説明

コラーゲン/アパタイト配向性材料、及びコラーゲン/アパタイト配向性材料の製造方法

【課題】
本発明は、配向性が制御されたコラーゲン/アパタイト配向性材料、及び配向性が制御されたコラーゲン/アパタイト配向性材料の製造方法を提供できるようにすることを目的とする。
【解決手段】
本発明のコラーゲン/アパタイト配向性材料の製造方法は、配向性を有するコラーゲンを準備し、骨芽細胞又は間葉系幹細胞を播種することにより、前記コラーゲンの配向性の方位と略一致した配向性を有するアパタイトを、前記コラーゲンの表面及び/又は内部に生成・固定させることを特徴とする。また、本発明のコラーゲン/アパタイト配向性材料の製造方法の好ましい実施態様において、前記骨芽細胞が、骨芽細胞様細胞、又は生体より採取した骨芽細胞であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲン/アパタイト配向性材料、及びコラーゲン/アパタイト配向性材料の製造方法に関し、特に、配向性を有するコラーゲンを利用したコラーゲン/アパタイト配向性材料、及びコラーゲン/アパタイト配向性材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無配向のコラーゲンはこれまで細胞培養の基板材料として長く利用されてきた。一方、人の体内において配向性を有したコラーゲンが多数見られ、骨もその部位に応じてコラーゲン/アパタイトが配向化しているが、骨の成長、並びに強度等の機能においてコラーゲン/アパタイトの配向性の役割は大きいと考えられている。
【0003】
配向性を有したコラーゲン基板を製造する方法として、コラーゲン繊維が形成される過程において強力な磁場を印加することが一般的に知られている(特許文献1)。また、コラーゲンゲルをスピンコートする方法が知られている(特許文献2)。
【0004】
さらに、コラーゲンを石灰化して骨等に類似した生体硬組織を作製する方法として、骨芽細胞の播種が一般的に知られている(特許文献3)。
【0005】
前述の骨芽細胞の播種以外にも、骨や歯の主成分として知られているハイドロキシアパタイトの合成法として、高分子材料等の基板を、カルシウム溶液とリン酸溶液とに交互に浸漬させる方法が提案されている(特許文献4、非特許文献1)。
【0006】
また、アパタイトの配向性を制御する方法として、同時滴下法によるコラーゲン/アパタイト複合体の生成が提案されている(特許文献5、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-280222号
【特許文献2】特開2010-148691号
【特許文献3】特開2005-278909号
【特許文献4】特開2000-327314号
【特許文献5】再表2004/041320 A1号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】T.Taguchi, A.Kishida, M.Akashi,Hydroxyapatite Formation on/in Poly(vinyl alcohol) Hydrogel Matrices using aNovel Alternate Soaking Process(I), Chem. Lett., pp.711-712, 1998.
【非特許文献2】M. Kikuchi, S. Ito, S. Ichinose, K.Shinomiya, J. Tanaka. Self-organization mechanism in a bone-likehydroxyapatite/collagen nanocomposites synthesized in vitro and its biologicalreaction in vivo, Biomaterials, Vol. 22, pp. 1705-1711, 2001.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1及び2のように、これまでコラーゲン単体の配向化技術は存在したが、配向性が制御されたコラーゲン/アパタイト配向性材料を製造することはできなかった。また、上記特許文献3は、配向性が制御されたものではない。また、上記特許文献4は、従来から知られる自己組織化反応によるものと考えられるが、この方法により配向化材料を作製しようとする試みはミクロオーダーにおいてもマクロオーダーにおいても存在しない。
【0010】
このように、コラーゲンの配向化技術はこれまで存在したが、石灰化コラーゲンをミリメーターオーダー以上のマクロサイズで製造する技術はなく、その結果、骨が部位に応じて配向化しているような類似のコラーゲン/アパタイト配向性を持つ実用化可能な材料も存在しなかった。
【0011】
そこで、本発明は、配向性が制御されたコラーゲン/アパタイト配向性材料、及び配向性が制御されたコラーゲン/アパタイト配向性材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明者らは、配向性を有するコラーゲンとアパタイトの配向性について鋭意検討した結果、本発明を見出すに至った。
【0013】
すなわち、本発明のコラーゲン/アパタイト配向性材料の製造方法は、配向性を有するコラーゲンを準備し、骨芽細胞又は間葉系幹細胞を播種することにより、前記コラーゲンの配向性の方位と略一致した配向性を有するアパタイトを、前記コラーゲンの表面及び/又は内部に生成・固定させることを特徴とする。
【0014】
また、本発明のコラーゲン/アパタイト配向性材料の製造方法の好ましい実施態様において、前記骨芽細胞が、骨芽細胞様細胞、又は生体より採取した骨芽細胞であることを特徴とする。
【0015】
また、別の態様による本発明のコラーゲン/アパタイト配向性材料の製造方法は、配向性を有するコラーゲンを準備し、カルシウムイオンを含み、実質的にリン酸イオンを含まない溶液と、リン酸イオンを含み、実質的にカルシウムイオンを含まない水溶液とに、前記コラーゲンを交互に浸漬することにより、前記コラーゲンの配向性の方位と略一致した配向性を有するアパタイトを、前記コラーゲンの表面及び/又は内部に生成・固定させることを特徴とする。
【0016】
また、本発明のコラーゲン/アパタイト配向性材料の製造方法の好ましい実施態様において、前記カルシウムイオンを含み、実質的にリン酸イオンを含まない溶液が、塩化カルシウム水溶液、酢酸カルシウム水溶液、塩化カルシウムのトリス緩衝溶液、酢酸カルシウムのトリス緩衝溶液、又はこれらの混合溶液であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明のコラーゲン/アパタイト配向性材料の製造方法の好ましい実施態様において、前記リン酸イオンを含み、実質的にカルシウムイオンを含まない水溶液が、リン酸水素ナトリウム水溶液、リン酸二水素ナトリウムアンモニウム水溶液、リン酸水素ナトリウムのトリス緩衝溶液、リン酸二水素ナトリウムアンモニウムのトリス緩衝溶液、又はこれらの混合溶液であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明のコラーゲン/アパタイト配向性材料は、配向性を有するコラーゲンと、前記コラーゲンの表面及び/又は内部に生成・固定されたアパタイトであって、前記コラーゲンの配向性の方位と略一致した配向性を有するアパタイトと、からなることを特徴とする。
【0019】
また、本発明のコラーゲン/アパタイト配向性材料の好ましい実施態様において、前記配向性が、一軸配向、らせん配向、二軸配向、二次元配向、三軸配向又は三次元配向であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明のコラーゲン/アパタイト配向性材料の好ましい実施態様において、前記材料が、ミリメーターオーダー以上のマクロサイズであることを特徴とする。
【0021】
また、本発明のコラーゲン/アパタイト配向性材料の好ましい実施態様において、前記配向性を有するコラーゲンが、金属、セラミックス、高分子材料、又は生体材料からなる基板にコートされていることを特徴とする。
【0022】
また、本発明のコラーゲン/アパタイト配向性材料の好ましい実施態様において、前記材料において、前記コラーゲンの表面及び/又は内部に前記アパタイトが沈着することによって、石灰化が生じていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明ではミリメーターオーダー以上のマクロサイズのコラーゲン/アパタイトの配向化と配向性の制御が可能であるという有利な効果を奏する。また本発明においては、生体硬組織が部位に応じてコラーゲン/アパタイトの配向性を持つことから、本発明により正常な生体硬組織の各部位の配向性に等しくなるように配向性が制御された生体適合性材料を提供することができるという有利な効果を奏する。
【0024】
例えば、骨組織においてその配向性は、特定方向の強度に重要な役割を果たすと考えられている。大腿骨は骨長軸に沿ったコラーゲン/アパタイトc軸の配向性を持つが、マクロサイズの骨欠損が生じた場合には、元の配向性を回復することには長時間を必要とし、骨組織が元来持つ配向性を取り戻すことは極めて困難である。ところが、本発明で得られる、配向性が制御されたミリメーターオーダー以上のマクロサイズの配向性材料を、元の骨の配向性に応じて埋入することにより、早期の骨再生と本来の配向性の付与が可能となることが期待される。
【0025】
また、高齢化社会が進むにつれて、骨粗鬆症や変形性関節症といった骨疾患が急増し、骨の再生医療に対する期待は高いが、骨組織の強度機能、溶解と再生を繰返す骨代謝回転には、従来の医療現場で測定されてきた骨密度の変化だけでは説明ができず、骨機能を決定する骨質パラメーターとしてアパタイトの配向性が注目されている。本発明のコラーゲン/アパタイト配向性材料の製造方法とその配向性材料は、将来の骨質医療に向けた基礎医学の研究開発のために、配向性が制御されたコラーゲン/アパタイト配向性材料を提供すると共に、骨再生に向けた実用性ある生体適合性材料を提供し得るという有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、PBS中で作製された直後の配向性を有するコラーゲンジェルの写真である。
【図2】図2は、配向性コラーゲンのラマンスペクトルを示し、(i)はレーザー偏光方向とコラーゲン走行方向が平行である場合、(ii)は垂直である場合のスペクトルを、それぞれ示す図である。
【図3】図3は、アリザリンレッドS染色結果を示す写真である。
【図4】図4は、4週間培養後のコラーゲン基板のX線回折結果を示す図である。
【図5】図5は、30回交互浸漬後のコラーゲンのX線回折結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明のコラーゲン/アパタイト配向性材料は、主として、配向性を有するコラーゲン(基板)を準備し、骨芽細胞を播種する方法、配向性を有するコラーゲン(基板)を準備し、カルシウム溶液とリン酸溶液とに交互に浸漬させる方法、SBF(疑似体液)浸漬による方法によって、製造することが可能である。
【0028】
いずれの方法にあっても、コラーゲン(基板)の配向性の方位と略一致した配向性を有するアパタイトを、コラーゲン(基板)上、コラーゲンの表面及び/又は内部にミリメーターオーダー以上のマクロサイズで生成・固定させることが可能である。即ち、コラーゲン(基板)上、コラーゲンの表面及び/又は内部において配向性を制御しながら、コラーゲン/アパタイト配向性材料を製造することが可能である。
【0029】
最初に、骨芽細胞等を播種する方法から説明する。本発明のコラーゲン/アパタイト配向性材料の製造方法は、配向性を有するコラーゲンを準備し、骨芽細胞又は間葉系幹細胞を播種することにより、前記コラーゲンの配向性の方位と略一致した配向性を有するアパタイトを、前記コラーゲン上、コラーゲンの表面及び/又は内部に生成・固定させることを特徴とする。
【0030】
まず、配向性を有するコラーゲンについて説明すると、以下のようである。配向性を有するコラーゲンとは、単体のコラーゲンジェル、乾燥コラーゲンジェルなどの繊維状コラーゲンの走行方向がある方位に揃っているコラーゲンを意味する。配向性を有するコラーゲンが、金属、セラミックス、高分子材料、又は生体材料からなる基板にコートされている場合(コラーゲン基板ともいう。)には、配向性を有するコラーゲンとは、各種形状に加工された金属、セラミックス、高分子材料、又は生体材料等の基板にコートされたコラーゲンジェル、乾燥コラーゲンジェルなどにおける繊維状コラーゲンの走行方向がある方位に揃っているコラーゲンを意味する。
【0031】
また、アパタイトの配向性とは、生成されたアパタイトにおいて結晶構造上、ある方位に揃うことを意味する。本発明の適用対象となる生体アパタイトは、a軸、c軸で規定される六角柱に似た結晶構造を基本単位とする異方性の強いイオン性結晶であり、生体アパタイトのc軸は、繊維状コラーゲンの走行方向とほぼ一致することが知られているが、本発明においても、生成されたアパタイトのc軸が、繊維状コラーゲンの走行方向と略一致することが好ましい。
【0032】
出発材料として、配向性を有するコラーゲンを用いることの利点は、以下の通りである。すなわち、例えば出発材料のコラーゲン内で、曲線を描いているコラーゲンの配向性があれば、骨芽細胞にも曲線を描いた配向性をもたせることが可能になることである。また、本発明においては、基本的にはコラーゲン(基板)の「表面」で、骨芽細胞を配向性をもたせて成長させることが可能となり、配向性を有したコラーゲン(基板)の内部に骨芽細胞が入り込む場合も想定されるが、このような場合も含むことが可能である。さらに、本発明によれば、最終製品である配向性材料のニーズに応じて、出発材料である配向性コラーゲンの形状、配向性の方向を準備すれば、形状、配向性の方向を自由に制御しつつ、ミリメーター以上の大きなサイズのコラーゲン/アパタイト配向性材料が製造できることが可能である。
【0033】
配向性を有するコラーゲンを準備する方法は、常法により特に限定されない。例えば、ミリメーターオーダー以上のコラーゲンに配向性を与えるには、コラーゲン溶液をゲル化する過程でコラーゲン溶液に一定方向の流れを与える方法が提案されているが、他の方法としてもよい。他の方法としては、コラーゲン繊維が形成される過程において強力な磁場を印加する方法、コラーゲンゲルをスピンコートする方法、コラーゲンゲルを一定方向にメカニカルに(物理的に)延伸する方法などを挙げることができる。
【0034】
コラーゲン繊維が形成される過程において強力な磁場を印加する方法により、配向性を有するコラーゲンを準備する場合、磁場に対してコラーゲン線維は垂直に配列するので、磁場を同じ方向からかけ続けると2次元の配列になり、回転磁場を与えると1軸配向となる。このような配列を有するコラーゲンを、出発材料として用いたい場合に磁場を用いた方法を使用可能である。但し、磁場であれば、基本的には均一な配列をもったもののみ作製が可能で、マクロ形状も限定される傾向にある。これに対して、コラーゲン溶液をゲル化する過程でコラーゲン溶液に一定方向の流れを与える方法によって、配向性を有するコラーゲンを準備する場合には、液体の流れを利用するためシート状の形状を含む様々な形状やそれを積層させることで、3次元的に配向性の異なるコラーゲンを作製可能である。
【0035】
後述するように実施例で準備した配向性コラーゲン(コラーゲン単体)は、コラーゲン溶液の流れを利用してコラーゲンゲルとして固めるプロセスで配向性を与えることによって得ることができる。後述する実施例の写真ではストリング形状のコラーゲンであるが、幅の広いリボン形状等、各種形状(線、面、立体)の配向性コラーゲン又はコラーゲン基板の作製が可能である。また、その際に、流れの速度を制御することで、配向性の程度を制御することも可能である。そのため、同一コラーゲン内においても、配向性の方向、配向性の程度を制御して分布をもたせることは可能であるので、本発明でそのようなコラーゲン又はコラーゲン基板を用いることで、ひいては、アパタイトの配向性についても、配向性の方向、配向性の程度の制御(即ち、配向性の分布の制御)が可能となる。
【0036】
例えば、コラーゲン溶液をゲル化する過程でコラーゲン溶液に一定方向の流れを与える方法において説明すると、コラーゲン溶液の濃度は、得られるコラーゲン又はコラーゲン基板が十分な機械的強度を有するためには10mg/ml以上が好ましいが、3mg/ml程度以上のものであってもよい。コラーゲンの由来は問わない。また、由来する動物の種、組織部位、年齢等は特に限定されない。例えば、ラット尾、豚皮、牛皮(アテロを含む)などの動物等から抽出したものを使用できる。すなわち、哺乳動物(例えばウシ、ブタ、ウマ、ウサギ、ネズミ等)や鳥類(例えばニワトリ等)の皮膚、骨、軟骨、腱、臓器等から得られるコラーゲンを使用できる。また魚類(例えばタラ、ヒラメ、カレイ、サケ、マス、マグロ、サバ、タイ、イワシ、サメ等)の皮、骨、軟骨、ひれ、うろこ、臓器等から得られるコラーゲン様蛋白を使用してもよい。なおコラーゲンの抽出方法は特に限定されず、一般的な抽出方法を使用することができる。また動物組織からの抽出ではなく、遺伝子組み替え技術によって得られたコラーゲンを使用してもよい。また、抗原性を抑えるために酵素処理したアテロコラーゲンを用いることができる。また、コラーゲンとしては酸可溶性コラーゲン、塩可溶性コラーゲン、酵素可溶化コラーゲン(アテロコラーゲン)等の未修飾可溶性コラーゲン、サクシニル化、フタル化等のアシル化、メチル化等のエステル化、アルカリ可溶化の脱アミド化等の化学修飾コラーゲン、さらにテンドンコラーゲン等不溶性のコラーゲンを用いることが出来る。
【0037】
得られたコラーゲンの配向性の方位、配向性の程度は、例えば、ラマン分光顕微鏡によって定量的に評価が可能である。ラマン分光とは、分子に当たって散乱される光が分子の振動によって周波数変調を受けた成分を含むことを分光器によって調べることであり、分析対象の組成や結晶構造の情報を得ることができ、コラーゲンの配向性についても分析が可能となる。
【0038】
このようにして得られた配向性を有するコラーゲンに対して、骨芽細胞又は間葉系幹細胞を播種することにより、前記コラーゲンの配向性の方位と略一致した配向性を有するアパタイトを、前記コラーゲン上に生成・固定させる。好ましい実施態様において、前記骨芽細胞が、骨芽細胞様細胞、又は生体より採取した骨芽細胞である。その他、細胞としては、骨髄より単離した間葉系幹細胞を骨芽細胞に分化させたものでもよく、また象牙芽細胞、エナメル芽細胞でもよい。(硬組織に分化することのできる細胞。すなわち石灰化する細胞でもよい。)。骨芽細胞様細胞としては、骨芽細胞様細胞MC3T3-E1を用いることが可能である。なお、骨芽細胞様細胞はC57BL/6新生児マウスの頭蓋冠より樹立された骨芽細胞前駆細胞株などを用いることができる(同じ骨芽細胞であるが初代培養か細胞株かの違いがある。)。その他、骨芽細胞様細胞としてはマウスMC3T3-E1、ヒトSaos-2, MG63, ラットUMR106, ROS17/2.8などを用いることができる。なお、MC3T3-E1はC57BL/6新生児マウスの頭蓋冠より樹立された骨芽細胞前駆細胞株である。骨芽細胞分化モデルとして用いられる細胞株の一種がMC3T3-E1である。他にも上記のようにヒト由来、ラット由来などの細胞株が存在するが、これらを用いてもよい。本発明においては、配向性を有するコラーゲンに対して、骨芽細胞又は間葉系幹細胞等を播種することにより、コラーゲンの表面又はコラーゲンの内部に前記骨芽細胞等が入り込んだ場合には、コラーゲンの内部において、前記骨芽細胞又は前記間葉系幹細胞も配向性を持たせて成長させることが可能である。
【0039】
骨芽細胞の培養は、MEM-α血清培地を用いることを基本とし、37度5%CO2環境で24時間程度以上の培養とすることができる。骨芽細胞の中には、培養細胞においても石灰化部位に埋入され、活性の落ちた骨細胞となる細胞も存在する可能性がある。また、骨芽細胞の培養系を用いるので、破骨細胞は存在しないと考えられるが、初代培養では破骨細胞、骨細胞、線維芽細胞等の混入が100%ないとは言い切れず、破骨細胞、骨細胞、線維芽細胞等が混入されていてもよい。
【0040】
なお、コラーゲン/アパタイト配向性材料において、アパタイト成分となるリン酸の供給源について説明すると以下の通りである。リン酸の供給源として、培養条件において、培地にグリセロリン酸、βグリセロリン酸等を添加することができる。このようなグリセロリン酸などが、石灰化におけるリン酸の供給源となることができる。これは、さらにALPにより分解され、無機リン酸となる。
【0041】
なお、分化した骨芽細胞はコラーゲンを産生する(コラーゲン産生→石灰化の順で起こる。)。分化培地ではアスコルビン酸を添加することにより、コラーゲンの産生を促すことが可能である。すなわち、コラーゲン(基板)上の細胞は、基板とは別に自らコラーゲンを産生することが可能である。
【0042】
ここで、石灰化について簡単に説明すれば以下のようである。石灰化には、コラーゲン性石灰化及び異所性石灰化(非コラーゲン性)の二通りの石灰化様式があるが、本発明においては、カルシウム染色で繊維状に沈着した石灰化物が確認されていることからも、コラーゲン性石灰化が起こっていると考えられる。石灰化の利点は、配向性材料の強度上昇である。mmオーダーでの石灰化したコラーゲン配向材料は、骨と類似な構造であり、また石灰化することで強度が上がることから(例えば、ピンセットでつまむと明らかである。)、生体内に設置する場合に有利である。
【0043】
一般に、骨基質(コラーゲンと非コラーゲン性タンパク質で構成)にリン酸カルシウムの結晶(ハイドロキシアパタイト)が沈着することを石灰化といい、これによって骨組織が形成される。一説によれば、詳細については、以下のとおりである。骨芽細胞は,基質小胞を出芽的に分泌する。基質小胞は,直径約40〜200nmの脂質二重膜で囲まれた構造物である.当該基質小胞には、酵素や生理活性物質が含まれる。コラーゲン線維などの高分子物質の形成とほぼ同時期に,基質小胞は分泌される。これらの物質の網目に閉じ込められた基質小胞が石灰化部位を決定する。その基質小胞は初期石灰化の核となり、小胞内にヒドロキシアパタイトの結晶様構造物が現れる。結晶様構造物は増大し,やがて小胞膜を断裂する。さらに石灰化は小胞膜へと広がり、石灰化球になる。大型化した石灰化球は,周囲のコラーゲン細線維に到達する。石灰化領域は,コラーゲン細線維に沿って進行するコラーゲン性石灰化によって拡大する。
【0044】
本発明の配向性材料においては、メカニズムの詳細は不明であるが、カルシウム染色で繊維状に沈着した石灰化物が確認されていることからも、コラーゲンの石灰化が起こっている。本発明の態様において、石灰化が生じているが、今回作製された複合体についての石灰化、すなわち、テンプレートのコラーゲンベースで起こっている石灰化のほかに、産生コラーゲンに対する石灰化(いわゆる本来の意味でのコラーゲン性石灰化)と、が生じていると考えられる。
【0045】
コラーゲン上、コラーゲンの表面及び/又は内部に生成・固定されたアパタイトの配向性の方位、配向性の程度については、例えば、微小領域X線回折装置により容易に評価が可能である。なお、骨芽細胞の配列方向とアパタイトのc軸の配列については、まだまだ未解明の部分が多いので、細胞が配列しているから、アパタイト(石灰化物の)の(結晶学的)配列を主張することはできないと考えられる。但し、本発明においては、後述の実施例におけるように、配向性材料のアパタイトの配向性を微小領域X線回折法で証明することが可能となっている。
【0046】
次に、配向性を有するコラーゲンを準備し、カルシウム溶液とリン酸溶液とに交互に浸漬させる方法を説明する。本発明のコラーゲン/アパタイト配向性材料の製造方法は、配向性を有するコラーゲンを準備し、カルシウムイオンを含み、実質的にリン酸イオンを含まない溶液と、リン酸イオンを含み、実質的にカルシウムイオンを含まない水溶液とに、前記コラーゲンを交互に浸漬することにより、前記コラーゲンの配向性の方位と略一致した配向性を有するアパタイトを、前記コラーゲン上、コラーゲンの表面及び/又は内部に生成・固定させる。
【0047】
配向性を有するコラーゲンについての説明は、上述の骨芽細胞を用いた例をそのまま参照することができる。まず、上述の骨芽細胞を用いた例における説明に基づいて、配向性を有するコラーゲンを準備することができる。ミリメーターオーダー以上のコラーゲン基板に配向性を与えるには、前述のとおり、コラーゲン溶液をゲル化する過程でコラーゲン溶液に一定方向の流れを与える方法が提案されているが、他の方法としてもよい。コラーゲン溶液の好ましい濃度、由来等についても、すでに述べた骨芽細胞を播種することによって、コラーゲン/アパタイト配向性材料を製造する方法と同様とすることができる。
【0048】
本態様においては、上述のようにして準備された配向性を有するコラーゲンを用いて、交互浸漬を行う。好ましい実施態様において、前記カルシウムイオンを含み、実質的にリン酸イオンを含まない溶液が、塩化カルシウム水溶液、酢酸カルシウム水溶液、塩化カルシウムのトリス緩衝溶液、酢酸カルシウムのトリス緩衝溶液、又はこれらの混合溶液とすることができる。リン酸イオンが存在する場合は、ハイドロキシアパタイト(HApともいう。)の生成速度が低下する虞があるので、カルシウム溶液は、通常、カルシウムイオンを含み、且つリン酸イオンを実質的に含まない水溶液であることが好ましい。
【0049】
前記カルシウムイオンを含み、実質的にリン酸イオンを含まない溶液において、カルシウムイオン濃度は、HApの生成速度及び生成効率を考慮した場合、好ましくは0.01〜10モル/リットル、特に好ましくは0.1〜1モル/リットルである。カルシウム溶液のpHは特に限定されないが、トリス緩衝溶液を用いる場合には、好ましくはpH6〜10、特に好ましくはpH7.4である。
【0050】
また、好ましい実施態様において、前記リン酸イオンを含み、実質的にカルシウムイオンを含まない水溶液が、リン酸水素ナトリウム水溶液、リン酸二水素ナトリウムアンモニウム水溶液、リン酸水素ナトリウムのトリス緩衝溶液、リン酸二水素ナトリウムアンモニウムのトリス緩衝溶液、又はこれらの混合溶液とすることができる。カルシウムイオンが存在する場合は、HApの生成速度が低下する虞があるので、リン酸溶液は、通常、リン酸イオンを含み、且つカルシウムイオンを実質的に含まない水溶液であることが好ましい。
【0051】
前記リン酸イオンを含み、実質的にカルシウムイオンを含まない水溶液において、リン酸イオン濃度は、HApの生成速度及び生成効率を考慮した場合、好ましくは0.01〜10モル/リットル、特に好ましくは0.1〜1モル/リットルである。リン酸溶液のpHは特に限定されないが、トリス緩衝溶液を用いる場合には、好ましくはpH6〜10、特に好ましくはpH7.4である。
【0052】
前記カルシウム溶液及びリン酸溶液の組合わせは特に限定されず、例えば、塩化カルシウム水溶液とリン酸水素ナトリウム水溶液の組合わせ、酢酸カルシウム水溶液とリン酸二水素ナトリウムアンモニウム水溶液との組合せ等が挙げられる。前記カルシウム溶液及びリン酸溶液には、本発明の所望の目的が損なわれない範囲において他のイオンが存在していても良いが、2.5mM以上のマグネシウムイオン(Mg2+)が存在する場合には、リン酸三カルシウム(TCP)が形成される虞がある。
【0053】
上述のように準備したコラーゲン又はコラーゲン基板を、カルシウム水溶液等に10秒間〜120分間、好ましくは1分間〜60分間、特に好ましくは2分間程度浸漬後、超純水中にて、5秒間〜120分間、好ましくは30秒間程度洗浄し、その後リン酸水溶液等に10秒間〜120分間、好ましくは1分間〜60分間、特に好ましくは2分間程度浸漬、5秒間〜120分間、好ましくは30秒間程度超純水中で洗浄することにより行うことができる。これを1サイクルとして1〜100サイクル、好ましくは5〜70サイクル、特に好ましくは20〜50サイクル程度行うことができる。石灰化、配向化を確実に行うという観点から、好ましくは、10サイクル程度、30サイクル程度以上行うことができる。
【0054】
コラーゲン(基板)上、コラーゲンの表面及び/又は内部に生成・固定されたアパタイトの配向性の方位、配向性の程度については、例えば、微小領域X線回折装置により容易に評価が可能である。
【0055】
また、別の態様において、本発明のコラーゲン/アパタイト配向性材料の製造方法は、配向性を有するコラーゲンを準備し、前記コラーゲンの内部及び/又は表面を疑似体液より沈積したアパタイトで被覆することにより、前記コラーゲンの配向性の方位と略一致した配向性を有するアパタイトを、前記コラーゲン上、コラーゲンの表面及び/又は内部に生成・固定させることを特徴とする。
【0056】
配向性を有するコラーゲンについての説明は、上述の骨芽細胞を用いた例をそのまま参照することができる。本発明ではコラーゲンの表面及び/又は内部を疑似体液より沈積したアパタイトで被覆することができる。ここで言う表面とは具体的にはコラーゲンの全体的な表面以外に、コラーゲンに存在する空洞、空隙の表面も含まれる。アパタイトが表面全部にコートされても、表面の一部にコートされていても良い。被覆手段としては特に限定されるものではないが、通常疑似体液中にコラーゲンを浸漬してアパタイトを沈着させて行うことができる。
【0057】
疑似体液は、体液に塩類が含まれる溶液を言うのであって、塩成分としてはNaCl、 NaHCO3、 KCl、 K2HPO4、 MgCl2、CaCl2、Na2SO4等であって、望ましくはNaCl、NaHCO3、K2HPO4、CaCl2を含有する体液である。疑似体液の塩濃度は正常な体液中の濃度から10倍濃度の範囲であって、それらの塩を含む水溶液に製造されたコラーゲンを浸漬する。浸漬時間は1日以上で、長いほど多量のアパタイトをコートすることが出来る。浸漬温度4〜40℃の範囲で行うが、コラーゲンの種類によっては浸漬時に変性を起こす可能性があるため、使用するコラーゲンの変性温度より低い温度で浸漬を行う必要がある。望ましくは可能な限り高い温度でコートする事で、短時間にコートを終了させることが出来る。
【0058】
次に、配向性の制御という観点で説明する。コラーゲン又はコラーゲン基板に対して、骨芽細胞を播種する方法、カルシウム水溶液とリン酸水溶液に交互浸漬する方法等の何れの場合であっても、用いるコラーゲン基板の配向性の方位、配向性の程度を制御することによって、コラーゲン/アパタイト配向性材料の配向性の方位と程度を制御することが可能である。
【0059】
このようにして得られたコラーゲン/アパタイト配向性材料は、コラーゲンと、前記コラーゲンの配向性の方位と略一致した配向性を有するアパタイトとからなり、前記アパタイトが、前記コラーゲン上、正確には、コラーゲン上、コラーゲンの表面及び/又は内部に生成・固定されている。すなわち、本発明のコラーゲン/アパタイト配向性材料は、上述の本発明のコラーゲン/アパタイト配向性材料の製造方法により得られることも可能である。
【0060】
本発明のコラーゲン/アパタイト配向性材料は、配向性を有するコラーゲンと、前記コラーゲン上、正確には、コラーゲン表面及び/又は内部に生成・固定されたアパタイトであって、前記コラーゲンの配向性の方位と略一致した配向性を有するアパタイトと、からなる。好ましい実施態様において、前記配向性が、一軸配向、らせん配向、二軸配向、二次元配向、三軸配向又は三次元配向である。このような種々の配向性を有するコラーゲン又は当該コラーゲンをコートした基板を準備することによって、前記コラーゲンの配向性の方位と略一致した配向性を有するアパタイトを、前記コラーゲン上、コラーゲンの表面及び/又は内部に生成・固定させることが可能である。コラーゲン上、コラーゲンの表面及び/又は内部にアパタイトが沈着することによって、上述の石灰化が生じる。したがって、好ましい態様において、本発明のコラーゲン/アパタイト配向性材料は、石灰化が生じていることも特徴である。このように石灰化が生じることにより、骨と類似な構造であり、また石灰化することで強度が上がることから(例えば、ピンセットでつまむと明らかである。)、生体内に設置する場合に有利である。また、従来技術の石灰化物についての配向化物は、アテロコラーゲン(コラーゲンの原料)に単に自己組織的に、アパタイトを配向させるものであり、コラーゲンの配向性の方位と略一致した配向性を有するアパタイトを、コラーゲンの表面及び/又は内部に生成・固定させたものではない。一方、本発明においては、アテロコラーゲンを配向させた状態でテンプレート状にしたものを、石灰化し、配向させている。すなわち、従来技術のものは、コラーゲンを糸と例え、染色をアパタイトの沈着と考えると、あたかも糸の一本一本を染色し、後は糸の方向を無視して、ぐちゃぐちゃに固めた状態のものとイメージできる一方で、本発明におけるものを、糸を一方向に束ねて(例えば、一方向に配向させてという意味)、それぞれを染色することで、出来上がったものも糸の方向は揃っているというようなイメージをすることができる。
したがって、従来種々の複合材料が検討されているものの、コラーゲンの配向性に着目して、あたかも実際の骨組織が有している構造に近づけるべく、本発明におけるようなコラーゲンの配向性の方位と略一致した配向性を有するアパタイトを、コラーゲンの表面及び/又は内部に生成・固定させる試みはこれまで存在しない。
【0061】
また、本発明のコラーゲン/アパタイト配向性材料の好ましい実施態様において、前記材料が、ミリメーターオーダー以上のマクロサイズである。また、好ましい実施態様において、前記配向性を有するコラーゲンが、金属、セラミックス、高分子材料、又は生体材料からなる基板にコートされている。なお、コートの方法は、特に限定されず、常法による。
【実施例】
【0062】
ここで、本発明の実施例を説明するが、本発明は、下記の実施例に限定して解釈されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であることは言うまでもない。
【実施例1】
【0063】
本発明の製造方法においてはまず、ミリメーターオーダー以上の配向性コラーゲン(基板)としてのコラーゲンジェルを準備した。コラーゲンジェルは濃度9.3mg/mlのラット尾由来I型コラーゲン溶液(BD社)を、内径0.38mmのノズルを介して38℃、pH7.4の燐酸緩衝生理食塩水(PBS)が入った皿容器に押し出しながら、ノズルをスライドすることにより、直径1mm程度、長さ20mm程度の糸状のコラーゲンジェルを得た。図1にPBS中で作製された直後の配向性を有するコラーゲンジェルの写真を示す。
【0064】
得られたコラーゲンジェルの配向性については、ラマン分光顕微鏡(フォトンデザイン社)により解析した。その際、連続発振アルゴンイオンレーザー Stabilite 2017(スペクトラフィジックス社)により励起波長を514.5nm とし、分光器はHR-320(Jovin Yvon社)、検出器はLN/CCD-1100-PB/UV AR/1 (Roper scientific社)を用いた。コラーゲン走行方向に対してレーザー光の偏光方向が平行方向と垂直方向についてamide I 及びmide IIIの強度で評価した結果が図2である。amide Iのピークはコラーゲン繊維に垂直に位置するC=O結合の振動によるもので、amide IIIのピークはコラーゲン繊維に平行と垂直に位置するC−N結合の振動によるものである。図2より、コラーゲン走行方向に対してレーザー光の偏光方向が平行方向のスペクトルは、1450cm-1付近のCH3変角振動によるピーク強度と比較すると、amideI(1670 cm-1)ピーク強度は垂直方向の方が平行方向よりも高かった。また、コラーゲン走行方向に対してレーザー光の偏光方向が垂直方向のスペクトルには、コラーゲン繊維に垂直に位置するC−N結合の振動のピークがラマンシフト1270-1300cm-1付近に現れた。即ち、コラーゲンゲル長軸方向にコラーゲン繊維が配向していることがわかった。
【0065】
作製した糸状の配向性コラーゲンジェルを対して、次の方法で骨芽細胞を播種することにより、コラーゲン(基板)の配向性の方位と略一致した配向性を有するアパタイトを、コラーゲン(基板)上にミリメーターオーダー以上のマクロサイズで生成・固定した。
【0066】
骨芽細胞には、マウス(生後0−2日齢)頭蓋冠初代骨芽細胞を用い、培地はMEM-α + 10% ウシ胎子血清 100U/mL ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシンにて1週間培養後、MEM-α + 10% ウシ胎子血清 100U/mL ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシン+50μg/ml アスコルビン酸 + 10mM β-グリセロリン酸 + 50nM デキサメタゾンにて3週間培養した。培地交換は2回/週とした。播種密度は2×104/mL、環境は37℃、5%CO2であった。培養ディッシュは35mmポリスチレンディッシュを用いた。
【0067】
図3は培養過程における、アリザリンレッドS染色結果を示す写真である。アリザリンレッドは、金属イオンと結合する性質によりカルシウム塩を染色するため、コラーゲンの石灰化を標識することができる。図3より、培養時間と共に糸状のコラーゲンジェルの石灰化が進んでいることがわかる。
【0068】
また、図4は4週間培養後のコラーゲン/アパタイト配向性材料のX線回折結果を示す図である。X解回折には透過型微小領域X線回折装置(R-AXIS BQ, Rigaku Co., Tokyo, Japan)を用い、線源はMo-Kα (λ=0.07107nm)、管電圧は50kV、管電流は90mA、コリメータはφ300μm、露光時間は1200秒とした。図4から、コラーゲン線維走行方向に対して平行方向と垂直方向について、(002)/(211)積分強度比を配向性の指標としているが、コラーゲン線維走行方向に対して平行方向では(002)面が顕著に配向していることがわかった。即ち、配向化コラーゲン(基板)上にアパタイトc軸を配列することに成功した。
【0069】
なお、配向性コラーゲン上で、骨芽細胞様細胞および骨芽細胞がコラーゲン配向方向に沿って配列して存在することも確認された。
【実施例2】
【0070】
次に、配向性を有するコラーゲン(基板)に対して、カルシウム溶液とリン酸溶液とに交互に浸漬させる方法により、コラーゲン/アパタイト配向性材料を製造した。
【0071】
実施例1で作製した糸状の配向性コラーゲンジェルを対して、カルシウム水溶液は200mM CaCl2/Tris-HCl aq (pH7.4)に、リン酸水溶液は120mM Na2HPO4aq に交互浸漬させた。より詳細な交互浸漬の工程は次の通りである。
【0072】
コラーゲン(基板)を37℃のカルシウム水溶液に2分間浸漬後、超純水中にて30秒間洗浄し、その後リン酸水溶液に2分浸漬、30秒間超純水中で洗浄した。これを1サイクルとして30サイクル行った。
【0073】
得られたコラーゲン/アパタイト配向性材料の配向性についての解析には、透過型微小領域X線回折装置(R-AXIS BQ, Rigaku Co., Tokyo, Japan)を用い、線源はMo-Kα (λ=0.07107nm)、管電圧は50kV、管電流は90mA、コリメータはφ800μm、露光時間は1200秒とした。
【0074】
図5は、30回交互浸漬後のコラーゲン/アパタイト配向性材料のX線回折結果を示す図である。図5から、コラーゲン線維走行方向に対して平行方向と垂直方向について、(002)/(211)積分強度比を配向性の指標としているが、コラーゲン線維走行方向に対して平行方向では(002)面が顕著に配向していることがわかった。即ち、配向化コラーゲン(基板)上にアパタイトc軸を配列することに成功した。すなわち、交互浸漬においてもXRDでピーク確認を行っており((002),(211),(310))(アパタイトのピーク)、これによって石灰化が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、骨等の生体硬組織をはじめとする生体内組織の骨欠損をはじめとする疾患の治療や、再生医歯学分野(特に、整形外科学、脳外科学、歯学)や基礎医学の分野への貢献が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配向性を有するコラーゲンを準備し、骨芽細胞又は間葉系幹細胞を播種することにより、前記コラーゲンの配向性の方位と略一致した配向性を有するアパタイトを、前記コラーゲンの表面及び/又は内部に生成・固定させることを特徴とするコラーゲン/アパタイト配向性材料の製造方法。
【請求項2】
前記骨芽細胞が、骨芽細胞様細胞、又は生体より採取した骨芽細胞である請求項1記載の方法。
【請求項3】
配向性を有するコラーゲンを準備し、カルシウムイオンを含み、実質的にリン酸イオンを含まない溶液と、リン酸イオンを含み、実質的にカルシウムイオンを含まない水溶液とに、前記コラーゲンを交互に浸漬することにより、前記コラーゲンの配向性の方位と略一致した配向性を有するアパタイトを、前記コラーゲンの表面及び/又は内部に生成・固定させることを特徴とするコラーゲン/アパタイト配向性材料の製造方法。
【請求項4】
前記カルシウムイオンを含み、実質的にリン酸イオンを含まない溶液が、塩化カルシウム水溶液、酢酸カルシウム水溶液、塩化カルシウムのトリス緩衝溶液、酢酸カルシウムのトリス緩衝溶液、又はこれらの混合溶液である請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記リン酸イオンを含み、実質的にカルシウムイオンを含まない水溶液が、リン酸水素ナトリウム水溶液、リン酸二水素ナトリウムアンモニウム水溶液、リン酸水素ナトリウムのトリス緩衝溶液、リン酸二水素ナトリウムアンモニウムのトリス緩衝溶液、又はこれらの混合溶液である請求項3又は4項に記載の方法。
【請求項6】
配向性を有するコラーゲンと、前記コラーゲンの表面及び/又は内部に生成・固定されたアパタイトであって、前記コラーゲンの配向性の方位と略一致した配向性を有するアパタイトと、からなることを特徴とするコラーゲン/アパタイト配向性材料。
【請求項7】
前記配向性が、一軸配向、らせん配向、二軸配向、二次元配向、三軸配向又は三次元配向であることを特徴とする請求項6記載の材料。
【請求項8】
前記材料が、ミリメーターオーダー以上のマクロサイズである請求項6又は7項に記載の材料。
【請求項9】
前記配向性を有するコラーゲンが、金属、セラミックス、高分子材料、又は生体材料からなる基板にコートされていることを特徴とする請求項6〜8項のいずれか1項に記載の材料。
【請求項10】
前記材料において、前記コラーゲンの表面及び/又は内部に前記アパタイトが沈着することによって、石灰化が生じていることを特徴とする請求項6〜9項のいずれか1項に記載の材料。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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