説明

コリオリ流量計内を流れる物質の不均一性を高速検出するための方法及び計測器電子機器

【課題】流量計内を流れる流体物質中の流れ異常を検出するための計測器電子機器及び方法を提供する。
【解決手段】計測器電子機器20は、少なくとも第1のセンサ信号210及び第2のセンサ信号211を含む流体物質の振動応答を受信するためのインターフェイス201及びインターフェイス201と通信する処理システム203を備える。処理システム203は、インターフェイス201から振動応答を受信し、第1のセンサ信号210から90度の位相シフト213を生成し、少なくとも第1のセンサ信号210と90度の位相シフト213を使用して少なくとも1つの流量特性を生成し、少なくとも1つの流量特性を少なくとも1つの異常プロファイルと比較し、少なくとも1つの流量特性が異常プロファイルの範囲内にある場合に振動応答のシフトを検出し、検出の結果として異常状態を示すように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量計内を流れる流体物質中の流れ異常を検出するための計測器電子機器及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1985年1月1日にJ.E.スミスらに発行された米国特許第4,491,025号及び1982年2月11日のJ.E.スミスへのRe.31,450で開示されているように、コリオリ質量流量計を使用して、パイプライン内を流れる物質の質量流量及び他の情報を測定することが知られている。これらの流量計は異なる構成の1つ又は複数の流管を有する。それぞれの導管形状は、例えば、単純な曲げモード、ねじれモード、放射モード及び結合モードを含む一組の固有振動モードを持つものとみなすことができる。典型的なコリオリ質量流量測定用途において、物質が導管内を流れるとき、導管形状は1つ又は複数の固有振動モードで励振され、導管の運動が、導管に沿って間隔をあけて並ぶ点において測定される。
【0003】
物質充填系の振動モードは、一部には、流管の組合せ質量と流管内の物質とにより規定される。物質は流量計の入口側の接続パイプラインから流量計内に流れ込む。次いで、物質は1つ又は複数の流管内を通されてから流量計を出て、出口側に接続されているパイプラインに入る。
【0004】
駆動装置は力を流管に加える。この力は流管を振動させる。流量計内を物質が流れない場合、流管に沿って置かれるすべての点は同一位相で振動する。物質が流管内を流れ始めると、コリオリの加速度により、流管に沿って置かれるそれぞれの点は、流管に沿って置かれる他の点に関して異なる位相を持つ。流管の入口側の位相は駆動装置より遅れるが、出口側の位相は駆動装置より進む。センサは流管上の異なる点に置かれ、異なる点における流管の運動を表す正弦波信号を発生する。2つのセンサ信号間の位相差は、1つ又は複数の流管を流れる物質の質量流量に比例する。従来技術による一つのアプローチでは、センサ信号の位相差を決定するために、離散フーリエ変換(DFT)又は高速フーリエ変換(FFT)が使用される。質量流量を求めるために、流管アセンブリの位相差と振動周波数応答とが使用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術による一つのアプローチでは、振動駆動装置システムに送られる周波数を使用することなどにより、ピックオフ信号周波数を決定するために独立の基準信号が使用される。他の従来技術によるアプローチにおいては、ピックオフセンサにより生成される振動応答周波数を、当該周波数をノッチフィルタの中心に合わせることにより決定することができ、従来技術の流量計では、ノッチフィルタのノッチをピックオフセンサ周波数に保持しようと試みる。流量計内の流体物質が一様であって、結果として得られるピックオフ信号周波数が比較的安定している静止条件の下では、この従来技術はかなりうまく機能する。しかし、従来技術の位相測定は、流体物質が液体と固体を含む、又は液体流物質中に気泡が入っている2相流など、流体物質が一様でない場合に問題がある。このような状況では、従来技術で決定された周波数は急激に変動し得る。高速で大きな周波数変化という条件の期間には、ピックオフ信号がフィルタ帯域幅の外に出てしまい、位相及び周波数の測定が不正確になる可能性がある。これは、更に、流量計が空と満杯の状態を交互にとる繰り返し動作をする空−満杯−空のバッチングにおいて問題となる。また、センサの周波数が急激に動く場合、復調プロセスは、実際の又は測定された周波数に追いつけず、復調が不正な周波数で行われることになる。決定された周波数が正しくない又は不正確である場合に、密度、体積流量などのその後導かれた値も正しくなく、不正確であることは理解されるとおりである。更に、誤差は、その後の流量特性決定に混入し得る。
【0006】
従来技術では、ピックオフ信号はノッチフィルタを実施するよう2値化され、デジタル的に操作される。ノッチフィルタは狭い帯域の周波数のみを受け付ける。したがって、ターゲット周波数が変化していると、ノッチフィルタは、一定期間、ターゲット信号を追跡できない場合がある。典型的には、デジタルノッチフィルタの実装は、変動するターゲット信号の追跡に1〜2秒を要する。従来技術では周波数を決定するのに時間を要するため、結果として、周波数及び位相の決定に誤差が含まれるだけでなく、誤差測定は、誤差及び/又は2相流が実際に発生するタイムスパンを超えるタイムスパンを包含する。これは、ノッチフィルタ実装の応答が比較的低速であることに起因する。
【0007】
その結果、従来技術の流量計は、流量計内の流体物質の2相流においてピックオフセンサ周波数を正確に、迅速に又は十分に追跡又は決定することがきない。したがって、従来技術では、決定されたピックオフ周波数を使用して位相差を導くので、位相決定は同様に遅くて誤差を生じやすい。したがって、周波数決定の誤差が位相決定に混入する。その結果、周波数決定及び位相決定の際の誤差が増大し、質量流量を決定する際の誤差増大につながる。それに加えて、決定された周波数値を使用して質量流量及び密度値(密度は、1/周波数の平方にほぼ等しい)を決定するので、周波数決定の誤差が密度決定で繰り返され又は混入する。これは、更に、体積流量の決定についても当てはまる。その場合、体積流量は密度で割った質量流量に等しい。
【0008】
多くの流体用途において、異常が流体物質中に混入される可能性がある。多相流は、典型的には、流れの中に複数の物質を含む。複数の物質は、望ましい場合もあれば、流体物質中の無用な物質又は部分(つまり、異常)を含む望ましくない場合もある。流体物質中の望ましい及び/又は望ましくない異常を検出して定量化できれば好都合であろう。異常検出は、そのような異常を効果的に取り除き又は予防することを可能にし、又は異常を望ましいレベルに抑えることを可能にする。
【0009】
異常は、流体物質中に混入された気体の泡又は気泡を含み得る。例として、水中の気泡又は油井産出物中の天然ガスの泡がある。異常は流体物質中の異質液体を含み得る。例えば、水は油井産出物の原油中に存在し得る。異常は流体物質中の固体を含み得る。例えば、流体物質は、破損して取れたり、流体処理設備のパイプ、ポンプ、弁などから薄片として剥がれたりした金属片を含むことができる。理解されるとおり、流体物質中の異常は、上述の気体、液体及び固体の異常の組合せを含み得る。
【0010】
異常は、とりわけ、誤った質量流量を流量計に生じさせる可能性がある。流動液体に異常が存在していても、流量計は流動液体の質量流量を正確に測定することが極めて望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
流体物質における流れの異常を検出するための計測器電子機器及び方法の実現を通して、上記及び他の問題が解決され、技術の進歩が達成される。
流量計内を流れる流体物質中の流れの異常を検出するための計測器電子機器が、本発明の一つの実施の形態により提供される。計測器電子機器は、少なくとも第1のセンサ信号と第2のセンサ信号とを含む流体物質の振動応答を受信するためのインターフェイス、及びインターフェイスと通信する処理システムを備える。処理システムは、インターフェイスから振動応答を受信し、第1のセンサ信号から90度の位相シフトを生成し、少なくとも第1のセンサ信号と90度の位相シフトとを使用して少なくとも1つの流量特性を生成するように構成される。処理システムは、更に、少なくとも1つの流量特性を少なくとも1つの異常プロファイルと比較し、少なくとも1つの流量特性が異常プロファイルの範囲内にある場合に振動応答のシフトを検出し、その検出の結果として異常状態を示すように構成される。
【0012】
流量計内を流れる流体物質中の流れの異常を検出するための方法が、本発明の一つの実施の形態により提供される。この方法は、流量計から振動応答を受信するステップを含む。振動応答は、少なくとも第1のセンサ信号と第2のセンサ信号とを含む。この方法は、更に、第1のセンサ信号から90度の位相シフトを生成するステップと、少なくとも第1のセンサ信号と90度の位相シフトとを使用して少なくとも1つの流量特性を生成するステップとを含む。この方法は、更に、少なくとも1つの流量特性を少なくとも1つの異常プロファイルと比較するステップと、少なくとも1つの流量特性が異常プロファイルの範囲内にある場合に振動応答のシフトを検出するステップと、その検出の結果として異常状態を示すステップとを含む。
【0013】
流量計内を流れる流体物質中の流れの異常を検出するための方法が、本発明の一つの実施の形態により提供される。この方法は、流量計から振動応答を受信するステップを含む。振動応答は、少なくとも第1のセンサ信号と第2のセンサ信号とを含む。この方法は、更に、第1のセンサ信号から90度の位相シフトを生成するステップと、少なくとも第1のセンサ信号と90度の位相シフトとを使用して少なくとも1つの流量特性を生成するステップとを含む。この方法は、更に、少なくとも1つの流量特性を少なくとも1つの気体異常プロファイルと比較するステップと、少なくとも1つの流量特性が気体異常プロファイルの範囲内にある場合に振動応答のシフトを検出するステップと、その検出の結果として気泡計数をインクリメントするステップとを含む。
【0014】
発明の態様
計測器電子機器の一つの態様において、インターフェイスは、センサ信号を2値化するように構成されたデジタイザを備える。
【0015】
計測器電子機器の他の態様では、処理システムは、更に、受信するステップ、生成するステップ、比較するステップ、検出するステップ及び示すステップを繰り返し実行するように構成される。
【0016】
計測器電子機器の更に他の態様では、流量計はコリオリ流量計を含む。
計測器電子機器の更に他の態様では、流量計は振動密度計を含む。
計測器電子機器の更に他の態様においては、少なくとも1つの流量特性は周波数応答を含む。
【0017】
計測器電子機器の更に他の態様では、少なくとも1つの流量特性は位相差応答を含み、処理システムは、更に、90度の位相シフト、第1のセンサ信号及び第2のセンサ信号を使用して位相差応答を計算するように構成される。
【0018】
計測器電子機器の更に他の態様では、少なくとも1つの流量特性は位相差応答を含み、処理システムは、更に、第2のセンサ信号から第2の90度の位相シフトを生成し、90度の位相シフト、第2の90度の位相シフト、第1のセンサ信号及び第2のセンサ信号を使用して位相差応答を計算するように構成される。
【0019】
計測器電子機器の更に他の態様では、少なくとも1つの流量特性はセンサ信号時間遅延応答を含む。
計測器電子機器の更に他の態様では、少なくとも1つの流量特性は質量流量応答を含む。
【0020】
計測器電子機器の更に他の態様では、少なくとも1つの流量特性は密度応答を含む。
計測器電子機器の更に他の態様では、示すステップは、固体異常を示すステップを含む。
【0021】
計測器電子機器の更に他の態様では、示すステップは、異質液体異常を示すステップを含む。
計測器電子機器の更に他の態様では、示すステップは、気体異常を示すステップを含む。
【0022】
計測器電子機器の更に他の態様では、示すステップは、気泡異常を示すステップを含む。
計測器電子機器の更に他の態様では、示すステップは、異常アラーム状態を設定するステップを含む。
【0023】
計測器電子機器の更に他の態様では、示すステップは、異常計数をインクリメントするステップを含む。
方法の他の態様において、この方法は、更に、受信するステップ、生成するステップ、比較するステップ、検出するステップ及び示すステップを繰り返し実行することを含む。
【0024】
方法の他の態様では、流量計はコリオリ流量計を含む。
方法の更に他の態様では、流量計は振動密度計を含む。
方法の更に他の態様では、少なくとも1つの流量特性は更に周波数応答を含む。
【0025】
方法の更に他の態様では、少なくとも1つの流量特性は更に位相差応答を含み、少なくとも1つの流量特性を生成するステップは、更に、90度の位相シフト、第1のセンサ信号及び第2のセンサ信号を使用して位相差応答を計算するステップを含む。
【0026】
方法の更に他の態様では、少なくとも1つの流量特性は位相差応答を含み、少なくとも1つの流量特性を生成するステップは、更に、第2のセンサ信号から第2の90度の位相シフトを生成するステップと、90度の位相シフト、第2の90度の位相シフト、第1のセンサ信号及び第2のセンサ信号を使用して位相差応答を計算するステップとを含む。
【0027】
方法の更に他の態様では、少なくとも1つの流量特性は更にセンサ信号時間遅延応答を含む。
方法の更に他の態様では、少なくとも1つの流量特性は更に質量流量応答を含む。
【0028】
方法の更に他の態様では、少なくとも1つの流量特性は更に密度応答を含む。
方法の更に他の態様では、示すステップは、固体異常を示すステップを含む。
方法の更に他の態様では、示すステップは、異質液体異常を示すステップを含む。
【0029】
方法の更に他の態様では、示すステップは、気体異常を示すステップを含む。
方法の更に他の態様では、示すステップは、気泡異常を示すステップを含む。
方法の更に他の態様では、示すステップは、異常アラーム状態を設定するステップを含む。
【0030】
方法の更に他の態様では、示すステップは、異常計数をインクリメントするステップを含む。
同じ参照番号は、すべての図面上で同じ要素を表す。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一つの例におけるコリオリ流量計を示す図である。
【図2】本発明の一つの実施の形態による計測器電子機器を示す図である。
【図3】本発明の一つの実施の形態によりコリオリ流量計でセンサ信号を処理する方法の流れ図である。
【図4】本発明の一つの実施の形態による計測器電子機器を示す図である。
【図5】本発明の一つの実施の形態によりコリオリ流量計で第1及び第2のセンサ信号を処理する方法の流れ図である。
【図6】本発明の一つの実施の形態による処理システムの一部のブロック図である。
【図7】本発明の一つの実施の形態によるヒルベルト変換ブロックの詳細を示す図である。
【図8】本発明の一つの実施の形態による分析ブロックの2つの独立分岐のブロック図である。
【図9】本発明の一つの実施の形態による分析ブロックの2つの独立分岐のブロック図である。
【図10】通常状態での流量計のピックオフセンサ信号のパワースペクトル密度のグラフである。
【図11】単一位相シフトの実施の形態によるヒルベルト変換ブロックを示す図である。
【図12】単一位相シフトの実施の形態の分析ブロックを示す図である。
【図13】それぞれの時間差(Δt)値が比較される、従来技術と比べた本発明のセンサ処理を示す図である。
【図14】本発明の他の実施の形態による計測器電子機器を示す図である。
【図15】周波数流量特性の上向きのスパイクが気泡などの流体物質中の異常を表す、時間に対する周波数応答のグラフである。
【図16】時間遅延流量特性の下向きのスパイクが流体物質中の異常を表す、時間に対する時間遅延のグラフである。
【図17】流体物質中の空気の空隙率が小さい場合の、時間に対する周波数応答を示す図である。
【図18】水に混入空気を加えた場合の流体比重(SG)に対する駆動周波数のグラフである。
【図19】1〜7のSG範囲におけるSGに対する駆動周波数のグラフである。
【図20】本発明の一つの実施の形態による流量計内を流れる流体物質での流れの異常を検出するための方法の流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1〜図20及び以下の説明は、当業者に、本発明の最良の態様を作り、使用する方法を教示する特定の例を示している。発明の原理を教示するため、いくつかの従来の態様が簡略化され又は省略されている。当業者であれば、本発明の範囲内に入る例からの変更形態を理解することができる。当業者であれば理解するように、後述の特徴を様々な方法で組み合わせることにより、本発明の複数の変更形態を形成することができる。その結果、本発明は、後述の特定の例に限定されるものではなく、請求項及びその等価物によってのみ限定される。
【0033】
図1は、計測器アセンブリ10及び計測器電子機器20を備えるコリオリ流量計5を示す。計測器アセンブリ10は加工材料の質量流量及び密度に応答する。計測器電子機器20はリード線100を介して計測器アセンブリ10に接続され、経路26により密度、質量流量及び温度情報を供給するとともに、本発明に関係しない他の情報も供給する。コリオリ流量計の構造が説明されるが、コリオリ質量流量計が備える追加の測定機能なしに本発明を振動管密度計として実現することも可能であることは当業者には明白であろう。
【0034】
計測器アセンブリ10は、一対のマニホールド150及び150’、フランジネック110及び110’を有するフランジ103及び103’、一対の平行流管130及び130’、駆動機構180、温度センサ190、並びに一対の速度センサ170L及び170Rを備える。流管130及び130’は、流管取り付けブロック120及び120’のところで互いに向かって合流する2つの本質的にまっすぐな入口脚131及び131’並びに出口脚134及び134’を備える。流管130及び130’は、その長さに沿って2つの対称的位置で曲がり、その長さ全体にわたって本質的に平行である。ブレースバー140及び140’は、それぞれの流管が振動する際の中心となる軸W及びW’を規定するために使用される。
【0035】
流管130及び130’の側脚131、131’及び134、134’は、流管取り付けブロック120及び120’に固定される形で取り付けられ、これらのブロックは、次いで、マニホールド150及び150’に固定される形で取り付けされる。これは、コリオリ計測器アセンブリ10を通る、連続的で閉じた材料経路を形成する。
【0036】
穴102及び102’を有するフランジ103及び103’が、入口端104及び出口端104’を介して、測定されている加工材料を運ぶ加工ライン(図に示されていない)に接続された場合、材料は、フランジ103内のオリフィス101を介して計測器の端部104に入り、マニホールド150を通って、表面121を有する流管取り付けブロック120に導かれる。マニホールド150内で材料は分割され、流管130及び130’に通される。流管130及び130’から出た後、加工材料はマニホールド150’内で単一の流れに再びまとめられ、これ以降、ボルト穴102’を有するフランジ103’により加工ライン(図示せず)に接続された出口端104’に送られる。
【0037】
流管130及び130’が選択され、曲げ軸W−W’及びW’−W’に関して実質的に同じ質量分布と慣性モーメントとヤング率とをそれぞれ有するように、流管取り付けブロック120及び120’に適宜取り付けられる。これらの曲げ軸はブレースバー140及び140’を通る。流管のヤング率は温度により変化するので、また、この変化は流れ及び密度の計算に影響を及ぼすため、抵抗温度検出器(RTD)190が流管130’に取り付けられ、流管の温度を連続的に測定する。流管の温度、したがって、流れる所定の電流についてRTD間に現れる電圧は、流管を通過する物質の温度により決まる。流管温度の変化による流管130及び130’の弾性率の変化を補正するよう、RTD間に現れる温度依存電圧が、計測器電子機器20によりよく知られている方法で使用される。RTDはリード線195により計測器電子機器20に接続される。
【0038】
両方の流管130及び130’は、駆動装置180により、それぞれの曲げ軸W及びW’に関して対向方向に、流量計の第1の位相ずれ曲げモードと呼ばれるモードで駆動される。この駆動機構180は、流管130’に取り付けられた磁石と、流管130に取り付けられて両方の流管を振動させるために交流が流される対向するコイルなどの多くのよく知られている配列のうちの1つを含むことができる。好適な駆動信号が、リード線185を介して計測器電子機器20により駆動機構180に加えられる。
【0039】
計測器電子機器20は、リード線195上でRTD温度信号を受け取るとともに、リード線165L及び165R上に現れる左及び右速度信号を受け取る。計測器電子機器20は、リード185上に現れる駆動信号を出力して要素180を駆動し、管130及び130’を振動させる。計測器電子機器20は、左右の速度信号及びRTD信号を処理して、計測器アセンブリ10を通る物質の質量流量及び密度を計算する。この情報は、他の情報とともに、経路26上で計測器電子機器20により利用手段29に与えられる。
【0040】
図2は、本発明の一つの実施の形態による計測器電子機器20を示す。計測器電子機器20はインターフェイス201及び処理システム203を備えることができる。計測器電子機器20は、ピックオフ/速度センサ信号などの第1及び第2のセンサ信号を計測器アセンブリ10から受信する。計測器電子機器20は第1及び第2のセンサ信号を処理して、計測器アセンブリ10内を流れる流体物質の流量特性を求める。例えば、計測器電子機器20は、例えば、センサ信号から位相差、周波数、時間差(Δt)、密度、質量流量及び体積流量のうちの1つ又は複数を決定することができる。それに加えて、他の流量特性も、本発明により決定することができる。この決定については後述する。
【0041】
位相差決定及び周波数決定は、従来技術におけるそのような決定よりもずっと高速であり、また正確で信頼性が高い。一つの実施の形態では、位相差決定及び周波数決定は、周波数基準信号を必要とすることなく、1つのセンサ信号のみの位相シフトから直接導かれる。これにより、流量特性を計算するために要する処理時間が短縮されて好都合である。他の実施の形態では、位相差は両方のセンサ信号の位相シフトから導かれるが、周波数は1つの位相シフト信号のみから導かれる。これにより、両流量特性の精度が高まり、また両流量特性を従来技術よりもかなり速く決定できる。
【0042】
従来技術の周波数決定方法は、典型的には実行に1〜2秒を要する。対照的に、本発明による周波数決定は、50ミリ秒(ms)という短時間で実行できる。処理システムの種類及び構成、振動応答のサンプリング速度、フィルタサイズ、デシメーション率などに応じて、いっそう高速な周波数決定が考えられる。50msの周波数決定速度においては、本発明による計測器電子機器20は、従来技術に比べて約40倍高速であり得る。
【0043】
インターフェイス201は、図1のリード線100を介して速度センサ170L及び170Rのうちの一方からセンサ信号を受信する。インターフェイス201は、任意の形の出力書式設定、増幅、バッファリングなど、必要な又は望ましい信号調整を実行できる。代りに、信号調整の一部又は全部は処理システム203において実行できる。
【0044】
それに加えて、インターフェイス201は、計測器電子機器20と外部デバイスとの間の通信を可能にすることができる。インターフェイス201は任意の形態の電子通信、光通信又は無線通信を利用できる。
【0045】
一つの実施の形態におけるインターフェイス201はデジタイザ202と結合され、センサ信号はアナログセンサ信号を含む。デジタイザ202はアナログセンサ信号をサンプリングし、デジタル化してデジタルセンサ信号を出力する。デジタイザ202は、更に、必要なデシメーションも実行することができ、その場合、必要な信号処理量を減らして処理時間を短縮するために、デジタルセンサ信号はデシメートされる。デシメーションについては後述する。
【0046】
処理システム203は計測器電子機器20の動作を行い、流量計アセンブリ10からの流量測定結果を処理する。処理システム203は1つ又は複数の処理ルーチンを実行し、それにより、流量測定結果を処理して1つ又は複数の流量特性を出力する。
【0047】
処理システム203は、汎用コンピュータ、マイクロプロセシングシステム、論理回路或いは他の任意の汎用の又はカスタマイズされた処理デバイスを備えることができる。処理システム203は複数の処理デバイスに分散させることができる。処理システム203は、記憶装置システム204などの、任意の形の一体型の又は独立の電子記憶媒体を備えることができる。
【0048】
処理システム203はセンサ信号210を処理し、センサ信号210から1つ又は複数の流量特性を決定する。1つ又は複数の流量特性は、例えば、位相差、周波数、時間差(Δt)、質量流量及び/又は流体物質の密度を含むことができる。
【0049】
図示されている実施の形態においては、処理システム203は、2つのセンサ信号210及び211並びに単一のセンサ信号位相シフト213から流量特性を決定する。処理システム203は、2つのセンサ信号210及び211並びに単一の位相シフト213から少なくとも位相差と周波数とを決定することができる。その結果、本発明による処理システム203によって、(上流及び下流のピックオフ信号のうちの1つのような)第1の位相シフトセンサ信号又は第2の位相シフトセンサ信号が処理され、流体物質について位相差、周波数、時間差(Δt)及び/又は質量流量を決定することができる。
【0050】
記憶装置システム204は、流量計パラメータ及びデータ、ソフトウェアルーチン、定数値並びに変数値を格納することができる。一つの実施の形態では、記憶装置システム204は処理システム203により実行されるルーチンを含む。一つの実施の形態においては、記憶装置システム204は、位相シフトルーチン212、位相差ルーチン215、周波数ルーチン216、時間差(Δt)ルーチン217及び流量特性ルーチン218を格納する。
【0051】
一つの実施の形態では、記憶装置システム204は、コリオリ流量計5を動作させるために使用される変数を格納する。一つの実施の形態における記憶装置システム204は、速度/ピックオフセンサ170L及び170Rから受け取った第1のセンサ信号210及び第2のセンサ信号211などの変数を格納する。それに加えて、記憶装置システム204は、流量特性を決定するために生成される90度位相シフト213を格納することができる。
【0052】
一つの実施の形態においては、記憶装置システム204は、流量測定結果から得られた1つ又は複数の流量特性を格納する。一つの実施の形態の記憶装置システム204は、位相差220、周波数221、時間差(Δt)222、質量流量223、密度224及び体積流量225などの流量特性を格納するが、これらはすべてセンサ信号210から決定される。
【0053】
位相シフトルーチン212は、入力信号つまりセンサ信号210に90度位相シフトを実行する。一つの実施の形態の位相シフトルーチン212はヒルベルト変換(後述)を実行する。
【0054】
位相差ルーチン215は、単一の90度位相シフト213を使用して位相差を決定する。位相差を計算するために、追加の情報も使用できる。一つの実施の形態の位相差は、第1のセンサ信号210、第2のセンサ信号211及び90度位相シフト213から計算される。決定された位相差は記憶装置システム204の位相差220に格納できる。位相差は、90度位相シフト213から決定される場合、従来技術に比べてかなり高速に計算され、求められる。これは、大きな流量を有し又は多相流が生じる流量計用途では重大な差をもたらし得る。それに加えて、位相差はセンサ信号210又は211の周波数に無関係に決定され得る。更に、位相差は周波数と無関係に決定されるので、位相差の誤差成分は、周波数決定の誤差成分を含まない、つまり、位相差測定における複合誤差はない。その結果、位相差誤差は従来技術の位相差に比べて低減される。
【0055】
周波数ルーチン216は、90度位相シフト213から周波数(第1のセンサ信号210又は第2のセンサ信号211により示されるような周波数)を決定する。決定された周波数は記憶装置システム204の周波数221に格納できる。周波数は、単一の90度位相シフト213から決定される場合、従来技術に比べてかなり高速に計算され、求められる。これは、大きな流量を有し又は多相流が生じる流量計用途では重大な差をもたらし得る。
【0056】
時間差(Δt)ルーチン217は、第1のセンサ信号210と第2のセンサ信号211との間の時間差(Δt)を決定する。時間差(Δt)は記憶装置システム204の時間差(Δt)222に格納できる。時間差(Δt)は、実質的に、決定された周波数により除算された決定された位相を含み、したがって、質量流量を決定するために使用される。
【0057】
流量特性ルーチン218は、1つ又は複数の流量特性を決定することができる。流量特性ルーチン218は、例えば、これらの追加の流量特性を得るために、決定された位相差220及び決定された周波数221を使用することができる。例えば、質量流量又は密度などのこれらの決定に関して、追加の情報が必要とされることは理解されるとおりである。流量特性ルーチン218は、時間差(Δt)222から、したがって、位相差220及び周波数221から質量流量を決定することができる。質量流量を決定する公式は、チトロウらの米国特許第5,027,662号に掲載されており、参照により本明細書に援用される。質量流量は、計測器アセンブリ10内の流体物質の質量流量に関係する。同様に、流量特性ルーチン218は、更に、密度224及び/又は体積流量225も決定することができる。決定された質量流量、密度及び体積流量は、それぞれ、記憶装置システム204の質量流量223、密度224及び体積225に格納されることができる。それに加えて、計測器電子機器20により流量特性を外部デバイスに送信できる。
【0058】
図3は、本発明の一つの実施の形態によりコリオリ流量計でセンサ信号を処理する方法の流れ図300である。ステップ301で、第1及び第2のセンサ信号が受信される。第1のセンサ信号は、上流又は下流のピックオフセンサ信号を含むことができる。
【0059】
ステップ302で、センサ信号を調整することができる。一つの実施の形態において、調整は、雑音及び不要な信号を取り除くフィルタ処理を含むことができる。一つの実施の形態では、フィルタ処理は、コリオリ流量計5の予想基本周波数を中心とするバンドパスフィルタ処理を含むことができる。それに加えて、増幅、バッファリングなどの他の調整操作を実行できる。センサ信号がアナログ信号を含む場合、このステップは、更に、デジタルセンサ信号を出力するために実行される任意の形のサンプリング、デジタル化及びデシメーションを含むことができる。
【0060】
ステップ303において、単一の90度位相シフトが発生する。90度位相シフトはセンサ信号の90度位相シフトを含む。90度位相シフトは、任意の形の位相シフト機構又は演算により実行できる。一つの実施の形態では、デジタルセンサ信号に作用するヒルベルト変換を使用して90度位相シフトが実行される。
【0061】
ステップ304において、単一の90度位相シフトを使用して位相差が計算される。位相差を計算するために、追加の情報も使用できる。一つの実施の形態の位相差は、第1のセンサ信号、第2のセンサ信号及び単一の90度位相シフトから決定される。位相差は、振動する計測器アセンブリ10内のコリオリ効果に起因して見られる応答信号つまりピックオフセンサにおける位相差を含む。
【0062】
その結果得られる位相差は、計算に周波数値を必要とすることなく決定される。その結果得られる位相差は、周波数を使用して計算される位相差よりもかなり速く求めることができる。その結果得られる位相差は、周波数を使用して計算される位相差よりもかなり高い精度を有する。
【0063】
ステップ305で、周波数が計算される。有利なことに、本発明による周波数は90度位相シフトから計算される。一つの実施の形態における周波数では、90度位相シフト及びその90度位相シフトが導き出される、対応するセンサ信号を使用する。周波数は、第1のセンサ信号と第2のセンサ信号とのうちの1つの振動応答周波数である(2つのセンサ信号の周波数は動作期間には実質的に同一である)。周波数は、駆動装置180が発生する振動に対する1つ又は複数の流管の振動周波数応答を含む。
【0064】
こうして導き出された周波数は、独立の周波数基準信号を必要とすることなく得られる。周波数は、従来技術よりもかなり高速な動作において、単一の90度位相シフトから求められる。その結果得られる周波数は、従来技術で計算される周波数よりもかなり高い精度を有する。
【0065】
ステップ306において、流体物質の質量流量が計算される。質量流量は、ステップ304及び305で計算された、結果として得られる位相差と結果として得られる周波数とから計算される。それに加えて、質量流量計算は位相差及び周波数から時間差(Δt)を計算することができ、時間差(Δt)は、最終的には、質量流量を計算するために使用される。
【0066】
ステップ307で、密度を適宜決定することができる。密度は流量特性の1つとして決定することができ、例えば周波数から決定できる。ステップ308で、体積流量を適宜決定することができる。体積流量は流量特性の1つとして決定することができ、例えば、質量流量及び密度から決定できる。
【0067】
図4は、本発明の一つの実施の形態による計測器電子機器20を示す図である。図2と共通の要素は、同じ参照番号を共有する。
この実施の形態の計測器電子機器20は、第1のセンサ信号210及び第2のセンサ信号211を含む。処理システム203は、第1及び第2の(デジタル)センサ信号210及び211を処理し、それらの信号から1つ又は複数の流量特性を決定する。前述のように、1つ又は複数の流量特性は、流体物質に対する位相差、周波数、時間差(Δt)、質量流量、密度及び/又は体積流量を含むことができる。
【0068】
図示されている実施の形態では、処理システム203は、外部周波数測定を必要とすることなく、また外部周波数基準信号を必要とすることなく、2つのセンサ信号210及び211のみから流量特性を決定する。処理システム203は、2つのセンサ信号210及び211から少なくとも位相差及び周波数を決定する。
【0069】
すでに説明したように、記憶装置システム204は、位相シフトルーチン212、位相差ルーチン215、周波数ルーチン216、時間差(Δt)ルーチン217及び流量特性ルーチン218を格納する。記憶装置システム204は、第1のセンサ信号210及び第2のセンサ信号211を格納する。記憶装置システム204は、更に、流量特性を決定するよう、センサ信号から発生した第1の90度位相シフト213及び第2の90度位相シフトを格納する。すでに説明したように、記憶装置システム204は、位相差220、周波数221、時間差(Δt)222、質量流量223、密度224及び体積流量225を格納する。
【0070】
位相シフトルーチン212は、第1のセンサ信号210及び第2のセンサ信号211を含む入力信号に対し90度位相シフトを実行する。一つの実施の形態の位相シフトルーチン212はヒルベルト変換(後述)を実行する。
【0071】
位相差ルーチン215は、第1の90度位相シフト213及び第2の90度位相シフト214を使用して位相差を決定する。位相差を計算するために、追加の情報も使用できる。一つの実施の形態の位相差は、第1のセンサ信号210、第2のセンサ信号211、第1の90度位相シフト212及び第2の90度位相シフト213から計算される。すでに説明したように、決定された位相差は、記憶装置システム204の位相差220に格納できる。位相差は、第1及び第2の90度位相シフトを使用して決定される場合、従来技術に比べてかなり高速に計算され、求められる。これは、大きな流量を有し又は多相流が生じる流量計用途では重大な差をもたらし得る。それに加えて、位相差は、センサ信号210及び211の周波数に無関係に決定され得る。更に、位相差は周波数と無関係に決定されるので、位相差の誤差成分は、周波数決定の誤差成分の悪影響を受けない、つまり、位相差測定における複合誤差はない。その結果、位相差誤差は、従来技術の位相差に比べて低減される。
【0072】
周波数ルーチン216は、第1の90度位相シフト213及び第2の90度位相シフト214から周波数(第1のセンサ信号210又は第2のセンサ信号211により示されるような周波数)を決定する。前述のように、決定された周波数は記憶装置システム204の周波数221に格納できる。周波数は、第1及び第2の90度位相シフトを使用して決定される場合、従来技術に比べてかなり高速に計算され、求められる。これは、大きな流量を有し又は多相流が生じる流量計用途では重大な差をもたらし得る。
【0073】
時間差(Δt)ルーチン217は、第1のセンサ信号210と第2のセンサ信号211との間の時間差(Δt)を決定する。前述のように、時間差(Δt)は記憶装置システム204の時間差(Δt)222に格納できる。時間差(Δt)は、実質的に、決定された周波数により除算された決定された位相を含み、したがって、質量流量を決定するために使用される。
【0074】
流量特性ルーチン218は、前述のように、質量流量、密度及び/又は体積流量のうちの1つ又は複数から決定できる。
図5は、本発明の一つの実施の形態によりコリオリ流量計で第1及び第2のセンサ信号を処理する方法の流れ図500である。ステップ501で、第1のセンサ信号が受信される。一つの実施の形態では、第1のセンサ信号は上流又は下流のピックオフセンサ信号を含む。
【0075】
ステップ502で、第2のセンサ信号が受信される。一つの実施の形態では、第2のセンサ信号は下流又は上流のピックオフセンサ信号(つまり、第1のセンサ信号の反対)を含む。
【0076】
ステップ503において、センサ信号を調整することができる。一つの実施の形態において、調整は、雑音及び不要な信号を取り除くフィルタ処理を含むことができる。前述のように、一つの実施の形態では、フィルタ処理はバンドパスフィルタ処理を含むことができる。それに加えて、増幅、バッファリングなどの他の調整操作を実行できる。センサ信号がアナログ信号を含む場合、このステップは、更に、デジタルセンサ信号を出力するために実行される任意の形のサンプリング、デジタル化及びデシメーションを含むことができる。
【0077】
ステップ504において、第1の90度位相シフトが生成される。第1の90度位相シフトは第1のセンサ信号の90度位相シフトを含む。90度位相シフトは任意の形の機構又は演算により実行できる。一つの実施の形態では、デジタルセンサ信号に作用するヒルベルト変換を使用して、90度位相シフトが実行される。
【0078】
ステップ505において、第2の90度位相シフトが生成される。第2の90度位相シフトは第2のセンサ信号の90度位相シフトを含む。第1の90度位相シフトの場合のように、90度位相シフトは任意の形の機構又は演算により実行できる。
【0079】
ステップ506において、第1の90度位相シフト及び第2の90度位相シフトを使用して、第1のセンサ信号と第2のセンサ信号との間の位相差が計算される。位相差を計算するために、追加の情報も使用できる。一つの実施の形態では、位相差は、第1のセンサ信号、第2のセンサ信号、第1の90度位相シフト及び第2の90度位相シフトから決定される。位相差は、振動する計測器アセンブリ10内のコリオリ効果に起因して見られる応答信号、つまり2つのピックオフセンサにおける位相差を含む。
【0080】
その結果得られる位相差は、計算において周波数値を必要とすることなく決定される。その結果得られる位相差は、周波数を使用して計算される位相差よりもかなり速く求めることができる。その結果得られる位相差は、周波数を使用して計算される位相差よりもかなり高い精度を有する。
【0081】
ステップ507で、周波数が計算される。有利なことに、本発明による周波数は、第1の90度位相シフト及び第2の90度位相シフトから計算される。一つの実施の形態における周波数では、90度位相シフト及びその90度位相シフトが導き出される、対応するセンサ信号を使用する。周波数は、第1のセンサ信号と第2のセンサ信号とのうちの1つの振動応答周波数である(2つのセンサ信号の周波数は動作期間には実質的に同一である)。周波数は、駆動装置180が発生する振動に対する1つ又は複数の流管の振動周波数応答を含む。
【0082】
こうして導き出された周波数は、独立の周波数基準信号を必要とすることなく得られる。周波数は、従来技術よりもかなり高速な動作において、単一の90度位相シフトから求められる。その結果得られる周波数は、従来技術で計算される周波数よりも高い精度を有する。
【0083】
ステップ508で、流体物質の質量流量が計算される。質量流量は、ステップ506及び507で計算された、結果として得られる位相差と結果として得られる周波数とから計算される。それに加えて、質量流量計算は位相差及び周波数から時間差(Δt)を計算することができ、時間差(Δt)は質量流量を計算するために最終的に使用される。
【0084】
ステップ509において、前述のように、密度を適宜決定することができる。ステップ510において、前述のように、体積流量を適宜決定することができる。
図6は、本発明の一つの実施の形態による処理システム203の一部のブロック図600である。図において、ブロックは処理回路又は処理アクション/ルーチンを表している。ブロック図600は、ステージ1フィルタブロック601、ステージ2フィルタブロック602、ヒルベルト変換ブロック603及び分析ブロック604を含む。LPO及びRPO入力は、左ピックオフ信号入力及び右ピックオフ信号入力を含む。LPO又はRPOは、第1のセンサ信号を含むことができる。
【0085】
一つの実施の形態において、ステージ1フィルタブロック601及びステージ2フィルタブロック602は、処理システム203において実施されるデジタル有限インパルス応答(FIR)多相デシメーションフィルタを含む。これらのフィルタは、一方又は両方のセンサ信号をフィルタ処理又はデシメートし、フィルタ処理及びデシメートが同じ時間に且つ同じデシメーションレートで実行される最適な方法を提供する。代りに、ステージ1フィルタブロック601及びステージ2フィルタブロック602は、無限インパルス応答(IIR)フィルタ又は他の好適なデジタルフィルタ或いはフィルタプロセスを含むことができる。しかし、他のフィルタ処理プロセス及び/又はフィルタ処理の実施の形態が考えられ、本記述及び請求項の範囲内にあることは理解されるとおりである。
【0086】
図7は、本発明の一つの実施の形態によるヒルベルト変換ブロック603の詳細を示す。図示されている実施の形態では、ヒルベルト変換ブロック603はLPO分岐700及びRPO分岐710を含む。LPO分岐700はLPOフィルタブロック702に並列のLPO遅延ブロック701を含む。同様に、RPO分岐は、RPOフィルタブロック712と並列のRPO遅延ブロック711を含む。LPO遅延ブロック701及びRPO遅延ブロック711はサンプリング遅延を導入する。したがって、LPO遅延ブロック701及びRPO遅延ブロック711は、LPOフィルタブロック702及びRPOフィルタブロック712によってフィルタ処理されるLPO及びRPOデジタル信号サンプルよりも時間的に後の方にあるLPO及びRPOデジタル信号サンプルを選択する。LPOフィルタブロック702及びRPOフィルタブロック712は、入力されたデジタル信号サンプルに対し90度位相シフトを実行する。
【0087】
ヒルベルト変換ブロック603は、位相測定を行う第1のステップである。ヒルベルト変換ブロック603は、フィルタ処理されてデシメートされたLPO及びRPO信号を受信し、ヒルベルト変換を実行する。ヒルベルト変換は、90度位相シフトバージョンのLPO及びRPO信号を出力する。つまり、ヒルベルト変換は、元の同相(I)信号成分の直角(Q)成分を出力する。ヒルベルト変換ブロック603の出力は、元の同相(I)信号成分LPO I及びRPO Iとともに、新しい直角(Q)成分LPO Q及びRPO Qを提供する。
【0088】
ヒルベルト変換ブロック603への入力は、
【0089】
【数1】

【0090】
のように表すことができる。ヒルベルト変換を使用すると、出力は
【0091】
【数2】

【0092】
となる。元の項とヒルベルト変換の出力とを組み合わせると、
【0093】
【数3】

【0094】
が得られる。
図8及び9は、本発明の一つの実施の形態による分析ブロック604の2つの独立分岐のブロック図である。分析ブロック604は、周波数、微分位相及びデルタT(Δt)測定の最終ステージである。図8は、同相(I)成分及び直角(Q)成分から位相差を決定する第1の分岐を含む位相部分604aである。図9は、単一のセンサ信号の同相(I)成分及び直角(Q)成分から周波数を決定する周波数部分604bである。単一のセンサ信号は、図示されているように、LPO信号を含むことができ、又は代りに、RPO信号を含むことができる。
【0095】
図8の実施の形態では、分析ブロック604の位相部分604aは、結合ブロック801a及び801b、共役ブロック802、複素乗算ブロック803、フィルタブロック804及び位相角ブロック805を含む。
【0096】
結合ブロック801a及び801bは、センサ信号の同相(I)成分及び直角(Q)成分を受け取り、次へ送る。共役ブロック802はセンサ信号(ここではLPO信号)に複素共役を実行し、負の虚数信号を形成する。複素乗算ブロック803はRPO信号とLPO信号とを乗算し、以下の式(8)を実施する。フィルタブロック804は上述のFIRフィルタなどのデジタルフィルタを実施する。フィルタブロック804は、センサ信号の同相(I)成分及び直角(Q)成分から高調波分を取り除き、更には信号をデシメートするために使用される多相デシメーションフィルタを含むことができる。フィルタ係数は、例えば、1/10のデシメーションなどの、入力された信号のデシメーションを行うように選択することができる。位相角ブロック805は、LPO信号及びRPO信号の同相(I)成分及び直角(Q)成分から位相角を決定する。位相角ブロック805は、以下に示される式(11)を実施する。
【0097】
図8に示されている位相部分604aは、以下の式、すなわち
【0098】
【数4】

【0099】
を実施する。ただし、
【0100】
【数5】

【0101】
はLPOの複素共役である。
【0102】
【数6】

【0103】
と仮定すると
【0104】
【数7】

【0105】
を得る。その結果得られる微分位相角は、
【0106】
【数8】

【0107】
となる。
図9は、本発明による分析ブロック604の周波数部分604bのブロック図である。周波数部分604bは、左又は右のピックオフ信号(LPO又はRPO)に作用し得る。図示されている実施の形態の周波数部分604bは、結合ブロック901、複素共役ブロック902、サンプリングブロック903、複素乗算ブロック904、フィルタブロック905、位相角ブロック906、定数ブロック907及び除算ブロック908を含む。
【0108】
すでに説明したように、結合ブロック901は、センサ信号の同相(I)成分及び直角(Q)成分を受け取り、次へ送る。共役ブロック902は、センサ信号、ここではLPO信号に複素共役を実行し、負の虚数信号を形成する。遅延ブロック903はサンプリング遅延を周波数部分604bに導入し、したがって、時間的に古いデジタル信号サンプルを選択する。この古いデジタル信号サンプルは複素乗算ブロック904内の現在のデジタル信号と乗算される。複素乗算ブロック904はLPO信号とLPO共役信号とを乗算し、以下の式(12)を実施する。フィルタブロック905はすでに説明したFIRフィルタなどのデジタルフィルタを実施する。フィルタブロック905は、センサ信号の同相(I)成分及び直角(Q)成分から高調波分を取り除き、更には信号をデシメートするために使用される多相デシメーションフィルタを含むことができる。フィルタ係数は、例えば、1/10のデシメーションなどの、入力された信号のデシメーションを行うように選択することができる。位相角ブロック906は、LPO信号の同相(I)成分及び直角(Q)成分から位相角を決定する。位相角ブロック906は、以下の式(13)の一部を実施する。定数ブロック907は、式(14)に示されているように、2πで割ったサンプル速度Fを含む係数を与える。除算ブロック908は式(14)の除算を実行する。
【0109】
周波数部分604bは、以下の式、すなわち
【0110】
【数9】

【0111】
を実施する。したがって、2つの連続するサンプルの間の角度は、
【0112】
【数10】

【0113】
となり、これは左ピックオフの角周波数である。Hzへ変換すると、
【0114】
【数11】

【0115】
となる。ただし、「Fs」はヒルベルト変換ブロック603の速度である。前述の例では、「Fs」は約2kHzである。
図10は、通常状態での流量計におけるピックオフセンサ信号のパワースペクトル密度のグラフである。流量計の基本周波数はグラフの最も高いスパイクであり、約135Hzに位置する。図は、更に、周波数スペクトルの複数の他の大きなスパイクのあることも示している(第1の非基本モードは、基本モードの周波数の約1.5倍の周波数のねじりモードである)。これらのスパイクは流量計の高調波周波数を含み、更に、他の望ましくないセンサモード(つまり、ねじりモード、二次曲げモードなど)を含む。
【0116】
図11は、単一位相シフトの実施の形態による代替のヒルベルト変換ブロック603’を示す。この実施の形態では、ヒルベルト変換ブロック603’はLPO分岐1100及びRPO分岐1110を含む。LPO分岐1100はフィルタブロック702と並列の遅延ブロック701を含む。この実施の形態のRPO分岐1110は遅延ブロック701のみを含む。前のように、遅延ブロック701はサンプリング遅延を導入する。前のように、フィルタブロック702は、入力されたデジタル信号サンプルに対し90度位相シフトを実行する。代りに、ヒルベルト変換ブロック603’はRPO信号だけを位相シフトすることも可能であることは理解されるとおりである。
【0117】
この処理の実施の形態では、周波数と位相差とを求めるために、ただ1つのセンサ信号のヒルベルト変換/位相シフトを使用する(図2〜図3を参照)。これにより、位相測定を実行するために必要な計算量が著しく低減され、質量流量を求めるために必要な計算量が著しく低減される。
【0118】
この実施の形態では、ヒルベルト変換ブロック603’の出力は、左右のセンサ信号の両方ではなく、いずれか一方の直角(Q)成分を与える。以下の例では、LPO信号が位相シフトされる。すなわち
【0119】
【数12】

【0120】
となる。ヒルベルト変換を使用すると、出力は
【0121】
【数13】

【0122】
となる。LPOの元の項とヒルベルト変換の出力(つまり、90度位相シフト)とを組み合わせると、
【0123】
【数14】

【0124】
が得られる。ただし、RPOは同じままである。すなわち、
【0125】
【数15】

【0126】
である。
図12は、単一位相シフトの実施の形態の分析ブロック604a’を示す。この実施の形態の分析ブロック604a’は、1つの結合ブロック801、複素乗算ブロック803、ローパスフィルタブロック1201及び位相角ブロック805を含む。この実施の形態の分析ブロック604a’は、以下の式、すなわち
【0127】
【数16】

【0128】
を実施する。
ローパスフィルタブロック1201は、複素乗算ブロック803により出力される高周波成分を取り除くローパスフィルタを備える。ローパスフィルタブロック1201は、任意の形態のローパスフィルタ演算を実施することができる。乗算の結果は2つの項を生成する。(−ωt+ωt+φ)項が結合して簡単化され、位相のみのφ項(DC結果)が得られる。これは(−ωt)項と(ωt)項とが互いに相殺し合うからである。(ωt+ωt+φ)は周波数の2倍であり、(2ωt+φ)項に簡単化される。結果は2つの項の和なので、高い周波数(2ωt+φ)項を取り除くことができる。ここで注目する信号はDC項のみである。高い周波数(2ωt+φ)項は、ローパスフィルタを使用して結果から除去できる。ローパスフィルタのカットオフ周波数は、0から2ωまでのどの位置にあってもよい。
【0129】
フィルタ処理後、結果は
【0130】
【数17】

【0131】
になる。したがって、微分位相角は、
【0132】
【数18】

【0133】
となる。
2つのピックオフ信号ではなく、1つのピックオフ信号のヒルベルト変換をとることにより、有利なことに、コリオリ質量流量計における位相及び周波数の推定を実行するのに必要な計算負荷が低減される。したがって、位相及び周波数は、2つのセンサ信号を使用するが唯一つの90度位相シフトを使用して決定され得る。
【0134】
図13は、それぞれの時間差(Δt)値が比較される、従来技術と比べた本発明のセンサ処理を示す。グラフは、気体流(つまり、例えば気泡)を含む流体物質を示す。この条件の下で、流れ雑音は、位相及び周波数の計算速度の故に、新しいアルゴリズムにおいて実質的に低減される。グラフから、発明により求められた結果は、従来技術(Δt)の測定結果に反映される大きなピークと谷を示さないことがわかる。
【0135】
図14は、本発明の他の実施の形態による計測器電子機器20を示す。この実施の形態の計測器電子機器20は、すでに説明したように、インターフェイス201、デジタイザ202、処理システム203及び記憶装置システム204を備えることができる。インターフェイス201は、すでに説明したように、少なくとも第1のセンサ信号と第2のセンサ信号とを含む流体物質の振動応答を受信する。この実施の形態の処理システム203は、インターフェイス201から振動応答を受信し、第1のセンサ信号から90度の位相シフトを生成し、少なくとも第1のセンサ信号と90度の位相シフトとを使用して少なくとも1つの流量特性を生成するように構成される。第1のセンサ信号は、すでに説明したように、計測器アセンブリ10からの任意のピックオフセンサ信号を含むことができる。処理システム203は、更に、少なくとも1つの流量特性を少なくとも1つの異常プロファイルと比較し、少なくとも1つの流量特性が異常プロファイル内に入る場合に振動応答のシフトを検出し、その検出の結果として異常状態を示すように構成される。
【0136】
理解されるとおり、この図の計測器電子機器20は上述の様々な他のコンポーネント及び/又はルーチンを含むことができる。他の実施の形態と共通のコンポーネント及び/又はルーチンは、共通参照番号を共有する。
【0137】
計測器電子機器20は計測器アセンブリ10と通信することができ、計測器アセンブリ10は、少なくとも1つの周波数応答を生成する任意の形の流量計を備えることができる。一つの実施の形態では、計測器アセンブリ10はコリオリ流量計を備える。他の実施の形態では、計測器アセンブリ10は振動密度計を備える。
【0138】
この実施の形態の計測器電子機器20は処理ルーチンを格納して実行することができる。一つの実施の形態の処理ルーチンは、振動応答処理ルーチン1401、異常検出ルーチン1402、異常指示ルーチン1403及び異常アラームルーチン1404を備える。処理システム203は、すでに説明したルーチンなどの他のルーチンを含むことができることは理解されるとおりである。
【0139】
計測器電子機器20は変数及び作業値を含むことができる。この実施の形態の計測器電子機器20は、振動応答1410、1つ又は複数の異常プロファイル1411、異常状態1412、異常アラーム1413及び異常計数1414を含む。理解されるとおり、処理システム203は、すでに説明した変数などの他の変数を含むことができる。
【0140】
動作において、計測器電子機器20は、計測器アセンブリ10から受信した振動応答を処理する(図1を参照)。振動応答は、計測器電子機器20により実質的に連続的に受信されて処理される、時間とともに変化する電子信号を含むことができる。振動応答は、ピックオフセンサ170L及び170Rからの信号などの第1及び第2のセンサ信号を含むことができる。計測器電子機器20は振動応答を処理して1つ又は複数の流量特性を得ることができる。1つ又は複数の流量特性は、例えば、周波数応答、センサ信号間の位相差、密度、質量流量、体積流量などを含むことができる。他の流量特性も考えられ、本記述及び請求項の範囲内にある。任意の決定された流量特性を含む振動応答や更に駆動利得は、流量計内を流れる流体物質中の異常を検出するために使用することができる。
【0141】
上述の単一の又は2つの位相シフトを使用して決定される場合、従来技術とは対照的に、流量特性を迅速に求めることができる。更に、流量特性は実質的に瞬時に決定され得る。他の流量特性は、周波数及び位相差を使用して決定できる。流量特性の決定は推定流量特性を提供することができる。有利なことに、ほぼ瞬時の流量特性決定を、本発明による異常検出などの他の決定において利用できる。流量特性を実質的に瞬時に決定できるため、流体物質中の異常を迅速且つ正確に検出できる。
【0142】
異常は、流体物質中に混入された気体/空気及び/又は気泡を含み得る。異常は流体物質中の異質液体を含み得る。異常は流体物質中の固体を含み得る。異常は2相又は多相の流体物質を含み得る。
【0143】
異常が計測器アセンブリ10内を通ると、流量特性は変化する。重大な異常が流量計内を移動するとき、異常の密度/比重が流体物質の密度/比重と異なる場合には、計測器は周波数の瞬時シフトと質量流量の対応する瞬時シフトとを経験する。計測器アセンブリ10の周波数は、流体物質の密度の低下(例えば、混入空気が存在する場合など)とともに増大し得る。逆に、計測器アセンブリ10の周波数は、高い密度が存在する場合(例えば、金属片又は他の固体が通過する場合など)に減少し得る。同様に、密度が特徴的に減少する場合には、流体物質の密度を使用して気泡などの異常を検出することができる。気泡の場合、流量計の周波数は流体の密度の低下とともに高くなり、質量流量は気泡の質量が小さいために減少する。それに加えて、そのような異常を検出するために、位相差及び/又は時間遅延を使用することができる。
【0144】
図15は、周波数流量特性の上向きのスパイクが気泡などの流体物質中の異常を表す、時間に対する周波数応答のグラフである。この例の流体物質は水である。計測器アセンブリ10は、流体物質として水で満たされた場合、約132Hzの共振周波数を示す。空気で満たされた計測器アセンブリ10は約158Hzの共振周波数を示す。このグラフから、計測器アセンブリ10がほとんど水で満たされていることが分かる。しかし、周波数スパイクにより示されるように、グラフの期間にわたって15個の気泡が計測器アセンブリ10を通過している。それぞれのスパイクの幅は約100ミリ秒であり、この100ミリ秒は、気泡が計測器アセンブリ10内を通るのに要する時間である。平均周波数は流体流の平均密度と相関する。したがって、周波数の変化は、多相流体物質流の瞬時密度に関係し得る。
【0145】
図16は、時間遅延流量特性の下向きのスパイクがやはり流体物質中の異常を表す、時間に対する時間遅延のグラフである。平均時間遅延は流体流の平均質量流量に対応する。気泡が計測器アセンブリ10内を通るときの時間遅延の変化(つまり、2つのセンサの間の時間遅延の減少)に留意されたい。時間遅延の変化は多相流体流の瞬時質量流量に関係付けられ、流体物質中の異常の検出に使用できる。
【0146】
図17は、流体物質中の空気の空隙率が小さい場合の時間に対する周波数応答を示す図である。空隙率が図15の場合より低くても、流量は同じであり、気泡が計測器アセンブリ10内を通るのに約100msを要する。このグラフから、6個の気泡が計測器アセンブリ10内を通過したことがわかる。
【0147】
図18は、混入空気を含む水についての流体比重(SG)に対する駆動周波数のグラフである。グラフにおいて、空気に対するSGの値はゼロであるが、水のSG値は1である。この図から、流体物質と流体物質中の異常とを区別するために比重を使用できることがわかる。
【0148】
図19は、1〜7のSG範囲におけるSGに対する駆動周波数のグラフである。固体は水のSGに比べて大きな比重を有する(つまり、固体のSG値は1よりも大きい)。例えば、鋼鉄は7程度のSGを有する。SG=7の流体の駆動周波数は、典型的には、約83Hzである。したがって、流体物質と異なる密度を有する固体が計測器内を通った場合、計測器電子機器20により検出できる周波数に変化が生じる。流体物質としての水及び異常物質としての鋼鉄の場合、計測器は、異常がなければ、132Hzで動作する。周波数流量特性は、鋼鉄という固体が計測器アセンブリ10を通った場合、83Hzに向かって下降する。
【0149】
その後、計測器電子機器20は、異常の発生を示す異常状態1412を設定することができる。その後、計測器電子機器20は、任意の形の異常処理ルーチン、プロセス又は通知を実行又は起動することができる異常アラーム1413を設定することができる。その後、計測器電子機器20は、検出された異常状態を計数する異常計数1414をインクリメントすることができる。異常検出、指示、アラーム及び計数は、図20の流れ図2000に関して以下で更に詳述する。
【0150】
理解されるとおり、計測器電子機器20は振動応答を繰り返し受信し、処理することができる。その結果、計測器電子機器20は、関連する流量計の動作期間に異常を検出することができる。計測器電子機器20は、様々な異常が流量計内を通るとき、異常の指示、アラーム及び計数プロセスを時間に関して実質的に連続的に実行することができる。
【0151】
振動応答処理ルーチン1401は振動応答を受信する。すでに説明したように、振動応答は、流量計に与えられる駆動振動への1つ又は複数の流体導管の応答を反映する第1及び第2のセンサ信号を含むことができる。いくつかの実施の形態における振動応答処理ルーチン1401は、流体物質の1つ又は複数の流量特性を得るために振動応答を処理する。1つ又は複数の流量特性は、周波数応答、第1のセンサ信号と第2のセンサ信号との間の位相差、密度、質量流量、体積流量などを含むことができる。周波数応答は、導出されたすべての流量特性と同様に、流量計内を通る流体物質の流れに本質的に関係する。したがって、周波数は流量計での質量流量とともに変化する。また、周波数は流体物質の密度とともに変化する。例えば、流体物質が液体を含む場合、流量計内を通る混入気体によって流量計での質量が下がり、振動応答が一時的に流体物質により減衰されないので、高い周波数値に瞬間的に上昇するスパイクが周波数に生じる。したがって、高速な周波数・位相差決定法を採用することにより、計測器電子機器20は流れの中の異常を検出することができ、異常を実質的に瞬時に検出することができる。それに加えて、流れ状態によっては、また、実施の形態によっては、計測器電子機器20は異常を定量化できる。
【0152】
一つの実施の形態の異常検出ルーチン1402では、振動応答と少なくとも1つの異常プロファイル1411(後述)とを比較する。振動応答が異常プロファイル1411内に入る場合、異常検出ルーチン1402は異常が発生していると判定する。
【0153】
一つの実施の形態の異常指示ルーチン1403は異常状態1412(後述)を設定する。したがって、異常指示ルーチン1403は異常の発生を示す。一つの実施の形態では、異常指示ルーチン1403は異常計数1414をインクリメントする。
【0154】
一つの実施の形態の異常アラームルーチン1404は異常アラーム1413を設定する。異常アラーム1413は、任意の形の異常処理ルーチン、プロセス又は通知を実行し又は起動することができる。
【0155】
振動応答1410は、計測器アセンブリ10から受信した振動応答を格納する。振動応答1410は、例えば、巡回キューなどの任意の形のデータ記憶域を備えることができる。振動応答1410は、計測器アセンブリ10から受信したアナログ電気信号のデジタル表現を含むことができる。振動応答1410は、電気信号のサンプリングされた部分を含むことができる。振動応答1410は第1及び第2のセンサ信号を含むことができ、更に、第1及び第2のセンサ信号から導かれた流量特性を含むことができる。例えば、振動応答1410は、第1及び第2のセンサ信号から導かれた周波数値(つまり、周波数近似又は推定)を含むことができる。
【0156】
異常プロファイル1411は、流体物質での異常を検出するために使用される1つ又は複数のプロファイルを格納する。複数の異常タイプが検出されることが望ましい場合に、複数の異常プロファイルを含むことができる。格納されている異常プロファイルは、異常判定を有効にする任意の情報を含むことができる。
【0157】
一つの実施の形態では、異常プロファイルは異常周波数プロファイルを含むことができる。異常周波数プロファイルは、予想される流体物質周波数特性よりも高い又は低い周波数閾値を含むことができる。振動応答が異常周波数閾値を超えると、異常が発生していると決定される。代りに、他の実施の形態では、異常周波数プロファイルは或る周波数範囲を含むことができる。異常周波数範囲は、関連付けられた流量特性よりも高い又は低い周波数範囲を含むことができる。振動応答が異常周波数範囲内にある場合、異常が発生していると決定される。異常周波数範囲は、異常のある物質の位相及び組成に特有であり得る。例えば、異常周波数範囲は、原油流体流中の天然ガスなどの特定の気体に特有であり得、したがって、計測器電子機器20は原油中の天然ガス気泡を検出することができる。
【0158】
一つの実施の形態では、異常プロファイルは異常振幅プロファイルを含むことができる。異常振幅プロファイルは異常振幅閾値又は異常振幅範囲を含むことができる。異常振幅閾値/範囲は、例えば、密度、質量流量、時間遅延振幅値又は位相遅延振幅値を含むことができる。しかし、異常振幅閾値/範囲は他の流量特性を含むことができる。異常振幅閾値/範囲は、予想される流体物質特性よりも高い又は低いものとすることができる。振動応答が異常振幅閾値/範囲を超え又はその範囲内にある場合、異常が発生していると決定される。
【0159】
一つの実施の形態では、異常プロファイルは持続時間プロファイルを含むことができる。持続時間プロファイルは、予想される流体物質特性からのずれの持続時間を含むことができる。例えば、水中の典型的な気泡は約100ミリ秒(ms)で計測器アセンブリ10内を移動する。周波数応答が約100msの持続時間の周波数スパイクを含む場合、気泡異常決定を行うために持続時間プロファイルだけを使用できる。その結果、関連する流量特性が持続時間プロファイルの範囲内に入る期間にわたり、予想される流体物質周波数特性から逸脱する場合、異常が発生していると決定される。
【0160】
一つの実施の形態では、異常プロファイルは、上記の周波数、振幅及び持続時間の閾値/範囲のうちの1つ又は複数を含むことができる。例えば、気泡検出に対しては、異常プロファイル1411は、周波数閾値/範囲と異常持続時間プロファイルとを含むことができる。異常物質又は検出すべき物質に応じて、他の組合せも使用できる。一つの実施の形態の検出法では、パターン認識を使用する。
【0161】
異常状態1412は、異常が現在出現しているかどうかを示す状態変数を含むことができる。例えば、計測器電子機器20は流量特性を直ちに又は実質的に瞬時に決定することができるので、異常状態1412は実質的にリアルタイムで異常を示すことができる。一つの例では、異常状態1412は、気泡が計測器アセンブリ10内を通過している間に真値又はオン値に設定でき、そうでない場合には偽に設定できる。
【0162】
異常アラーム1413は、アラーム状態を示す状態変数を含むことができる。異常が生じていると決定された場合、異常アラーム1413は真に設定できる。異常アラーム1413は、異常のときに実行される任意の形のルーチン、プロセス又は通知を開始するために使用できる。例えば、流体物質中に固体が検出された場合、異常アラーム1413は操作者への異常表示を開始したり、他のデバイスへの異常メッセージの送信を開始したりすることができる。
【0163】
異常計数1414は異常出現を計数するために使用できる。異常計数1414は、流体物質中の気体又は空気の気泡、異質液体のポケット又は固体を計数することができる。異常計数1414は異常が検出される毎にインクリメントできる。異常計数1414は、例えば、異常状態1412が真の状態に設定された場合にインクリメントできる。
【0164】
図20は、本発明の一つの実施の形態による流量計内を流れる流体物質中の流れ異常を検出するための方法の流れ図2000である。ステップ2001で、振動応答が処理される。振動応答は1つ又は複数の流量特性を決定するために処理できる。振動応答は、例えば、第1及び第2のセンサ信号を含み得る。1つ又は複数の流量特性は、振動応答の周波数、振動応答を含む第1のセンサ信号と第2のセンサ信号との間の位相差、密度、質量流量、体積流量、時間遅延などを含むことができる。
【0165】
ステップ2002で、振動応答は異常プロファイルと比較される。すでに説明したように、異常プロファイルは、多くの異なるタイプの異常を検出可能にする情報を提供する。異常プロファイルでは、検出すべき気体異常を特定することができる。異常プロファイルは、検出すべき異質液体異常を特定することができる。異常プロファイルは、検出すべき固体異常を特定することができる。
【0166】
異常プロファイルは、振幅異常閾値又は振幅異常範囲などの振幅プロファイルを含むことができる。振幅プロファイルは、周波数、密度又は質量流量特性のプロファイルを含むことができる。
【0167】
異常プロファイルは、流体物質中の異常を決定するために使用できる周波数異常閾値又は周波数異常範囲などの周波数プロファイルを含むことができる。
異常プロファイルは持続時間プロファイルを含むことができる。持続時間プロファイルは、持続時間プロファイルに従って予想される応答から振動応答が逸脱する場合に異常を示すことができる。
【0168】
異常プロファイルは、空気気泡プロファイルを含む気泡プロファイルを含むことができる。気泡プロファイルは、流体物質中の異常を示す振幅、周波数及び/又は時間値の任意の組合せを特定することができる。例えば、一つの実施の形態の気泡プロファイルは、135Hzよりも高い周波数の周波数閾値及び約100msの持続時間を含むことができるが、この場合、流体物質は水であり、気泡は空気の気泡を含む。しかし、他の周波数閾値及び持続時間も考えられ、本記述及び請求項の範囲内にある。
【0169】
理解されるとおり、異常プロファイルは上記の係数の1つ又は複数を含むことができる。所定の流体物質について、また流体物質中に予想される1つ又は複数の所定の異常タイプについて、異常プロファイルを選択し又は作成することができる。
【0170】
ステップ2003において、振動応答が異常プロファイルの範囲内にあれば、方法はステップ2004に進み、そうでなければ、方法はステップ2004及び2005を回避するよう分岐する。ステップ2004では、振動応答は異常プロファイルの範囲内あるため、振動応答のシフトが検出される。
【0171】
ステップ2005においては、シフトが生じているため、異常が示される。すでに説明したように、この指示は複数のアクションを含み得る。一つの実施の形態では、異常状態1412は、異常が検出される限り、真の状態に設定できる。水流体物質中の空気の気泡の場合、気泡は流量計を通るのに典型的には約100msを要する。一つの実施の形態では、異常アラーム1413は真に設定することができ、その場合、このアラーム状態で、任意の形の異常処理ルーチン、プロセス又は通知を実行し又は起動することができる。一つの実施の形態では、異常計数1414はインクリメントすることができ、異常計数1414は流動状態における異常の出現を計数する。例えば、異常計数1414は、流体物質中の気体の気泡、空気の気泡又は固体の出現を計数することができる。
【0172】
上記の方法ステップを繰り返し実行できることは理解されるとおりである。振動応答が連続的に受信されると、振動応答は繰り返し処理されて比較され、流体物質中の異常が実質的に連続的に検出されて指示され得る。任意の異常を検出して実質的にリアルタイムで示すことができる。したがって、流れ図はステップ2001に戻る。
【0173】
本発明による計測器電子機器及び方法は、所望により、複数の利点を提供するように、任意の実施の形態に従って使用できる。有利なことに、高速な周波数及び位相差決定法を採用することにより、計測器電子機器は流れの異常を検出できる。本発明は流れの異常を迅速且つ正確に検出できる。本発明は実質的に瞬時に異常を検出できる。実施の形態によっては、また、流れ状態によっては、本発明は異常を定量化できる。
【0174】
本発明は流体物質中の気体の気泡を検出できる。本発明は流体物質中の空気の気泡を検出できる。本発明は流体物質中の空気の気泡を計数できる。本発明は流体物質中の気泡の気泡境界を決定できる。本発明は流体物質中の異質液体を検出できる。本発明は流体物質中の固体を検出できる。本発明は流体物質中の固体を計数できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流量計(5)内を流れる流体物質中の流れ異常を検出するための計測器電子機器(20)であって、
少なくとも第1のセンサ信号及び第2のセンサ信号を含む前記流体物質の振動応答を受信するためのインターフェイス(201)と、
前記インターフェイス(201)と通信し、前記インターフェイス(201)から前記振動応答を受信し、前記第1のセンサ信号から90度の位相シフトを生成し、少なくとも前記第1のセンサ信号と前記90度の位相シフトとを使用して少なくとも1つの流量特性を生成し、前記少なくとも1つの流量特性が異常プロファイルの範囲内にある場合に前記振動応答のシフトを検出し、前記検出の結果として異常状態を示すように構成された処理システム(203)と
を備える計測器電子機器(20)。
【請求項2】
流量計内を流れる流体物質における流れ異常を検出するための方法であって、
少なくとも第1のセンサ信号と第2のセンサ信号とを含む振動応答を前記流量計から受信するステップと、
前記第1のセンサ信号から90度の位相シフトを生成し、少なくとも前記第1のセンサ信号と前記90度の位相シフトとを使用して少なくとも1つの流量特性を生成するステップと、
前記少なくとも1つの流量特性を少なくとも1つの異常プロファイルと比較するステップと、
前記少なくとも1つの流量特性が前記異常プロファイルの範囲内にある場合に前記振動応答のシフトを検出するステップと、
前記検出の結果として異常状態を示すステップと
を含む方法。
【請求項3】
流量計内を流れる流体物質中の流れ異常を検出するための方法であって、
少なくとも第1のセンサ信号と第2のセンサ信号とを含む振動応答を前記流量計から受信するステップと、
前記第1のセンサ信号から90度の位相シフトを生成し、少なくとも前記第1のセンサ信号と前記90度の位相シフトとを使用して少なくとも1つの流量特性を生成するステップと、
前記少なくとも1つの流量特性を少なくとも1つの気体異常プロファイルと比較するステップと、
前記少なくとも1つの流量特性が前記気体異常プロファイルの範囲内にある場合に前記振動応答のシフトを検出するステップと、
前記検出の結果として気泡計数をインクリメントするステップと
を含む方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公開番号】特開2012−255794(P2012−255794A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−172124(P2012−172124)
【出願日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【分割の表示】特願2008−513695(P2008−513695)の分割
【原出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(592225504)マイクロ・モーション・インコーポレーテッド (95)
【氏名又は名称原語表記】Micro Motion Incorporated
【Fターム(参考)】