説明

コンクリート杭の接続部構造

【課題】従来の杭の無溶接接続部構造は、杭に曲げモーメントが作用した場合に、リングを押し開く大きな力が作用し、リングを強大にする必要があった。また、リング外径が大きく杭を中堀工法によって地中に沈設する時に沈設抵抗が増大し、杭の沈設作業能率が低下する問題があった。
【解決手段】上下杭100、110の端板101、111の外周に、分割したリング体20を外嵌する。リング体20はコ字状断面の円周凹溝22を内周面に備え、この円周凹溝22の幅は端板101、111の合計厚さより大きい。リング体20は杭軸方向両側に延長する延長部23を備え、この延長部23の外周に円錐テーパ25を設け、このテーパ25に締付リング30を嵌めて固定する。この接続部構造10の外径は杭100、110の外径寸法より僅か大きいものとなった。また、上下杭100、110の端板101、111同士の当接面に剪断キー120を配設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート杭の接続部構造に関し、さらに詳しくは、無溶接接続構造の接続部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート杭の接続部は、杭の接続端部金物(端板)の外周に溶接用の開先を設け、この開先にアーク溶接を施すことにより端板同士を接続するのが一般的であった。杭打ち現場で杭を沈下施工するときに、接続部を溶接しながら沈下するためには、特殊な溶接技能者を要すると共に、溶接作業は天候に支配され、また、溶接部にクラックが生ずる場合があるなど、杭打ち工程を阻害する要因が多かった。
【0003】
このような問題点を解決し、杭施工現場における溶接作業を廃止し、無溶接で接続する技術が開発されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
その技術は、杭の突き合わせ端部近傍の円周上に1条または複数条の断面台形状の溝又は突条を設け、その外径にこれと係合する突条又は溝を有する分割リングを嵌め、この分割リングをテーパ付きの外リングで締め付けることによって、上記突条と溝とを噛み合わせ、上下杭を圧着させると共に強固に締め付けるものである。上下杭の圧着は、外リングで分割リングを締め付けたとき、断面台形状の溝の側壁とこれと噛み合う突条の側壁のテーパにより、杭に杭軸方向圧着力を与えるようになっている。
【0005】
この技術は、溶接を必要としないので溶接技能工を必要とせず、天候等の制約がなく、また、極めて簡単に杭を強固に接続することができる優れた技術であり、近年、広く賞用されている。
【特許文献1】実開平3−83224号公報(第4−6頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術は、非常に優れた技術として各所に採用されているが、さらに改善すべき点として、次の問題があった。
【0007】
(a)杭端部近傍に設けた凹溝の側壁と突条の側壁面との接触部の勾配により生ずる分力により、上下の杭を杭軸方向に圧着させるので、強固な継手を実現することが出来るが、一方、この凹溝と突条の接触面に大きな圧縮力が生ずるので、分割リングの寸法や強度を大きくする必要がある。さらに杭に曲げモーメントが作用した場合に、この曲げモーメントにより、分割リングを押し開く大きな力が接触部に加算されて作用するので、外リングに大きな円周方向引張力が作用し、外リングを強大にする必要があった。このため、外リングの質量が大きくなり、特に大径の杭では人力で取り扱うことが困難となる問題があった。
【0008】
(b)外リングの外径が杭の外径よりかなり大きくなるので、杭を中堀工法によって地中に沈設する時に地盤による沈設抵抗が増大し、杭の沈設作業能率が低下すると言う問題があり、地層条件によっては沈設抵抗が過大となり杭が高止まりする場合もあった。これを防止するため、杭先端に厚さの厚いフリクションカッタを装着する必要があり、特殊の加工が必要になるという問題があった。
【0009】
本発明は、基本的には上記無溶接継手を踏襲するもので、上記のような問題点を解決した、改善された、合理的なコンクリート杭の接続部構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、次の技術手段を講じたことを特徴とするコンクリート杭の接続部構造である。
【0011】
すなわち、本発明は、コンクリート杭の接続部において、
(a)当接した上下端板外周肩部に遊嵌するコ字状断面の円周凹溝を内周面に備え円周を複数分割したリング体を設け、
(b)この分割したリング体は杭軸方向2方向に延長する円弧状延長部を備え、この円弧状延長部は内面が上下杭外面に当接し、その外面に軸方向テーパ(円錐テーパ)を備えている。
(c)上下に延長した延長部の円錐テーパにそれぞれ外嵌して、分割したリング体をまとめて杭外周に締付ける締付リングを備えている。
【0012】
ここで、上下端板外周肩部とは、上下端板外周部の反圧着面側の隅角部を言う。コ字状断面の円周凹溝は、当接した上下端板外周肩部に遊嵌する。すなわち、この円周凹溝の幅(杭軸方向寸法)は、上下端板の合計厚さより僅か大きい寸法に形成されている。また、この円周凹溝の深さ(杭軸方向直角寸法)は、杭に分割したリング体を装着したとき、端板の外径との間に僅かな隙間を有する寸法とする。
【0013】
遊嵌するコ字状断面の凹溝は、コ字状の開口寸法が、上下端板の合計厚さに対して僅か大きいものであればよく、その寸法差(端板の合計厚さとコ字状断面の円周凹溝との隙間寸法)は、円周凹溝を容易に端板肩部に係合させることが出来るように、上記端板及びリング体の仕上寸法、仕上げ精度等に応じて定めるとよい。
【0014】
また、上記コンクリート杭の接続部構造において、前記締付リングの外径寸法が、杭径に応じて杭径プラス一定値以下となるように、杭端部近傍の外径を縮小する。補強鋼板筒体を前記端板と一体に杭外径に設け、該補強板筒体外周に前記円弧状延長部を当接させるようにする。こうすると、上下杭同士の接続部の強度を低下させることなく、継手の外径が杭の外径に対して適切な寸法とすることができるので、中堀工法による杭の沈設作業が阻害されることがなく、好適である。
【0015】
また、前記上下杭の端板同士の当接面に対向する凹溝を設け、該凹溝内に剪断キーを配設することによって、上下杭間に作用する剪断力に対する大きな抵抗力を確保することができ、接続部の前記リング体に剪断力を負担させる必要がなく、部材の寸法、強度を低減することが可能となり、経済的な設計をすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、無溶接構造のコンクリート杭の接続部構造の利点をそのまま踏襲し、さらに簡易な構造で、強度的に優れた特性を発揮すると共に、杭の沈設工程が簡略化、能率化され、寄与するところが大であるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0018】
まず、従来技術の問題点について図3を参照して説明する。図3は従来技術の無溶接継手構造を示す断面図である。図3に示す上下杭100、110の突合継手は、杭100、110の端部に端板101、111を備え、この端板101、111の外周の肩部108、118にテーパを設け、突合接触した端板101、111の外周の肩部108、118のテーパに係合する溝61を有する分割リング60を外嵌する。溝61は端板101、111の外周の肩部108、118に当接する側壁を備えた台形断面を有する。分割リング60は、円周方向に2つ割りに分割されている。この分割リング60は外径に円錐テーパ62を付してある。内径側にテーパ面71を有する外リング70を軸方向に力Pで押しつけて分割リング60を締め付けている。この分割リング60の内径側の溝61は端板101、111の肩部108、118のテーパに係合し、このテーパにより、上下杭100、110の端板101、111を圧着させると共に、強固に締め付けるものである。つまり、上下杭100、110の圧着は、外リング70のテーパ面71で分割リング60を締め付けたとき、断面台形状の溝61の側壁とこれと噛み合う端板101、111の外周の肩部108、118のテーパにより、杭100、110に杭軸方向圧着力を与える。
【0019】
この杭軸方向圧着力について図3を参照して考察する。
【0020】
今、外リング70の内径側の円錐テーパ面71のテーパ角をαとする。例えば、テーパの傾きが1/10であれば、αは約1°40´となる。次に、端板101、111と内リング60との間のテーパを2/5とすれば、そのテーパ角βは約21°50´となる。さらに、各テーパ面の摩擦係数μを仮に0.03と仮定すると、摩擦角λは約1°43´となる。
【0021】
図3に示すように、外リング70に軸方向押力Pを加えると、外リング70と内リング60との間のテーパ面に締付力(くさび力)が発生する。この締付力Qは
Q=P×cot(α+2λ)
≒P×11.2
となる。このとき、端板101、111と内リング60の内面溝61の側壁との間に作用する杭軸方向押圧力(くさび力)Rは
R=(Q×1/2)×cot(β+2λ)
≒P×11.8
となる。すなわち、外リング70に加えた軸方向力Pの10倍以上の杭軸方向締付力Rが生ずることとなる。つまり、分割リング60の凹溝61の側壁が端板101、111の外周の肩部108、118のテーパに係合することによって、凹溝61の側壁と端板101、111の外周の肩部108、118との接触部の勾配により生ずる分力により、上下の杭100、110を杭軸方向の大きな力で、圧着させる。従って、強固な継手を実現することが出来る。このため、この凹溝61と端板101、111の肩部108、118との接触面に大きな圧縮力が生ずる。この大きな圧縮力に対応するため、分割リング60の寸法や強度を大きくする必要がある。
【0022】
さらに杭100、110に曲げモーメントが作用した場合に、この曲げモーメントにより、分割リング60を押し開く大きな力が端板101、111の肩部108、118の接触部に加算されて作用する。このとき、分割リング60には外方に開く方向に大きな力が作用する。このため、外リング70に大きな円周方向引張力が作用することとなるので、外リング70を強大にする必要があった。これらの原因により、外リング70は寸法が大きくなるので、必然的に質量が大きくなり、特に大径の杭では外リング70を人力で取り扱うことが困難となる問題があった。
【0023】
また、図3に示す従来例の構造では、外リング70の外径が杭100、110の外径よりかなり大きくなるので、杭100、110を中堀工法によって地中に沈設する時に、外リング70の部分の沈設抵抗が増大し、杭100、110の沈設作業能率が低下する。地層や地盤の条件によってはこの沈設抵抗が過大となり、杭100、110が高止まりする場合もあった。
【0024】
図2は以上の問題を改善した本発明の実施例のコンクリート杭100、110の接続部構造を示す断面図、図1はその部分拡大図である。
【0025】
コンクリート杭100、110は上下端にそれぞれ端板101、111を有し、この端板に係止するボタンヘッドを有するPC鋼材102、112を備え、この鋼材102、112によってコンクリート103、113にプレストレスを導入したPC杭である。端板101、111の近傍の外周には補強板104、114、105、115を備えている。
【0026】
本発明のコンクリート杭の接続部構造10は、杭100、110の端板101、111に外嵌するリング体20と、このリング体20の上下延長部23のに外嵌する外リング30とから成っている。
【0027】
リング体20は、図2に示すように、その内径側にコ字状断面の円周凹溝22を備えた本体部21とこの本体部21から杭軸方向両側に延長した延長部23とから構成されている。リング体20は、円筒を円周方向に複数に分割した円弧板状をなしている。分割部の隙間寸法は3mm程度である。
【0028】
円周凹溝22は上下杭100、110の端板101、111の外周に遊嵌する。円周凹溝22の幅は端板101、111の合計厚さより僅か小さい。
【0029】
図1では、端板101、111の外周肩部107、117に段状の杭軸直交面を設けている。通常、端板101、111は各面を機械加工によって仕上加工としているので、この外周肩部107、117も機械仕上面とするとよい。
【0030】
また円周凹溝22の溝底面は、リング体20を杭100、110の外周に装着したとき、端板101、111の外周面との間に隙間が生じないように形成されている。
【0031】
リング体20は円周凹溝22を設けた本体部21から、杭軸方向両側に延長した延長部23を有する。延長部23は杭100、110の外周に設けた円筒状の補強板104、114に接触外嵌する内面24を有する。延長部23の外径側は、杭軸方向に円錐テーパ25を形成している。この円錐テーパ25に外リング30が外嵌する。外リング30は内面に円錐テーパ面を備えた短円筒状の一体リングである。外リング30の内面31はリング体20の外径のテーパと同一テーパを有する形状となっている。
【0032】
図2に示すように、杭100、110を連結するとき、上下の外リング30を30aで示すような位置にそれぞれ上下杭100、110に嵌めておき、リング体20を上下杭100、110の端板101、111の外周側に装着し、次いで外リング30aを矢印32で示すように杭軸方向に移動させて、リング体20の延長部23の外周に押し込む。リング体20はこの外リング30の内面テーパ31によりリング体20の延長部23が補強板104、114の外径に圧着し、固定される。
【0033】
図1に示すように、本発明のコンクリート杭100、110の接続部構造10は端板101、111の肩部107、117にテーパを設けず、分割リング20の内側凹溝22は溝の幅が端板101、111の合計厚さに対して少し小さく、端板の外周側に遊嵌するようになっている。
【0034】
端板101、111の肩部107、117は杭軸と直角な平面となっている。端板101、111は通常各面を仕上加工するので、この肩部107、117も通常は仕上加工した面となっている。
【0035】
分割リング20の内側凹溝22も、原則として側壁にテーパを設けない。但し、凹溝22の側壁の上下端の隅角部に丸味を施したり、凹溝22の側壁面が僅かな抜き勾配を有することを妨げるものではない。
【0036】
分割リング20の製造方法としては、例えば鋼板を図2に示す断面の平鋼板にロール圧延し、これを短尺に切断し、切断された部材をプレス等にて円弧状に湾曲加工すること等によって製造することができる。従って、凹溝22の形状や本体部21の形状等は、例えば、分割リング20の製造工程に対応した形状、寸法等に必然的に定まる場合がある。
【0037】
端板101、111の合計厚さと凹溝22の幅との差は、杭100、110の寸法等に応じ0.1〜0.5mmとすればよい。例えば、0.2mm以下程度が最も好ましい。
【0038】
本発明の分割リング20は、上述の従来技術とは異なり、接続した杭100、110の軸方向圧縮力を生じない。杭100、110の軸向圧縮力は、杭同士の端板101、111の接触により伝達される。杭の軸方向引張力は、杭100を上昇させる時に生ずるが、その引張力の大きさは小さく、分割リング20の溝22と端板101、111の肩部107、117との接触によって伝達される。
【0039】
分割リング20は、杭軸方向両側へ延長されており、この延長部23の外径側にテーパ25が施されている。分割リング20は、この杭軸方向両側への延長部23の外周に外リング30を嵌めて固定する。外リング30がテーパによって分割リング20を締めつけたとき、分割リング20の杭軸方向延長部23の内面が杭100、110の補強板104、114の外径に圧着され、固定される。
【0040】
分割リング20を外リング30の円錐テーパによって締付けたときも、分割リング20の杭軸方向延長部23が杭100、110の外径にしっかりと密着する。端板101、111の外周と分割リング20の凹溝21の底部には隙間が生じないようにする。
【0041】
また、杭100、110に曲げモーメントが掛かったときでも、分割リング20には外側への離脱力が全く作用しない。従って、分割リング20は余分な力がかからないから、破損等のおそれもない。外リング30は分割リング20の上下端を杭100、110の外径に設けた補強板104、114に押しつけるだけでよい。杭100、110に曲げモーメントが生じたときも、外リング30は端板101、111から離れた位置にあり、大きなフープ力が作用しない。従って、従来に比し、寸法が小さく軽量のものとなる。
【0042】
補強板104、114は端板101、111に隣接して杭100、110の外周を補強するもので、例えば厚さ5mm程度の鋼板円筒を用いるとよい。
【0043】
分割リング20は従来例では実際には2つ割りであったが、本発明では4つ割り等にすることができる。分割リング20は端板101、111を杭軸方向に締付ける力を要しないから、軽量化することができる。
【0044】
また、本発明の継手は接続部の外径(分割リング20の外径又は外リング30の外径)は、杭100、110の外径に対して10mm程度以下の大きい寸法に収めることができる。従って、中掘工法によって杭を地中に沈下させるとき、接続部に大きな沈下抵抗が生じない。この寸法は例をあげると表1に示すようである。
【0045】
【表1】

【0046】
表1は、杭口径300、600、1000mmの杭について、従来例の無溶接継手と本発明の実施例とを比較して示したものである。本発明では継手部の外径がフリクションカッタの外径とほぼ同一となり、沈下抵抗が増加しない。
【0047】
次に本発明の杭の接続構造では、上下杭100、110の端板101、111の対向面に、互いに対向する凹部106、116を設け、この凹部内に剪断キー120を挿入して上下杭100、110間に作用する剪断力に対抗させるようにした。従って、接続構造10は剪断力をなんら負担する必要がない。従って、従来の接続構造に対し強度設計が著しく容易で、軽量な寸法の部材でよいこととなった。
【0048】
本発明の杭の接続構造について曲げ耐力及び剪断耐力の試験を行った。曲げ耐力は、図3に示す従来例の接続構造と本発明の接続構造の比較を行った。従来技術として、図3に示す内リングに2/5のテーパを有する杭径600mmの杭に対し、テーパを有しない端板とこれに遊嵌する内周溝を備えた分割リングを外嵌した杭径600mmの杭との比較を示す。外リングは共に1個とし、その平均厚さは11mmとした。
【0049】
曲げ試験装置は図4に示すように、中央に接続構造10を備えた管径600mm、長さ6000mmの杭130を両端支持部131で支間距離5500mmで両端支持し、中央を挟む間隔1000mmの載荷点132の2点に曲げ荷重133を負荷した。接続構造10の内リング(分割リング)及び外リングの各部にワイヤレスストレインゲージを配設し、応力及びひずみを測定した。
【0050】
試験における曲げモーメントは、次式から求めるものとした。
【0051】
F=〔8M−GW(21−L)〕/2(1−b) ……(1)
(1)式からMを求めた。
【0052】
M=〔F2(1−b)+GW(21−L)〕/8 ……(2)
ここに、F:載荷荷重(kN)
M:曲げモーメント(kN・m)(JIS破壊規格569.0)
G:自由落下の標準加速度(9.81m/s2
W:部材の質量(t)=2.88
L:部材の長さ(m)=6.0
l:スパン(m)=5.5
b:曲げスパン(m)=1.0
M=(9F+141.26)/8=1.125F+17.66
である。MをJIS破壊規格569.0kN・mとしたとき、
F=(569−17.66)/1.125=490kN
となる。よって荷重段階は、表2に示すとおりとした。
【0053】
【表2】

【0054】
曲げ試験結果の一例を表3に示した。
【0055】
【表3】

【0056】
試験結果から、曲げ最大耐荷力は、従来型のテーパー付接続構造を1.00とすると実施例の接続構造では全てが1.64〜1.76倍となった。耐荷力の向上が大きい。また、継手部の終局時の破壊状況では、従来例では外リングの円周方向の伸びによって内リングが端板から離脱したが、実施例では内リングの内周溝側壁間が突起部間で大きく伸びると共にU字形に変形し、外リングも同時に伸び出し、端板から離脱はしないが、載荷荷重が低下する状況であった。従来例と実施例では中央点のたわみ測定結果からも大きい差が見受けられ、実施例の変形は従来例の約2倍となっている。
【0057】
図6は、荷重及びひずみの一例を示す試験結果グラフであり、荷重P(kN)と中央点の撓み量δ(mm)との関係を示している。従来例の接続構造では曲線135で示すように荷重795kNm、撓み量28.62mmで破断した。これに対し、実施例では曲線136で示すように、荷重1380kNまで上昇し、撓み量は56.59mmと約2倍になった。
【0058】
次に図5は、杭の接続構造の剪断力の試験装置を示す説明図である。接続構造10で接続した杭140に剪断荷重を負荷した。上下の負荷点は接続構造10を挟んでその中心から左右に1800mm及び300mm隔てた点を上下非対称に加えるものである。
【0059】
試験における剪断力は、次式から求めた。
【0060】
F=Q(2a+b)/b ……(3)
ここで
Q:荷重
F:剪断力
a:負荷点までの距離
b:負荷点までの距離
である。PHC杭体(φ600C種)における短期剪断応力度及び従来構造タイプでの設計せん断耐力から載荷荷重を求めると、次のとおりである。
(1)短期 許容斜引張応力度8N/mm2
Q=342kN
F=342(2×0.3+1.5)/1.5=480kN
(2)設計剪断耐力 外リング降伏点応力度 325×1.1=357.5N/mm2
Qu=414kN
F=414(2×0.3+1.5)/1.5=580kN
荷重段階は表4のとおりとした。
【0061】
【表4】

【0062】
載荷荷重2000kNまで実施した。結果を表5に示した。
【0063】
【表5】

【0064】
実施例は剪断キーを上下端板間に装着したものである。
【0065】
これらの結果から、JIS破壊荷重ではひずみ値が内,外リング共に小さいものとなっており、実測破壊荷重に対して十分に余力を残している状況であった。このことは、端板に取付けられている剪断キーが殆ど剪断力を受け持っていたものと推測される。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図2の部分拡大図である。
【図2】実施例のコンクリート杭の接続部構造を示す断面図である。
【図3】従来技術の説明図である。
【図4】曲げ試験の説明図である。
【図5】剪断試験の説明図である。
【図6】曲げデータの例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0067】
10 接続部構造
20 リング体
21 本体部
22 円周凹溝
23 延長部
24 内面
25 円錐テーパ
30、30a 外リング
31 内面
32 矢印
60 分割リング
61 溝
62 円錐テーパ
70 外リング
71 テーパ面
100、110 上下杭
101、111 端板
102、112 PC鋼材
103、113 コンクリート
104、114、105、115 補強板
107、117 外周肩部
108、118 外周の肩部
106、116 凹部
120 剪断キー
130 杭
131 支持部
132 載荷点
133 曲げ荷重
135、136 曲線
140 杭
141〜144 負荷点
145 荷重

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート杭の接続部において、当接した上下端板外周肩部に遊嵌するコ字状断面の円周凹溝を内周面に備え円周を複数分割したリング体を設け、該リング体は杭軸方向2方向にそれぞれ延長し内面が上下杭外面に当接し外面に軸方向テーパを有する円弧状延長部を備え、該それぞれの延長部のテーパに外嵌する締付リングを備えたことを特徴とするコンクリート杭の接続部構造。
【請求項2】
前記締付リングの外径を、杭径に応じて定めた一定値以下となるように、杭端部近傍の杭の外径を縮小すると共に、補強鋼板筒体を前記端板と一体に杭の外径に設け、該補強板筒体外周に前記円弧状延長部を当接させたことを特徴とする請求項1記載のコンクリート杭の接続部構造。
【請求項3】
前記上下杭の端板同士の当接面に対向する凹部を設け、該凹部内に上下杭間に作用する剪断力に対抗する剪断キーを配設したことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のコンクリート杭の接続部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−16446(P2007−16446A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−197922(P2005−197922)
【出願日】平成17年7月6日(2005.7.6)
【出願人】(591082362)シントク工業株式会社 (14)
【出願人】(000207355)大同コンクリート工業株式会社 (7)
【出願人】(591197699)日本高圧コンクリート株式会社 (20)
【出願人】(000201504)前田製管株式会社 (35)
【Fターム(参考)】