説明

コンクリート中詰鋼製セグメント

【課題】継手部での所望の強度を安定して発揮させることのできる構造信頼性の高い構造を、安価で簡単な構成で実現すること
【解決手段】一対の主板桁11及び一対の継手板13とスキンプレートとで構成される鋼殻10内にコンクリート41が充填されてコンクリート中詰鋼製セグメント1が構成される。鋼殻10内でトンネル軸方向と略平行に縦リブ31が複数配置される。コンクリート41内でトンネル周方向と略平行に荷重伝達部材33が配置される。荷重伝達部材33は、その一端側33aが継手板13に隣り合う縦リブ31Aに定着される。継手板13と縦リブ31Aとの間に連結部材35が配置される。連結部材35は、一端35aが継手板13に固定され、他端35bが縦リブ31Aに固定される。継手板13の継手部23に作用する引張荷重等は、連結部材35を介して縦リブ31Aと荷重伝達部材33に確実に伝達される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールドトンネル内における覆工体として用いられ、鋼殻内にコンクリートが充填されて構成されるコンクリート中詰鋼製セグメントに関する。
【背景技術】
【0002】
シールドトンネルの構築時においては、円弧板状のセグメントを複数連結することによってトンネル覆工体としての筒状構造物を構築するシールド工法が一般的に用いられている。このシールド工法に用いられるセグメントとしては、例えば、図10、図11に示すような、一対の主桁板111及び一対の継手板113とスキンプレート115とで構成される中空箱型状の鋼殻110内にコンクリート141が充填されて構成されるコンクリート中詰鋼製セグメント101、102が広く知られている。
【0003】
このようなコンクリート中詰鋼製セグメントは、トンネル覆工体としての筒状構造物の構築時において、ボルトや機械式継手等の接合金具を介して他のコンクリート中詰鋼製セグメントとの間で互いに接合することとしている。この接合金具が設けられるコンクリート中詰鋼製セグメントの継手板の継手部には、コンクリート中詰鋼製セグメントの外周側からの土圧、水圧や、水路として使用した場合のコンクリート中詰鋼製セグメントの内周側からの水圧によって大きな曲げモーメントや引張荷重が作用する。このため、この継手部に作用する引張荷重等に対する継手部の強度を向上させることを目的として、様々なコンクリート中詰鋼製セグメントが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1において提案されているコンクリート中詰鋼製セグメント101は、図10に示すように、鋼殻110の継手板113に内側から当接されて固定される補強板125と、コンクリート141内に埋設された異形鉄筋からなるアンカー部材151とを備えている。アンカー部材151は、縦リブ131に形成された挿通孔132内にその一端側が挿通され、その他端側が補強板125に溶接等によって固定されている。これにより、コンクリート中詰鋼製セグメント101は、継手板125に引張荷重が作用した場合に、アンカー部材151が付着によってコンクリート141に支持されて反力を取ることができ、継手板125に作用する引張力をアンカー部材151の及ぶ範囲にあるコンクリート141や縦リブ131で負担することを可能としている。
【0005】
また、特許文献2において提案されているコンクリート中詰セグメント102は、図11(a)に示すように、主桁板111同士の間に複数の縦リブ131が配置され、継手板113とその継手板113に隣り合う縦リブ131の間の空間161を残して鋼殻110内にコンクリート141が充填され、その空間161にL字状の継手手段補強用縦リブ163が配置された構成とされている。空間161を残して鋼殻110内に充填されたコンクリート141内には、周方向に略平行な周方向鉄筋167が埋設されている。周方向に隣り合うセグメント102の接合時においては、図11(b)に示すように、隣り合うセグメント102の継手手段補強用縦リブ163同士を接合金具としての連結部材165で連結することによって接合することとしている。継手板113と縦リブ131との間の空間161は、連結部材165を配置するための作業空間として設けられており、継手部123に作用する引張荷重等を周方向鉄筋167にまで伝達させるために、周方向に隣り合うセグメント102の接合後にコンクリートが充填されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−76317号公報
【特許文献2】特開2005−2095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した従来技術は、下記の点において問題点を有していた。
【0008】
特許文献1に開示のセグメント101は、アンカー部材151とコンクリート141との付着によってコンクリート141から反力を取ることとしているため、ボルト等の接合金具が取り付けられる継手部123の強度は、コンクリート141とアンカー部材151の付着力によって決定されることになる。継手部123の強度を十分に確保するうえでは、アンカー部材151の長さを長くして十分な付着力を確保する必要があり、この場合、アンカー部材151と縦リブ131等の他部材との干渉を避けるためにその他部材に穴あき加工をする等の余計な加工を要し、その分セグメント101が高コストなものとなってしまっていた。また、コンクリート141とアンカー部材151との付着力は、コンクリート141の品質に大きく左右されることになるが、一般にコンクリート141は品質のばらつきが大きいため、付着力を確保するうえで厳密な品質管理が要求され、その分セグメント101が高コストなものとなってしまっていた。
【0009】
また、特許文献2に開示のセグメント102は、継手部123の補強のためにL字状の継手手段補強用縦リブ163を別途配置する必要があり、その分セグメント102が高コストなものとなってしまっていた。また、特許文献2に開示のセグメント102は、継手板113と縦リブ131との間の空間161を残して鋼殻110内にコンクリート141を充填し、継手部123に作用する引張荷重等を周方向鉄筋167にまで伝達させるために、セグメント102の接合後にその充填したコンクリート141と同等の強度、品質を有するコンクリートをその空間161に施工現場にて充填する必要があり、その分セグメント102が高コストなものとなってしまっていた。
【0010】
また、特許文献2に開示のセグメント102は、継手手段補強用縦リブ163と周方向鉄筋167とが互いに固定されているのか非固定とされているのか明確にされておらず、継手手段補強用縦リブ163に作用する引張荷重等を周方向鉄筋167にコンクリートの付着に依存することなく伝達するとの技術的思想を有するものではなかった。
【0011】
即ち、特許文献1及び特許文献2の何れに開示のセグメント101、102も、継手部123近傍に作用する引張荷重等をセグメントの他の部位に伝達させる際に、品質のばらつきが大きい継手部123近傍のコンクリートとの付着に依存した構造とされているため、継手部123での所望の強度を安定して発揮させにくく構造信頼性の低い構成とされていた。
【0012】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、継手部での所望の強度を安定して発揮させることのできる構造信頼性の高い構造を、安価で簡単な構成で実現することのできるコンクリート中詰鋼製セグメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上述した課題を解決するために、鋭意検討の末、下記のコンクリート中詰鋼製セグメントを発明した。
【0014】
請求項1に係る発明は、一対の主板桁及び一対の継手板と、スキンプレートとで構成される鋼殻内にコンクリートが充填されて構成されたコンクリート中詰鋼製セグメントにおいて、上記鋼殻内でトンネル軸方向と略平行に複数配置された縦リブと、上記コンクリー
ト内でトンネル周方向と略平行に配置され、その一端側が上記継手板に隣り合う縦リブに定着された荷重伝達部材と、一端が上記継手板に固定されるとともに他端が該継手板に隣り合う縦リブに固定された連結部材とを備えることを特徴とする。
【0015】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、上記荷重伝達部材は、上記継手板に隣り合う縦リブを貫通することで該縦リブに定着されていることを特徴とする。
【0016】
請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明において、上記荷重伝達部材は、上記継手板に隣り合う縦リブに対して溶接、ドリルネジ、ボルト、鋲又は接着により定着されていることを特徴とする。
【0017】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3の何れか1項記載の発明において、上記連結部材は、鋼製板状部材から構成されていることを特徴とする。
【0018】
請求項5に係る発明は、請求項4に係る発明において、上記連結部材は、その外周側端部が上記スキンプレートに固定されていることを特徴とする。
【0019】
請求項6に係る発明は、請求項1〜3の何れか1項に係る発明において、上記連結部材は、鋼製棒状部材から構成されていることを特徴とする。
【0020】
請求項7に係る発明は、請求項1〜6の何れか1項に係る発明において、上記継手板は、トンネル周方向に隣り合う他のコンクリート中詰鋼製セグメントと互いに接合するための接合金具が取り付けられる継手部を有し、上記連結部材は、上記継手部が間に配置されるように所定間隔を空けて一対に渡って設けられてなることを特徴とする。
【0021】
請求項8に係る発明は、請求項1〜6の何れか1項に係る発明において、上記継手板は、トンネル周方向に隣り合う他のコンクリート中詰鋼製セグメントと互いに接合するための接合金具が取り付けられる継手部を有し、上記連結部材は、上記主桁板との間に上記継手部が配置されるように該主桁板と所定間隔を空けて設けられてなることを特徴とする。
【0022】
請求項9に係る発明は、請求項1〜8の何れか1項に係る発明において、上記鋼殻内に充填されるコンクリートは、他のコンクリート中詰鋼製セグメントとの接合作業時に上記継手部に接合金具を取り付けるための作業空間として形成されるボルトボックスを除いた部位に予め充填されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に係る発明は、継手板と継手板に隣り合う縦リブとが連結部材により固定されているとともに、その縦リブに荷重伝達部材の一端側が定着されていることから、セグメントの継手板に対して継手板の外側に向けて引張荷重や曲げモーメントが作用した場合に、その引張荷重等を連結部材を介して縦リブと荷重伝達部材とに対して確実に伝達させることが可能となる。これにより、継手板に作用する引張荷重等を、縦リブや荷重伝達部材が及ぶ範囲にあるコンクリートや鋼殻の一部で負担して分散することが可能となり、この結果、セグメントの継手部の強度を向上させることが可能となる。特に、継手板から荷重伝達部材までの間の荷重伝達機構がコンクリートの付着に依らない構造によって形成されているため、継手部での所望の強度を発揮させるうえでコンクリートの強度、品質に依らない構造信頼性の高い構造を、安価で簡単な構成で実現することが可能となっている。
【0024】
請求項2に係る発明は、荷重伝達部材が縦リブを貫通してその縦リブから突出した突出部が形成されていることにより、その突出部が、継手板と継手板に隣り合う縦リブとこれら継手板及び縦リブとの端部間の主桁板とで囲まれた空間内に充填されているコンクリー
トの動きを拘束するずれ止めとして機能し、これらが合成梁として挙動することになるため、継手部及び継手部を含むセグメントの周方向端部の強度及び剛性が向上することになる。
【0025】
請求項5に係る発明は、継手板から連結部材に伝達される引張荷重等がスキンプレートに直接伝達され、この結果、セグメントの継手部の強度を更に向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るコンクリート中詰鋼製セグメントをコンクリートの一部を省略して示す部分断面底面図である。
【図2】図1のコンクリート中詰鋼製セグメントのコンクリートの一部を省略して示すA−A線断面図である。
【図3】図1のコンクリート中詰鋼製セグメントのコンクリートの一部を省略して示すB−B線断面図である。
【図4】トンネル周方向に隣り合うコンクリート中詰鋼製セグメント同士を接合した状態を示す平面断面図である。
【図5】トンネル周方向に隣り合うコンクリート中詰鋼製セグメント同士を接合する際の状態を示す底面断面図である。
【図6】図4のC−C線断面図である。
【図7】(a)は図1のコンクリート中詰鋼製セグメントの継手板に隣り合う縦リブと荷重伝達部材の一端側との関係について示す側面断面図であり、(b)はその他の実施形態について示す側面断面図であり、(c)は更に他の実施形態について示す側面断面図である。
【図8】(a)は連結部材の他の実施形態について示すコンクリート中詰鋼製セグメントの側面断面図であり、(b)は連結部材の更に他の実施形態について示すコンクリート中詰鋼製セグメントの側面断面図である。
【図9】他の実施形態のコンクリート中詰鋼製セグメントをコンクリートの一部を省略して示す部分断面底面図である。
【図10】従来技術としての第1のコンクリート中詰鋼製セグメントの構成を示す底面断面図である。
【図11】(a)は、従来技術としての第2のコンクリート中詰鋼製セグメントの構成を示す側面断面図であり、(b)はそのセグメント同士を周方向に接合した状態を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係るコンクリート中詰鋼製セグメントを実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下においては、本発明に係るコンクリート中詰鋼製セグメントを単にセグメントという。
【0028】
図1は、本発明に係るセグメント1のコンクリートの一部を省略して示す部分断面底面図である。図2は、図1に示すセグメント1のコンクリートの一部を省略して示すA−A線断面図であり、図3は、図1に示すセグメント1のコンクリートの一部を省略して示すB−B線断面図である。図4は、トンネル周方向に隣り合うセグメント1同士を接合した状態を示す底面断面図である。図5は、トンネル周方向に隣り合うセグメント1同士を接合する際の状態を示す側面断面図である。図6は、図4のC−C線断面図である。
【0029】
セグメント1は、複数を接合することによって、筒状構造物として構成されるシールドトンネル等のトンネル覆工体を構築するために用いられるものである。セグメント1は、図1〜図3に示すように、側面視において円弧板状に形成され、底面視において矩形状に
形成されている。
【0030】
セグメント1は、内周側に開口されて中空箱型状に形成される鋼殻10と、鋼殻10内に充填されるコンクリート41とを備えている。
【0031】
鋼殻10は、トンネル軸方向に互いに間隔をあけて略平行に配置され、トンネル周方向に延長される一対の主桁板11と、一対の主桁板11のトンネル周方向のそれぞれの端部間に渡って配置され、トンネル軸方向に延長される一対の継手板13と、一対の主桁板11及び一対の継手板13の外周側端部に当接されて配置されるスキンプレート15とを備えている。一対の主桁板11、一対の継手板13及びスキンプレート15は、それぞれ鋼板等から構成されるものであり、溶接等により互いに固定される。スキンプレート15は、トンネル覆工体の外周面を形成するものである。
【0032】
主桁板11は、図示しないボルト挿通用のボルト孔や機械式継手が設けられる。トンネル軸方向に隣り合うセグメント1は、このボルト孔を挿通されるボルトや機械式継手等の接合金具を用いて互いに接合される。
【0033】
継手板13は、図4、図5に示すように、所定位置にボルト挿通用のボルト孔14が形成されている。このボルト孔14には、トンネル周方向に隣り合うセグメント1同士を接合するための、接合金具21としてのボルト21Aが挿通される。接合金具21が取り付けられることになるこの継手板13の継手部23には、その内側から補強板25が当接されたうえで溶接等によって固定されている。補強板25は、継手部23に作用する荷重に対して抵抗して、継手部23の強度向上のために固定されるものであり、取り付けることは必須とならない。補強板25は、継手板13のボルト孔14と合致した位置にボルト孔14が形成されている。
【0034】
トンネル周方向の両側の継手板13のうち、一方の継手板13には、図4、図5に示すように、その内側の補強板25を介して接合金具21としての袋ナット21Bが溶接等により固定されている。また、トンネル周方向の両側の継手板13のうち、他方の継手板13の継手部23の内側には、セグメント1の内周側に開口された中空のボルトボックス27が形成されている。このボルトボックス27は、他のセグメント1との接合作業時に継手部23に接合金具21を取り付け可能とするための作業空間として形成されるものである。このため、本実施形態のように、一方の継手板13の内側に接合金具21としての袋ナット21Bを予め固定する場合は、その袋ナット21Bが設けられている側の継手板13のボルトボックス27を省略することとにより、その継手板13の近傍の構造を簡略化することとしてもよい。
【0035】
セグメント1は、鋼殻10内において、トンネル軸方向と略平行に複数配置される縦リブ31と、コンクリート41内において、トンネル周方向と略平行に複数配置される荷重伝達部材33とを更に備えている。また、鋼殻10内に複数配置される縦リブ31のうち、継手板13に隣り合うものを縦リブ31Aとすると、セグメント1は、継手板13と縦リブ31Aとの間において配置される連結部材35を更に備えている。
【0036】
縦リブ31は、鋼板等の板材から構成されるもので、トンネル軸方向に延長されている。複数の縦リブ31は、トンネル周方向に間隔を空けて配置されている。縦リブ31は、図2、図3に示すように、その外周側端部31cがスキンプレート15に溶接等により固定され、トンネル軸方向の両端部が主桁板11に溶接等により固定されている。縦リブ31は、本実施形態において、平板状の鋼板から構成されているが、この他にもトンネル軸方向に直交する断面形状がL字状、T字状等に形成されていてもよい。
【0037】
荷重伝達部材33は、図1に示すように、本実施形態においては、鉄筋のような鋼製棒状部材から構成されており、トンネル周方向に延長されている。荷重伝達部材33は、本実施形態において、トンネル軸方向とトンネル径方向とに間隔を空けて複数に渡って配置されているが、その設けられる本数等について特段限定するものではない。荷重伝達部材33は、この他にも付着力を有する異形棒鋼のような鋼製棒状部材や、平鋼板又は付着力を有する突起付平鋼板のような鋼製板状部材から構成されていてもよい。
【0038】
図7(a)は、図1に示すセグメント1の縦リブ31Aと荷重伝達部材33の一端側33aとの関係について示す側面断面図である。荷重伝達部材33は、図7(a)に示すように、その一端側33aが縦リブ31Aに形成された挿通孔32に挿通されることによって、縦リブ31Aを貫通した状態となっている。これによって、荷重伝達部材33の一端側33aは、継手板13に隣り合う縦リブ31Aに定着されることになる。
【0039】
荷重伝達部材33は、図1に示すように、その一端側33aが図1中右側に位置する一方の継手板13に隣り合う縦リブ31Aに定着されることになるが、その他端側33bについては、図1中左側に位置する他方の継手板13に向けて延長されていればよい。荷重伝達部材33は、継手板13の継手部23の強度向上のためには、複数の縦リブ31のうち一つの縦リブ31Aに対してのみ定着されていればよく、他の縦リブ31に対して定着されていなくともよい。本実施形態においては、一つの荷重伝達部材33が総ての縦リブ31を貫通するようにセグメント1のトンネル周方向長さのほぼ全長に渡って配置されているが、継手板13の継手部23の強度向上のためには、特にその長さについて限定するものではない。この場合、荷重伝達部材33に作用する荷重は、荷重伝達部材33の延びている範囲で鋼殻10や鋼殻10内のコンクリート41に伝達されることになる。
【0040】
連結部材35は、図4、図5に示すように、本実施形態において鋼製の板状部材から構成されている。連結部材35は、その一端35aが継手板13に固定されるとともに、その他端35bが縦リブ31Aに固定される。また、連結部材35は、接合金具21が取り付けられる継手板13の継手部23が間に配置されるように、トンネル軸方向に所定間隔を空けて一対に渡って設けられる。これにより、例えば、継手板13の外側に向けて引張荷重が作用した場合に、継手板13から連結部材35を介して縦リブ31Aにまでその荷重が確実に伝達されることになる。
【0041】
なお、本実施形態において、連結部材35は、継手板13に固定された補強板25を介して継手板13に固定されているが、補強板25を介さずに直接継手板13に固定されていてよいのは勿論である。
【0042】
トンネル周方向に隣り合うセグメント1同士の接合時においては、図5に示すように、作業員等がボルトボックス27内にボルト21Aを配置した上で、このボルト21Aを継手板13及び補強板25のボルト孔14内にボルト21Aを挿通させて、袋ナット21Bに螺合させることによって、これらのセグメント1が互いに接合される。
【0043】
なお、トンネル周方向に隣り合うセグメント1同士を接合するための接合金具21としては、ボルト21A及びナット21Bの他に、雄継手及び雌継手からなる機械式継手を用いることとしてもよい。この場合、セグメント1の接合作業時にボルト21A等のように接合金具21を取り付ける必要がないことから、鋼殻10内にコンクリート41を充填する際に、継手板13の継手部23近傍にボルトボックス27を形成しなくともよい。
【0044】
また、トンネル軸方向に隣り合うセグメント1の接合のために主桁板11にボルト孔を設ける場合、ボルトボックス27は、主桁板11の近傍にも形成することになる。
【0045】
鋼殻10内のコンクリート41は、ボルトボックス27を除いた部位について、工場等で予め充填されるものである。ボルトボックス27内には、セグメント1の接合作業完了後にコンクリート、無収縮モルタル等の経時硬化性充填材が現場施工により充填される。このボルトボックス27内に充填される経時硬化性充填材は、継手板13の継手部23の強度向上のために充填されるものではなく、ボルトボックス27内に露出している接合金具21等の鋼材の腐食防止やセグメント1の内周面の平滑化等を目的として充填されるものであることから、その強度、品質について特段限定するものではない。また、腐食防止の必要がない場合等は、ボルトボックス27内に経時硬化性充填材を充填することとせずにそのままの状態でセグメント1の接合作業を完了させ、作業工程を簡略化することとしてもよい。また、ボルトボックス27内に経時硬化性充填材を充填することとせずに、ボルトボックス27の開口に板材等を取り付けてボルトボックス27に蓋をすることとしてもよい。
【0046】
このように構成される本願発明に係るセグメント1の作用効果について説明する。
【0047】
本発明に係るセグメント1は、継手板13と継手板13に隣り合う縦リブ31Aとが連結部材35により固定されているとともに、その縦リブ31Aに荷重伝達部材33の一端側33aが定着されていることから、セグメント1の継手板13に対して継手板13の外側に向けて引張荷重や曲げモーメントが作用した場合に、その引張荷重等を連結部材35を介して縦リブ31Aと荷重伝達部材33とに対して確実に伝達させることが可能となる。これにより、継手板13に作用する引張荷重等を、縦リブ31Aや荷重伝達部材33が及ぶ範囲にあるコンクリート41や鋼殻10の一部で負担して分散することが可能となり、この結果、セグメント1の継手部23の強度を向上させることが可能となる。
【0048】
特に、本発明に係るセグメント1は、継手板13から荷重伝達部材33までの間の荷重伝達機構がコンクリート41の付着に依らない構造によって形成されているため、鋼殻10内に充填されるコンクリート41の強度、品質によらずその荷重伝達機構が成立することになる。また、本発明に係るセグメント1は、現場施工時にコンクリート、無収縮モルタル等の経時硬化性充填材を充填する必要のある箇所がボルトボックス内27のみとなっており、更にそのボルトボックス27内に充填する経時硬化性充填材の強度、品質の管理の必要がないものとなっている。このため、本発明に係るセグメント1は、継手部23での所望の強度を発揮させるうえでコンクリートの強度、品質に依らない構造信頼性の高い構造を、安価で簡単な構成で実現することが可能となっている。
【0049】
また、本発明に係るセグメント1は、このような構造信頼性の高い構造を、縦リブ31について特段の加工をしたり、特殊な部材を用いたりすることなく、その分安価で簡単な構成で実現することが可能となっている。
【0050】
なお、図7(a)に示すように、縦リブ31Aを荷重伝達部材33の一端側33aが貫通している実施形態の場合、継手板13から荷重伝達部材33までの間の荷重伝達をコンクリート41の付着に依らない構造とするうえで、以下のような構成にすることが好ましい。
【0051】
縦リブ31Aに対して図7(a)の方向Pに荷重が作用した場合、継手板13に対向する側に位置する縦リブ31Aの側面31aからコンクリート41内で分散して広がるように継手板13側に向けて支圧力が作用し、この支圧力によって縦リブ31Aから突出した荷重伝達部材33の突出部34が強固に拘束されることになる。この場合、突出部34の縦リブ31Aからの突出長さが長くなるほど縦リブ31Aからの支圧力による突出部34の拘束力が増大することになる。このため、この実施形態の場合、継手板13から荷重伝達部材33までの間の荷重伝達をコンクリート41の付着に依らない構造とするうえで、
突出部34の縦リブ31Aからの突出長さは長ければ長いほど好ましい。
【0052】
次に、本発明に係るセグメント1の他の構成について更に詳細に説明する。
【0053】
図7(b)、図7(c)は、荷重伝達部材33の他の実施形態について示すセグメントの側面断面図である。上述の実施形態においては、荷重伝達部材33を縦リブ31Aに定着させるための手段として、図7(a)に示すように、縦リブ31Aに形成された挿通孔32内に荷重伝達部材33を貫通させる手段を例として説明した。荷重伝達部材33を縦リブ31Aに定着させるための他の手段としては、例えば、図7(b)に示すように、荷重伝達部材33の端部33aを縦リブ31Aの側面に当接させたうえで、荷重伝達部材33の端部33aを縦リブ31Aに溶接により定着する手段を採用してもよい。また、この他には、図7(c)に示すように、荷重伝達部材33を縦リブ31Aの内周側に配置したうえでこれらを互いに接触させて、縦リブ31Aの内周側端部31bに荷重伝達部材33を溶接により定着する手段を採用してもよい。
【0054】
また、この他には、図示しないが、図7(a)に示すような態様で、縦リブ31Aを貫通している荷重伝達部材33の一端側端部33aに雄ねじ部を設け、この雄ねじ部にナットを螺合させることによって、荷重伝達部材33と縦リブ31Aとをボルト接合する手段を採用してもよい。また、この他に、ドリルネジ、鋲、接着等の手段を採用してもよく、例えば、図7(c)に示すような態様としたうえで、トンネル軸方向に直交する断面形状がL字状、T字状等の縦リブ31と、板状部材からなる荷重伝達部材33とを用いて、これらの重合部をドリルネジ等で接合して定着する手段を採用してもよい。
【0055】
ここで、図7(a)に示すように、荷重伝達部材33が縦リブ31Aを貫通してその縦リブ31から突出した突出部34が形成されている場合、縦リブ31Aがトンネル周方向に変形しようとした際にこの突出部34が、継手板13と継手板13に隣り合う縦リブ31Aとこれら継手板13及び縦リブ31Aとの端部間の主桁板11とで囲まれた、図1や図7(a)において一点鎖線で示す範囲の空間S1内に充填されているコンクリート41の動きを拘束するずれ止めとして機能することになる。このため、継手板13と継手板13に隣り合う縦リブ31Aと主桁板11と、これらに囲まれた空間S1内に充填されたコンクリート41とが合成梁として挙動することになり、継手部23及び継手部23を含むセグメント1の周方向端部の強度及び剛性が向上することになる。
【0056】
図8(a)、図8(b)は、連結部材35の他の実施形態について示すセグメントの側面断面図である。連結部材35は、上述の実施形態において、鋼製の板状部材から構成されている例について説明したが、この場合、図8(a)に示すように、連結部材35の外周側端部35cがスキンプレート15に溶接等により固定されていてもよい。この場合、継手板13から連結部材35に伝達される引張荷重等がスキンプレート15に直接伝達され、この結果、セグメント1の継手部23の強度を更に向上させることが可能となる。
【0057】
また、連結部材35は、継手板13と縦リブ31Aとにその両端が少なくとも固定されていれば、特にその具体的な構成について限定するものではなく、図8(b)に示すように、鋼製棒状部材から構成されていてもよい。また、連結部材35は、付着力を有する突起付平鋼板のような鋼製板状部材や、異形棒鋼のような鋼製棒状部材から構成されていてもよい。
【0058】
図9は、セグメント1の他の実施形態についてコンクリートの一部を省略して示す部分断面底面図である。セグメント1の継手部23がセグメント1のトンネル軸方向の両端近傍に設けられる場合、一つの継手部23につき一対の連結部材35を設ける代わりに、主桁板11との間に継手部23が配置されるように主桁板11と所定間隔を空けて一つの連
結部材35を設けることとして、連結部材35の一つを主桁板11で代用することとしてもよい。これにより、余分な連結部材35を設ける必要がなく、その分セグメント1のコストの低減を図ることが可能となる。
【0059】
因みに、本発明に係るセグメント1は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更がされていてもよい。このため、例えば、セグメント1のコンクリート41内にトンネル軸方向とトンネル周方向とに延長される複数の鉄筋を格子状に配置することとしてもよいし、エレクター連結用兼裏込材注入用孔を有する管体をセグメント1の中央部に設けることとしてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 コンクリート中詰鋼製セグメント
10 鋼殻
11 主桁板
13 継手板
14 ボルト孔
15 スキンプレート
21 接合金具
21A ボルト
21B 袋ナット
23 継手部
25 補強板
27 ボルトボックス
31(31A)縦リブ
32 挿通孔
33 荷重伝達部材
34 突出部
35 連結部材
41 コンクリート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の主板桁及び一対の継手板と、スキンプレートとで構成される鋼殻内にコンクリートが充填されて構成されたコンクリート中詰鋼製セグメントにおいて、
上記鋼殻内でトンネル軸方向と略平行に複数配置された縦リブと、
上記コンクリート内でトンネル周方向と略平行に配置され、その一端側が上記継手板に隣り合う縦リブに定着された荷重伝達部材と、
一端が上記継手板に固定されるとともに他端が該継手板に隣り合う縦リブに固定された連結部材とを備えること
を特徴とするコンクリート中詰鋼製セグメント。
【請求項2】
上記荷重伝達部材は、上記継手板に隣り合う縦リブを貫通することで該縦リブに定着されていること
を特徴とする請求項1記載のコンクリート中詰鋼製セグメント。
【請求項3】
上記荷重伝達部材は、上記継手板に隣り合う縦リブに対して溶接、ドリルネジ、ボルト接合、鋲又は接着により定着されていること
を特徴とする請求項1記載のコンクリート中詰鋼製セグメント。
【請求項4】
上記連結部材は、鋼製板状部材から構成されていること
を特徴とする請求項1〜3の何れか1項記載のコンクリート中詰鋼製セグメント。
【請求項5】
上記連結部材は、その外周側端部が上記スキンプレートに固定されていること
を特徴とする請求項4記載のコンクリート中詰鋼製セグメント。
【請求項6】
上記連結部材は、鋼製棒状部材から構成されていること
を特徴とする請求項1〜3の何れか1項記載のコンクリート中詰鋼製セグメント。
【請求項7】
上記継手板は、トンネル周方向に隣り合う他のコンクリート中詰鋼製セグメントと互いに接合するための接合金具が取り付けられる継手部を有し、
上記連結部材は、上記継手部が間に配置されるように所定間隔を空けて一対に渡って設けられてなること
を特徴とする請求項1〜6の何れか1項記載のコンクリート中詰鋼製セグメント。
【請求項8】
上記継手板は、トンネル周方向に隣り合う他のコンクリート中詰鋼製セグメントと互いに接合するための接合金具が取り付けられる継手部を有し、
上記連結部材は、上記主桁板との間に上記継手部が配置されるように該主桁板と所定間隔を空けて設けられてなること
を特徴とする請求項1〜6の何れか1項記載のコンクリート中詰鋼製セグメント。
【請求項9】
上記鋼殻内に充填されるコンクリートは、他のコンクリート中詰鋼製セグメントとの接合作業時に上記継手部に接合金具を取り付けるための作業空間として形成されるボルトボックスを除いた部位に予め充填されてなること
を特徴とする請求項1〜8の何れか1項記載のコンクリート中詰鋼製セグメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−168744(P2010−168744A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10107(P2009−10107)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】