説明

コンクリート系防護柱構造及び防護柱構造物

【課題】沿岸構造物等を船舶等の漂流物から防護するコンクリート系防護柱において、フレキシブルで変形性能の高い柱部材で漂流物に損傷を与えず、柱部材も倒壊せず、漂流物を捕捉でき、比較的簡単な構造で施工性の良い防護柱を構築でき、様々な大きさの漂流物をその損傷を抑制しつつ効果的に捕捉できるようにする。
【解決手段】UFC等の高性能繊維補強コンクリートとアンボンドPC鋼材を用いたD型中空プレキャストPC柱1を沿岸構造物Aの海側の基礎B上に沿岸構造物Aに沿って所定の間隔をおいて一列または複数列で配置し、D型の曲線部は海側に向くように設置し、曲げ剛性・曲げ耐力が小さく、変形性能の大きいPC柱1により、漂流物に損傷を与えることなく、防護柱も倒壊させることなく、漂流物を捕捉する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンク施設や発電施設等の沿岸構造物、あるいは海や河川に設置される橋脚等の水上構造物を船舶などの漂流物から防護するコンクリート系防護柱構造及び防護柱構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
世界有数の地震国であり、かつ、周囲を海に囲まれている我が国では、海底を震源とする規模の大きなプレート境界型地震が発生するたびに、大規模な津波による災害に見舞われてきた。津波時には、港湾内に係留されている船舶などが漂流物となり、津波と共に沿岸構造物に押し寄せることが考えられる。過去の大規模な津波災害でも、漂流物が沿岸構造物に衝突することにより、両者に著しい損傷が発生することが確認されている。我が国では、沿岸地域に、石油・ガスなどのタンク施設、プラント、火力・原子力による発電施設などが建設されており、津波時にそれらが漂流物により損傷することは、有害物質の流出、大規模火災などの二次災害に繋がると共に、災害後の速やかな復旧を困難とし、経済的な損失を拡大することになる。また、漂流物となる船舶等も沿岸構造物に衝突し、損傷することにより、災害後の復旧の遅延、経済的損失の拡大に繋がる。
【0003】
従来技術としては、例えば特許文献1、2がある。
【0004】
(1)特許文献1の発明は、津波による漂流物を捕捉する構造物であり、支柱と支柱間に配置したスクリーンにより構成される構造物で、津波そのものを阻止するものでなく、津波による漂流物を捕捉することを目的としている。スクリーンは、緩衝機能と捕捉機能、水を透過することが可能な透過機能を有している。
【0005】
(2)特許文献2の発明は、漂流物が衝突した際の衝撃力を効果的に緩衝する水上緩衝構造物であり、水を透過させない膜材により有底の筒形状の内部に水を充填した状態で沿岸構造物の周囲に設置することにより、漂流物が衝突した際の緩衝材として機能させるものである。
【0006】
【特許文献1】特開2006−83659号公報
【特許文献2】特開2004−360304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の発明では、漂流物に対するスクリーンを複数の支柱間に張ったケーブルで支持する構造が採用されている。この場合、スクリーンにおける海水の透過率にもよるが、スクリーンに作用する波力、漂流物の衝突力が支柱およびケーブルに集中するため、支柱およびケーブルに必要とされる変形性能・耐力が大きくなる。特に2本の支柱とスクリーンによる構造の場合、支柱間のスクリーンに作用する力が2本の支柱に集約されるため、その断面規模が大きくなることが考えられる。一方、支柱とスクリーンを接続するケーブルにも大きな引張耐力が必要とされることから、太径のケーブルとなったり、本数が増えたりする可能性がある。ケーブルの径や本数が増えることは、定着部の増加に繋がり、施工性や経済性の観点からは得策ではない。また、沿岸地域におけるケーブルの腐食についても問題となる。
【0008】
特許文献2の発明では、岸壁や護岸などの水中に面している構造物の表面にしか設置できないため、タンク等の常時は陸上にあり、津波時に水中に没するような沿岸構造物の表面には設置することができない。
【0009】
本発明は、沿岸構造物や水上構造物を船舶などの漂流物から防護するコンクリート系防護柱において、フレキシブルで変形性能の高い柱部材により、船舶などの漂流物に損傷を与えることなく、かつ、柱部材も倒壊することなく、漂流物を捕捉することができ、また、比較的簡単な構造で施工性の良い防護柱を構築することができ、さらに、様々な大きさの漂流物をその損傷を抑制しつつ効果的に捕捉することができるコンクリート系防護柱構造及び防護柱構造物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1は、沿岸構造物(タンク施設や発電施設など)や水上構造物(海や河川内に設置された橋脚など)の手前の基礎上に立設されたコンクリート柱により沿岸構造物や水上構造物を漂流物から防護する防護柱構造であり、中空断面のコンクリート柱部材に高性能繊維補強コンクリートとアンボンドPC鋼材を用いることにより、曲げ剛性・曲げ耐力を小さく、変形性能を大きくしたPC柱(プレストレストコンクリート柱)を基礎に定着して構成されていることを特徴とするコンクリート系防護柱構造である(図1、図3等参照)。
【0011】
本発明は、フレキシブルかつ大きな変形性能を有するPC柱で漂流物を捕捉するものである。その際、一つの漂流物に対して、複数のPC柱が接するように配置間隔や列数などを設定し、PC柱一本に作用する衝突力が小さくなるようにする。
【0012】
PC柱は、その曲げ剛性・曲げ耐力を対象とする漂流船舶等の耐力−変位関係(圧壊−凹みの関係等)よりも小さくする(図2参照)。これにより、漂流物が衝突した際の漂流物に作用する衝撃力を緩和し、その損傷を低減する。一方、PC柱の構造特性は、変形性能を大幅に向上させ、漂流物の衝突エネルギーをPC柱の塑性変形エネルギーで吸収する。PC柱に導入されるプレストレスは、常時の剛性を高めるため、柱高さが高くなった場合でも振動などの問題や製作後の運搬において有利に作用する。
【0013】
PC柱には、(1)断面中空のプレキャスト部材を用い、(2)高性能繊維補強コンクリート(超高強度繊維補強コンクリートUFC、あるいは、高じん性FRCのECC等)を全体的に、あるいは基部のみ限定的に用い、(3)アンボンドPC鋼材を用いることにより、後に詳述するように、曲げ剛性・曲げ耐力が小さくフレキシブルで、変形性能の大きいPC柱による防護柱構造が得られる。プレキャスト部材を用いることで施工性等が向上する。なお、PC柱の最大耐力・剛性・変形能力は、対象とする船舶などの漂流物の規模(使用衝突力と損傷の関係など)に応じて設定し、断面の諸元、配置方法などを決定する。
【0014】
本発明の請求項2は、請求項1に記載の防護柱構造において、PC柱の水平断面形状がD字状であり、その曲線部が漂流物側(海側など)に位置していることを特徴とするコンクリート系防護柱構造である(図1等参照)。
【0015】
D型中空プレキャストPC柱を用い、その曲線部を漂流物に向けて配置することにより、後に詳述するように、津波等による波力の低減、漂流物への局所的な衝突力集中や損傷の低減、構造物側の直線部分を大きくすることによる変形性能の向上等が図られる。
【0016】
本発明の請求項3は、請求項1または請求項2に記載の防護柱構造において、PC柱内に一端を定着したアンボンドPC鋼材の他端が基礎内に定着されていることを特徴とするコンクリート系防護柱構造である(図4参照)。
【0017】
このようなアンボンドPC鋼材を用いれば、後に詳述するように、曲げ変形によるひずみの平滑化、局所的なひずみの集中の抑制により、部材剛性が小さくフレキシブルで変形性能の高いPC柱が得られる。さらに、D型の曲線部に海側から曲線状にアンボンドPC鋼材を配置することで、海側から順番に降伏していくため、緩やかな剛性の低下が得られ、漂流物の衝突直後におけるPC柱の変形量の瞬間的な増加を抑制することができる。
【0018】
本発明の請求項4は、請求項1から請求項3までのいずれか1つに記載の防護柱構造において、PC柱の下部の圧縮側にPC柱を漂流物衝突方向に回転自在に支持する回転装置(橋梁に用いられる回転支承など)が設けられていることを特徴とするコンクリート系防護柱構造である(図4参照)。
【0019】
柱の変形性能が足りない場合に回転装置を付加するものであり、後に詳述するように、その設置位置が回転中心となるため、安定して曲げ圧縮力を負担でき、アンボンドPC鋼材の破断までPC柱の水平耐力を安定して維持でき、また断面中心に近く配置されることで、PC柱の曲げ耐力・剛性を低下させ、変形性能を増加できる。
【0020】
本発明の請求項5は、請求項1または請求項2に記載の防護柱構造において、PC柱の下部が基礎に形成された設置孔に差し込まれていることを特徴とするコンクリート系防護柱構造である(図5参照)。
【0021】
PC柱を差し込み式で設置する場合であり、差込設置後、空隙部に無収縮モルタルなどを充填して固定する。簡単に設置できると共に、基礎に強固に定着させることができる。後に詳述するように、PC柱の基部には、差し込み時の受け部材としてハンチ部を設け、曲げ変形時には、ハンチ部の上部で曲げ変形させることで、PC柱下部の差し込み部の損傷を防止する。
【0022】
本発明の請求項6は、沿岸構造物や水上構造物の手前の基礎上に立設された複数本のコンクリート柱により沿岸構造物や水上構造物を漂流物から防護する防護柱構造物であり、請求項1から請求項5までのいずれか1つに記載のPC柱が沿岸構造物や水上構造物に沿って間隔をおいて配置されていることを特徴とするコンクリート系防護柱構造物である(図1参照)。
【0023】
複数のPC柱を適宜の間隔で配置した列状構造物により船舶などの漂流物を効果的に捕捉することができる。また、1本のPC柱に作用する力を軽減することができる。例えば、横向きの漂流物に対しては、平行配列の複数のPC柱で抵抗することができる。縦や斜めの漂流物に対しては、進入する漂流形状に合わせてPC柱が変形し、その後に複数のPC柱で抵抗することができる。
【0024】
本発明の請求項7は、請求項6に記載の防護柱構造物において、PC柱が複数列で配置され、各列で断面の大きさが異なることを特徴とするコンクリート系防護柱構造物である(図6参照)。
【0025】
例えば、海側の最前列からPC柱断面寸法(曲げ耐力・剛性、変形性能)を漸次大きくした数種類のPC柱を複数列配置することにより、後に詳述するように、一連のPC柱群で様々な大きさの漂流物に対応することができる。
【0026】
また、PC柱を大きな間隔で1列配置し、柱間をワイヤーやPC鋼より線等の線材で接続することによっても、様々な大きさの漂流物を捕捉することができる(図7参照)。
【0027】
以上のような本発明において、一つの漂流物を複数のPC柱で捕捉することにより、一本のPC柱に作用する波力、漂流物の衝突力を緩和することができる。船舶等が横向きに漂流して衝突する場合には、一つの漂流物に複数のPC柱が接することにより、一本のPC柱に作用する力を軽減することができる。一方、船舶等が縦向きに漂流してくる場合には、PC柱の海側の断面が滑らかな曲線形状で、かつ、PC柱が大きく変形することにより、漂流物が複数のPC柱に接する。また、PC柱の配列数を複数とすれば、仮に最前列の防護柱が倒壊した場合でも、2列目の柱が引き続き変形し、最前列で吸収しきれなかった衝突エネルギーを吸収できる。
【0028】
漂流物の沿岸構造物に対する衝突を回避するためには、到達前にその運動エネルギーを消滅させる必要がある。本発明では、その運動エネルギーをPC柱が変形する時に消費されるエネルギー量(塑性変形エネルギー、荷重−変位曲線が囲む面積に相当)で吸収する。このとき、一定の吸収エネルギー量(荷重−変位曲線が囲む面積)を確保するためには、衝突時のPC柱の荷重を増加させるか、変形を許容する方法がある。荷重を増加させる方法では、PC柱の変形は小さくなるが、反力として漂流物へ作用する衝突力が大きくなり、漂流物の損傷が大きくなる可能性がある。
【0029】
そこで、本発明では、PC柱の最大曲げ耐力・曲げ剛性を小さくし、変形性能を増加させることにより、衝突時にPC柱が吸収できるエネルギー量を確保することを想定する。例えば、図2に示すように、PC柱の最大耐力や初期剛性を船舶等の衝突部分で許容される衝突力や剛性(凹み−衝突荷重の関係等)よりも小さくすれば、衝突時に漂流物の損傷が許容レベルよりも大きくなることは無い。また、PC柱の変形性能が、漂流物の許容損傷レベルにより決定した荷重に対して必要とされる変形量よりも大きければ、PC柱も倒壊することなく漂流物の捕捉を実現できる。漂流物への損傷の軽減は、災害復旧後の漂流物の使用性を確保する上で有意であり、本発明によれば、防護される沿岸構造物と漂流物の両方において、災害直後の使用性を確保することができる。
【0030】
本発明の上記の性能を実現できる構造形式としては、高性能材料を限定的に用いたプレキャストPC柱部材が好ましい。高性能材料とは、圧縮強度が高いコンクリート又はモルタル内に、鋼繊維、炭素繊維、ガラス繊維、あるいはビニロン繊維などが混入された材料である。このような高性能材料としては、高い圧縮強度だけではなく、曲げ強度・じん性も期待できる超高強度繊維補強コンクリート又はモルタル(圧縮強度が100〜250 N/mm、曲げ引張強度が10〜40 N/mm、引張強度が5〜15 N/mmのもの、以下UFCと称する)が好ましい。また、圧縮強度は普通コンクリートレベルであるが、伸び・曲げ変形性能が著しく高い、高じん性FRC(曲げ引張強度が10〜40 N/mm、引張強度が5〜15 N/mmのもの、以下ECCと称する)などを用いることもできる。
【0031】
PC柱の断面形状はD型中空断面で、アンボンドPC鋼材によるポストテンション方式でプレストレスを導入したプレキャストPC部材が好ましい。断面形状D型でその曲面を海側へ向けることにより、押し寄せる津波によりPC柱に作用する波力を低減することができる。また、漂流物にPC柱の角部が接触しないようにし、漂流物への局所的な衝突力の集中や損傷を抑制できる。さらに、D型の直線部分が陸側となることにより、津波により曲げ圧縮応力が作用する部分の面積を大きくすることができ、変形性能を高めることができる。内部は中空とすることにより、部材剛性を低減すると共に、後述するUFCの使用量を低減して経済性を高めることができる。また、部材重量も軽減できるため、プレキャスト部材とした場合の施工性を向上させることができる。
【0032】
一方、PC鋼材としてアンボンドPC鋼材を用いれば、曲げ変形時にPC柱基部における曲げ変形によるひずみが柱高さ方向に平滑化されるため、PC柱の変形が伸展した状態でも局所的なひずみの集中を抑制することができる。アンボンドPC鋼材のひずみの平滑化は、部材の剛性を小さくしフレキシブルな柱部材を構築する上で有意であり、かつ、鋼材のひずみの局所化が防げるため、降伏・破断を遅らせ、PC柱の変形性能を高めることができる。また、D型断面の曲線部に最外縁から曲線状にPC鋼材を配置することにより、最外縁から順番にPC鋼材が降伏していくため、最外縁鋼材の降伏後も急激に剛性が失われること無く、漂流物の衝突直後におけるPC柱の変形量の瞬間的な増加を抑制することができる。
【0033】
PC部材の基部から部材軸方向に一定区間を構成する材料をUFC等の高性能繊維補強コンクリートとすることにより、小さな断面積で大きな圧縮力を負担できるため、断面の規模を小さくできると共に、圧縮側断面の圧壊を抑制して変形性能を増加させることができる。断面の規模を小さくすることは、PC柱の剛性を小さくし、フレキシブルな部材とする上で重要である。
【0034】
この構造では、UFC部が直接、曲げ圧縮応力を負担するが、中立軸が変形の増加と共に、圧縮軸側へ移動するため圧縮面積が小さくなり、同部分に作用する曲げ圧縮応力が大きくなる。UFCは圧縮強度や終局時の圧縮ひずみが大きい材料であるため、普通コンクリートに比べると、かなり大きな変形まで曲げ圧縮応力を負担することができるが、それでも要求される変形性能が足りない場合に回転装置の適用が有意となる。例えば、プレキャストPC柱の圧縮縁の下部に、橋梁に回転支承に代表されるような回転装置を設置すれば、回転装置の設置位置が回転中心となり、中立軸の位置が移動しないため、安定して曲げ圧縮応力を負担することができる。そのため、圧縮力に耐え得る回転装置を適用すれば、アンボンドPC鋼材の破断までPC柱の水平耐力を安定して維持することができる。また、回転装置の設置位置をPC柱の断面中心に近づければ、回転中心とアンボンドPC鋼材との距離が小さくなるため、PC柱の曲げ耐力・剛性を低下させ、変形性能を増加することができる。但し、回転装置はコスト増に繋がる可能性があり、使用の是非については、要求される変形性能(PC柱の倒壊までの吸収エネルギー量)と経済性を考慮して決定するのが良い。
【0035】
PC柱は、プレキャストPC柱部材とし、2次製品の品質向上により柱部材全体を製作し、設置現場に運搬する。例えば、設置現場では、基礎に設置孔を設けておき、差し込み式でPC柱を設置した後、空隙部に無収縮モルタルなどの充填材を充填する。PC柱には、ロケットの羽のようにハンチ部を設けておき、差込設置時における受けとして利用する。また、曲げ変形時には、ハンチ部の上部で曲げ変形するようにし、PC柱の差し込み部の損傷を防ぐ構造とすることができる。さらに、プレキャスト部材とすることにより、仮に部材が損傷した場合でも比較的容易に交換可能となる。
【0036】
PC柱は、複数列配置することも想定される。この場合、海側となる最前列からPC柱の断面寸法、即ち、曲げ耐力・剛性・変形性能を変えたものを複数種類配置することができれば、一連のPC柱群で様々な漂流物に対応することができる。例えば、最前列に5tonクラスの漁船用、2列目に200GTクラスの船舶用、3列目に500GTクラスの船舶用のPC柱を設置した場合、漁船が漂流してきた場合には、最前列で、500GTクラスのタンカーが漂流してきた場合には、1、2列目のPC柱が倒壊するまでに吸収するエネルギーと、3列目のPC柱の塑性変形エネルギーの和によって、衝突エネルギーを吸収することができる。即ち、1つのPC柱群によって、何れの場合においても、漂流物の損傷を一定内に止めた上で、沿岸構造物への衝突を防護することができる。
【0037】
また、一列にPC柱を設置する場合でも、PC柱を大きな間隔で配置し、PC柱間をワイヤーやPC鋼より線などの線材で接続することによっても、レベルの異なる漂流物を一連のPC柱群で捕捉することができる。例えば、大型船舶用のPC柱を中型・小型船舶の寸法より大きな間隔で配置し、PC柱間をワイヤー等の線材を張る。これにより、小型・中型船舶は、ワイヤー等で捕捉し、その塑性変形で衝突エネルギーを吸収する。一方、大型船舶は、直接、PC柱に衝突し、前述したメカニズムでその衝突エネルギーを吸収する。ワイヤーやPC鋼より線の径(剛性)や降伏強度は、対象とする漂流物の規模により決定し、捕捉時に降伏しかつ破断しないレベルであることが望ましい。即ち、小型・中型船舶の捕捉時に船舶側に損傷を与えない程度の降伏強度・曲げ剛性を有し、衝突エネルギーを吸収できる程度の変形性能を有するものである。また、可能であれば、PC柱側の定着部にダンパー等を設置することができれば、より効率的な衝突エネルギーの吸収を実現することができる。また、常時においては、線材付きPC柱は、ガードレールや転落防止構造物、電柱等として活用可能である。
【発明の効果】
【0038】
本発明は、以上のような構成からなるので、次のような効果が得られる。
【0039】
(1)中空断面のコンクリート柱部材に高性能繊維補強コンクリートとアンボンドPC鋼材を用いることで、曲げ剛性・曲げ耐力が小さく、変形性能の大きいPC柱が得られ、フレキシブルで変形性能の高い防護柱により、船舶などの漂流物に損傷を与えることなく、かつ、防護柱も倒壊することなく、漂流物を捕捉することができる。
【0040】
(2)断面中空のプレキャストPC柱であり、比較的簡単な構造で施工性が良く、比較的低コストで性能の良好な防護柱を構築することができる。
【0041】
(3)断面中空のプレキャストPC柱を一列あるいは複数列で配置することにより、様々な大きさの漂流物をその損傷を抑制しつつ効果的に捕捉することができる。
【0042】
(4)既存の重要沿岸構造物等を津波時等における漂流物から安全に防護することができる。
【0043】
(5)防護柱は倒壊しないことから、災害後の沿岸構造物の早期機能復旧が可能となる。船舶などの漂流物への損傷が低減されることから、災害後における漂流物の早期使用復帰が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。この実施形態は、タンク施設等の沿岸構造物の防護柱に適用した例である。図1は、本発明のコンクリート系防護柱構造とその配置方法の一例を示す平面図である。
【0045】
図1に示すように、防護設備となるコンクリート柱に、D型中空プレキャストPC柱1を用い、このPC柱1を沿岸構造物Aの海側の基礎B上に沿岸構造物Aに沿って所定の間隔をおいて一列で配置する。D型の曲線部が海側に向くように設置する。
【0046】
一つの漂流物(船舶)Cに対し、複数のPC柱1が抵抗できる。横向きに漂流してくる漂流物Cに対しては、PC柱1の間隔を調節することにより、複数のPC柱1で抵抗することができる。一方、縦または斜めに漂流してくる漂流物Cについては、最初に衝突したPC柱1が変形することにより、漂流物Cが陸側にある程度進入し、PC柱1の抵抗力と漂流物Cの衝突力が釣り合った状態で捕捉するようにする。場合によっては、各PC柱1同士がケーブルで繋がれていても良い。この場合、PC柱−ケーブルで常時におけるガードレールの機能を付与することができる。
【0047】
また、海中に、対応する船舶の規模に応じた断面を有するPC柱群を設置することができれば、常時において航行する船舶の衝突防護設備としても活用できる。例えば、海や河川内に設置された橋脚や構造物の周囲に設置すれば、船舶の衝突事故に伴う損傷を防ぐことができる。また、D型中空プレキャストPC柱1は、曲げ耐力・剛性が小さく、変形性能の大きい柱部材であり、衝突した船舶の損傷も低減することができ、その機能を保護すると共に、乗員の安全をも確保することが可能となる。
【0048】
衝突する漂流物の損傷も軽減するためには、PC柱の曲げ耐力・剛性を小さくすると共に、変形性能を増加させ、フレキシブルな部材とする必要がある。フレキシブルな部材とすることにより、漂流物に作用する衝撃的な反力が軽減し、その損傷を軽減することができる。
【0049】
図2に示すように、D型中空プレキャストPC柱1の荷重−変位関係を漂流物Cの荷重変位関係よりも小さくすれば、衝突時に漂流物の損傷が許容レベルよりも大きくなることは無い。また、D型中空プレキャストPC柱1の変形性能が、漂流物の許容損傷レベルにより決定した荷重に対して必要とされる変形量よりも大きければ、PC柱も倒壊することなく漂流物の捕捉を実現できる。
【0050】
津波時に漂流物を捕捉する防護柱には、前述したように以下のような特性が要求される。(1)衝突した漂流物が損傷しないように、曲げ耐力・剛性が低く、フレキシブルであること、(2)変形性能が高く、津波時に完全に倒壊せず、水中に没しないこと、(3)施工が簡易でコストが低いこと。
【0051】
図3に示すように、高性能材料を限定的に適用したD型中空プレキャストPC柱1を採用することにより、上記3要件を満たすことができる。即ち、中空断面のUFC製プレキャスト部材2とアンボンドPC鋼材3を用いることで、曲げ耐力・剛性が小さく、高い変形性能を有する防護柱が得られる。津波時に漂流物が衝突しても倒壊せず、陸側に船舶等の漂流物Cを進入させない。また、衝突する漂流物Cの損傷も軽減される。
【0052】
PC柱1の基部のみに中空断面のUFC製プレキャスト部材2を適用することで、UFCの限定的な使用によるコストの低減が図れる。また、塑性ヒンジ区間におけるUFCの使用により変形性能が増加する。また、アンボンドPC鋼材の破断まで変形可能となる。
【0053】
D型中空プレキャストPC柱1は、海側の曲線部1aと陸側の直線部1bから構成されている。津波による波力を受け流す形状の曲線部1aにより、PC柱1に作用する波力を低減することができる。また、角部が無いことで漂流物への局所的な衝突力の集中や損傷を抑制できる。曲げ圧縮応力を負担する形状で厚い矩形断面の直線部1bにより、曲げ圧縮応力が作用する部分の面積を大きくすることができ、変形性能を高めることができる。
【0054】
また、D型で内部が中空であるため、部材剛性が低減され、フレキシブルなPC柱1が得られる。また、部材重量、UFC使用量が低減され、施工性・経済性が向上する。
【0055】
また、アンボンドPC鋼材3を用いれば、曲げ変形によるひずみの平滑化、局所的なひずみの集中の抑制により、部材剛性が小さくフレキシブルで変形性能の高いPC柱1が得られる。さらに、曲線部1aに海側から曲線状にアンボンドPC鋼材3を配置することにより、海側から順番にアンボンドPC鋼材3が降伏していくため、緩やかな剛性の低下が得られ、漂流物Cの衝突直後におけるPC柱1の変形量の瞬間的な増加を抑制することができる。
【0056】
図4に示すように、アンボンドPC鋼材3は、一端をPC柱1の上部に定着し、他端が基礎Bの内部に定着される。漂流物の衝突力によるPC柱1の曲げ・回転により、アンボンドPC鋼材3が伸びる。伸び量をδL、アンボンド区間をLとした場合、ひずみε=δL/εであり、ε>降伏ひずみεyで降伏し、ε>破断ひずみεuで破断する。
【0057】
ここで、PC柱1の曲げ圧縮応力は、UFC製プレキャスト部材2が直接負担するが、中立軸が変形の増加と共に、圧縮軸側へ移動するため圧縮面積が小さくなり、同部分に作用する曲げ圧縮応力が大きくなる。UFCは圧縮強度や終局時の圧縮ひずみが大きい材料であるため、かなり大きな変形まで曲げ圧縮応力を負担することができるが、それでも要求される変形性能が足りない場合、図4に示すような回転装置10を設置する。
【0058】
回転装置10は、橋梁の回転支承等を用い、PC柱1の陸側の下部に切欠き部を設け、この切欠き部に回転装置10を配置し、基礎BとPC柱1の下部を連結する。回転装置10の設置位置が回転中心となり、中立軸の位置が移動しないため、安定して曲げ圧縮応力を負担することができ、圧縮力に耐え得る回転装置10により、アンボンドPC鋼材3の破断までPC柱1の水平耐力を安定して維持することができる。回転装置10の設置位置をPC柱1の断面中心に近づければ、回転中心とアンボンドPC鋼材3との距離が小さくなるため、PC柱1の曲げ耐力・剛性を低下させ、変形性能を増加することができる。
【0059】
図5に示すように、D型中空プレキャストPC柱1は、差し込み式で基礎Bに設置することもできる。基礎Bには、1.0D(PC柱の外径)以上の深さの設置孔20を設けておき、基部のUFC製プレキャスト部材2の下部を設置孔20内に挿入し、空隙部に無収縮モルタル21を充填して定着させる。このD型中空プレキャストPC柱1の高さは、最大変形時でも、想定される津波に対して水中に没しない高さとする。
【0060】
基部のUFC製プレキャスト部材2の中間部の外周には、基礎Bの天端に載置されるUFC製ハンチ部22を設けておき、差込設置時における受けとして利用し、柱重量を保持させる。また、曲げ変形時には、ハンチ部22の直上で曲げ変形させ、UFC製プレキャスト部材2の差し込み部の損傷を避ける。回転装置10を用いる場合には、ハンチ部22とその上部を分離させる。
【0061】
図6に示すように、D型中空プレキャストPC柱1は、規模の異なるもの(断面寸法、即ち、曲げ耐力・剛性・変形性能が異なるもの)を陸側に向かって断面が漸次大きくなるように複数列配置することもでき、規模の異なる漂流物Cに対して一連のPC柱1による防護柱群で対応することができる。
【0062】
漁船レベルでは、1列目のPC柱1で捕捉し、小型PC柱群の塑性変形エネルギーで対応する。中型船舶では、2列目のPC柱1で捕捉し、小型PC柱群の倒壊までの吸収エネルギーと、中型PC柱群の塑性変形エネルギーで対応する。大型船舶では、3列目のPC柱1で捕捉し、小型PC柱群の倒壊までの吸収エネルギーと、中型PC柱群の倒壊までの吸収エネルギーと、大型PC柱群の塑性変形エネルギーで対応する。
【0063】
また、図7に示すように、PC柱1を1列とした場合でも、適切な特性を有するワイヤーやPC鋼より線などの線材30で柱間を繋ぐ構造とすることもでき、異なる規模の漂流物Cを一連のPC柱群で捕捉することができる。小型・中型船舶は、線材30で捕捉し、線材30の塑性変形に伴う吸収エネルギーで対応する。大型船舶は、直接、複数のPC柱1で捕捉し、PC柱1の塑性変形に伴う吸収エネルギーで対応する。
【0064】
線材30の端部はPC柱1の内部に配置した定着部31に定着させる。この定着部31に弾塑性ダンパー等のエネルギー吸収装置を設置すれば、より効率的な衝突エネルギーの吸収が可能となり、また小型・中型船舶の衝突後の部材交換が不要となる。
【0065】
以下に、幾つかの種々の漂流物に対する本発明のPC柱の具体的な適用例として、必要とされるPC柱の本数と諸元を表1に示す。なお、表1の諸元は、以下の仮定に基づいて算出している(図8参照)。
【0066】
(1)PC柱1の降伏時は、引張側の全てのアンボンドPC鋼材3の降伏時とする。
(2)PC柱1の終局時は、最外縁(海側)のアンボンドPC鋼材3の破断時とする。
(3)津波の速度(漂流物の速度)は、5m/secとする。
(4)PC柱1の断面形状は、断面の半分から引張側が半円形、圧縮側が矩形断面とする。
(5)アンボンドPC鋼材3は、引張側の半円形部分に3段に分かれて配置され、全区間にわたりアンボンド処理が施されている。
【0067】
(6)PC柱1の最大曲げ耐力は、漂流船舶の許容衝突力の半分とする。
(7)PC柱1の塑性変形は、[漂流物の運動エネルギー=衝突時の漂流物の変形により吸収されるエネルギー量+PC柱の変形により吸収されるエネルギー量]の関係より算出する。
(8)PC柱1の高さは、[漂流物の高さ+PC柱の根入れ深さ(3m)]とする。
(9)PC柱1は、漂流物1隻に対し表1中のN本が一体となって漂流物に抵抗する。
なお、UFC部の厚さは、断面高さh=Dの10%程度とした。
【0068】
【表1】

【0069】
図9に、3種類の船舶に対するPC柱の1本当たりの性能と応答を示す。いずれの場合も、PC柱は大きく変位し、倒壊せず、これに比較して船舶の変位は小さく抑制され、損傷が低減されることがわかる。
【0070】
なお、以上はタンク施設や発電施設などの沿岸構造物に適用した場合について例示したが、これに限らず、海や河川内に設置される橋脚やその他の構造物にも本発明を適用できる。また、本発明は図示例に限定されないことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明のコンクリート系防護柱構造とその配置方法の一例を示す平面図である。
【図2】本発明のPC柱の構造特性を示すグラフである。
【図3】本発明のPC柱の一実施形態であり、(a)は全体の鉛直断面図、(b)はPC柱の水平断面図である。
【図4】本発明のPC柱の下部に回転装置を設置した実施形態の鉛直断面図である。
【図5】本発明のPC柱の差し込み式の実施形態であり、(a)は鉛直断面図、(b)は水平断面図、(c)は変形例の鉛直断面図である。
【図6】本発明のPC柱の複数列配置の実施形態を示す平面図である。
【図7】本発明のPC柱に線材を用いた実施形態を示す平面図である。
【図8】本発明のPC柱の具体的な適用例を示す水平断面図である。
【図9】図8のPC柱の性能と応答を示すグラフである。
【符号の説明】
【0072】
A……沿岸構造物
B……基礎
C……漂流物
1……D型中空プレキャストPC柱
1a…曲線部
1b…直線部
2……UFC製プレキャスト部材
3……アンボンドPC鋼材
10…回転装置
20…設置孔
21…無収縮モルタル
22…UFC製ハンチ部
30…線材
31…定着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沿岸構造物や水上構造物の手前の基礎上に立設されたコンクリート柱により沿岸構造物や水上構造物を漂流物から防護する防護柱構造であり、
中空断面のコンクリート柱部材に高性能繊維補強コンクリートとアンボンドPC鋼材を用いることにより、曲げ剛性・曲げ耐力を小さく、変形性能を大きくしたPC柱を基礎に定着して構成されていることを特徴とするコンクリート系防護柱構造。
【請求項2】
請求項1に記載の防護柱構造において、PC柱の水平断面形状がD字状であり、その曲線部が漂流物側に位置していることを特徴とするコンクリート系防護柱構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の防護柱構造において、PC柱内に一端を定着したアンボンドPC鋼材の他端が基礎内に定着されていることを特徴とするコンクリート系防護柱構造。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1つに記載の防護柱構造において、PC柱の下部の圧縮側にPC柱を漂流物衝突方向に回転自在に支持する回転装置が設けられていることを特徴とするコンクリート系防護柱構造。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の防護柱構造において、PC柱の下部が基礎に形成された設置孔に差し込まれていることを特徴とするコンクリート系防護柱構造。
【請求項6】
沿岸構造物や水上構造物の手前の基礎上に立設された複数本のコンクリート柱により沿岸構造物や水上構造物を漂流物から防護する防護柱構造物であり、請求項1から請求項5までのいずれか1つに記載のPC柱が沿岸構造物や水上構造物に沿って間隔をおいて配置されていることを特徴とするコンクリート系防護柱構造物。
【請求項7】
請求項6に記載の防護柱構造物において、PC柱が複数列で配置され、各列で断面の大きさが異なることを特徴とするコンクリート系防護柱構造物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−13743(P2009−13743A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−179812(P2007−179812)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】