説明

コンクリート剥落防止工法

【課題】コンクリート構造物に対して剥落防止性能を有し、環境中への有機溶剤排出量が極めて少なく環境に優しく、火災時には有毒ガスの発生が殆ど無いコンクリート剥落防止工法を提供することである。
【解決手段】コンクリート構造物に対して、接着用ポリマーセメントモルタル及びメッシュ状シートでコンクリート構造物表面を被覆し、その上から水系塗料で被覆することを特徴とするコンクリート剥落防止工法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物におけるコンクリート剥落防止工法であり、特にトンネル内や、立体駐車場のような閉塞的な空間であるコンクリート部において優れた性能を発揮するコンクリート剥落防止工法である。
【背景技術】
【0002】
高架橋、トンネル、橋梁、建造物等は、その強度や耐久性に優れることから、コンクリート製の構造物が広く用いられている。しかしながら、近年ではコンクリートの塩害による鉄筋の腐食や排ガス等による中性化、アルカリ骨材反応、ひび割れに浸入した水分の凍結等により、コンクリートが劣化し、劣化が進行すると表面からコンクリート片が剥がれ落ち、コンクリート構造物自体の強度低下や美観を損なう等の課題が発生している。また、コンクリート片の落下による事故の危険性が指摘されている。
【0003】
このため、コンクリートの劣化防止や剥落防止等の対策が様々な方法で行われている。例えば、コンクリート表面の温度変化を少なくし、コンクリート表面のひび割れを防止するため、コンクリート表面に熱放射性の断熱性塗膜を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、コンクリート構造物表面にひび割れが発生した場合、それに追従してひび割れを覆う柔軟性塗膜を形成する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
コンクリートの剥落防止方法としては、コンクリート表面に高強度塗膜を形成し、その上から塗料を塗布し塗膜を形成する方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。また、コンクリート構造物の表面に連続繊維シートを接着剤で貼り付けて、剥落を防止する方法も知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、有機溶剤系塗料を用いると、塗装中に有機溶剤(VOC)が揮発し、塗装時の作業環境が悪くなる、特にトンネル内等の閉塞的な場所では作業環境は更に悪化する。自然環境的にもVOCを環境中に放出することになり、大気汚染の原因にもなるという課題がある。更に、閉塞的な空間では、火災時の発生ガスが人体に及ぼす影響や、火災時の燃え広がりも考慮する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−95584号公報
【特許文献2】特開2005−35827号公報
【特許文献3】特開2005−15329号公報
【特許文献4】特開平6−298910号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】構造物塗料グループ・里 隆幸、宮下 剛、「コンクリート片はく落防止工法」 DNTコーティング技報、大日本塗料株式会社、2002年10月、No.2、10〜15ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、このような課題の解決を背景になされたものであり、コンクリート構造物に対して剥落防止性能を有し、環境中への有機溶剤排出量が極めて少なく環境に優しく、火災時には有毒ガスの発生が殆ど無いコンクリート剥落防止工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、上記課題が以下の構成によって達成できることを見出し、本発明に達したものである。
【0011】
本発明に従って、コンクリート構造物に対して、接着用ポリマーセメントモルタル及びメッシュ状シートでコンクリート構造物表面を被覆し、その上から水系塗料で被覆することを特徴とするコンクリート剥落防止工法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、コンクリート構造物に対して剥落防止性能を有し、環境中への有機溶剤排出量が極めて少ない、環境に優しいコンクリート剥落防止工法が提供される。
【0013】
また、施工に有機溶剤を使用しないことから、施工時の人体への負荷を低減でき、かつ、火災の発生も抑制できる。
【0014】
更に水系塗料として無機系塗料を使用することにより、塗膜に不燃性を付与でき、火災時にも有毒ガスを発生しない、発生したとしても微量である塗膜を形成することができる。特にトンネル内壁面や立体駐車場のような閉塞的な空間のコンクリート片の剥落防止に対して効果を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のコンクリート剥落防止工法について、詳細に説明する。
【0016】
まず、本発明に使用する各構成成分について説明する。
【0017】
(A)ポリマーセメントモルタルについて
本発明に使用する接着用のポリマーセメントモルタルは、セメントに結合材としてポリマー(樹脂)を添加したものであり、物性や作業性等の改善等のため広く用いられている。本発明で使用するポリマーセメントモルタルは、コンクリート不陸調整を施す際の作業性、メッシュ状シートを貼り付ける際の作業性が良好であるものが好ましい。また、低温時の硬化性が良好で、且つ、施工後7日程度で強度を発揮するものが好ましい。
【0018】
このポリマーセメントモルタルは、通常セメントと骨材、樹脂、硬化剤等からなる。このうちセメントは、一般にポリマーセメントモルタルに採用されている各種のセメントを特に限定されることなく任意に使用することができる。このようなセメントの例としては、例えば、水硬性セメントが好適に挙げることができる。このような水硬性セメントとしては、例えば、ポルトランドセメントや、アルミナセメント、白色セメント、石灰混合セメント、高炉セメント、コロイドセメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、スラグセメント等が挙げられる。これらのセメントは、単独で使用してもよく、これらのセメントを2種以上組合せて使用してもよい。例えば、ポルトランドセメントとアルミナセメントとの組合せが好適に挙げられる。
【0019】
セメントは、粉体で使用され、その比表面積は、JIS R5201の比表面積試験で測定した場合に、例えば、3000〜6000cm/gであることが適当である。
【0020】
セメントは、ポリマーセメントモルタルの量に対して、一般に、10〜60質量%、好ましくは、20〜50質量%で配合することが好適である。
【0021】
骨材としては、これまで、一般にポリマーセメントモルタルに採用されている各種の骨材を特に限定されることなく任意に使用することができる。このような骨材としては、珪砂や、川砂、石材破砕物、磁器破砕物、ガラス破砕物、ガラスビーズ、軽量骨材等が好適に挙げられる。骨材は、単独で使用してもよく、更には、2種以上の混合物として使用してもよい。骨材の大きさは、JIS A1102で規定される篩い残留分量で表した場合に、0.3mm(格子径)篩い上残留分が30質量%以下で、かつ0.15mm(格子径)篩上残留分が70質量%以下であり、0.3mm(格子径)篩い上残留分0%で、かつ0.15mm篩い上残留分が30質量%以下であることが好適である。
【0022】
骨材は、ポリマーセメントモルタルの量に基づいて、一般に、10〜80質量%、好ましくは、30〜50質量%であることが適切である。
【0023】
コンクリート構造物の下地処理や不陸調整に使用されるポリマーセメントモルタルは、アクリル樹脂や、SBR樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂が一般に利用されている。本発明で使用されるポリマーセメントモルタルについても、各種の樹脂を特に限定されることなく任意に使用することができる。
【0024】
使用する樹脂として、好ましくは疎水性で液状タイプのエポキシ樹脂である(ここで疎水性とは、水に対して溶解しない又は親水性を有さないことを意味し、例えば、水に対する溶解性として、3%以下の溶解性を示すものを言う)。疎水性液状エポキシ樹脂を用いると、疎水性樹脂であるため、硬化後の物性として耐水性が向上する。
【0025】
中でも好ましいエポキシ樹脂は、常温(20〜25℃)で液状のエポキシ樹脂である。疎水性の液状エポキシ樹脂は、エポキシ当量120〜300g/eqが好ましく、より好ましくは、150〜210g/eqであることが適当である。エポキシ当量が、120g/eq未満であると、物理的強度が低下するため、好ましくない。一方、エポキシ当量が、300g/eqを超えるような過大な値となると、一般に5℃程度の低温で液状を維持出来なくなるため樹脂が結晶化し、析出することとなり、好ましくない。
【0026】
このような疎水性の液状エポキシ樹脂としては、硬化剤と常温で反応して、硬化するものであれば、特に限定されるものではない。エポキシ樹脂は、分子中にグリシジル基を1個以上、好ましくは1.2個以上含有するものが好適である。
【0027】
本発明で使用できるエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂や、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、アルキルモノグリシジルエーテル、アルキルモノグリシジルエステル、アルキルジグリシジルエーテル、アルキルジグリシジルエステル、アルキルフェノールモノグリシジルエーテル、ポリグリコールモノグリシジルエーテル、ポリグリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。ここで、アルキルモノグリシジルエーテル等におけるアルキル基は、例えば、炭素数3〜15のアルキル基が好適である。
【0028】
このようなアルキル基としては、例えば、ネオペンチル基、2−エチルヘキシル基等のアルキル基が好適に挙げられる。このようなエポキシ樹脂は、単独で使用してもよく、それらの混合物として使用してもよい。この場合、全体としてのエポキシ樹脂の混合物のエポキシ当量が、上記の範囲に入っていればよい。
【0029】
本発明で使用される硬化剤としては、一般にエポキシ樹脂の硬化剤として用いられる各種の硬化剤を特に限定されることなく任意に使用することができる。好ましく使用できる硬化剤としては、水溶性アミン樹脂硬化剤であり、水溶性で、かつポリマーセメントモルタル調合時に疎水性液状エポキシ樹脂を取り込む。
【0030】
水溶性アミン樹脂硬化剤は、樹脂成分が多く、希釈水が少ない状況(加熱残分で60%以上)において常温で透明な性状を示す。水溶性アミン樹脂硬化剤は、例えば、特許文献4に示される水溶性アミン樹脂硬化剤が好適に挙げられる。
【0031】
硬化剤として水溶性アミン樹脂は、疎水性液状エポキシ樹脂のエポキシ当量に対し、当量比で、例えば、0.50〜1.50、好ましくは、0.85〜1.30で使用することが好適である。また、硬化剤は、単独で使用してもよく、混合物として使用してもよい。
【0032】
本発明で使用するポリマーセメントモルタルには、必要に応じて、無機粉末や、保水剤、流動化剤、凝結調整剤等を配合することができる。
【0033】
無機粉末は、ポリマーセメントモルタルの施工時のダレ防止や、コテ仕上げ性を向上させるため配合される。このような無機粉末としては、例えば、高炉スラグ粉末や、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、分級フライアッシュ、シリカフューム、炭酸カルシウム粉末、石粉、珪藻土、カオリン、ベントナイト、セピオライト等が好適に挙げられる。これらの無機粉末は、単独で使用してもよく、それらの混合物として使用してもよい。無機粉末は、ポリマーセメントモルタルの量に基づいて、例えば、2〜10質量%が好ましく、更に好ましくは、2〜7質量%である。
【0034】
流動化剤は、水量を増加することなく、ポリマーセメントモルタルの流動性を向上し、施工性を良好にするために配合される。流動化剤としては、例えば、高性能減水剤や、高性能AE減水剤、減水剤等が使用できる。特に流動化剤としては、一般に市販されているナフタレンスルホン酸塩系や、メラミンスルホン酸塩系、ポリカルボン酸塩系、リグニンスルホン酸塩系等の流動化剤が好適に挙げられる。流動化剤は、ポリマーセメントモルタルの量に基づいて、例えば、0.01〜1質量%、好ましくは、0.05〜0.3質量%で配合することが好適である。
【0035】
保水剤は、ポリマーセメントモルタルの保水性を向上し、モルタル中の水分の下地コンクリートへの吸水や、モルタルからの水分の蒸発を防止して、施工性を良好にし、施工直後のモルタルの膨れや、ひび割れ、ドライアウトによる下地コンクリート、又は上塗塗材との付着の低下を防止するために配合される。保水剤としては、例えば、メチルセルロースや、メチルエチルセルロース、ヒドロキシルプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、グアーガム、アルギン酸塩、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキサイド、変性ポリサッカライド等が好適に挙げられる。保水剤は、ポリマーセメントモルタルの量に基づいて、例えば、0.001〜0.3質量%、好ましくは、0.003〜0.1質量%で配合することが好適である。
【0036】
凝結調整剤は、アルミナセメントを混合する場合に、ポリマーセメントモルタルの可使時間を制御する目的で配合するものである。凝結調整剤としては、例えば、クエン酸や、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸や、これらのアルカリ金属塩等であるオキシカルボン酸類が好適に挙げられる。凝結調整剤は、ポリマーセメントモルタルの量に基づいて、例えば、0.001〜0.3質量%、好ましくは、0.005〜0.1質量%で配合することが好適である。
【0037】
本発明で使用されるポリマーセメントモルタルの製造方法は、特に限定されるものではないが、上記以外に必要に応じて、繊維や、顔料等を併用することができる。
【0038】
(B)メッシュ状シートについて
本発明に使用されるメッシュ状シートは、一般に高強度、高弾性の繊維からなり、ガラス繊維、ビニロン繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレン繊維、ポリアリレート繊維、アラミド繊維、炭素繊維等を挙げることができる。この中でも、耐荷性に優れ、ポリマーセメントモルタルとの濡れ性等に優れる、ビニロン樹脂製やポリアミド樹脂製のメッシュ状シートが好ましく用いられる。また、繊維の形態として、2軸や3軸、4軸等のメッシュ形状があるが、本発明に使用されるメッシュ状シートは、強度やコスト等の点から、ビニロン樹脂製三軸メッシュシート又はポリアミド樹脂製二軸メッシュシートが好ましい。また、メッシュ状シートの目の大きさ(目合い)は、一辺が2mm〜15mmが好ましい。目の大きさがあまり大きすぎると、剥離防止効果が低下する。
【0039】
本発明に使用されるメッシュ状シートは、接着用ポリマーセメントモルタルでコンクリート構造物上に保持され、ポリマーセメントモルタルが硬化するとともにメッシュ状シートも固定化される。その場合、コンクリート構造物の形状に沿って、ローラーやコテ、ヘラ等を用いて適度に不陸調整される。コンクリート構造物の表面に、埃やゴミ等の異物の付着が見られる場合は、事前にブラシやエアブロー等で十分に清掃しておき、ひび割れ等が見られる場合は、セメントモルタルやポリマーセメントモルタルを用いて穴埋めしておくことが望ましい。
【0040】
(C)水系塗料について
本発明のコンクリート剥落防止工法は、硬化したポリマーセメントモルタル及び固定化したメッシュ状シートの上から水系塗料で塗装し被覆される。水系塗料は美観や、視感反射率の向上、防汚性のために塗膜で被覆され、環境中への有機溶剤排出量を極めて少なくするため水系の塗料が用いられる。
【0041】
水系塗料としては、水系無機塗料又は水系有機無機複合塗料であることが、特に火災時の人体へ悪影響を及ぼす発生ガスの抑制や火災の燃え広がりを抑制するために好ましい。
【0042】
水系無機塗料としては、例えば水系ポリシロキサン塗料があり、その主な成分としては下記式で示されるテトラアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物を水中に分散したものである。
【0043】
Si(OR(OR(4−x) (1)
式(1)中、R及びRは、炭素数1〜8の有機基であり、xは0〜4の整数である。
【0044】
上記式(1)において、R及びRとしての有機基としては、例えば、アルキル基や、シクロアルキル基、アリール基等が好適に挙げられる。R及びRは、同一のものであっても、異なるものであってもよい。
【0045】
ここで、アルキル基としては、直鎖でも分岐したものでもよい。アルキル基としては、例えば、メチル基や、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基が挙げられる。好ましいアルキル基は、炭素数が1〜4個のアルキル基である。
【0046】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基や、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が好適に挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基等が挙げられる。
【0047】
上記式(1)で示されるテトラアルコキシシランの具体例としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン及びトリエトキシブトキシシラン等が挙げられる。これらテトラアルコキシシランは、1種単独で使用することも、2種以上の混合物として使用することもできる。
【0048】
これらはテトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物であってもよく、該縮合物のポリスチレン換算重量平均分子量は、300〜5000が好ましく、特には500〜3000が適当であり、このような分子量の縮合物を使用することにより、貯蔵安定性を悪化させることなく、密着性の良い塗膜が得られる。また、テトラアルコキシシランの部分加水分解縮合物は、ケイ素原子に結合した−OH基や、−OR基、−OR基を1個以上、好ましくは3〜30個有するものが適当である。
【0049】
このような縮合物の具体例としては、市販品として、エチルシリケート40、エチルシリケート56(共に、コルコート社製)等が挙げられる。
【0050】
水系有機無機複合塗料としては、例えばオルガノシラン及び/又はその部分加水分解縮合物を含むものや、それらと例えばシリル基含有ビニル系樹脂等を加水分解縮合反応させて得られる有機無機複合樹脂を結合剤として含む水系塗料がある。
【0051】
オルガノシラン及び/又はその部分加水分解縮合物は、一般に下記式で表される。
【0052】
Si(OR4−n (2)
式(2)中、Rは、炭素数1〜8の有機基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、そして、nは0〜2の整数である。
【0053】
上記式(2)において、Rとしての有機基としては、例えば、アルキル基や、シクロアルキル基、アリール基、ビニル基等が挙げられる。
【0054】
ここで、アルキル基は、直鎖でも分岐したものでもよい。アルキル基としては、例えば、メチル基や、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基が挙げられる。好ましいアルキル基は、炭素数が1〜4個のものである。シクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基や、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が好適に挙げられる。アリール基としては、例えばフェニル基等が挙げられる。
【0055】
前記各官能には、任意に置換基を有してもよい。このような置換基としては、例えば、ハロゲン原子(例えば、塩素原子や、臭素原子、フッ素原子等)や、(メタ)アクリロイル基、メルカプト基、脂環式基等が挙げられる。
【0056】
としてのアルキル基は、直鎖でも分岐したものでもよい。アルキル基としては、具体的には、メチル基や、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基等が挙げられ、好ましいアルキル基は、炭素数が1〜2個のものである。
【0057】
上記式(2)で示されるシリケート(n=0)の具体例としては、エチルシリケートや、メチルシリケート、ジイソプロピルジエチルシリケート等が好適に挙げられる。
【0058】
上記式(2)で示されるオルガノシラン(n=1又は2)の具体例としては、例えば、メチルトリメトキシシランや、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、i−プロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン等が挙げられるが、好ましくは、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシランである。
【0059】
これらオルガノシランは、1種単独で使用することも、2種以上混合して使用することもできる。また、これらは部分加水分解縮合物であってもよい。該縮合物のポリスチレン換算質量平均分子量は、例えば、300〜5000、好ましくは、500〜3000が適当であり、このような分子量の縮合物を使用することにより、貯蔵安定性を悪化させることなく、密着性の良い塗膜が得られる。また、これら部分加水分解縮合物は、ケイ素原子に結合した−OH基や−OR基を1個以上、好ましくは3〜30個有するものが適当である。
【0060】
このような縮合物の具体例としては、市販品としてコルコート社製のエチルシリケート40や、三菱化学社製のMS56、東レ・ダウコーニング社製のSH6018や、SR2402、DC3037、DC3074;信越化学工業社製のKR−211や、KR−212、KR−213、KR−214、KR−216、KR−218;東芝シリコーン社製のTSR−145や、TSR−160、TSR−165、YR−3187等が挙げられる。
【0061】
結合剤としての有機無機複合樹脂は、オルガノシラン及び/又はその部分加水分解縮合物と、例えばシリル基含有ビニル系樹脂等を加水分解縮合反応させたものでもよい。
【0062】
例えば、シリル基含有ビニル系樹脂としては、ビニル系樹脂の末端あるいは側鎖に加水分解性シリル基又は水酸基と結合したケイ素原子を有するシリル基を、樹脂1分子中に少なくとも1個、好ましくは、2個以上有し、かつ酸価が、30〜150mgKOH/g、好ましくは、35〜80mgKOH/gであり、好ましくは、質量平均分子量が、約10000〜50000、更に好ましくは、質量平均分子量13000〜35000のビニル系樹脂であることが好適である。
【0063】
前記シリル基は、好ましくは、下記式で示されるものである。
【0064】
−SiX(R(3−P) (3)
式(3)中、Xは、アルコキシ基や、アシロキシ基、ハロゲン原子、ケトキシメート基、メルカプト基、アルケニルオキシ基、フェノキシ基等の加水分解性基又は水酸基であり、Rは、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、アラルキル基等の1価の炭化水素基であり、Pは、1〜3の整数である。
【0065】
アルコキシ基におけるアルキル基は、例えば、炭素数1〜10、好ましくは、炭素数1〜5のアルキル基であることが適当であり、直鎖でも分岐したものでも良い。このようなアルキル基としては、具体的には、例えば、メチル基や、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基等を好適に挙げることができる。
【0066】
アシロキシ基としては、例えば、アセトキシ基や、ベンゾイロキシ基等を好適に挙げることができる。ハロゲン原子としては、例えば、塩素原子や、臭素原子、フッ素原子等を好適に挙げることができる。ケトキシメート基としては、例えば、アセトキシメート基や、ジメチルケトキシメート基等を好適に挙げることができる。アルケニルオキシ基におけるアルケニル基としては、前記アルキル基に対応するアルケニル基を好適に挙げることができる。
【0067】
としての炭素数1〜10のアルキル基は、直鎖でも分岐したものでも良い。このようなアルキル基としては、具体的には、例えば、メチル基や、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基等を好適に挙げることができる。
【0068】
アリール基としては、例えばフェニル基等が好適に挙げられる。
【0069】
アラルキル基は、アルキル基の水素原子が、アリール基によって置換された構造を有する基であり、アルキル基及びアリール基の範囲は、前記の通りである。
【0070】
シリル基含有ビニル系樹脂は、例えば、下記式、
(X)(R(3−P)Si−H (4)
〔式(4)中、X、R及びPは、上記式(3)と同じ意味である。〕
で示されるヒドロシラン化合物と、炭素−炭素二重結合を有するビニル系樹脂とを常法に従って、反応させることにより製造することができる。
【0071】
このようなヒドロシラン化合物としては、例えば、メチルジクロロヒドロシランや、メチルジエトキシヒドロシラン、メチルジアセトキシヒドロシラン等が代表的なものとして挙げられる。ヒドロシラン化合物の使用量は、ビニル系樹脂中に含まれる炭素−炭素二重結合1モル量に対し、0.5〜2モル量が適当である。
【0072】
上記のビニル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸や、イタコン酸、フマル酸等のカルボン酸又は無水マレイン酸等の酸無水物を必須ビニル系モノマーとして含有し、更に、(メタ)アクリル酸メチルや、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、シクロヘキシル(メタ)アクリル酸等の(メタ)アクリル酸エステル;アクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等からなる群から選ばれるビニル系モノマー;4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等の重合性光安定剤;2−ヒドロキシ−4−((メタ)アクリロイルオキシエトキシ)ベンゾフェノン等の重合性紫外線吸収剤の共重合体等が好適に挙げられるが、共重合体製造時に、(メタ)アクリル酸アリールや、ジアリールフタレート等をラジカル共重合させることにより、ビニル系樹脂中にヒドロシリル化反応させるための炭素−炭素二重結合の導入が可能となる。
【0073】
なお、前述のカルボン酸又は酸無水物は、共重合体の構成モノマー中に、得られるビニル系樹脂の酸価が、好ましくは30〜150mgKOH/g、より好ましくは35〜80mgKOH/gとなるように含有させる。酸価が、前記範囲より小さいと、得られる水分散液の貯蔵安定性が悪くなり、逆に大きいと、得られる塗膜の耐水性、耐熱水性が悪くなるので、いずれも好ましくない。
【0074】
また、前記のシリル基含有ビニル系樹脂の、その他製造方法としては、前述のカルボン酸又は酸無水物を含むビニル系モノマー及び2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル等の水酸基含有モノマーと、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシランや、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、β−(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、β−(メタ)アクリロキシエチルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシブチルフェニルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルジエチルメトキシシラン等のシリル基含有ビニル化合物とをラジカル重合させる方法もある。これらシリル基含有ビニル系樹脂の具体例としては、例えば、市販品として鐘淵化学工業社製のカネカゼムラック等が挙げられる。
【0075】
本発明で使用される水系塗料には、コロイド状シリカとしてシリカ粒子が水に分散したものを含むことが好ましい。
【0076】
コロイド状シリカは、通常、平均粒径が、5〜100nm、好ましくは10〜30nmのほぼ球状のシリカ粒子が分散したタイプと、シリカ粒子が太さ5〜50nm、長さ40〜400nm程度に鎖状に凝集して溶液中に分散したタイプと、平均粒径5〜50nmのシリカ粒子が環状に凝集して溶液中に分散した環状タイプ等があり、いずれも使用可能である。また、異なるタイプの物を混合して使用することもできる。
【0077】
コロイド状シリカは、塗膜の硬化性や耐汚染性を向上させるために使用され、その配合量は、塗料中に固形分換算で0.1〜50質量%が適当である。配合量が多いと塗膜の硬化性や、耐汚染性を向上させるが、逆に多過ぎると、混和安定性や塗膜の耐クラック性等が低下する傾向にある。
【0078】
コロイド状シリカは、通常水系塗料にそのまま混合して使用されるが、上記に説明した無機系樹脂や有機無機複合樹脂と加水分解縮合反応させて使用してもかまわない。
【0079】
その場合、加水分解縮合反応を促進させるため、触媒として酢酸や塩酸、硝酸、蟻酸等の酸、又はアンモニアや、アミン化合物等の塩基性化合物を、添加するのが好ましい。
【0080】
加水分解又は部分縮合反応は、通常、40〜80℃、好ましくは45〜65℃で、例えば、2〜15時間反応させるのが適当であるが、触媒の存在下では常温下で反応させることも可能である。
【0081】
コロイド状シリカと結合剤の無機系樹脂、有機無機複合樹脂とを反応させることで、コロイド状シリカが塗膜中でネットワーク構造を形成し、塗膜の硬度や耐汚染性を更に向上させることができる。結合剤にはポルトランドセメント等を用いたセメント系の結合剤を用いてもよい。また、有機無機複合樹脂では、アクリル樹脂やウレタン樹脂、エポキシ樹脂を使用することも可能である。
【0082】
本発明に使用される水系塗料は、主剤成分となる結合剤と、必要に応じて塗料の硬化を促進する硬化促進剤、充填剤、体質顔料、着色顔料、防錆顔料、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、増粘剤、顔料分散剤、レベリング剤、防カビ剤、防腐剤等の各種添加剤等を配合したものから構成される。
【0083】
水系塗料の塗装は、刷毛、ローラー、スプレー等の手段により、1回又は数回塗りで乾燥膜厚1〜100μmの塗膜を形成することが適当であり、常温での乾燥、あるいは加熱により乾燥し、塗膜を形成することが可能である。
【0084】
(D)複層塗膜について
本発明の工法による接着用ポリマーセメントモルタル、メッシュ状シート、水系塗料で形成された複層塗膜について、10cmφ当たりの耐荷性が1.5kN以上であり、かつ変位が10mm以上であることが、剥落防止性能において好ましい。また、無機系の材料で複層膜を形成することにより、火災時の人体へ悪影響を及ぼす発生ガスを抑制し、火災の燃え広がりを抑制することが好ましい。
【0085】
更に、複層塗膜は、光が物体に当たったとき、光が何パーセントの割合で反射されるかを示す視感反射率が60%以上であることがトンネル内での使用では好ましい。なお、東日本高速道路株式会社 設計要領第三集(3)トンネル内装工編 平成18年4月版の7−2パネル系内装板の材料規格では、初期の視感反射率の基準値は60%以上とされている。視感反射率とは、XYZ表色系おけるYの値で表現でき明度を意味する。
【0086】
本発明にかかる複層塗膜は、マウスを用いたガス有害性試験において、6分間加熱した際に、試験開始からマウスが行動を停止するまでの平均時間が6.8分以上であることが火災時に有毒ガスを発生しない、発生したとしても微量である観点から好ましい。
【0087】
本発明にかかる複層塗膜の燃焼時において、発生ガスであるCO、HCl、HCN、NH、SO+SO及びNO+NOのそれぞれの発生量が0.1mg/g以下であることが火災時に有毒ガスが発生したとしても微量である観点から好ましい。
【0088】
本発明にかかる複層塗膜は、延焼性試験において消炎時間が30秒以下で、燃焼による火災の先端が着火点より600mm未満であることが塗膜の不燃性の観点から好ましい。
【0089】
本発明のコンクリート剥落防止工法としては、例えば、トンネル、橋梁、道路高架橋、ビル、壁、煙突、給水槽等のコンクリート構造物において適用可能であるが、特にトンネル内や、立体駐車場のような閉塞的な空間であるコンクリート内装部に適用されることが好ましい。
【実施例】
【0090】
以下、本発明について、実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例中の「部」や「%」は、特に断らない限り、質量基準で示す。
【0091】
(実施例1〜3及び比較例1〜2)
以下の表1に実施例1〜3、表2に比較例1〜2の塗装仕様を示す。
【0092】
<供試体の作製及び養生方法>
実施例1〜3及び比較例1〜2で用いた材料
エポキシ樹脂系ポリマーセメント(商品名:レジガードS9000−3P、大日本塗料株式会社製、エポキシ当量180g/eq、エポキシ樹脂は疎水性液状タイプであり、硬化剤は水溶性アミン樹脂硬化剤を使用。なお、主剤中のエポキシ樹脂はビスフェノールA型エポキシ樹脂を主成分とする。ポリマーセメントは、樹脂成分8%、セメント系化合物34%、骨材38%、混和剤4%、水16%の各成分から成る。)、
アクリル樹脂系ポリマーセメント(商品名:レジガ−ドS7000、大日本塗料株式会社製、ポリマーセメントは、樹脂成分8%、セメント系化合物34%、骨材38%、混和剤4%、水16%の各成分から成る。)、
ビニロン3軸メッシュシート(商品名:TSS−1810−Y、ユニチカ株式会社製、目の大きさ(目合い)は1辺10mm)、
ポリアミド2軸メッシュシート(商品名:KSMシート、キョーワ株式会社製、目の大きさ(目合い)は1辺3mm)、
有機無機複合水系プライマー(商品名:レジガードプライマーW、大日本塗料株式会社製、合成樹脂エマルション25.3%、顔料・骨材22.1%、添加剤10.3%、変性ポリアミドアミン樹脂エマルション3.9%、カルシウム系結合材38.4%の各成分から成る。)、
水系無機塗料(商品名:レジガードTN−1、大日本塗料株式会社製、結合材24.0%、顔料12.6%、添加剤4.2%、水59.2の各成分から成る。)、
溶剤系ポリウレタン樹脂塗料用中塗(商品名:VトップH中塗、大日本塗料株式会社製)、
溶剤系ポリウレタン樹脂塗料上塗(商品名:VトップH上塗、大日本塗料株式会社製)
を、以下で示すコンクリート平板に、ローラー、コテ等を使用して塗布・貼付し、所定の養生の後、各試験に供した。
【0093】
コンクリート供試体作製の素地調整は、全てディスクサンダー(#20研磨ディスク)を用い、表層の脆弱層、異物を取り除いた状態とした。
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】

【0096】
<試験及び評価方法>
各試験方法及び評価方法は、以下のように行った。
【0097】
<塗面外観>
寸法60×300×300mmのコンクリート平板(W/C(水/セメント比)=60%)を用い、施工温度23℃、湿度50%RH、無風状態の試験室において、表1及び表2に示す塗装仕様に従い施工を行った。養生は、本試験室内にて7日間行い、試験に供した。視感反射率は、分光光度計(コニカミノルタセシング株式会社製CR−400)にて測定した反射スペクトルにより算出し、塗膜は目視にて行い、以下の評価基準により判定を行った。
○:視感反射率が60%以上であり、塗膜が均一である。
×:視感反射率が60%未満又は、塗膜が均一でない。
【0098】
<剥落防止性能>
JIS A 5372:2000に規定するU形ふた、呼び名1種300(400×600×60mm)を使用し、表1及び表2に示す塗装仕様に従い施工を行った。試験は首都高速道路株式会社 保全施設部コンクリート片剥落防止対策要領(案)平成15年5月版に準拠し行った。以下の評価基準により評価した。
・耐荷性
○:φ10cmあたりの押抜き荷重1.5kN以上。
×:φ10cmあたりの押抜き荷重1.5kN未満。
・伸び性能
○:押抜き試験において10mm以上の変位がある。
×:押抜き試験において10mm以上の変位がない。
【0099】
<付着性>
寸法20×70×70mmのモルタル片を用い、表1及び表2に示す施工仕様に従い施工を行った。養生は塗布完了後、23℃及び5℃の恒温室(湿度50%RH)にて、それぞれ7日間、30日間養生を行った。試験は建研式付着力試験機を用いて行い、以下の評価基準により評価した。
○:1.5N/mm以上。
×:1.5N/mm未満。
【0100】
<燃焼ガス分析>
JIS K 7217プラスチック燃焼ガスの分析方法に従い、複層膜の燃焼時に発生するCO、CO、HCl、HCN、NH、SO+SO及びNO+NOのガス分析を行った。以下の評価基準により評価した。
○:CO以外の分析対象ガスの発生がそれぞれ0.1mg/g未満である。
×:CO以外の分析対象ガスの発生がそれぞれ0.1mg/g以上である。
【0101】
<ガス有害性>
建築基準法に基づくマウスを用いたガス有害性試験を実施した((財)ベターリビング制定「防耐火性能試験・評価業務方法書」(ガス有害性試験・評価方法)より)。
【0102】
加熱炉、攪拌箱、被検箱、回転かご、マウス行動記録装置等で構成される試験装置で8匹のマウスを用い、複層塗膜を表3に示す条件で6分間加熱した際に、試験開始からマウスが行動を停止するまでの平均時間を測定した。以下の評価基準により評価した。
【0103】
【表3】

○:8匹のマウスが行動を停止するまでの時間が平均6.8分以上。
×:8匹のマウスが行動を停止するまでの時間が平均6.8分未満。
【0104】
<延焼性試験>
JHS 738−2007 トンネル補修材料の延焼性試験方法に従い試験を行い、複層塗膜の消炎時間、燃焼による火災の先端の着火点よりの到達距離を測定した。以下の評価基準により判定を行った。
○:消炎時間が30秒以下で燃焼による火災の先端が着火点より600mm未満。
×:消炎時間が30秒を超える、又は燃焼による火災の先端が着火点より600mm以上。
【0105】
表4にこれらの試験結果を示す。
【0106】
【表4】

※「−」は「測定なし」を意味する。
【0107】
表4の結果より、比較例1では、メッシュ状シートがなく、ポリマーセメント及び水系塗料のみでは剥落防止性能を発揮しないことが確認できる。比較例2では、有機成分含有量の多い一般的なポリウレタン樹脂塗料の中塗及び上塗を使用しており、燃焼ガスにHCl、HCN、NH、SO+SO及びNO+NOのいずれかの成分が含まれ、かつ、溶剤系塗料を使用していることから、トンネル内の様な閉塞的な空間における施工作業には不向きであるといえる。一方、実施例1〜3は何れもこれらの問題を生じることなく、良好な性能とそのバランスを有している。
【0108】
本発明による剥落防止工法によれば、コンクリート構造物に対して剥落防止性能を有し、水系材料であり環境中への有機溶剤排出量が極めて少なく、有機溶剤を使用しないことから、施工時の人体への負荷を低減でき、かつ火災発生の可能性を抑制できる。更に水系塗料として無機系塗料を使用することにより、塗膜に不燃性を付与でき、火災時にも有毒ガスを発生しない、発生したとしても微量である塗膜を形成することができる。本発明は特にトンネル内壁面等のコンクリート片の剥落防止に対して優れた効果を発揮する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物に対して、接着用ポリマーセメントモルタル及びメッシュ状シートでコンクリート構造物表面を被覆し、その上から水系塗料で被覆することを特徴とするコンクリート剥落防止工法。
【請求項2】
上記接着用ポリマーセメントモルタルが、疎水性液状エポキシ樹脂と硬化剤とを含む請求項1に記載のコンクリート剥落防止工法。
【請求項3】
上記メッシュ状シートが、ビニロン樹脂製三軸メッシュシート又はポリアミド樹脂製二軸メッシュシートである請求項1又は2に記載のコンクリート剥落防止工法。
【請求項4】
上記水系塗料が、水系無機塗料又は水系有機無機複合塗料の少なくとも一方である請求項1〜3のいずれかに記載のコンクリート剥落防止工法。
【請求項5】
上記接着用ポリマーセメントモルタル、メッシュ状シート及び水系塗料で形成された複層塗膜について、10cmφ当たりの押抜き荷重が1.5kN以上で、押抜き試験において10mm以上の変位がある請求項1〜4のいずれかに記載のコンクリート剥落防止工法。
【請求項6】
マウスを用いたガス有害性試験において、上記複層塗膜を6分間加熱した際に、試験開始からマウスが行動を停止するまでの平均時間が6.8分以上である請求項1〜5のいずれかに記載のコンクリート剥落防止工法。
【請求項7】
上記複層塗膜の燃焼時の発生ガスにおいて、CO、HCl、HCN、NH、SO+SO及びNO+NOのそれぞれの発生量が0.1mg/g以下である請求項1〜6のいずれかに記載のコンクリート剥落防止工法。
【請求項8】
上記複層塗膜が、延焼性試験において消炎時間が30秒以下で、燃焼による火災の先端が着火点より600mm未満である請求項1〜7のいずれかに記載のコンクリート剥落防止工法。
【請求項9】
上記コンクリート構造物が、トンネル内装部である請求項1〜8のいずれかに記載のコンクリート剥落防止工法。

【公開番号】特開2011−99209(P2011−99209A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252908(P2009−252908)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年10月10日、大日本塗料株式会社管理本部総務部発行の『DNTコーティング技報 No.9』に発表
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】