説明

コンタクトレンズ提供容器およびコンタクトレンズ提供容器の製造方法

非含水性のコンタクトレンズを、親水性等に関する初期特性や寸法精度等に関する初期形状を良好に維持しつつ、長期間に亘って安定して保存することの出来る、新規な構造の非含水性コンタクトレンズ用容器を提供することを、目的とする。 かかる目的を達成するために、本発明では、非含水性のコンタクトレンズを収容せしめた密閉状態の収容スペースに対して、飽和状態かそれに近い水蒸気を含む湿潤ガスを封入したことにより、非含水性コンタクトレンズが非乾燥状態でありながら、液中に浸漬されずに湿潤ガスに晒された状態で収容されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、非含水性のコンタクトレンズを提供主体から需要者に提供するに際して用いられる、非含水性コンタクトレンズを収容せしめたコンタクトレンズ提供容器と、かかるコンタクトレンズ提供容器の製造方法に関するものである。
【背景技術】
一般に、視力矯正等の用途に広く供されているコンタクトレンズは、メーカー等の提供主体からユーザー等の需要者に提供する過程での損傷防止や雑菌による汚染防止などを目的として、密封された容器に収容されて、メーカーから出荷されたままの状態でユーザーに提供されることが多い。そこにおいて、従来から採用されている多くのコンタクトレンズ容器は、例えば特許文献1(特開昭62−122969号公報)に開示されているように、密閉された収容領域に十分な量の保存液を収容し、そこにコンタクトレンズを浸漬せしめた構造とされている。
ところで、コンタクトレンズとしては、多種類の材料のものが提供されており、それらコンタクトレンズの一つの分類基準として、含水性材料からなるコンタクトレンズか、非含水性材料からなるコンタクトレンズか、という基準がある。一般に、非含水性材料からなる非含水性コンタクトレンズは、材料の飽和含水率が10重量%以下のものをいい、それ以上の飽和含水率の材料からなる含水性コンタクトレンズと区別している。
そこにおいて、含水性のコンタクトレンズは、略飽和含水状態とされた膨潤状態で装着する必要があり、乾燥状態から膨潤状態に達するまではかなりの時間を要することから、現実には、上述の特許文献1に示されているように、密閉された容器を用いて保存液に浸漬せしめた状態でユーザーに提供することが必要とされる。
一方、非含水性のコンタクトレンズ(前述の如く多少の含水性を有するものを含む)は、基本的には乾燥状態で装用されることを考慮しているものの、現状では、含水性コンタクトレンズと同様に、密閉された容器を用いて保存液に浸漬せしめた状態でメーカーから出荷されてユーザーに提供されることが多い。
ところが、コンタクトレンズでは、メーカーの出荷時からユーザーの使用時までの保証期間として、数年以上の長期間を要求されることが多く、そのような長期間に亘って保存液に浸漬された状態とされると、非含水性のコンタクトレンズであっても、レンズ材料の種類や保存液への配合剤の種類などの条件によっては、必要以上の含水状態などとなってしまうおそれがある。そのような状態となった非含水性のコンタクトレンズは、開封した時点で、本来、乾燥状態で目的とする光学特性等が発揮されるように設計された非含水性コンタクトレンズにおいて、目的とする光学特性等を高精度に測定し難く、必要以上の含水状態となった非含水性のコンタクトレンズでは、その開封時において光学特性の検査等に支障をきたすおそれがある。
また、乾燥状態で設計された非含水性コンタクトレンズについては、前述の如き含水性コンタクトレンズのような特別な必要性が認められないにも拘わらず、浸漬するに十分な量の保存液などを準備してそれを容器に充填し、コンタクトレンズを浸漬することは、コンタクトレンズの製造工程上の問題を生ずる可能性があることに加えて、コンタクトレンズを取り出した後に残留する保存液の処理が面倒になる場合もあった。
そこで、このような問題に鑑み、例えば特許文献2(特表2003−502226号公報)に記載されている如きコンタクトレンズ容器を採用し、非含水コンタクトレンズを乾燥状態で密閉した収容空間に収容して出荷してユーザーに提供することも考えられる。
しかしながら、本発明者が検討したところ、多くの非含水性コンタクトレンズでは、装用感を向上させたり、タンパクや脂質の付着を抑えて耐汚染性を向上させることなどを目的として、コンタクトレンズの形成後にプラズマ処理等による親水性を向上させる処理を施してから、コンタクトレンズ容器に収容して出荷しているが、乾燥状態で収容して出荷すると、非常に短期間で親水性の処理効果が低下してしまうという問題が明らかとなった。しかも、親水性が低下してしまうと、その後に保存液等に浸漬しても、親水性は回復しないことが確認されている。
ここにおいて、本発明は上述の如き事情を背景しとして為されたものであって、その解決課題とするところは、非含水性のコンタクトレンズをメーカー等からユーザー等に提供するに際して用いられ、非含水性のコンタクトレンズにおける親水性等を特性を安定して保持せしめつつ、乾燥状態下で設定された光学特性や形状精度を長期間に亘って高度に確保することの出来る、新規な構造のコンタクトレンズ提供容器を提供することにあり、加えて、本発明は、そのような新規な構造のコンタクトレンズ提供容器を有利に製造することの出来る製造方法を提供することも目的とする。
【発明の開示】
〔コンタクトレンズ提供容器に関する本発明〕
コンタクトレンズ提供容器に関する本発明の特徴とするところは、非含水性のコンタクトレンズを収容せしめた密閉状態の収容スペースを備えており、該コンタクトレンズを提供するために用いられる開封可能なコンタクトレンズ提供容器であって、前記収容スペースに対して水蒸気を含む湿潤ガスが封入されていることにより、前記コンタクトレンズが非乾燥状態でありながら、液中に浸漬されずに該湿潤ガスに晒された状態で収容されているコンタクトレンズ提供容器にある。
このような本発明に従う構造とされたコンタクトレンズ提供容器においては、非含水性コンタクトレンズが水中に浸漬されていない状態で収容保存されることから、乾燥状態を前提として光学特性や寸法の設計が行われている非含水性コンタクトレンズを、数年以上の長期間に亘っても、過度の含水状態等に起因する特性や寸法等の微小変化までも有利に防止せしめつつ、安定して収容保存することが出来るのであり、非含水コンタクトレンズを安定した状態でユーザー等に提供することが可能となる。
しかも、このようなコンタクトレンズ提供容器においては、必要以上の保存液が必要とされることがなく、資源の無駄を省くことが出来ると共に、コンタクトレンズの使用に際しても、封入された保存液の処理に困るようなことなく、例えばそのまま空ケースを鞄の中に入れて持ち帰ることも可能となって取扱いが簡便となる。
また、コンタクトレンズが水中に浸漬されていないことから、コンタクトレンズを収容した容器の少なくとも一部を可視光線透過性材料で形成することで、外部からコンタクトレンズの有無を容易に確認することが可能となると共に、水中に浸漬されている場合に比して、コンタクトレンズを使用する際に、コンタクトレンズの位置を確認し、手指で摘んで取り出す作業が容易となって使用性の向上も図られ得る。
更にまた、非含水性コンタクトレンズの乾燥状態が避けられることから、乾燥に晒されることに起因する親水化処理効果の低下などの問題が、効果的に軽減乃至は回避され得ることとなり、かかる点に関しても、目的とする品質のコンタクトレンズをユーザー等に安定して提供することが出来るのである。
ところで、本発明に係るコンタクトレンズ提供容器において、収容スペースに封入される水蒸気としては、無菌水を採用することが望ましい。また、無菌水に対して適当な添加剤を加えることも可能であるが、かかる添加剤としては、特に沸点が水と略同じか水よりも低いものが望ましく、具体的には公知の水溶性の殺菌剤(例えば、過酸化水素や高分子殺菌剤)や適当な浸透圧を実現する塩分などを加えることも有効である。
また、本発明に係るコンタクトレンズ提供容器では、収容スペースに封入された水蒸気が、35℃〜70℃の範囲の何れかの温度条件で飽和水蒸気となるように、封入される水の液量が調節される。このような条件を満足する湿潤ガスを封入することにより、コンタクトレンズの流通や提供の各段階で想定される一般的な環境下で、収容スペース内を飽和水蒸気かそれに近い状態に維持することが可能となって、上述の如き効果が一層安定して発揮されることとなる。なお、35℃〜70℃の範囲内で具体的に何度の温度下で飽和水蒸気となるだけの水の液量を封入するかは、コンタクトレンズ提供容器が流通過程で晒される温度条件だけでなく、採用されるコンタクトレンズ提供容器の形状や構造等まで考慮して、収容スペース内で露点に至って凝結して液相となった水にコンタクトレンズが浸漬されないように設定される。
また、本発明に係るコンタクトレンズ提供容器において、収容スペースに封入されるガスとしては、空気,酸素,窒素,二酸化炭素の何れか、又はそれらの二つ以上を適当な割合で混合せしめたものが、好適に採用される。そこにおいて、封入されるガスは、必要に応じて水に添加される上述の添加剤と共に、収容されるコンタクトレンズの材料まで考慮して、悪影響を及ぼさないものが選択されることは言うまでもない。なお、二酸化炭素は、水溶状態で僅かに酸性を与えることから、コンタクトレンズの材料や添加剤の種類等によっては、二酸化炭素を封入ガスとして採用することにより、殺菌効果などの特別な効果を期待することも出来る。
また、本発明に係るコンタクトレンズ提供容器では、収容スペースの底面において、コンタクトレンズの当接支持面を外れた場所で収容スペース内に開口する保水凹所を形成しても良い。更に、かかる保水凹所に代えて、或いは保水凹所と共に、収容スペース内に保水材を収容配置した構成も、有利に採用される。
すなわち、飽和水蒸気となる温度よりも環境温度が低下した場合において、凝固して水が生じた場合にも、収容スペース内に開口する凹所を形成することにより水を凹所に収容せしめて保留することで、或いは保水材で水を吸収保持せしめることで、水に対するコンタクトレンズの直接的な接触を避けて、コンタクトレンズにおける過度の吸水等の問題を一層有利に防止することが可能となる。なお、保水材としては、従来から公知の高分子材からなる保水ゲルや多孔質材等が有利に採用され得、例えばコンタクトレンズの接触しない位置に形成された凹所内に収容せしめる他、収容スペースの上壁内面に被着配置することが有効である。
また、本発明に係るコンタクトレンズ提供容器においては、収容スペース内において内方に突出して、コンタクトレンズを収容スペースの底面から持ち上げた状態で保持せしめる支持突部を設けることも有効である。かかる支持突部によりコンタクトレンズを持ち上げて支持することにより、収容スペース内で水蒸気が凝固して水が生じた場合にも、コンタクトレンズに対する水の直接的な接触を回避することが出来る。
また、本発明に係るコンタクトレンズ提供容器は、その収容スペースの容積を、0.2ml以上で且つ5ml以下とすることが望ましい。蓋し、収容スペースの容積が0.2mlより小さいと、コンタクトレンズの収容領域の確保が難しくなることに加えて、収容スペースの壁部を透過しての水蒸気の拡散などを考慮した場合に各種条件下で長期間に亘って十分な水蒸気量を安定して確保することが難しい場合がある一方、収容スペースの容積が5mlより大きいと、コンタクトレンズの大きさに比して過度にコンタクトレンズ提供容器が大きくなってしまって取扱いが不便であることに加えて、環境温度低下に際して凝固する水の量が多くなってコンタクトレンズに対する水の直接的な接触が問題となる可能性もあるからである。なお、収容スペースの容積を5ml以下とすることは、収容するコンタクトレンズを1個とした場合であって、複数個のコンタクトレンズを収容せしめる場合には、その分だけ収容スペースの容積は大きくしても問題ないことは、言うまでもない。
また、本発明に係るタクトレンズ提供容器においては、収容スペースの周壁を形成する材料として、その透湿率が、300(g・cm×10−12)/(cm・sec・cmHg)以下であるものが、好適に採用される。このような透湿率の低い材料を採用することにより、収容スペースの周壁内や、周壁を通過して大気中への、水蒸気の拡散を抑えることが出来るのであり、それによって、より大きな環境条件の変化のもとで数年以上の長期間に亘っても、飽和水蒸気かそれに近い条件下でコンタクトレンズを一層安定して収容保存することが可能となる。なお、具体的な材料としては、透湿率の低い各種の合成樹脂材料や金属材料の成形体であって、例えばブリスターパックなどが好適に採用される。
なお、本発明に従う構造とされたコンタクトレンズ提供容器を用いて非含水コンタクトレンズを提供するに際しては、収容スペース内が実質的に乾燥状態とならないように、充填された水蒸気(水)の量を考慮して、望ましい環境温度を表示したり、設定しておくことも有効である。
また、本発明に従う構造とされたコンタクトレンズ提供容器においては、収容スペースの壁部の少なくとも一部を、外部からコンタクトレンズの存否を確認できる程度に可視光線を透過し得るものとすることが望ましく。それによって、出荷時やユーザ等への提供時などにおいて、コンタクトレンズの存否を適宜に確認することが可能となって便利である。なお、収容スペースにおいて、少なくとも可視光線を透過し得る部分にあっては、その内面に対して、プラズマ処理やグラフト重合処理などの親水性を付与する処理を施すことが望ましい。蓋し、収容スペースに水蒸気を封入したことにより、環境温度の変化によって収容スペース内で水蒸気が凝縮して収容スペースの内面に付着することがあり、この付着した水が水滴状となってコンタクトレンズの存否の確認を難しくするおそれがあるが、収容スペースの内面に親水性を付与することによって視認性の確保等に効果があるのである。
〔コンタクトレンズ提供容器の製造方法に関する本発明〕
コンタクトレンズ提供容器の製造方法に関する本発明の特徴とするところは、密閉状態の収容スペースに対して非含水性のコンタクトレンズを収容することにより、該コンタクトレンズを提供するために用いられる開封可能なコンタクトレンズ提供容器を製造するに際して、加熱したガスであって90%以上の相対湿度を含ませた加熱湿潤ガスを生成し、この加熱湿潤ガスと前記コンタクトレンズとを前記収容スペースに導いて該収容スペースを密閉することにより、該収容スペースに対して該コンタクトレンズを非乾燥状態でありながら、液中に浸漬されずに該加熱湿潤ガスに晒された状態で収容せしめるコンタクトレンズ提供容器の製造方法にある。
このような本発明方法に従えば、上述の如き本発明に従う構造とされた非含水性コンタクトレンズを提供するための容器を、有利に製造することが出来る。
また、本発明方法においては、例えば、コンタクトレンズ提供容器を、前記収容凹所を備えた容器本体と該収容凹所の開口部を流体密に覆蓋する蓋体とから構成し、該容器本体の該収容凹所に対して前記コンタクトレンズを導いて収容せしめた後、前記加熱湿潤ガスの雰囲気中で該容器本体を該蓋体で覆蓋して前記収容スペースを形成することが、望ましい。
さらに、本発明は、密閉状態の収容スペースに対して非含水性のコンタクトレンズを収容することにより、該コンタクトレンズを提供するために用いられる開封可能なコンタクトレンズ提供容器を製造するに際して、前記収容スペースにおいて35℃〜70℃の範囲の何れかの温度条件で飽和水蒸気となる量の無菌水を準備し、この無菌水と前記コンタクトレンズとを該収容スペースに導いて該収容スペースを密閉することにより、該収容スペースに対して該コンタクトレンズを非乾燥状態でありながら、液中に浸漬されずに湿潤ガスに晒された状態で収容せしめるコンタクトレンズ提供容器の製造方法も、特徴とする。
このような製造方法によっても、前述の如き本発明に従う構造とされた非含水性コンタクトレンズを提供するための容器を、有利に製造することが出来るのである。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の第一の実施形態としてのコンタクトレンズ容器を示す縦断面図である。
第2図は、本発明に従うコンタクトレンズ容器の製造方法の一例を説明するための一工程を示す概略図である。
第3図は、本発明の第二の実施形態としてのコンタクトレンズ容器を示す縦断面図である。
第4図は、本発明の第三の実施形態としてのコンタクトレンズ容器を示す縦断面図である。
第5図は、本発明の第四の実施形態としてのコンタクトレンズ容器を示す縦断面図である。
第6図は、本発明の第五の実施形態としてのコンタクトレンズ容器を示す縦断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
先ず、図1には、本発明の第一の実施形態としての非含水性コンタクトレンズの提供容器(以下、「コンタクトレンズ容器」という。)10が、示されている。このコンタクトレンズ容器10は、容器本体12と蓋体14によって形成された密閉状の収容スペース16を内部に備えており、この収容スペース16に対して非含水性材料からなるコンタクトレンズ18が収容配置されている。そして、この収容スペース16内にコンタクトレンズ18を収容せしめた状態で、メーカーから市場に出荷されて、眼科医や販売店を通じて、ユーザーに提供されるようになっており、ユーザーは、容器本体12から蓋体14を外すことで収容スペース16を解放して、収容スペース16に収容されたコンタクトレンズ18を直ちに装用することが出来るようになっている。
より詳細には、容器本体12は、全体として厚肉の板形状を有していると共に、その中央部分には上方に開口する収容凹部20が設けられている。この収容凹部20は、収容対象であるコンタクトレンズ18の外径寸法よりも大きな内径寸法を備えた略円形平面形状と、コンタクトレンズ18の高さ寸法よりも大きな深さ寸法を有している。特に本実施形態では、下底面22が、コンタクトレンズ18の外径寸法よりも大きな領域で平坦面とされている。
なお、容器本体12における収容凹部20の形状は、何等限定されるものでなく、例えば特開昭62−122969号公報や特開平6−296514号公報,特開平7−322911号公報など、各種公知文献等に開示された各種形状を採用することも可能である。
一方、蓋体14は、薄肉のフィルム乃至はプレート形状を有している。
そして、容器本体12の収容凹部20に対してコンタクトレンズ18を導き入れて収容配置せしめた後、蓋体14を容器本体12の収容凹部20の開口部側に重ね合わせて、収容凹部20の開口周縁部分に対して蓋体14を全周に亘って連続して密着状態で固着することによって、収容凹部20が蓋体14によって流体密に覆蓋されている。これにより、コンタクトレンズ18が収容配置された収容スペース16が、外部空間に対して遮断されて、コンタクトレンズ容器10内に画成されている。
ここにおいて、容器本体12および蓋体14は、何れも十分に低い水蒸気透過性を有する材料によって形成されている。加えて、容器本体12は、所定形状を保持し得る硬質材料によって形成されている一方、蓋体14は、十分な引張強度を備えた湾曲変形可能な材料によって形成されている。
特に、容器本体12および蓋体14の材料としては、何れも、300(g・cm×10−12)/(cm・sec・cmHg)以下の透湿率を備えた材料を採用することが望ましく、より好適には200(g・cm×10−12)/(cm・sec・cmHg)以下の透湿率を有する材料が採用される。或いは、相対湿度差90%で厚さ0.1mm,面積1mの試料を24時間に通過する水蒸気のg数として表される透湿度が、20g/m・24hr以下の材料が望ましく、より好適には10g/m・24hr以下の透湿度を有する材料が採用される。
なお、このような透湿率乃至は透湿度を備え、容器本体12や蓋体14の材料として好適に採用される合成樹脂材料としては、例えば、ポリプロピレン,ポリメチルペンテン,低密度ポリエチレン,高密度ポリエチレン,環状ポリオレフィン,エチレン・ビニルOH共重合,エチレン・酢酸ビニル等のポリオレフィンや、ポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート等のポリエステルや、塩化ビニル,塩化ビニリデン,ポリクロロトリフロロ,ポリテトラフルオロロ,ポリフッ化ビニル等のハロゲン化ポリマーの他、ポリアミド、ポリイミド、アイオノマー、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネート、ポリスチレン、およびそれらの複合材が挙げられる。更にその他、複数種類の材料の積層構造材を容器本体12や蓋体14の材料として採用することも可能であり、例えばポリ塩化ビニリデン等に対して延伸ポリプロピレンや、延伸ナイロン,セロハンを積層形成したものを採用することも出来る。また、特に薄肉で可撓性が要求される蓋体14としては、上述の如き合成樹脂材料からなるフィルムに対して、アルミ蒸着積層や酸化アルミ蒸着積層,セラミックス蒸着積層などの金属層を蒸着形成することにより、或いはアルミ箔等の金属泊を積層被着することによって形成された金属類と合成樹脂材料の積層構造体なども好適に採用される。
尤も、容器本体12と蓋体14の少なくとも一方における少なくとも一部は、外部からコンタクトレンズ10の存否を確認できる程度に可視光線を透過し得る材料で形成される。好適には、可視光線の透過率が65%以上となるように、材料や部材厚寸法および形状が設定される。また、少なくとも外部からコンタクトレンズ10の有無を確認できるようにするために可視光線を透過し得るようにされた領域は、その内面を親水性として凝結した水滴の付着に起因する視認性の低下を回避することが望ましく、必要に応じて、プラズマ処理やグラフト重合処理を施すようにされる。
ここにおいて、容器本体12と蓋体14によって形成された収容スペース16は、対象とするコンタクトレンズ18を必要な余裕をもって収容し得るに十分な大きさとされており、コンタクトレンズ18の大きさに応じて、0.2ml以上で且つ5ml以下の容積をもって形成されている。
また、この収容スペース16に収容されたコンタクトレンズ18としては、一般に非含水性コンタクトレンズと認識されている各種のコンタクトレンズが何れも採用可能であり、特に含水率が10重量%以下のコンタクトレンズであって、具体的には、メチルメタクリレートやシロキサニルメタクリレート,フルオロメタクリレート等からなるハードコンタクトレンズの他、シリコンラバーやブチルアクリレート,ジメチルシロキサン等からなるソフトコンタクトレンズなどが、何れも、採用される。
さらに、コンタクトレンズ18が収容された密閉構造の収容スペース16には、コンタクトレンズ容器10の流通過程において飽和状態かそれに近い状態が維持され得るだけの水蒸気が封入されている。
すなわち、一般的な流通過程での温度条件を考慮すると、35℃〜70℃の範囲の何れかの温度条件で飽和水蒸気となるだけの液量が収容されることが望ましい。これにより、コンタクトレンズ容器10が一般的な流通過程で晒される温度条件下で、飽和状態かそれに近い状態に有利に維持され得ることとなる。
具体的には、収容スペース16に封入する液量は、湿潤空気中の水蒸気分圧を用いた下記の式に基づいて求めることが可能である。
m = (e×V×M)/(R×T)
ただし、上式において、mは飽和水蒸気の質量〔kg〕,eは湿潤空気中の水蒸気分圧〔Pa〕,Vは湿潤空気の体積〔l〕,Mは水のモル質量であって18.0153×10−3〔kg/mol−1〕,Rは気体定数であって8.314510±0.000070〔J・K−1・mol−1〕,Tは湿潤空気の温度〔K〕である。
すなわち、収容スペース16の容積を3mlとすると、35℃の温度下で飽和水蒸気となるという条件を満足するには、0.12gの質量の水蒸気を封入する必要があり、70℃の温度下で飽和水蒸気となるという条件を満足するには、0.59gの質量の水蒸気を封入する必要がある。そして、35℃の温度下で飽和水蒸気となるように水蒸気を封入しておくことにより、一般に想定される流通条件下では飽和水蒸気かそれに近い状態に保たれることとなる。具体的には、35℃の温度下で飽和水蒸気となる量の水蒸気を封入した場合に、たとえその後に40℃まで温度が上昇した場合でも、収容スペース16における相対湿度:Uは、下式により、U=98.4%に保たれることとなる。なお、下式において、eは、湿潤ガスの水蒸気圧(Pa)であり、eは同じ温度における湿潤ガスの飽和水蒸気圧(Pa)である。
U = e / e × 100
= ( 5628.9 / 5720.3 ) × 100
= 98.4
このように本発明では、想定される温度条件下において、要求されるだけの期間に亘って、収容スペース16内の湿潤ガス26の相対湿度が、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは100%に保たれ得るように、収容スペース16の容積や周壁部を通じての水蒸気の拡散率などを考慮して、封入される水蒸気の量が設定される。
ところで、かかる水蒸気の収容スペース16への充填と封止は、例えば、上述の如くして求められた量の水、好ましくは無菌水を、乾燥雰囲気中において、液相状態で容器本体12の収容凹部20に注入した後、蓋体14で収容凹部20を覆蓋して密封することによって行うことが可能である。或いは、温度および湿度が管理された環境下において、不足する量の水だけを、液相状態で容器本体12の収容凹部20に注入してから蓋体14で封止することによって行うことも出来る。
その他、上述の如き所定の温度下で飽和水蒸気かそれに近い状態を作り出して、かかる環境下で、コンタクトレンズ18が収容された容器本体12の収容凹部20の蓋体14による密封作業を実施することによっても、目的とする量の水蒸気を収容スペース16に封入することが可能である。
具体的には、例えば図2に示されているように、水蒸気を含む湿潤ガス26を生成する湿潤ガス生成部28と、該湿潤ガス生成部28で生成された湿潤ガス26の圧力や温度を調節して飽和水蒸気圧の湿潤ガス26とするガス調製部30と、該ガス調製部30で得られた湿潤ガス26をコンタクトレンズ容器10の収容スペースに導き入れて充填する充填封止部32を、含んで構成された装置を用いて実施され得る。
すなわち、湿潤ガス生成部28は、密閉された生成容器34を備えており、この生成容器34内に、蒸気とされる無菌水に対して水溶性殺菌剤などの適当な添加剤が加えられた原水36が収容されている。生成容器34の底部にはヒーター38が装備されており、このヒーター38で原水36が加熱されて蒸気(水蒸気を含む)とされるようになっている。また、生成容器34内には、外部のガスタンク40に接続されたガス供給管42が差し入れられており、このガス供給管42を通じて、ガスタンク40から、所定加圧された空気や酸素,二酸化炭素,窒素などの適当な充填ガスが容器34内に供給されるようになっている。これにより、湿潤ガス生成部28の容器34内には、充填ガスに蒸気が分散されてなる湿潤ガス26が生成されるようになっている。
また、湿潤ガス生成部28は、連通路44を通じて、ガス調製部30に連通せしめられており、湿潤ガス生成部28で生成された湿潤ガス26が直ちにガス調製部30に送られて、ガス調製部30の調製容器46内に導き入れられる。そして、この調製容器46内で、圧力検出器48で確認しつつ排気バルブ49を調節して内部圧力を調節すると共に、必要に応じて設けられる加熱手段や加圧手段を利用して、調製容器46内の湿潤ガス26の圧力や温度を調節して、飽和水蒸気圧とすることによって、飽和水蒸気を有する湿潤ガス26を調製する。
そして、このようにして得られた湿潤ガス26は、噴出バルブ50から供給管52を通じて充填封止部32に供給されるようになっている。この充填封止部32は、覆蓋カバー54で覆われた充填空間56を有しており、この充填空間56を通過するようにして、コンタクトレンズ容器10の製造ラインを構成する搬送コンベア58が設置されている。この搬送コンベア58上では、予め前の工程において、容器本体12の収容スペース16にコンタクトレンズ18が導き入れられていると共に、容器本体12の上面にシート状の蓋体14が、搬送方向前方側の一部だけで固着されて、未だ収容スペース16が開口せしめられた状態で搬送されるようになっている。そして、かかる封止前の容器本体12は、搬送コンベア58によって充填封止部32の充填空間56に導かれて、この充填空間56内に収容スペース16が開口せしめられ、その後、該充填空間56内に設置された押圧ロール60で下方に
押圧され、蓋体14が容器本体12の上面に対して強制的に重ね合わされて接着や溶着などで固着されるようになっており、このように収容スペース16が封止されて得られたコンタクトレンズ容器10が、搬送コンベア58によって充填空間56から搬出されて、出荷にまわされるようになっている。
ここにおいて、容器本体12の収容スペース16を蓋体14で覆蓋する作業が行われる充填空間56は、上述の如く飽和水蒸気を有する湿潤ガス26が導き入れられて略満たされた状態にあることから、容器本体12の収容スペース16は、蓋体14による覆蓋と同時に略飽和状態とされた水蒸気を含む湿潤ガス26が充填されて封入されることとなるのである。
従って、このような構造とされたコンタクトレンズ容器10においては、非含水性のコンタクトレンズ18を、保存水に対して浸漬されていない状態で、湿潤ガス26に晒された状態で収容保存することが出来るのであり、それ故、乾燥状態を前提として光学特性や寸法の設計が行われている非含水性のコンタクトレンズ18を、数年以上の長期間に亘っても、過度の含水状態等に起因する特性や寸法等の微小変化までも有利に防止せしめつつ、安定して収容保存することが出来るのであり、そのように安定した状態でユーザー等に提供することが可能となるのである。
また、収容スペース16内は、略飽和水蒸気圧に保たれることから、非含水性のコンタクトレンズ10が過度の乾燥に晒されることがないのであり、本発明者が確認した結果、コンタクトレンズ10の乾燥に起因する問題点、例えばコンタクトレンズ10に予め施された親水化処理効果の低下などの問題が、効果的に軽減乃至は回避され得ることとなり、かかる点に関しても、目的とする品質のコンタクトレンズをユーザー等に安定して提供することが出来るのである。
しかも、このようなコンタクトレンズ容器10においては、必要以上の保存水を用いることがなく、資源の無駄を省くことが出来ると共に、コンタクトレンズ18の使用に際しても、必要以上に封入された保存水の処理に困るようなことがない。
また、コンタクトレンズ18が保存水に浸漬されていないことから、容器本体12や蓋体14を通じて外部からコンタクトレンズ18を視認するときに、コンタクトレンズ18の外周縁部をより明確に視認することが可能となり、コンタクトレンズ18の存否の確認作業が容易となる。加えて、保存水に浸漬されていないことから、コンタクトレンズ18を取り出す際にも、手指でコンタクトレンズ18を摘んだりする作業を容易に行うことが出来るのである。
以下、本発明の別の実施形態としてのコンタクトレンズ容器を、図3〜6に基づいて説明する。なお、以下の実施形態は、第一の実施形態のコンタクトレンズ容器10に対して、容器本体12または蓋体14の形状や機械的構造などについての別の態様例を示すものであって、内部に画成された収容スペース16に収容されるコンタクトレンズ18や湿潤ガス26等は、第一の実施形態と同様なものが採用されることから、第一の実施形態と同様な構造とれた部材および部位については、図中、第一の実施形態と同一の符号を付することにより、それらの詳細な説明を省略する。
すなわち、図3に示された第二の実施形態としてのコンタクトレンズ容器70においては、第一の実施形態としてのコンタクトレンズ容器に比して、容器本体12の下底面22に開口して周方向溝72が形成されている。この周方向溝72は、下底面22の外周縁部に沿って周方向に連続して若しくは不連続に延びている。
このような構造のコンタクトレンズ容器70では、収容スペース16内で湿潤ガス26の水蒸気が凝結して液相(水)となった場合に、かかる液が周方向溝72に収容保持されることとなる。一方、コンタクトレンズ18は、下底面22よりも外径寸法の小さな低いドーム形状とされていることから、形状的に周方向溝72に入り込むことがない。
従って、本実施形態のコンタクトレンズ容器70においては、たとえ収容スペース16内で湿潤ガス26が液化しても、コンタクトレンズ18に対する直接の接触が軽減乃至は回避され得るのであり、コンタクトレンズ18の晒される雰囲気が略飽和水蒸気を有する湿潤ガス26として一層安定して維持され得るのである。
次に、図4に示された第三の実施形態としてのコンタクトレンズ容器74においては、第一の実施形態のコンタクトレンズ容器に比して、先ず、収容凹部20の周壁内面76が、その周上の一部或いは全周において、下底面22の外周縁部から滑らかな曲面をもって立ち上がって開口縁部に至る湾曲面とされている。
これにより、収容されたコンタクトレンズ18を手指で上方から押し付け、下底面22から周壁内面76に沿って外周側に向かって滑らせるようにして開口縁部に導いて、容易に取り出すことが可能となる。
また、本実施形態のコンタクトレンズ容器74では、蓋体14の下面に対して、保水性ゲル78が固着された状態で配設されており、収容スペース16に対して直接に晒されている。なお、保水性ゲル78としては、公知の高分子吸収材が何れも採用可能である。そして、この保水性ゲル78は、十分な量の無菌水によって膨潤されている。なお、特に本実施形態では、保水性ゲル78が、収容スペース16の上底面において外周縁部に位置するように環状に被着位置せしめられており、たとえコンタクトレンズ容器74の上下が反対になるなどしてコンタクトレンズ18が収容スペース16内で変位しても、コンタクトレンズ18の保水性ゲル78に対する直接の接触が可及的に回避されるようになっている。
本実施形態のコンタクトレンズ容器74においては、保水性ゲル78に適当な量の水を吸水保持させておくことにより、液体として自由に流動し得る状態でなく、特定位置に固定的に保持せしめた状態で、十分な量の水を収容スペース16内に充填することが可能となる。
従って、収容スペース16においては、温度変化に応じて、保水性ゲル78と湿潤ガス26の間で水の液相又は気相での移動が行われて、収容スペース16内の雰囲気が略飽和水蒸気に近い状態に安定して保たれ得ることとなる。特に、保水性ゲル78で多くの量の水を固定的に保持せしめることが出来ることから、コンタクトレンズ18に対する液相の直接の接触を回避しつつ、広い温度範囲に亘って、略飽和水蒸気に近い雰囲気が実現可能となるのである。
さらに、図5に示された第四の実施形態としてのコンタクトレンズ容器80においては、容器本体12における収容凹部20の外周壁部82が円筒形状とされていると共に、かかる外周壁部82の外周面に雄ねじ溝が形成されている。
一方、蓋体14が、下方に開口する浅底の逆カップ形状とされており、その周壁部84の内周面に対して雌ねじ溝が形成されている。なお、本実施形態では、蓋体14も、容器本体12と同様に、十分な剛性を有する材料と部材厚をもって形成されている。
そして、蓋体14が容器本体12の上方から被せられて、螺着されることによって、収容凹部20の開口が覆蓋されて密閉状の収容スペース16が形成されている。また、容器本体12の外周壁部82の上端面と、蓋体14の上底部86の間には、シールリング88が介装されて挟圧されており、以て、収容スペース16が外部空間から気密に仕切られている。なお、シールリング88の材料としては、湿潤ガス26や大気に対して良好な耐久性とシール性を備えた、適当なゴムやエラストマーが採用される。
このような構造とされたコンタクトレンズ容器80においては、一度開封した後も再び流体密に封止することが可能であり、それ故、開封後には、保存水や洗浄水,消毒液などを注入して、コンタクトレンズ10の使用中の保存容器や処理容器等に利用することも可能となる。
さらに、図6に示された第五の実施形態としてのコンタクトレンズ容器90は、第四の実施形態としてのコンタクトレンズ容器と同様な構造の容器本体12と蓋体14を備えているが、そこにおいて、容器本体12における収容凹部20の下底面には、略全体が上方に向かって隆起せしめられて山形に突出する支持凸部92が一体形成されている。この支持突部92の突出先端面が、球形凸状を有する凸状支持面94とされており、この凸状支持面94に対してコンタクトレンズ18の後面(ベースカーブ側の球状凹面)が重ね合わされて、載置状態で支持されている。なお、支持突部92の外周部分には、前記第二の実施形態のコンタクトレンズ容器の周方向溝と同様な外周溝96が形成されている。
さらに、蓋体14の上底部86の下面には、収容スペース16内でコンタクトレンズ18の前面に向かって突出する支持突部98,98が一体形成されている。本実施形態では、各支持突部98,98が周方向に環状に延びており、各支持突部98,98の突出先端面が、全体に亘って、コンタクトレンズ18の前面に対して略同じ距離を隔てて対向位置せしめられるようになっている。
このような構造とされたコンタクトレンズ容器90においては、収容スペース16内で上方に持ち上げられた位置にコンタクトレンズ18が支持されていることから、収容スペース16内の水蒸気が凝結して液化した場合に、かかる液(水)に対するコンタクトレンズ18の直接の接触が回避されて、水蒸気に晒された状態に一層安定して収容保存され得る。
また、たとえコンタクトレンズ容器90が上下反対にされた場合でも、蓋体14に突設された支持突部98、98によってコンタクトレンズ18が持ち上げられて保持されることとなる。それ故、たとえ上下反対となった状態で湿潤ガス26の水蒸気が結露した場合でも、支持突部98,98が設けられていない部分に形成された蓋体14の凹部100に液(水)が導かれて、コンタクトレンズ18に対する液の直接の接触が回避されるのである。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、これらはあくまでも実施形態であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な説明によって、何等、限定的に解釈されるものでない。
例えば、水蒸気を収容スペース16に導いて充填封止するために、例えば、収容スペース16を画成する容器本体12や蓋体14の壁部に対してガス供給口と排出口をそれぞれ設けて、ガス供給口から飽和蒸気圧かそれに近い状態とされた湿潤ガスを加圧注入しつつ、収容スペース16内のガスを排出させることで、収容スペース16内を湿潤ガスに置換した後、それらガス供給口と排出口を閉鎖したり、或いは、収容スペース16を画成する容器本体12や蓋体14の壁部に対してガス給排口を設けて、このガス給排口を通じて収容スペース16内を真空吸引した後、飽和蒸気圧かそれに近い状態とされた湿潤ガスを加圧充填して封止するようにしても良い。
また、コンタクトレンズ容器における収容スペースを隔壁等で仕切って、コンタクトレンズ18の収容スペースとは別に、保水スペースを画成し、この保水スペースに保水材を収容配置せしめると共に、コンタクトレンズの収容スペースと保水スペースを相互に連通せしめる連通路を隔壁に設けるようにすることも可能である。
その他、一々列挙はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【実施例】
以下、本発明に従う構造とされたコンタクトレンズ容器について、その技術的意義を一層明確にするために実験を行った結果を、以下に示す。
【実施例1】
先ず、実施例1として、図1に第一の実施形態として示されたコンタクトレンズ容器18に従う構造のコンタクトレンズ容器を製造した。なお、容器本体12の材料はポリプロピレン、蓋体14の材料はアルミニウムとポリプロピレンの積層シートとした。
また、収容したコンタクトレンズ18としては、γ−メタクリロキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン〔TSiMA〕/メチルメタクリレート〔MMA〕/エチレングリコールジメタクリレート〔EDMA〕を、75/25/2の重量%で配合せしめてなる材料を用いた成形したものであって、含水率が0.3重量%,酸素透過係数(Dk値)が約72(×10−11(cm/sec)・(mlO/ml・mmHg))のものを採用した。また、かかるコンタクトレンズ18は、レンズ後面のベースカーブの曲率半径(BC):780mm,レンズ外径(DIA):9.2mm,レンズ度数:+7.00ディオプターであった。更に、このコンタクトレンズ18は、O2ガス雰囲気下で、1.00mmHgの真空度,60Wの出力で2分間の照射時間をもってプラズマ照射することにより、表面に親水性を付与する処理を施したものを採用した。
そして、かかるコンタクトレンズ18を容器本体12の収容凹部20に収容すると共に、収容スペース16には、60℃の飽和水蒸気を充填した。
【実施例2】
実施例2として、図5に第四の実施形態として示されたコンタクトレンズ容器80に従う構造のコンタクトレンズ容器を製造した。なお、容器本体12の材料はポリメチルペンテン(TPXポリマー)、蓋体14の材料はポリプロピレンとし、シールリング88の材料にはフッ素ゴムを採用した。
このコンタクトレンズ容器80の収容スペース16に対して、実施例1と同一のコンタクトレンズ18を、実施例1と同じ湿潤ガス26と共に封入した。
(比較例1)
実施例1と同一のコンタクトレンズ容器10と、実施例1と同一のコンタクトレンズ18を採用する一方、収容スペース16には、21℃の室温と大気圧下で40%の湿度を有する空気を充填しして、コンタクトレンズ18を実質的に大気中保存した。
(比較例2)
実施例1と同一のコンタクトレンズ容器10と、実施例1と同一のコンタクトレンズ18を採用する一方、収容スペース16には、無菌水を充填してコンタクトレンズ18を浸漬保存した。
(比較例3)
実施例2と同一のコンタクトレンズ容器10と、実施例2と同一のコンタクトレンズ18を採用する一方、収容スペース16には、21℃の室温と大気圧下で40%の湿度を有する空気を充填しして、コンタクトレンズ18を実質的に大気中保存した。
(比較例4)
実施例2と同一のコンタクトレンズ容器10と、実施例2と同一のコンタクトレンズ18を採用する一方、収容スペース16には、無菌水を充填してコンタクトレンズ18を浸漬保存した。
上記した実施例1,実施例2,比較例1,比較例2,比較例3,比較例4の各コンタクトレンズ容器によって、それぞれ、収容スペース16内に非含水性のコンタクトレンズ18を、1箇月間、密封状態で静置して保存せしめた後、開封してコンタクトレンズ18を取り出した。そして、取り出した各コンタクトレンズ18について、それぞれ、(1)親水性に関する特性の変化として、水のレンズ表面に対する接触角(θ)と、(2)レンズ形状の変化として、レンズ後面におけるベースカーブの曲率半径の変化を、それぞれ測定した。その結果を、下記「第1表」に示す。

かかる第1表に示す結果からも明らかなように、本発明の実施例1および実施例2においては、初期に付与されていた親水性と、形状精度が、何れも高度に保持されており、良好な保存状態であることを確認することが出来た。
これに対して、湿度が40%しかない空気中に保存した比較例1および比較例3では、何れも、僅か1箇月の期間で、当初に付与されていた親水性が著しく低下してしまっている。また、水中に浸漬して保存した比較例2および比較例4では、何れも、僅か1箇月の期間で、形状に変化が認められた。
このことからも、本発明に従う構造とされた非含水レンズ用の保存容器が、非常に優れた保存性能を発揮し得ることが認められる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
非含水性のコンタクトレンズを収容せしめた密閉状態の収容スペースを備えており、該コンタクトレンズを提供するために用いられる開封可能なコンタクトレンズ提供容器であって、
前記収容スペースに対して水蒸気を含む湿潤ガスが封入されていることにより、前記コンタクトレンズが非乾燥状態でありながら、液中に浸漬されずに該湿潤ガスに晒された状態で収容されていることを特徴とするコンタクトレンズ提供容器。
【請求項2】
前記収容スペースに封入された水蒸気が、無菌水または水溶性の殺菌剤を含む無菌水の蒸気である請求項1に記載のコンタクトレンズ提供容器。
【請求項3】
前記収容スペースに封入された水蒸気が、35℃〜70℃の範囲の何れかの温度条件で飽和水蒸気となる量である請求項1又は2に記載のコンタクトレンズ提供容器。
【請求項4】
前記収容スペースに封入されたガスが、空気,酸素,窒素,二酸化炭素の少なくとも一つである請求項1乃至3の何れかに記載のコンタクトレンズ提供容器。
【請求項5】
前記収容スペースの底面において、前記コンタクトレンズの当接支持面を外れた場所で該収容スペース内に開口する保水凹所を形成した請求項1乃至4の何れかに記載のコンタクトレンズ提供容器。
【請求項6】
前記収容スペース内に保水材を収容配置せしめた請求項1乃至5の何れかに記載のコンタクトレンズ提供容器。
【請求項7】
前記収容スペース内において内方に突出して、前記コンタクトレンズを該収容スペースの底面から持ち上げた状態で保持せしめる支持突部を設けた請求項1乃至6の何れかに記載のコンタクトレンズ提供容器。
【請求項8】
前記収容スペースの容積が0.2ml以上で且つ5ml以下である請求項1乃至7の何れかに記載のコンタクトレンズ提供容器。
【請求項9】
前記収容スペースの周壁を形成する材料の透湿率が、300(g・cm×10−12)/(cm・sec・cmHg)以下である請求項1乃至8の何れかに記載のコンタクトレンズ提供容器。
【請求項10】
前記収容スペースの壁部の少なくとも一部が、外部からコンタクトレンズの存否を確認できる程度に可視光線を透過し得るものである請求項1乃至9の何れかに記載のコンタクトレンズ提供容器。
【請求項11】
前記収容スペースにおいて、可視光線を透過し得る部分の内面に親水性を付与する処理が施されている請求項10に記載のコンタクトレンズ提供容器。
【請求項12】
密閉状態の収容スペースに対して非含水性のコンタクトレンズを収容することにより、該コンタクトレンズを提供するために用いられる開封可能なコンタクトレンズ提供容器を製造するに際して、
加熱したガスであって90%以上の相対湿度を含ませた加熱湿潤ガスを生成し、この加熱湿潤ガスと前記コンタクトレンズとを前記収容スペースに導いて該収容スペースを密閉することにより、該収容スペースに対して該コンタクトレンズを非乾燥状態でありながら、液中に浸漬されずに該加熱湿潤ガスに晒された状態で収容せしめることを特徴とするコンタクトレンズ提供容器の製造方法。
【請求項13】
前記コンタクトレンズ提供容器を、収容凹所を備えた容器本体と該収容凹所の開口部を流体密に覆蓋する蓋体とから構成し、該容器本体の該収容凹所に対して前記コンタクトレンズを導いて収容せしめた後、前記加熱湿潤ガスの雰囲気中で該容器本体を該蓋体で覆蓋して前記収容スペースを形成する請求項12に記載のコンタクトレンズ提供容器の製造方法。
【請求項14】
密閉状態の収容スペースに対して非含水性のコンタクトレンズを収容することにより、該コンタクトレンズを提供するために用いられる開封可能なコンタクトレンズ提供容器を製造するに際して、
前記収容スペースにおいて35℃〜70℃の範囲の何れかの温度条件で飽和水蒸気となる量の無菌水を準備し、この無菌水と前記コンタクトレンズとを該収容スペースに導いて該収容スペースを密閉することにより、該収容スペースに対して該コンタクトレンズを非乾燥状態でありながら、液中に浸漬されずに湿潤ガスに晒された状態で収容せしめることを特徴とするコンタクトレンズ提供容器の製造方法。
【請求項15】
請求項1乃至8の何れかに記載のコンタクトレンズ提供容器を製造する請求項12乃至14の何れかに記載のコンタクトレンズ提供容器の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/055760
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【発行日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511668(P2005−511668)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015716
【国際出願日】平成15年12月9日(2003.12.9)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】