説明

コロイダルシリカおよびその製造方法

【課題】印刷紙用のインク吸収性フィラー、塗料の展着性改善剤、各種材料表面の親水性コーティング材、高強度バインダー、高純度シリカゲル、高純度セラミックスの原料、触媒用バインダー、電子材料用研磨材等に有用なコロイダルシリカを提供すること。
【解決手段】トリアゾールの存在下で活性珪酸を原料として製造されるコロイダルシリカであって、液相にトリアゾールを含有し、透過型電子顕微鏡による長径/短径比が1.0〜5の範囲にありかつ長径/短径比の平均値が1.2〜3である非球状の異形シリカ粒子群を含有するコロイダルシリカである。これは、珪酸アルカリ水溶液とカチオン交換樹脂とを接触させて、活性珪酸水溶液を調製した後、この活性珪酸水溶液にトリアゾールおよびアルカリ剤を添加し、アルカリ性とした後、加熱してシリカ粒子を形成させ、続いてビルドアップの手法でシリカ粒子を成長させることにより製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷紙用のインク吸収性フィラー、塗料の展着性改善剤、各種材料表面の親水性コーティング材、高強度バインダー、高純度シリカゲル、高純度セラミックスの原料、触媒用バインダー、電子材料用研磨材等に有用なコロイダルシリカおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非球状のシリカ粒子からなるコロイダルシリカは、数多く提案されている。特許文献1には、電子顕微鏡観察による5〜40ミリミクロンの範囲内の一様な太さで一平面内のみの伸長を有する細長い形状の非晶質コロイダルシリカ粒子が液状媒体中に分散されてなる安定なシリカゾルが記載されている。特許文献2には、珪酸液添加工程の前、添加工程中または添加工程後に、アルミニウム塩などの金属化合物を添加する製法によって得られる細長い形状のシリカ粒子から成るシリカゾルが記載されている。特許文献3には、アルコキシシランの加水分解により得られる長径/短径比が1.4〜2.2の繭型のシリカ粒子から成るコロイダルシリカが記載されている。特許文献4には、水ガラス法の活性珪酸水溶液に代替して、アルコキシシランの加水分解液を使用し、アルカリには水酸化テトラアルキルアンモニウムを使用して、非球状のシリカ粒子を含有するコロイダルシリカが得られることが記載されている。
【0003】
また、アルカリ金属珪酸塩(主に珪酸ソーダ)を原料として製造されるコロイダルシリカに関して、アルカリ金属の含有量を少なくする方法は数多く提案されている。例えば、特許文献5には、水ガラス法の活性珪酸水溶液と水酸化テトラアルキルアンモニウムとを使用して、ナトリウムの少ないコロイダルシリカが得られることが記載されている。
水ガラス法の活性珪酸水溶液と水酸化ナトリウムとを用いて製造される通常のコロイダルシリカから、カチオン交換によりナトリウムを除去しても、シリカ粒子内部に存在するナトリウムは徐々に液相に溶出してくることはよく知られている。そのため、特許文献6には、コロイダルシリカから、カチオン交換によりナトリウムを除去した後、アンモニアを加えてアルカリ性とし、オートクレーブで98〜150℃で処理して、シリカ粒子内部に存在するナトリウムを強制的に液相に溶出させ、カチオン交換で除去する方法が記載されている。
【0004】
一方、トリアゾールは、銅と水溶性の錯塩を生成するため、銅の溶解剤に使用される。逆に、ベンゾトリアゾールは、銅や銀などの金属と水不溶性の錯塩を生成するため、銅の腐食防止剤や写真材料としての用途がある。近年、半導体の配線がアルミニウムから銅に移行するに及んで、ベンゾトリアゾールほどではないが、トリアゾールは用途を拡大し、トリアゾールの記載された特許文献は多くある。特許文献を例示すると、特許文献7〜9には、半導体の銅膜をトリアゾールを配合したスラリーで研磨する記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−317115号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平4−187512号公報
【特許文献3】特開平11−60232号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2001−48520号公報(特許請求の範囲および実施例)
【特許文献5】特開2003−89786号公報
【特許文献6】特開2004−189534号公報(特許請求の範囲)
【特許文献7】特開平11−238709号公報
【特許文献8】特開2004−259867号公報
【特許文献9】特開2005−129822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のコロイダルシリカは、その製造過程において、水溶性のカルシウム塩、マグネシウム塩またはこれらの混合物を添加する工程があるので、製品にはそれらが不純物として残存している。特許文献2に記載のコロイダルシリカは、その製造過程において、水溶性のアルミニウム塩を添加する工程があるので、製品にはそれらが不純物として残存している。
特許文献3および特許文献4に記載のコロイダルシリカはアルコキシシランをシリカ源とするので、製品は高純度であるが、シリカの4倍のモル数の大量の副生アルコールの回収工程が必要となる上に、アルコキシシラン自体の価格が高いという問題がある。
特許文献5に記載のコロイダルシリカは、ナトリウムの少ない点で好ましいが、シリカ粒子の形状については何ら検討がされていない。特許文献6に記載のコロイダルシリカの製造方法は、アンモニアを必須成分とするため粒子内部にアンモニアを含有することになり、用途が限られる上に、製造工程がながく、エネルギー使用も過大となり不利な一面がある。
特許文献7〜9では、研磨粒子の形状については何ら検討がされていない。
【0007】
従って、本発明の目的は、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩等の珪素以外の多価金属化合物を用いることなく、非球状の異形シリカ粒子群を含有するコロイダルシリカを製造する方法およびその製造方法により得られるコロイダルシリカを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、上記の課題を解決することができた。
すなわち、本発明は、トリアゾールの存在下で活性珪酸を原料として製造されるコロイダルシリカであって、液相にトリアゾールを含有し、透過型電子顕微鏡観察による長径/短径比が1.0〜5の範囲にありかつ長径/短径比の平均値が1.2〜3である非球状の異形シリカ粒子群を含有するコロイダルシリカである。トリアゾールとしては1,2,3−トリアゾールまたは1,2,4−トリアゾールが好ましい。また、このコロイダルシリカは、透過型電子顕微鏡観察によるシリカ粒子の平均短径が5〜30nmであり、かつシリカの濃度が5〜50重量%であることが好ましい。このコロイダルシリカは、シリカ/トリアゾールのモル比が15〜2,000であることが好ましい。
このコロイダルシリカにおいて、アルカリ金属含有率を、シリカ当たり50ppm以下とすることも好ましい。
【0009】
このコロイダルシリカの製造方法は、以下の工程、
(a)珪酸アルカリ水溶液をカチオン交換樹脂に接触させて活性珪酸水溶液を調製する工程、
(b)この活性珪酸水溶液にトリアゾールとアルカリ剤とを添加してアルカリ性とした後、加熱してシリカ粒子を形成させる工程、および
(c)続いて、加熱下で、アルカリ性を維持しながら、活性珪酸水溶液とトリアゾールとアルカリ剤とを添加するか、または活性珪酸水溶液とアルカリ剤とを添加して、シリカ粒子を成長させる工程
を有する。
また、このコロイダルシリカの製造方法は、(c)工程の後、(d)シリカを濃縮する工程を更に有することが好ましい。
なお、シリカ粒子の形成とシリカ粒子の成長の双方をあわせて、以下で「粒子成長」あるいは「成長」と記載することがある。
【0010】
上記コロイダルシリカの製造方法は、常法であるアルカリ金属水酸化物や珪酸アルカリをアルカリ剤に用いた製造方法と概略同一である。すなわち、上記コロイダルシリカの製造方法は、珪酸ソーダより活性珪酸水溶液を製造する工程は常法と同一であるが、シリカ粒子の形成工程成長において、トリアゾールとアルカリ剤とを使用する点が異なる。シリカ粒子の成長工程では、トリアゾールは添加してもよいし、添加しなくてもよい。得られたコロイダルシリカを濃縮する工程は常法と同一である。アルカリ剤としては、常法で使用するアルカリ金属水酸化物でもよく、あるいは有機アルカリでもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、印刷紙用のインク吸収性フィラー、塗料の展着性改善剤、各種材料表面の親水性コーティング材、高強度バインダー、高純度シリカゲル、高純度セラミックスの原料、触媒用バインダー、電子材料用研磨材等に有用なコロイダルシリカを安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1のシリカ粒子形成工程を経たコロイダルシリカのTEM写真である。
【図2】実施例1で得られたコロイダルシリカのTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をさらに説明する。
本発明のコロイダルシリカは、トリアゾールの存在下で活性珪酸水溶液を原料として得られる。本発明のコロイダルシリカは、透過型電子顕微鏡観察による長径/短径比が1.0〜5の範囲にありかつ長径/短径比の平均値が1.2〜3である非球状の異形シリカ粒子群を含有している。本発明における長径/短径比は、得られたコロイダルシリカの透過型電子顕微鏡写真にスケールをあてて、ランダムに選択したシリカ粒子100個について、シリカ粒子の最も長い辺aと最も短い辺bとを測定し、この値(a1、a2、・・・、a100およびb1、b2、・・・、b100)を用いてそれぞれの粒子の長径/短径比(a1/b1、a2/b2、・・・、a100/b100)を算出し、最小値側の5点の値の算術平均値を上限とし、最大値側の5点の値の算術平均値を下限としたものである。また、本発明における長径/短径比の平均値とは、得られたコロイダルシリカの透過型電子顕微鏡写真にスケールをあてて、ランダムに選択したシリカ粒子100個について、シリカ粒子の最も長い辺aと最も短い辺bとを測定し、この値(a1、a2、・・・、a100およびb1、b2、・・・、b100)を用いてそれぞれの粒子の長径/短径比(a1/b1、a2/b2、・・・、a100/b100)を算出し、最大値側および最小値側の5点の値を除いた90点の値の算術平均値である。
【0014】
本発明のコロイダルシリカは、液相にトリアゾールを含有している。このトリアゾールは、コロイド粒子の形成時および成長時に使用したものである。本発明のコロイダルシリカにおいて、シリカ/トリアゾールの好ましいモル比は15〜2,000の範囲である。1,2,3−トリアゾールと1,2,4−トリアゾールの酸解離定数の逆数の対数値(pKa)は、それぞれ1.2と2.3であって弱い塩基である。例えば、1,2,4−トリアゾールの1%水溶液はpHが6程度であって、粒子成長には寄与しない。しかしながら、粒子形成時および粒子成長時の粒子形状に影響を及ぼす。トリアゾールは成長中のシリカ粒子表面に結合もしくは吸着して、結合部位の粒子成長を阻害し、球状成長をできないようにしているようである。シリカのゲルが発生した場合のシリカ/トリアゾールのモル比は15より小さかった。トリアゾールの濃度が高すぎて、粒子成長が全くできなかったためと考えられる。形状が球状に近いシリカ粒子を多く含む場合のシリカ/トリアゾールのモル比は2,000より大きかった。トリアゾールの濃度が低く、粒子成長の阻害効果が少ないためと考えられる。したがって、非球状のシリカ粒子が大半を占めるコロイダルシリカでは、シリカ/トリアゾールのモル比は上記範囲となる。ただし、限外濾過による濃縮を行う場合、このトリアゾールは、水とともに減少するので、最終製品ではシリカ/トリアゾールのモル比が2,000を超えることもある。また、濃縮工程後のコロイダルシリカにトリアゾールを添加し、最終製品におけるシリカ/トリアゾールのモル比を15未満とすることもできる。
【0015】
本発明における非球状の異形シリカ粒子群を含有するコロイダルシリカとは、俵のような形状ないし芋虫のような屈曲した棒状の形状を有し、かつその形状が個々に異なるシリカ粒子を含有するコロイダルシリカである。具体的には図1および図2に示されるような形状のシリカ粒子を含有するコロイダルシリカである。このシリカ粒子の長径/短径比は1.0〜5の範囲にある。このシリカ粒子は、非球状の粒子が大半を占めており、一部には球状に近い粒子も存在する。図1および図2に示したシリカ粒子は一例であって、製造条件によってその形状はさまざまとなるが、本発明のコロイダルシリカでは、真球状でないシリカ粒子が大半を占めている。
【0016】
本発明のコロイダルシリカに含有されるシリカ粒子は、ヒュームドシリカのシリカ粒子とよく似た形状である。ヒュームドシリカのシリカ粒子は、一般に、長径/短径比が5〜15の細長い異形シリカ粒子群となっている。ヒュームドシリカの一次粒子径(単に粒子径とも記載されることがある)は、一次粒子の短径(太さ)であって通常7〜40nmである。さらに、その一次粒子は凝集して二次粒子を形成しており、スラリーの外観は白色になっている。そのためスラリーを長時間放置すると粒子が沈降する不具合、透明なフィルムや塗膜にならないなどの欠点がある。
【0017】
しかし、本発明のコロイダルシリカに含有されるシリカ粒子は、ヒュームドシリカに見られるような凝集による二次粒子の形成はなく、スラリーの外観は透明ないし半透明になっている。粒子が沈降する不具合はなく、透明なフィルムや塗膜を得ることもできる。
【0018】
本発明のコロイダルシリカの製造方法は、水ガラス法の活性珪酸水溶液をシリカ源とし、粒子形成工程において、トリアゾールとアルカリ剤とを使用することを特徴とする。粒子形成工程では、トリアゾールの存在が必要不可欠である。一方、粒子成長工程では、前工程で添加したトリアゾールが液相に残存しているので、活性珪酸水溶液およびアルカリ剤だけを添加してシリカ粒子を成長させてもよいが、活性珪酸水溶液、トリアゾールおよびアルカリ剤を添加してシリカ粒子を成長させてもよい。
【0019】
アルカリ剤としては、水酸化ナトリウムのようなアルカリ金属水酸化物が最も好適な材料である。アルカリ金属を好まないときには、アミン類や水酸化第四アンモニウムなどの含窒素有機アルカリ化合物を用いることができる。アミン類としては、トリエタノールアミンなどの揮発性の低い3級アミン、ピペラジンなどの2級アミン、エチレンジアミンなどの脂肪族アミンが使用できる。水酸化第四アンモニウムとしては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化トリメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウム(別名、水酸化コリン)が挙げられる。
【0020】
上記の含窒素有機アルカリ化合物を使用することで、シリカ当たりのアルカリ金属含有率を50ppm以下とすることができる。セラミック、触媒用バインダー、電子材料用研磨材などの用途ではこの程度のアルカリ金属含有率とすることが必要である。より好ましくは30ppm以下である。
【0021】
原料として用いる珪酸アルカリ水溶液としては、通常、水ガラス(水ガラス1号〜4号等)と呼ばれる珪酸ナトリウム水溶液が好適に用いられる。このものは比較的安価であり、容易に手に入れることができる。また、Naイオンを嫌う半導体用途では、珪酸ナトリウム水溶液の代わりに珪酸カリウム水溶液を原料として用いることが好ましい。固体状のメタ珪酸アルカリを水に溶かして珪酸アルカリ水溶液を調製する方法もある。メタ珪酸アルカリは晶析工程を経て製造されるため、不純物の少ないものがある。珪酸アルカリ水溶液は、必要に応じて水で希釈して使用する。
【0022】
本発明で使用するカチオン交換樹脂は、公知のものを適宜選択して使用することができ、とくに制限されない。珪酸アルカリ水溶液とカチオン交換樹脂との接触工程は、例えば珪酸アルカリ水溶液をシリカ濃度3〜10重量%に水希釈し、次いでH型強酸性カチオン交換樹脂に接触させて脱アルカリし、必要に応じてOH型強塩基性アニオン交換樹脂に接触させて脱アニオンすることによって行うことができる。この工程により、活性珪酸水溶液が調製される。接触条件の詳細は、従来から既に様々な提案があり、本発明ではそれら公知のいかなる条件も採用することができる。
【0023】
次いで、シリカ粒子の形成を行う。この粒子形成工程では、活性珪酸水溶液にトリアゾールを添加する以外は常法の操作が行われる。例えば、pHを8以上となるように活性珪酸水溶液にトリアゾールおよびアルカリ剤を添加し、60〜240℃に加熱することで、シリカ粒子(種粒子)を形成させることができる。トリアゾールとアルカリ剤の添加順序は、どちらが先でもよい。
【0024】
次いで、上記で形成されたシリカ粒子を種ゾルとするビルドアップの方法を用いた粒子成長を行う。この粒子成長工程では、pHが8以上の種ゾルを60〜240℃に加熱し、pHを8〜11に維持しながら、活性珪酸水溶液とトリアゾールとアルカリ剤とを添加するか、あるいは活性珪酸水溶液とアルカリ剤とを添加して、シリカ粒子を成長させる。このようにして、シリカ粒子の平均短径を好ましくは5〜30nmにする。
【0025】
上記の粒子形成工程および粒子成長工程を経て得られたコロイダルシリカは、必要に応じて、濃縮を行ってもよい。シリカの濃縮は、水分の蒸発濃縮でもよいが、エネルギー的には限外濾過の方が有利である。
【0026】
限外濾過によりシリカを濃縮するときに使用される限外濾過膜について説明する。限外濾過膜が適用される分離は、1nmから数ミクロンの粒子を対象とするが、溶解した高分子物質をも対象とするため、ナノメータ域では濾過精度を分画分子量で表現している。本発明では、分画分子量15,000以下の限外濾過膜を好適に使用することができる。この範囲の膜を使用すると1nm以上の粒子は分離することができる。更に好ましくは分画分子量3,000〜15,000の限外濾過膜を使用する。3,000未満の膜では濾過抵抗が大きすぎて処理時間が長くなり不経済であり、15,000を超えると、精製度が低くなる。膜の材質は、ポリスルホン、ポリアクリルニトリル、焼結金属、セラミック、カーボンなどあり、いずれも使用できる。耐熱性や濾過速度などの点からポリスルホン製の膜が使用しやすい。膜の形状は、スパイラル型、チューブラー型、中空糸型などあり、いずれも使用できる。中空糸型膜がコンパクトで使用しやすい。また、限外濾過工程が、余剰のトリアゾールの洗い出し除去をかねている場合、必要に応じて、目標シリカ濃度に達した後も純水を加えるなどして、更に洗い出し除去を行って、トリアゾールの除去率を高める作業を行うこともできる。この工程でシリカの濃度が5〜50重量%となるように濃縮するのがよい。
【0027】
また、本発明では、必要に応じて、粒子成長工程後または限外濾過工程後に、得られたコロイダルシリカをイオン交換樹脂により精製してもよい。例えば、コロイダルシリカをH型強酸性カチオン交換樹脂に接触させてアルカリ剤を除去したり、コロイダルシリカをOH型強塩基性アニオン交換樹脂に接触させて脱アニオンすることで、一層の高純度化を図ることができる。
【0028】
以上のようにして、トリアゾールの存在下で活性珪酸水溶液を原料としてコロイダルシリカを製造することにより、液相にトリアゾールを含有し、透過型電子顕微鏡観察による長径/短径比が1.0〜5の範囲でありかつ長径/短径比の平均値が1.2〜3である非球状の異形シリカ粒子群を含有するコロイダルシリカを得ることができる。このようにして得られたコロイダルシリカは、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩等の珪素以外の多価金属化合物を含有しないので、印刷紙用のインク吸収性フィラー、塗料の展着性改善剤、各種材料表面の親水性コーティング材、高強度バインダー、高純度シリカゲル、高純度セラミックスの原料、触媒用バインダー、電子材料用研磨材等に有用である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。実施例での測定は以下の装置を使用した。
(1)TEM観察:(株)日立製作所、透過型電子顕微鏡H−7500型を使用した。
(2)BET法比表面積:(株)島津製作所、フローソーブ2300型を使用した。
(3)トリアゾール分析:(株)島津製作所、全有機体炭素計TOC−5000Aおよび固体試料燃焼装置SSM−5000Aを使用し、求めた全有機体炭素量よりトリアゾールに換算した。具体的には、全有機体炭素量(TOC)は、全炭素量(TC)と無機体炭素量(IC)とを測定後、TOC=TC−ICにより求めた。IC成分は大気中より吸収された炭酸であると推定される。
コロイダルシリカ中のトリアゾールの測定では(株)島津製作所、全有機体炭素計TOC−5000Aおよび固体試料燃焼装置SSM−5000Aを使用した。TC測定の標準として炭素量0.02重量%のグルコース水溶液を用い、IC測定の標準として炭素量0.02重量%の炭酸ナトリウム水溶液を用いた。超純水を炭素量0重量%の標準とし、それぞれ先に示した標準を用い、TCは125μlと250μl、またICは100μlで検量線を作成した。サンプルのTC測定ではサンプルを約100mg採取し、900℃燃焼炉で燃焼させた。また、IC測定ではサンプルを約100mg採取し、(1+1)燐酸を約0.5ml添加し200℃燃焼炉で反応を促進した。
また、限外濾過時の濾液のトリアゾールの測定では(株)島津製作所、全有機体炭素計TOC−5000Aを使用した。TC測定の標準として炭素量0.05重量%、炭素量0.02%のフタル酸水素カリウム水溶液、炭素量0重量%の超純水を、それぞれ32μl用いて検量線を作成した。IC測定の標準として炭素量0.05重量%、炭素量0.02%の、炭酸水素ナトリウムと炭酸ナトリウムの混合水溶液、炭素量0重量%の超純水を、それぞれ40μl用いて検量線を作成した。サンプルのTC測定ではサンプルを32μl用いて、680℃燃焼管で燃焼させた。また、IC測定ではサンプルを40μl用いて、(1+1)燐酸と反応させた。
また、水酸化テトラメチルアンモニウムを含有するサンプルでは下記の方法(5)でテトラメチルアンモニウムを定量しTCより減じてトリアゾール量に換算した。
(4)金属元素分析:(株)堀場製作所、ICP発光分析計、ULTIMA2を使用した。
(5)テトラメチルアンモニウム(TMA)のイオンクロマト分析:ダイオネクス社、イオンクロマトICS−1500を使用した。具体的には、液相TMAは、サンプルを1,000倍から5,000倍に純水で希釈し測定を行った。また、全TMAの測定には前処理としてサンプル5gに3gの20重量%NaOHと純水を加え、80℃で加熱しシリカを完全に溶解させた。この溶解液を1,000倍から5,000倍に純水で希釈し測定を行い、TMA量を求めた。
【0030】
〔実施例1〕
(a)活性珪酸水溶液の調製
脱イオン水28kgに3号珪酸ソーダ(SiO2:28.8重量%、Na2O:9.7重量%、H2O:61.5重量%)5.2kgを加えて均一に混合しシリカ濃度4.5重量%の希釈珪酸ソーダを作製した。この希釈珪酸ソーダを、予め塩酸によって再生したH型強酸性カチオン交換樹脂(オルガノ(株)製アンバーライト(登録商標)IR120B)20リットルのカラムに通して脱アルカリし、シリカ濃度3.7重量%でpH2.9の活性珪酸水溶液40kgを得た。
【0031】
(b)シリカ粒子の形成
次いで、得られた活性珪酸水溶液にトリアゾールを添加した後、アルカリ剤を加えてアルカリ性にして加熱し、シリカ粒子を形成させた。すなわち、得られた活性珪酸水溶液の一部500gに、攪拌下、1,2,4−トリアゾール(試薬、粉末) 1gを加えて溶解した後、5重量%水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを8.2とし、100℃に1時間保ち、放冷した。
【0032】
得られたコロイダルシリカは、水の蒸発で460gとなっており、シリカ濃度は4.0重量%となっていた。また、得られたコロイダルシリカは、25℃でのpHが9.6であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では短径が約5nmで、長径/短径比が1〜5の範囲にありかつ長径/短径比の平均値が2である非球状の異形シリカ粒子群からなるものであった。TEM写真を図1に示した。
このコロイダルシリカは、活性珪酸水溶液の使用量およびトリアゾールの使用量と分析値から、シリカ/トリアゾールのモル比は21と算出された。コロイダルシリカの全トリアゾール濃度は0.217重量%であった。
【0033】
(c)シリカ粒子の成長
続いて、得られたコロイダルシリカを再度加熱して100℃とし、ビルドアップの方法をとり、3,000gの活性珪酸水溶液を5時間かけて添加した。活性珪酸水溶液の添加中、100℃を維持しながら、pHが9〜10の範囲になるように5重量%水酸化ナトリウム水溶液を同時添加した。添加中の水の蒸発により放冷後には2,760gのコロイダルシリカを得た。シリカ濃度は4.7重量%となっていた。このコロイダルシリカは、25℃でのpHが9.5であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では短径が約10〜20nmで、長径/短径比が1〜3の範囲でありかつ長径/短径比の平均値が2である非球状の異形シリカ粒子群からなるものであった。TEM写真を図2に示した。また、BET法による比表面積換算の粒子径は17nmであった。
このコロイダルシリカは、活性珪酸水溶液の使用量およびトリアゾールの使用量と分析値から、シリカ/トリアゾールのモル比は150と算出された。コロイダルシリカの全トリアゾール濃度は0.036重量%であった。
【0034】
(d)コロイダルシリカの濃縮
最後に、分画分子量6,000の中空糸型限外濾過膜(旭化成(株)製マイクローザ(登録商標)UFモジュールSIP−1013)を用いてポンプ循環送液による加圧濾過を行い、シリカ濃度26.9重量%までコロイダルシリカを濃縮し、約480gのコロイダルシリカを回収した。このコロイダルシリカは、25℃でのpHが8.9であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では短径が約10〜20nmで、長径/短径比が1〜3の範囲でありかつ長径/短径比の平均値が2である非球状の異形シリカ粒子群からなるものであった。
このコロイダルシリカは、活性珪酸水溶液の使用量およびトリアゾールの分析値から、シリカ/トリアゾールのモル比は1,000と算出された。コロイダルシリカの全トリアゾール濃度は0.031重量%であった。
限外濾過時の濾液のトリアゾール濃度は0.043重量%であったので、限外濾過によりトリアゾールを効率よく除去できることが確認できた。また、シリカ当たりのアルカリ金属の含有量は16,700ppmであった。
【0035】
〔実施例2〕
実施例1で用いたものと同じ活性珪酸水溶液500gに、攪拌下、1,2,3−トリアゾール(試薬、液体) 0.5gを加えて溶解した後、25重量%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を12g添加してpHを8.2とした後、100℃に1時間保ち、放冷した。
得られたコロイダルシリカは、25℃でのpHが9.7であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では短径が約5nmで、長径/短径比が2〜15の範囲でありかつ長径/短径比の平均値が10である非球状の異形シリカ粒子群からなるものであった。
【0036】
次いで、得られたコロイダルシリカを再度加熱して100℃とし、2,000gの活性珪酸水溶液を4時間かけて添加した。活性珪酸水溶液の添加中、100℃を維持しながら、pHが9〜10の範囲になるように25重量%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液6gを同時添加した。添加中の水の蒸発により放冷後には2,100gのコロイダルシリカを得た。シリカ濃度は4.4重量%となっていた。このコロイダルシリカは、25℃でのpHが9.5であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では短径が約10〜15nmで、長径/短径比が1.2〜5の範囲にありかつ長径/短径比の平均値が2である非球状の異形シリカ粒子群からなるものであった。また、BET法による比表面積換算の粒子径は9nmであった。
【0037】
最後に、分画分子量6,000の中空糸型限外濾過膜(旭化成(株)製マイクローザ(登録商標)UFモジュールSIP−1013)を用いてポンプ循環送液による加圧濾過を行い、シリカ濃度18.5重量%までコロイダルシリカを濃縮し、約500gのコロイダルシリカを回収した。このコロイダルシリカは、25℃でのpHが9.1であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察では短径が約10〜15nmで、長径/短径比が1.2〜5の範囲にありかつ長径/短径比の平均値が2である非球状の異形シリカ粒子群からなるものであった。
コロイダルシリカは、活性珪酸水溶液の使用量およびトリアゾールの分析値から、シリカ/トリアゾールのモル比は1,330と算出された。コロイダルシリカの全トリアゾール濃度は0.025重量%であった。
限外濾過時の濾液のトリアゾール濃度は0.023重量%であったので、限外濾過によりトリアゾールを効率よく除去できることが確認できた。また、シリカ当たりのアルカリ金属の含有量は30ppmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリアゾールの存在下で活性珪酸を原料として製造されるコロイダルシリカであって、液相にトリアゾールを含有し、透過型電子顕微鏡観察による長径/短径比が1.0〜5の範囲にありかつ長径/短径比の平均値が1.2〜3である非球状の異形シリカ粒子群を含有することを特徴とするコロイダルシリカ。
【請求項2】
トリアゾールが1,2,3−トリアゾールまたは1,2,4−トリアゾールであることを特徴とする請求項1に記載のコロイダルシリカ。
【請求項3】
シリカ/トリアゾールのモル比が15〜2,000であることを特徴とする請求項1に記載のコロイダルシリカ。
【請求項4】
透過型電子顕微鏡観察によるシリカ粒子の平均短径が5〜30nmであり、かつシリカの濃度が5〜50重量%であることを特徴とする請求項1に記載のコロイダルシリカ。
【請求項5】
シリカ当たりのアルカリ金属含有率が50ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載のコロイダルシリカ。
【請求項6】
以下の工程
(a)珪酸アルカリ水溶液をカチオン交換樹脂に接触させて活性珪酸水溶液を調製する工程、
(b)この活性珪酸水溶液にトリアゾールとアルカリ剤とを添加してアルカリ性とした後、加熱してシリカ粒子を形成させる工程、および
(c)続いて、加熱下で、アルカリ性を維持しながら、活性珪酸水溶液とトリアゾールとアルカリ剤とを添加するか、または活性珪酸水溶液とアルカリ剤とを添加して、シリカ粒子を成長させる工程
を有することを特徴とする請求項1に記載のコロイダルシリカの製造方法。
【請求項7】
(c)工程の後、(d)シリカを濃縮する工程を更に有することを特徴とする請求項6に記載のコロイダルシリカの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−26138(P2011−26138A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170274(P2009−170274)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】