説明

コラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体、それを含む組織再生用部材、及びそれらの製造方法

【課題】神経組織再生の促進、生体軟組織欠損部の治癒再生等を、ラミニンや神経増殖因子(NGF)を併用することなく向上させる、コラーゲンから成る新規構造体及びそれを含んで成る組織再生用部材を提供する。
【解決手段】本発明に係るコラーゲンから成る構造体は、薄フィルム多房状構造を有し、コロイド状、ゲル状及び繊維状とも異なる。そのため、本発明に係るコラーゲンから成る新規な構造体を組織再生用部材に使用すると、驚くべきことに、神経組織、皮下組織、粘膜下組織、生体膜組織、脂肪組織、筋肉組織、皮膚組織、歯肉組織等の体組織の再生の促進、治癒期間の短縮、機能的回復等を、向上させることができる。更に、神経因性疼痛を有する患者に用いると、その疼痛を消失させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体、それを含む組織再生用部材、組織再生用部材に使用される種々の支持体及びそれらの製造方法に関する。特に、コラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体を含む神経組織再生用材料及びコラーゲン溶液を凍結乾燥することを含むその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンを用いた神経組織を連結するための管はNeuraGen nerve guide (商品名)として、Integra NeuroCare LLC, USA から、及びポリグリコール酸(PGA)を用いた神経組織を連結するための管はGEM Neurotube (商品名)として、Synovis Micro companies Alliance, USA から、既に米国で市販されている。これらの神経連結管は、いずれも内部に何も充填されていない中空の管であって、神経の欠損部の長さが2cmまでの末梢感覚神経の再生に使用することができる。神経の欠損部にこれらの中空管を埋設すると、欠損部に神経線維が再生される。
【0003】
しかし、末梢感覚神経の欠損部が2cmより長い場合、これらの神経連結管の使用は制限される。これは、中空管の場合、神経の再生を促進する力に乏しく、分解が早いので、より長い欠損には使用できない等の課題があるためである。更に、これらの米国で市販されている中空管には、中空管の端部の口径と神経細胞の端部の口径との間に、口径差がある場合、両者の間に隙間ができるので、ここに神経組織の伸展を阻害する周囲の組織が侵入して神経の再生伸展を阻害してしまうという課題がある。また末梢神経の欠損部に分岐がある場合、一つの中空管では使用できないので埋設が煩雑であるという課題がある。更に、中空管の内腔の保持力が不十分であるので、長い欠損を補填できず、神経が伸びることができずに再生が止まってしまうという課題がある。また使用部位によっては両端を神経管内に内挿できない場合がある等の課題がある。
【0004】
近年、生体分解吸収材料(ポリ乳酸及びポリグリコール酸等)から成るチューブ内にスポンジ状又はゲル状のコラーゲンを含む人工神経管が報告されている。例えば、特許文献1は、生体分解吸収材料(ポリ乳酸及びポリグリコール酸等)から成るチューブ内にコラーゲン及びラミニンから成るゲルを含む人工神経管を開示する。
【0005】
特許文献2は、生体吸収性高分子(ポリ乳酸)の外層と、乳酸/ε−カプロラクトン共重合体及びコラーゲンから成るスポンジ状物質の内層から成る神経を再生させるチューブを開示する。
【0006】
特許文献3は、生体分解性材料又は生体吸収性材料(タンパク質、多糖類、ポリ乳酸及びポリグリコール酸等)から成る管状体の内部に、スポンジ状コラーゲンを含む神経再生用誘導管を開示する。
【0007】
特許文献4は、生体吸収性高分子(ポリ乳酸及びポリグリコール酸等)から成る管状体の内部に、コラーゲンでコーティングしたファイバー状の合成生体吸収性高分子(ポリ乳酸及びポリグリコール酸等)を充填した神経再生チューブを開示する。
【0008】
非特許文献1は、ポリ乳酸とポリグリコール酸から成る管状体に、ゲル状のコラーゲンを内部に含む人工神経管を開示する。
これらの特許文献1〜4及び非特許文献1は、いずれも、管状体の生体分解性材料の内部に、スポンジ状、ゲル状又は繊維状の構造を有するコラーゲンを含んで成り、そのため、コラーゲンを含まない中空体と比較して、コラーゲンが、神経再生の、いわば足場となり、より神経再生が促進されるという長所があることが知られている。
しかし、更に、ますます、神経組織再生の促進、組織修復を補助するだけではなく、神経組織の生理学的機能の回復を早め臨床成績を向上させることが求められている。また、安全性の確立していない生理活性物質であるラミニンを含んでいるため臨床応用ができない、分解が早いのでより長い欠損には使用できない、人工神経と切断端の神経に口径差があると隙間ができる、分岐があると使用できない、内腔の保持力も不十分である、両端を神経管内に内挿できない場合がある等の課題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO98/22155号
【特許文献2】特開2003−019196号公報
【特許文献3】特開2004−208808号公報
【特許文献4】特開2005−143979号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Lee DY et al, Journal of Cranio-Maxillofacial Surgery (2006) 34, 50-56, "Nerve regeneration with the use of a poly-L-lactide-co-glycolic acid-coated collagen tube filled with collagen gel".
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記課題を解決するためなされたものであり、神経組織再生の促進、生体軟組織欠損部の治癒再生等を、ラミニンや神経増殖因子(NGF)を併用することなく向上させるために、コラーゲンから成る新規な構造体を提供することを目的とする。
また、分解が早いのでより長い欠損には使用できない、人工神経と切断端の神経に口径差があると隙間ができる、分岐があると使用できない、内膜の保持力も不十分である、両端を神経管内に内装できない場合がある等の課題の少なくとも一つを緩和し、好ましくは実質的に解消する組織再生用部材を提供することを目的とする。
そのような組織再生用部材に使用される支持体及びその製造方法を提供することを目的とする。
更に、コラーゲンから成る新規な構造体、それを含む組織再生用部材、組織再生用部材に使用される支持体及び上述の組織再生用部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、かかる課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の形態を有するコラーゲンが、驚くべきことに、例えば、神経組織、皮下組織、粘膜下組織、生体膜組織、脂肪組織、筋肉組織、皮膚組織、歯肉組織等の体組織の再生の促進、治癒期間の短縮、機能的回復等を、向上させるために、有用であり、そのような特定の形態を有するコラーゲンを用いることで、上述の課題を解決することができることに着目して、本発明を完成することに至ったものである。
【0013】
即ち、本発明は、一の要旨において、コラーゲンから成る新たな構造体を提供し、それは、コラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体である。
本発明の他の要旨において、上述の薄フィルム多房状構造体を含んで成る組織再生用部材を提供する。
本発明の一の態様において、生分解性支持体を更に含んで成る組織再生用部材を提供する。
本発明の好ましい態様において、管状の生分解性支持体の内側に上述の薄フィルム多房状構造体を有する組織再生用部材を提供する。
【0014】
更に、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、U字状又はC字状の断面を有する生分解性支持体(即ち、全体としては、トヨ状)を用いると、筋膜上や臓器等の被膜上の神経組織の再生では、管状構造は不要であり、埋設時の縫合操作が容易となり、手術時間を短縮することができることを見出した。
即ち、本発明の別の好ましい態様において、断面がU字状又はC字状であるトヨ状の形態を有する生分解性支持体の内側に上述の薄フィルム多房状構造体を有する組織再生用部材を提供する。
【0015】
また、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、分岐を有する生分解性支持体を用いると、末梢神経の欠損部に分岐がある場合、一つの中空管で対応可能なことを見出した。
即ち、本発明の更なる態様において、生分解性支持体は分岐を有する上述の組織再生用部材を提供する。
【0016】
更にまた、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、生分解性支持体の一の端部の口径と、その他の端部の口径との間に、口径差がある管状又はトヨ状の支持体を用いると、それを用いた組織再生用部材と神経組織との間に隙間を生じないことを見出した。
即ち、本発明の更なる別の態様において、生分解性支持体の一の端部の口径と、その他の端部の口径との間に、口径差がある上述の組織再生用部材を提供する。
【0017】
更に本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、管状の又はトヨ状の形態の生分解性支持体の分解速度が中央部から端部に向かって速くなる生分解性支持体を用いると、神経組織が再生した部分の周囲の外壁は順次分解するので、再生した神経は、周囲から栄養が入り、また、二次手術で部材を除去する必要がないことを見出した。
即ち、本発明の更なる好ましい態様において、管状の又はトヨ状の形態の生分解性支持体の分解速度が中央部から端部に向かって速くなる生分解性支持体を含んで成る上述の組織再生用部材を提供する。
【0018】
また、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、生体内で分解が速い素材に、生体内で分解が遅い素材を混合することで、生体内での分解を遅らせて、内側に空洞を有する構造を維持する生分解性支持体を用いると、生分解性支持体の分解速度が緩慢になるので、組織の欠損部が長い場合、内側に空洞を有する構造が長期間維持されることを見出した。
即ち、本発明の好ましい態様において、生体内で分解が速い素材に、生体内で分解が遅い素材を混合することで、生体内での分解を遅らせて管状の又はトヨ状の形態の内側に空洞を有する構造を維持する生分解性支持体を含んで成る上述の組織再生用部材を提供する。
【0019】
この生体内での分解を遅らせて、内側に空洞を有する構造を維持する生分解性支持体は、上述の生分解性支持体の分解速度が中央部から端部に向かって速くなる生分解性支持体と組み合わせることがより好ましい。即ち、生分解性支持体の分解速度が中央部から端部に向かって速くなり、生体内で分解が速い素材に、生体内で分解が遅い素材を混合することで、生体内での分解を遅らせて内側に空洞を有する構造を維持する生分解性支持体を含んで成る組織再生用部材がより好ましい。これにより、生体内において、組織再生用部材の端部から分解させながら、中央部では内側に空洞を有する構造を維持する生分解性支持体を含んで成る組織再生用部材を提供する。
即ち、本発明の更なる好ましい態様において、管状の又はトヨ状の形態の生分解性支持体の分解速度は、生体内において、中央部から端部に向かって速くなり、生体内で分解が速い素材に、生体内で分解が遅い素材を混合することで、生分解性支持体の生体内での分解を遅らせて管状の又はトヨ状の形態の内側に空洞を有する構造を維持する上述の組織再生用部材を提供する。
【0020】
本発明に係る組織再生用部材は、体組織に使用することができ、組織を再生することができる限り、その使用できる組織に関して特に制限されるものではない。神経組織再生用であることがより好ましい。
【0021】
本発明の別の要旨において、コラーゲン溶液を凍結乾燥することを含んで成る上述の薄フィルム多房状構造体の製造方法を提供する。
本発明の別の好ましい要旨において、上述の薄フィルム多房状構造体を支持する生分解性支持体を、コラーゲン溶液に浸した後、コラーゲン溶液を凍結乾燥することを含んで成る組織再生用部材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るコラーゲンから成る構造体は、薄フィルム多房状構造を有するので、コロイド状、ゲル状及び繊維状とも異なる新規な構造を有する。そのため、本発明に係るコラーゲンから成る新規な構造体を組織再生用部材に使用すると、驚くべきことに、神経組織、皮下組織、粘膜下組織、生体膜組織、脂肪組織、筋肉組織、皮膚組織、歯肉組織等の体組織の再生の促進、治癒期間の短縮、機能的回復等を、向上させることができる。
更に、上述の組織再生用部材が、生分解性支持体を更に含んで成る場合、更に、再生される組織を保護することができる。
本発明に係る組織再生用部材は、管状の生分解性支持体の内側に上述の薄フィルム多房状構造体を有する場合、細長い線状組織をより有利に再生することができる。
【0023】
本発明に係る組織再生用部材は、断面がU字状又はC字状であるトヨ状の形態を有する生分解性支持体の内側に上述の薄フィルム多房状構造体を有する場合、筋膜上や、臓器の筋膜上等の平坦な部分の上に存在する組織の再生をより容易に行うことができる。
本発明に係る組織再生用部材は、生分解性支持体が分岐を有する場合、分岐を有する組織を一つの組織再生用部材で再生することができる。
本発明に係る組織再生用部材は、生分解性支持体の一の端部の口径と、その他の端部の口径との間に、口径差がある場合、組織再生用部材と欠損部の組織との間に隙間を生じなくさせることができる。
【0024】
本発明に係る組織再生用部材は、管状の又はトヨ状の形態の生分解性支持体の分解速度が中央部から端部に向かって速くなる生分解性支持体を含む場合、組織の再生がより良好となり、二次手術で部材を除去する必要がない。
本発明に係る組織再生用部材は、生体内で分解が速い素材に、生体内で分解が遅い素材を混合することで、生体内での分解を遅らせて管状の又はトヨ状の形態の内側に空洞を有する構造を維持する生分解性支持体を含む場合、長期間にわたり、生体内で内側に空洞を有する構造が維持されるので、長い欠損部を有する組織再生に好ましい。
本発明に係る組織再生用部材は、神経組織、皮下組織、粘膜下組織、生体膜組織、脂肪組織、筋肉組織、皮膚組織、歯肉組織等に好ましく使用することができ、特に神経組織の再生に使用することが好ましい。
【0025】
更に、本発明に係る上述のコラーゲンの新規な構造体の製造方法によると、コラーゲン溶液を凍結乾燥することで製造することができるので、非常に簡単かつ容易にコラーゲンの新規な構造体を製造することができる。
また、本発明に係る新規な組織再生用部材の製造方法は、上述の支持体をコラーゲン溶液に浸した状態で、コラーゲン溶液を凍結乾燥することで、非常に簡単かつ容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1(a)】図1(a)は、本発明に係るコラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体の、低倍率(約80倍)の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図1(b)】図1(b)は、本発明に係るコラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体の、中倍率(約250倍)の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図1(c)】図1(c)は、本発明に係るコラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体の、高倍率(約5000倍)の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図1(d)】図1(d)は、本発明に係るコラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体の、中倍率(約400倍)の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図1(e)】図1(e)は、本発明に係るコラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体の、中倍率(約300倍)の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図2(a)】図2(a)は、本発明に係るコラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体を含んで成る管状の組織再生用部材の一例の、横断面(約20倍)の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図2(b)】図2(b)は、本発明に係るコラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体を含んで成る管状の組織再生用部材の一例の、縦方向の断面(約100倍)の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図3】図3は、U字状の断面を有するトヨ状の形態の組織再生用部材の一例を示す。
【図4】図4は、横断面がU字形状の組織再生用部材を用いて、ラットの座骨神経の1cmの欠損部を連結した一例を示す。
【図5】図5は、Y字型の分岐を有する管状の組織再生用部材の一例を示す。
【図6】図6は、一の端部の口径とその他の端部の口径との間に差がある組織再生用部材の一例として、先細りのチューブ状の組織再生用部材を示す。
【図7】図7は、両端が速く、中央が遅く分解する管状の組織再生用部材と、それを用いた組織再生の様子を示す模式図を示す。
【図8】図8は、PGA−PLA組織再生用部材(PLAを50%含む)の歪みに対する強度(平均)を示す。
【図9】図9は、PGA組織再生用部材の歪みに対する強度(平均)を示す。
【図10】図10は、図8及び図9に記載の歪みと強度を説明する模式図である。
【図11(a)】図11(a)は、スポンジ状コラーゲンの一例の、低倍率(約80倍)の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図11(b)】図11(b)は、スポンジ状コラーゲンの一例の、中倍率(約150倍)の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図11(c)】図11(c)は、スポンジ状コラーゲンの一例の、高倍率(約3000倍)の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図12(a)】図12(a)は、スポンジ状コラーゲンの一例の、中倍率(約400倍)の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図12(b)】図12(b)は、スポンジ状コラーゲンの一例の、高倍率(約1000倍)の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図13(a)】図13(a)は、微細繊維化コラーゲンの一例の、中倍率(約125倍)の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図13(b)】図13(b)は、微細繊維化コラーゲンの一例の、中倍率(約400倍)の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図14(a)】図14(a)は、微細繊維化コラーゲンの一例の、低倍率(約30倍)の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図14(b)】図14(b)は、微細繊維化コラーゲンの一例の、中倍率(約300倍)の走査電子顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付した図面を参照しながら、より具体的にかつ詳細に本発明を説明するが、これらの説明は、単に本発明を説明するためのものであり、本発明を何ら制限することを意図するものではないことが、理解されるべきである。
【0028】
本発明は、コラーゲンから成る構造体を提供し、それは、薄フィルム多房状構造体である。
本発明において、「コラーゲン」とは、一般的に「コラーゲン」と呼ばれるものであって、本発明が目的とする「薄フィルム多房状構造体」を得ることができるものであれば、特に、制限されるものではない。そのような「コラーゲン」として、例えば、ウシ、ブタ、ヒト由来のコラーゲンを例示することができるが、特に抗原性の少ないアテロコラーゲンが好ましい。
【0029】
本発明において、「薄フィルム多房状構造体」とは、薄いフィルム状のコラーゲンから実質的に構成され、薄いフィルムの間に多くの房(又は室)を含む構造を有するものをいう。図1(a)〜(e)は、本発明に係るコラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体の走査電子顕微鏡写真を示す。図1(a)〜(c)については、走査電子顕微鏡の加速電圧は20kVである。図1(a)は低倍率(約80倍)、図1(b)は中倍率(約250倍)、図1(c)は高倍率(約5000倍)の像を示す。また、図1(d)と(e)については、走査電子顕微鏡の加速電圧は18kVである。図1(d)は、中倍率(約400倍)の像を示し、図1(e)は、中倍率(約300倍)の像を示す。コラーゲンから成る「薄フィルム多房状構造体」は、「洋菓子のパイ」のように、表面が平滑な薄い多くのフィルムで構成されており、繊維状のコラーゲンを含まないことが理解される。
【0030】
この「薄フィルム」のフィルム厚は、0.01〜200μmであることが好ましく、0.1〜50μmであることがより好ましく、0.5〜5μmであることが特に好ましい。更に、この「薄フィルム多房状構造体」は、フィルムの間隔は、例えば約50μm〜約3mmであるが、300μm〜2000μmであることが好ましい。薄フィルムで構成される房状の空間は、連続していても、閉鎖されていてもよい。
【0031】
従来から、「コラーゲンから成る構造体」として、スポンジ状の構造体、ゲル状の構造体及び繊維状の構造体が知られていたが、上述の「薄フィルム多房状構造体」は、全く知られておらず、本発明者らによって、初めて見いだされたものである。
【0032】
従来から既知のコラーゲンのスポンジ状構造体及び細繊維状構造体の一例を、図11〜図14に示す。図11(a)〜(c)の走査電子顕微鏡の加速電圧は20kVであり、図12(a)の加速電圧は8kV、図12(b)の加速電圧は9kV、図14(b)の加速電圧は18kVであり、図13(a)〜(b)及び図14(a)の加速電圧は25kVである。
図11(a)〜(c)は、人工真皮(ペルナック(商品名)、製造元:(株)グンゼ、販売元:ジョンソン・エンド・ジョンソン)として現在臨床で使用されているスポンジ状コラーゲンの走査電子顕微鏡写真である。図11(a)は、低倍率(約80倍)の像であり、図11(b)は、中倍率(約150倍)の像であり、図11(c)は、高倍率(約3000倍)の像である。
更に、図12(a)〜(b)は、スポンジ状コラーゲンの走査顕微鏡写真である。図12(a)は、中倍率(約400倍)、図12(b)は高倍率(約1000倍)の像である。尚、このスポンジ状コラーゲンは、下記のようにして得た。アテロコラーゲン(ブタ真皮に由来する株式会社日本ハム社製のNMPコラーゲンPSN(商品名))を1重量%になるように水(pH=約7.0)に混合して毎分12000回転で約30分間攪拌した後、これを枠内に注入し、−196℃で凍結した。凍結乾燥機で、−80℃で24〜48時間乾燥して、水分を蒸発させた後、加熱による架橋処理を、真空下で、140℃で24時間行い、スポンジ状コラーゲンを得た。
細かいコラーゲン繊維のために、スポンジ状の中空構造体に成っていることが理解できる。従って、スポンジ状コラーゲンを構成する基本単位は、繊維である。
【0033】
図13(a)〜(b)は、局所止血剤(アビテン(商品名)、製造元:Alcon(Puerto Rico) Inc, Humacal, Puerto Rico、輸入発売元:(株)ゼリア新薬工業)として市販の繊維化コラーゲンの走査電子顕微鏡写真である。図13(a)は、中倍率(約125倍)の像であり、図13(b)は、中倍率(約400倍)の像である。
図14(a)〜(b)は、吸収性局所止血材(インテグラン(商品名)、製造元:(株)高研、販売元:日本臓器製薬)として市販の繊維化コラーゲンの走査電子顕微鏡写真である。図14(a)は、低倍率(約30倍)の像であり、図14(b)は、中倍率(約300倍)の像である。
いずれも微細なコラーゲン繊維が不織布のような構造を形成している。コラーゲン繊維束とそれがほつれた繊維から形成されていることが理解できる。微細繊維化コラーゲンを構成する基本単位は、繊維である。
これらの図1(a)〜(e)と図11〜14を比較すると、本発明に係るコラーゲンから成る「薄フィルム多房状構造体」は、明らかに、ゲル状コラーゲン及び繊維状コラーゲンと区別して、理解することができるものである。
【0034】
本発明に係るコラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体は、組織を再生するために用いることができる。ここで、組織とは、例えば、人、ラット、犬、猫、猿、馬、牛、羊等の動物の体の組織をいい、特に人の体の組織に好適に用いることができる。それらの動物の組織として、例えば、神経組織、皮下組織、粘膜下組織、生体膜組織、脂肪組織、筋肉組織、皮膚組織、歯肉組織等を例示することができるが、特に、神経組織に好適に用いることができる。従って、本発明は、コラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体を含んで成る組織再生用部材を提供する。尚、ここで、体組織として、下記のものを例示することができる:
神経組織(例えば、中枢神経、末梢神経;坐骨神経、正中神経、顔面神経、脳神経、腕神経叢、尺骨神経、撓骨神経、大腿神経、脛骨神経、腓骨神経、腓腹神経);
皮下組織;
粘膜下組織、口腔粘膜下組織、消化管粘膜下組織、生殖器粘膜下組織;
生体膜組織(例えば、脳硬膜、腹膜、胸膜、筋膜、臓器の被膜);
脂肪組織(例えば、いわゆる脂肪);
筋肉組織(例えば、いわゆる筋肉);
皮膚組織(例えば、いわゆる皮膚);
歯肉組織(例えば、歯周組織、歯槽骨、歯槽組織);
実質臓器(例えば、肝臓、腎臓、肺臓、膵臓、甲状腺);
その他、(例えば、血管、腱、靭帯、軟骨、骨)等。
【0035】
更に、本発明は、生分解性支持体を更に含んで成る組織再生用部材を提供する。ここで、「生分解性支持体」とは、生体内で分解する性質を有し、組織再生用部材の骨格構造を形成し得るものをいい、コラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体を付着し保持し得るものであって、本発明が目的とする組織再生用部材を得ることができるものであれば、特に制限されるものではない。そのような生分解性支持体を製造するための材料として、例えば、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ラクタイドとグルコライドの共重合体(例えば、ポリグラクチン910)、ポリ−ε−カプロラクトン、乳酸とε−カプロラクトンの共重合体等を例示することができる。
【0036】
図2(a)〜(b)に、本発明に係るコラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体を含んで成る組織再生用部材の一例の、横断面(約20倍)及び縦方向の断面(約100倍)の走査電子顕微鏡写真を示す。走査電子顕微鏡の加速電圧は20kVである。これは、管状の生分解性支持体の内側に、上述のコラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体を有する組織再生用部材の一例でもある。管状の生分解性支持体を用いることで、管状の形態を有する組織再生用部材を得ることができる。図2(a)〜(b)の場合、PGAから成る管状の生分解性支持体の内側に、コラーゲンから成る薄いフィルムによって多くの房(又は室)を有する構造が形成されていることが理解される。このように、管状の生分解性支持体の内部にコラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体を含むことがより好ましく、この場合、例えば神経組織、皮下組織、粘膜下組織、生体膜組織、脂肪組織、筋肉組織、皮膚組織、歯肉組織等の再生に好ましく使用できる。
【0037】
従来から神経連結管は、管状の形態のものが使用されてきた。本発明者らは、使用する組織に応じて、種々の形態の組織再生用部材を用いることができ、そのような種々の形態の組織再生用部材は、各々特徴的な長所を有することを見出した。そのような形態として、例えば、U字状又はC字状の断面を有する形態(即ち、全体としてはトヨ状の形態)、平面状である形態、分岐を有する形態、一の端部の口径と、その他の端部の口径との間に、口径差がある形態(先細りのある形態)等を例示することができる。
【0038】
U字状又はC字状の断面を有する生分解性支持体を用いると、U字状又はC字状の断面を有する(即ち、全体としてトヨ状の)組織再生用部材を得ることができる。図3は、そのようなU字状又はC字状の断面を有する組織再生用部材の一例を示す。図4は、ラットの坐骨神経の1cmの欠損部を、そのようなU字状又はC字状の断面を有する組織再生用部材を用いて連結した一例を示す。図3及び図4の部材は、いずれも断面の全てが全体としてトヨ状の形態を有する。このような形態の組織再生用部材を使用すると、例えば再生すべき組織が筋膜上や臓器の皮膜上に存する場合、縫合操作をより簡単に行うことができる。現在の術式では神経チューブは顕微鏡手術で埋設されているが、本支持体を用いることで、顕微鏡手術が不可能な体の深部においても、内視鏡下で容易に安全に埋設することが可能となり、更に手術の時間を短縮することができるので、好ましい。そのようなU字状又はC字状の断面を有する生分解性支持体の内側に、本発明に係るコラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体を含むことが好ましいが、ゲル状、繊維状等の他の種々の形態のコラーゲンを含んでもよい。
【0039】
更に、従来から神経連結管には、管状で二つの端部を有する形態のものが知られているが、本発明者らは、使用する組織に対応して分岐を有し、三以上の端部を有することで優れた効果を奏することを見出した。分岐を有する管状又はトヨ状の生分解性支持体を用いると、分岐を有する管状又はトヨ状の組織再生用部材を得ることができる。図5は、Y字型の分岐を有し、管状の組織再生用部材の一例を示す。分岐の数、分岐の形態(例えば、Y字型、T字型等)、断面の形状(円形、楕円形、U字状、C字状等)(全体として、管状、トヨ状等)は、適用する組織に対応して適宜修正してよい。このような分岐を有する組織再生用部材は、例えば、末梢で固有指神経に分岐している手掌部の正中神経や腓骨神経と脛骨神経に分岐する部分の坐骨神経の分岐部の再建等に使用することができる。特に、末梢に行くとともに分岐する末梢神経の再生を一つの再生用部材で再生することができるので有用である。分岐を有する生分解性支持体の内部に、本発明に係るコラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体を含むことが好ましいが、ゲル状、繊維状等の他の種々の形態のコラーゲンを含んでもよい。
【0040】
また、従来から神経連結管には、管状で管の直径は一定の形態のものが知られているが、本発明者らは、使用する組織に対応して、一の端部の口径と、その他の端部の口径との間に、口径差があることで優れた効果を奏することを見出した。一の端部の口径と、その他の端部の口径との間に、口径差がある生分解性支持体を用いるとそのような組織再生用部材を得ることができる。図6は、先細りの管状の組織再生用部材を示す。U字状又はC字状の断面、即ち全体としてトヨ状の形態を有してもよい。二つの端部の口径の大きさ及び両者の端部の口径の差は、適用する組織に対応して端部の口径を適宜調節して、その間の口径を連続的に変化させてよい。このような口径差を有する組織再生用部材は、例えば、顔面神経をはじめとする脳神経、腕神経叢、尺骨神経、撓骨神経、正中神経、大腿神経、坐骨神経、及びこれらの枝、更に中枢神経の脊髄から末梢神経がでる部位等に使用することができるが、特に、中枢部と末梢部との間に口径差がある末梢神経の再建に有用である。一の端部の口径と、その他の端部の口径との間に、口径差がある生分解性支持体の内部に本発明に係るコラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体を含むことが好ましいが、ゲル状、繊維状等の他の種々の形態のコラーゲンを含んでもよい。
【0041】
更にまた、従来から、神経連結管には平面状のものは知られていなかったが、本発明者らは、組織再生用部材は、平面状であってよいことを見出した。平面状の生分解性支持体を用いることで、そのような組織再生用部材を得ることができる。そのような平面状の組織再生用部材は、例えば、腓骨神経、皮膚欠損部、粘膜欠損部、歯肉組織、軟組織欠損部、実質臓器欠損部に使用することができる。生分解性支持体の片方の主表面に、本発明に係るコラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体を含むことが好ましいが、ゲル状、繊維状等の他の種々の形態のコラーゲンを含んでもよい。
【0042】
また、生体内において、組織再生用部材の端部から分解する組織再生用部材は、組織が再生した部分の周囲の外壁が順次分解するので、再生した組織に栄養が周囲から入り、好ましい。更に、二次手術で組織再生用部材を除去する必要がなく好ましい。
図7に、両端が速く、中央が遅く分解する管状の組織再生用部材と、それを用いた組織再生の様子を表した模式図を示す。組織として神経組織を例示しており、それに欠損が存在する。その欠損の間を、管状の組織再生用部材でつなぐ。両側から神経組織が中央に向かって再生するとともに、両端から組織再生用部材が分解されて、吸収される。
具体的には、管状の生分解性支持体の両端から中央にかけて、例えば、i)加熱することにより、ii)紫外線又は放射線を照射することにより高分子の分解速度の速度に傾斜を付ける、又はiii)後述するコラーゲンによる架橋の程度に傾斜を付ける等によって、組織再生用部材の分解速度を制御することができる。
そのような管状の生分解性支持体の内腔に本発明に係るコラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体を含むことが好ましいが、ゲル状、繊維状等の他の種々の形態のコラーゲンを含んでもよい。
【0043】
更に、本発明者らは、組織の長い欠損を再生させるためには、生体内で分解が速い素材に、生体内で分解が遅い素材を混合することで、生体内での分解を遅らせて管状の又はトヨ状の形態の構造を維持する生分解性支持体を用いることで、組織再生用部材全体の分解速度を制御することが重要であることを見出した。
ここで、「生体内で分解が速い素材」とは、生体内に埋入すると、一般的に3月以内に分解吸収される素材をいい、例えば、従来、支持体としてよく使用されるポリグリコール酸(PGA)(その抗張力は2週間から3週間で半減する)、ポリグラクチン910(バイクリル)、ポリディオキサン(PDS)、PGA+トリメチレンカーボネート(TMC)等を例示できる。
また、「生体内で分解が遅い素材」とは、生体内に埋入すると、一般的に3月以上で分解吸収される、好ましくは6月〜36月で分解吸収される、より好ましくは6月〜24月で分解吸収される素材をいい、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチルサクシネート(PBS)等を例示できる。
長い欠損を再生させる場合、例えばPGAと比較して生体内で分解の遅いポリ乳酸(PLA)繊維を、PGAに混合して、生分解性支持体を製造すると好ましい。尚、PLAを単独で支持体として使用した例はあるが、好ましいものとは考えられておらず、PGAとPLAを混合して支持体として使用した例は知られていない。PLAを混合すると、支持体の分解速度が緩慢になり、長期間生体内で内側に空洞を有する構造(例えば、管状の場合、管腔構造)を維持できる生分解性支持体を得ることができる。
【0044】
図8は、PGAとPLAから成る管(PLAを50%含む)の歪みに対する強度(平均)を示す。図9は、通常のPGAから成る管の歪みに対する強度(平均)を示す。図10は、図8及び図9に記載の歪みと強度を説明する模式図である。通常のPGA管では、生体に埋入後、直ちに力学的強度が低下を生じるが、PLAとPGAを複合化することによって、強度が向上することが理解される。図8と図9は、シェーマ(d−d/d)を横軸に、加える力(単位の長さのf)を縦軸にプロットしたものであるが、PLAを50%混合した図8は、同じ歪みを加えたときの図9と比較して、より高い強度を有することが理解できる。即ち、PLA繊維を50%混合することによって、管の力学的強度が向上し、生体埋設後の強度低下も緩慢であることが見出された。従って、PGAとPLAを組み合わせた支持体を用いることが好ましい。PGAとPLAの混合比(PGA/PLA)(繊維束数比)は、10〜90/90〜10であることが好ましく、50/50であることが特に好ましい。
このような組み合わせとして、他に、例えば、PGAとPBS等を例示することができる。このような生分解性支持体の内側に、本発明に係るコラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体を含むことが好ましいが、ゲル状、繊維状等の他の種々の形態のコラーゲンを含んでもよい。
【0045】
組織の長い欠損を再生させるためには、生体内において、生分解性支持体の分解速度が中央部から端部に向かって速くなり、かつ、生体内で分解が速い素材に、生体内で分解が遅い素材を混合することで、生体内での分解を遅らせて内側に空洞を有する構造を維持する管状の又はトヨ状の形態の生分解性支持体を用いることがより好ましい。このような生分解性支持体は、PGAにPLAを複合化して例えば管を作製した後、分解速度に傾斜をつけるための上述した方法i)〜iii)等を用いることで製造することができる。
このような、生分解性支持体の内側に本発明に係るコラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体を含むことがより好ましい。ゲル状、繊維状の種々の形態のコラーゲンを含んでもよい。
【0046】
本発明に係るコラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体は、目的とする構造体を得ることができる限り、特に製造方法に制限されることなく製造することができるが、例えばコラーゲン溶液を凍結乾燥することで製造することができる。より具体的には、例えば、アテロコラーゲンの水溶液をディープフリーザーで凍結後、凍結乾燥機で乾燥させ、真空下で熱架橋処理することで得ることができる。アテロコラーゲンの希塩酸溶液の濃度は、0.5〜3.5重量%が好ましく、1.0〜3.0重量%がより好ましく、1.0〜2.0重量%が特に好ましい。希塩酸の濃度は、0.0001〜0.01Nであることが好ましく、0.001Nであることが特に好ましい。希塩酸のpHは、2〜4であることが好ましく、3であることが特に好ましい。凍結温度は、−70〜−100℃が好ましく、−80〜−90℃が特に好ましい。凍結乾燥は、−80℃〜−90℃の温度で、5.0Pa以下に減圧して、24時間行うことが好ましい。熱架橋処理は、1Torr以下に減圧して、100〜150℃で6〜48時間行うことが好ましく、120〜145℃で12〜48時間行うことがより好ましく、140℃で48時間行うことが特に好ましい。このような組織再生用部材は、特に神経組織について、好ましく使用することができる。
【0047】
本発明に係るコラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体を支持する生分解性支持体を含んで成る組織再生用部材は、目的とする構造体を得ることができる限り、特に製造方法に制限されることなく製造することができるが、例えば、下記の方法で製造することができる。生分解性支持体に、コラーゲン溶液を付けた後、コラーゲン溶液を凍結乾燥することで製造することができる。より具体的には、例えば、支持体が管状である場合、適当な大きさの管を、70%エタノールに24時間浸漬後、エタノールを完全に乾燥し、生分解性支持体表面に1.0〜3.0重量%コラーゲン希塩酸溶液(0.001N)(pH3.0)を塗布して風乾する。この塗布及び風乾操作を20回繰り返して支持体表面にコラーゲン皮膜を形成する。これを冷蔵庫の中で予め−85℃に冷却した後、その内部に1.0〜3.0重量%の+4℃のコラーゲン塩酸溶液(pH3.0)を細シリンジで空隙が生じないように充填し、直ちにディープフリーザーに入れて、−85℃に冷却し凍結する。これを凍結乾燥機に入れて−80℃で一昼夜(24時間)乾燥して、水分を飛ばす。この後、真空下(1Torr以下)で、120℃〜140℃で24〜48時間熱脱水架橋処理を行うことで、組織再生用部材を得ることができる。
【0048】
管状の生分解性支持体については、従来既知の方法、例えば、管状の芯材の周囲に管壁を形成することで製造することができる。
管状で分岐を有する生分解性支持体は、例えば、分岐構造を有する芯材(各枝の外径は、それぞれ5mm)の周囲に管壁を形成することにより製造することができる。以下に、更に詳細に説明する。
分岐を有する芯材を用いて組紐機を使用して管を作る。使用する生体内分解繊維としてPGA繊維を使用することができる。PGA繊維として、例えば、単糸繊度2.55dtex/Fのフィラメントの28本を1束にしてPGAマルチフィラメントを得て、そのPGAマルチフィラメントの5本を1束にして得られるPGA繊維束を使用することができる。例えば、48ボビンの組紐機を用いて、一の端から管の形成を始める。芯材の分岐部に組紐機が到達したときは後で管を形成する分岐した芯材の枝を、繊維の間を通して外に逃がすことによって、組紐機は分岐部を通過して、一の分岐した芯材の枝に管を形成することができる。二の端まで管を組み終えた後、繰り返し一の端から重ねて管を形成する。組紐機が再び分岐部に到達したとき、先に管を周囲に形成した分岐枝を繊維の間から外に抜き、先ほど周囲に管を形成しなかった方の分岐枝を芯として管を形成する。三の端まで管を形成することで、一体化した分岐構造をもつ管状支持体が得られる。この分岐構造の芯材は分岐枝を管壁の繊維の目からくぐらせねばならないので、柔軟な素材のものを用いる必要がある。
これとは別の製造方法として、以下の製造方法を例示できる。一の端から分岐部まで管を組紐機で形成した後、組紐機の半数のPGA繊維を使って分岐枝の一方の芯材に二の端まで管壁を作製する。その後、組紐機に残った半分のPGA繊維を用いて分岐部のもう一方の芯材に三の端まで管壁を作製する。
【0049】
また、平面状の生分解性支持体は、例えば、生分解性支持体の素材を平織りすることにより、又は口径の大きな管状の材料を作成し、それを縦方向に切開した後に展開することにより、製造することができる。
U字状又はC字状の断面を有するトヨ状の形態の生分解性支持体は、例えば、管状の支持体の管壁を縦方向に切開することにより、又は管状の支持体の管壁の一部を切除することによって製造することができる。
【0050】
一の端部の口径と、その他の端部の口径との間に、口径差がある生分解性支持体は、例えば、あらかじめ両端の口径に口径差のある芯材(先細りの芯材)を製造し、それを芯として用いて、例えば組紐機で管を形成することにより、製造することができる。
分解速度が、生体内において、中央部から端部に向かって速くなる管状の又はトヨ状の形態の生分解性支持体は、既に記載した方法で製造することができる。
また、生体内で分解が速い素材に、生体内で分解が遅い素材を混合することで、生体内での分解を遅らせて内部に空洞を有する生分解性支持体は、既に記載したそのような素材を用いて管壁を形成することで製造することができる。
上述の複数の形態の生分解性支持体を組み合わせた生分解性支持体は、上述の製造方法を適宜組み合わせることで、製造することができる。
【0051】
これらの種々の生分解性支持体に、コラーゲン溶液を注入して凍結乾燥することでコラーゲンの「薄フィルム多房状構造体」を内腔に作成し、上述したコラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体を含む組織再生用部材を製造することができる。
尚、これらの種々の生分解性支持体に、従来既知の方法を用いてスポンジ状コラーゲン又は繊維状コラーゲンを含ませることで、ゲル状、繊維状等の種々の形態のコラーゲンを含む組織再生用部材を製造してもよい。
尚、以上説明した本発明の要旨及び態様は、可能である限り、適宜組み合わせることができる。
【実施例】
【0052】
実施例1
コラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体の製造
アテロコラーゲン(ブタ真皮に由来する株式会社日本ハム社製のNMPコラーゲンPSN(商品名))の1〜3重量%の希塩酸(0.001N)溶液(pH=約3.0)を作製し、これを枠内に注入した後、−80℃〜−86℃のディープフリーザー内で凍結した。凍結乾燥機で、−80℃で24〜48時間乾燥して、水分を蒸発させることにより薄フィルム多房状構造体とした。加熱による架橋処理を、真空下で、140℃で24時間行った。加速電圧20kVの走査電子顕微鏡で観察したところ、薄フィルム多房状構造体を認めた。それを、図1(a)〜図1(c)に示した。
また、同様の方法により、更なる薄フィルム多房状構造体を得た。それを、加速電圧18kVの走査電子顕微鏡で観察したところ、図1(d)〜図1(e)に示した薄フィルム多房状構造体を認めた。
【0053】
実施例2
コラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体を、管状の生分解性支持体内部に含む組織再生用部材の製造
既知の方法によって製造したPGAチューブを適当な長さに切断した。切断したチューブを70%エタノールに一昼夜24時間浸した。PGAチューブを70%エタノールから取り出した後、完全に乾燥した。PGAチューブの外側を、コラーゲン(生後6ヶ月のブタの真皮に由来する日本ハム社製のNMPコラーゲンPSN(商品名))の1〜3重量%の希塩酸(0.001N)溶液(pH=約3.0)を用いて、約20回コーティングした後、乾燥した。PGAチューブから芯を抜いて管状の支持体を得た。シリンジで、コラーゲン(ブタの真皮に由来する日本ハム社製のNMPコラーゲンPSN(商品名))の1〜3重量%の希塩酸(0.001N)溶液(pH=約3.0)を、管状の支持体に詰めた。−80℃〜−86℃のディープフリーザー内で凍結した。凍結乾燥機で、−80℃で24〜48時間乾燥した。加熱による架橋処理を、1Torr以下の真空下で、140℃で24時間行い組織再生用部材を得た。加速電圧20kVの走査電子顕微鏡で観察したところ、管状の支持体の内側に薄フィルム多房状構造体を認めた。それを、図2(a)〜図2(b)に示した。
この組織再生用部材を、犬の腓骨神経の再生に用いたところ、病理組織学的のみならず、電気生理学的にも良好な神経機能の回復が見られた。
【0054】
実施例3
組紐作製機を用いてPGA管、即ち管状の生分解性支持体を作製して、この内部にコラーゲンから成る新規構造体として薄フィルム多房状構造体を実施例2と同様にして形成した組織再生用部材(「チューブA1」という)を作成した(直径2mm、長さ10mm)。一方、実験対照として医療用具として市販されている微線維性コラーゲンを充填したPGA管(「チューブB1」という)((株)高研社製の商品名インテグラン)を使用した(直径2mm、長さ10mm)。
Wistarラット(n=2)の右側坐骨神経の5mmの神経欠損部を、このチューブA1を用いて再建した。コントロールとして左側の坐骨神経の5mmの欠損部を、チューブB1を用いて再建した。
一ヶ月目にWistarラットを屠殺して神経再建部の遠位端における軸索の直径とミエリン鞘の厚み 有髄神経軸索数とを計測するとチューブA1では1.4±0.3μm/0.4±0.08μm/60±25count per 100×100μm、チューブB1では1.0±0.4μm/0.2±0.10μm/92±31count per 100×100μmであり、有意にチューブA1の方が良好な再生が見られた。
【0055】
実施例4
組紐作製機を用いてPGA管、即ち管状の生分解性支持体を作製して、この内部にコラーゲンから成る新規構造体として薄フィルム多房状構造体を実施例2と同様にして形成した組織再生用部材(「チューブA2」という)を作成した(直径2mm、長さ10mm)。一方、実験対照として直径400μmのコラーゲン繊維を長軸方向に束ねて充填したPGA管(「チューブC1」)を作成した(直径 2mm、長さ10mm)。
Wistarラット(n=2)の右側坐骨神経の5mmの神経欠損部を、このチューブA2を用いて再建した。コントロールとして左側の坐骨神経の5mmの神経欠損部を、チューブC1を用いて再建した。
一ヶ月目にWistarラットを屠殺して神経再建部の遠位端における軸索の直径とミエリン鞘の厚み 有髄神経軸索数を計測するとチューブA2では1.3±0.5μm/0.3±0.07μm/61±22count per 100×100μmであるが、チューブC1では0.9±0.3μm/0.2±0.05μm/103±30 count per 100×100μmであり、有意にチューブA2の方が良好な再生が見られた。
【0056】
実施例5
コラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体を、U字状の断面を有するトヨ状の形態の生分解性支持体内部に含む組織再生用部材の製造
PGA繊維(2.59dtex/FのPGAフィラメント28本を1束にしたポリグリコール酸マルチフィラメント2束を一本にしてPGA繊維としたもの)を用いて、48ボビン(糸巻)の組紐作製機を使用して外径2mmのテフロン(登録商標)チューブを芯材として、内径2mmのPGAの管(長さ=10m)を得た。これを芯材ごと5cmの長さに切断後、1.0重量%コラーゲン希塩酸溶液(0.001N、pH約3.0)を塗布して風乾する処理を20回繰り返して、管状支持体を得た。その後芯材を抜去して、管状支持体の内部にコラーゲン溶液を充填し、それを凍結乾燥、熱架橋することにより薄フィルム多房状構造のコラーゲンを内部に含む管状の組織再生用部材を製造した。実体顕微鏡下で鋭利な顕微鏡手術用の剪刀を用いて、その組織再生用部材の外壁の1/3を切除してU字状の組織再生用部材を製造した。これを図3〜4に示した。図4は、全体としてトヨ状の生分解性支持体を含んで成る組織再生用部材を、体重300gのラットの大腿部坐骨神経1cm欠損部に埋設したものであるが、埋設に要した手術時間は、約10分であった。これに対し、同様の寸法の管状の生分解性支持体を含んで成る組織再生用部材を用いて吻合すると、通常、約20分要するので、手術時間を約50%削減することができた。
ここでは、管状の組織再生用部材の外壁を切除することで、トヨ状の形態の組織再生用部材を製造したが、トヨ状の形態の生分解性支持体内部に、コラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体を形成することで、トヨ状の形態の組織再生用部材を製造してもよい。
【0057】
実施例6
Y字型に分岐した管状の生分解性支持体及びそれを含む組織再生用部材の製造
まず熱可塑性でしかも室温で柔軟なポリオレフィン系合成高分子を用いて、Y字型の芯材を成形した。Y字の各枝の外形は5mm、長さ10cmである。これを芯材にして組紐機でPGA繊維(2.59dtex/FのPGAフィラメント28本を1束にしたPGAマルチフィラメント5束を1本にしてPGA繊維として糸巻きにかけた)を48本打ちでY字型の管を作った。この工程を更に詳細に説明する。Y字の下にあたる一の端から上述の芯材に管を形成した。Y字の分岐部に到達したところで管外に一本の芯枝を出した後、残った枝を芯材として引き続き管を二の端まで作製した。これで中央に裸の芯材が枝として突出した形状のPGA管が作製された。再びY字の下の一の端から先ほどと同様に、先に作製した管自身を芯としてPGA管を作製した。分岐部まで作製後、先にPGAを周囲に形成した一の端を有する分岐枝(芯材)を外に出した。先に管を形成しなかった分岐枝を芯材として三の端まで管を形成することによって継ぎ目のない一体化したY字管を製造した。
得られたY字型の生分解性支持体について、コラーゲン溶液を付けて凍結乾燥することでコラーゲンの「薄フィルム多房状構造体」を含ませることで、コラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体を含む、Y字型に分岐した管状の組織再生用部材を製造することができる。
【0058】
実施例7
Y字型に分岐した管状の組織再生部材への神経細胞の導入実験
組紐作製機を用いてY字型PGA管、即ちY字型生分解性支持体を製造し、内部にコラーゲンから成る新規構造体として薄フィルム多房状構造体を実施例2と同様にして形成したY字型組織再生用部材を作成した。それぞれの枝の直径は4mmであり枝の長さは3cmであった。尚、枝と枝が形成する三つの角の角度は全て60度であった。
このY字型組織再生用部材を直径10cmの培養シャーレにいれて、神経細胞培養液(MB-X9501D:大日本住友製薬)に浸し、Y字管の三カ所の管口から神経細胞CR(MB-X032D:大日本住友製薬)2胎児分を三等分して注入した。これを二週間培養器にいれて培養した後、このY字型組織再生用部材の内部を観察した。するとこのY字型組織再生用部材の内部に充填したコラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体の部分の全体に、神経細胞が行き渡り増殖進展していることが確認された。これはこの分岐構造をもつ組織再生用部材が神経誘導管として神経由来細胞に高い親和性を有することを示すからであると考えられる。
【0059】
実施例8
一の端部の口径とその他の端部の口径との間に差がある管状の生分解性支持体及びそれを含む組織再生用部材の製造
まず、室温で柔軟性を有する熱可塑性ポリオレフィン系合成高分子材を加熱加工することにより、長さが10cm、一端の外径が3mm、他端の外径が1mmで、外径が一端から他端に向かって直線的に減少するような先細りの形状をもった芯材を30個作製した。次に、これらの各々の細い端同士及び太い端同士が向きあうように30個つなげた長い芯材を作製した。この長い芯材を用いて組紐作製機でPGA繊維の管を作り、それを切断することにより30個の両端に口径差のある生分解性支持材を作製した。尚、PGA繊維の管を作る際に、口径の太い部分は管を組む速度を遅く、芯が細くなるにつれて管を組む速度が速くなるようにすることによって、管の力学強度が太い方で弱くならないように、即ち全体の強度が均等であるように、工夫した。
得られた口径差のある管状の生分解性支持体について、コラーゲン溶液を付けて凍結乾燥を行いコラーゲンの「薄フィルム多房状構造体」を含ませることで、コラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体を含む、口径差のある管状の組織再生用部材を製造することができる。
【0060】
実施例9
生体内において、分解速度が中央部から端部に向かって速くなる管状の生分解性支持体とその生体内分解性
組み紐作成機を用いて、分解の遅いポリ乳酸(PLA)線維を使用して、直径5mmで長さ4cmの管を作成した。次に、管の右半分を保冷剤で覆った状態で、1200W105度のドライヤーを用いて、管の左端に熱風を30分間当てた。更に管の左半分を保冷剤で覆った後、管の右端に同様に熱風を当てた。これによって管の両端に近づくほど高温にさらされた管を作成した。これをラットの背部皮下に埋入したところ、挿入後3週間目から管の末端から生体内で分解が開始することが確かめられた。この加熱処理により両端は約一ヶ月で、中央部は2ヶ月〜3ヶ月で分解吸収した。すなわち生体内分解速度が両端に近づくほど速くなる管、即ち、生分解性支持体を作成できることが確かめられた。
【0061】
実施例10
生体内で分解が速い素材に、生体内で分解が遅い素材を混合することで、生体内での分解を遅らせて管状の構造を維持する生分解性支持体及びそれを含む組織再生用部材の製造
ポリグリコール酸(PGA)に、分解の遅いポリ乳酸(PLA)繊維を混合した管(PGA/PLA=50/50(繊維束数比))を、組紐作製機を用いて作製して、PGA−PLA管を製造した。この管の外側から、コラーゲンの1重量%水溶液を塗布し乾燥した。この操作を20回繰り返して標記生分解性支持体を得た。その後、この管状のPGA−PLA生分解性支持体の内側に、コラーゲンの1%重量水溶液を充填し、直ちに凍結乾燥して、内部に薄フィルム多房状コラーゲンを形成した。その後、熱架橋処理を140℃で24時間行うことで、内部に薄フィルム多房状コラーゲンを1重量%含む直径5mm、長さが40mmの管状の組織再生用部材(以下これを「PGA−PLA組織再生用部材」ともいう)を製造した。
ビーグル犬(n=12)の右側腓骨神経の40mmの神経欠損部を、このPGA−PLA組織再生用部材を用いて再建した。コントロールとして、PGA−PLA組織再生用部材の代わりにPLAを全く混合しなかった以外は同様にして製造した管状の組織再生用部材(以下これを「PGA組織再生用部材」ともいう)を用いて、ビーグル犬(n=12)の左側腓骨神経の40mmの神経欠損部を、再建した。
PGA組織再生用部材では、再建後2週間で管腔構造を維持できなくなり、一ヶ月でほぼ分解吸収されるのに対し、PGA−PLA組織再生用部材では2ヶ月を経過しても管腔構造に変化がほぼ無く、再建後6ヶ月後の組織評価でも管腔構造が維持されていた。
【0062】
PGA−PLA組織再生用部材の力学的特性を、図8に示した。力学的特性は、ORIENTEC社製のTensilon RTM−250(商品名)を用いて、クロスヘッド速度1mm/分、生理食塩水pH6.4中37℃で軸方向加圧という条件で、測定した。同様の方法を用いて、PGA組織再生用部材の力学的特性を測定して、それを図9に示した。分解速度を遅くして、長い欠損部に使用することを考慮すると、より大きな力学強度を有することが好ましい。上述したように図8と図9を比較すると、PGA−PLA組織再生用部材の方が、同じ歪みを加えた場合、より大きな強度を有することから、より長期の使用に耐えることが理解される。
尚、得られた生分解性支持体について、更に、ゲル状、繊維状等の種々の形態のコラーゲンを含む組織再生用部材を製造することができる。
【0063】
更にまた、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、本発明に係るコラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体を含んで成る組織再生用部材を用いて、疼痛のある末梢神経障害部位を再建すると、術後に疼痛が消失することを見出した。
即ち、従来から、神経連結管は神経欠損部位の知覚喪失や運動麻痺に対する効果は知られていたが、本発明者らは、疼痛のある神経欠損部位に本発明に係るコラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体を含んで成る組織再生用部材を用いることで、この痛みが消失し、さらに正常な感覚が回復することを見いだした。
【0064】
実施例11
コラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体を含んで成る組織再生用部材による疼痛の改善
42歳男性が、六ヶ月前に仕事中誤って電動ノコギリで左母指を不全切断し、再接着手術を受けていた。しかし、再接着された左母指に激しい疼痛が出現して左手が使えなくなり日常生活にも不自由を来していた。そこで切断部の右母指の指神経障害部位を切除して、本発明に係るコラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体を含んで成る組織再生用部材で架橋する再建手術を施行したところ、術後には疼痛は消失し、左手が使えるようになり、6ヶ月目には左母指の感覚は完全に回復した。
【0065】
実施例12
コラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体を含んで成る組織再生用部材による疼痛の改善2
37歳男性が、2mの高さから落下して右の撓骨遠位端を複雑骨折し、初期治療として内固定、外固定を受けていた。この初期治療のあと激しい疼痛が手首から右上肢に広がり、右上肢は廃用肢となった。X線写真で右手の骨萎縮を認め、複合性局所疼痛症候群(CRPS−typeII)と診断されていた。患者は激しい痛みの為に4ヶ月に12キロの体重減少を生じた。このような複合性局所疼痛症候群は、従来外科的に治療が困難とされていた。本発明者らはこの患者の右撓骨神経の皮枝の一本に障害があることを確認し、周囲の神経剥離をおこなったのち、手術でこの神経の障害部位を切除して、コラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体を含んで成る組織再生用部材で架橋し再建した。すると、患者は麻酔覚醒直後より術前の痛みが消失した。手術から12ヶ月後のX線写真では骨萎縮も改善し、皮膚温度も正常に戻っていることが確認された。廃用肢となっていた右手は手術から1年後には運動機能も回復して、患者は患側の手でシャツのボタンの脱着も可能となり、普通の生活に復帰した。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係るコラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体は、コロイド状、ゲル状及び繊維状とも異なる新規な構造を有する。そのため、本発明に係るコラーゲンから成る新規な構造体を組織再生用部材に使用すると、神経組織、皮下組織、粘膜下組織、生体膜組織、脂肪組織、筋肉組織、皮膚組織、歯肉組織等の体組織の再生の促進、治癒期間の短縮、機能的回復等を、向上させることができる。
更に、上述の組織再生用部材が、生分解性支持体を更に含んで成る場合、更に、再生される組織を保護することができる。
本発明に係る組織再生用部材は、管状の生分解性支持体の内側に上述の薄フィルム多房状構造体を有する場合、細長い線状組織をより有利に再生することができる。
このように、本発明に係る組織再生用部材は、体組織の再生に極めて有用であり、更に、患者が神経因性疼痛を有する場合、疼痛の消失にも効果がある等、医学上極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コラーゲンから成る薄フィルム多房状構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の薄フィルム多房状構造体を含んで成る組織再生用部材。
【請求項3】
生分解性支持体を更に含んで成る請求項2に記載の組織再生用部材。
【請求項4】
管状の生分解性支持体の内側に請求項1に記載の薄フィルム多房状構造体を有する請求項3に記載の組織再生用部材。
【請求項5】
断面がU字状又はC字状であるトヨ状の形態を有する生分解性支持体の内側に請求項1に記載の薄フィルム多房状構造体を有する請求項3に記載の組織再生用部材。
【請求項6】
生分解性支持体は分岐を有する請求項4又は5に記載の組織再生用部材。
【請求項7】
生分解性支持体の一の端部の口径と、その他の端部の口径との間に、口径差がある請求項4〜6のいずれかに記載の組織再生用部材。
【請求項8】
生分解性支持体の分解速度は、生体内において、中央部から端部に向かって速くなる請求項4〜7のいずれかに記載の組織再生用部材。
【請求項9】
生体内で分解が速い素材に、生体内で分解が遅い素材を混合することで、生分解性支持体の生体内での分解を遅らせてその内側に空洞を有する構造を維持する請求項4〜8のいずれかに記載の組織再生用部材。
【請求項10】
神経組織再生用部材として使用される請求項2〜9のいずれかに記載の組織再生用部材。
【請求項11】
コラーゲン溶液を凍結乾燥することを含んで成る請求項1に記載の薄フィルム多房状構造体の製造方法。
【請求項12】
生分解性支持体を、コラーゲン溶液に浸した後、コラーゲン溶液を凍結乾燥することを含んで成る請求項3〜10のいずれかに記載の組織再生用部材の製造方法。

【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図1(a)】
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【図1(b)】
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【図1(c)】
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【図1(d)】
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【図1(e)】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図11(a)】
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【図11(b)】
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【図11(c)】
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【図12(a)】
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【図12(b)】
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【図13(a)】
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【図13(b)】
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【図14(a)】
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【図14(b)】
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【公開番号】特開2013−31730(P2013−31730A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−249993(P2012−249993)
【出願日】平成24年11月14日(2012.11.14)
【分割の表示】特願2008−522680(P2008−522680)の分割
【原出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】