説明

コレステロール低下用組成物

【課題】体内コレステロールを低減させる作用を有し、摂取し易く、且つ生体にとって安全性の高い素材の提供。
【解決手段】グルテンの蛋白分解酵素分解物の不溶性成分を含有するコレステロール低下用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胆汁酸を吸着してその排泄を促すことにより体内コレステロールを低下させることができるコレステロール低下用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食の欧米化による摂取エネルギーの増大に伴い、慢性的なエネルギー過剰状態による、肥満、脂肪肝、高脂血症、心血管疾患等の生活習慣病の増加が社会問題となっている。生活習慣病の診断基準の1つとして血中コレステロール値が用いられている。高コレステロールは、生活習慣病、特に高脂血症や心血管疾患の危険因子として知られている。
高コレステロール血症等の脂質異常の原因としては、遺伝的要因もあるが、食生活等の生活習慣に起因する場合が少なくない。原因となる食生活の改善や簡便さの観点から、日常の食事を通じてコレステロールを低下させることができれば望ましい。
【0003】
従来、食物繊維によるコレステロール低下効果が知られている。この効果は、食物繊維により消化管内の胆汁酸濃度が低下することにより、体内のコレステロールから胆汁酸への合成が促進してコレステロールが低下するためとされている。しかしながら食物繊維は嵩がある上に風味が悪いため、日常の食事の中で必要量を継続して摂取するのは困難である。
【0004】
他のコレステロール低下作用を有する素材としては、11Sグロブリンを多く含む分離大豆蛋白質(特許文献1)、レジスタントプロテイン(非特許文献1)、特定のグルタミン含量と平均分子量を有する小麦蛋白質由来の可溶性ペプチド(特許文献2)、ならびにレジスタントスターチ及びレジスタントプロテインを主要成分とする米粉糖化粕又は酒粕の難消化成分(特許文献3)が知られている。
【0005】
しかしながら、係る従来素材のコレステロール低下作用は、必ずしも十分満足のいくものとは限らなかったため、体内コレステロール低下作用を有し、且つ医薬、飲食品、飼料としても利用可能なさらなる素材が所望されているのが実状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−88334号公報
【特許文献2】国際公開WO03/074071パンフレット
【特許文献3】特開2008−189625号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J Nutr Sci Vitaminol, 2002, 48:1-5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、斯かる従来の実状に鑑み、体内コレステロールを低減させる作用を有し、食品として摂取し易く、且つ生体にとって安全性の高い素材を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、グルテンの蛋白分解酵素分解物から得られた不溶性成分が、優れた胆汁酸吸着能を有し、胆汁酸排泄を促進するとともにコレステロールを低下させる作用を有することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、グルテンの蛋白分解酵素分解物の不溶性成分を含有するコレステロール低下用組成物を提供することにより、上記課題を解決したものである。
また本発明は、グルテンを蛋白分解酵素で分解し、得られた分解物から不溶性成分を取得することを特徴とするコレステロール低下用組成物の製造方法を提供することにより、上記課題を解決したものである。
また本発明は、当該コレステロール低下用組成物を含有する医薬、飲食品、及び飼料を提供することにより、上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のコレステロール低下用組成物は、胆汁酸に吸着することによりその排泄を促進させるとともに、体内のコレステロール量を低減させることができ、且つ長期服用しても副作用の心配がなく安全性が高い。従って、本発明のコレステロール低下用組成物は、高コレステロール血症等の脂質異常症や、肥満、脂肪肝、高脂血症、心血管疾患等の生活習慣病を予防及び/又は改善するための医薬、飲食品、及び飼料として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】各試験物質の胆汁酸吸着能を示すグラフ。
【図2】試験試料摂取後におけるラット血中総コレステロール値の変化
【図3】試験試料摂取後におけるラット糞中総胆汁酸量の変化
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のコレステロール低下用組成物は、グルテンの蛋白分解酵素による分解物の不溶性成分、好ましくはグルテンの蛋白分解酵素と糖分解酵素とによる分解物の不溶性成分を、有効成分として含有する。本発明のコレステロール低下用組成物は、グルテンの蛋白分解酵素による分解物の不溶性成分、好ましくはグルテンの蛋白分解酵素と糖分解酵素とによる分解物の不溶性成分から実質的に構成されるものを含む。
グルテンとは、小麦種子に多く含有されることが知られている蛋白質である。本発明において、グルテンとしては、精製したグルテンを用いてもよいが、小麦種子由来の蛋白質(小麦蛋白質)そのものを用いてもよい。例えば、小麦蛋白質中にグルテンは通常80〜90%程度含まれているため、小麦蛋白質を原料として本発明の組成物を得ることができる。本発明のために使用できるグルテンとしては、小麦から適宜調製したグルテン又は蛋白質であってもよく、あるいは市販されているグルテン又は小麦蛋白質等であってもよい。
【0014】
上記グルテンを蛋白分解酵素で、好ましくは蛋白分解酵素と糖分解酵素とで分解し、得られた分解物から不溶性成分を取得することによって、本発明のコレステロール低下用組成物を製造することができる。
上記蛋白分解酵素としては、その由来は特に限定されず、動物、植物、微生物等の任意の生物由来のプロテアーゼを用いることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。当該蛋白分解酵素の例としては、例えば、植物由来では、パパイヤやパイナップル等の根茎、果汁から抽出・精製されたプロテアーゼ、微生物由来では、Aspergillus属、Rhizopus属、Streptomyces属、Penicillium属、Bacillus属等から抽出・精製されたプロテアーゼ、動物由来では豚膵臓等から抽出されたペプシンや、ニューラーゼ、キモトリプシン等のプロテアーゼを挙げることができる。これらの中で、蛋白質のアミノ酸鎖の中央から切断するエンドペプチダーゼ活性を有する蛋白分解酵素が好ましく、さらに酸性付近で作用する蛋白分解酵素が好ましい。酸性付近で作用する蛋白分解酵素としては、システインプロテアーゼやアスパラギン酸プロテアーゼが挙げられ、具体的には、パパイン、Aspergillus属由来のプロテアーゼ、ペプシン、カテプシンおよびニューラーゼ等が挙げられる。上記蛋白分解酵素としては、市販の蛋白分解酵素、例えば:プロテアーゼMアマノ(Aspergillus属の微生物由来の酸性プロテアーゼ、天野エンザイム株式会社);ニューラーゼ(ニューラーゼF3G、天野エンザイム株式会社);パパイン(パパインW−40、天野エンザイム株式会社);オリエンターゼ20A(Aspergillus属の微生物由来のプロテアーゼ、エイチビィアイ株式会社);オリエンターゼ90N(Bacillus属の微生物由来のプロテアーゼ、エイチビィアイ株式会社);オリエンターゼONS(Aspergillus属の微生物由来のプロテアーゼ、エイチビィアイ株式会社);ニューラーゼF3G(Rhizopus属の微生物由来の酸性プロテアーゼ、天野エンザイム株式会社);プロテアーゼAアマノG(Aspergillus属の微生物由来のプロテアーゼ、天野エンザイム株式会社);プロテアーゼNアマノG(Bacillus属の微生物由来のプロテアーゼ、天野エンザイム株式会社);スミチームAP(Aspergillus属の微生物由来の酸性プロテアーゼ、新日本化学工業株式会社);スミチームLP(Aspergillus属の微生物由来のプロテアーゼ、新日本化学工業株式会社)等を用いることもできる。
上記蛋白分解酵素のうち、ペプシン、パパイン、ニューラーゼ、Aspergillus属の微生物由来の酸性プロテアーゼが好ましい。
これらの蛋白分解酵素は単独で使用してもよいが、適宜組み合わせて使用してもよい。
【0015】
本発明において、蛋白分解酵素による分解と併せてさらに糖分解酵素による分解処理を行うことが好ましい。糖分解酵素によって、グルテン中に混入する澱粉質や繊維質等の不純物が分解されるので、活性成分を高収率で得ることができる。
当該糖分解酵素としては、その由来は特に限定されず、動物、植物、微生物等の任意の生物由来のものであってよい。当該糖分解酵素の例としては、α−アミラーゼ、グルコアミラーゼ等のアミラーゼ;α−グルコシダーゼ、トランスグルコシダーゼ等のグルコシダーゼ;プルラナーゼ;イソアミラーゼ;パンクレアチン;セルラーゼ等が挙げられる。あるいは、市販の糖分解酵素、例えば:液化酵素T:(Bacillus属の微生物由来のα−アミラーゼ、エイチビィアイ株式会社);グルクSG(Rhizopus属の微生物由来のグルコアミラーゼ、天野エンザイム株式会社);グルクザイムAF6(Rhizopus属の微生物由来のグルコアミラーゼ、天野エンザイム株式会社);コクラーゼ(Aspergillus属の微生物由来のα−アミラーゼ、三菱化学フーズ 製);スピターゼCP−40FG(Bacillus属の微生物由来のα−アミラーゼ、ナガセケムテックス株式会社);スミチームAS(Aspergillus属の微生物由来のα−アミラーゼ、新日本化学工業株式会社);スミチームAC(Aspergillus属の微生物由来のセルラーゼ、新日本化学工業株式会社);ヘミセルラーゼアマノ90(Aspergillus属の微生物由来のヘミセルラーゼ、新日本化学工業株式会社)等を用いることもできる。
上記糖分解酵素のうち、アミラーゼ、特にBacillus属の微生物由来のα−アミラーゼ、セルラーゼまたはパンクレアチンが好ましい。
これらの糖分解酵素は単独で使用してもよいが、適宜組み合わせて使用してもよい。
糖分解酵素による処理は、蛋白分解酵素による処理の前若しくは後に行ってもよく、又は蛋白分解酵素による処理と並行して行ってもよい。
糖分解酵素と蛋白分解酵素との組み合わせには特に制限はないが、例えば、アミラーゼ若しくは液化酵素Tとペプシン、パパイン、ニューラーゼ若しくはAspergillus属の微生物由来の酸性プロテアーゼとの組み合わせ、又はパンクレアチンとペプシン、パパイン若しくはAspergillus属の微生物由来の酸性プロテアーゼとの組み合わせが好ましい。
【0016】
グルテンに、上記蛋白分解酵素を作用させて、あるいは上記蛋白分解酵素と糖分解酵素とを同時に又は順次作用させて、グルテンの酵素分解物を調製する。その際、酵素を担体等に固定化し、グルテンを溶解又は分散させた溶液に前記担体を接触させてグルテンに酵素を作用させてもよいし、適当な媒体にグルテンと酵素の両者を溶解または分散させてグルテンに酵素を作用させてもよい。
グルテンを溶解又は分散させる媒体としては、水性液体、例えば、純水、蒸留水、水道水、酸性水、アルカリ水、中性水、電解水、リン酸緩衝液などの緩衝液等が挙げられ、その種類や温度、pHなどの条件は、製造する環境やグルテンの溶解性等の性質に合わせて適宜決定する。酵素反応の条件(温度、pH、時間等)は、基質の量、使用する酵素の至適条件、同時に使用する酵素の至適条件等を考慮して適宜決定する。
用いる酵素による分解反応がほぼ完全に進行するまで反応させることが好ましい。未分解のグルテンが含まれていると、本発明の組成物のコレステロール低下効果が減弱する。
酵素による分解反応を終了するには、酵素を担体に固定化している場合には担体を溶液から除去すればよく、また酵素を溶解又は分散させている場合には、pHを用いる酵素の至適pHから大きく解離する方法や、溶液の温度を上昇させて酵素を失活させる方法など、適宜公知の方法を適用できる。
【0017】
次いで、上記酵素処理で得られた分解物を、乾燥、遠心、ろ過、分配等の任意の手段にかけることによって、当該分解物から不溶性成分を分離することができる。
本発明において、不溶性成分とは、上記分解物から水溶性成分を取り除いた成分(いわゆる水不溶性成分)を指す。ここで、水溶性成分とは、上記分解物から、温度が5〜80℃、好ましくは8〜65℃、より好ましくは15〜50℃付近、pHが2〜11、好ましくは3〜10、より好ましくは4〜8付近で、水性液体に溶解又はコロイドを形成することのできる成分を指す。当該水性液体としては、純水、蒸留水、水道水、酸性水、アルカリ水、中性水、リン酸緩衝液などの緩衝液等が挙げられる。
通常、グルテンの酵素分解が十分に行われていれば、温度やpHが多少変化しても本発明の水溶性成分及び不溶性成分中の成分が変化することはない。従って、上記分解物から不溶性成分を分離する際には、当該分解物をそのままの状態で分離操作にかけてもよく、あるいは分離操作を行いやすい温度等の条件にしてもよい。
例えば、上述のグルテン溶液を蛋白分解酵素で処理して得られた分解物の溶液を、2500〜10000×g、好ましくは3500〜8000×g、より好ましくは4500〜6000×g、さらに好ましくは5000×gで、10〜60分間、好ましくは20分間遠心分離し、その上清を除去することによって、上記分解物から不溶性成分を分離することができる。
【0018】
上記のような手段により分離された不溶性成分を回収することによって、グルテンの蛋白分解酵素による分解物の不溶性成分、好ましくは蛋白分解酵素と糖分解酵素とによる分解物の不溶性成分を取得することができる。
あるいは、当該不溶性成分の例としては、国際公開番号WO03/074071に製造例1として記載されたグルタミンペプチドの製造において、小麦グルテンのプロテアーゼ及びアミラーゼ分解処理物の水溶性成分を調製する過程で生成する不溶性残渣が挙げられる。
上記不溶性成分は、必要に応じて、さらに希釈、濃縮、乾固、凍結乾燥、固形化、液状化、顆粒若しくは粉末化等の処理を施されていてもよい。
【0019】
上記グルテンの蛋白分解酵素による分解物の不溶性成分、又は蛋白分解酵素と糖分解酵素とによる分解物の不溶性成分(まとめて、グルテン酵素分解物の不溶性成分と称する)を含有する本発明のコレステロール低下用組成物は、後記実施例に示されるように、従来コレステロール低下効果が知られている食物繊維、レジスタントプロテイン、分離大豆蛋白質および酒粕難消化成分発酵物と比較して、顕著に優れた胆汁酸吸着能を有する。従って、本発明の組成物は、胆汁酸と吸着してその排泄を促すことにより、生体におけるコレステロールから胆汁酸への合成を促進させ、結果として体内コレステロール量を低下させることができる。本発明の組成物の優れた糞中への胆汁酸排出促進作用、及び血中コレステロール量増加抑制若しくは低減作用もまた、後記実施例に示されている。
【0020】
本発明のコレステロール低下用組成物の原料であるグルテンは、従来食品材料として使用されている物質であり、長期服用しても副作用の心配がないので、健常者や成人だけでなく、小児、高齢者及び病弱者に対しても、安全に使用することができる。したがって、本発明のコレステロール低下用組成物は、ヒト又は動物用の医薬、飲食品、飼料等として、あるいはそれらを製造するために使用することができる。
従って、本発明はまた、上記本発明のコレステロール低下用組成物を含有する医薬、飲食品、及び飼料を提供する。
【0021】
本発明の医薬は、上記本発明のコレステロール低下用組成物を有効成分として含有する血清コレステロール低下剤又は高コレステロール血症治療薬であり得る。
当該医薬は、経口及び非経口投与を含む任意の剤型で投与され得る。経口投与のための剤型としては、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤のような固形製剤、あるいはエリキシロール、シロップおよび懸濁液のような液体製剤が挙げられる。非経口投与のための剤型としては、注射、輸液、経皮、経粘膜、経鼻、経腸、吸入、坐剤、ボーラス等が挙げられる。
【0022】
本発明の飲食品又は飼料は、上記本発明のコレステロール低下用組成物を有効成分として含有し、且つコレステロール低下効果を企図して、その旨を表示した機能性飲食品、病者用飲食品、特定保健用飲食品、家畜用飼料、ペットフード等であり得る。
当該飲食品又は飼料の形態は、特に限定されないが、例えば、飲料の形態としては、茶飲料、コーヒー飲料、乳飲料、果汁飲料、炭酸飲料、アルコール飲料、清涼飲料等が挙げられ、食品又は飼料の形態としては、固形、半固形または液状であり得、錠剤形態、丸剤形態、カプセル形態、液剤形態、シロップ形態、粉末形態、顆粒形態等が挙げられる。具体的な食品の形態としては、パン類、麺類、ゼリー状食品や各種スナック類、焼き菓子、ケーキ類、チョコレート、ガム、飴、タブレット、カプセル、スープ類、乳製品、冷凍食品、インスタント食品、サプリメント、その他加工食品、調味料およびそれらの材料等が挙げられる。
【0023】
本発明のコレステロール低下用組成物、医薬、飲食品又は飼料は、必要に応じて、上記グルテン酵素分解物の不溶性成分以外の他の成分、例えば、他の有効成分及び/又は通常利用される添加物若しくは担体を含有していてもよい。
医薬の場合、当該他の成分としては、例えば、他の薬効成分、美容成分、栄養成分、ならびに賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、水溶性高分子、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、乳化剤、防腐剤、緩衝剤、安定化剤、酸化防止剤、増粘剤、紫外線吸収剤、活性増強剤、着色剤、甘味料、矯味剤、矯臭剤、酸味料等が挙げられ、これらは適宜組み合わせて使用される。
飲食品又は飼料の場合、当該他の成分としては、例えば、他の飲食品材料、栄養成分、美容成分、ならびに溶剤、油、軟化剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、光沢剤、甘味料、香料等の添加物が挙げられ、これらは適宜組み合わせて使用される。
【0024】
上記本発明の組成物、医薬、飲食品又は飼料における上記グルテン酵素分解物の不溶性成分の含有量は、それらの剤型や形態により異なるが、乾燥固形分換算で、通常、全質量に対して、医薬の場合、1〜90質量%、好ましくは5〜70質量%であり、飲食品又は飼料の場合、5〜100質量%、好ましくは10〜90質量%である。
本発明のコレステロール低下用組成物の投与又は摂取量は、通常、上記グルテン酵素分解物の不溶性成分の乾燥固形分換算で、成人一日あたり2g〜30g、好ましくは6〜30gである。上記投与又は摂取量は、用法及び適用対象に応じて適宜調整され得る。
【実施例】
【0025】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0026】
実施例1 グルテン酵素分解物の不溶性成分の調製
(1)反応釜に、イオン交換水9,700L、無水クエン酸38kg及び小麦グルテン(活性グルテン:George Weston Foods Limited)1,500kgを仕込み、45℃に加温した後、プロテアーゼ(プロテアーゼMアマノ;天野エンザイム株式会社)2.2kg及びアミラーゼ(液化酵素T;エイチビィアイ株式会社)1.1kgを加えて、45℃で5時間加水分解反応を行い、次いで25%水酸化ナトリウム水溶液を用いて反応液のpHを4.4〜4.5に調整して5時間保って酵素処理を行った。
(2)次いで、反応液を80℃に20分間保ってプロテアーゼを失活させた後、65℃に冷却し、そこにアミラーゼ(液化酵素T;エイチビィアイ株式会社)0.5kgを加えて小麦グルテン中に含まれていた澱粉質及び繊維質を加水分解させた後、液を90℃に20分間保ってアミラーゼを失活させた。
(3)加水分解液を冷却後、20Lを分取して凍結乾燥した。凍結乾燥品に10倍量(W/V)の純水を加えて懸濁し、2300×g、30分間遠心し、上清を除去した。沈殿に上記と同量の純水を加えて懸濁し、2300×g、30分間遠心し、上清を除去した。これを2回繰り返してグルテンの糖分解酵素及び蛋白分解酵素分解物の不溶性成分を調製し、生成物を凍結乾燥し、これを本発明組成物として得た。
【0027】
実施例2 グルテン酵素分解物の不溶性成分の調製
(1)小麦グルテン(活性グルテン:George Weston Foods Limited)に10倍量(w/v)の純水を加え、濃塩酸でpHを2.0に調整した。ここにグルテンの質量比1%のペプシン(ブタ胃粘膜由来:和光純薬工業)を添加し、攪拌しながら37℃で4時間反応させた。反応液にTris−HClを終濃度25mMとなるよう添加し、次いで、濃水酸化ナトリウムでpHを8.0に調整し、グルテンの質量比2%のパンクレアチン(ブタ膵臓由来:和光純薬工業)を添加し、攪拌しながら37℃で24時間反応させた。
(2)上記(1)の反応液を5,000×gで20分間遠心し、沈殿物を分取し、これを本発明組成物として得た。
【0028】
実施例3 グルテン酵素分解物の不溶性成分の調製
(1)小麦グルテン(活性グルテン:George Weston Foods Limited)に10倍量(w/v)の純水を加え、濃塩酸でpHを3.0に調整した。ここにグルテンの質量比1%のニューラーゼ(ニューラーゼF3G:天野エンザイム株式会社)を添加し、攪拌しながら37℃で12時間反応させた。
(2)上記(1)の反応液を5,000×gで20分間遠心し、沈殿物を分取し、これを本発明組成物として得た。
【0029】
実施例4 グルテン酵素分解物の不溶性成分の調製
(1)小麦グルテン(活性グルテン:George Weston Foods Limited)に10倍量(w/v)の純水を加え、濃塩酸でpHを6.0に調整した。ここにグルテンの質量比1%のパパイン(パパインW−40:天野エンザイム株式会社)を添加し、攪拌しながら37℃で12時間反応させた。
(2)上記(1)の反応液を5,000×gで20分間遠心し、沈殿物を分取し、これを本発明組成物として得た。
【0030】
試験例1 胆汁酸吸着試験
(1)胆汁酸混合液の調製
タウロコール酸(和光純薬工業)242mg、グルココール酸(CALBIOCHEM)658.3mgを混合し、10mMリン酸緩衝液(pH=6.8)20mLに溶解した。10mMリン酸緩衝液(pH=6.8)を用いて50mLにメスアップし、36mM胆汁酸混合液(ストック液)を調製した。
(2)胆汁酸吸着
試験物質200mgを遠心管に秤量し、これに(1)で調製したストック液の50倍希釈液を4mL添加した。これにパンクレアチン溶液(パンクレアチン(ブタ膵臓由来:和光純薬工業)10mg/mL 100mMリン酸緩衝液)をさらに添加し、37℃で1時間反応させた。反応液を10万×g、18分間遠心分離し、上清を分取した。沈殿に100mMリン酸緩衝液を5mL添加して懸濁後、10万×g、18分間遠心分離し、上清を分取して先の上清と合一した。
(3)胆汁酸吸着率の測定
上記上清中の胆汁酸濃度を、胆汁酸測定キット(和光純薬工業「総胆汁酸テストワコー」)により常法にて測定し、次式により胆汁酸吸着率を決定した。

試験物質の胆汁酸吸着率(%)=
{(陰性対照の胆汁酸濃度−試験物質の胆汁酸濃度)/陰性対照の胆汁酸濃度}×100
【0031】
なお、試験物質としては、以下を用いた。
実施例1〜4 本発明組成物(グルテン酵素分解物の不溶性成分)
比較例1 小麦グルテン(活性グルテン:George Weston Foods Limitedより購入)
比較例2 タカキビ(高粱)ペプシン分解物の不溶性成分
比較例3 分離大豆蛋白質(フジプロF:不二製油株式会社)
比較例4 大豆レジスタントプロテイン
比較例5 酒粕再発酵物(プロファイバー(登録商標):大関株式会社、特許文献3記載の酒粕難消化成分)
陽性対照 コレスチラミン(SIGMA)
陰性対照 セルロース(SIGMA)
【0032】
参考として、比較例2のタカキビのペプシン分解物の不溶性成分、及び比較例4の大豆レジスタントプロテインの製法を以下に記載する。
【0033】
比較例2 タカキビのペプシン分解物の不溶性成分
タカキビ種子(株式会社GNS)を粉砕し、粉砕物の10倍量(w/v)の純水を加え、濃塩酸でpHを2.0に調整した。ここにタカキビ種子粉砕物の質量比1%のペプシン(ブタ胃粘膜由来:和光純薬工業)を添加し、37℃で4時間反応させた。反応液にTris−HClを終濃度25mMとなるよう添加し、次いで、濃水酸化ナトリウムでpHを8.0に調整し、タカキビ種子粉砕物の質量比2%のパンクレアチン(ブタ膵臓由来:和光純薬工業)を添加し、37℃で24時間反応させた。次いで、反応液を15,000×gで20分間遠心し、沈殿物を分取した。
【0034】
比較例4 大豆レジスタントプロテイン
岩見ら(大豆たん白質研究, 2002, vol.5:58-62)を参考にし、大豆蛋白質からレジスタントプロテインを調製した。具体的には、大豆蛋白(フジプロF:不二製油)に10倍量(w/v)の純水を加え、濃塩酸でpHを2.0にし、上記大豆蛋白の質量比1%のペプシン(ブタ胃粘膜由来:和光純薬工業)を添加し、37℃で4時間反応させた。次に、濃水酸化ナトリウムでpHを8.0に調整し、大豆蛋白の質量比2%のパンクレアチン(ブタ膵臓由来:和光純薬工業)を添加し、37℃で16時間反応させた。反応液を9000×gで15分間遠心し、不溶性成分を分取した。これを0.1M塩酸で洗浄し、pHを4.5に調整後再度遠心分離し、不溶性成分を分取してレジスタントプロテインとした。
【0035】
(4)結果
結果を下記表1及び図1に示す。本発明の組成物は、食物繊維であるセルロース、ならびに従来コレステロール低下効果が報告されている物質であるレジスタントプロテインや分離大豆蛋白質、レジスタントスターチ及びレジスタントプロテインを主要成分とする酒粕難消化成分と比較して、高い胆汁酸吸着能を有していることが示された。
【0036】
【表1】

【0037】
試験例2 血中コレステロール量及び胆汁酸排出能試験
(1)動物飼育
ラット(SD、雄、5週齢;日本チャールス・リバー社)を14日間の馴化期間後、試験に供した。動物はステンレス製ケージにて、23±3℃、明暗各12時間の条件下で飼育し馴化させた。馴化終了後に、群間の平均体重及び血中コレステロール値がほぼ均等になるように各群8匹ずつ3群に群分けした。馴化期間中はAIN−76飼料(オリエンタル酵母工業)を給餌し、試験開始より各群ごとに表2に示す試験飼料に切り替え、7日間自由摂取させた。なお、飲水は自由とした。
【0038】
【表2】

【0039】
(2)血中総コレステロール量の測定
馴化終了後及び試験開始7日目の午前中に、ヘパリンナトリウム存在下で尾静脈から約150μL採血した。遠心機(CF8DL、日立工機社)を用いて遠心分離(4℃、3000rpm(約1972×g)、15分間)し、得られた血漿を用いて総コレステロール値を測定した。測定は、試薬としてピュアオートS CHO−N(積水メディカル社)を用い、生化学自動分析装置(AU400、ベックマン社)にて行った。
【0040】
(3)糞中総胆汁酸の測定
馴化中の試験開始前及び試験終了時に各動物から採糞を行った。採取した糞からFolch法にて糞便中の脂質を抽出した。具体的には、試験開始前及び試験終了時の糞便をそれぞれ乾燥し、粉砕後、粉砕物を1g秤量して精製水を2mL加え、懸濁液を調製した。糞便懸濁液2mLにクロロホルム/メタノール(2:1)8mLを加え、室温で20分振盪(レシプロシェーカーSR−2s、タイテック社)した。振盪後、4℃、2500rpm(約1370×g)、5分間遠心分離(CF8DL、日立工機社)し、下層のクロロホルム層を1mL採取した。採取したクロロホルム層を蒸発乾固し、イソプロパノール0.5mLに溶解後、胆汁酸量を測定した。測定は、試薬としてアクアノートカイノスTBA(カイノス社)を用い、生化学自動分析装置(AU400、ベックマン社)にて行った。
【0041】
(4)結果
試験開始前後の血中総コレステロール量及び糞中総胆汁酸量、ならびにそれらの試験開始前後での変化量(各群の平均値の差)を算出した結果を、表3、ならびに図2及び図3に示す。何れの群でも、コレステロール負荷食によって、試験開始前と比べて試験開始後には、血中コレステロール量及び糞中胆汁酸量の増加が観察されたが、本発明の組成物を摂取した実施例群では、標準食のみ摂取した対照群やレジスタントプロテイン(比較例4組成物)を摂取した比較例群と比べて、血中コレステロール量の増加は抑制され、且つ糞中への胆汁酸排出量はより増加していた。したがって、本発明の組成物は、高い血中コレステロール低下能及び胆汁酸の糞中排出能を有することが示された。
【0042】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルテンの蛋白分解酵素分解物の不溶性成分を含有するコレステロール低下用組成物。
【請求項2】
前記蛋白分解酵素がペプシン、パパイン、ニューラーゼ、Aspergillus属の微生物由来の酸性プロテアーゼから選択される1種以上である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記分解物が、グルテンの蛋白分解酵素と糖分解酵素とによる分解物である請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の組成物を含有する医薬。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項記載の組成物を含有する飲食品。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項記載の組成物を含有する飼料。
【請求項7】
グルテンを蛋白分解酵素で分解し、得られた分解物から不溶性成分を取得することを特徴とするコレステロール低下用組成物の製造方法。
【請求項8】
前記蛋白分解酵素がペプシン、パパイン、ニューラーゼ、Aspergillus属の微生物由来の酸性プロテアーゼから選択される1種以上である請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記分解物が、グルテンの蛋白分解酵素と糖分解酵素とによる分解物である請求項7又は8記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−140396(P2012−140396A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88796(P2011−88796)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000226998)株式会社日清製粉グループ本社 (125)
【Fターム(参考)】