説明

コンクリート構造物の修復方法

【課題】コンクリート構造物の補修・補強工事の際に行われる切削作業によって生じる切削面近傍の損傷の修復方法、特に目視不可能な微細なひび割れの修復に有効な方法を提供する。
【解決手段】コンクリート構造物1の補修・補強工事において切削処理したコンクリート表面に、合成樹脂系溶剤とその硬化剤とを混合した、粘度が100mPa・s/20℃未満の2液混合式の接着性合成樹脂組成物2を塗布し、所要の養生時間の経過後、接着性合成樹脂組成物2の塗布面に、セメント系打ち継ぎ材3を打ち継ぐ。塗布する接着性合成樹脂組成物2がきわめて低粘度であるため、幅が0.01mm以下の目視不可能な微細なひび割れ1bにも良好に浸透され、その結果、セメント系打ち継ぎ材3の付着強度を増大させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の補修・補強工事の際に行われる切削作業によって発生する切削表面近傍の損傷、特に目視不可能な微細なひび割れを修復するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネル構造物、橋梁の床版や橋脚、杭基礎、地下構造物、桟橋や護岸、ダムや堤防等、コンクリート構造物を補修・補強する方法として、コンクリートの劣化部分をはつり(切削)処理し、新たに健全なコンクリートや、補修・補強材料を打継ぐといった方法が知られている。このはつり処理には、水圧により切削するウォータージェット工法や、大型の機械に切削装置を取り付けて切削するブレーカ工法やスパイキーハンマー工法、あるいは電動のピックなどを用いた人力による切削作業が採用されている。
【0003】
これらの工法によるはつり処理においては、既設のコンクリートにひび割れなどの損傷を発生し、既設コンクリートと打ち継がれたコンクリートの付着性状に悪影響を与えてしまうおそれがある。そして、このような切削によって生じる目視可能な0.2mm以上程度の幅のひび割れの補修方法としては、従来、下記の特許文献1及び特許文献2に記載された技術が知られている。また、セメントと反応し化学的にコンクリート表面のひび割れを自己修復する、ザイペックス工法等のような表面改質工法も提案されている。
【特許文献1】特開2002−121901号公報
【特許文献2】特開平08−260562号公報
【0004】
しかしながら、上述のような従来の技術によるひび割れ修復方法によれば、補修材料が、切削により発生する目視不可能な、幅が0.01mm程度以下の微細なひび割れ(マイクロクラック)には浸透できず、したがって、このようなマイクロクラックに対しては、打ち継いだコンクリートやモルタルの付着強度を増加させることができない。
【0005】
また、切削により発生するマイクロクラックは、切削表面に骨材が存在する場合、骨材の背面に、骨材とペーストの剥離を生じるような形で発生する。そして、上記特許文献に記載の補修材料は、このようなマイクロクラックに浸透して、骨材とペーストを接着させるような効果のある材料ではなかった。
【0006】
さらに、ザイペックス工法等のように、コンクリート表面を改質させてひび割れを修復し、緻密化させる方法では、劣化因子を遮断する効果を発揮するものではあるが、打ち継ぎ後の付着性状を向上させるものではなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような問題に鑑みてなされたもので、その技術的課題とするところは、コンクリート構造物の補修・補強工事の際に行われる切削作業によって生じる切削面近傍の損傷の修復方法、特に目視不可能な微細なひび割れの修復に有効な方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の技術的課題を有効に解決するための手段として、本発明に係るコンクリート構造物の修復方法は、コンクリート構造物の補修・補強工事において切削処理したコンクリート表面に、合成樹脂系溶剤とその硬化剤とを混合した、粘度が100mPa・s/20℃未満の2液混合式の接着性合成樹脂組成物を塗布し、所要の養生時間の経過後、前記接着性合成樹脂組成物の塗布面に、セメント系打ち継ぎ材を打ち継ぐことを特徴とするものである。なお、ここでいうセメント系打ち継ぎ材は、例えばコンクリートやモルタルのことである。
【0009】
上記方法において一層好ましくは、接着性合成樹脂組成物の塗布後、コンクリート表面に、前記接着性合成樹脂組成物の未硬化の塗布面を覆うようにシートを気密的に取り付け、前記塗布面との間の密閉空間を排気することによって、このシートを前記塗布面に密着させるものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明に係るコンクリート構造物の修復方法によれば、コンクリート構造物の切削面に塗布する接着性合成樹脂組成物が、100mPa・s/20℃未満のきわめて低粘度であるため、幅が0.01mm以下の目視不可能な微細なひび割れにも良好に浸透され、その結果、セメント系打ち継ぎ材との付着強度を増大させることができる。
【0011】
また、請求項2の発明に係るコンクリート構造物の修復方法によれば、接着性合成樹脂組成物をより深く浸透させることができ、塗布しただけでは微細なひび割れへの浸透が困難な温度条件下でも、良好に浸透させて、セメント系打ち継ぎ材との付着強度を増大させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係るコンクリート構造物の修復方法の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、既設のコンクリート構造物の一部を示す断面図、図2は、既設のコンクリート構造物の表面を切削(はつり)処理した状態を示す断面図、図3は、既設のコンクリート構造物の切削面に接着性合成樹脂組成物を塗布した状態を示す断面図、図4は、既設のコンクリート構造物の微細なひび割れに接着性合成樹脂組成物が浸透した状態を示す断面図、図5は、接着性合成樹脂組成物の塗布面に、セメント系打ち継ぎ材を打ち継いだ状態を示す断面図である。
【0013】
図1において、参照符号1は、セメント及び砂によるコンクリートペースト11と粗骨材12からなる修復対象の既設コンクリート構造物、11aは、コンクリートペースト11の表層部に生じた劣化又は損傷による不健全部である。
【0014】
セメント系打ち継ぎ材料(例えばコンクリート)の打ち継ぎによるコンクリート構造物1の修復に先立って、このコンクリート構造物1の表層部における不健全部11aは、まずウォータージェット工法や、ブレーカ工法、スパイキーハンマー工法等、よく知られた工法による切削処理(はつり)を行って除去する。そしてこのような切削処理によって、コンクリート構造物1の表層部には、図2に示されるように、切削面1aから、幅が0.01mm程度以下の目視不可能な微細なひび割れ(以下、マイクロクラックという)1bが無数に発生する。このマイクロクラック1bは、切削面1aに粗骨材12が露出した部分では、粗骨材12とコンクリートペースト11の剥離を生じるような形で延びている。
【0015】
本発明に係るコンクリート構造物の修復方法は、このようなマイクロクラック1bを修復するため、切削面1aに、図3に示されるように接着性合成樹脂組成物2を塗布する。接着性合成樹脂組成物2は、エポキシ、アクリル、あるいはウレタンから選択された合成樹脂系溶剤と、その硬化剤による2液混合式のものであって、混合後の粘度が100mPa・s/20℃未満の、きわめて低粘度となっている。
【0016】
なお、接着性合成樹脂組成物2の粘度は、キシレンなどの溶剤で希釈したり、硬化剤の配合を調整することによって100mPa・s/20℃未満とすることができる。
【0017】
また、接着性合成樹脂組成物2の塗布方法は、コテ塗り、刷毛塗り、ローラ塗り、あるいは噴霧など、コンクリート構造物1の修復部の表面形状や部位によって適切に選択される。
【0018】
上述のように、接着性合成樹脂組成物2は、100mPa・s/20℃未満のきわめて低粘度で、表面張力が小さいため、濡れ性が良く、幅が0.01mm以下の目視不可能なマイクロクラック1bにも、毛細管現象によって良好に浸透される。なお、粘度が100mPa・s/20℃以上では、幅が0.01mm以下のマイクロクラック1bに浸透させることが困難である。
【0019】
接着性合成樹脂組成物2の塗布後、所定の養生時間(例えば2時間程度)が経過して所要の接着強度が発現されたら、この接着性合成樹脂組成物2の塗布面に、図5に示されるように、コンクリート又はモルタル等、セメント系補強材3を打ち継ぐ。打ち継がれたセメント系補強材3は、セメント系補強材3とよく接合され、このセメント系補強材3を介してコンクリート構造物1と一体化され、これによってコンクリート構造物1が補修・補強される。
【0020】
次に図6及び図7は、本発明に係るコンクリート構造物の修復方法において、マイクロクラック1bへの接着性合成樹脂組成物の浸透を一層確実に行うための方法を示すものであって、図6は、接着性合成樹脂組成物の塗布面とシートとの間の密閉空間を排気する工程を示す断面図、図7は、排気によってシートが接着性合成樹脂組成物の塗布面に密着した状態を示す断面図である。
【0021】
すなわち、この場合、先に説明した図3に示されるように、コンクリート構造物1の切削面1aに、接着性合成樹脂組成物2を塗布したら、図6に示されるように、塗布された未硬化の接着性合成樹脂組成物2を覆うように、可撓性を有する柔軟な合成樹脂からなるシート4を取り付ける。シート4の周縁部は、不図示の適当なシール材によって、コンクリート構造物1との隙間をなくす。また、シート4には孔が開設されていて、この孔には、チューブ5を介して真空ポンプ6が接続される。
【0022】
次に、真空ポンプ6を駆動させて、シート4の内側の密閉空間Sを排気することによって、図7に示されるように、このシート4が、その外側から作用する大気の圧力によって、未硬化の接着性合成樹脂組成物2の塗布面に密着する。そして、このように密閉空間Sを真空引きすることで、マイクロクラック1b内の残存空気が排除されるので、接着性合成樹脂組成物2をマイクロクラック1bへ良好に浸透させることができる。
【0023】
その後は、シート4やチューブ5及び真空ポンプ6を取り外して、先に説明した図5のように、セメント系補強材3を打ち継ぐ。
【0024】
表1は、本発明の効果を検証するための試験結果を示すものである。この試験において、比較例1は、既設コンクリート構造物の表層部に劣化部分がないために、表面を切削せずにコンクリートを打ち継いだ場合であり、比較例2は、既設コンクリート構造物の表面を切削した後、合成樹脂組成物を塗布せずにコンクリートを打ち継いだ場合であり、比較例3は、既設コンクリート構造物の表面を切削した後、従来のエポキシ系合成樹脂組成物を塗布してからコンクリートを打ち継いだ場合であり、実施例は、本発明の方法でコンクリートを打ち継いだ場合であり、それぞれについて、既設コンクリート構造物と打ち継いだコンクリートとの付着強度を測定したものである。なお、既設コンクリート構造物(母材)および打ち継いだコンクリートの圧縮強度は30N/mm2程度であった。
【0025】
【表1】

【0026】
この試験結果から、切削を行わない比較例1では、コンクリートの損傷が無いため、大きな引張強度が得られているが、比較例2及び比較例3では、切削によるマイクロクラックの発生により、コンクリート打ち継ぎ後の付着強度が、比較例1に比較して1/2以下となっていることがわかる。これに対し、本発明(実施例)によれば、マイクロクラックが修復されることによって、比較例2及び比較例3よりも付着強度が30%以上増加していることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るコンクリート構造物の修復方法において、既設のコンクリート構造物の一部を示す断面図である。
【図2】本発明に係るコンクリート構造物の修復方法において、既設のコンクリート構造物の表面を切削(はつり)処理した状態を示す断面図である。
【図3】本発明に係るコンクリート構造物の修復方法のにおいて、既設のコンクリート構造物の切削面に接着性合成樹脂組成物を塗布した状態を示す断面図である。
【図4】本発明に係るコンクリート構造物の修復方法において、既設のコンクリート構造物の微細なひび割れに接着性合成樹脂組成物が浸透した状態を示す断面図である。
【図5】本発明に係るコンクリート構造物の修復方法において、接着性合成樹脂組成物の塗布面に、セメント系打ち継ぎ材を打ち継いだ状態を示す断面図である。
【図6】本発明に係るコンクリート構造物の修復方法において、接着性合成樹脂組成物の塗布面とシートとの間の密閉空間を排気する工程を示す断面図である。
【図7】本発明に係るコンクリート構造物の修復方法において、図6に示される排気によってシートが接着性合成樹脂組成物の塗布面に密着した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 コンクリート構造物
1a 切削面
1b マイクロクラック(微細なひび割れ)
11 コンクリートペースト
11a 不健全部
12 粗骨材
2 接着性合成樹脂組成物
3 セメント系補強材
4 シート
5 チューブ
6 真空ポンプ
S 密閉空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の補修・補強工事において切削処理したコンクリート表面に、合成樹脂系溶剤とその硬化剤とを混合した、粘度が100mPa・s/20℃未満の2液混合式の接着性合成樹脂組成物を塗布し、所要の養生時間の経過後、前記接着性合成樹脂組成物の塗布面に、セメント系打ち継ぎ材を打ち継ぐことを特徴とするコンクリート構造物の修復方法。
【請求項2】
接着性合成樹脂組成物の塗布後、コンクリート表面に、前記接着性合成樹脂組成物の未硬化の塗布面を覆うようにシートを気密的に取り付け、前記塗布面との間の密閉空間を排気することによって、このシートを前記塗布面に密着させることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造物の修復方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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