説明

コロニー検出方法、コロニー検出システムおよびコロニー検出プログラム、ならびに、エームス試験方法およびエームス試験システム

【課題】より正確にコロニーの個数を数えることができるコロニー検出方法、コロニー検出システムおよびコロニー検出プログラムを提供する。
【解決手段】画像取得手段11が、所定時間ごとに培地の投影像を取得するようになっている。候補抽出手段13が、画像取得手段11で所定時間ごとに取得された投影像を、それぞれ1つ前の時刻に取得された投影像と比較して、色が変化する変化位置と、その変化位置での色の変化状態とを抽出するようになっている。判定手段14が、画像取得手段11で所定時間ごとに取得された投影像の候補抽出手段13で抽出された色の変化状態に基づいて、対応する変化位置がコロニーかどうかを判定するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培地を通過する光による投影像に基づいて細菌のコロニーを検出するコロニー検出方法、コロニー検出システムおよびコロニー検出プログラム、ならびに、エームス試験方法およびエームス試験システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のコロニーの検出方法として、培地を通過する光をエリアセンサで所定時間ごとに受け、その画像を2値化し、その2値化画像の中に存在する画素連結領域の個数を数えることにより、その培地で培養された細菌のコロニーを検出するものがある(例えば、特許文献1参照)。この方法では、コロニーが成長して面積が拡大すると、コロニーの影像が大きくなることから、影像が大きくなるものが成長したコロニーであると判断して数えている。
【0003】
ところで、細菌のコロニーを検出する試験として、エームス(Ames)試験がある。エームス試験は、細菌を用いる復帰突然変異試験とも言われ、被験物質の発がん性を予測する試験として知られる遺伝毒性試験の1つである。OECDのガイドライン、厚生労働省遺伝毒性試験カイドラインにも試験方法について記載されており、医薬品、化粧品、食品、化学物質等の安全性評価に世界で広く使用されている試験である。エームス試験は、被験物質がDNAに影響を与え、その結果、遺伝子突然変異を起こす危険性があるかを調べる試験である。通常、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)のTA98、TA100、TA1535、TA1537、大腸菌(Escherichia coli)のWP2uvrAあるいはWP2uvrApKM101の計5菌株が用いられる。これらの菌株は、ヒスチジンあるいはトリプトファンといったアミノ酸の要求性株であり、遺伝子突然変異が生じると、これらアミノ酸非条件下でも生育可能になり、コロニー数が対照サンプルに対して増加するという現象が生じる。エームス試験は、この原理を利用した試験法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−85533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、成長しても面積があまり拡大しないコロニーを見逃したり、計測途中で付着したゴミなどをコロニーと判断したりする可能性があり、正確なコロニー数を得られないおそれがあるという課題があった。このため、エームス試験のようなコロニーの個数を正確に数える必要がある試験で使用するために、より正確にコロニーの個数を数えることができる方法が望まれていた。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、より正確にコロニーの個数を数えることができるコロニー検出方法、コロニー検出システムおよびコロニー検出プログラム、ならびに、エームス試験方法およびエームス試験システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るコロニー検出方法は、培地を通過する光による投影像に基づいて細菌のコロニーを検出するコロニー検出方法であって、所定時刻ごとに前記投影像を取得する画像取得ステップと、前記画像取得ステップで所定時刻ごとに取得された投影像を、それぞれ1つ前の時刻に取得された投影像と比較して、色の変化位置と、その変化位置での色の変化状態とを抽出する候補抽出ステップと、前記画像取得ステップで取得された投影像の前記候補抽出ステップで抽出された色の変化状態に基づいて、対応する変化位置がコロニーかどうかを判定する判定ステップとを、有することを特徴とする。
【0008】
本発明に係るコロニー検出システムは、培地を通過する光による投影像に基づいて細菌のコロニーを検出するコロニー検出システムであって、所定時刻ごとに前記投影像を取得する画像取得手段と、前記画像取得手段で所定時刻ごとに取得された投影像を、それぞれ1つ前の時刻に取得された投影像と比較して、色が変化する変化位置と、その変化位置での色の変化状態とを抽出する候補抽出手段と、前記画像取得手段で取得された投影像の前記候補抽出手段で抽出された色の変化状態に基づいて、対応する変化位置がコロニーかどうかを判定する判定手段とを、有することを特徴とする。
【0009】
本発明に係るコロニー検出プログラムは、培地を通過する光による投影像に基づいて細菌のコロニーを検出するコロニー検出プログラムであって、コンピュータを、所定時刻ごとに前記投影像を取得する画像取得手段、前記画像取得手段で所定時刻ごとに取得された投影像を、それぞれ1つ前の時刻に取得された投影像と比較して、色が変化する変化位置と、その変化位置での色の変化状態とを抽出する候補抽出手段、および、前記画像取得手段で取得された投影像の前記候補抽出手段で抽出された色の変化状態に基づいて、対応する変化位置がコロニーかどうかを判定する判定手段、として機能させることを特徴とする。
【0010】
培地を通過する光による投影像では、培養時間の経過にともなってコロニーが成長すると、そのコロニーの位置の色が濃くなるなどの変化を示す。本発明に係るコロニー検出方法、コロニー検出システムおよびコロニー検出プログラムでは、その色の変化状態に基づいて、コロニーかどうかを判定することができる。投影像の面積によらずに、コロニーを判定するため、成長しても面積がほとんど拡大しないコロニーも検出することができる。
なお、本発明において、「色の変化状態」は、色の3属性である色相、明度、彩度のうちのいずれの変化状態であっても、またはそれらのうちの2つもしくは3つの変化状態であってもよいが、特に明度(濃淡)の変化状態であることが好ましい。
「所定時刻」は、分単位でも時単位でもよく、あるいはそれより小さい時間単位や大きい時間単位でもよい。
【0011】
コロニーの判定を1段階ではなく、2段階以上で行うことにより、コロニーによらない色の変化をコロニーと判断するのを防ぐことができる。例えば、第1段階として、色の変化が現れたときに変化位置とし、その後、第2段階として、その変化位置でさらに色の変化が継続したときに、その変化位置をコロニーと判定するように設定することができる。この場合、ゴミなどは一旦付着するとそれ以上色が変化しないため、それらをコロニーと判断するのを防止することができる。このように、コロニーの誤判定を減らすことができ、より正確にコロニーの個数を数えることができる。
【0012】
培地を通過する光の当たり具合によって、コロニーの色の変化が異なる場合であっても、コロニーを判定するときの色の変化状態の基準を適切に設定することにより、それらのコロニーを検出することができるため、より正確にコロニーの個数を数えることができる。投影像の取得の制御や、取得された投影像の画像解析、コロニーの判定を、コンピュータなどを利用して行うことにより、自動でコロニーの検出および計数を行うことができる。また、影像の面積の変化状態による判断を併用することにより、コロニーの判定精度をより高めることができる。
【0013】
本発明に係るコロニー検出方法で、前記画像取得ステップは前記投影像を白と黒の濃淡の画像として取得し、前記候補抽出ステップは前記変化位置として色が濃くなる位置、または、色が濃くなる位置および色が薄くなる位置を抽出することが好ましい。
【0014】
本発明に係るコロニー検出システムで、前記画像取得手段は前記投影像を白と黒の濃淡の画像として取得し、前記候補抽出手段は前記変化位置として色が濃くなる位置、または、色が濃くなる位置および色が薄くなる位置を抽出することが好ましい。
【0015】
本発明に係るコロニー検出プログラムで、前記画像取得手段は前記投影像を白と黒の濃淡の画像として取得し、前記候補抽出手段は前記変化位置として色が濃くなる位置、または、色が濃くなる位置および色が薄くなる位置を抽出することが好ましい。
【0016】
この投影像を白と黒の濃淡の画像として取得する場合、容易かつ正確に、コロニーの検出および計数を行うことができる。また、色が薄くなる位置をも抽出する場合には、成長して色が濃くなるコロニーだけでなく、光の当たり具合により色が薄くなるコロニーをも検出することができ、より正確にコロニーの個数を数えることができる。
【0017】
本発明に係るコロニー検出方法で、前記画像取得ステップは前記投影像を白と黒の濃淡のデジタルのグレースケール画像として取得し、前記候補抽出ステップは色の変化状態を前記グレースケール画像の階調値の変化量として抽出し、所定時刻での変化量があらかじめ設定された第1判定値より大きいとき、その位置を変化位置として抽出し、その変化前の階調値を基準値とし、前記変化量を積算値とし、前記判定ステップは、前記変化位置で取得された投影像が、1つ前の時刻に取得された投影像と比較して色が変化しているとき、前記基準値からの変化量を前記積算値に順次加算し、その加算値があらかじめ設定された第2判定値よりも大きくなったとき、前記変化位置をコロニーであると判定することが好ましい。
【0018】
本発明に係るコロニー検出システムで、前記画像取得手段は前記投影像を白と黒の濃淡のデジタルのグレースケール画像として取得し、前記候補抽出手段は色の変化状態を前記グレースケール画像の階調値の変化量として抽出し、所定時刻での変化量があらかじめ設定された第1判定値よりも大きいとき、その位置を変化位置として抽出し、その変化前の階調値を基準値とし、前記変化量を積算値とし、前記判定手段は、前記変化位置で取得された投影像が、1つ前の時刻に取得された投影像と比較して色が変化しているとき、前記基準値からの変化量を前記積算値に順次加算し、その加算値があらかじめ設定された第2判定値よりも大きくなったとき、前記変化位置をコロニーであると判定することが好ましい。
【0019】
本発明に係るコロニー検出プログラムで、前記画像取得手段は前記投影像を白と黒の濃淡のデジタルのグレースケール画像として取得し、前記候補抽出手段は色の変化状態を前記グレースケール画像の階調値の変化量として抽出し、所定時刻での変化量があらかじめ設定された第1判定値よりも大きいとき、その位置を変化位置として抽出し、その変化前の階調値を基準値とし、前記変化量を積算値とし、前記判定手段は、前記変化位置で取得された投影像が、1つ前の時刻に取得された投影像と比較して色が変化しているとき、前記基準値からの変化量を前記積算値に順次加算し、その加算値があらかじめ設定された第2判定値よりも大きくなったとき、前記変化位置をコロニーであると判定することが好ましい。
【0020】
この投影像をグレースケール画像として取得する場合、取得された投影像の画像解析やコロニーの判定を、コンピュータなどを利用して行いやすく、コロニーの検出および計数の自動化が容易である。また、ゴミなどが付着して、変化量が第1判定値より大きくなったとしても、それ以上色が変化しないため、加算値が第2判定値より大きくなることがない。このため、ゴミなどをコロニーと判断する誤判定を防ぐことができ、より正確にコロニーの検出および計数を行うことができる。
【0021】
本発明に係るエームス試験方法は、本発明に係るコロニー検出方法によりコロニーを検出することを、特徴とする。また、本発明に係るエームス試験システムは、本発明に係るコロニー検出システムを有することを、特徴とする。
本発明に係るエームス試験方法およびエームス試験システムでは、本発明に係るコロニー検出方法または本発明に係るコロニー検出システムにより、コロニーの誤判定を減らすことができ、より正確にコロニーの個数を数えることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、より正確にコロニーの個数を数えることができるコロニー検出方法、コロニー検出システムおよびコロニー検出プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態のコロニー検出システムの構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示すコロニー検出システムの処理手順を示すフローチャートである。
【図3】図1に示すコロニー検出システムの処理原理を示す(a)投影像のビットマップ、(b)投影像の中央部の輝度の変化を示すグラフ、(c)投影像の中央部の積分積重値を示すグラフ、(d)投影像の成長フラグのビットマップである。
【図4】図1に示すコロニー検出システムの、ゴミが付着した場合の処理原理を示す(a)投影像のビットマップ、(b)投影像の中央部の輝度の変化を示すグラフ、(c)投影像の中央部の積分積重値を示すグラフ、(d)投影像の成長フラグのビットマップである。
【図5】図1に示すコロニー検出システムの、培地をシャーレで培養したときの(a)光の通過状態を示す側面図、(b)シャーレの縁部のコロニーによる光の散乱状態を示す側面図である。
【図6】図1に示すコロニー検出システムの、培地をシャーレで培養したときの投影像を示す顕微鏡写真である。
【図7】図1に示すコロニー検出システムの、菌株TA98を用いてエームス(Ames)試験を行ったときの、培養開始直後および48時間培養後のプレート(シャーレ)の投影像を示す顕微鏡写真である。
【図8】図1に示すコロニー検出システムの、菌株TA98を用いてエームス(Ames)試験を行ったときの、残渣物非存在下における目視計測値と本システム計測値との相関性を示すグラフである。
【図9】図1に示すコロニー検出システムの、菌株TA98を用いてエームス(Ames)試験を行ったときの、残渣物存在下における目視計測値と本システム計測値との相関性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図9は、本発明の実施の形態のコロニー検出方法、コロニー検出システムおよびコロニー検出プログラムを示している。なお、本発明の実施の形態のコロニー検出方法は、そのコロニー検出システムにより実行される方法であり、コロニー検出プログラムを記録したハードディスク、CD−ROM、フレキシブルディスクなどのコンピュータ読み取り可能な記録媒体によりコンピュータに実行させることができる。また、本発明の実施の形態のエームス試験方法は、本発明の実施の形態のコロニー検出方法によりコロニーを検出する方法であり、本発明の実施の形態のエームス試験システムは、本発明の実施の形態のコロニー検出システムを有するものである。
【0025】
本発明の実施の形態のコロニー検出システムは、被検査対象の細菌を含むと考えられる試料を培養する培地に対して、培地を通過する光による投影像に基づいて細菌のコロニーを検出するために使用される。図1に示すように、本発明の実施の形態のコロニー検出システムは、画像取得手段11と、コンピュータ12に含まれる候補抽出手段13と判定手段14とを有している。
【0026】
画像取得手段11は、デジタル顕微鏡に取り付けられたデジタル式のカメラから成っている。画像取得手段11は、デジタル顕微鏡にセットされた培地に対して反対側から光を当てたときの培地の投影像を、所定時間ごとに取得するよう構成されている。画像取得手段11は、培地の投影像を白と黒の濃淡で表された、デジタルのビットマップ形式のグレースケール画像として取得するようになっている。
【0027】
候補抽出手段13は、画像取得手段11に接続され、画像取得手段11で所定時間ごとに取得された投影像を受信するようになっている。候補抽出手段13は、色の変化状態をグレースケール画像の階調値の変化量として抽出するようになっている。候補抽出手段13は、所定時刻に受信した投影像を、1つ前の時刻に取得された投影像と比較して、所定の位置での変化量があらかじめ設定された第1判定値よりも大きいとき、その位置を変化位置として抽出し、その変化前の階調値を基準値とし、その変化量を積算値とするようになっている。また、候補抽出手段13は、変化位置として、色が濃くなる位置および色が薄くなる位置の両方を抽出するようになっている。
【0028】
判定手段14は、所定時刻よりも後の時刻に、変化位置で取得された投影像が、1つ前の時刻に取得された投影像と比較して色が変化しているとき、基準値からの変化量を積算値に順次加算するようになっている。さらに、判定手段14は、その加算値があらかじめ設定された第2判定値よりも大きくなったとき、変化位置をコロニーであると判定するようになっている。このように、判定手段14は、候補抽出手段13で抽出された色の変化状態に基づいて、対応する変化位置がコロニーかどうかを判定するようになっている。
【0029】
次に、図2および図3を参照して、本発明の実施の形態のコロニー検出システムの処理手順について説明する。なお、図2および図3では、コロニーの成長により色が濃くなる場合について示す。また、以下の手順では、時間の経過に従って、画像取得手段11により所定時間ごとに投影像を取得するたびに、各処理を行っていく。
【0030】
まず、画像取得手段11により取得された投影像を候補抽出手段13により受信する。図3(a)に示すように、候補抽出手段13により、所定時刻に取得された投影像と、1つ前の時刻に取得された投影像とを入力する(ステップ21)。候補抽出手段13により、それらの投影像についての、所定の位置での変化量(輝度)と、あらかじめ設定された第1判定値(ノイズ除去しきい値)とを比較する(ステップ22)。変化量が第1判定値(ノイズ除去しきい値)よりも大きいとき、その位置を変化位置として抽出し、その変化前の階調値を基準値とし、その変化量を積算値(積分積重)とする。さらに、図3(b)に示すように、その位置の信号フラグ(初期状態はOFF)をONにする(ステップ23)。
【0031】
次に、判定手段14により、変化位置について、信号フラグをONにした所定時刻よりも後の時刻に取得された投影像の基準値からの変化量(輝度2)と、1つ前の時刻に取得された投影像の基準値からの変化量(輝度1)とを比較する(ステップ24)。色が濃くなる方向に変化しているとき、図3(c)に示すように、基準値からの変化量(輝度2)を積算値(積分積重)に順次加算していく(ステップ25)。
【0032】
さらに、判定手段14は、その加算値(積分積重値)と、あらかじめ設定された第2判定値(積重値しきい値)とを比較する(ステップ26)。加算値が第2判定値よりも大きくなったとき、図3(d)に示すように、その位置の成長フラグ(初期状態はOFF)をONにして、その変化位置をコロニーであると判定する(ステップ27)。なお、第1判定値(ノイズ除去しきい値)および第2判定値(積重値しきい値)や、変化量の比較方法等を適宜変更することにより、コロニーの成長により色が薄くなる場合にも、コロニーの判定を行うことができる。
【0033】
このように、本発明の実施の形態のコロニー検出方法、コロニー検出システムおよびコロニー検出プログラムでは、培地中の色の変化状態に基づいて、コロニーかどうかを判定することができる。影像の面積によらずに、コロニーを判定するため、成長しても面積がほとんど拡大しないコロニーも検出することができる。また、コンピュータ12を利用するため、画像取得手段11の制御や、取得された投影像の画像解析、コロニーの判定および計数を容易に行うことができる。また、それらを自動で行うようにすることもできる。
【0034】
コロニーの判定を第1判定値および第2判定値の2段階で行っているため、コロニーによらない色の変化をコロニーと判断するのを防ぐことができる。例えば、図4に示すように、ゴミなどが付着した場合、変化量が第1判定値(ノイズ除去しきい値)より大きくなって信号フラグがONになったとしても(図4(b))、それ以上色が変化しない。このため、加算値(積分積重値)が第2判定値(積重値しきい値)より大きくなることがなく(図4(c))、成長フラグがOFFのままになる(図4(d))。このため、ゴミなどをコロニーと判断する誤判定を防ぐことができ、より正確にコロニーの検出および計数を行うことができる。また、SN比(Signal to Noise ratio)を高め、感度を高めることができる。
【0035】
また、本発明の実施の形態のコロニー検出方法、コロニー検出システムおよびコロニー検出プログラムでは、成長して色が濃くなるコロニーだけでなく、光の当たり具合により色が薄くなるコロニーをも検出することができる。例えば、培地をシャーレ1で培養している場合、培地に下方から光を当てると、図5(a)に示すように、シャーレ1の縁部1aで光が反射するため、シャーレ1の縁部1aで光量が低下して影ができる。また、図5(b)に示すように、シャーレ1の縁部1aに位置するコロニー2は光を散乱するため、シャーレ1の縁部1aにも散乱光が当たる。このため、図6に示すように、影になったシャーレ1の縁部1aが、コロニー2の散乱孔により、コロニー状に白くなる。本発明の実施の形態のコロニー検出方法、コロニー検出システムおよびコロニー検出プログラムでは、このようなシャーレ1の縁部1aのコロニー2も検出することができるため、より正確にコロニーの個数を数えることができる。
【0036】
従来、コロニー数のカウントは、人による目視カウントまたはコロニーカウンターを使用することで実施されてきた。しかし、目視カウントはシャーレ1の数が多く、労力を必要とする作業であること、また、現在のコロニーカウンターでは、残渣物が混在した試料を自動カウントすることは不可能であること、そしてシャーレ1の縁部1aに生育するコロニーをカウントすることが不可能であり、目視カウントとの乖離が生じるため、あらかじめ算出しておいた補正式により補正する必要があることが問題点として存在していた。これに対し、本発明の実施の形態のコロニー検出方法、コロニー検出システムおよびコロニー検出プログラムは、これらの問題点を克服し、残渣物が混在した試料においても、補正式を作成する必要がない、高精度なコロニーの計測を自動で行うことを可能にした。
【0037】
このように、本発明の実施の形態のコロニー検出方法、コロニー検出システムおよびコロニー検出プログラムは、コロニーの個数を正確に数える必要があるエームス試験のような試験でも使用することができ、精度が良く、信頼性が高い結果を得ることができる。
【実施例1】
【0038】
本発明の実施の形態のコロニー検出システム(以下、「本システム」とする)が、残渣物が混在した試料存在下および非存在下において、高精度なコロニー計測が可能であることを証明するために、試験を行った。試験は、本システムを利用して、エームス(Ames)試験菌株の1つであるTA98(入手先:国立医薬品食品衛生研究所)を用いて、エームス試験時のコロニー計測を実施した。
【0039】
被験物質として、陽性対照物質(代謝活性化系非存在下:4-NQO、代謝活性化系存在下:2-AA)と食品残渣物とを使用した。コロニー計測においては目視計測値も同時に収集し、本システムの計測が正確に実施されているかを確認した。また同様に、残渣物が混在した試料存在下においても正確なコロニー計測が可能であるか検討を行った。
【0040】
試験法は、プレインキュベーション法(「医薬品の遺伝毒性試験に関するガイドライン」(厚生省 医薬審 第1604号 平成11年11月1日)の「II.遺伝毒性試験法、1.細菌を用いる復帰突然変異試験」参照)で実施した。通常のエームス試験と同様に、代謝活性化系非存在下および代謝活性化系存在下のデータを収集し、解析した。被験物質として陽性対照物質(代謝活性化系非存在下:9-AA、代謝活性化系存在下:2-AA)を用い、それらを2段階希釈し、対照群と合わせて計6群、各群プレート(シャーレ)数2枚ずつのデータを取得し解析データとした。残渣物存在下の検討では、陽性対照物質に加えて、それぞれのプレートに残渣物が等量になるように菌体と混合し、最少グルコース寒天平板倍地に重層し、37℃で48時間培養した。
【0041】
試験の結果を、図7、図8、図9、表1および表2に示す。試験の結果、以下のことが確認された。
(1)図7に示すように、本システムを用いてコロニー計測することにより、プレート縁部のコロニー検出が可能になった(図7中の矢尻)。残渣物存在下のコロニー計測においても、残渣物(図7中の矢印)は検出せず、コロニー(図7中の濃い黒点)のみを検出した。
(2)表1に示すように、残渣物非存在下において、本システム計測値は目視計測値と同等の測定値となった。また、図8に示すように、本システム計測値と目視計測値との間には、非常に高い相関性が認められた。
(3)表2に示すように、残渣物存在下において、本システム計測値は目視計測値と同等の測定値となった。また、図9に示すように、本システム計測値と目視計測値との間には、非常に高い相関性が認められた。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
このように、本システムをエームス試験に利用することにより、プレート縁部のコロニー検出も可能とし、残渣物存在下および非存在下において、高精度なコロニー計測が可能であることが明らかとなった。また、コロニーカウント作業を自動化することを可能とし、かつ従来のコロニーカウンターを用いた場合の補正式の作成を必要としない、極めて高精度なコロニー計測を可能にした。
なお、ほかの4菌株TA100、TA1535、TA1537、WP2uvrAについても同様の検討を実施し、いずれの菌株でも本システムが有用であることについて確認できた。
【符号の説明】
【0045】
11 画像取得手段
12 コンピュータ
13 候補抽出手段
14 判定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地を通過する光による投影像に基づいて細菌のコロニーを検出するコロニー検出方法であって、
所定時刻ごとに前記投影像を取得する画像取得ステップと、
前記画像取得ステップで所定時刻ごとに取得された投影像を、それぞれ1つ前の時刻に取得された投影像と比較して、色の変化位置と、その変化位置での色の変化状態とを抽出する候補抽出ステップと、
前記画像取得ステップで取得された投影像の前記候補抽出ステップで抽出された色の変化状態に基づいて、対応する変化位置がコロニーかどうかを判定する判定ステップとを、
有することを特徴とするコロニー検出方法。
【請求項2】
前記画像取得ステップは前記投影像を白と黒の濃淡の画像として取得し、
前記候補抽出ステップは前記変化位置として色が濃くなる位置および色が薄くなる位置を抽出することを、
特徴とする請求項1記載のコロニー検出方法。
【請求項3】
前記画像取得ステップは前記投影像を白と黒の濃淡のデジタルのグレースケール画像として取得し、
前記候補抽出ステップは色の変化状態を前記グレースケール画像の階調値の変化量として抽出し、所定時刻での変化量があらかじめ設定された第1判定値より大きいとき、その位置を変化位置として抽出し、その変化前の階調値を基準値とし、前記変化量を積算値とし、
前記判定ステップは、前記変化位置で取得された投影像が、1つ前の時刻に取得された投影像と比較して色が変化しているとき、前記基準値からの変化量を前記積算値に順次加算し、その加算値があらかじめ設定された第2判定値よりも大きくなったとき、前記変化位置をコロニーであると判定することを、
特徴とする請求項2記載のコロニー検出方法。
【請求項4】
培地を通過する光による投影像に基づいて細菌のコロニーを検出するコロニー検出システムであって、
所定時刻ごとに前記投影像を取得する画像取得手段と、
前記画像取得手段で所定時刻ごとに取得された投影像を、それぞれ1つ前の時刻に取得された投影像と比較して、色が変化する変化位置と、その変化位置での色の変化状態とを抽出する候補抽出手段と、
前記画像取得手段で取得された投影像の前記候補抽出手段で抽出された色の変化状態に基づいて、対応する変化位置がコロニーかどうかを判定する判定手段とを、
有することを特徴とするコロニー検出システム。
【請求項5】
前記画像取得手段は前記投影像を白と黒の濃淡のデジタルのグレースケール画像として取得し、
前記候補抽出手段は色の変化状態を前記グレースケール画像の階調値の変化量として抽出し、所定時刻での変化量があらかじめ設定された第1判定値よりも大きいとき、その位置を変化位置として抽出し、その変化前の階調値を基準値とし、前記変化量を積算値とし、
前記判定手段は、前記変化位置で取得された投影像が、1つ前の時刻に取得された投影像と比較して色が変化しているとき、前記基準値からの変化量を前記積算値に順次加算し、その加算値があらかじめ設定された第2判定値よりも大きくなったとき、前記変化位置をコロニーであると判定することを、
特徴とする請求項4記載のコロニー検出システム。
【請求項6】
培地を通過する光による投影像に基づいて細菌のコロニーを検出するコロニー検出プログラムであって、
コンピュータを、
所定時刻ごとに前記投影像を取得する画像取得手段、
前記画像取得手段で所定時刻ごとに取得された投影像を、それぞれ1つ前の時刻に取得された投影像と比較して、色が変化する変化位置と、その変化位置での色の変化状態とを抽出する候補抽出手段、および
前記画像取得手段で取得された投影像の前記候補抽出手段で抽出された色の変化状態に基づいて、対応する変化位置がコロニーかどうかを判定する判定手段、
として機能させるためのコロニー検出プログラム。
【請求項7】
前記画像取得手段は前記投影像を白と黒の濃淡のデジタルのグレースケール画像として取得し、
前記候補抽出手段は色の変化状態を前記グレースケール画像の階調値の変化量として抽出し、所定時刻での変化量があらかじめ設定された第1判定値よりも大きいとき、その位置を変化位置として抽出し、その変化前の階調値を基準値とし、前記変化量を積算値とし、
前記判定手段は、前記変化位置で取得された投影像が、1つ前の時刻に取得された投影像と比較して色が変化しているとき、前記基準値からの変化量を前記積算値に順次加算し、その加算値があらかじめ設定された第2判定値よりも大きくなったとき、前記変化位置をコロニーであると判定することを、
特徴とする請求項6記載のコロニー検出プログラム。
【請求項8】
請求項1、2または3記載のコロニー検出方法によりコロニーを検出することを、特徴とするエームス試験方法。
【請求項9】
請求項4または5記載のコロニー検出システムを有することを、特徴とするエームス試験システム。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−92116(P2011−92116A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250264(P2009−250264)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(501354912)マイクロバイオ株式会社 (13)
【出願人】(000253503)キリンホールディングス株式会社 (247)
【Fターム(参考)】