説明

コネキシン26阻害剤および癌転移抑制剤

本発明のコネキシン26阻害剤および癌転移抑制剤は、一般式(1)


(式中、Rは水素原子または炭化水素基であり、Xは、水素原子、メタンスルフォニル基、エタンスルフォニル基、アセチル基、トリフルオロアセチル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アミノ基のいずれかであり、mは4〜10の整数、nは4〜7の整数である)で示されるように、分子内に、シス配置のオキシラン構造と、末端アミド構造とを有している。この化合物は、コネキシン26の機能を特異的に阻害する、新規癌転移抑制剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、コネキシン26の機能を特異的に阻害するコネキシン26阻害剤およびそれを用いた新規癌転移抑制剤に関するものである。
【背景技術】
コネキシンは、ギャップ結合を構成する結合膜タンパク質ファミリーの総称である。コネキシンは、その分子量の違いによって、12を越えるサブタイプが発見されている。分子量が26kDaのものをコネキシン26、43kDaのものをコネキシン43と称されている。
コネキシンの6量体は、コネクソンと呼ばれ、導管状構造を形成して細胞膜を貫通する。コネクソンが隣接細胞間で連結しているのがギャップ結合であり、この連結によって形成された導管内をイオンや低分子量タンパク質が細胞から細胞へと受け渡される。この機構は、上皮性細胞の増殖の恒常性維持のために必須であると考えられている。
本願発明者等は、癌の転移機序を遺伝子レベルで解明する基礎研究を行っている中で、コネキシン26が癌転移に密接に関わっていること、さらには、コネキシン26の機能を生化学的に抑制することにより癌の転移が抑制されることを見出している(日本国公開特許公報「特開2001−17184号公報」(2001年1月23日公開)、Ito,A.et al.:J.Clin.Invest.,105:1189−1197,2000.)。
また、ギャップ結合を阻害する物質として、例えば、オレイン酸のアミド誘導体であるオレアミドが知られている(日本国公表開特許公報「特表2001−523696号公報」(2001年11月27日公開)、Boger,D.L.et al。,Proc.Nat.Acad.Sci.USA.,95:4810−4815.1998.)。
現在の癌治療では、抗癌剤の投与、癌細胞および癌組織の摘出、放射線治療など、直接癌細胞に対する治療が行われている。しかし、癌細胞は転移が非常に早いため、癌治療を行っている途中に、別の組織に転移する場合がある。その結果、治療が長期化し、治療途中に死んでしまうという事態が生じる。
したがって、癌治療の治療効果を上昇させるためには、抗癌剤の投与、および、癌組織を摘出によって、直接的に癌を撲滅する他に、癌の転移を抑制することが重要となる。
しかしながら、癌の転移機序に基づく癌転移抑制剤の研究開発は、難航しており、臨床的に確立された癌転移抑制剤は未だ開発されていない。
前述のように、本願発明者等は、コネキシン26の機能を生化学的に阻害することによって、癌の転移が抑制されることを見出している。
それゆえ、コネキシン26の機能を特異的に抑制する化合物を見出すことができれば、その化合物は、癌転移抑制剤としての利用が期待される。癌転移抑制剤が開発されれば、癌の摘出手術や種々の抗癌剤との併用により、癌の治療効果が飛躍的に上昇することが予想される。
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、コネキシン26の機能を特異的に阻害して、癌の転移を抑制するコネキシン26阻害剤およびそれを用いた癌転移抑制剤を提供することにある。ただし、ここでいう阻害剤は、コネキシン26に直接結合してその機能を阻害するものではない。
【発明の開示】
本発明者等は、コネキシンファミリーの中で、コネキシン26の機能を阻害することによって、癌の転移が抑制されるという知見に基づいて、これまで開発されていない、コネキシン26の機能を特異的に阻害する化合物について鋭意に検討した。
その結果、例えば、含オキシラン脂肪族アミドのような、分子内(分子中の主鎖)に、環状構造と、末端アミド基とを有する化合物が、特異的にコネキシン26の機能を抑制することを見出した。さらに、オレアミドのような、不飽和脂肪酸アミドもコネキシン26の機能を阻害することを見出し、本発明を完成させるに至った。
また、含オキシラン脂肪族アミドが、コネキシン43を阻害することなく、コネキシン26を特異的に阻害することを見出した。
コネキシン43は、コネキシンファミリーの中で、中枢神経や心筋細胞に多く存在しており、その量が減少すると、不整脈などの悪影響を及ぼすと推定されている。それゆえ、コネキシン43の機能を阻害しない本発明の含オキシラン脂肪族アミドは、コネキシン43の機能を阻害することによる副作用のない、癌転移抑制剤として利用し得ると結論付け、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明のコネキシン26阻害剤は、上記の課題を解決するために、コネキシン26の機能を阻害する化合物であって、分子内に、シス配置の置換基を有する3員環を含んでいることを特徴としている。
ここで、上記「コネキシン26の機能を阻害」とは、本発明のコネキシン26阻害剤を投与することにより、投与前よりもコネキシン26が関与する機能が抑制されていればよい。例えば、コネキシン26の発現量が低下したり、コネキシン26によるギャップ結合の形成が阻害されていることを意味する。
上記置換基のうち少なくとも1つの置換基は、その置換基の末端にカルボニル基を有する官能基を含んでいることが好ましい。
上記カルボニル基を含む官能基は、第1アミドであることが好ましい。
上記3員環は、オキシランであることが好ましい。
本発明のコネキシン26阻害剤は、一般式(1)

(式中、Rは水素原子または炭化水素基であり、Xは、水素原子、メタンスルフォニル基、エタンスルフォニル基、アセチル基、トリフルオロアセチル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アミノ基のいずれかであり、mは4〜10の整数、nは4〜7の整数である)で表される化合物であってもよい。
また、本発明のコネキシン26阻害剤および癌転移抑制剤は、コネキシン26の機能を阻害する化合物であって、シス配置の2重結合を含んでいる不飽和脂肪酸アミドであってもよい。
また、本発明のコネキシン26阻害剤は、コネキシン26に対するギャップ結合細胞間コミュニケーション(GJIC)値が、4以下であることが好ましい。
本発明のコネキシン26阻害剤は、コネキシン26阻害作用に加えて、コネキシン43に対するギャップ結合細胞間コミュニケーション(GJIC)値が、6以上であることが好ましい。
本発明のコネキシン26阻害剤によれば、コネキシン26を含むギャップ結合の形成が阻害されるので、細胞間の情報伝達が遮断される。その結果、癌の転移を抑制することができる。
本発明にかかる癌転移抑制剤は、上記の課題を解決するために、本発明のコネキシン26阻害剤を有効成分とすることを特徴としている。
本発明の癌転移抑制剤は、癌の転移を抑制するコネキシン26阻害剤を含んでいるので、これまで開発されていない新規抗癌剤を提供することができる。これにより、癌の転移が抑制されるので、癌治療の効果を飛躍的に向上させられる。
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例3におけるコネキシン26およびコネキシン43に対する阻害阻害活性を評価した結果を示す図である。
図2(a)〜図2(d)は、実施例4におけるオレアミドの投与による癌転移抑制を評価した結果を示す図である。
図3は、本発明の実施例4におけるオレアミドの投与による癌転移病巣数の変化の結果を示すグラフである。
図4は、実施例5におけるオレアミドおよびMI−18の投与による癌転移病巣数の変化の結果を示すグラフである。
図5は、実施例5におけるオレアミドおよびMI−18の投与によるマウスの死亡率を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の実施の一形態について、以下に説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明のコネキシン26阻害剤は、ギャップ結合を構成するタンパク質ファミリーのサブタイプの1つであるコネキシン26の機能を特異的に阻害するものである。ただし、その阻害は、コネキシン26阻害剤が、コネキシン26に直接結合することでなされるものではなく、膜タンパク質であるコネキシン26の働きを抑制するように、細胞膜の性質を変化させるためであると考えられる。
本発明において「コネキシン26の機能を阻害」とは、本発明のコネキシン26阻害剤を投与することにより、投与前よりもコネキシン26の関与する機能が阻害(抑制)されていればよい。すなわち、コネキシン26が正常に機能しなくなる程度にコネキシン26の機能を阻害(抑制)されていることを意味する。なお、後述する実施例では、コネキシン26阻害剤を腹腔内投与することにより、有効性が示されている。しかし、投与方法は、腹腔内投与に限らず、経口投与など、他の投与方法であってもよい。腹腔内投与による有効性が示されているため、経口投与でも、同様の有効性を示す可能性が極めて高い。
本発明のコネキシン26阻害剤は、分子内に、3員環に結合するシス配置の置換基を含んでいる。なお、この3員環構造は、分子内(分子の主鎖)に含まれるものである。
上記3員環は、具体的には、エチレンオキシド、アジリジン、シクロプロパン環などが挙げられる。これらのうち、容易に製造できるエチレンオキシド(いわゆるエポキシド)であることが好ましい。
以下の説明では、上記3員環として、エチレンオキシドについて説明する。
本発明において、上記エチレンオキシドは、シス配置の置換基が結合した、シス−オキシランである。この置換基のうち、一方の置換基は、その置換基の末端にカルボニル基を有する官能基を含んでいる。
上記官能基としては、例えば、アミド、ヒドラジド、カルボン酸、エステル、ヒドロキサム酸、ケトン、アルデヒドなどが挙げられる。これらのうち、窒素を含有するアミド、ヒドラジドが好ましく、第1アミドがより好ましい。後述のように、末端アミド結合を有していると、コネキシン26に対する阻害活性が高い。
すなわち、上記コネキシン26阻害剤は、分子内(分子の主鎖)に、シス配置のオキシラン構造と、末端アミド構造とを有することが非常に好ましい。
上記シス配置の置換基は、それぞれ炭化水素基である。そして、そのうち一方の置換基は、末端に前述のカルボニル基を有する前記官能基を含んでいる。
ここで、上記炭化水素基とは、具体的には、炭素数1〜12の直鎖状、分岐鎖状のアルキル基、および炭素数3〜12の環状のアルキル基、および、炭素数2〜12の直鎖状、枝分かれ鎖状アルケニル基、および炭素数3〜12の環状のアルケニル基、フェニル基等のアリール基を示す。上記のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、t−ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基およびメチルシクロヘキシル基が挙げられる。上記のアルケニル基としては、具体的には、アリル基が挙げられる。
なお、上記の炭化水素基は、コネキシン26阻害作用を失わない限り、不活性な原子や、官能基を含んでいてもよい。
また、上記シス−オキシランは、2置換オキシランであることが好ましいが、3置換、4置換オキシランであってもよい。
ところで、オレイン酸由来のアミドであるオレアミドが、グリア細胞由来のギャップ結合を阻害することは知られている(前記日本国公表開特許公報「特表2001−523696号公報」)。
したがって、本発明のコネキシン26阻害剤は、脂肪酸由来の含オキシラン脂肪族アミドであることが好ましい。ここで、脂肪酸由来の含オキシラン脂肪族アミドとは、分子内(脂肪酸の主鎖)に、オキシラン構造(好ましくはシス配置)を有し、かつ、脂肪酸の末端カルボキシル基が、アミド基に変換されている(すなわち、末端カルボキシル基が誘導体となっている)分子を意味する。このように、本発明のコネキシン26阻害剤は、分子内に、シス配置の置換基を有するオキシラン(3員環)構造を含む脂肪酸を主鎖とする化合物(好ましくは、その脂肪酸の末端カルボキシル基がアミドである化合物)からなるものと換言できる。
上記含オキシラン脂肪族アミドは、生体由来の脂肪酸と同じ程度の直鎖脂肪酸由来の含オキシラン脂肪族アミドであることが好ましい。具体的には、脂肪酸の炭素数は、12〜21が好ましく、16〜20がより好ましく、炭素数18からなる(例えば、オレイン酸)ことが特に好ましい。なお、「生体由来の脂肪酸」とは、生体内で代謝・分解されることによって、生合成される脂肪酸を意味する。すなわち、生体由来の脂肪酸は、通常、生体に含まれている脂肪酸である。これにより、生体分子に近いコネキシン26阻害剤となる。従って、このコネキシン26阻害剤を、副作用の少ない癌転移抑制剤として利用できる。
また、上記含オキシラン脂肪族アミドにおいて、オキシラン構造は、特に限定されるものではないが、末端アミドカルボニル炭素から数えて、9番目の炭素と10番目の炭素間にあることが好ましい。これにより、コネキシン26阻害活性が高くなる。
本発明のコネキシン26阻害剤としては、例えば、一般式(1)

で示される含オキシラン脂肪族アミドであることが好ましい。
一般式(1)において、置換基Rの炭化水素基としては、前述したシス配置の置換基における炭化水素基と同様のものである。
また、一般式(1)において、末端アミドに結合する置換基Xは、水素原子、メタンスルフォニル基、エタンスルフォニル基、アセチル基、トリフルオロアセチル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アミノ基のいずれかである。すなわち、置換基X(水素原子を除く)は、アミド基中の窒素原子の保護基である。なお、置換基Xがアミノ基であるヒドラジドである場合、当該アミノ基は置換基や保護基が結合するものであってもよい。
なお、本発明のコネキシン26阻害剤は、オレイン酸などのシス配置の2重結合を含んでいる不飽和脂肪酸アミドであってもよい。この場合も、前述したように、第1アミドであることが好ましい。
また、前述と同様に、上記不飽和脂肪酸アミドの炭素数は、12〜21が好ましく、16〜20がより好ましく、炭素数18からなる(例えば、オレアミド)ことが特に好ましい。また、上記不飽和脂肪酸アミドにおける、2重結合の位置は、特に限定されるものではないが、9位(末端アミドカルボニル炭素から数えて9番目と10番目の炭素間;Δ9シス2重結合)であることが好ましい。これにより、コネキシン26阻害活性が高くなる。
なお、上記不飽和脂肪酸アミドは、直鎖脂肪酸、分岐鎖脂肪酸であってもよく、分子内に、その他の官能基を含んでいてもよい。また、上記不飽和脂肪酸アミドは、コネキシン26の機能を阻害するものであれば、末端のアミドを前述のカルボニル基を有する官能基としてもよい。
(2)コネキシン26阻害剤の製造方法
上記脂肪酸由来の含オキシラン脂肪族アミドは、以下のようにして製造することができる。
炭素−炭素2重結合(アルケン)をオキシランに変換する反応や、カルボン酸をアミドに変換する反応は、一般的に行われている。それゆえ、含オキシラン脂肪族アミドからなるコネキシン26阻害剤は、分子内にアルケンと、カルボン酸とを含む脂肪酸から容易に製造できる。
例えば、含オキシラン脂肪族アミドは、天然に多く存在する不飽和脂肪酸から容易に製造できる。不飽和脂肪酸は生体でも生合成されるので、不飽和脂肪酸から製造した含オキシラン脂肪族アミドは、より生体分子に近いコネキシン26阻害剤となる。
不飽和脂肪酸からコネキシン26阻害剤を製造する方法は、2つの工程を含んでいる。すなわち、(i)不飽和脂肪酸の2重結合を過酸によりオキシランに変換する工程;(ii)不飽和脂肪酸のカルボン酸をアンモニアによりアミドに変換する工程。
本発明のコネキシン26阻害剤は、シス配置の3員環を含んでいるので、上記の製造方法では、シス配置の不飽和脂肪酸を選択する。例えば、ステリング酸、パルミトオレイン酸、オレイン酸、リシノール酸、ペトロセリン酸、バクセリン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、プニシン酸、アラキドン酸、イコセン酸、エイコサペンタエン酸が、挙げられるが特に限定されるものではない。
また、上記不飽和脂肪酸における2重結合の位置は、9位であることが好ましい。これにより、コネキシン26阻害活性が高くなる。
このように、コネキシン26阻害剤の製造は容易である。したがって、コンビナトリアル合成により多くの候補化合物を製造し、後述するコネキシン26阻害作用の評価方法にしたがって、その中からコネキシン26阻害活性を示すものをスクリーニングすれば、短期間にコネキシン26阻害剤を製造できる。
なお、上記の説明では、上記コネキシン26阻害剤を化学的に合成して製造することについて説明したが、上記コネキシン26阻害剤は、天然から単離されたものや、微生物によって生産されたものであってもよい。
(3)コネキシン26阻害活性の評価
ここで、コネキシン26阻害活性を評価する方法について説明する。
コネキシン26阻害作用は、例えば、色素−トランスファーアッセイによって評価することができる。具体的には、コネキシン26に対するギャップ結合値(GJICスコア)によって評価することができる(前記日本国公開特許公報「特開2001−17184号公報」(2001年1月23日公開)、M.Mensil et al.Cancer Res.Vol55,629−639 1995.参照)。
この方法は、ギャップ結合を介してのみ細胞外へ移動できる標識色素を、細胞に取り込ませ、その細胞を単層培養または組織培養の上にまく。色素を取り込ませた細胞(ドナー細胞)と、単層培養または組織培養の細胞(ドナー細胞に隣接する隣接細胞)との間にギャップ結合が形成されれば、色素がドナー細胞から隣接細胞へと移動するのが観察される。この方法は、蛍光色素の細胞から細胞への移動を、蛍光顕微鏡などによって観察するものである。
前述のように、コネキシン26はギャップ結合を構成する分子の1つである。このため、コネキシン26阻害作用を示す候補化合物によって、コネキシン26の機能が阻害されると、細胞間にギャップ結合は形成されない。その結果、ギャップ結合によってのみ移動する標識物質は、細胞間を移動することはできなくなる。
したがって、細胞を蛍光顕微鏡などによって観察したときに、蛍光物質が移動していない、もしくはコネキシン26阻害剤の投与前よりも蛍光物質が移動しなくなれば、コネキシン26阻害活性があると判定できる。逆に、多くの細胞に渡って標識物質が移動していればコネキシン26阻害作用をほとんど示さないと判定できる。
なお、GJIC値については、例えば、後述の実施例のようにして算出することができる。すなわち、ドナー細胞が色素−カップリングしなければ「0」、ドナー細胞から隣接受容細胞に色素−カップリングすれば「1」、ドナー細胞から2番目の隣接細胞に色素−カップリングすれば「2」、・・・というようにドナー細胞から離れたn番目(nは整数)の隣接細胞に色素−カップリングした場合に「n」というように評価して、このnをGJIC値とする。
このようにして算出するコネキシン26に対するギャップ結合細胞間コミュニケーション(GJIC)値は、4以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。これにより、コネキシン26の機能を確実に阻害することができる。
すなわち、コネキシン26に対するギャップ結合細胞間コミュニケーション(GJIC)値がゼロに近づくほど、コネキシン26阻害作用が大きいため、好ましい。
本発明のコネキシン26阻害剤は、少なくともコネキシン26の機能を阻害することができればよく、その他のサブタイプのコネキシンを阻害するものであってもよい。
ただし、コネキシン26阻害剤を抗癌剤(癌転移抑制剤)として利用する場合、コネキシン43の機能を阻害しないことが好ましい。コネキシン43は、心筋細胞に対する特異性が高く、コネキシン43によるギャップ結合が形成されることにより心筋に筋収縮の刺激が伝導される。このため、コネキシン43の機能を阻害すると、不整脈などの副作用が発現する虞があるからである。
したがって、本発明のコネキシン26阻害剤は、コネキシン26阻害作用に加えて、さらに、コネキシン43に対するギャップ結合細胞間コミュニケーション(GJIC)値が、大きい方が好ましい。これにより、コネキシン43の機能を阻害することによる不整脈などの副作用の発現を防止することができる。
具体的には、コネキシン43に対するギャップ結合細胞間コミュニケーション(GJIC)値は、6以上であることが好ましく、より好ましくは7以上である。これにより、コネキシン43の機能を阻害しないようにすることができる。
(4)本発明の癌転移抑制剤
コネキシン26の機能を生化学的に阻害することにより、癌の転移が抑制されることは、本願発明者が既に見出している(前記日本国公開特許公報「特開2001−17184号公報」、Ito,A.et al.:J.Clin.Invest.,105:1189−1197,2000.)。したがって、本発明にかかる癌転移抑制剤は、本発明にかかるコネキシン26阻害剤を含んでいればよい。
癌転移抑制剤として利用する場合、コネキシン26が代謝される可能性もある。例えば、コネキシンタンパク質阻害剤の分子に、置換・付加・脱離などが起こり、コネキシン26阻害作用を示す化合物に変化が生じる場合がある。
したがって、本発明の癌転移抑制剤は、生体内でコネキシン26阻害剤が、(i)未変化体のまま癌転移抑制作用を示すもの;(ii)活性代謝物となって癌転移抑制作用を示すもののいずれも包含する。
ところで、医薬品は生体にとっては異物であるため、医薬品開発では、生体分子に近い構造のドラッグデザインがなされる。これにより、副作用の少ない医薬品を提供できる可能性がある。
生体では、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、アラキドン酸などの多くの脂肪酸が合成される。前述のように、不飽和脂肪酸の2重結合は、容易にオキシランに変換できる。また、脂肪酸の末端はカルボキシル基であるので、容易にアミド基に変換できる。さらに、生体には、脂肪酸を代謝してアセチルCoAを生成する経路がある。それゆえ、脂肪酸を基本骨格としてコネキシン26阻害剤分子をデザインすれば、より生体分子に近く、副作用の少ない癌転移抑制剤を提供できる可能性が極めて高い。
したがって、コネキシン26阻害剤を、癌転移抑制剤として利用する場合には、前述した含オキシラン脂肪族アミドであることが非常に好ましい。
なお、2重結合はオキシランに、また、カルボン酸はアミドに、容易に変換できるので、こられは互いに、ほぼ等価であるといえる。その他にも、原子半径が近いもの同士の置換(例えば、水素からフッ素への置換)などもほぼ等価であるといえる。
本発明の癌転移抑制剤では、シス配置のオキシランおよび末端にカルボニル基を有する官能基は、オキシラン、アミド構造そのものだけではなく、それらに容易に変換されるほぼ等価なものも包含するものとする。
本発明において、「コネキシン26阻害剤を含む」とは、(i)本発明のコネキシン26阻害剤そのもの;(ii)生体内で本発明のコネキシン26阻害剤に代謝されるもののいずれであってもよい。
すなわち、本発明の癌転移抑制剤は、製造された医薬品が本発明のコネキシン26阻害剤またはそれにほぼ等価な分子を含むもの、または、生体内で癌転移抑制作用を示す活性代謝物が本発明のコネキシン26阻害剤またはそれにほぼ等価な分子を含むものであればよい。
生体内では、分子が立体特異的に認識される。例えば、酵素反応では、ラセミ体分子の一方の構造は認識するが、もう一方の分子は認識しない。その結果、ラセミ体の医薬品の場合、一方の分子は薬理活性を示すが、もう一方の分子は薬理活性を示さず、場合によっては、副作用を示す場合もある。
したがって、上記癌転移抑制剤も、癌転移抑制作用を示す上記コネキシン26阻害剤の光学活性体を含んでいることが好ましい。具体的には、コネキシン26阻害剤は、不斉の3員環構造部分を有することが好ましい。すなわち、前述の製造方法における、2重結合からオキシランへの変換の工程を不斉反応とすればよい。これにより、副作用がなく効果的に、癌の転移を抑制することができる。
また、上記癌転移抑制剤が生体分子に近いことに加えて、光学活性体のコネキシン26阻害剤を含んでいれば、より一層副作用が低減される。
後述の実施例のように、脂肪酸由来の含オキシラン脂肪族アミドは、コネキシン26阻害作用を示すが、コネキシン43阻害作用を示さない。つまり、コネキシン43阻害作用による、不整脈などの副作用がない。したがって、上記含オキシラン脂肪族アミドは、副作用の少ない安全な癌転移抑制剤として利用する上で、非常に好ましい。
なお、上記癌転移抑制剤は、コネキシン26阻害剤またはそれにほぼ等価な分子をプロドラッグ化し、生体内で活性代謝物を産生するようにしてもよい。
また、コネキシン26阻害剤を癌転移抑制剤として用いる場合、生体内での吸収、分布、代謝、排泄などを改善するために、当該コネキシン26阻害剤の構造を修飾してもよい。
上記癌転移抑制剤に上記コネキシン26阻害剤が含まれる量は、生体で癌転移抑制作用を示す範囲であればよい。また、癌転移抑制剤として利用する場合、コネキシン26阻害剤の他に、賦形剤、結合剤、など、通常の使用される医薬品添加物が添加されるが、医薬品添加物の量は適宜設定すればよい。
また、オレイン酸のアミド誘導体であるオレアミドおよびその誘導体(オレアミド類と称する)が、ギャップ結合を阻害することは既に知られている(Boger,D.L.et al。,Proc.Nat.Acad.Sci.USA.,95:4810−4815.1998.)。しかし、オレアミド類の、コネキシンのサブタイプ対する阻害作用の選択性を試験した例はなく、本願発明者等によって初めて行われた。
その結果、オレアミドは、コネキシン26とコネキシン43との両者に阻害作用を示した。
これに対して、一般式(1)で示されるような、含オキシラン脂肪族アミドは、コネキシン26に対してはオレアミドに匹敵する強い阻害作用を示しながら、コネキシン43に対しては全く阻害作用を示さなかった。すなわち、一般式(1)で示されるような、含オキシラン脂肪族アミドは、コネキシン26に対して高い選択性を有することが明らかとなった。
コネキシン43に対して阻害作用を示すと、中枢神経や心筋細胞に悪影響を与えることが推定されている。したがって、コネキシン43に対して阻害作用を示すオレアミドを癌転移抑制剤として使用すると、例えば、不整脈などの副作用が発現してしまう可能性がある。
それゆえ、コネキシン43に対する阻害作用を示さず、コネキシン26に対して特異的に阻害作用を示す、前記一般式(1)で示される含オキシラン脂肪族アミドは、副作用のない癌転移抑制剤となる。
このように、Boger,D.L.et al。,Proc.Nat.Acad.Sci.USA.,95:4810−4815.1998.には、オレアミドが、ギャップ結合を阻害していることについては記載されているが、どのサブタイプのコネキシンを阻害して、ギャップ結合を阻害しているのかについては、全く記載も示唆もない。また、後述する実施例のように、本願発明者等は、オレアミドのコネキシン26およびコネキシン43に対する阻害作用を調べた。その結果、オレアミドはコネキシン26およびコネキシン43共に阻害作用を示すことが明らかとなった。このため、オレアミドを癌転移抑制剤として利用すると、コネキシン43阻害作用による不整脈などの副作用が発現する可能性があるので、癌転移抑制剤として不適切であると考えられる。しかし、後述の実施例では、オレアミドを投与した場合も、癌以外での死亡率は低く(図4・図5参照)、癌転移抑制剤として、充分利用可能である。
なお、後述する実施例のように、本発明において注目すべきは、本発明の癌転移抑制剤が、癌の自然転移を抑制(阻害)することである。従来の癌転移抑制剤は、癌細胞を移植したものではなく、実験的に癌を転移させて、薬効評価(癌転移の抑制程度の評価)を行っていた。すなわち、癌細胞を静注し、癌転移抑制剤の投与2週間後の肺への癌の転移から、有効性を評価していた。これに対し、後述の実施例では、癌細胞を移植して、移植後の癌の転移から、薬効評価を行っている。これにより、実際の癌に近い状態での、有効性の評価が可能となる。すなわち、本発明の癌転移抑制剤は、ヒトの癌転移を直接反映する癌の自然転移を抑制(阻害)するものである。したがって、本発明の癌転移抑制剤(抗癌転移薬)は、医薬品として有用性が極めて高い。
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
以下の実施例では、核磁気共鳴(H−NMR)スペクトルは、JEOL JNM−AL300型(300MHz)を用い、テトラメチルシランを内部標準物質として測定した。質量分析(MS)スペクトルは、JEOL JNM−LMS300型を用い、20eVまたは70eVの直接法で測定した。カラムクロマトグラフィーの吸着剤は、Merck Kiesegel60(70−230mesh ASTM)を使用した。
〔実施例1〕9(Z)−オクタデセンアミド(オレアミド)の製造
窒素雰囲気下、9(Z)−オクタデセン酸(490mg 1.8mmol)の無水メチレンクロリド溶液(8.5mL)に氷冷下、オキザリルクロリド(0.45mL、5.3mmol)を滴下して、室温で4時間撹拌した。溶媒を留去して、氷冷下、アンモニア水(10mL)を加え、室温で30分攪拌した後、水(10mL)を加え、酢酸エチル(15mL×3)を加えて抽出した。得られた有機層を飽和食塩水(10mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:2)を用いて精製し、オクタンアミド(350mg、71%)を得た。
H−NMR(CDCl,300MHz):δ0.88(3H,t,J=6.4Hz),1.24−1.33(20H,m),1.58−1.65(2H,m),1.99−2.02(4H,m),2.22(2H,t,J=7.5Hz),5.32−5.36(2H,m)。
〔実施例2〕8−[(2S3R)−3−オクチルオキシラン−2−イル]オクタンアミドの製造
実施例1で得られたオレアミド(53mg,0.19mmol)のメチレンクロリド溶液(3mL)に、氷冷下、m−クロロ過安息香酸(49mg,0.23mmol)を加えて、室温で3時間撹拌した。氷冷下、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液(3mL)を加えて、酢酸エチル(5mL×3)で抽出した。得られた有機層を飽和食塩水(10mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル)を用いて精製し、一般式(1)に含まれる化合物の1つである含オキシランアミド(MI−18):8−[(2S3R)−3−オクチルオキシラン−2−イル]オクタンアミド(54mg、96%)を得た。
〔実施例3〕コネキシン26に対する阻害作用の試験
(1)細胞株と細胞培養
ヒト子宮頸部偏平上皮癌細胞(HeLa細胞)は、(American Type Culture Collection)から購入した。ラットコネキシン26を安定して発現するHeLa細胞サブクローン(HeLa−Cx26)は、以前に取得している(Duflot−Dancer et al.,Oncogen,1997)。すべての細胞は、(Dulbecco’s modified Eagle’s medium)(DMEM)中で、10%ウシ胎仔血清(FCS)とともに培養した。
(2)プラスミドの作製とDNA感染
pCX4bsrベクターは、pCXbsrベクター(T.Akagi.,et al.,2000,Proc.Natl.Acad.Sci.USA)を少し修飾した。pCX4bsrベクターは大阪生命科学機関の赤木先生から提供された。pBluescriptIISK+プラスミドベクターは、ラットCx43タンパク質を完全にコードする領域のcDNAフラグメントを、SpeI部とClaI部との間に含んでおり、すでに確立されている(Y.Omori.,et al.,1998,Int.J.Cancer)。Cx43cDNAは、上記ベクターからNotIとHincIIとを消化し、NotIとHincIIとが消化されたpCX4bsrベクターを結びつけることにより取り出した。HeLa細胞は、TransFast感染試薬を用いて、得られたpCX4bsr−Cx43ベクターを感染させた。感染後、3週間ブラスチジン(3μg/mL)耐性の細胞を選択し、シングルコロニーを得た。安定した形質転換クローン(HeLa−Cx43)を色素−トランスファーアッセイに使用した。
(3)色素−トランスファーアッセイ
アッセイの前日、HeLa−Cx26またはHeLa−Cx43細胞を、10%FCS含有DMEM中に懸濁させた。そして、いずれの細胞も6−wellプレート、または、6−wellプレートの底面のカバーガラス上で培養した。前者の細胞はドナーとして使用し、後者の細胞はレシピエントとして使用した。最初の平板は、翌日、subconfluent単層を作成するように、調節した。翌日、カルセイン−AMおよびDiIをドナー細胞の培養液に、4μM、10μMをそれぞれ添加し、1時間インキュベートした。2重標識ドナー細胞は、トリプシン処理し、リン酸緩衝溶液で3回洗浄した。10%FCS含有DMEM中に懸濁させた1000個の単一ドナー細胞は、標識化されていないレシピエント細胞上に、静かにoverlayした。ドナー細胞が単層に定着するには1時間を要した。そして、約1.5時間で色素−カップリングを示し始めた。色素−カップリングにおける試薬の阻害活性を評価するために、ドナー細胞培養1時間後、表1に示した濃度で試薬を培養液に添加した。対照として、エタノールを1:1000に希釈して培養液に添加した。培養してさらに1時間後、カバーガラスを6−wellプレートより取り出し、共焦点走査顕微鏡(LSM510)を用いて、観察した。
ギャップ結合非透過性のDiI(赤色蛍光)を含む細胞は、ドナー細胞であることを示す。ギャップ結合透過性のカルセインがDiI陽性ドナー細胞からDiI陰性受容細胞に移動していれば、色素−カップリングとみなす。
ギャップ結合細胞間コミュニケーション(GJIC)値は、次の方法よって評価される。
すなわち、ドナー細胞が色素−カップリングしなければ「0」、ドナー細胞から隣接受容細胞に色素−カップリングすれば「1」、上記隣接受容細胞に移動したカルセインが、上記ドナー細胞から離れる方向の次の隣接細胞に移動すれば「2」、上記ドナー細胞から離れた3番目の隣接細胞に移動すれば「3」、・・・というように評価する。上記ドナー細胞から離れた8以上の細胞に色素移動すると、評価することが難しいので、「8」とする。各因子ごとに、少なくとも25のドナー細胞の評価を行う。このドナー細胞は、別の単一ドナー細胞から少なくとも10細胞離れた単一細胞である。このような実験を3回繰り返し、各因子ごとに評価値の平均値、標準偏差を算出する。比較のために、unpaired Student’s testを行い、P値<0.01をもって有意差を判定した。
図1は、実施例1で製造したオレアミドおよび実施例2で製造した含オキシランアミドについて、コネキシン26およびコネキシン43に対する阻害阻害活性を評価した結果を示したものである。同図に示すように、いずれの化合物もコネキシン26に対する阻害作用を示すことが確認され、含オキシランアミドについては、コネキシン26のみを特異的に阻害することが確認された。
〔実施例4〕コネキシン26阻害剤による癌転移抑制作用の試験−1
1×10個のBL6細胞(Bl6マウスメラノーマ細胞の亜株)をC57BL/6マウスの足底部皮下に接種した後、マウスを次の3群に分ける。
1)媒体(vehicle)投与群:オリーブ油0.2mLを1日2回(朝夕)、連日腹腔内注射
2)オレアミド(25mg/kg/day)投与群:オリーブ油0.2mLにオレアミドを25mg/kg/dayの濃度で溶解したものを1日2回(朝夕)、連日腹腔内注射
3)オレアミド(50mg/kg/day)投与群:オリーブ油0.2mLにオレアミド(を50mg/kg/dayの濃度で溶解したものを1日2回(朝夕)、連日腹腔内注射
上記の処置をBL6細胞接種日より連日行い、約18日目接種部に形成された径約6mmの腫瘤を膝関節切断により切除する。この2日後まで上記の処置を行い、その後は無処置でマウスを飼育する。膝関節切断後4週間でマウスを安楽死させ、左右両肺の胸膜表面に形成された転移結節(病巣数)を肉眼的に数えた(図2(a)〜図2(c)、図3参照)。なお、各群マウス10匹での癌転移抑制作用の評価を行った。その結果、オレアミドを投与した群は、投与しない群と比べて、転移結節数が減少し、顕著に癌転移抑制作用を示した。
なお、同様の実験をオレアミド(500mg/kg/day)投与群についても行い、同様の結果を得た(図2(d)参照)。
〔実施例5〕コネキシン26阻害剤による癌転移抑制作用の試験−2
2×10個のBL6細胞(Bl6マウスメラノーマ細胞の亜株)をC57BL/6マウスの足底部皮下に接種した後、マウスを次の3群に分ける。
1)メラノーマ細胞を移植する以外、何も処置しないマウスを対象群(Nt)とする。
2)オレアミド(25mg/kg/day)投与群:オリーブ油0.1mLにオレアミドを25mg/kg/dayの濃度で溶解したものを1日1回、連日腹腔内注射。
3)MI−18(10mg/kg/day)投与群:オリーブ油0.1mLにMI−18を10mg/kg/dayの濃度で溶解したものを1日1回、連日腹腔内注射。
上記の処置をBL6細胞接種日より連日行い、約18日目接種部に形成された径約8mmの腫瘤を膝関節切断により切除する。この2日後まで上記の処置を行い、その後は無処置でマウスを飼育する。膝関節切断後4週間でマウスを安楽死させ、左右両肺の胸膜表面に形成された転移結節(病巣数)を肉眼的に数えた(図4、図5参照)。なお、各群マウス15匹での癌転移抑制作用の評価を行った。その結果、オレアミドおよびMI−18を投与した群は、投与しない群と比べて、転移結節数が減少し、顕著に癌転移抑制作用を示した。また、図5のように、2ヶ月近く、これらの物質を毎日投与しても、癌以外で死んだマウスはいなかった。したがって、これらの物質は、安全性が極めて高い。それゆえ、これらの物質は、副作用の少ない(あるいは全くない)、癌転移抑制剤(抗癌転移薬)として使用できる可能性が極めて高い。
尚、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する特許請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
【産業上の利用の可能性】
以上のように、本発明によれば、コネキシン26の機能を特異的に阻害するコネキシン26阻害剤を提供することができるという効果を奏する。さらに、本発明のコネキシン26阻害剤を有効成分とする癌転移抑制剤を提供できるという効果を奏する。
本発明の癌転移抑制剤は、コネキシン26の機能を特異的に阻害し、コネキシン43の機能を阻害しないので、不整脈などの副作用のない安全な癌転移抑制剤を提供できる。それゆえ、癌の転移が抑制されるので、癌治療の効果が飛躍的に向上するという効果を奏する。
【図1】


【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コネキシン26の機能を阻害する化合物を含む癌転移抑制剤であって、上記化合物の分子内に、シス配置の置換基を有する3員環を含んでいること特徴とする癌転移抑制剤。
【請求項2】
上記3員環は、脂肪酸の主鎖にあることを特徴とする請求の範囲1に記載の癌転移抑制剤。
【請求項3】
上記脂肪酸は、生体由来のものであることを特徴とする請求の範囲2に記載の癌転移抑制剤。
【請求項4】
上記置換基のうち少なくとも1つの置換基は、その置換基の末端にカルボニル基を有する官能基を含んでいることを特徴とする請求の範囲1〜3のいずれか1項に記載の癌転移抑制剤。
【請求項5】
上記カルボニル基を有する官能基は、第1アミドであることを特徴とする請求の範囲4に記載の癌転移抑制剤。
【請求項6】
上記3員環は、オキシランであることを特徴とする請求の範囲1〜5のいずれか1項に記載の癌転移抑制剤。
コネキシン26阻害剤。
【請求項7】
一般式(1)

(式中、Rは水素原子または炭化水素基であり、Xは、水素原子、メタンスルフォニル基、エタンスルフォニル基、アセチル基、トリフルオロアセチル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アミノ基のいずれかであり、mは4〜10の整数、nは4〜7の整数である)
で表される請求の範囲1〜6のいずれか1項に記載の癌転移抑制剤。
【請求項8】
コネキシン26に対するギャップ結合細胞間コミュニケーション(GJIC)値が、4以下であることを特徴とする請求の範囲1〜7のいずれか1項に記載の癌転移抑制剤。
【請求項9】
コネキシン43の機能を阻害しない請求の範囲1〜8のいずれか1項に記載の癌転移抑制剤。
【請求項10】
コネキシン43に対するギャップ結合細胞間コミュニケーション(GJIC)値が、6以上であることを特徴とする請求の範囲9に記載の癌転移抑制剤。
【請求項11】
コネキシン26の機能を阻害する化合物であって、分子内に、シス配置の置換基を有する3員環を含む脂肪酸を主鎖とする化合物からなるコネキシン26阻害剤。
【請求項12】
上記脂肪酸の末端カルボキシル基が、アミドである請求の範囲11に記載のコネキシン26阻害剤。
【請求項13】
コネキシン26の機能を阻害する化合物であって、シス配置の2重結合を含んでいる不飽和脂肪酸アミドからなるコネキシン26阻害剤。

【国際公開番号】WO2004/060398
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【発行日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−564477(P2004−564477)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015243
【国際出願日】平成15年11月28日(2003.11.28)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】