説明

コラーゲンシートの製法

【課題】多数枚のコラーゲンシートを、シート面の平滑性や平面性を損なうことなく、一括して効率よく製造することのできる方法を提供する。
【解決手段】トレー10に、コラーゲン溶液を流し込んで凍結させることによりコラーゲン溶液凍結層11を形成したのち、その上に水を流し込んで凍結させることにより水凍結層12を形成し、つぎに、上記水凍結層12の上にコラーゲン溶液を流し込んで凍結させることによりコラーゲン溶液凍結層11を形成し、上記水凍結層12形成工程とコラーゲン溶液凍結層11形成工程を交互に繰り返してブロック13を形成し、このブロック13を真空乾燥することにより、各コラーゲン溶液凍結層11に含有される水分を昇華除去してそれぞれ多孔質のコラーゲンシートに変化させるとともに、水凍結層12を昇華除去して、上記各コラーゲンシートが、直接重なった状態で得られるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数枚のコラーゲンシートを効率よく得ることのできるコラーゲンシートの製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
動物の骨や皮を構成するコラーゲンを用いたシートは、生体内で容易に分解吸収され、毒性がないことから、医用材料、食品包装材料、フェイスマスク等の化粧材料等として、広く用いられている。
【0003】
このようなコラーゲンシートの製法としては、例えば図5に示すように、浅皿状のトレー1内に、シート1枚分のコラーゲン溶液2を、目的とするシート厚みが得られる程度の厚みで流し込んだのち、真空凍結乾燥を行い、コラーゲン溶液2の水分を昇華除去することにより、多孔質のコラーゲンシートを得る方法が一般的である(特許文献1参照)。
【0004】
また、図6に示すように、充分に深さのあるトレー1′内に、シート数枚〜数十枚分の厚みとなるようコラーゲン溶液2を流し込み、真空凍結乾燥を行ってコラーゲン溶液2の水分を昇華除去し、多孔質のコラーゲンブロック2aを得たのち、図7において鎖線Pで示すように、このコラーゲンブロック2aから、所定厚みのシートを1枚ずつ切り出す方法も知られている。
【特許文献1】特公平7−88433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの方法のうち、コラーゲンシートをトレー1内で1枚ずつ作製する方法は、シート1枚ごとに、コラーゲン溶液2の流し込み→真空凍結乾燥→脱型を行わなければならず、非常に手間がかかるという問題がある。また、コラーゲンブロック2aから1枚ずつシートを切り出す方法は、流し込みと真空凍結乾燥を繰り返す必要がない点で効率的であるが、シート切り出し時に切断屑が生じて材料に無駄が生じるとともに、シートの表裏面が切断面となって平滑性や平面性が損なわれやすいという問題がある。そして、シートを薄く切り出すための切断機(スライサー)が高価であるため、設備コストが高くなるという問題もある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、多数枚のコラーゲンシートを、シート面の平滑性や平面性を損なうことなく、一括して効率よく製造することのできる方法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明は、トレーにコラーゲン溶液を流し込んで凍結させることによりコラーゲン溶液凍結層を形成する工程と、同じくトレーに水を流し込んで凍結させることにより水凍結層を形成する工程とを、交互に繰り返すことにより、コラーゲン溶液凍結層と水凍結層が交互に積層されたブロックを形成し、このブロックを真空乾燥することにより、各コラーゲン溶液凍結層に含有される水分を昇華除去してそれぞれ多孔質のコラーゲンシートに変化させるとともに、各コラーゲン溶液凍結層の間に介在する水凍結層を昇華除去して、上記各コラーゲンシートが、直接重なった状態で得られるようにしたコラーゲンシートの製法をその要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
すなわち、本発明のコラーゲンシートの製法によれば、簡単な工程で、多数枚のコラーゲンシートを、それらが互いに重なった状態で一気に得ることができるため、製造効率が高く、1枚当たりの製造単価を低く抑えることができる。そして、切断屑等が生じないため材料無駄もない。しかも、得られるコラーゲンシートは、ブロックから一枚一枚切り出されたものと異なり、表面が平滑で、平面性も維持されており、非常に高品質であるという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
つぎに、本発明の実施の形態について説明する。
【0010】
本発明は、例えばつぎのようにしてコラーゲンシートを製造するものである。すなわち、まず、図1に示すように、深いトレイ10内に、コラーゲン溶液11aを流し込んで凍結させることにより、コラーゲン溶液凍結層11を形成する。つぎに、上記コラーゲン溶液凍結層11の上に、水12aを所定厚みで流し込んで凍結させることにより、水凍結層12を形成する。
【0011】
つぎに、上記水凍結層12の上にコラーゲン溶液11aを、先のコラーゲン溶液11aの流し込み厚みと同様の厚みで流し込んで凍結させることにより、第2のコラーゲン溶液凍結層11を形成し、上記水凍結層形成工程とコラーゲン溶液凍結層形成工程を交互に繰り返すことにより、図2に示すように、コラーゲン溶液凍結層11と水凍結層12が交互に積層されたブロック13を形成する。
【0012】
そして、このブロック13を真空乾燥することにより、各コラーゲン溶液凍結層11に含有される水分を昇華除去して、図3に示すように、各コラーゲン溶液凍結層11をそれぞれ多孔質のコラーゲンシート11′に変化させる。また、このとき、各コラーゲン溶液凍結層11(図2参照)の間に介在する水凍結層12も昇華除去されて消失するため、上記各コラーゲンシート11′は、互いに直接重なった状態となる(図3では水凍結層12の消失がわかりやすいよう空隙を残した状態で図示している)。
【0013】
したがって、この重なった多数枚のコラーゲンシート11′を,重なった状態のままトレー10から取り出し、所定の包材等に移すことにより、簡単に、多数枚がセットになったコラーゲンシート11′を商品として提供することができる。この多数枚のコラーゲンシート11′は、図4に示すように、1枚ずつ指で支障なく取り出すことができ、使い勝手がよい。
【0014】
この製法によれば、コラーゲン溶液11aと水12aを交互に流し込んで凍結させ、最後に、真空乾燥を一気に行うことにより、多数枚のコラーゲンシート11′を、それらが互いに重なった状態で得ることができるため、製造効率が高く、1枚当たりの製造単価を低く抑えることができる。そして、切断屑等が生じないため材料無駄もない。しかも、得られるコラーゲンシート11′は、ブロックから一枚一枚切り出したものと異なり、表面が平滑で、平面性も維持されており、非常に高品質であるという利点を有する。なお、製造条件によっては、最上層のコラーゲンシート11′の表面平滑性が、それより下の層に劣ることがあるが、その場合は、最上層のコラーゲンシート11′を除き、2枚目から下のコラーゲンシート11′を商品として提供すれば足りる。
【0015】
なお、上記の製法は、コラーゲンシート11′の厚みが、0.5〜10mmのものを製造するのに最適である。すなわち、厚み0.5mm未満のものを得ようとしても、コラーゲン溶液11aをその厚みに展開することが容易でなく、逆に、厚み10mmを超えるものは、シートとして取り扱いにくく、また、均一なシートを得ることが容易でないからである。
【0016】
また、上記の製法において、コラーゲン溶液11aおよび水12aを凍結するための凍結条件は、流し込むコラーゲン溶液11aや水12aの量にもよるが、通常、−15〜−5℃に設定することが好適である。すなわち、−15℃より低温に設定すると、コラーゲン溶液11aや水12aを流し込んだとたんにその部分が凍結して、均一な厚みの凍結層を得ることが困難となり、逆に、−5℃より高温に設定すると、凍結層11、12の形成に時間がかかり、製造効率が悪くなるからである。
【0017】
なお、コラーゲン溶液11aおよび水12aを流し込むときは、できるだけそれらの液温が0℃に近づくよう冷却しておくことが好ましい。すなわち、液の流し込みによって、その下の凍結層11、12が解凍すると層厚みに変化が生じて好ましくないからである。
【0018】
そして、本発明に用いるコラーゲン溶液11aとしては、従来からコラーゲンシートやコラーゲンフィルム等を製造するために用いられているどのようなものであっても差し支えないが、通常、コラーゲン濃度が0.5〜2重量%、なかでも1重量%前後の溶液を用いることが好適である。
【0019】
また、本発明に用いる水12aも、特に限定するものではないが、製品となるコラーゲンシート11の用途によっては、塩素等の不純物がコラーゲンシート11に残留することを避けるために、高純度の精製水を用いることが好適である。そして、水12aを流し込む量は、適宜に設定することができる。
【0020】
さらに、本発明に用いるトレーは、コラーゲン溶液11aおよび水12aを流し込むための容器の総称であり、どのような材質・形状であっても差し支えないが、上記製法に用いる際、形状に変化を生じないよう、耐低温性、耐真空性および液密性を備えていなければならない。
【0021】
なお、上記の例では、まずコラーゲン溶液11aを流し込んでコラーゲン溶液凍結層11を形成したが、先に水12aを流し込んで水凍結層12を形成するようにしても差し支えない。この場合も、以下同様にして、交互に凍結層11、12を形成する。この製法によっても、上記製法と同様の効果を得ることができる。
【0022】
また、本発明において、コラーゲン溶液凍結層11と水凍結層12が交互に形成されたブロック13を真空乾燥する場合の真空条件は、10Pa以下に設定することが好適である。すなわち、10Paより低真空では、水分の昇華除去に時間がかかるからである。
【0023】
なお、本発明において、得られた多数枚のコラーゲンシート11に対し、必要に応じて架橋工程を経由させて不溶化処理を施すことができる。
【0024】
つぎに、実施例について説明する。
【実施例】
【0025】
−10℃に冷却した凍結棚に、ポリプロピレン製の有底円筒形状のトレー(底面の直径75mm×高さ80mm)を静置し、この中に、予め2℃に冷却した1重量%コラーゲン溶液を、0.13g/cm2 の液量となるよう流し込んで凍結させた。そして、完全に凍結してコラーゲン溶液凍結層が形成されたのを確認したのち、この凍結層の上に、予め2℃に冷却した精製水を0.13g/cm2 の液量となるよう流し込んで凍結させた。そして、完全に凍結して水凍結層が形成されたのを確認したのち、前記と同様にしてコラーゲン溶液を流し込んでコラーゲン溶液凍結層を形成し、以下、水凍結層の形成と、コラーゲン溶液凍結層の形成を繰り返し、コラーゲン溶液凍結層が、水凍結層を挟んで7層積層されたブロック(トレー入り)を得た。
【0026】
上記ブロックを、5Pa×96時間の真空乾燥にかけ、水凍結層が昇華除去され、各コラーゲン溶液凍結層が多孔質のコラーゲンシートとなった乾燥ブロックを得た。この乾燥ブロックは、厚み約1mmのコラーゲンシートが7枚重なった構造をしており、一枚一枚を容易に指で摘んで取り出すことができた。そして、これらのコラーゲンシートは、表裏面が平滑で、全体に反りや歪みがなく平面性にも優れたものであった。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施例である製法の工程説明図である。
【図2】上記実施例である製法の工程説明図である。
【図3】上記実施例である製法の工程説明図である。
【図4】上記実施例によって得られたコラーゲンシートの説明図である。
【図5】従来例の工程説明図である。
【図6】他の従来例の工程説明図である。
【図7】上記他の従来例の工程説明図である。
【符号の説明】
【0028】
10 トレー
11 コラーゲン溶液凍結層
12 水凍結層
13 ブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレーにコラーゲン溶液を流し込んで凍結させることによりコラーゲン溶液凍結層を形成する工程と、同じくトレーに水を流し込んで凍結させることにより水凍結層を形成する工程とを、交互に繰り返すことにより、コラーゲン溶液凍結層と水凍結層が交互に積層されたブロックを形成し、このブロックを真空乾燥することにより、各コラーゲン溶液凍結層に含有される水分を昇華除去してそれぞれ多孔質のコラーゲンシートに変化させるとともに、各コラーゲン溶液凍結層の間に介在する水凍結層を昇華除去して、上記各コラーゲンシートが、直接重なった状態で得られるようにしたことを特徴とするコラーゲンシートの製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−167164(P2006−167164A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−363937(P2004−363937)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(000126115)エア・ウォーター株式会社 (254)
【Fターム(参考)】