることができる。実際の粒状製剤の設計に当たっては、適宜状況に応じて、防除効果の高い製剤形状、製剤生産性、散布機械等を用いた場合の散布時の製剤安定性等を考慮して設計することが好ましい。
【0033】
(製剤の製造方法)
本発明の製剤は、(1)バチルス ポピリエの胞子と、(2)コガネムシ科害虫に対して摂食誘因性を有する植物質粉末と、(3)ワックス類、油脂類、ワックス類又は油脂類の酸化物及びそれらの酸化エチレン付加物からなる群から選ばれる少なくとも一種と、を混錬した後、該混錬物を造粒し、該造粒物を40〜80℃で乾燥することにより製造することができる。
混錬は、従来公知の方法に従って行えばよく、例えば、前記必須成分と必要に応じて前記任意成分あるいは水等を、混錬機を用いて十分に混錬する。
造粒は、例えば、噴霧乾燥式造粒法、流動層造粒法、パン型造粒法、押し出し造粒法及び破砕方造粒法等により行えば良い。乾燥時における乾燥温度は、適用する造粒法を考慮して設定すれば良いが、胞子の熱安定性及び製剤表面に撥水成分を適量分布させて胞子を安定に保持する観点から、40〜60℃とすることが好ましい。例えば、噴霧乾燥式造粒法では、乾燥時間は約10分以内という短時間で済むため、乾燥温度の上限を80℃にしても良いが、乾燥に長時間を要する場合は、乾燥温度の上限を60℃にすることが好ましい。
【0034】
(コガネムシ科害虫の防除方法)
本発明の製剤を、対象作物の定植前及び/又は定植時に土壌と均一に混合し、該混合物を地表から少なくとも10cm以上の深さに散布することで、コガネムシ科害虫を効果的に防除することができる。
本発明の製剤は、前記製造方法で製造することにより、製剤表面に前記ワックス類、油脂類等の撥水成分が適量分布しており、土壌中においてはこれら撥水成分が、土壌水分や土壌微生物による製剤の崩壊を長期間抑制して製剤形状を保持し、バチルス ポピリエの胞子を安定に保持する。そして、その後徐々に製剤が崩壊して、コガネムシ科害虫の幼虫が摂食するのにより適した状態となる。一般的に、コガネムシ科害虫が飛来して土壌中に産卵後、孵化するまでには2ヶ月程度の時間を要する。そこで、製剤の散布時期と、コガネムシ科害虫の幼虫が土壌中に現れる時期とを考慮して、製剤形状を設計することが好ましいが、本発明の製剤は、対象作物の定植前及び/又は定植時に土壌と均一に混合して散布すれば、孵化までの間は土壌中で安定に存在し、孵化後の幼虫が摂食を開始する時期には、製剤の分解が徐々に始まっていて、十分な量のバチルス ポピリエの胞子が幼虫に摂取される。したがって、本発明の製剤は、一度散布すれば、追加散布が必要なく、長期間に渡って優れた防除効果を示す。
また、従来のように、胞子を単独であるいは水等で希釈して土壌の上から散布する方法では防除効果が得られない、地表から少なくとも10cm以上の深さに対して、本発明の製剤を土壌と均一に混合して散布することにより、このような深さにおいても優れた防除効果を示す。
【0035】
(散布量、施用量)
本発明の製剤を土壌と均一に混合して散布する際の散布量は、10a(アール)あたり好ましくは5〜50kgであり、より好ましくは10〜20kgである。また、製剤と土壌との混合物中における製剤の粒数は、該混合物1g中、好ましくは500〜3000、より好ましくは1000〜2000である。
【0036】
(対象作物)
本発明を適用する対象作物は、コガネムシ科害虫の食害対象であるすべての作物であり、特に限定されない。近年特にドウガネブイブイ、セマダラコガネ、ヒメコガネ、マメコガネ等の食害被害が大きいサツマイモ、ジャガイモ、ニンジン、ダイコン、サトイモ等のイモ類や根菜類に対して、本発明の製剤は優れた幼虫防除効果を示す。
【実施例】
【0037】
以下、具体的な実施例により本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
(実施例1〜30及び比較例1〜16)
◎試験粒状製剤サンプルの製造
人工培地で培養して得たバチルス ポピリエ胞子の凍結乾燥粉末(胞子数;2×1012個/g)1gに、表1及び2に記載した各種植物質粉末又はクレー(植物質粉末無添加の場合はクレーを添加)50g、ベントナイト30g、ラウリル硫酸ナトリウム塩0.5gを添加して混合機を用いて混合した後、混錬機に移して、表1及び2に記載した各種ワックス類、油脂類又はクレー(ワックス類又は油脂類無添加の場合はクレーを添加)を乾物量として20g添加して混和した。これに防腐剤0.5g(アーチケミカル社製;プロキセルGXL)を加え、水道水適量を添加して、よく混錬した後、簡易型押し出し造粒機を用いて造粒し、約50℃で15分間乾燥した後、整粒・篩別して、平均粒径0.8mm×平均長2mmの試験粒状製剤サンプルを得た。
【0039】
◎ポット試験
次に、底部に川砂を5cm入れた直径20cm深さ30cmの磁性ポットに、前記試験粒状製剤サンプル200mg、腐植土50g、クロボク土4kgを均一に混合して添加した。このように調製した試験ポットを、時折散水して土壌の乾燥を避けながら25℃恒温室にて60日保管した。60日保管後、ポット中央部に深さ5cmの穴を掘り、孵化直後のドウガネブイブイの1令幼虫10頭を入れ、周りの土で穴を軽くふさいだ後に、更に2週間保管した。2週間保管後、ポットから土を取り出し、生存しているドウガネブイブイの幼虫数を数えた。ポット試験は2連で行ない、試験粒状製剤サンプルを入れない無処理に対する殺虫率をもって、試験粒状製剤サンプルの殺虫効果判定を行った(殺虫率=(死んだドウガネブイブイ幼虫数)/(無処理での平均生存幼虫数)×100(%))。得られた結果を表1及び2に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
(実施例31)
人工培地で培養して得たバチルス ポピリエ胞子の凍結乾燥粉末(胞子数;3×1012個/g)10g、大豆粉末1.4kg、ベントナイト945g、ラウリル硫酸ナトリウム塩15gを、混合機を用いて混合した後、混錬機に移して、ラノリン600gを添加して混和した。これに防腐剤30g(アーチケミカル社製;プロキセルGXL)及び水道水350gを添加してよく混錬した後、押し出し造粒機(パウレックス社製;ドームグラン(商品名)、スクリーン孔径;0.6mm)を用いて造粒し、約50℃で30分間乾燥した後、整粒・篩別して、平均粒径0.6mm×平均長2mmの試験粒状製剤サンプル2.5kgを得た。
【0043】
(実施例32)
人工培地で培養して得たバチルス ポピリエ胞子の凍結乾燥粉末(胞子数;3×1012個/g)10g、オカラ粉末1.4kg、ベントナイト1.045kg、ラウリル硫酸ナトリウム塩15gを、混合機を用いて混合した後、混錬機に移して、硬化ひまし油500gを添加して混和した。これに防腐剤30g(アーチケミカル社製;プロキセルGXL)及び水道水350mlを添加してよく混錬した後、押し出し造粒機(パウレックス社製;ドームグラン(商品名)、スクリーン孔径;0.6mm)を用いて造粒し、約50℃で30分間乾燥した後、整粒・篩別して、平均粒径0.6mm×平均長2mmの試験粒状製剤サンプル2.4kgを得た。
【0044】
(実施例33)
人工培地で培養して得たバチルス ポピリエ胞子の凍結乾燥粉末(胞子数;3×1012個/g)10g、フスマ粉末1.3kg、ベントナイト1.245kg、ラウリル硫酸ナトリウム塩15gを、混合機を用いて混合した後、混錬機に移して、カルナウバワックス40%乳化液1Lを添加して混和した。これに防腐剤30g(アーチケミカル社製;プロキセルGXL)を添加してよく混錬した後、押し出し造粒機(パウレックス社製;ドームグラン(商品名)、スクリーン孔径;0.6mm)を用いて造粒し、約50℃で30分間乾燥した後、整粒・篩別して、平均粒径0.6mm×平均長2mmの試験粒状製剤サンプル2.5kgを得た。
【0045】
(試験方法1及び結果)
実施例31〜33で製造した三つの試験粒状製剤サンプルを用いてサツマイモ圃場試験を行なった。試験は、あらかじめ整地した圃場に1区4m×7mの試験面積を区切り、試験区の土壌表面に試験粒状製剤サンプル280gを均一に散布し、大型トラクターにより混和しながら畝立てを行なった。畝立て後、翌日にサツマイモ(ベニオトメ)苗を定植した。定植より4ヶ月半後に各試験区中央に位置する畝4m部分にあるサツマイモを掘り起こし、水洗後、コガネムシによる被害イモ数を調査した。
【0046】
なお、比較試験として薬剤処理を行わない無処理区の他、対照区には、バチルス・ポピリエの凍結乾燥粉末(胞子数;3×1012個/g)10gをラウリル硫酸ナトリウム15g、リグニンスルホン酸ナトリウム15g、珪藻土260gと共に混合粉砕し、その水による300倍希釈液の所定量を散布した対照区1、バチルス・ポピリエの凍結乾燥粉末(胞子数;3×1012個/g)10gをタルク1.755kg、ベントナイト1.2kg、ラウリル硫酸ナトリウム15gと混合後、350mlの水道水を加えて混練し、押し出し造粒機(パウレックス社製;ドームグラン(商品名)、スクリーン孔径;0.6mm)を用いて造粒し、約50℃で15分乾燥した後、整粒・篩別した粒状製剤を所定量散布した対照区2を加え、試験区と同様に土壌混和、畝立て、定植を行なったものの被害イモ数の調査を行った。得られた結果を表3に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
無処理区や、植物質粉末及びワックス類等を含まない胞子水和剤又は胞子粒状製剤を散布した対照区に比べて、本発明のコガネムシ科害虫防除用粒状製剤を散布した試験区1〜3は、害虫による被害が大きく低減していることが判った。
【0049】
(試験方法2及び結果)
実施例21、25、18及び23で製造した試験粒状製剤サンプル、並びに比較例6で製造した試験粒状製剤サンプル(表4参照)を用いて、室内条件下で、本発明の製剤の経時的殺虫効果を確認するポット試験を実施した。すなわち、前記試験粒状製剤サンプル(胞子数;2×1010個/g)150mgを、腐植土500g、クロボク土3.5kgと均一になるよう充分に混合し、その20gを直径6cm、深さ4cmのプラスチックカップ100個に移し、乾燥しないよう蓋をかぶせた後、さらに発泡スチロールの箱に入れて25℃恒温室にて保管した。保管開始から33日目、46日目、60日目及び90日目にそれぞれのサンプル毎に20カップを取り出し、それぞれのカップにドウガネブイブイの一齢幼虫一匹を入れて20℃恒温器にて飼育して、1週間毎に5週目までの死亡率を求めた。そして、5週目までの死亡率の数値で最も高い数値(最大累積死亡率)と保管日数との関係を求めた。結果を図1に示す。
すなわち、比較例6のサンプルは保管開始後33日で殺虫効果が既に低減し、60日目では全く殺虫効果を示さなかった。一方、本発明の実施例21,25,18及び23の製剤はいずれも、保管開始後33日、46日、さらには60日を経過しても高い殺虫効果を示し、土壌中に長期間存在してもコガネムシ幼虫の殺虫効果を維持できることが確認された。
【0050】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のコガネムシ科害虫防除用粒状製剤は、農業生産物に多大な被害を与える各種コガネムシ科害虫に対する防除剤として極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例21,25,18及び23、並びに比較例6の試験粒状製剤サンプルを用いた場合の、ポット保管日数とコガネムシ幼虫の最大累積死亡率との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)バチルス ポピリエ(Bacillus popilliae)の胞子と、
(2)コガネムシ科害虫に対して摂食誘因性を有する植物質粉末と、
(3)ワックス類、油脂類、ワックス類又は油脂類の酸化物及びそれらの酸化エチレン付加物からなる群から選ばれる少なくとも一種と、
を含有すること特徴とするコガネムシ科害虫防除用粒状製剤。
【請求項2】
前記植物質粉末が、禾穀類、キビ類、ソバ類、マメ類、イモ類及び根菜類からなる群から選ばれる少なくとも一種の粉末である請求項1に記載のコガネムシ科害虫防除用粒状製剤。
【請求項3】
前記ワックス類が、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムワックス、カルナバウワックス、モンタンワックス、キャンデリラワックス、木ロウ、ライスワックス、セレシン、ミツロウ、鯨ロウ、ラノリン、松脂、ポリエチレンワックス及びポリプロピレンワックスからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1又は2に記載のコガネムシ科害虫防除用粒状製剤。
【請求項4】
前記油脂類が、やし油、牛脂、ホホバ油、ひまし油、硬化ひまし油、菜種油、ゴマ油、コーン油及び天然脂肪酸類からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜3のいずれか一項に記載のコガネムシ科害虫防除用粒状製剤。
【請求項5】
製剤1gに含有されるバチルス ポピリエ(Bacillus popilliae)の胞子数が106〜15個/gであり、且つ、製剤100質量部中、前記植物質粉末が1〜90質量部、ワックス類、油脂類、ワックス類又は油脂類の酸化物及びそれらの酸化エチレン付加物からなる群から選ばれる少なくとも一種が1〜90質量部である請求項1〜4のいずれか一項に記載のコガネムシ科害虫防除用粒状製剤。
【請求項6】
前記粒状製剤の最大径が0.2〜20mmである請求項1〜5のいずれか一項に記載のコガネムシ科害虫防除用粒状製剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のコガネムシ科害虫防除用粒状製剤の製造方法であって、
(1)バチルス ポピリエ(Bacillus popilliae)の胞子と、
(2)コガネムシ科害虫に対して摂食誘因性を有する植物質粉末と、
(3)ワックス類、油脂類、ワックス類又は油脂類の酸化物及びそれらの酸化エチレン付加物からなる群から選ばれる少なくとも一種と、
を混錬した後、該混錬物を造粒し、該造粒物を40〜80℃で乾燥することを特徴とするコガネムシ科害虫防除用粒状製剤の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のコガネムシ科害虫防除用粒状製剤を、対象作物の定植前及び/又は定植時に、土壌と均一に混合して地表から少なくとも10cm以上の深さに散布することを特徴とするコガネムシ科害虫の防除方法。
【請求項9】
前記コガネムシ科害虫防除用粒状製剤の散布量が、10a(アール)あたり5〜50kgである請求項8に記載のコガネムシ科害虫の防除方法。


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−223973(P2007−223973A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−48844(P2006−48844)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(506065633)セルティスジャパン株式会社 (1)
【出願人】(591014710)千葉県 (49)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】