説明

コンテナクレーン

【課題】岸壁クレーンにおいて、シルビーム上方の空間の利用により、従来のクレーン並みの輪重で、かつ安定性の高い大型コンテナ船対応の岸壁クレーンを提供する。
【解決手段】海上用輸送コンテナ14を荷役する岸壁クレーン1Aにおいて、前記岸壁クレーン1Aを構成するシルビーム2Aを、大断面箱梁形状にし、前記シルビーム2Aの内部に、前記岸壁クレーン1Aに設置しているケーブルリールや制御盤、高電圧盤、変圧器、分電盤、照明安定器等の大型装置のうち少なくとも1つを設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、港湾や内陸地のコンテナターミナルなどで、コンテナの荷役に使用されるクレーン等、特に大型船対応の岸壁クレーンの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
港湾や内陸地等のコンテナターミナルでは、岸壁クレーンや門型クレーンによって、船舶及びトレーラ間のコンテナの荷役を行っている。図4に岸壁クレーン1Xの側面図を示しており、岸壁クレーン1Xは、海側脚11と陸側脚12の下部にそれぞれ走行輪8を有しており、岸壁18に敷設したレール上を走行可能に設置されている。また、ブーム10上にトロリ13を有しており、ガーダ9上に機械室17を有している。
【0003】
岸壁クレーン1Xで荷役を行う際、コンテナ船15内に積載されたコンテナ14は、矢印で示す荷役パスpに沿ってトレーラ16まで運搬される。この荷役パスpは、コンテナ14の動きを最短距離として、荷役時間を短縮するように制御されている。そのため、クレーン1Xの各構造材料は、この荷役パスpを妨げないように設計されている。
【0004】
図5に岸壁クレーン1Xの正面図を示しており、2つの海側脚11は、シルビーム2Xとタイビーム5で連結されており、シルビーム2Xの近傍にケーブルリール7が設置されている。荷役パスpを短くして、荷役効率を向上できるように、シルビーム2Xは低い位置に設置されている。
【0005】
なお、図4に示すコンテナ船15(例えばデッキ上にコンテナを13列配置するコンテナ船)は、船底21から甲板22までのコンテナ船高さhxが15〜20m程度であり、岸壁クレーン1Xの高さHxが25〜30m程度であり、図5に示すクレーンの全幅Wが27m程度であり、全体の重量は700〜800tとなっている。
【0006】
また、近年、コンテナ輸送の効率を向上させるため、コンテナ船15の大型化が進んできており、これに伴い、岸壁クレーン1Xの大型化の要請がある。岸壁クレーン1Xは、大型化により重心が高くなるため、安定性を向上する必要がある。また、荷役効率を上げるために、クレーンの振れをできるだけ抑えるため、構造物の剛性確保が必要である。
【0007】
クレーンの安定性を向上と振れの低減のために、クレーンを構成するフレームを大断面化して、剛性を上げる方法が考えられるが、剛性の向上と共にクレーン全体の重量が大幅に増加してしまう。しかし、岸壁18にはそれぞれ限界となる輪重が決まっているため、輪重を増加させるためには、岸壁の作り直しが必要となり、莫大なコストがかかるという問題を有している。ここで、輪重とは、例えば海側脚3に設置された走行輪11にかかる荷重のことを指している。
【0008】
また、クレーンの安定性を向上するために、クレーン全幅Wを広げる方法が考えられるが、クレーン全幅Wを広げると、コンテナ船15に対して同時に投入できるクレーンの数が減ってしまう問題を有している。つまり、図6に示す様に、コンテナ船15に搭載されているコンテナ14の列をベイBと呼び、40ftコンテナを想定すると2つのベイBの幅は約27m程度となっているが、クレーン全幅Wもこの27m以内に収める必要がある。
【0009】
この問題に対してガーダ上に2つのトロリと受け台を有した岸壁クレーンの軽量化の方法が開示されている(例えば特許文献1参照)。クレーンの軽量化により、安定性を向上
させながら、クレーンを大型化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−211743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、受け台をもともと有さない通常の岸壁クレーンにおいて、岸壁クレーン自体の重量を軽量化することができず、岸壁クレーン1Xの安定性を向上させることはできない。
【0012】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、岸壁クレーンにおいて、シルビーム上方の空間の利用により、従来のクレーン並みの輪重で、かつ安定性の高い大型コンテナ船対応の岸壁クレーンを提供することを目的とする。すなわち、クレーン上部に設置されていた大型装置等を低い位置に移動させ、低重心化し、かつ、クレーンの剛性を上げて、クレーンを構成するフレームの軽量化を実現した岸壁クレーンを提供し、さらに、クレーンの脚幅を狭くして(脚を構成するフレーム断面積の縮小化により)、風の受圧面積を減少させ、風荷重を低減して、岸壁に及ぼす輪重を低減した岸壁クレーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するための本発明に係る岸壁クレーンは、海上用輸送コンテナを荷役する岸壁クレーンにおいて、前記岸壁クレーンを構成するシルビームを、大断面箱梁形状にし、前記シルビームの内部に、前記岸壁クレーンに設置している装置のうち少なくとも1つを設置したことを特徴とする。
【0014】
上記の岸壁クレーンにおいて、前記シルビームの内部に、制御盤、高圧盤、変圧器、分電盤、照明安定器のうち少なくとも1つを設置したことを特徴とする。
【0015】
上記の目的を達成するための本発明に係る岸壁クレーンは、海上用輸送コンテナを荷役する岸壁クレーンにおいて、前記岸壁クレーンを構成するシルビーム上部に補強部材を設置し、かつ、前記岸壁クレーンに設置している装置のうち少なくとも1つを設置したことを特徴とする。
【0016】
上記の岸壁クレーンにおいて、前記シルビーム上部にケーブルリール、監視員室、リモートオペレーション用運転室を設置したことを特徴とする。
【0017】
上記の岸壁クレーンおいて、前記シルビーム上部に補強部材を設置し、前記補強部材をプラットホームとして形成し、前記プラットホームをスタッキングコーンの着脱作業を行う作業場としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
シルビームを大断面箱梁形状(BOX形状)とした構成により、クレーン脚部の剛性を向上させ、かつ、シルビーム内にクレーンに設置されている装置を設置する構成により、クレーンの重心を下げることができる。そのため、クレーンの安定性が増し、クレーンの他の構造の軽量化が可能となり、既設の岸壁に大型岸壁クレーンを設置することができる。この軽量化により、輪重を低減することが可能となり、岸壁を新設する場合は、基礎強度を低減させた土木建築コストを抑えた設備の提案が可能となる。
【0019】
ここで、シルビーム内に設置する装置は、可能な限り多い方が望ましく、また、重量の大きいものを優先的に設置する方が望ましく、これにより低重心化の効果がより大きくなる。また、クレーン上部の機械室等に設置していた装置を、地上に近いシルビーム内に設置する構成により、これらの装置に対して、地上からのアクセスがよくなり、メンテナンス性を向上することができる。
【0020】
更に、制御盤、高圧盤、変圧器、分電盤、照明安定器等のクレーンに設置されている機器を、シルビーム内に設置するとよい。これはシルビームがBOX形状のため、その内部は風雨を防ぐことが可能であり、特に風雨に弱い電気装置等を設置することが望ましい。
【0021】
また、シルビーム上部の空間に斜材等の補強部材を設置する構成により、岸壁クレーンの脚の剛性が向上し、脚を構成するフレームの断面を小さくすることができる。その結果、クレーンを軽量化することができる。さらに、シルビーム上部の空間にケーブルリール、監視員室、リモートオペレーション用運転室等を設置する構成により、岸壁クレーンを低重心化し、安定性を向上することができる。
【0022】
更に、シルビーム上部にプラットホームを形成する構成により、岸壁クレーンの剛性を向上させると共に、スタッキングコーンの着脱作業を行う空間を確保することができるため、トレーラ等のコンテナ運搬装置と地上作業者の作業場所を沸けることで、荷役作業の安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る実施の形態の岸壁クレーンを示した図である。
【図2】本発明に係る異なる実施の形態の岸壁クレーンを示した図である。
【図3】本発明に係る実施の形態の岸壁クレーンの荷役パスを示した図である。
【図4】小型船対応の岸壁クレーンの荷役パスを示した図である。
【図5】小型船対応の岸壁クレーンを示した図である。
【図6】岸壁クレーンの荷役時の様子を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る実施の形態の岸壁クレーンについて、図面を参照しながら説明する。図1に、岸壁クレーン1Aの正面図を示しており、2つの海側脚11を連結しているフレームの内、下部にあたるシルビーム2Aを大断面箱梁形状(BOX形状)として、更に上部に補強部材を板状に形成したプラットホーム4を設置している。
【0025】
シルビーム2Aは、例えば1m×2.5mの矩形の断面を有していた従来のシルビームを、1.5〜3m×3〜10mの矩形の断面を有したものに変更し、シルビーム2Aの内部には、従来、岸壁クレーンの海側脚11と陸側脚12の間にあたる側面部に設置していたケーブルリールや、機械室17内に設置していた制御盤、高圧盤、変圧器、分電盤、照明安定器等の大型装置を設置しており、この構成により、大型の岸壁クレーン1Aの低重心化を実現することができる。
【0026】
プラットホーム4は、上面を板状としており、補強部材でありながら、スタッキングコーン等の着脱作業を行う作業場として使用することができる。ここで、プラットホーム4はシルビーム1Aに固定するか、海側脚11の間に固定され、補強部材として機能するように設置することが望ましいが、補強部材としての機能を有さない場合であっても、荷役作業の高効率化には寄与することができる。なお、スタッキングコーンとは、コンテナ船15において、コンテナ14を互いに連結するための連結具であり、コンテナターミナルにコンテナ14を載置する際には除去されるものである。
【0027】
図1の岸壁クレーン1Aの構成により、岸壁クレーン1Aの安定性が向上するため、脚11、12等のフレームをサイズダウンすることが可能となり、軽量化を実現することができる。また、特に上部脚のフレームのサイズダウンにより、風を受ける上部構造物の受圧面積が低減され、岸壁クレーン1Aの走行時の風抵抗が低減される。このため、走行モータの容量を下げることが可能となり、電力消費の低減が実現できる。
【0028】
図2に、本発明に係る異なる実施の形態の岸壁クレーン1Bの正面図を示しており、シルビーム2B上部に補強部材3A、3Bを設置して、更に補強部材3の上部に板状に形成したプラットホーム4を設置して、シルビーム2B上部にケーブルリール7を設置している。なお、補強部材3の設置位置は岸壁クレーン1Bの剛性を上げるために適切に選択することが可能であり、図2に示すパターンに限定されない。
【0029】
ケーブルリール7をシルビーム2Bの上部に設置することにより、図5の従来の岸壁クレーン1Xと比べ、クレーンの全幅Wの長さを小さくすることができる。また、ケーブルリール等の大型装置は、斜材3A等により保護されるため、コンテナ14等の接触により故障する事故等を抑制することができる。
【0030】
図3に、岸壁クレーン1Bの側面図を示しており、コンテナ船15に載置されたコンテナ14は、海側トロリ13aで吊り上げられて横行体19に載置され、横行体19により水平方向に運ばれ、陸側トロリ13bによりトレーラ16に下ろされる荷役パスpを通るように荷役される。コンテナ船15の大型化(例えばデッキ上にコンテナを18列以上配置するコンテナ船)により、荷役パスpがシルビーム2上部の空間を通らなくなったため、この空間を有効利用することが可能となっている。つまり、荷役パスpを妨げない範囲で、シルビーム2のBOX形状化や補強部材3の設置が可能となり、岸壁18の地面から10〜13m程度の高さまで利用することができる。ここで、岸壁クレーン1Bの高さHは70〜80m程度であり、コンテナ船15の高さhは25〜30m程度であり、クレーンの全体重量は1000〜1500tである。
【0031】
また、本発明は通常のトロリ13を1台のみ有した大型の岸壁クレーンにも適用することが可能であるが、図3に示す横行体19及び2台のトロリ13a、13bを有した岸壁クレーン1Bに適用した際に、さらに有効な作用効果を得ることができる。
【0032】
なお、本発明は陸側脚12を連結しているシルビームには適用しない。これは、船舶のハッチカバー等の大型荷物をトロリ13で吊り上げ、岸壁クレーンの後背地に設置する場合があり、その際の荷役パスpを、妨げる可能性があるためである。
【0033】
図6に、岸壁クレーン1の上面図を示しており、岸壁クレーン1は担当しているベイBの荷揚げが完了すると、走行レール20上を自走し、次のベイBに移るように構成されている。この岸壁クレーン1の走行に伴い、ブーム先端10aが揺れるが、この揺れを約250mm(走行変位制限値)以内とする必要がある。
【0034】
本発明を適用した岸壁クレーン1A、1Bは、クレーンを大型化しても剛性が向上しているため、ガーダ先端10aの揺れを小さく抑えることが可能であり、岸壁クレーンの移動後に荷役作業を迅速に開始することができ、荷役効率を向上することができる。
【符号の説明】
【0035】
1A、1B 岸壁クレーン
2A、2B シルビーム
3A、3B 補強部材
4 プラットホーム
7 ケーブルリール
11 海側脚
12 陸側脚
13 トロリ
p 荷役パス
H、Hx 岸壁クレーンの高さ
h、hx コンテナ船の高さ
W 全幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海上用輸送コンテナを荷役する岸壁クレーンにおいて、前記岸壁クレーンを構成するシルビームを、大断面箱梁形状にし、前記シルビームの内部に、前記岸壁クレーンに設置している装置のうち少なくとも1つを設置したことを特徴とする岸壁クレーン。
【請求項2】
前記シルビームの内部に、制御盤、高圧盤、変圧器、分電盤、照明安定器のうち少なくとも1つを設置したことを特徴とする請求項1に記載の岸壁クレーン。
【請求項3】
海上用輸送コンテナを荷役する岸壁クレーンにおいて、前記岸壁クレーンを構成するシルビーム上部に補強部材を設置し、かつ、前記岸壁クレーンに設置している装置のうち少なくとも1つを設置したことを特徴とする岸壁クレーン。
【請求項4】
前記シルビーム上部にケーブルリール、監視員室、リモートオペレーション用運転室を設置したことを特徴とする請求項3に記載の岸壁クレーン。
【請求項5】
前記シルビーム上部に補強部材を設置し、前記補強部材をプラットホームとして形成し、前記プラットホームをスタッキングコーンの着脱作業を行う作業場としたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の岸壁クレーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−235274(P2010−235274A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86160(P2009−86160)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】