説明

コンデンサマイクロホン

【課題】成極電圧を必要とするコンデンサマイクロホンにおいて、DC−DCコンバータ等の昇圧回路を用いることなく、ファントム電源等から給電される電圧の一部から高い成極電圧が得られるようにする。
【解決手段】対向的に配置された振動板10aと固定極10bとを含む静電型の音響電気変換器10と、音響電気変換器10の固定極10bに対して成極電圧を与える成極電源部30とを有するコンデンサマイクロホンにおいて、その成極電源部30として、固定極10bに所定の抵抗素子R01を介して接続されるPLZT素子31と、PLZT素子31と光学的に結合される紫外線発光ダイオード32と、紫外線発光ダイオード32を駆動する駆動回路33とを備え、紫外線発光ダイオード32よりPLZT素子31に所定波長の紫外線を照射し、PLZT素子31に光起電力効果により電圧を発生させて、固定極10bに対する成極電圧を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンデンサマイクロホンに関し、さらに詳しく言えば、コンデンサマイクロホンの成極電圧をPLZT素子の光起電力効果により得る技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンデンサマイクロホンは、その収音部として、振動板と固定極とを電気絶縁性のスペーサリングを介して対向的に配置してなる静電型の音響電気変換器(コンデンサマイクロホンカプセルとも言う)を備える。
【0003】
振動板は、所定の張力をもって振動板支持リングに張設されており、固定極は絶縁座にて支持され、絶縁スペーサを介して対向的に配置されることにより、一種のコンデンサを形成し、到来する音波にて振動板が振動することにより、静電容量を変化させ、その変化分を音声信号として出力する。
【0004】
そのため、コンデンサマイクロホンを駆動するにあたっては、通常、上記音響電気変換器に成極電圧を与える必要がある。
【0005】
なお、エレクトレット誘電体膜を有するエレクトレットコンデンサマイクロホンの場合には、エレクトレット誘電体膜に半永久的に電荷が帯電されているため、外部から成極電圧を与える必要はない。
【0006】
しかしながら、エレクトレットコンデンサマイクロホンにおいては、エレクトレット誘電体膜にコロナ放電等により電荷を均一に帯電させること、また、その成極電圧を一定に管理することが難しいため、感度にばらつきが生じやすい。
【0007】
そこで、例えばスタジオ収音用途等の音質を重視するコンデンサマイクロホンでは、成極電源部を備え、その成極電源部より上記音響電気変換器の固定極に所定の成極電圧を与えて、高い感度を得るようにしている。
【0008】
その成極電圧を得る方法のひとつとして、ファントム電源から供給される例えば48Vの電圧を用いる方法がある(例えば、特許文献1参照)。この方法によれば、音声出力回路等の主回路で消費される電流を少なくすることにより高い成極電圧が得られる。しかしながら、主回路での消費電流を少なくするにも限度があるため、感度をあまり高くできない。
【0009】
また、別の方法として、DC−DCコンバータを用いる方法がある(例えば、特許文献2参照)。すなわち、この方法では、発振回路を用い直流を交流に変換してトランスで昇圧したのちに整流することにより高い成極電圧を得る。
【0010】
しかしながら、発振回路から出力される発振周波数がマイクロホン出力に重畳し、これにより雑音が発生することがある。また、発振回路にイクダクタを用いた場合には、誘導磁界が発生し、磁気的結合で他の電子機器等に雑音が誘起されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−287000号公報
【特許文献2】特開平09−121533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の課題は、音響電気変換器に成極電圧を必要とするコンデンサマイクロホンにおいて、DC−DCコンバータ等の昇圧回路を用いることなく、ファントム電源等から給電される電圧の一部から高い成極電圧が得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は、対向的に配置された振動板と固定極とを含む静電型の音響電気変換器と、上記音響電気変換器の固定極に対して成極電圧を与える成極電源部とを有するコンデンサマイクロホンにおいて、上記成極電源部として、上記固定極に所定の抵抗素子を介して接続されるPLZT素子と、上記PLZT素子と光学的に結合された紫外線発光ダイオードと、上記紫外線発光ダイオードを駆動する駆動回路とを備え、上記紫外線発光ダイオードより上記PLZT素子に所定波長の紫外線を照射し、上記PLZT素子に光起電力効果により電圧を発生させて、上記固定極に対する成極電圧を得ることを特徴としている。
【0014】
本発明の好ましい態様によれば、上記駆動回路に、ファントム電源から供給される電圧の一部を所定の電圧に変換するスイッチト・キャパシタ型電圧コンバータが用いられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、音響電気変換器に対する成極電源部に、固定極に所定の抵抗素子を介して接続されるPLZT素子と、PLZT素子と光学的に結合された紫外線発光ダイオードと、紫外線発光ダイオードを駆動する駆動回路とを備え、紫外線発光ダイオードよりPLZT素子に所定波長の紫外線を照射し、PLZT素子に光起電力効果により電圧を発生させて固定極に対する成極電圧を得るようにしたことにより、DC−DCコンバータ等の昇圧回路を用いることなく、ファントム電源等から給電される電圧の一部から高い成極電圧を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係るコンデンサマイクロホンを示す回路図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、図1により、本発明の実施形態について説明する。図1は本発明の実施形態に係るコンデンサマイクロホンを示す回路図である。なお、この実施形態に係るコンデンサマイクロホンは、ファントム電源で動作するが、ファントム電源自体は、バランス伝送のホットとコールドとの間に直列に接続された6.8kΩからなる2つの抵抗と、それらの抵抗の接続点とグランドとの間に接続された直流48Vの電源とを有する公知のものであるため、その図示は省略されている。
【0018】
図1に示すように、このコンデンサマイクロホンは、振動板10aと固定極10bとを図示しない電気絶縁性のスペーサリングを介して対向的に配置してなる収音部としての音響電気変換器(コンデンサマイクロホンカプセル)10を備えている。
【0019】
振動板10aは、所定の張力をもって図示しない振動板支持リングに張設されており、固定極10bは絶縁座にて支持され、上記スペーサリングを介して対向的に配置されることにより、一種のコンデンサを形成し、到来する音波にて振動板が振動することにより、静電容量を変化させ、その変化分を音声信号として出力する。
【0020】
振動板10aは、上記振動板支持リングを介してマイクロホンケース(接地11)に接続され、固定極10bは、インピーダンス変換器としてのFET(電界効果トランジスタ)40のゲートに接続される。
【0021】
マイク出力部50には、ファントム電源のホット側と接続される端子H,コールド側と接続される端子Cおよびグランド側と接続される端子Gとがそれぞれ設けられている。
【0022】
ホット側の端子Hは定電流ダイオードD03を介してFET40のドレインに、コールド側の端子CはFET40のソースに接続される。また、FET40の出力側は、出力トランスTRSを介してホット側の端子Hとコールド側の端子Cとに接続される。
【0023】
このコンデンサマイクロホンは、固定極10bに成極電圧を与える成極電源部30を備える。成極電源部30には、PLZT素子31と、PLZT素子31に紫外線を照射する紫外線発光ダイオード32と、紫外線発光ダイオード32を駆動する駆動回路33とが含まれている。
【0024】
PLZT素子31は、チタン酸鉛(PbTiO3)とジルコン酸鉛(PbZrO3)の固溶体に酸化ランタン(La2O3)を添加して焼結させたチタン酸ジルコン酸ランタン鉛で、波長が365nm程度の紫外線を照射すると、光起電力効果によりきわめて高い電圧(電極間距離当たりの発生電圧が3.3kV/cm)を発生する。
【0025】
PLZT素子31は、抵抗素子R01を介して固定極10bに接続される。紫外線発光ダイオード32には、365nm程度の紫外線を発光するものが用いられ、この種の紫外線発光ダイオードには、例えば日亜化学工業社製の品番NSHU550B(ピーク波長365nm,光出力2,000μW,駆動電圧Max4V)がある。
【0026】
この実施形態において、駆動回路33はスイッチト・キャパシタ型電圧コンバータIC(以下、単に「コンバータIC」と略記することがある。)からなる。この例では、3つのコンバータIC01,IC02,IC03を3段に直列的に接続しており、その各々に米国NATIONAL SEMICONDUCTOR社製のLM2665を用いている。
【0027】
このLM2665なるコンバータICは1番〜6番までの6つのピンを有し、その1番ピンから正電圧を入力する場合には、5番ピンから2倍の電圧が出力される2倍昇圧型として動作し、これとは逆に、5番ピンから正電圧を入力する場合には、1番ピンから1/2倍電圧が出力される1/2倍降圧型として動作する。
【0028】
この実施形態では、1/2倍降圧型として用いるため、各コンバータIC01,IC02,IC03ともに5番ピンから正電圧を入力し、1番ピンからその1/2倍の出力電圧を得るようにしている。
【0029】
なお、2番ピンはグランドピン,4番ピンはシャットダウン制御ピンで、3番ピンと6番ピンとの間にチャージポンプコンデンサC01,C02,C03がそれぞれ接続されるが、この実施形態では1/2倍降圧型とするため、3番ピンにコンデンサの正極側が接続される。2倍昇圧型として動作させる場合には、3番ピンにコンデンサの負極側が接続される。また、出力側の1番ピンの各々には、平滑兼交流接地用のコンデンサC010,C20,C30が接続される。
【0030】
駆動回路33は、電流制限抵抗R02とツェナーダイオードD01の直列回路よりなる入力回路33aを備える。入力回路33aには、ホット側の端子Hとコールド側の端子Cとから定電流ダイオードD02,D03を介して所定の定電流が供給される。
【0031】
この例においては、入力回路33aのツェナーダイオードD01により駆動回路33に対する入力電圧を32Vとし、電流制限抵抗R02により駆動回路33に対する入力電流を2.5mAに制限している。なお、ツェナーダイオードD01に対して並列に接続されているコンデンサC40は平滑コンデンサである。
【0032】
これにより、第1段目のコンバータIC03,第2段目のコンバータIC02および第3段目のコンバータIC01の順に、電圧は16V→8V→4Vに降圧される一方で、電流は5mA→10mA→20mAへと順次大きくされ、最終的に第3段目のコンバータIC01の1番ピンから紫外線発光ダイオード32に4V,20mAなる駆動電源が印加される。
【0033】
これにより、紫外線発光ダイオード32からPLZT素子31に対して波長365nmの紫外線(紫外光)が照射されるため、PLZT素子31からその光起電力効果により高電圧が発生され、その高電圧が固定極10bに成極電圧として印加される。
【0034】
このように、本発明によれば、紫外線発光ダイオード32よりPLZT素子31に光起電力効果を発揮させる特定波長の紫外線を照射して、PLZT素子31から固定極10bに対する成極電圧を得るようにしたことにより、ともすると雑音源となる発振回路を含むDC−DCコンバータ等の変圧手段を用いることなく、固定極により高い成極電圧を与えることができ、その分、コンデンサマイクロホンの感度を高めることが可能となる。
【符号の説明】
【0035】
10 静電型の音響電気変換器(コンデンサマイクロホンカプセル)
10a 振動板
10b 固定極
11 接地(マイクロホンケース)
30 成極電源部
31 PLZT素子
32 紫外線発光ダイオード
33 駆動回路
40 インピーダンス変換器(FET)
50 マイク出力部
IC01,IC02,IC03 スイッチト・キャパシタ型電圧コンバータ
C01,C02,C03 チャージポンプコンデンサ
H ホット側端子
C コールド側端子
G グランド(接地)側端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向的に配置された振動板と固定極とを含む静電型の音響電気変換器と、上記音響電気変換器の固定極に対して成極電圧を与える成極電源部とを有するコンデンサマイクロホンにおいて、
上記成極電源部として、上記固定極に所定の抵抗素子を介して接続されるPLZT素子と、上記PLZT素子と光学的に結合された紫外線発光ダイオードと、上記紫外線発光ダイオードを駆動する駆動回路とを備え、
上記紫外線発光ダイオードより上記PLZT素子に所定波長の紫外線を照射し、上記PLZT素子に光起電力効果により電圧を発生させて、上記固定極に対する成極電圧を得ることを特徴とするコンデンサマイクロホン。
【請求項2】
上記駆動回路に、ファントム電源から供給される電圧の一部を所定の電圧に変換するスイッチト・キャパシタ型電圧コンバータが用いられていることを特徴とする請求項1に記載のコンデンサマイクロホン。

【図1】
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【公開番号】特開2010−157958(P2010−157958A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122(P2009−122)
【出願日】平成21年1月5日(2009.1.5)
【出願人】(000128566)株式会社オーディオテクニカ (787)
【Fターム(参考)】