説明

コンデンサ式抵抗溶接機

【課題】電力効率が高く、発熱の小さい環境面から好ましいコンデンサ式抵抗溶接機を提供すること。
【解決手段】溶接用コンデンサに蓄えたエネルギーを一気に放電してパルス状電流を被溶接物に流し、抵抗溶接する溶接機において、溶接用コンデンサ4と並列に、溶接用コンデンサ4の所定の極性とは逆向きのエネルギー回収用素子10Aとエネルギー回収用インダクタンス成分10Bとを直列接続してなるエネルギー回収用手段10を備え、エネルギー回収用手段10は、放電用スイッチ6がオンして溶接用コンデンサ6に充電された前記所定の極性のエネルギーを放電したときに溶接用コンデンサ4に前記所定の極性とは逆の極性に充電されるエネルギーを反転して、所定の極性のエネルギーとして溶接用コンデンサ4に回収することを特徴とするコンデンサ式抵抗溶接機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、充電回路により溶接用コンデンサに蓄えたエネルギーを溶接トランスを介して短時間で溶接電極間に放電することによって被溶接物を抵抗溶接するコンデンサ式抵抗溶接機に関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサ式抵抗溶接機は、長い時間をかけて溶接用コンデンサに溶接電力を蓄え、それを短時間で一気に放電するので、一般的な交流溶接機に比べて、受電設備が大容量化しないという設備面での利点がある。また、被溶接物が加熱される度合いが小さいので、溶接箇所の溶接痕(焼け)がほとんど無く、また歪なども小さいという利点を有することから小型から大型までの産業設備で採用されている。
【0003】
コンデンサ式抵抗溶接機は、一般的に多数の電解コンデンサを並列接続してなるコンデンサバンクを溶接用コンデンサとして用いている(例えば、特許文献1参照)。コンデンサ式抵抗溶接機による抵抗溶接方法は広く知られているので詳しく説明しないが、充電回路によって溶接用コンデンサを充電し、溶接用コンデンサの充電電圧が450V程度まで上昇すると、充電回路をオフにし、放電用スイッチをオンさせることにより、溶接トランスの1次巻線に急峻に増大するパルス状の電流を流す。溶接トランスの2次巻線は1ターン程度であって、1次巻線の巻数よりも大幅に少ないので、2次巻線には1次側電流よりも大幅に大きなパルス状の溶接電流が流れ、この溶接電流が溶接電極を通して被溶接物に流れることによって、被溶接物が抵抗溶接される。
【0004】
放電用スイッチがオンして溶接用コンデンサのエネルギーが放電されるとき、そのエネルギーの一部分は放電回路内のインダクタンスとの共振(振動)作用により溶接用コンデンサに逆極性に充電される。このとき、溶接トランスの1次巻線と2次巻線、配線、一対の溶接電極間の抵抗などによって、溶接用コンデンサから放電されたエネルギーは消費されるが、一部分のエネルギーは溶接用コンデンサに逆極性に充電される。したがって、溶接用コンデンサを構成する電解コンデンサは有極性、つまり単極性であるが、短い時間ではある程度の逆極性の充電電圧には耐える構造になっている。
【0005】
前掲の特許文献1の場合には、溶接用コンデンサに並列に、抵抗とダイオードとを直列に接続した逆極性電力消費回路を備えている。放電スイッチのオンによって、溶接用コンデンサに蓄えられたエネルギーが放電され、溶接用コンデンサが逆極性に充電される。これに伴い、前記逆極性電力消費回路のダイオードが順バイアスされて導通し、溶接用コンデンサに充電された逆極性エネルギーは抵抗とダイオードとを通して放電され、主にその抵抗によって消費される。したがって、溶接用コンデンサである電解コンデンサに逆極性の電圧が印加されている時間は短い時間であるが、電解コンデンサに悪影響を与えるため、従来のコンデンサ式抵抗溶接機はわざわざ無駄に電力を消費して逆電圧を抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004―167541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、溶接用コンデンサに充電された溶接用エネルギーの一部分のエネルギーは溶接に使用されずに無駄に消費され、また、前記逆極性電力消費回路の発熱も大きいので、環境上、経済上から好ましくないということである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の課題を解決するために、本発明の第1の態様に係るコンデンサ式抵抗溶接機は、入力端子に接続される充電回路と、その充電回路によって充電される溶接用コンデンサと、その溶接用コンデンサに充電されたエネルギーを放電する放電用スイッチと、その放電用スイッチに直列に接続される1次巻線及び2次巻線とを有する溶接トランスと、前記放電用スイッチを少なくともオンさせる制御回路と、前記2次巻線の一方の端子に接続される第1の溶接電極と前記2次巻線の他方の端子に接続される第2の溶接電極とを備え、前記充電回路によって前記溶接用コンデンサが所定の極性の設定電圧まで充電された後に前記放電用スイッチを導通させ、前記溶接用コンデンサに充電されたエネルギーを前記溶接トランスの前記1次巻線と前記2次巻線とを介して放電させることによって、前記第1の溶接電極と前記第2の溶接電極との間に溶接電流を流して被溶接物を抵抗溶接する溶接機であって、エネルギー回収用インダクタンス成分と、前記溶接用コンデンサと前記エネルギー回収用インダクタンス成分とを有する経路を形成するエネルギー回収用半導体素子とを備え、前記放電用スイッチを導通させ、前記所定の極性で充電された前記溶接用コンデンサのエネルギーによって前記溶接トランスを介する経路に電流を流して前記所定の極性に対して逆極性に充電された前記溶接用コンデンサのエネルギーを、前記エネルギー回収用半導体素子を介して前記エネルギー回収用インダクタンス成分に移動させ、前記エネルギー回収用インダクタンス成分に蓄積されたエネルギーを前記エネルギー回収用半導体素子を介して前記所定の極性で前記溶接用コンデンサに回収させる。
【0009】
このような構成を採ることで、抵抗溶接が行われる際に溶接用コンデンサに逆極性に充電されるエネルギーを、再び溶接用コンデンサに所定極性に戻すことによって、電力損失を低減し、発熱を小さくすることができる。また、溶接用コンデンサに前記エネルギーを戻す分だけ溶接用コンデンサの充電時間を短縮することができる。
【0010】
本発明の第2の態様に係るコンデンサ式抵抗溶接機は、前記第1の態様に係るコンデンサ式抵抗溶接機において、放電用スイッチを導通させて、前記所定の極性で充電された前記溶接用コンデンサのエネルギーによって前記溶接トランスと前記放電スイッチとを介する経路に電流が流れる期間に前記経路に存在するインダクタンス成分にエネルギーが蓄積され、該インダクタンス成分に蓄積されたエネルギーによって前記溶接用コンデンサが前記所定の極性とは逆極性に充電される方向に電流を流して前記インダクタンス成分に蓄積されたエネルギーを前記溶接用コンデンサに移動させる。
【0011】
このことによって、放電用スイッチの導通時に、溶接用コンデンサと溶接トランスと放電スイッチとを介する経路に存在するインダクタンス成分に蓄積されたエネルギーによって溶接用コンデンサを所定の極性と逆の極性に充電させ、インダクタンス成分に蓄積されたエネルギー分を溶接用コンデンサに回収させることができる。
【0012】
本発明の第3の態様に係るコンデンサ式抵抗溶接機は、前記第1の態様又は前記第2の態様に係るコンデンサ式抵抗溶接機において、前記エネルギー回収用インダクタンス成分又は前記インダクタンス成分は、前記溶接トランスに含まれる励磁インダクタンス、漏れインダクタンス又は前記溶接トランスとは別個のインダクタ手段のインダクタンスを有する。
【0013】
このような構成を採ることで、エネルギー回収用インダクタンス成分又はインダクタンス成分として、溶接トランスに含まれる励磁インダクタンス、漏れインダクタンスを利用することもできるし、溶接トランスとは別個のインダクタ手段を用いることもできる。
【0014】
本発明の第4の態様に係るコンデンサ式抵抗溶接機は、前記第1の態様から前記第3の態様に係るコンデンサ式抵抗溶接機において、前記放電用スイッチが双方向に導通する半導体スイッチのときには前記放電用スイッチの内部ダイオートを含めた前記エネルギー回収用ダイオード又は前記エネルギー回収用スイッチが前記エネルギー回収用半導体素子として前記放電用スイッチに逆並列に接続される場合に、前記制御回路は、前記第1の溶接電極又は前記第2の溶接電極と前記被溶接物との電気的接触が開放された後に、前記エネルギー回収用半導体素子を導通させて、前記所定の極性とは逆極性に充電された前記溶接用コンデンサの電圧が前記エネルギー回収用半導体素子を介して前記溶接トランスの前記1次巻線に印加される。
【0015】
このことによって、溶接トランスの1次巻線に逆極性に充電された溶接用コンデンサの電圧を有効に印加することで、溶接トランスの磁気リセットを行うことができる。
【0016】
本発明の第5の態様に係るコンデンサ式抵抗溶接機は、前記第1の態様から前記第4の態様に係るコンデンサ式抵抗溶接機において、前記溶接用コンデンサは電解コンデンサの耐圧よりも高い耐圧を有する複数の両極性のコンデンサを並列接続してなり、前記両極性のコンデンサは前記電解コンデンサの最高充電電圧よりも高い充電電圧値に充電される。
【0017】
このような構成を採ることで、溶接用コンデンサの充電電圧を一般的な電解コンデンサの充電電圧よりも大きくできるので、従来よりも溶接電流を増大化させることができ、より大型の被溶接物や高導電性の金属材料からなる被溶接物の抵抗溶接を可能とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、抵抗溶接が行われる際に溶接用コンデンサに逆極性に充電されるエネルギーを、再び溶接用コンデンサに所定極性に戻すことによって、電力損失を低減し、発熱を小さくすることができる。また、溶接用コンデンサに前記エネルギーを戻す分だけ溶接用コンデンサの充電時間を短縮することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態1に係るコンデンサ式抵抗溶接機を説明するための図面である。
【図2】本発明の実施形態1に係るコンデンサ式抵抗溶接機に用いられる充電回路の例を示す図である。
【図3】本発明の実施形態1に係るコンデンサ式抵抗溶接機を説明するための電圧波形図と電流波形図である。
【図4】本発明の実施形態2に係るコンデンサ式抵抗溶接機を説明するための図面である。
【図5】本発明の実施形態2に係るコンデンサ式抵抗溶接機を説明するための電圧波形図と電流波形図である。
【図6】本発明の実施形態3に係るコンデンサ式抵抗溶接機を説明するための図面である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、抵抗溶接の際に溶接用コンデンサの放電に伴ってその溶接用コンデンサに充電される逆極性エネルギーを、溶接用コンデンサのキャパシタンスとインダクタンスとによる共振(振動)作用によって、溶接用コンデンサに所定の極性で回収して、次回の抵抗溶接でその回収したエネルギーを再使用することを特徴としている。なお、本発明は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一の名称の部材を示すものとし、重複した説明は省略する。
【0021】
[実施形態1]
図1〜図3によって本発明に係る実施形態1のコンデンサ式抵抗溶接機について説明する。図1は、本発明の実施形態1に係るコンデンサ式抵抗溶接機を説明するための図面である。図2は、本発明の実施形態1に係るコンデンサ式抵抗溶接機に用いられる充電回路の例を示す図である。また、図3は、本発明の実施形態1に係るコンデンサ式抵抗溶接機を説明するための電圧波形図と電流波形図である。なお、本実施形態1の説明においては、図1〜図3を適宜参照することとする。
【0022】
実施形態1のコンデンサ式抵抗溶接機は、入力端子1、2間に接続される充電回路3と、充電回路3によって充電される溶接用コンデンサ4と、溶接用コンデンサ4に充電されたエネルギーを放電する放電用スイッチ6と、放電用スイッチ6に直列に接続される1次巻線5A及び2次巻線5Bとを有する溶接トランス5と、放電用スイッチ6を少なくともオンさせる制御回路9と、溶接トランス5の2次巻線5Bの一方の端子に接続される第1の溶接電極7と溶接トランス5の2次巻線5Bの他方の端子に接続される第2の溶接電極8とを備えている。
【0023】
このコンデンサ式抵抗溶接機は、充電回路3によって溶接用コンデンサ4が、図1に示す充電回路3の直流出力端3a側の極性がプラスとなる所定の極性に設定電圧まで充電された後に放電用スイッチ6をオンさせ、溶接用コンデンサ4に充電された所定の極性のエネルギーを溶接トランス5の1次巻線5Aと2次巻線5Bとを介して放電させることによって、第1の溶接電極7と第2の溶接電極8との間に挿入される被溶接物W1とW2とに溶接電流を流して抵抗溶接する。さらに、コンデンサ式抵抗溶接機は、エネルギー回収用インダクタンス成分10Bと、溶接用コンデンサ4とエネルギー回収用インダクタンス成分10Bとを有する経路(閉回路)を形成するエネルギー回収用半導体素子としてエネルギー回収用ダイオード10Adと、からなるエネルギー回収用手段10を備える。
【0024】
そして、放電用スイッチ6を導通させ、図1に示す充電回路3の直流出力端3a側の極性がプラスとなる極性で充電された溶接用コンデンサ4のエネルギーによって溶接トランス5を介する経路に電流を流して、図1に示す充電回路3の直流出力端3a側の極性がプラスとなる極性に対して逆極性、すなわち直流出力端3b側の極性がプラスとなる極性に充電された溶接用コンデンサ4のエネルギーを、エネルギー回収用ダイオード10Adを介してエネルギー回収用インダクタンス成分に移動させ、エネルギー回収用インダクタンス成分10Bに蓄積されたエネルギーをエネルギー回収用ダイオード10Adを介して充電回路3の直流出力端3a側の極性がプラスとなる極性で溶接用コンデンサ4に回収させる。
【0025】
入力端子1、2間の先には直流電源又は交流電源が接続され、充電器3に電力を供給する。なお、この直流電源又は交流電源は本発明の必須の構成要素ではない。充電回路3は、特に回路構成に制限されることなく、入力端子1、2から入力される電力を溶接用コンデンサ4に直流出力端3a側がプラスとなる極性で充電するものであるとともに、充電終了後には溶接用コンデンサ4の逆電圧を阻止するスイッチ機能があればよい。具体的な構成及び動作については後述する。
【0026】
溶接用コンデンサ4は、図1では複数のコンデンサを並列に用いて、溶接用コンデンサ4は充電回路3の直流出力端3a、3bとの間に接続され、充電回路3から電力が供給されると、直流出力端3a側がプラスとなる極性で充電される。溶接用コンデンサ4は、例えば有極性の電解コンデンサを複数個並列接続してなるブロックを更に必要個数並列接続してなるコンデンサバンクでも勿論よいが、好ましくは有極性の電解コンデンサの耐圧よりも高い耐圧を有する無極性(両極性)のコンデンサを複数個並列接続してなるブロックを更に必要個数並列接続してなるコンデンサバンクからなる。基本的に、電流は電圧を抵抗で除算した値であるから、溶接用コンデンサ4の充電電圧の増大化は溶接電流の増大化を可能にする。
【0027】
溶接トランス5は、1次巻線5Aに対して2次巻線5Bの巻数を少なくして、2次巻線5B側に1次巻線5A側よりも大きな値の溶接電流を流す。溶接トランス5の1次巻線5Aの一端はエネルギー回収用手段10に、他端は放電用スイッチ6が接続される。溶接トランス5の2次巻線5Bの一端は第1の溶接電極7に、他端は第2の溶接電極8が接続される。
【0028】
放電用スイッチ6には、逆方向阻止特性を有するSCRと称されるサイリスタを用いており、アノードが溶接トランス5の1次巻線5Aと直列に接続され、カソードが充電回路3の直流出力端3bに接続される。放電用スイッチ6は、充電回路3の直流出力端3a側をプラスとする極性で充電された溶接用コンデンサ4のエネルギーを溶接トランス5の1次巻線5Aと2次巻線5Bとを介して放電させる経路を形成するように挿入される。なお、放電用スイッチ6は溶接用コンデンサ4の最大充電電圧値を越える所定の順方向阻止電圧を阻止し得る特性も有する。
【0029】
エネルギー回収用手段10は、溶接用コンデンサ4に並列接続され、溶接トランス5の1次巻線5Aと放電用スイッチ6との直列回路に対しても並列に接続される。エネルギー回収用手段10は、エネルギー回収用素子10Aとエネルギー回収用インダクタンス成分10Bとが直列に接続される。エネルギー回収用インダクタンス成分10Bは、溶接用コンデンサ4の大容量のキャパシタンスと共振(振動)を行う。エネルギー回収用手段10はエネルギー回収効率を高めるために抵抗分はできるだけ小さい方がよい。実施形態1では、エネルギー回収用素子10Aとしてダイオードを用いているので、以下では、エネルギー回収用ダイオード10Adと言う。エネルギー回収用ダイオード10Adは溶接用コンデンサ4の所定の充電極性とは逆極性になるように、カソード側が充電回路3の直流出力端3a側に、アノード側が充電回路3の直流出力端3b側に接続される。エネルギー回収用ダイオード10Adは、溶接用コンデンサ4が所定の充電極性(正極性)に充電されるときには導通せず、溶接用コンデンサ4が所定の充電極性とは逆極性(負極性)に充電されるときに導通する。
【0030】
合成インダクタンス11は、溶接トランス5の1次巻線5Aと2次巻線5Bとの磁気結合の悪さに起因する漏れインダクタンスを主とし、その漏れインダクタンスに配線のインダクタンスを加えて等価的に1次巻線5Aと直列の合成インダクタンスとして示している。等価抵抗12は、1次巻線5Aと2次巻線5Bとの抵抗、溶接トランス5の1次側配線の抵抗、2次側配線、及び第1の溶接電極7と第1の溶接電極8と間の抵抗のすべてを1次側に換算した等価抵抗を示す。図1では、合成インダクタンス11と等価抵抗12とを充電回路3の直流出力端3a側に示したが、充電回路3の直流出力端3b側であっても変わらない。
【0031】
制御回路9は放電用スイッチ6にオン信号を与える他に、充電器3に駆動信号を与える。記号W1、W2はそれぞれ第1の被溶接物、第2の被溶接物を示す。なお、第1の溶接電極7と第1の溶接電極8との間に溶接電流を流すために加圧力を与える加圧機構や第1の溶接電極7又は第1の溶接電極8を駆動する駆動機構、又は各種の検出回路など、本発明の動作を説明する上で特に必要とならない機構についての図示は省略する。また、本発明で用いる抵抗溶接という用語は、溶接箇所の発熱により双方の金属が溶融してナゲットが形成される溶接だけではなく、溶接箇所の発熱により双方の金属が塑性流動化して接合する拡散接合も含む。
【0032】
充電回路3の具体的な例として、図2に2種類の回路構成を挙げて説明する。図2(A)に示す充電回路3は、広く知られた回路構成であり、単相の商用交流電力を受電する入力端子1、2に接続された1次巻線3A1と、1次巻線3A1の電圧を昇圧する2次巻線3A2とを有する電源トランス3Aと、ブリッジ構成に接続された半導体スイッチ3Bと3C、整流ダイオード3Dと3Eからなる制御型の整流回路とにより構成される。半導体スイッチ3Bと3Cは、逆方向阻止特性を有するSCRと称されるサイリスタ、又はFETやIGBTなど他のスイッチ素子とダイオードとを直列接続してなる順、逆方向阻止機能を有する半導体スイッチである。
【0033】
電源トランス3Aの2次巻線3A2の極性を示す黒点側が正極性である電圧が誘起されるときは、図1に示す制御回路9からの駆動信号により、半導体スイッチ3Bが位相制御されてオンし、充電電流は半導体スイッチ3B、溶接用コンデンサ4及び整流ダイオード3Eを介して流れ、先ず溶接用コンデンサ4を図2(A)に示す極性に充電し始める。次に、2次巻線3A2の極性を示す黒点側が負極性である電圧が誘起されるときは、半導体スイッチ3Cが位相制御されてオンし、充電電流は半導体スイッチ3C、溶接用コンデンサ4及び整流ダイオード3Dを介して流れ、溶接用コンデンサ4を図2(A)に示す極性に充電する。このような充電を所要のサイクル行うことによって、溶接用コンデンサ4の充電電圧は段階的に上昇し、設定電圧まで充電される。例えば、充電制御方法は、溶接用コンデンサ4が設定電圧よりもある程度低い所定の電圧まで溶接用コンデンサ4にほぼ一定の充電電流を流す定電流制御が行われ、それ以降は溶接用コンデンサ4に一定の電圧を印加した状態で充電を行う定電圧制御が行われ、溶接用コンデンサ4は設定電圧に充電される。
【0034】
図2(B)に示す充電回路は、倍電圧充電回路であり、互いに直列接続された半導体スイッチ3Bと3Cとを接続する配線に2次巻線3A2の一端を接続すると共に、互いに直列接続された倍電圧用コンデンサ3Fと3Gとを接続する配線に2次巻線3A2の他端を接続している。この倍電圧充電回路にあっては、2次巻線3A2の極性を示す黒点側が正極性である電圧が誘起されるときは、図1に示す制御回路9からの駆動信号によって、半導体スイッチ3Bがオンし、電流は半導体スイッチ3B、倍電圧用コンデンサ3Fを介して流れ、倍電圧用コンデンサ3Fを充電する。次に、2次巻線3A2の極性を示す黒点側が負極性である電圧が誘起されるときは、半導体スイッチ3Cがオンし、電流は倍電圧用コンデンサ3G及び半導体スイッチ3Cを介して流れ、倍電圧用コンデンサ3Gを充電する。
【0035】
倍電圧用コンデンサ3F、3Gは図示の極性で、2次巻線3A2の電圧にほぼ等しい電圧にそれぞれ充電されるので、溶接用コンデンサ4の両端には2次巻線3A2の電圧の2倍の電圧に等しい電圧が印加され、溶接用コンデンサ4は2次巻線3A2の電圧の2倍の電圧に等しい電圧に充電される。この倍電圧充電回路は、現在用いられている電解コンデンサの最大の充電電圧に比べて高い電圧値に充電可能な両極性のコンデンサ、例えば溶接用コンデンサ4がポリプロピレンフィルムなどを誘電体に用いてなるフィルムコンデンサからなる場合により有効である。
【0036】
フィルムコンデンサは無極性、つまり両極性であって、電解コンデンサよりも高い耐圧を有するものがあり、特にポリプロピレンフィルム又は油浸された電気絶縁紙などを誘電体に用いてなるフィルムコンデンサの場合、電解コンデンサの耐圧よりも高いものがあるのは勿論のこと、2倍以上である900V以上の耐圧のものもある。このような耐圧の高い両極性のコンデンサを複数個並列接続してなるコンデンサバンクを溶接用コンデンサ4とする場合でも、容易に溶接用コンデンサ4を電解コンデンサの耐圧よりも高い所望の電圧まで充電することができる。また、溶接用コンデンサ4を電解コンデンサの耐圧よりも高い所望の電圧まで充電する場合にも、電源トランス3の1次巻線と2次巻線との巻数を考慮することによって、図2(A)に示した充電回路を用いることができる。なお、倍電圧用コンデンサ3F、3Gも溶接用コンデンサ4と同時に放電し、また逆極性に充電されるので、ポリプロピレンフィルム又は油浸された電気絶縁紙などを誘電体に用いてなるフィルムコンデンサが望ましい。
【0037】
前記充電回路例において、半導体スイッチ3Bと3Cを整流ダイオード3Dと3Eと同様な整流ダイオードに代え、それら整流ダイオードと溶接用コンデンサ4との間に半導体スイッチ3B又は3Cと同様な半導体スイッチを備えてもよい。この場合には、半導体スイッチを1個にすることができる。その半導体スイッチを位相制御することにより充電電流を制御する。そして、後述する放電用スイッチ6がオンして溶接用コンデンサ4に充電されたエネルギーを放電する前に、前記半導体スイッチがオフしていれば、その放電時に溶接用コンデンサを逆電圧に充電するインダクタンスのエネルギーによる過電流が充電回路3に流れることはない。溶接用コンデンサ4を逆電圧に充電する電流を充電回路3にバイパスすることは、後述するような溶接電流の波尾を長くして溶接性には好ましくない。なお、図1、図2では入力電力が単相交流の場合について説明したが、三相交流であっても勿論よい。入力電力が三相交流電力の場合には広く知られている三相整流回路を用い、三相整流回路によって三相交流入力電力を直流電力に変換すればよい。また、以降に説明する実施形態2、3の場合についても同様である。
【0038】
シミュレーション波形を示す図3を用いて、実施形態1のコンデンサ式抵抗溶接機の動作説明を行う前に、シミュレーション定数について説明する。溶接用コンデンサ4は、ポリプロピレンフィルムを誘電体として用いるフィルムコンデンサで構成するものとして、溶接用コンデンサ4の容量を0.14F(140000μF)、溶接用コンデンサ4の充電電圧V1を900V、溶接トランス5の漏れインダクタンスが40μH、前述した合成抵抗12が10mΩ、エネルギー回収用インダクタンス成分10Bが100μH、及び溶接トランス5の巻数比(1次巻線の巻数/2次巻線の巻数)を20とした。
【0039】
図3(A)は溶接用コンデンサ4の充電電圧波形Vcを示す。図3(A)では、図1の直流出力端3a側の極性がプラスであり、溶接用コンデンサ4の充電電圧波形Vcがプラス方向の極性を所定の極性と言い、その所定の極性とは逆の極性、すなわち、図1の直流出力端3b側がプラスとなる極性であり、充電電圧波形Vcがマイナス方向の極性を逆極性と言う。図3(B)は溶接用コンデンサ4の充放電電流の波形を示し、波形Icは放電電流波形であり、波形Idは溶接用コンデンサ4のマイナスの極性、すなわち図1の直流出力端3b側からエネルギー回収用手段10を通して溶接用コンデンサ4のプラスの極性、すなわち図1の直流出力端3a側に流れる回収電流を示す。
【0040】
時刻t0前に制御回路9からの駆動信号により充電回路3がオンして、前述したように溶接用コンデンサ4の充電を開始する。少なくとも時刻t0では、溶接用コンデンサ4が図示のプラス極性、つまり所定の極性で電圧V1に充電されているものとする。この状態では回路に電流が流れずに静止状態であり、放電用スイッチ6にはほぼV1の電圧が順方向に印加されている。また、この状態では充電回路3の半導体スイッチはすべてオフしており、これら半導体スイッチは前述したように順、逆方向電圧阻止特性を有するので、充電回路3によって入力端子1、2は溶接用コンデンサ4から遮断されている。
【0041】
次に時刻t1で放電用スイッチ6がオンすると、溶接用コンデンサ4に充電されていたエネルギーは急激に放電され、パルス状の放電電流Icが溶接トランス5の1次巻線5A及び放電用スイッチ6を通して流れる。時刻t1では、図示しない加圧機構が第1の溶接電極7と第2の溶接電極8との間に所定の加圧力をかけている。なお、時刻t1では前記加圧力は増大の過程又は所定の大きさの一定値であってもよい。溶接用コンデンサ4から溶接トランス5と放電スイッチ6とを介してパルス状の放電電流Icが流れる経路には、合成インダクタンス11と等価抵抗12とが存在する。このため、溶接用コンデンサ4の電圧がほぼゼロとなる時刻t2後も、合成インダクタンス11に蓄積されたエネルギーによって今まで流れていた方向と同方向に放電電流Icが流れ続ける。合成インダクタンス11と溶接用コンデンサ4のキャパシタンスとの振動(共振)動作によって、溶接用コンデンサ4は、所定の極性とは逆の極性、すなわち、充電回路3の直流出力端3b側がプラスとなる極性の電圧に反転され、インダクタンス成分11に蓄積されていたエネルギーは、溶接用コンデンサ4に移される。
【0042】
このように、放電用スイッチ6を導通させて、所定の極性、すなわち充電回路3の直流出力端3a側がプラスとなる極性の電圧で充電された溶接用コンデンサ4のエネルギーによって溶接トランス5と放電スイッチ6とを介する経路に電流が流れる期間t1からt2の間にこの経路に存在するインダクタンス成分である合成インダクタンス11にエネルギーが蓄積され、合成インダクタンス11に蓄積されたエネルギーによって溶接用コンデンサ4が、所定の極性とは逆極性である直流出力端3b側がプラスとなる極性の電圧に充電される方向に電流を流して、合成インダクタンス11に蓄積されたエネルギーを溶接用コンデンサ4に移動させる。このように、放電用スイッチ6の導通時に、溶接用コンデンサ4と溶接トランス5と放電スイッチ6とを介する経路に存在する合成インダクタンス11に蓄積されたエネルギーによって溶接用コンデンサ4の極性を直流出力端3b側がプラスとなる逆極性に充電させ、合成インダクタンス11に蓄積されたエネルギー分を溶接用コンデンサ4に回収させることができる。
【0043】
時刻t2で、溶接用コンデンサ4が逆極性に充電され始めると、エネルギー回収用手段10のエネルギー回収用ダイオード10Adが順バイアスされて導通し、エネルギー回収用インダクタンス成分10Bを通して電流が流れ始める。これに伴い、エネルギー回収用インダクタンス成分10Bは溶接用コンデンサ4のキャパシタンスと共振し、ほぼ正弦波形の回収電流Idが流れる。溶接用コンデンサ4に逆極性に充電されたエネルギーを所定の極性側、ここでは、充電回路3の直流出力端3a側がプラスとなる極性に戻す。時刻t3で、パルス状の放電電流Icがほぼゼロになり、溶接用コンデンサ4の電圧は逆極性の電圧−V2となる。この電圧V2の値は、溶接用コンデンサ4からの放電エネルギーが等価抵抗12などによって電力消費されるので電圧V1の値よりも小さくなる。
【0044】
時刻t4で、溶接用コンデンサ4の電圧は再び反転して、回収電流Idがほぼゼロになり、溶接用コンデンサ4は所定の極性、つまり充電電圧V1と同一極性の電圧V3になる。上述のように、抵抗溶接が行われる際に溶接用コンデンサに逆極性に充電されるエネルギーを、再び溶接用コンデンサに所定極性に戻すことによって、電力損失を低減し、発熱を小さくすることができる。
【0045】
時刻t4以降は、放電用スイッチ6がオフ状態にあり、エネルギー回収用ダイオード10Adは逆バイアスされてオフであるから、所定の極性の電圧3は充電回路3が次に充電動作を開始する時刻t5まで、ほぼ一定に保持される。なお、電圧V3の値は、回収電流Idが流れる経路で消費される電力分だけは電圧V2の値よりも小さくなる。溶接用コンデンサ4に回収された電圧V3のエネルギーは、溶接時の放電動作で前述の等価抵抗12による電力損失や前述のエネルギー回収動作での電力損失によって小さくなる。溶接用コンデンサ4の最初の充電電圧V1までは当然に戻らないが、従来では発熱させていた溶接用コンデンサ4の逆極性エネルギーを溶接用コンデンサ4に回収して所定の極性のエネルギーとして再使用することができる。つまり、図3(A)において、時刻t5で充電回路3が充電動作するとき、溶接用コンデンサ4は電圧V3まで充電されていることになり、(V1−V3)の電圧を上昇させる電力を溶接用コンデンサ4に供給すればよいことになる。したがって、このコンデンサ式抵抗溶接機によれば電力効率が向上し、発熱も小さく、また、電圧V3から充電を行うので溶接用コンデンサ4を充電するのに要する充電時間を短くできる。
【0046】
次に、エネルギー回収用手段10のエネルギー回収用インダクタンス成分10Bについて説明する。エネルギー回収用インダクタンス成分10Bのインダクタンス値が小さ過ぎると、溶接用コンデンサ4が逆極性方向に充電開始される時刻t2以降に直ぐに合成インダクタンス11のエネルギーが溶接用コンデンサ4の逆極性充電エネルギーとして移行しない。エネルギーが放電電流としてエネルギー回収用ダイオード10Aとエネルギー回収用インダクタンス成分10Bとを通して長い間循環し、放電用スイッチ6が逆バイアスされずにオンを続けるので、溶接電流の波尾が長くなり、溶接電流のパルス幅が必要以上に長くなる。コンデンサ式抵抗溶接機では、溶接電流の波高値やパルス幅も溶接性能に影響するので、溶接電流のパルス幅が必要以上に長いのは好ましくない。シミュレーションの結果では、エネルギー回収用インダクタンス成分10Bの値は溶接トランス5の漏れインダクタンス値よりも大きいことが望ましく、この場合には溶接電流の波尾を不必要に長くしない。
【0047】
なお、被溶接物W1とW2との抵抗溶接については従来と同じであるので、詳しく説明をしないが、図示しない駆動機構及び加圧機構が動作して第1の溶接電極7を下方向、又は第2の溶接電極8を上方向、あるいはこれら溶接電極を接近する方向に動かす。被溶接物W1とW2との間に所定の加圧力をかけた状態、又は加圧力が増大している過程で、放電用スイッチ6をオンさせる。溶接用コンデンサ4の放電電流が溶接トランス5の1次巻線5Aを流れるのに伴い、2次巻線5Bに大きなパルス状の溶接電流が流れ、その溶接電流が被溶接物W1とW2との間を流れることによって、不図示の溶接箇所で発熱し、抵抗溶接される。
【0048】
図1では、エネルギー回収用手段10のエネルギー回収用素子10Aとしてダイオードを用いる例を説明したが、エネルギー回収用素子10Aとして、順、逆方向電圧を阻止し得る特性を有するサイリスタなどの半導体スイッチを用いても良い。この実施形態1の以下の説明では、この半導体スイッチをエネルギー回収用スイッチ10Asと言う。エネルギー回収用ダイオードを用いた場合と異なる部分について説明する。図3(A)で、エネルギー回収用スイッチ10Asがオンするまで、溶接用コンデンサ4の電圧は所定の極性とは逆の極性の電圧−V2に維持されるところが前述とは異なる。
【0049】
制御回路9は、充電回路3が充電動作を開始する時刻t5よりも前に、エネルギー回収用スイッチ10Asをオンさせ、前述したようにエネルギー回収用インダクタンス成分10Bと溶接用コンデンサ4のキャパシタンスとが共振し、溶接用コンデンサ4の逆の極性の電圧−V2のエネルギーを所定の極性の電圧V3のエネルギーに反転させる。溶接用コンデンサ4の逆極性の電圧が−V2まで大きくなって行く過程で放電用スイッチ6が逆バイアスされるので、放電用スイッチ6をオフさせることができる。したがって、溶接トランス5の1次巻線5Aを流れる電流、言い換えれば溶接電流の波尾が長くなるのを防ぐことができるだけでなく、溶接用コンデンサ4に残留する所定極性のエネルギーも大きくなるので好都合である。この場合には、エネルギー回収用スイッチ10Asがオンするまで、溶接用コンデンサ4には逆極性の電圧V2がかかるので、溶接用コンデンサ4は有極性の電解コンデンサよりも無極性(両極性)のコンデンサからなるのが望ましい。
【0050】
特に、被溶接物W1とW2が銅又はアルミニウムなどのように抵抗率の小さい高導電性の金属材料からなるときは、前述の等価抵抗12が小さくなる。また、実質的に溶接に役立つ電流部分のパルス幅が狭くて(例えば、7ms以下)、急峻に増大するパルス状の溶接電流を用いると共に、被溶接物W1とW2に対する加圧力の応答性を高速とする溶接方法を用いるので、等価抵抗12で消費される電力が小さくなり、溶接用コンデンサ4の逆極性の電圧−V2のエネルギーは大きくなる傾向がある。この場合には、溶接用コンデンサ4として有極性の電解コンデンサを用いる場合よりも、ポリプロピレンフィルムなどを誘電体として用いる無極性のフィルムコンデンサを用いた方が好ましい。このようにすることによって、溶接用コンデンサ4に何らのダメージを与えることなく、大きなエネルギーをより安全に回収することができる。
【0051】
溶接機全体の配線による等価インダクタンスや等価抵抗などからなる等価インピーダンスを低減する努力を行っても、溶接電流は溶接用コンデンサの充電電圧と前記等価インピーダンスなどの関係でピーク値や電流量が制限されるので、従来では更に大きな電流値を要する抵抗溶接に応ずることができなかった。しかし、本発明によれば、溶接用コンデンサ4として、ポリプロピレンフィルム又は油浸した電気絶縁紙などを誘電体として用いた無極性のフィルムコンデンサなどを用いた場合には、溶接用コンデンサの充電電圧を電解コンデンサの充電電圧よりも大きく、例えば2倍以上にすることができるので、従来よりも大容量の溶接電流でもって被溶接物を抵抗溶接することができる。したがって、より大型の被溶接物や高導電性の金属材料からなる被溶接物を抵抗溶接できる可能性を有する。また、溶接用コンデンサ4には所定の極性のエネルギーが回収されるので、その電圧分だけ再充電開始時の突入電流が流れ難く、充電時間の短縮化を図ることができる。
【0052】
[実施形態2]
コンデンサ式抵抗溶接機において、各溶接サイクルで溶接トランスの1次巻線に同方向だけに放電電流を流すと、溶接トランス5が偏励磁することが知られている。溶接トランス5が偏励磁すると、2次巻線5Bに流れる溶接電流が1次巻線5Aを流れる電流に比例しないで減少し、電力効率が低下する可能性がある。この偏励磁を軽減又は防止する対策として、溶接用コンデンサから溶接トランスの1次巻線に交互の向きに放電電流を流して、溶接トランスの残留磁束を磁気リセットする方法が知られている。この実施形態2のコンデンサ式抵抗溶接機では、溶接用コンデンサに充電される前述した逆極性のエネルギーを溶接トランスの1次巻線を流れる放電電流とは逆方向に流して、溶接トランスの偏励磁を軽減又は防止を図っている。
【0053】
図4及び図5により、本発明に係る実施形態2のコンデンサ式抵抗溶接機について、前記実施形態1と異なる部分を主として説明する。図4は、本発明の実施形態2に係るコンデンサ式抵抗溶接機を説明するための図面であり、図5は、本発明の実施形態2に係るコンデンサ式抵抗溶接機を説明するための電圧波形図と電流波形図である。図4において、エネルギー回収用素子10Aが放電用スイッチ6と極性を逆にして並列に接続される。エネルギー回収用素子10Aはサイリスタなどの前述した半導体スイッチからなり、溶接用コンデンサ4の所定の極性の充電電圧V1よりも大きな所定の逆方向の電圧を阻止し得る特性を有する。ここでは、エネルギー回収用素子10Aとして半導体スイッチからなるエネルギー回収用スイッチ10Asとする。なお、エネルギー回収用素子10Aが半導体スイッチである場合には、放電用スイッチ6とエネルギー回収用素子10Aとがトライアックのような双方向にスイッチングを行う双方向性スイッチ素子であってもよい。
【0054】
この実施形態2では、エネルギー回収用インダクタンス成分として、溶接トランス5の漏れインダクタンスや励磁インダクタンスを利用する。漏れインダクタンス11Aは、溶接トランス5の漏れインダクタンス分であり、図4では、溶接トランス5の1次巻線5Aと直列のインダクタンスとして等価的に示す。なお、溶接トランス5の漏れインダクタンス11Aに比べて配線インダクタンスは小さいので無視するものとする。励磁インダクタンス13は、溶接トランス5の2次側開放インダクタンス、つまり、2次巻線5Bの両端を開放したときの1次巻線5Aのインダクタンスである。図4では励磁インダクタンス13を1次巻線5Aと並列のインダクタンスとして等価的に示す。
【0055】
この実施形態2に係るコンデンサ式抵抗溶接機と実施形態1のものとの主な動作の違いは、溶接用コンデンサ4に充電された逆極性のエネルギーが、エネルギー回収用スイッチ10As及び溶接トランス5の1次巻線5Aを介して溶接用コンデンサ4に回収されるところにある。詳しくは後述するが、一例として図示しない駆動機構及び加圧機構が加圧力を解放して第1の溶接電極7又は第2の溶接電極8と被溶接物W1又はW2との間の電気的接続が遮断されてからエネルギー回収用スイッチ10Asをオンさせて、溶接用コンデンサ4に充電された逆極性のエネルギーを1次巻線5Aを介して放電することにより、1次巻線5Aに放電電流の方向(実線の矢印方向X)とは逆向きの方向(破線の矢印方向Y)に回収用電流を流す。
【0056】
実施形態2に係るコンデンサ式抵抗溶接機の特徴的な構成及び動作は、エネルギー回収用半導体素子10Aであるエネルギー回収用スイッチ10Asが放電用スイッチ6に逆並列に接続される。そして、制御回路9は、第1の溶接電極7又は第2の溶接電極8と被溶接物W1とW2との電気的接触が開放された後に、エネルギー回収用スイッチ10Asを導通させて、所定の極性とは逆極性である直流出力端3b側がプラスとなる極性の電圧に充電された溶接用コンデンサ4の電圧がエネルギー回収用スイッチ10Asを介して溶接トランスの1次巻線に印加される。溶接トランス5の1次巻線5Aに逆極性に充電された溶接用コンデンサ4の電圧を有効に印加することで、溶接トランス5の磁気リセットを行うことができる。
【0057】
基本的に、トランスの鉄心の磁気飽和、磁気リセットは、その1次巻線の励磁インダクタンスにかかる電圧の電圧・時間積だけで決まる。溶接トランス5の2次側を開放するとき、励磁インダクタンス13も等価的に両端が開放されて有効となり、後述するように溶接用コンデンサ4の逆電圧が漏れインダクタンス11Aと励磁インダクタンス13との直列回路に直接加わる。前述したように、溶接トランス5の鉄心は励磁インダクタンス13にかかる逆電圧分の電圧・時間積で励磁されるので、溶接トランス5の2次側を開放しない場合に比べて、励磁インダクタンス13は早く磁気飽和し、溶接トランス5のインダクタンス分としては漏れインダクタンス11Aだけとなる。この逆電圧による励磁インダクタンス13の磁気飽和で、溶接トランス5の鉄心は、放電時の励磁方向と逆方向に強く励磁され、磁気リセットする。磁気リセットすることで、次の放電時に溶接トランス5の鉄心が磁気飽和しにくくなる。つまり、溶接トランス5は偏励磁しにくくなる。
【0058】
また、溶接トランス5の1次巻線5Aの2次側を被溶接物で短絡した状態では、この励磁インダクタンス13も等価的に両端が短絡され、溶接用コンデンサ4の逆電圧は漏れインダクタンス11Aがほとんど負担し、励磁インダクタンス13には逆電圧がほとんど加わらない。この結果、溶接トランス5の鉄心は、放電時と逆方向にほとんど励磁されることがなく、磁気リセットしにくくなり、次の放電時に大きな放電電流によって溶接トランス5の鉄心が磁気飽和しやすくなる。分かり易く説明すると、溶接用コンデンサ4の充電電荷の放電時には励磁インダクタンス13の両端が等価的に短絡されるが、放電電流は大きいので被溶接物W1,W2による電圧降下が大きく、2次巻線の電圧は高くなる。この2次巻線の高い電圧が1次巻線に反映され、1次巻線5Aにはエネルギー回収時に流れる電流による電圧に比べて大きな電圧が印加される。このことから分かるように、エネルギー回収時には放電時の電圧に比べて小さい逆電圧が1次巻線5Aに印加されるだけであるが、励磁インダクタンス13にもその逆電圧が印加されるので、その分だけ、溶接トランス5の鉄心は放電時と逆方向に強く励磁され、磁気リセットする。したがって、この磁気リセットを考えると、エネルギー回収用スイッチ10Asをオンさせるときには溶接トランス5の2次側を開放することが望ましい。
【0059】
次に、実施形態2に係るコンデンサ式抵抗溶接機の動作についてより詳細に説明する。図5は動作説明を理解し易くするための波形図であり、シミュレーションした波形を示す。溶接用コンデンサ4としてポリプロピレンフィルムなどを誘電体として用いている無極性のフィルムコンデンサなどを用いるものとして、溶接用コンデンサ4の容量を0.14F(140000μF)、溶接用コンデンサ4の充電電圧V1を900V、溶接トランス5の漏れインダクタンス11Aが40μH、前述した合成抵抗12が10mΩ、漏れインダクタンス11Aと励磁インダクタンス13とからなるエネルギー回収用インダクタンスを100μH、及び溶接トランス5の巻数比(1次巻線の巻数/2次巻線の巻数)を20とした。
【0060】
図5(A)は溶接用コンデンサ4の充電電圧波形Vcを示し、図4の直流出力端3a側がプラスとなる極性であり、充電電圧波形Vcがプラス方向の極性を所定の極性と言う。また、その所定の極性とは逆の極性、すなわち、図4の直流出力端3b側がプラスとなる極性であり、充電電圧波形Vcがマイナス方向の極性を逆極性と言う。図5(B)は溶接用コンデンサ4の充放電電流の波形を示し、波形Icが放電用スイッチ6を通して流れる放電電流の波形、波形Idがエネルギー回収用スイッチ10As及び溶接トランス5の1次巻線5Aを通して溶接用コンデンサ4に流れる回収電流を示す。
【0061】
時刻t0前に制御回路9からの駆動信号により充電回路3がオンして、溶接用コンデンサ4を充電し始め、少なくとも時刻t0では、溶接用コンデンサ4が図4の直流出力端3a側がプラスとなる極性、つまり所定の極性で電圧V1に充電されているものとする。この状態では回路に電流が流れず、静止状態にあり、放電用スイッチ6には電圧V1が印加されている。また、この状態では充電回路3の半導体スイッチはオフしており、これら半導体スイッチは前述したように逆電圧を阻止する特性を有するので、充電回路3によって入力端子1、2は溶接用コンデンサ4から遮断されている。この状態で不図示の駆動機構及び加圧機構が動作を開始し、第1の溶接電極7と第2の溶接電極8とに所定の加圧力を与える。
【0062】
次に、時刻t1で制御回路9が放電用スイッチ6をオンさせると、溶接用コンデンサ4の所定の極性の充電エネルギーは急激に放電され、パルス状の放電電流Icが溶接トランス5の1次巻線5A及び放電用スイッチ6を通して実線で示す矢印方向Xに流れる。パルス状の放電電流Icが流れる電流路には溶接トランス5の漏れインダクタンス11Aが存在するので、溶接用コンデンサ4のキャパシタンスと漏れインダクタンス11Aとで振動(共振)し、溶接用コンデンサ4の電圧は時刻t2でほぼゼロとなった後、所定の極性とは逆の極性の電圧に反転され、電圧−V2となる。この電圧V2の値は、放電エネルギーが等価抵抗12によって電力消費されるので電圧V1の値よりも小さくなる。
【0063】
時刻t2以降で、溶接用コンデンサ4の逆極性の電圧値がV2まで大きくなって行く過程で放電用スイッチ6が逆バイアスされ、放電用スイッチ6をオフさせることができる。したがって、溶接トランス5の1次巻線5Aを流れる電流、言い換えれば溶接電流の波尾が長くなるのを防ぐことができる。この場合には、エネルギー回収用スイッチ10Asがオンするまで、溶接用コンデンサ4には逆極性の電圧V2がかかるので、溶接用コンデンサ4は有極性の電解コンデンサよりも無極性(両極性)のコンデンサからなるのが望ましい。
【0064】
時刻t3でエネルギー回収用スイッチ10Asをオンさせる前に、不図示の加圧機構などを動作させて、第1の溶接電極7と第2の溶接電極との間にかけられていた加圧力を開放し、例えば第1の溶接電極7から被溶接物W1、W2を電気的に遮断する。この状態において、時刻t3で、制御回路9がエネルギー回収用スイッチ10Asをオンさせる。もし、2次巻線5Bの両端が第1の溶接電極7と第2の溶接電極と被溶接物W1、W2とにより実質的に短絡されている状態で、エネルギー回収用スイッチ10Asをオンさせると、波形Icで示される放電電流と逆方向の回収用電流が1次巻線5Aを介して2次巻線5Bを通して被溶接物W1、W2に流れる。被溶接物の種類によってはこの回収用電流が流れるのは好ましくない。なお、図5では、時刻t2とt3との時間間隔が放電電流Icのパルス時間に近い短時間で示されているが、実際には、不図示の加圧機構などを動作させて、第1の溶接電極7と第2の溶接電極8との間にかけられていた加圧力を開放するための機構動作時間として数秒かかる場合がある。
【0065】
図5は、図4のコンデンサ式抵抗溶接機で2次巻線5B間を開放した状態での時刻t3で、エネルギー回収用スイッチ10Asをオンさせる。エネルギー回収用スイッチ10Asのオンに伴って、溶接トランス5の励磁インダクタンス13と漏れインダクタンス11Aとからなるエネルギー回収用インダクタンスと溶接用コンデンサ4のキャパシタンスと直列共振(振動)し、回収電流Idが破線で示す矢印方向Yに流れ、溶接用コンデンサ4に逆極性に充電されたエネルギーを所定の極性側に戻す。この動作によって、溶接用コンデンサ4の電圧は再び反転し、回収電流Idがほぼゼロになる時刻t4で、溶接用コンデンサ4は所定の極性、つまり充電電圧V1と同一極性の電圧V3になる。この電圧3は、放電用スイッチ6がオフ状態にあるから、充電回路3が充電動作を開始する時刻t5まで、ほぼ一定に保持される。
【0066】
この実施形態2でも、充電回路3が次に充電動作するとき、溶接用コンデンサ4は電圧V3まで充電されているので、(V1−V3)の電圧を上昇させる電力を溶接用コンデンサ4に供給すればよいことになる。したがって、このコンデンサ式抵抗溶接機によれば電力効率が向上し、発熱も小さく、また、電圧V3から充電を行うので溶接用コンデンサ4を充電するのに要する充電時間を短くできる。また、回収電流Idによる影響を溶接物に与えることなく、回収電流Idを放電電流とは逆の方向に流して、前述したように少なくとも溶接トランス5の偏励磁を軽減することができる。
【0067】
以上では、エネルギー回収用スイッチ10Asを用いる例を述べたが、被溶接物の種類によっては、図5の波形Icで示される溶接電流に引き続いて逆極性の電流が流れても構わないものもある。この場合には、半導体スイッチ10Asに代えてダイオードをエネルギー回収用素子10Aとして用いてもよい。この場合には、エネルギー回収用ダイオード10Adによって、自動的にエネルギー回収動作が行われる。また、不図示の加圧機構が第1の溶接電極7と第2の溶接電極とに加圧力を加えた状態、つまり2次巻線5Bの両端が実質的に短絡されている状態でエネルギー回収用スイッチ10Asをオンさせてもよい。この場合には、溶接用コンデンサ4に回収されるエネルギーは前述の場合よりも小さくなるが、溶接用コンデンサ4に充電された逆極性のエネルギーの一部分を回収することができる。なお、放電用スイッチが双方向に導通する半導体スイッチの場合は、放電用スイッチの内部ダイオートをエネルギー回収用半導体素子とすることができる。
【0068】
[実施形態3]
この実施形態3に係るコンデンサ式抵抗溶接機は、図6に示すように、溶接用コンデンサ4の放電電流と逆向きの充電電流が溶接トランス5の1次巻線5Aに流れるように構成される。前述したものと同様なエネルギー回収用スイッチ10Asとエネルギー回収用インダクタンス成分10Bとからなるエネルギー回収用手段10を溶接用コンデンサ4に並列に配置したことを特徴としている。この実施形態3においては、溶接トランスに偏励磁が生じないコンデンサ式抵抗溶接機にあっても、前述と同様にして電力効率を向上させることができる。
【0069】
図6により、本発明に係る実施形態3のコンデンサ式抵抗溶接機について、前記実施形態1と異なる部分を主として説明する。図6に示すように、充電回路3の一対の直流出力端3aと3bとの間に放電用スイッチ6が接続されている。放電用スイッチ6のアノードは溶接トランス5の1次巻線5Aの黒点でない極性側に接続されている。充電回路3の直流出力端3aは、1次巻線5Aの黒点でない極性側と放電用スイッチ6のアノードとの間に接続され、充電回路3の直流出力端3bは放電用スイッチ6のカソード側及び溶接用コンデンサ4の一端に接続される。溶接用コンデンサ4の他端は溶接トランス5の1次巻線5Aの黒点側に接続される。
【0070】
この実施形態3に係る発明のコンデンサ式抵抗溶接機の動作を説明する。制御回路9からの駆動信号によって充電回路3が充電動作を開始すると、充電回路3の直流出力端3aから充電電流は溶接トランス5の1次巻線5Aを通して破線で示す矢印方向Yに流れ、溶接用コンデンサ4を図示極性の所定の極性に充電する。溶接用コンデンサ4の充電電圧が設定電圧に達すると、制御回路9は充電回路3への駆動信号の供給を止め、その後、放電用スイッチ6にオン信号を与える。放電用スイッチ6がオンすると、溶接用コンデンサ4に充電されていたエネルギーは実線で示す矢印方向Xの放電電流となって、溶接トランス5の1次巻線5Aを通して流れる。
【0071】
この実施形態3においても、放電用スイッチ6がオンして溶接用コンデンサ4の充電エネルギーが放電されるとき、溶接トランス5の漏れインダクタンスなどと溶接用コンデンサ4のキャパシタンスが直列共振(振動)し、溶接用コンデンサ4には図示極性と逆の極性、すなわち直流出力端3b側がプラスとなる極性にエネルギーが充電される。溶接用コンデンサ4が逆極性に充電されることにより、放電用スイッチ6は逆バイアスされ、オフする。また、充電回路3もオフであるので、前述したように溶接用コンデンサ4の逆極性の電圧はエネルギー回収用手段10のエネルギー回収用スイッチ10Asがオンするまでほぼ一定に保持される。
【0072】
前述したように、エネルギー回収用スイッチ10Asがオンすると、エネルギー回収用インダクタンス成分10Bと溶接用コンデンサ4のキャパシタンスとが直列共振(振動)し、溶接用コンデンサ4に充電された逆極性のエネルギーはエネルギー回収用手段10を通して溶接用コンデンサ4に回収される。つまり、溶接用コンデンサ4に充電された逆極性のエネルギーは反転されて溶接用コンデンサ4に所定の極性に戻される。したがって、このコンデンサ式抵抗溶接機によれば電力効率が向上し、発熱も小さく、また、前回の逆極性のエネルギーによるある充電電圧から充電を行うので溶接用コンデンサ4を充電するのに要する充電時間を短くできる。なお、実施形態3では、溶接用コンデンサ4の充電は、溶接用コンデンサ4が前述したエネルギーの回収による電圧に充電されていることなどから、第1の溶接電極7と第2の溶接電極8との間を開放させた状態で行うことが好ましい。
【0073】
なお、図1に示したように、エネルギー回収用素子10Aは半導体スイッチではなく、ダイオードであってもよい。エネルギー回収動作は図1により説明したコンデンサ式抵抗溶接機と同様であるので、説明を省略する。また、図4により説明した実施形態2に係るコンデンサ式抵抗溶接機と同様に、エネルギー回収用スイッチ10Asを放電用スイッチ6と逆極性に並列接続し、図6のエネルギー回収用インダクタンス成分10Bを図4の励磁インダクタンス13としてもよい。この回路は、図4により説明した実施形態2に係るコンデンサ式抵抗溶接機の溶接用コンデンサ4の充電経路を図6のように変更した場合と同じ構成になる。図4及び図6により説明した動作と同様の説明は省略するが、この回路の動作を簡単に説明すると、溶接用コンデンサ4の充電電流は溶接トランス5の1次巻線5Aを通して破線で示す矢印方向Yに流れ、次に充電電流とは反対方向の矢印方向Xに放電スイッチを介して放電電流が流れ、さらに、放電電流とは反対方向の矢印方向Yにエネルギー回収用スイッチ10Asを介して電流が流れて溶接用コンデンサ4にエネルギーが回収される。このように、充電電流、放電電流、エネルギー回収用の電流が流れることによって磁気リセットを行うことができるため、より十分に磁気リセットを行うことが可能になる。
【0074】
なお、図1、図4及び図6では第1の溶接電極7と第2の溶接電極8とを上下に向い合わせて配置したが、これに限られることは無く、例えば、第1の溶接電極7と第2の溶接電極8とをほぼ平行(図面で横方向)に配置し、二つ以上の被溶接物の厚み方向とその厚み方向と垂直な方向(水平方向)に溶接電流を流してシリーズ抵抗溶接を行っても勿論よい。また、必要に応じて、抵抗溶接前に予熱を行ったり、あるいは溶接後に後熱を行ったりすることがある。これらの場合にも溶接用コンデンサを適した所定の電圧まで充電し、その充電したエネルギーを溶接トランスを介して放電し、被溶接物に予熱用電流、あるいは後熱用電流を流したときに、溶接用コンデンサに充電される逆極性のエネルギーを、エネルギー回収用手段10により前述と同様に回収して節電を図ることができる。
【0075】
なお、前記の実施形態1から3においては、エネルギー回収用インダクタンス成分又は前記インダクタンス成分は、前記溶接トランスに含まれる励磁インダクタンス、漏れインダクタンスを利用したが、前記溶接トランスとは別個のインダクタ手段のインダクタンスとしてもよい。特に大容量の場合に、用いる溶接トランス上に存在する励磁インダクタンス、漏れインダクタンス利用することは有効である。
【産業上の利用可能性】
【0076】
種々の金属材料からなる被溶接物を抵抗溶接することができる。
【符号の説明】
【0077】
1、2・・・入力端子
3・・・充電回路
3a、3b・・・充電回路3の直流出力端
3A・・・充電回路3の電源トランス
3A1・・・電源トランス3Aの1次巻線
3A2・・・電源トランス3Aの2次巻線
3B、3C・・・半導体スイッチ
3D、3E・・・整流ダイオード
4・・・溶接用コンデンサ
5・・・溶接トランス
5A・・・1次巻線
5B・・・2次巻線
6・・・放電用スイッチ
7・・・第1の溶接電極
8・・・第2の溶接電極
9・・・制御回路
10・・・エネルギー回収用手段
10A・・・エネルギー回収用素子(スイッチ又はダイオード)
10Ad・・・エネルギー回収用ダイオード
10As・・・エネルギー回収用スイッチ
10B・・・エネルギー回収用インダクタンス成分
11・・・合成インダクタンス11
11A・・・溶接トランス5の漏れインダクタンス
12・・・等価抵抗
W1、W2・・・被溶接物
Vc・・・溶接用コンデンサ4の電圧波形
Ic・・・溶接用コンデンサ4の放電電流の波形
Id・・・溶接用コンデンサ4の回収電流の波形

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端子に接続される充電回路と、
該充電回路によって充電される溶接用コンデンサと、
該溶接用コンデンサに充電されたエネルギーを放電する放電用スイッチと、
該放電用スイッチに直列に接続される1次巻線及び2次巻線とを有する溶接トランスと、
前記放電用スイッチを少なくともオンさせる制御回路と、
前記2次巻線の一方の端子に接続される第1の溶接電極と前記2次巻線の他方の端子に接続される第2の溶接電極と、を備え、
前記充電回路によって前記溶接用コンデンサが所定の極性の設定電圧まで充電された後に前記放電用スイッチを導通させ、前記溶接用コンデンサに充電されたエネルギーを前記溶接トランスの前記1次巻線と前記2次巻線とを介して放電させることによって、前記第1の溶接電極と前記第2の溶接電極との間に溶接電流を流して被溶接物を抵抗溶接する溶接機であって、
エネルギー回収用インダクタンス成分と、前記溶接用コンデンサと前記エネルギー回収用インダクタンス成分とを有する経路を形成するエネルギー回収用半導体素子とを備え、
前記放電用スイッチを導通させ、前記所定の極性で充電された前記溶接用コンデンサのエネルギーによって前記溶接トランスを介する経路に電流を流して前記所定の極性に対して逆極性に充電された前記溶接用コンデンサのエネルギーを、前記エネルギー回収用半導体素子を介して前記エネルギー回収用インダクタンス成分に移動させ、前記エネルギー回収用インダクタンス成分に蓄積されたエネルギーを前記エネルギー回収用半導体素子を介して前記所定の極性で前記溶接用コンデンサに回収させることを特徴とするコンデンサ式抵抗溶接機。
【請求項2】
前記放電用スイッチを導通させて、前記所定の極性で充電された前記溶接用コンデンサのエネルギーによって前記溶接トランスと前記放電スイッチとを介する経路に電流が流れる期間に前記経路に存在するインダクタンス成分にエネルギーが蓄積され、該インダクタンス成分に蓄積されたエネルギーによって前記溶接用コンデンサが前記所定の極性とは逆極性に充電される方向に電流を流して前記インダクタンス成分に蓄積されたエネルギーを前記溶接用コンデンサに移動させることを特徴とする請求項1に記載のコンデンサ式抵抗溶接機。
【請求項3】
前記エネルギー回収用インダクタンス成分又は前記インダクタンス成分は、前記溶接トランスに含まれる励磁インダクタンス、漏れインダクタンス又は前記溶接トランスとは別個のインダクタ手段のインダクタンスを有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコンデンサ式抵抗溶接機。
【請求項4】
前記放電用スイッチが双方向に導通する半導体スイッチのときには前記放電用スイッチの内部ダイオートを含めた前記エネルギー回収用ダイオード又は前記エネルギー回収用スイッチが前記エネルギー回収用半導体素子として前記放電用スイッチに逆並列に接続される場合に、
前記制御回路は、前記第1の溶接電極又は前記第2の溶接電極と前記被溶接物との電気的接触が開放された後に、前記エネルギー回収用半導体素子を導通させて、前記所定の極性とは逆極性に充電された前記溶接用コンデンサの電圧が前記エネルギー回収用半導体素子を介して前記溶接トランスの前記1次巻線に印加されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のコンデンサ式抵抗溶接機。
【請求項5】
前記溶接用コンデンサは電解コンデンサの耐圧よりも高い耐圧を有する複数の両極性のコンデンサを並列接続してなり、
前記両極性のコンデンサは前記電解コンデンサの最高充電電圧よりも高い充電電圧値に充電されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のコンデンサ式抵抗溶接機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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