説明

コンクリート構造物加工装置

【課題】 ウォータージェットによる加工作業においては、コンクリート構造物に水を高圧で噴出させて破砕させることから、コンクリート構造物の破砕によって生成される表面研掃廃材を作業者が吸引してしまう環境下にある。表面研掃廃材は、アルカリ性が強く作業者の健康に影響を及ぼす問題が生じていた。
【解決手段】 高圧水を噴出させてコンクリート構造物の加工を行うウォータージェット噴出装置において、遠隔操作によりウォータージェット噴出装置を移動してコンクリート構造物の加工を行うための装置であって、該ウォータージェット噴出装置を水平方向にスライド可能及び上下に回動可能に支持した支持装置をマストに昇降可能に設けると共に、該マストをパワーショベルのアームに昇降可能に支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォータージェット噴出装置による斫り(ハツり)、表面目荒らし、削孔などコンクリート構造物の加工を目的とした装置の改良に関し、特に高所や低所での使用に適した構造に関する。

【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の破砕や剥離の手段として、従来ではエアハンマーやピックハンマーなどが使用されていた。しかしながら、これらの斫り工具は粉塵や騒音の発生など環境面で大きな問題を有していた。このような観点から近時では高圧水を噴射させるウォータージェットが広く利用されている。ウォータージェットは、約100〜300MPaに加圧した水を小径の噴出口から噴出させることによって、斫り、表面目荒らし、削孔、切断等の加工を行う装置である。
【0003】
ウォータージェットによってコンクリート構造物を斫る装置としては、例えば特許文献1に示すウォータージェット噴射ノズル装置がある。ウォータージェットによる加工作業は、騒音の発生がほとんどなく、しかも振動もでないので作業者の負担も軽減できる効果がある。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−025293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ウォータージェットによる加工作業においては、コンクリート構造物に水を高圧で噴出させて破砕させることから、コンクリート構造物の破砕によって生成される表面研掃廃材を作業者が吸引してしまう環境下に置かれる。このため、強アルカリ性の表面研掃廃材によって作業者の健康に影響を及ぼす問題が生じていた。
【0006】
特に、橋脚の補強工事などの高所作業では、足場を組んでの作業となるため、作業スペースが制約され、ウォータージェットの飛沫を浴びながら作業をせざるを得ない状況となっていた。また、工事現場においては、ウォータージェットの飛散防止シートを設けなければならない場合もあり、表面研掃廃材の吸引が避けられない作業環境になってしまう。

【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は上記課題に鑑み鋭意研究した結果、本発明を成し得たものであり、その特徴とするところは、高圧水を噴出させてコンクリート構造物の加工を行うウォータージェット噴出装置において、遠隔操作によりウォータージェット噴出装置を移動してコンクリート構造物の加工を行うための装置であって、該ウォータージェット噴出装置を水平方向にスライド可能及び上下に回動可能に支持した支持装置をマストに昇降可能に設けると共に、該マストをパワーショベルのアームに昇降可能に支持したことにある。
【0008】
本明細書中でいう「マスト」とは、パワーショベルのアームに昇降可能に設けた部材をいう。パワーショベルはクローラ式やタイヤ式の走行装置にブームを回動可能に設け、ブームの先端にアームを回動可能に設けた構造であり、アームに掘削バケットなどの各種バケットを取り付けて作業を行う。本発明においては、パワーショベルのアームにマスト昇降装置を取り付けてマストを昇降させる。マスト昇降装置は、マストを昇降可能に支持するローラを設けると共に、マストを昇降させる電動モータや油圧モータを備えている。
【0009】
マストの昇降手段は特に限定するものではなく、ラックとピニオン、シリンダ、ワイヤなどによって昇降させる。本発明においては、ウォータージェット噴出装置をマストに昇降可能に設けると共に、マスト自体を昇降させる構造としたことにより、上下方向の広い範囲での作業が行える。また、マスト昇降装置をパワーショベルのバケットに設けていることから、例えば、橋脚の台座が張り出している場合など、マストの下端部が邪魔になりやすい環境でも、マストを上昇させパワーショベルのアームを延ばして橋脚の周面に沿ってマストを近づけることができ、作業範囲が制約されることなく作業を進めることができる。
【0010】
マストには、ウォータージェット装置を水平方向にスライド可能に支持した支持装置を昇降可能に設ける。支持装置の昇降手段はマスト昇降装置と同様でよい。支持装置をマストの最下端に降ろしマストを下降させることで、パワーショベルのブームを下げることなくグランドレベルやそれより低い箇所でのコンクリート構造物の加工作業も可能となる。
【0011】
支持装置におけるウォータージェット装置の水平移動手段もマスト昇降装置と同様でよく、駆動輪をレールに転動させる方法でもよい。また、マストの上部にはマスト保持具を設けるのが好ましい。これは、ウォータージェット装置を作業面との距離をほぼ一定に保持することと、マストやパワーショベルの移動時にウォータージェット装置の損傷を防止する目的で設ける。マスト保持具としては、ウォータージェット装置の噴射ノズルと作業面との距離を一定にする位置決めとする他、作業面に吸着させる吸着具を設けてウォータージェットの噴射の反動でマストが作業面から離反しないようにしてもよい。
【0012】
本発明に係るコンクリート構造物加工装置は、ウォータージェット噴出装置によるコンクリート構造物の斫り、表面目荒らし、削孔、切断等の加工に際し、ウォータージェット噴出装置の昇降、水平移動、パワーショベルの移動を遠隔操作することによって、高所や低所での斫り作業を安全確実に行うものである。これらの操作は手動による遠隔操作の他、近接センサやタイマ制御等によるシーケンス制御等による自動化を図ることも可能である。

【発明の効果】
【0013】
本発明に係るコンクリート構造物加工装置は、マストにウォータージェット噴出装置を昇降可能に支持すると共に、該マストを昇降可能としたことにより、高所のみならずグランドレベルより下方の作業も容易に行うことができる。また、マストを介してウォータージェット噴出装置を昇降させるため、ウォータージェット噴出装置と作業壁面との間隔が一定に保持され、広範囲に安定した斫り、表面目荒らし、削孔、切断等の作業を行うことができる。
【0014】
さらに、本発明に係るコンクリート構造物加工装置は、近接センサやタイマ制御等によりウォータージェット噴出装置の遠隔操作や自動化により、作業者がウォータージェットの飛沫に曝されることなくコンクリート構造物の加工作業を行うことができるなど実用上極めて有益な効果を有するものである。

【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は本発明に係るコンクリート構造物加工装置の正面図、(b)は側面図、(c)はマストに取り付けたマスト保持具の平面図である。(実施例1)
【図2】本発明に係るコンクリート構造物加工装置の使用状態の一例を示す側面図である。
【図3】マストと支持装置の昇降構造の部分拡大図である。
【図4】(a)は支持装置の正面図、(b)は(a)の平面図、(c)は(a)の側面図、(d)は支持装置にカバーを設けた状態の側面図である。
【図5】支持装置に削孔機を取り付けた例を示すもので、(a)は正面図、(b)は側面図である。(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係るコンクリート構造物加工装置は、ウォータージェット噴出装置を水平方向にスライド可能及び上下に回動可能に支持した支持装置をマストに昇降可能に設けると共に、該マストをパワーショベルのアームに昇降可能に支持し、遠隔操作によりウォータージェット噴出装置を操作させることで、上記課題を解決した。

【実施例1】
【0017】
図1(a)(b)は、本発明に係るコンクリート構造物加工装置1の一実施例を示すもので、ウォータージェット噴出装置2の支持装置3を昇降可能に支持したマストMを、パワーショベルPのアームAに昇降可能に設けた構造である。ウォータージェット噴出装置2は、同図(a)のように支持装置3に鉛直方向に取り付けることによって天井面の斫り、表面目荒らし、削孔等の作業を行う。そして、同図(b)のように支持装置3に水平方向に取り付けて壁面の斫り、表面目荒らし、削孔等の作業を行う。同図(b)(c)は、マスト保持具4をマストMに設けた例であり、先端に設けた吸着具で壁面とマストMの間隔を保持させている。
【0018】
コンクリート構造物加工装置1の使用状態として、高架道5の支柱6を斫り、表面目荒らし、削孔する場合の実施例を図2に示す。支柱6の表面をウォータージェットで斫って表層を剥離することにより、メンテナンスや鋼板巻きなど免震構造に転換する。このような高所作業の場合、本発明装置1では足場を組むことなく遠隔操作で斫り、表面目荒らし、削孔等の作業を行うことができ、ウォータージェットの飛沫を浴びたりせず、落下の危険性もなく安全に作業を進めることができる。また、本発明に係るコンクリート構造物加工装置1は、マストMにウォータージェット噴出装置2を昇降可能に設けると共に、マストM自体をパワーショベルPのアームAに昇降可能に設けているため、図のようにグランドレベルより下方での加工作業も容易に行うことができる。
【0019】
ウォータージェット噴出装置2を設けた支持装置3は、図3に示すようにマストMにローラ31で支持し、マストMに設けたラック32にピニオンギア33をモータ駆動して昇降させている。マストM自体の昇降構造も同様でパワーショベルPのアームAに設けたローラ31でマストMを支持し、ラック32とピニオンギア33で昇降させる。
【0020】
図4(a)(b)(c)に示すように支持装置3は、断面正方形のレール34を設けており、レール34に転動させる駆動輪35を備えた支持台36にウォータージェット噴出装置2を設けている。本例の支持装置3は、同図(a)(d)のようにウォータージェット噴出装置2がレール34に沿って移動する範囲をカバー37で覆っており、ウォータージェットの飛散を防止している。

【実施例2】
【0021】
高架道5における支柱6の補強工事においては、ウォータージェットで表層を剥離や目荒らしする他、鉄筋を差し込むために削孔しなければならない場合もある。例えば、図5(a)(b)に示すように支持装置3のレール34に削孔機7を取り付けることで、高所や低所での削孔作業も容易に行うことができる。本例の削孔機7はウォータージェットで掘削するもので、掘削しながらスプリング71に抗して押し込むことによって、深い孔を掘削することができる。

【符号の説明】
【0022】
1 コンクリート構造物加工装置
2 ウォータージェット噴出装置
3 支持装置
31 ローラ
32 ラック
33 ピニオンギア
34 レール
35 駆動輪
36 支持台
37 カバー
4 マスト保持具
5 高架道
6 支柱
7 削孔機
M マスト
P パワーショベル
A アーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧水を噴出させてコンクリート構造物の加工を行うウォータージェット噴出装置において、遠隔操作によりウォータージェット噴出装置を移動してコンクリート構造物の加工を行うための装置であって、該ウォータージェット噴出装置を水平方向にスライド可能及び上下に回動可能に支持した支持装置をマストに昇降可能に設けると共に、該マストをパワーショベルのアームに昇降可能に支持したことを特徴とするコンクリート構造物加工装置。
【請求項2】
マストは、水平にしたウォータージェット噴出装置の先端より突出するマスト保持具を設けた請求項1記載のコンクリート構造物加工装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−58280(P2011−58280A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209906(P2009−209906)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(503360229)
【Fターム(参考)】