説明

コンクリートの打設管理システム

【課題】打重ねまでの打重ね時間間隔を正確に管理することによりコンクリート構造物の品質向上を図るとともに、打設現場全体の視覚的な把握を容易にする。
【解決手段】生コンクリート圧送用のホース4の筒先を操作する筒先オペレータ2の位置を識別するため前記筒先オペレータ2に取り付けられたマーカ3と、コンクリート打設現場を上方側から撮影するビデオカメラ5と、前記ビデオカメラ5から送られた映像をメッシュ状に細分化しメッシュ単位毎に解析を行うとともに、出力を制御する解析制御装置6と、前記解析制御装置6の解析結果を前記メッシュとともに表示する表示モニタ7とから構成され、前記解析制御装置6において、前記マーカ3の位置から前記筒先オペレータ2が現在打設中のメッシュを識別するとともに、打設完了時からの経過時間に応じて前記メッシュ内を段階的に色分け表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートを2層以上に分けて打ち込む場合に、各層の打重ね時間間隔を管理するためのコンクリートの打設管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、壁や大型のスラブやフーチングなどの生コンクリートを打設する場合、コンクリートを2層以上に分けて各層毎に全体を巡りながら打設する打重ねが行われている。この打重ねをする場合、上層の打重ねまでの時間が長かったり、外気温が高かったりすると、下層のコンクリートの硬化が開始してから上層のコンクリートが打重ねられるため、バイブレータで再振動をかけても十分に下層と上層との密着が図れず、コールドジョイントやジャンカ、豆板などの発生原因となる可能性がある。
【0003】
このため、下記非特許文献1には、コンクリートを2層以上に分けて打ち込む場合、上層と下層が一体となるように施工しなくてはならない旨が定められ、また、コールドジョイントが発生しないよう、施工区画の面積、コンクリートの供給能力、許容打重ね時間間隔等を定めなければならないとされている。ここで、許容打重ね時間間隔とは、下層のコンクリートの打込み、締固めが完了した後、静置時間をはさんで上層のコンクリートが打ち込まれるまでの時間であり、表1に示されるように、外気温に応じた許容打重ね時間間隔の標準値が定められている。
【表1】

【0004】
また、この許容打重ね時間間隔を満足する打重ねを行うため、種々の管理システム等が開発されている。例えば下記特許文献1には、コンクリートを同一箇所に複数回に分けて重ね打ちする場合において、前回の打設時から次回の打設時までの経過期間が予め定められた許容期間を満足することができたか否かを判定する判定手段と、前記判定手段により満足することができなかったと判定されたときに警告を報知する報知手段とを備えたコンクリート施工管理支援システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−234664号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】土木学会コンクリート委員会、2007年制定コンクリート標準仕方書[施工編]、社団法人土木学会、平成20年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1記載のシステムでは、コンクリートの重ね打ちをする場合、1回目の打設開始時刻情報が記憶されている区画のうちの何れか1区画分の当該1回目の打設開始時刻情報を重ね打ち間隔管理情報データベースから読み出し、この時点の時刻と当該1回目の打設開始時刻情報により示される打設開始時刻との差分を経過期間として算出し、次のステップで算出した経過期間が重ね打ち上限期間より所定期間(本実施の形態では10分)だけ短い期間とされた所定許容期間以下となっているか否かを判定し、否定判定となった場合は担当者情報データベースからコンクリート打設者に対応するアクセス情報を読み出し、コンクリート打設者が所持するPDAに対して、処理対象としている区画の重ね打ち間隔が基準仕様を満足しなくなるまでの期間を報知する報知情報を出力するというものであるため、筒先オペレータが現在打設を行っている箇所と打重ね時間間隔が所定の許容期間に迫っている箇所との位置関係が明らかでなく、全体的な打設の順序を把握することが難しかった。
【0008】
また、1回目の打設開始からの経過期間が所定期間以下となっている場合の報知例として、PDAのディスプレイに「区画番号01の重ね打ち間隔が後○○分で基準仕様を満足しなくなります。」という文字によって表示されるものであるため、区間番号01がいずれの場所であるのかなど、視覚的に迅速に把握するのが困難であった。
【0009】
一方、従来の実際の打設現場では、打重ね時間を正確に把握する手段がなく、職員の監視や、打設計画書に基づく時間経過通りに打設が進行しているか否かの確認などによって打重ね時間が把握されていた。しかし、このような管理方法では、建築物で良くみられるような複雑な形状の壁や梁、柱などでは、取り合い部分の打設が遅れたり、忘れたりすることが原因で豆板などの欠陥が発生する場合があった。また、土木においても、作業員の休憩や交通渋滞による生コン車の遅延、生コン圧送用配管の閉塞などによって打設間隔が空いた場合、打設順序を間違えて品質を低下させる可能性があった。
【0010】
そこで本発明の主たる課題は、打重ねまでの打重ね時間間隔を正確に管理することによりコンクリート構造物の品質向上を図るとともに、打設現場全体の視覚的な把握を可能としたコンクリートの打設管理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、生コンクリート圧送用のホース筒先を操作する筒先オペレータの位置を識別するために筒先位置に取り付けられたマーカと、コンクリート打設現場を上方側から撮影するビデオカメラと、前記ビデオカメラから送られた映像をメッシュ状に細分化しメッシュ単位毎に解析を行うとともに、出力を制御する解析制御装置と、前記解析制御装置の解析結果を前記メッシュとともに表示する表示モニタとから構成され、
前記解析制御装置において、前記マーカの位置から前記筒先オペレータが現在打設中のメッシュを識別するとともに、打設完了時からの経過時間をメッシュ毎に管理し、前記表示モニタに、打設完了時からの経過時間に応じて前記メッシュを段階毎に色分け表示することを特徴とするコンクリートの打設管理システムが提供される。
【0012】
上記請求項1記載の発明は、筒先位置を識別するためのマーカと、コンクリート打設現場を上方側から撮影するビデオカメラと、前記ビデオカメラからの映像解析及び出力制御を行う解析制御装置と、その結果を表示する表示モニタとから構成されるものである。そして前記解析制御装置において、前記マーカの位置から前記筒先オペレータが現在打設中のメッシュを識別するとともに、打設完了時からの経過時間をメッシュ毎に管理し、前記表示モニタに、打設完了時からの経過時間に応じて前記メッシュを段階毎に色分け表示するようにしてある。
【0013】
従って、打設完了時からの経過時間が正確に把握でき、打重ね時間間隔を精度良く管理することができる。これによって、打重ね時間間隔の超過によるコールドジョイントなどの発生が抑制され、コンクリート構造物の品質を向上することができる。また、コンクリート打設現場をメッシュ単位毎に管理することにより、複雑な形状部分でも打ち忘れや打設順序違いなどの管理ミスを低減することができる。
【0014】
さらに、前記表示モニタには、メッシュ単位毎に打設完了時からの経過時間に応じて段階的に色分け表示されるため、コンクリート打設現場全体の打重ね時間間隔の管理が視覚的に把握可能となる。
【0015】
請求項2に係る本発明として、前記マーカは、打設完了時に点灯状態を切り替え可能とされ、前記マーカの点灯状態が切り替わったときに前記解析制御装置において打設完了時が判断されるようにしてある請求項1記載のコンクリートの打設管理システムが提供される。
【0016】
上記請求項2記載の発明は、前記解析制御装置が打設完了時を認識するための具体的手段について規定したものであり、前記マーカとして、例えば打設開始時に消灯から点灯に切り替わり、打設完了時に点灯から消灯に切り替わるというように、点灯状態が切り換え可能に構成されたものを使用し、このマーカの点灯状態が切り替わったとき、前例で言えば点灯から消灯に切り替わったときに、解析制御装置において打設完了時が判断されるようにしたものである。この他にマーカの点灯状態の切り換えとして、色の切り換えや形状、模様の切り換え、赤外線などの波長の切り換えなどとすることもできる。なお、この点灯状態の切替えのため筒先オペレータはスイッチ等の切替装置を有するようにする。
【0017】
請求項3に係る本発明として、前記筒先オペレータには打設完了時に前記解析制御装置に対し信号を送信するスイッチが備えられている請求項1記載のコンクリートの打設管理システムが提供される。
【0018】
上記請求項3記載の発明は、前記解析制御装置が打設完了時を認識するための他の手段について規定したものであり、前記筒先オペレータに打設完了時に前記解析制御装置に対し信号を送信するスイッチを備えるようにしたものである。
【0019】
請求項4に係る本発明として、前記色分け表示は、少なくとも、打設完了時と、前記経過時間が予め定められた許容打重ね時間間隔に近接したことを注意する時間注意時と、前記経過時間が前記許容打重ね時間間隔に更に近接したことを警告する時間警告時の3段階以上からなる請求項1〜3いずれかに記載のコンクリートの打設管理システムが提供される。
【0020】
上記請求項4記載の発明は、前記解析制御装置が打設完了時からの経過時間に応じて段階的にメッシュ内を色分け表示する際に好適な態様について規定したものであり、例えば打設完了時に青色、許容打重ね時間間隔の30分前となったときに時間注意として黄色、更に10分前となったときに時間警告として赤色など、少なくとも3段階以上に色分け表示するようにしたものである。
【発明の効果】
【0021】
以上詳説のとおり本発明によれば、打重ねまでの打重ね時間間隔を正確に管理することによりコンクリート構造物の品質向上を図るとともに、打設現場全体の視覚的な把握を可能としたコンクリートの打設管理システムが提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る打設管理システム1を示す概略図である。
【図2】表示モニタ7の表示例(その1)を示すモニタ画面図である。
【図3】表示モニタ7の表示例(その2)を示すモニタ画面図である。
【図4】表示モニタ7の表示例(その3)を示すモニタ画面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
本発明に係る打設管理システム1は、図1に示されるように、コンクリートポンプ車などから生コンクリートが圧送される配管の先端部に接続され、生コンクリートが排出されるホース4の筒先を操作する筒先オペレータ2のコンクリート打設現場に対する位置を識別するために筒先オペレータ2等の筒先位置に取り付けられたマーカ3と、コンクリート打設現場を上方側から撮影するビデオカメラ5と、このビデオカメラ5から送られた映像をメッシュ状に細分化しメッシュ単位毎に解析を行うとともに、出力を制御する解析制御装置6(パーソナルコンピュータ等)と、前記解析制御装置6の解析結果を前記メッシュとともに表示する表示モニタ7とから構成されている。
【0024】
前記マーカ3は、筒先位置、例えば筒先オペレータ2のヘルメット上端や背中など、補助員又はホース筒先など前記ビデオカメラ5から認識可能な位置に取り付けられ、電球、発光ダイオード等の発光装置(図示せず)によって点灯可能に構成されている。このマーカ3が点灯した際に、前記解析制御装置6において、画像解析を行うことによってコンクリート打設現場に対する筒先オペレータ2の位置が識別可能となっている。
【0025】
前記マーカ3は、筒先オペレータ2の手元に備えられる切替装置(図示せず)によって点灯状態が切り替え可能とすることが好ましい。点灯状態の切り換えとしては、例えば点灯/消灯の切り換え、色の切り換えや形状、模様の切り換え、赤外線などの波長の切り換えなどがある。このマーカ3の点灯状態の切り替えは、生コンクリートの打設開始及び打設完了のときに行われ、例えば、打設開始時にマーカ3が消灯から点灯に切り替えられ、打設完了時にマーカ3が点灯から消灯に切り替えられるようにすることができる。
【0026】
一方、前記マーカ3は常時点灯させておくこともできる。この場合、前記マーカ3は筒先オペレータ2の位置を識別するためだけに使用され、コンクリートの打設開始及び打設完了の識別は、筒先オペレータ2に備えられるスイッチ(図示せず)の切り替えによって別系統で前記解析制御装置6に送信される信号により行われるようにする。
【0027】
前記ビデオカメラ5は、デジタルビデオカメラ等の動画が撮影可能なものであり、前記解析制御装置6と有線又は無線で通信可能とされ、撮影した映像がリアルタイムで前記解析制御装置6に伝送されている。このビデオカメラ5は、コンクリート打設現場の全体が見渡せ、撮影した映像ができる限り平面的となるように打設現場から少し離れた斜め上方側位置に設置されている。なお、1台のビデオカメラで現場全体を撮影できない場合には、同様の管理システムを複数設置し、現場を分割して管理するようにする。また、複数台のビデオカメラ5…によって撮影した映像を1台の解析制御装置6に集約し、これらの映像を合成するようにしても良い。
【0028】
前記解析制御装置6においては、前記マーカ3の位置から筒先オペレータ2が現在打設中のメッシュを識別するとともに、打設完了時からの経過時間をメッシュ毎に管理し、打設完了時からの経過時間に応じて前記メッシュを段階毎に色分け制御する。
【0029】
この解析制御結果は、前記解析制御装置6から有線又は無線で送信され、パーソナルコンピュータ等の表示モニタ7に表示される。また、筒先オペレータ2等の現場作業員が携帯する携帯機器(図示せず)に表示されるようにすることもできる。
【0030】
上述の通り本管理システム1は、ビデオカメラ5で撮影した映像をメッシュ状に細分化してメッシュ内を色分けするものであるので、図面の3次元化などの手間のかかる事前準備を必要とせず、打設当日の朝にビデオカメラ5等を設置するだけで準備が完了するものである。
【0031】
次に、上記打設管理システム1を用いたコンクリートの打設管理方法について、図2〜図4に示されるモニタ画面図に基づいて詳しく説明する。図2に示されるように、1層目のコンクリートの打設が完了した部分では、メッシュ内が例えば青色に色分けされる。このため、打設がされていない部分との判別や進捗状況の把握が一目で判るようになる。また、複雑な形状部分では、打ち忘れや打設順序違いなどの管理ミスが低減できる。
【0032】
その後、図3は1層目の打設が終了したときの状態、図4はさらに2層目の打設を一部開始した状態を示している。このように、打設が終了した部分は前述の打設完了時の青色から時間の経過とともに、許容打重ね時間間隔との差に応じてメッシュ内の色が順次変化するようになっている。
【0033】
前記メッシュ内の色分けは、例えば、打設完了時の青色から、打設完了時からの経過時間が予め定められた許容打重ね時間間隔の60分前となったときの緑色、30分前となったときに時間注意としての黄色、10分前となったときに時間警告としての赤色として表示することができる。このため、どの範囲がどの程度打重ね時間間隔に近接しているかが一目で把握でき、正確な打重ね時間間隔の管理による品質向上が図れるとともに、打設現場全体の打重ね時間間隔の管理が視覚的に把握容易となる。
【0034】
また、図4に示されるように、2層目の打重ね完了時には、そのメッシュ内が再度青色に塗り替えられ、次層の打重ね時間間隔との差の計測が開始する。
【符号の説明】
【0035】
1…打設管理システム、2…筒先オペレータ、3…マーカ、4…ホース、5…ビデオカメラ、6…解析制御装置、7…表示モニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生コンクリート圧送用のホース筒先を操作する筒先オペレータの位置を識別するために筒先位置に取り付けられたマーカと、コンクリート打設現場を上方側から撮影するビデオカメラと、前記ビデオカメラから送られた映像をメッシュ状に細分化しメッシュ単位毎に解析を行うとともに、出力を制御する解析制御装置と、前記解析制御装置の解析結果を前記メッシュとともに表示する表示モニタとから構成され、
前記解析制御装置において、前記マーカの位置から前記筒先オペレータが現在打設中のメッシュを識別するとともに、打設完了時からの経過時間をメッシュ毎に管理し、前記表示モニタに、打設完了時からの経過時間に応じて前記メッシュを段階毎に色分け表示することを特徴とするコンクリートの打設管理システム。
【請求項2】
前記マーカは、打設完了時に点灯状態を切り替え可能とされ、前記マーカの点灯状態が切り替わったときに前記解析制御装置において打設完了時が判断されるようにしてある請求項1記載のコンクリートの打設管理システム。
【請求項3】
前記筒先オペレータには打設完了時に前記解析制御装置に対し信号を送信するスイッチが備えられている請求項1記載のコンクリートの打設管理システム。
【請求項4】
前記色分け表示は、少なくとも、打設完了時と、前記経過時間が予め定められた許容打重ね時間間隔に近接したことを注意する時間注意時と、前記経過時間が前記許容打重ね時間間隔に更に近接したことを警告する時間警告時の3段階以上からなる請求項1〜3いずれかに記載のコンクリートの打設管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−202383(P2011−202383A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69293(P2010−69293)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000166432)戸田建設株式会社 (328)
【Fターム(参考)】