説明

コバルト−マンガン系複合酸化物

【課題】P型熱電変換材料として優れた特性を有し、且つ高温の空気中でも使用可能な酸化物系の材料であって、環境調和性が良好で、経済性、量産性等にも優れた新規な材料を提供する。
【解決手段】下記(1)〜(3)の条件を満足することを特徴とするコバルト−マンガン系複合酸化物を提供する。:(1)組成式:Co3‐xMn(式中、x及びyは、それぞれ0.9≦x≦2.1及び3.8≦y≦4.2を満たす数である。)で表される平均組成を有すること、(2)正方晶スピネル型結晶構造の相と、立方晶スピネル型結晶構造の相に相分離していること、(3)正方晶スピネル型結晶構造の相と立方晶スピネル型結晶構造の相の少なくとも一方の相は、最短部の長さが1nm〜400nmの範囲内にあること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、P型熱電変換材料として優れた性能を有するコバルト−マンガン系複合酸化物、その製造方法、及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国では、一次供給エネルギーからの有効なエネルギーの得率は30%程度しかなく
、約70%ものエネルギーを最終的には熱として大気中に廃棄している。また、工場及び
ごみ焼却場など燃焼により生ずる熱も他のエネルギーに変換されることなく大気中に廃棄されている。このように我々人類は非常に多くの熱エネルギーを無駄に廃棄しており、化石エネルギーの燃焼等の行為から僅かなエネルギーしか獲得していない。エネルギーの得率を向上させるためには、大気中に廃棄されている熱エネルギーを利用できるようになれば良い。そのためには熱エネルギーを直接電気エネルギーに変換する熱電変換が有効な手段である。この熱電変換とはゼーベック効果を利用したものである。即ち熱電変換材料の両端で温度差をつけることで電位差を生じさせ、発電を行うエネルギー変換法である。この熱電発電では熱電変換材料の一端を廃熱により生じた高温部に、もう一端を大気中(室温)に配置しそれぞれの両端に外部抵抗を接続するだけで電気が得られ、一般の発電に必要なモーターやタービン等の可動装置は全く必要ない。そのためコストも安く、さらに燃焼等によるガスの排出も無く、熱電変換材料が劣化するまで継続的に発電を行うことができる。このように熱電発電は今後心配されるエネルギー問題の解決の一端を担うと期待されている。
【0003】
熱電発電を実現するためには高い熱電変換効率と耐熱性及び化学的耐久性の高い熱電変換材料が必要となる。近年、材料をナノ構造制御することにより、材料の熱電特性が飛躍的に向上する例が報告されている。これは、ナノ構造によりフォノンだけが選択的に散乱され、電気的特性を保ったまま熱伝導率だけが効果的に低減されることに起因している。例えば、Bi2Te3/Sb2Te3(下記非特許文献1参照)、PbTe-PbSe0.98Te0.02(下記非特許文献2参照)等の超格子薄膜や、Siの量子細線(下記非特許文献3、4等参照)などは、既存材料の2倍近い性能を達成するとされている。これらは、主に界面で平均自由行程の比較的大きなフォノンが散乱されることにより、熱伝導率が大幅に低減される効果によるものとされている。
【0004】
しかしながら、上記した材料は合成法が複雑であり、高価な装置が必要となるなど、経済性や量産性に問題がある。また、実際の応用を考えたとき、薄膜状や細線状の材料では莫大な未利用エネルギーを回収して発電することは困難であり、バルク状、即ち、多結晶焼結体からなる材料が必要となる。
【0005】
近年、ナノ構造制御されたバルク体の開発が行われつつあるが(例えば下記非特許文献5、6等参照)、いずれも毒性元素や希少元素を含む合金系の材料であり、大気中で安定に使用できず、高価であり、安全性などを考慮すると民生用として広く使用することができない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】R. Venkatasubramanian et al., Nature, 413, 597 (2001).
【非特許文献2】T. C. Harman et al., Science, 297, 2229 (2002).
【非特許文献3】Allon I. Hochbaum et al., Nature, 451, 163 (2008).
【非特許文献4】Akram I. Boukai et al., Nature, 451, 168 (2008).
【非特許文献5】K. F. Hsu et al., Science, 303, 818 (2004).
【非特許文献6】J. Androulakis et al., J. Am. Chem. Soc., 129, 9780 (2007).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、P型熱電変換材料として優れた特性を有し、且つ高温の空気中でも使用可能な酸化物系の材料であって、環境調和性が良好で、経済性、量産性等にも優れた新規な材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねきた。その結果、特定の組成を有するコバルト−マンガン含有複合酸化物からなる固溶体を、特定の温度域で熱処理することにより、自然相分離によって正方晶スピネル型結晶構造の相と立方晶スピネル型結晶構造の相からなる複合酸化物を形成でき、しかも、熱処理条件を調整することによって、各相の大きさを容易にナノオーダーに制御できることを見出した。そして、この様にして得られたナノ構造の複合酸化物は、高い正のゼーベック係数と良好な導電性を有し、且つ熱伝導率が低い材料であり、P型熱電変換材料として優れた性能を発揮できることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記のコバルト−マンガン系複合酸化物、該複合酸化物の製造方法、及び該複合酸化物の用途を提供するものである。
1.下記(1)〜(3)の条件を満足することを特徴とするコバルト−マンガン系複合酸化物:
(1)組成式:Co3‐xMn(式中、x及びyは、それぞれ0.9≦x≦2.1及び3.8≦y≦4.2を満たす数である。)で表される平均組成を有すること、
(2)正方晶スピネル型結晶構造の相と、立方晶スピネル型結晶構造の相に相分離していること、
(3)正方晶スピネル型結晶構造の相と立方晶スピネル型結晶構造の相の少なくとも一方の相は、最短部の長さが1nm〜400nmの範囲内にあること。
2. 平均組成と比較して、Mn比が高い正方晶スピネル型結晶構造の相と、Co比が高い立方晶スピネル型結晶構造の相に相分離していることを特徴とする、上記項1に記載のコバルト−マンガン系複合酸化物。
3. 組成式:Co3‐xMn(式中、x及びyは、それぞれ0.9≦x≦2.1及び3.8≦y≦4.2を満たす数である。)で表される複合酸化物の固溶体を、二相分離が生じる温度域で熱処理することを特徴とする、上記項1又は2に記載のコバルト−マンガン系複合酸化物の製造方法。
4. 上記項1又は2に記載のコバルト−マンガン系複合酸化物からなるP型熱電変換材料。
5. 上記項4に記載のP型熱電変換材料を含む熱電変換モジュール。
【0010】
以下、まず、本発明のコバルト−マンガン系複合酸化物及びその製造方法について具体的に説明する。
【0011】
コバルト−マンガン系複合酸化物
本発明のコバルト−マンガン系複合酸化物は、下記(1)〜(3)の条件を満足するものである:
(1)組成式:Co3‐xMn(式中、x及びyは、それぞれ0.9≦x≦2.1及び3.8≦y≦4.2を満たす数である。)で表される平均組成を有すること、
(2)正方晶スピネル型結晶構造の相と、立方晶スピネル型結晶構造の相に相分離してい
ること、
(3)正方晶スピネル型結晶構造の相と立方晶スピネル型結晶構造の相の少なくとも一方の相は、最短部の長さが1nm〜400nmの範囲内にあること。
【0012】
上記した通り、本発明の複合酸化物は、組成式:Co3‐xMn(式中、x及びyは、それぞれ0.9≦x≦2.1及び3.8≦y≦4.2を満たす数である。)で表される平均組成を有するコバルト−マンガン含有複合酸化物であって、正方晶スピネル型結晶構造の相と、立方晶スピネル型結晶構造の相に相分離し、且つ、正方晶スピネル型結晶構造の相と立方晶スピネル型結晶構造の相の少なくとも一方の相は、最短部の長さが1nm〜400nmの範囲内にあるというナノ構造を有する複合酸化物である。
【0013】
この様なナノ構造の複合酸化物は、上記組成式:Co3‐xMnで表される平均組成を有することによって、高い正のゼーベック係数と良好な導電性を有するものとなる。また、正方晶スピネル型結晶構造の相と、立方晶スピネル型結晶構造の相に相分離し、且つ、正方晶スピネル型結晶構造の相と立方晶スピネル型結晶構造の相の少なくとも一方の相については、最短部の長さが1nm〜400nmの範囲内にあることによって、非常に低い熱伝導率を有するものとなる。これは、本発明の複合酸化物が、ナノオーダーで二相に分離していることによって、相間の界面密度が高くなり、フォノンが相界面で効果的に散乱されることに起因して、熱伝導率が大きく低減されることによるものと推定される。
【0014】
尚、上記した複合酸化物の平均組成とは、正方晶スピネル型結晶構造の相と立方晶スピネル型結晶構造の相の各相を構成する複合酸化物の組成と各相の比率に基づいて、平均として求めた酸化物の組成であり、該複合酸化物の前駆体となる複合酸化物固溶体の組成に一致するものである。
【0015】
本発明では、正方晶スピネル型結晶構造の相と、立方晶スピネル型結晶構造の相については、相間の界面密度が高いことが重要であり、各相の具体的な形状については特に限定はない。例えば、それぞれの相がロッド状で市松模様に交互に配列した構造、板状の2相が交互に積層した構造、一方の相がマトリックスとなり、その中にリボン状の第二の相が広がった構造等の任意の構造の複合酸化物とすることができる。これらの場合において、少なくとも一方の相の最短部の長さが、1nm〜400nmの範囲内にあればよく、特に、1nm〜50nmの範囲内にあることが好ましい。この場合、各相の最短部の長さとは、各相の外形の内で、最も短い部分の長さであり、例えば、それぞれの相がロッド状で存在する場合には、少なくとも一方のロッド状の相の短径が1nm〜400nmの範囲内にあればよい。また、板状の2相が交互に積層した構造となる場合には、少なくとも一方の板状の相の厚さが1nm〜400nmの範囲内にあればよい。また、一方の相がマトリックスとなり、その中にリボン状の第二の相が広がった構造となる場合には、リボン状の相の厚さが1nm〜400nmの範囲内にあればよい。
【0016】
本発明では、特に、正方晶スピネル型結晶構造の相と立方晶スピネル型結晶構造の相の両相について、最短部の長さが1nm〜400nmの範囲内にあることが好ましい。
【0017】
正方晶スピネル型結晶構造の相と立方晶スピネル型結晶構造の相の各相の組成については、上記した平均組成を示す組成式:Co3‐xMn(式中、x及びyは、それぞれ0.9≦x≦2.1及び3.8≦y≦4.2を満たす数である。)で表される複合酸化物について、スピノーダル分解による相分離が生じているとして、相図から求めることができる。即ち、正方晶スピネル型結晶構造の相は、平均組成と比較して、Mnの比率が高い相であり、組成式:Co3‐aMn(式中、a及びbは、それぞれ1.3≦a≦3及び3.8≦b≦4.2を満たす数である。)で表されるものとなり、立方晶スピネル
型結晶構造の相は、平均組成と比較して、Coの比率が高い相であり、組成式:Co3‐cMn(式中、c及びdは、それぞれ0≦c≦1.9及び3.8≦d≦4.2を満たす数である。)で表されるものとなる。これらの各相の組成は、後述する実施例1の結果とよく一致するものである。
【0018】
複合酸化物の製造方法
(i)ナノ構造複合酸化物の製造方法
上記したナノ構造を有する複合酸化物は、組成式:Co3‐xMn(式中、x及びyは、それぞれ0.9≦x≦2.1及び3.8≦y≦4.2を満たす数である。)で表される複合酸化物の固溶体を、二相分離が生じる温度域で熱処理することによって得ることができる。
【0019】
熱処理温度については複合酸化物の固溶体の組成によって異なるが、該固溶体の溶融温度を下回る温度であって、二相に相分離する温度範囲とすればよい。具体的な熱処理温度については、具体的な複合酸化物固溶体の組成に応じて、均一な固溶体が形成される温度領域(混和領域)と相分離が生じる温度領域(不混和領域)の境界温度以下の相分離が生じる温度領域とすればよく、通常は、1200〜200℃程度の範囲内となる。この様な温度範囲内で熱処理を行うことによって、スピノーダル分解によると思われる相分離が生じて、目的とするナノ構造の複合酸化物を得ることができる。
【0020】
上記した相分離が生じる温度範囲において、熱処理温度が高い場合には、比較的短時間で相分離が生じるが、熱処理時間が長くなると各相が成長して、ナノ構造の複合酸化物を得ることができない。また、熱処理温度が低い場合には、相分離に長時間を要するために、製造効率が非常に悪くなる。通常は、1200〜200℃程度の温度範囲内において、少なくとも一相の最短部の長さが1nm〜400nmの範囲内にあるナノ構造の複合酸化物が形成されるように熱処理時間を決めればよく、例えば、1〜5000時間程度の範囲内とすればよい。また、熱処理温度は一定でなくてもよく、例えば、100K/時間〜0.1K/時間程度の降温速度で、相分離の生じる温度範囲内で徐々に降温してもよい。熱処理の雰囲気は、例えば、大気中などの酸素含雰囲気とすればよいが、特にこれに限定されるものではない。
【0021】
(ii)前駆体(均一固溶体)の製造方法
上記した方法で相分離を行う際に、出発材料(前駆体)として用いる組成式:Co3‐xMn(式中、x及びyは、それぞれ0.9≦x≦2.1及び3.8≦y≦4.2を満たす数である。)で表される複合酸化物の固溶体は、目的とする複合酸化物の元素成分比率と同様の元素成分比率となるように原料物質を混合し、均一固溶体が形成される温度範囲で熱処理することによって得ることができる。
【0022】
原料物質としては、焼成により酸化物を形成し得るものであれば特に限定されず、元素単体、酸化物、各種化合物(炭酸塩等)等を使用できる。例えば、Co源としては、コバルト(Co)、酸化コバルト(CoO、Co、Co)、炭酸コバルト(CoCO)、硝酸コバルト(Co(NO)、水酸化コバルト(Co(OH))、塩化コバルト(CoCl)、アルコキシド化合物(ジプロポキシコバルト(Co(OCなど)等を使用でき、マンガン源としては、マンガン(Mn)、酸化マンガン(Mn)、炭酸マンガン(MnCO)等を使用できる。また、原料粉末の粒径については特に限定されない。
【0023】
上記した原料物質は、遊星型ボールミル、ポットミル等任意の混合手段によって、均一に混合した後、電気加熱炉、ガス加熱炉、ホットプレス炉、放電プラズマ焼結炉等の任意の加熱手段によって、焼成すればよい。
【0024】
焼成温度については、目的とする固溶体が形成される条件とすれば良く、相図上で前記固溶体が安定である温度域(混和領域)であればよい。具体的な焼成温度については、前記固溶体の組成や粒径の大きさ等によって異なるが、例えば、1200〜1500℃程度の温度範囲となる。また、焼成時間についても目的とする固溶体が均一な相として生成される程度の時間とすれば良く、特に限定されないが、例えば10〜20時間とすれば良い。焼成雰囲気は、例えば、大気中などの酸素含雰囲気とすればよいが、特にこれに限定されるものではない。
【0025】
上記した方法で得られる固溶体は、相図上の混和領域である高温でのみ安定であるため、これを混和領域から急冷(クエンチ)することによって、二相分離が生じる温度域(不混和領域)において、固溶体として存在させることが必要である。この場合、混和領域から室温まで急冷して均一組成の固溶体とした後、二相分離が生じる温度域まで加熱してもよく、或いは、混和領域から二相分離が生じる温度域まで急冷して、この温度域において、均一組成の固溶体としてもよい。
【0026】
急冷方法については、特に限定はなく、水冷、空冷、氷冷などの任意の手段を採用できる。
【0027】
急冷速度について特に限定はなく、室温又は二相分離が生じる温度域において、安定な均一固溶体が形成されるような急冷速度とすればよい。
【0028】
焼成雰囲気は、例えば、大気中などの酸素含雰囲気とすればよいが、特にこれに限定されるものではない。
【0029】
複合酸化物の特性
本発明のナノ構造を有する複合酸化物は、低い熱伝導率を有するものであり、ナノ構造の相分離を生じていない同一組成の複合酸化物と比較すると、熱伝導率が非常に小さく、例えば500℃以上の温度では、5W/mK 以下という非常に低い熱伝導率を有するものである。
【0030】
更に、該複合酸化物は、低い電気抵抗率を有する電気伝導性に優れた材料であり、具体的には、500℃以上において、10Ωcm以下の電気抵抗率を有するものである。また、該複合酸化物は、高い正のゼーベック係数を有するものであり、具体的には、500℃以上において、10μV/K以上のゼーベック係数を有し、P型熱電変換材料として優れた
性能を有する材料である。
【0031】
以上の通り、本発明の複合酸化物は、正のゼーベック係数を有し、且つ良好な電気伝導性を有する物質であって、低い熱伝導率を有するものである。更に、該複合酸化物は、毒性元素や希少元素も含まず、耐熱性、化学的耐久性等にも優れた材料である。本発明の複合酸化物は、この様な特性を利用して、空気中において高温で用いるP型熱電変換材料として有効に利用することができる。
【0032】
図7は、本発明の複合酸化物からなる熱電変換材料をP型熱電変換素子として用いた熱電発電モジュールの一例の模式図である。該熱電発電モジュールの構造は、公知の熱電発電モジュールと同様であり、高温部用基板、低温部用基板、P型熱電変換材料、N型熱電変換材料、電極、導線等により構成される熱電発電モジュールであり、本発明の複合酸化物はP型熱電変換材料として使用される。
【発明の効果】
【0033】
本発明の複合酸化物は、ナノ構造を有する酸化物の複合体であり、低い熱伝導率と、高い電気伝導率、及び高い正のゼーベック係数を有する材料である。
【0034】
また、本発明の製造方法によれば、高価な装置や複雑なプロセスを要することなく、自然相分離を利用して、非常に安価で簡便なプロセスにより、上記した優れた性能を有する複合酸化物を得ることができ、大容量の発電に適したバルク体も容易に得ることができる。
【0035】
従って、本発明の複合酸化物をP型熱電変換材料として用いることによって、高性能を有する酸化物熱電発電モジュールを実現でき、これまで大気中に廃棄されていた熱エネルギーを有効に利用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例1の複合酸化物及びその前駆体(均一固溶体)のX線回折パターンである。
【図2】実施例1の複合酸化物の透過型電子顕微鏡写真である。
【図3】比較例1の酸化物の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例1の複合酸化物と比較例1の酸化物の熱伝導率の温度依存性を示すグラフである。
【図5】実施例1で得られた複合酸化物の電気抵抗率の温度依存性を示すグラフである。
【図6】実施例1で得られた複合酸化物のゼーベック係数の温度依存性を示すグラフである。
【図7】本発明複合酸化物をP型熱電変換材料として用いた熱電変換モジュールの模式図である。
【図8】実施例2の複合酸化物の透過型電子顕微鏡写真である。
【図9】実施例3の複合酸化物の透過型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0038】
実施例1
CoとMnOを前者1モルに対して、後者3モルとなるよう秤量後、遊星型ボールミルにより混合した。次いで、混合した試料を950℃で12時間仮焼し、仮焼後の生成物を乳鉢で粉砕・混合し、均一固溶体の生成温度域である1150℃で12時間焼成する操作を2回繰り返すことにより相を均一なものとした。
【0039】
次いで、得られた粉末を、物性試験に使用できる高密度の焼結体とするためにカーボンダイスに充填し、放電プラズマ焼結により、100MPaで一軸加圧しながら1000℃で1分保持することで、直径1.5−2cm、高さ0.1−1cmの緻密なペレット状に成型した。その後、得られたペレットを、電気炉にて均一固溶体の生成温度域である1150℃で5時間空気中で熱処理した後、二相分離温度域である600℃まで30分で降温して、均一固溶体の状態のままで二相分離温度領域まで冷却した。この状態の固溶体は、組成式:Co1.5Mn1.5で表されるものである。
【0040】
次いで、600℃〜20℃までの温度域を50K/hの速度で降温することによって、相分離を生じさせた。得られた試料のX線回折パターンを図1に示す。また、1150℃で焼成した焼結体を空気中で室温まで放冷(クエンチ)した場合の試料のX線回折パターンも図1に示す。
【0041】
図1に示すX線回折ピークから、1150℃から室温まで放冷(クエンチ)した試料は、正方晶の単相からなる焼結体(固溶体)であるのに対して、二相分離温度域で50K/hの降温速度で徐冷した実施例1の試料では、結晶構造に変化が生じていることが確認できる。後述する各相の組成分析から、この結晶構造の変化は、急冷した試料の正方晶とは異なる別の正方晶と立方晶に相分離したものであると判断できる。更に、600℃〜20℃の温度域での降温速度を7K/hとして、各相をより成長させてX線回折パターンを測定した結果からも、上記組成の固溶体は、正方晶と立方晶に相分離することが確認できた。
【0042】
図2に、実施例1の試料について、透過型電子顕微鏡写真を示す。図2から、実施例1の試料は、2相が5〜10nmの相間隔で市松模様状に配列していることが確認できた。この2相の内の一方の相は、最短部の長さが約2nmであった。
【0043】
また、エネルギー分散型X線分光法による組成分析の結果、生成した二相の組成は、それぞれ、Co1.1Mn1.9とCo1.7Mn1.3であることが確認できた。この組成は、上記した固溶体:Co1.5Mn1.5が正方晶スピネル型結晶構造の相と、立方晶スピネル型結晶構造の相にスピノーダル分解して生じたとして求めた組成によく一致するものである。
【0044】
また、図3には、600℃〜20℃までの温度域を3K/hの速度で降温して得られた試料についての走査型電子顕微鏡写真を示す。図3から明らかなように、降温速度を遅くして、相分離温度域に長時間保持する場合には、相分離が生じるものの、各相が成長して、二相が1〜5μm程度の相間隔で配列した複合酸化物が得られることが判る。この試料を比較例1の試料とする。
【0045】
図4に、上記した方法で得られた実施例1の試料と比較例1の試料について、50〜700℃における熱伝導率(κ)の温度依存性を示すグラフを示す。このグラフから、50〜700℃の温度範囲において、実施例1の試料は、比較例1の試料と比較して、低い熱伝導率を示すことが明らかである。
また、図5は、実施例1の試料の電気抵抗率(ρ)の温度依存性を示すグラフである。このグラフから明らかなように、実施例1の試料は、500℃以上において、10Ωcm以下の電気抵抗率を示し、良好な導電性を有することが確認できる。
図6は、実施例1のゼーベック係数(S)の温度依存性を示すグラフである。このグラフから、実施例1の試料は、500℃以上において、10μV/K以上の正のゼーベック係数
を有することが確認できる。
【0046】
実施例1で得られた試料について、500℃での熱伝導率、500℃での電気抵抗率及び500℃でのゼーベック係数の測定結果を下記表1に示す。
【0047】
以上の結果から、ナノオーダーで二相分離した構造を有する実施例1の複合酸化物は、高い正のゼーベック係数と良好な導電性を有し、且つ、熱伝導率の低い材料であり、P型熱電変換材料として有用な材料であることが明らかである。
【0048】
実施例2
CoとMnOを前者1モルに対して、後者7モルの比率となるように使用する以外は実施例1と同様にして、組成式:Co0.9Mn2.1で表される均一固溶体を作製した。
【0049】
その後、600℃〜20℃までの温度域を25K/hの速度で降温する以外は実施例1と同様にして、相分離を生じさせた。得られた試料の透過型電子顕微鏡写真を図8に示す
。図8から明らかなように、実施例2の試料は、板状の2相が交互に5〜20nmの相間隔で市松模様状に配列していることが確認でき、一方の相の最短部の長さは、約4nmであった。
【0050】
また、実施例2で得られた試料は、実施例1の試料に類似したX線回折ピークを有するものであり、同じ組成の焼結体(固溶体)を1150℃から室温まで放冷(クエンチ)して得られた正方晶の単相からなる試料のX線回折ピークと比較すると、結晶構造に変化が生じていることが確認できた。600℃〜20℃の温度域での降温速度を7K/hとして、各相をより成長させてX線回折パターンを測定した結果から、実施例2の試料の各相は、正方晶と立方晶であることが確認できた。
【0051】
実施例2で得られた試料について、500℃での熱伝導率、500℃での電気抵抗率及び500℃でのゼーベック係数の測定結果を下記表1に示す。
【0052】
実施例3
CoとMnOを前者1モルに対して、後者9/7モルの比率となるように使用する以外は、実施例1と同様にして、組成式:Co2.1Mn0.9で表される均一固溶体を作製した。
【0053】
その後、600℃〜20℃までの温度域を25K/hの速度で降温すること以外は実施例1と同様にして、相分離を生じさせた。得られた試料の透過型電子顕微鏡写真を図9に示す。図9から明らかなように、実施例3の試料は、板状の2相が交互に5〜40nmの相間隔で市松模様状に配列していることが確認でき、一方の相の最短部の長さは、約5nmであった。
【0054】
また、実施例3で得られた試料は、実施例1の試料に類似したX線回折ピークを有するものであり、同じ組成の焼結体(固溶体)を1150℃から室温まで放冷(クエンチ)して得られた正方晶の単相からなる試料のX線回折ピークと比較すると、結晶構造に変化が生じていることが確認できた。600℃〜20℃の温度域での降温速度を7K/hとして、各相をより成長させてX線回折パターンを測定した結果から、実施例3の試料の各相は、正方晶と立方晶であることが確認できた。
【0055】
実施例3で得られた試料について、500℃での熱伝導率、500℃での電気抵抗率及び500℃でのゼーベック係数の測定結果を下記表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1から明らかな様に、実施例1〜3の各試料は、ナノオーダーで二相分離した構造を有するものであり、高い正のゼーベック係数と良好な導電性を有し、且つ、熱伝導率の低い材料であり、P型熱電変換材料として有用な材料であることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(3)の条件を満足することを特徴とするコバルト−マンガン系複合酸化物:
(1)組成式:Co3‐xMn(式中、x及びyは、それぞれ0.9≦x≦2.1及び3.8≦y≦4.2を満たす数である。)で表される平均組成を有すること、
(2)正方晶スピネル型結晶構造の相と、立方晶スピネル型結晶構造の相に相分離していること、
(3)正方晶スピネル型結晶構造の相と立方晶スピネル型結晶構造の相の少なくとも一方の相は、最短部の長さが1nm〜400nmの範囲内にあること。
【請求項2】
平均組成と比較して、Mn比が高い正方晶スピネル型結晶構造の相と、Co比が高い立方晶スピネル型結晶構造の相に相分離していることを特徴とする、請求項1に記載のコバルト−マンガン系複合酸化物。
【請求項3】
組成式:Co3‐xMn(式中、x及びyは、それぞれ0.9≦x≦2.1及び3.8≦y≦4.2を満たす数である。)で表される複合酸化物の固溶体を、二相分離が生じる温度域で熱処理することを特徴とする、請求項1又は2に記載のコバルト−マンガン系複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のコバルト−マンガン系複合酸化物からなるP型熱電変換材料。
【請求項5】
請求項4に記載のP型熱電変換材料を含む熱電変換モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−228927(P2010−228927A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74855(P2009−74855)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】