コンドロイチナーゼABC含有医薬組成物
【課題】不純物が混在せず高純度で比活性が高く安定性の高いコンドロイチナーゼABCを有効成分とするコンドロイチナーゼABC含有医薬組成物の提供。
【解決手段】分子量がSDS-PAGE及びゲル濾過法において約 100,000ダルトンで、N末端アミノ酸がアラニンであり、C末端アミノ酸がプロリンであり、結晶化し得る精製コンドロイチナーゼABCおよびその結晶。
コンドロイチナーゼABC産生菌体抽出物から核酸を除去し、弱カチオン交換交換樹脂と強カチオン交換樹脂とを用いて濃度勾配カラムクロマトグラフィー処理して精製コンドロイチナーゼABCを精製し、必要に応じて結晶化する方法。
【解決手段】分子量がSDS-PAGE及びゲル濾過法において約 100,000ダルトンで、N末端アミノ酸がアラニンであり、C末端アミノ酸がプロリンであり、結晶化し得る精製コンドロイチナーゼABCおよびその結晶。
コンドロイチナーゼABC産生菌体抽出物から核酸を除去し、弱カチオン交換交換樹脂と強カチオン交換樹脂とを用いて濃度勾配カラムクロマトグラフィー処理して精製コンドロイチナーゼABCを精製し、必要に応じて結晶化する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極めて精製度が高く、安定性の高い精製コンドロイチナーゼABC、コンドロイチナーゼABC結晶及びその製造法に関する。また、本発明は、このようなコンドロイチナーゼABCを有効成分とする医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンドロイチナーゼABC(Chondroitinase ABC)〔EC 4.2.2.4〕は、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン、デルマタン硫酸等を不飽和糖を含む二糖又はオリゴ糖に分解する酵素である。この酵素は、プロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris) 等の細菌から生産されることが知られている。
そして、コンドロイチナーゼABCを得るには、菌体破壊液をストレプトマイシン処理、硫安処理、DEAEセルロース処理及びホスホセルロース処理を順次行う方法(非特許文献1 J.Biol.Chem.,243 (7),1523-1535(1968))あるいは菌体破壊液をDEAEセルロース処理、ハイドロキシアパタイト処理、亜鉛固定化アガロース処理、ゲル濾過処理を順次行う方法(非特許文献2 Agric.Biol.Chem.,50(4),1057-1059(1986);特許文献1 特開昭62-122588号公報) 等が知られている。
一方、近年コンドロイチナーゼABCまたはACを椎間板腔に直接投与して椎間板ヘルニアを治療する試みが行なわれており椎間板ヘルニアの治療薬としての用途が期待されている〔特許文献2 米国特許第4696816号明細書、非特許文献3 Clinical Orthopaedics,253,301-308(1990) 〕
【0003】
特に、プロテウス・ブルガリスの生産するコンドロイチナーゼABCは、プロテオグリカンからコンドロイチン硫酸またはデルマタン硫酸側鎖を選択的に除去し、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸には作用しないこと、及び酵素の生産量が多いことから産業上の利用に適していると考えられている。そして、上記した方法によりプロテウス・ブルガリスの培養物からコンドロイチナーゼABC活性を有する酵素調製物を得ることが行なわれているが、これらは、いずれもプロテアーゼ活性、エンドトキシン、核酸が混在しており、あるいは酵素蛋白として不安定であったりするので前記のような椎間板ヘルニアの治療薬として投与したり高純度の試薬として用いるには不適当であった〔非特許文献4 J.Biol.Chem., 243(7),1523-1535(1968)、特許文献3 英国特許第1067253号明細書、非特許文献5 Agric.Biol.Chem., 50(4),1057-1059(1986) 、特許文献4 特開昭62−122588号公報、特許文献5 特開平2-57180号公報〕。
特に、このような不純物の混在あるいは安定性が劣ることは、コンドロイチナーゼABCを医薬品として利用する場合に致命的な欠点になるおそれがある。
【特許文献1】特開昭62-122588号公報
【特許文献2】米国特許第4696816号明細書
【特許文献3】英国特許第1067253号明細書
【特許文献4】特開昭62−122588号公報
【特許文献5】特開平2-57180号公報
【非特許文献1】J.Biol.Chem.,243 (7),1523-1535(1968)
【非特許文献2】Agric.Biol.Chem.,50(4),1057-1059(1986)
【非特許文献3】Clinical Orthopaedics,253,301-308(1990)
【非特許文献4】J.Biol.Chem., 243(7),1523-1535(1968)
【非特許文献5】Agric.Biol.Chem., 50(4),1057-1059(1986)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような欠点を改善することを目的としてなされたものである。すなわち、本発明の課題は、不純物が混在せず高純度で比活性が高く、安定性の高い医薬品としても使用可能な新規な精製コンドロイチナーゼABC、その結晶化物及びこのような精製もしくは結晶コンドロイチナーゼABCを高収率で製造する方法を提供しようとするものである。さらに、本発明は、このようなコンドロイチナーゼABCを有効成分とするコンドロイチナーゼABC含有医薬組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決することを目的としてコンドロイチナーゼABCの精製について検討を重ねたところ、菌体から酵素を抽出し、酵素抽出液から核酸を除去し、この核酸を除去した酵素抽出液を弱カチオン交換樹脂と強カチオン交換樹脂を組合せてクロマトグラフィー処理するとエンドトキシン、核酸、蛋白分解酵素等の不純物が完全に除去され、電気泳動(SDS-PAGE)で単一のバンドを示し、高速液体クロマトグラフィー(ゲル濾過、カチオン交換)でも単一のピークを示すほど純化された精製コンドロイチナーゼABCが得られることを見出して本発明を完成するに到った。
そしてこのコンドロイチナーゼABCは、結晶化することができ、比活性が従来のコンドロイチナーゼABC調製品にくらべて約3倍以上高く、長期間保存しても安定であり、医薬品としても充分使用しえるものとなる。
【0006】
すなわち、本発明は、後にその特性で示すように精製度が高く、安定性の高い精製コンドロイチナーゼABCに関する。
【0007】
さらに、本発明は次の工程よりなるこのような精製度が高く、安定性の高い精製コンドロイチナーゼABCの製造法に関する。
(i) コンドロイチナーゼABC産生菌体から酵素抽出液を得る工程(工程1)、(ii) 得られた酵素抽出液から核酸を除去する工程(工程2)、
(iii) 核酸が除去された酵素抽出液を、
(a)弱カチオン交換樹脂を用いてクロマトグラフィー処理を行ってコンドロイチナーゼABCを吸着させ、吸着された該酵素を溶出させ、溶出液を強カチオン交換樹脂を用いてクロマトグラフィー処理を行ってコンドロイチナーゼABCを吸着、溶出させる工程(工程3−1)、または
(b)強カチオン交換樹脂を用いてクロマトグラフィー処理を行ってコンドロイチナーゼABCを吸着、溶出させ、溶出液を弱カチオン交換樹脂を用いてクロマトグラフィー処理を行ってコンドロイチナーゼABCを吸着、溶出させる工程
(工程3−2)。
【0008】
本発明ではコンドロイチナーゼABCを含む菌体抽出液から核酸を除去し、これを弱カチオン交換樹脂と強カチオン交換樹脂とを組合せて用いてクロマトグラフィー処理するという簡単な操作で、従来のコンドロイチナーゼABCにくらべて純粋で安定性が高く、比活性が約3倍以上高い精製コンドロイチナーゼABCを得ることができる。
また、本発明ではコンドロイチナーゼABC産生菌体から酵素抽出液を得る際に、抽出を界面活性剤を用いて行うと抽出効率が非常に良く、同時に不純物が少く、目的酵素の比活性が高い抽出液を得ることができる。
また、本発明では、コンドロイチナーゼABC産生菌体から界面活性剤を用いてコンドロイチナーゼABCを抽出し、抽出液を弱カチオン交換樹脂または強カチオン交換樹脂のいずれかを用いてクロマトグラフィー処理を行ってコンドロイチナーゼABCを該樹脂に吸着させ、吸着された該酵素をグラジェント法によって溶離液のイオン強度を連続的に変化させて溶出することによっても上記と同様に精製度の高い精製コンドロイチナーゼABCを得ることができる。
またさらに、本発明は、上記のような精製度の高いコンドロイチナーゼABCを原料とし、両末端が水酸基である構造を有するポリエーテル(例えば、ポリエチレングリコール)を用いて結晶化することによって製造することができ、精製コンドロイチナーゼABCの特性を有し、かつ針状もしくは柱状結晶であるコンドロイチナーゼABC結晶に関する。
このようなコンドロイチナーゼABCとその結晶は、均一性が高く、品質が安定しており、比活性も高く、保存安定性も優れている(例えば、約25〜40℃で1ケ月放置してもほとんど活性が低下しない)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の精製コンドロイチナーゼABCおよびコンドロイチナーゼABC結晶の製造法について詳細に説明する。
本発明におけるコンドロイチナーゼABC産生菌体としては、従来コンドロイチナーゼABCを産生することが知られていたどのような微生物の菌体でも用いられる。例えば、プロテウス・ブルガリス等に属するコンドロイチナーゼABC産生菌が用いられる。このような菌の具体例としては、プロテウス・ブルガリスNCTC 4636(=ATCC 6896,=IFO 3988) を挙げることができる。
これらの菌体は通常の方法 (J.Biol.Chem.,243(7),1523-1535(1968) 、特開昭62-122588 号、特開平2-57180 号公報参照) で培養し、培養液から湿菌体を採取し、これを中性付近のpHを有する緩衝液に懸濁させ、懸濁液から酵素の抽出を行う。中性付近の緩衝液は、通常pH 6.0〜8.0 の 1〜100mM リン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、酢酸緩衝液等の緩衝液を用い超音波処理あるいは菌体破壊装置(Dyno Mill等) による処理を行って菌体を破砕し、コンドロイチナーゼABC、プロテアーゼ、その他の酵素、核酸、蛋白質等を含む酵素液を抽出する。
【0010】
さらに、コンドロイチナーゼABCの菌体からの抽出は、界面活性剤溶液、例えば界面活性剤を添加した緩衝液を用いることにより、酵素の抽出効率を一段と高めることができる。
本発明で使用する界面活性剤は、前記酵素を効率よく抽出できるものであればよい。
【0011】
抽出に用いる界面活性剤としては非イオン性界面活性剤がすぐれており、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンp-t-オクチルフェニルエーテル、ポリソルベート等が好ましい。ポリオキシエチレンアルキルエーテルには、Emulgen 系界面活性剤、Liponox 系界面活性剤、Brij系界面活性剤等がある。これらの市販されている界面活性剤にはEmulgen 120, Emulgen 109 P,Liponox DCH, Brij 35, 78, 76, 96, 56, 58 もしくは98, Nikkol BL-9EX, BL-21もしくはBL-25 などがある。また、ポリオキシエチレンp-t-オクチルフェニルエーテルには、Triton系界面活性剤、Nonidet 系界面活性剤、Neutronyx 系界面活性剤あるいはConco 系界面活性剤などがある。これらの市販されている界面活性剤には、Triton X-100, X-45, X-114, X-102, X-165, X-305, X-405, Nonidet P-40, Igepal CA-630, Neutronyx 605, Conco NIX-100等が例示することができる。またポリソルベートは、ソルビタンモノ-9- オクタデセノエートポリ (オキシ-1,2- エタンジイル) 誘導体が好ましく、Tween 80が市販されている。その他のポリソルベートとしては、Tween 20, 40もしくは60, Emasol 4115 もしくは4130が市販されている。
【0012】
これらのうち、特に好ましい界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル(POELE)などのポリオキシエチレンアルキルエーテル類を挙げることができる。これらの界面活性剤を用いて菌体から酵素を抽出すると、酵素の抽出効率を高めることができるばかりでなく、他の抽出法と比較して酵素以外の夾雑蛋白や核酸あるいはプロテアーゼの混入の少ない酵素抽出液を得ることができる。DYNO(登録商標名)MILLを用いた従来の抽出法では湿菌体1g当りの酵素抽出量は、約 150乃至200 単位程度であったが、界面活性剤を用いて抽出した場合は湿菌体1g当り少なくとも約500 〜600 単位の酵素を抽出することができる。界面活性剤による抽出液から、弱カチオン交換樹脂および/または強カチオン交換樹脂によるクロマトグラフィー処理を行うことによって、エンドトキシン含量が医薬品用に対応できるほど微量で、電気泳動的に単一バンドを示す活性の高いコンドロイチナーゼABCを容易に高収率で得ることができる。
【0013】
抽出は湿菌体を前記界面活性剤を2〜7%含む緩衝液に加えて菌体懸濁液とし、15〜45℃で、好ましくは37℃前後に加温して約1〜10時間、好ましくは2〜6時間撹拌し、懸濁液を室温程度に冷却し、これを遠心分離等の分離手段で菌体残渣と抽出液とに分離する。このようにして得られる抽出液には主としてコンドロイチセナーゼABC、その他の酵素、蛋白質、核酸が含まれているので、次に述べるコンドロイチナーゼABCの精製工程を行う。
【0014】
このようにして抽出された菌体抽出液から蛋白質、核酸等を除去する。蛋白質、核酸の除去は、通常行なわれているいずれの方法を用いてもよいが、特に核酸を除去するためには硫酸プロタミンを添加して行なうことが本酵素を医薬品として使用する場合を考慮すると好ましい。
プロタミン処理は、前記の菌体抽出液に3〜7%の硫酸プロタミン水溶液を最終濃度が約0.25〜1 %濃度になるように添加して約10〜30分間4℃乃至室温付近で撹拌して核酸等の沈澱を生じさせ、これを遠心その他の方法によって分離除去する。
【0015】
得られた上澄液は、コンドロイチナーゼABC、プロテアーゼ、その他の酵素を含んでいるのでカチオン交換樹脂を用いてクロマトグラフィー処理を行う。
本発明の精製コンドロイチナーゼABCの製造法においては、弱カチオン交換樹脂と強カチオン交換樹脂を組合せて使用し、クロマトグラフィー処理を行う。 ここで使用する弱カチオン交換樹脂としては、交換基がカルボキシメチル基等のカルボキシアルキル基であるカチオン交換樹脂を例示することができる。具体的には交換基としてカルボキシメチル基を有する多糖類誘導体 (アガロース誘導体、架橋デキストラン誘導体等) が挙げられ、市販品としてはCMセファロース、CMセファデックス (いずれも商品名、ファルマシア社) 等が挙げられる。
強カチオン交換樹脂としては、交換基がスルホアルキル基であるカチオン交換樹脂を例示することができる。具体的には、交換基としてスルホエチル基、スルホプロピル基等を有する多糖類誘導体 (アガロース誘導体、架橋デキストラン誘導体等) が挙げられ、市販品としてはSセファロース又はSPセファロース(商品名、ファルマシア社)、SPセファデックス(商品名、ファルマシア社)、SPトヨパール(商品名、東ソー(株))等が挙げられる。
上記2種類のカチオン交換樹脂を組合せたクロマトグラフィー処理としては、以下の方法を一例として挙げることができる。
【0016】
まず最初のクロマトグラフィー処理は、弱カチオン交換樹脂を菌体の抽出に用いたのと同様の緩衝液、例えばpH 6.5〜7.5 の緩衝液 (例えば、 1〜50mMのリン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、酢酸緩衝液など) で平衡化し、これに前記の酵素含有上澄液を接触させ、酵素を吸着させ、このカチオン交換樹脂を、必要に応じて塩類溶液(例えば、20〜25mM NaCl 溶液および/または前記界面活性剤溶液 (例えば、0.5 %POELE 溶液)) を用いて洗浄する。上記緩衝液に 0.1Μ程度の食塩を溶解させた溶出液を調製し、前記樹脂と接触させて酵素活性を有する画分を溶出する。溶出法は濃度勾配法 (グラジエント法) によっても、ステップワイズ法によってもよい。このようなクロマトグラフィー処理は、カラム法でも、バッチ法でもよい。
得られた画分を、同様の緩衝液で平衡化した強カチオン交換樹脂と接触させ、コンドロイチナーゼABCを吸着させ、このカチオン交換樹脂を、必要に応じて塩類溶液 (例えば20〜50mM NaCl 溶液および/または水を用いて洗浄後、0〜約 0.5Μの食塩を含む前記と同様の緩衝液 (例えばリン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、酢酸緩衝液など) で濃度勾配法によってコンドロイチナーゼABCを溶出単離する。このようなクロマトグラフィー処理は、カラム法で行うことが好ましい。
以上の2種類のカチオン交換樹脂を使用するクロマトグラフィー処理を、上記と逆の順序で行うことも可能である。
【0017】
また、菌体を界面活性剤を含有する緩衝液で抽出した場合は、前記したように抽出液中の不純物の量が少ないので、プロタミン処理などの抽出液からの核酸除去操作を行なわず、直接CMセファロースカラムに通してコンドロイチナーゼABCをカラム吸着させ、カラムを洗滌後、濃度勾配法(グラジエント法)等でカラムから酵素を溶出するという簡単な操作で酵素を精製することもできる。
クロマトグラフィー処理を行って精製した酵素溶液を常法によって濃縮、脱塩し、そのまま精製酵素溶液として医薬品、試薬等として用いてもよく、また、濃縮、脱塩した酵素溶液を酵素を変性、失活させない条件下で一般的乾燥法(凍結乾燥法等)によって粉末化してもよい。
さらに、上記の精製酵素溶液を、両末端が水酸基である構造を有するポリエーテル(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)と混合接触させ、コンドロイチナーゼABCを結晶化させることもできる。例えば、コンドロイチナーゼABC溶液にポリエチレングリコール (分子量4,000 、6,000
等) を添加し、酵素濃度 250〜500U/ml 、ポリエチレングリコール濃度5〜20%、好ましくは10〜15%に調整し、室温〜4℃程度で結晶が生成するまで放置する。この結晶は、斜方晶系または単斜晶系の針状もしくは柱状結晶であって、実施例に示すような結晶パラメーターを示す。
【0018】
このようにして得られたコンドロイチナーゼABCは、不純物のエンドトキシン、核酸、プロテアーゼ、その他の蛋白質等が除去されており、電気泳動(SDS-PAGE)で単一のバンドを示し、HPLC (ゲル濾過、カチオン交換) においても単一のピークを示し、しかも比活性も従来のコンドロイチナーゼABCにくらべて約3倍以上高いものとなる。しかも本発明の方法においては従来の方法におけるように硫安分画や製造工程の途中で濃縮脱塩操作を行う必要がなくなったので、コンドロイチナーゼABCの製造時間を短縮し、収率を向上することができ、製造経費をコストダウンすることができる。さらにまた少量のコンドロイチナーゼABCであっても、あるいは大量のコンドロイチナーゼABCであってもその生産量に関係なく自由に生産することができる。
また、上記方法により結晶化して得られたコンドロイチナーゼABC結晶は、針状もしくは柱状結晶(図1参照)であり、均一で品質が安定しており、比活性が高く、保存安定性が優れている。
【0019】
本発明の前記方法で得られたコンドロイチナーゼABCの性質を示すと次のとおりである。
(1) 作用
ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン、デルマタン硫酸に作用し、反応初期には少量の大きな不飽和オリゴ糖を生成し、最終的には不飽和二糖(Δ4-グルクロニル−N−アセチルヘキソサミンおよびその4−または6−硫酸エステル)及び不飽和オリゴ糖混合物を生成する。
(2) 至適pH及び安定pH
コンドロイチン硫酸Cを基質にした場合(トリス−塩酸緩衝液中)の至適pHは 8.0〜8.2 である(図2)。pH5〜9において25℃で24時間放置した場合約80%以上の残存活性を示す(図3)。
【0020】
(3) 力価の測定法
酵素反応により紫外部に顕著な吸収を有する不飽和二糖及び不飽和オリゴ糖が生成することに基づく。コンドロイチン硫酸C(基質)1.2mg 、50mM酢酸ナトリウムを含有する50mMトリス−塩酸緩衝液(pH8〜8.5)、カゼイン10μgに酵素を加えた酵素反応液を、37℃で10分間保温して反応させ、pH 1.8の0.05Μ塩酸を加えて反応を止め、232nm における吸収を測定する。一方、対照として熱変性させた酵素液を上記組成の基質溶液中に保持し、同様の処理を行って232nm における吸収を測定する。生成物の不飽和糖の量は、対照に対する吸収の増加から計算する。なお、2-アセトアミド -2-デオキシ-3-0-(β-D- グルコ -4-エンピラノシルウロン酸)-6-0-スルフォ -D-ガラクトースのミリモル分子吸光係数は 5.5 とする。この結果、1単位(U) の酵素量は、上記反応条件下において1分間に不飽和二糖を1マイクロモル遊離する反応を触媒する量と定義する。
【0021】
(4) 作用適温及び温度安定性
作用至適温度は37℃であり、30〜37℃で約90%以上の活性を示す(図4 )。またpH 7.0のトリス−塩酸緩衝液を用い各温度に1時間保持し、残存活性を測定したところ2℃から30℃の間で安定であり、50℃で失活する(図5)。
【0022】
(5) 阻害
表1に示すように亜鉛(Zn2+)、ニッケル(Ni2+)、鉄(Fe3+)、銅(Cu2+)の各イオンによって活性が阻害される。
【0023】
【表1】
【0024】
(6) 分子量
ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動 (SDS-PAGE) により単一バンドとなり、還元状態においてもあるいは非還元状態においても約100,000 ダルトンである。また、ゲル濾過(HPLC)により同様に約 100,000ダルトンである (図6参照;条件は後述)。
(7) 等電点約 8.2及び約8.5 〔Phast Gel IEF pH3〜9およびスタンダードとしてpIカリブレーションキット 3〜10を使用し、Phast System装置を使用して測定した (試薬、装置は全てファルマシア社製) 〕
【0025】
(8) アミノ酸分析
表2に示すとおりである。
【0026】
【表2】
【0027】
なお、この分析はコンドロイチナーゼABCを 6N 塩酸中で減圧し、110 ℃で24時間加水分解して行ったものである。
試料は3回測定し、その平均値を示した。
全分子量を100,000 として算出した。
Trp, Cysは未測定である。
【0028】
(9) 末端アミノ酸
N末端アミノ酸残基は、エドマン(Edman) 分解(「生化学実験講座1-タンパク質の化学II、一次構造決定法」132 〜142 頁、1976年 8月28日、(株)東京化学同人発行)によって同定したところアラニンであった。N末端アミノ酸配列は、アラニン−スレオニン−X −アスパラギン−プロリン−アラニン−フェニルアラニン−アスパラギン酸−プロリン−(ただし、X は未同定)であった。
また、C末端アミノ酸配列は、カルボキシペプチダーゼYを使用してカルボキシペプチダーゼ法 (「生化学実験講座1-タンパク質の化学II、一次構造決定法」 203〜211 頁) によって同定したところ、−セリン−ロイシン−プロリンであった。
この結果、本発明のコンドロイチナーゼABCの末端は、次のアミノ酸残基よりなる。
Ala-Thr-X-Asn-Pro-Ala-Phe-Asp-Pro- ………Ser-Leu-Pro
X: 未同定
【0029】
(10) 安定性
リン酸緩衝剤 (pH6〜8)存在下において溶液状態、乾燥状態ともに室温で3カ月以上安定である。
(11) 比活性
300U/mg 蛋白以上
(12) その他
HPLC(カチオン交換クロマトグラフィー)及びHPLC(GPC; ゲル濾過) において単一のピークを示した。
なお、ゲル濾過の条件および結果は以下のとおりである。
【0030】
条件
カラム: TSK G3000SWxl(東ソー(株)製)
溶出液: 0.2M 塩化ナトリウムを含む0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)
溶出速度:0.5ml/分
操作温度:35℃
検出波長:280nm
注入量:20μl
分子量マーカー:チトクロームC(12.4キロダルトン)
アデニル酸キナーゼ (32キロダルトン)
エノラーゼ (67キロダルトン)
乳酸デヒドロゲナーゼ(142キロダルトン)
グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(290キロダルトン)
(以上、全てオリエンタル酵母工業(株)製)
【0031】
結果
本発明のコンドロイチナーゼABCは、保持時間18.43 分の位置に単一ピークとして溶出された (図6)。この保持時間を上記分子量マーカーと比較し、分子量を約100 キロダルトンと決定した。
エンドトキシンを実質的に含まず、DNA 、プロテアーゼは検出限界以下であった。市販コンドロイチナーゼABC (生化学工業(株)、カタログNo.100332)について同様に測定したところ、DNAは検出限界の5,000 倍、プロテアーゼは検出限界の 200倍であった。
【0032】
なお、本発明のコンドロイチナーゼABCと従来知られている最も精製度の高いコンドロイチナーゼABC(生化学工業株式会社製、コンドロイチナーゼABCプロテアーゼフリー、カタログNo.100332)とを対比すると分子量は、前者はSDS-PAGE及びゲル濾過のいずれにおいても約100,000 ダルトンであるのに対し、後者は、SDS-PAGEによると約80,000ダルトンであり、ゲル濾過によると約 120,000〜145,000 ダルトンであり、この点で大きく相違する。しかも比活性は前者が300U/mg蛋白以上であるのに対し、後者は110U/mg蛋白前後であり、安定性も前者が室温で3カ月以上安定であるのに対し、後者は−70℃で3カ月以上安定であってこの点でも相違する。さらに前者のコンドロイチナーゼABCは電気泳動およびHPLCにおいても単一で、かつ結晶化することができ、このため末端アミノ酸、等電点等を測定できるのに対し、後者は、物質として同定可能な純度の酵素標品ではなかったために、末端アミノ酸、等電点等を測定できず、この点においても相違する。
【0033】
本発明のコンドロイチナーゼABCは、前記したように純度の高い精製された酵素であって、試薬としては勿論、医薬品としても用いることができる。
医薬としては、例えば、本発明の精製コンドロイチナーゼABCまたはコンドロイチナーゼABC結晶に必要により適当なpH調節剤 (例えば、リン酸緩衝剤)
を添加して安定pH範囲内のpHとし、精製水、生理食塩水等を加えてそのまま液体製剤とするか、あるいはデキストラン類、サッカロース、ラクトース、マルトース、マンニトール、キシリトール、ソルビトールあるいは血清アルブミンなどと混合した固体製剤として、コンドロイチナーゼABCを有効成分とする椎間板ヘルニア治療剤とすることができる。この治療剤は、ヘルニア症患者の椎間板腔に注入し、ヘルニアを溶解して治療する椎間板溶解療法に用いることができる。使用量は、症状、年令等によって異なり、一概には特定できないが、通常1回10〜100U程度を注入する。
【実施例1】
【0034】
次に、本発明のコンドロイチナーゼABCの製造法について実施例を挙げて具体的に説明する。
プロテウス・ブルガリス(NCTC 4636, ATCC 6896, IFO 3988) を従来知られている通常の方法(J.Biol.Chem.,243 (7), 1523-1535(1968))で培養して湿菌体を得た。この湿菌体200gに5mMリン酸緩衝液 (pH6.5 〜7.0)600ml を加えて懸濁させ、DYNO(登録商標名)MILLにより菌体を破砕し遠心分離して、酵素抽出液を得た(工程1)。 この菌体抽出液から核酸を除くために硫酸プロタミンを用いた。上記酵素抽出液に最終濃度 0.5%となるように5%硫酸プロタミン溶液を加え、4℃で約30分間撹拌し、生じた沈澱を遠心分離によって除去し、上澄液を得た(工程2)。
得られた上澄液に約5倍量の水を加えカラムクロマトグラフィーで精製した。すなわち、CMセファロースを充填したカラムに5mMリン酸緩衝液(pH6.5〜7.0)を流して平衡状態とした後、上記上澄液を流し吸着させた。その後カラムを同じ緩衝液で洗浄し次いで0.025 M食塩を含んだ同じ緩衝液で洗浄し、次に 0.1Mの食塩を含んだ上記緩衝液で溶出し、酵素活性を有する画分を得た(工程3)。
【0035】
この酵素活性画分に約5倍量の水を加え、予め5mMリン酸緩衝液(pH6.5〜7.0)で平衡化したS−セファロースカラムに吸着させた。その後、カラムを上記緩衝液で洗浄し、次いで0.025 M食塩を含む上記緩衝液で洗浄し、次に 0.025〜約0.35Mの食塩を含む上記緩衝液で濃度勾配法により溶出した。
溶出したコンドロイチナーゼABCは単一バンド(SDS-PAGE)を示し、かつ核酸(DNA) 、プロテアーゼ等が除去されており、比活性は380U/mgであって、従来のコンドロイチナーゼABCにくらべて比活性は約3倍程度以上高く、高純度の酵素となった。
この酵素溶液(リン酸緩衝液(pH7.0)) に15%となるようにポリエチレングリコール (分子量 4,000) を添加し、室温で約1週間放置したところ、針状もしくは柱状結晶状で白色乃至無色のコンドロイチナーゼABC結晶が生成した。得られた結晶の顕微鏡写真(2.5倍)を図1に示す。
得られた結晶は、X線結晶解析を行った結果、斜方晶系または単斜晶系の針状もしくは柱状結晶であって、次の結晶パラメーターを示す。
【0036】
斜方晶系の場合; 単斜晶系の場合;
空間群 P2221 空間群 P21
格子定数 a= 214Å 格子定数 a= 214Å
b= 92Å b= 56Å
c= 56Å c= 92Å
α= 90゜ α= 90゜
β= 90゜ β≧ 90゜(108゜程度)
γ= 90゜ γ= 90゜
【0037】
この精製各工程におけるSDS-PAGEの結果を図7に示す。
SDS-PAGEは10%ゲルを使用し、常法 (Laemmli, U.K., Nature, 227, 680-685
(1970))に従って行った。
S−セファロース処理すると、還元及び非還元状態において明瞭な単一のバンドとなっている(図7、C,D参照)。
本発明の各工程におけるコンドロイチナーゼABCの精製度を示すと表3に示すとおりとなる。
【0038】
【表3】
【0039】
また、各工程におけるエンドトキシンの含量及び、プロテアーゼ残存量を表4に示す。
【0040】
【表4】
* コンドロイチナーゼABC 100単位(U) 当りのエンドトキシン含量;トキシカラーシステム (生化学工業(株)製) を用いて測定。EUはエンドトキシン単位(Endotoxin Unit)を示す。
** FITC−カゼインを基質として測定。
〈0.3μg(<0.1%)は検出限界以下を意味する。
工程4により得られた酵素溶液中のエンドトキシン含量は、上記のように 5.0pg/100U 程度の極微量で実質的に含有されておらず、また核酸(DNA)についてスレッシュホールド法〔DNA測定装置:スレッシュホールド(モレキュラーデバイス社製)〕で測定したが、DNAは検出されなかった(検出限界以下)。
【0041】
また本発明の工程4で得られた上記コンドロイチナーゼABCを溶液状態で各温度に放置したときの安定性を表5に示す。350U/ml の濃度で5日間保存し、−40℃で保存したときの活性を 100%として相対活性で表わした。
【0042】
【表5】
【実施例2】
【0043】
実施例1で用いたプロテウス・ブルガリス(NCTC4636 ATCC 6896, IFO 3988)
の湿菌体7.5kg を、10%ポリオキシエチレンラウリルエーテル〔(POELE; Nikkol BL-9EX(商品名) 〕を添加した40mMリン酸緩衝液(pH7.0±0.5)約15l と精製水約7.5lとを入れたタンクに投入して攪拌し、菌体懸濁液とした。この菌体懸濁液を、35℃±3 ℃に加温し、同温度で約2 時間攪拌した。約2時間経過後、20mMリン酸緩衝液(pH7.0 ±0.5)約30l を加えて希釈し、液温が20℃になるまで懸濁液を冷却した。
この懸濁液をシャープレス遠心分離器で遠心分離し、その遠心上清を得た。遠心の前後に液温を測定して20℃を越えないようにした。
【0044】
得られた遠心上清に、2 〜15℃に冷却した精製水30l を加えて希釈し、これをCM- セファロースカラム (ゲル量約5l) に通し、コンドロイチナーゼABCをカラムに吸着させた。
このカラムに精製水1L を通してカラムを洗滌し、さらに0.5 %POELE 水溶液10L 、0.04M リン酸緩衝液(pH6.2±0.2) 5 Lを通してカラムを洗浄した。次に、このカラムにO M 及び0.25M のNaClを含む0.04M リン酸緩衝液(pH 6.2 ±0.2)約10L ずつを用いてリニアーグラジェントによって溶離液を流し、コンドロイチナーゼABCを溶出した。
この溶出液を孔径0.22μm の濾過滅菌フィルターを通し、滅菌容器に集めてコンドロイチナーゼABC酵素溶液を得た。
POELE による菌体抽出時間(hr)と酵素活性との関係を示すと次の表6のとおりである。
【0045】
【表6】
【0046】
菌体の抽出は1〜2時間で酵素濃度が平衡に達した。
また抽出液の全核酸量は、攪拌後0.25時間のうちに最高となり (約25g/菌体)、その後低減し、約1時間後には平衡(約2-3g/菌)に達した。
【実施例3】
【0047】
実施例1で用いたプロテウス・ブルガリス(NCTC4636, ATCC6896,IFO3988) の湿菌体5kg を、5%のPOELE を加えた5倍容量の20mMリン酸緩衝液(pH7.0) に加え、37℃で3時間抽出した。この抽出液を実施例1と同様にプロタミン処理、CM- セファロース処理及びS-セファロース処理し(これらの条件は表7に示す) 、グラジエント溶出によってコンドロイチナーゼABCを溶出した。この溶液は、電気泳動(SDS-PAGE)でコンドロイチナーゼABCの単一のバンドを示した。この酵素溶液を送液ポンプを用いて、孔径0.22μm の濾過滅菌フィルターを通し、濾液を滅菌容器に集めてコンドロイチナーゼABC酵素液とした。
この結果、表に基づいて算出すると菌体1g当り約500 ユニットのコンドイチナーゼABCを抽出することができた。
次に、実施例3の各工程におけるコンドロイチナーゼABCの精製度を示すと表7のとおりとなった。
【0048】
【表7】
1) は凍結菌体からの回収率、他はプロタミン処理後の液からの回収率
【0049】
また、この菌体からのコンドロイチナーゼABCの抽出における抽出時間とコンドロイチナーゼABCの活性との関係を図8に示した。
【実施例4】
【0050】
実施例3と同様にして界面活性剤をとしてTriton,Brij 、Nonidet あるいはPOELE を用いて、その濃度を2 %あるいは5%とし、懸濁液の温度を25℃あるいは37℃でコンドロイチナーゼABCの抽出を行った。その結果を図9〜12に示す。いずれの場合も37℃加温下、界面活性剤濃度5%で行った方が抽出液の活性が高く、約1〜2時間でほとんどの活性が抽出された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の精製コンドロイチナーゼABCあるいはその結晶は極めて精製度が高く、プロテアーゼ、核酸およびエンドトキシンを実質的に含まないため、医薬品および研究用試薬としての有用性が極めて高い。
すなわち、本発明の精製コンドロイチナーゼABCあるいはその結晶を医薬品として使用する場合、保存安定性が優れているのでほとんど活性が低下しない。また、比活性が高く不純物を含まないので、投与量を少くすることができ、副作用を示さない。
また、研究用試薬として使用する場合、例えば、動物細胞を使用した実験においては、本発明の酵素はエンドトキシンおよびプロテアーゼを含まないので、実験結果の再現性が高まる効果がある。
さらに、本発明の精製法は、従来必要とされていた硫安分画、精製途中での濃縮脱塩操作を省略したので、精製の工程数および時間を短縮し、収率を向上させるとともに製造コストを低減させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明のコンドロイチナーゼABC結晶の顕微鏡写真を示す。
【図2】本発明のコンドロイチナーゼABCの活性と反応pHとの関係を示す。
【図3】本発明のコンドロイチナーゼABCを所定のpHにおいて25℃で24時間放置したときのpHと残存活性との関係を示す。○−−○:酢酸緩衝液、×----×:トリス−酢酸緩衝液、△----△:トリス−塩酸緩衝液、●−−●:グリシン緩衝液の各緩衝液中に保持したときの残存活性
【図4】本発明のコンドロイチナーゼABCの活性と反応温度との関係を示す。
【図5】本発明のコンドロイチナーゼABCを所定の温度において1時間保持したときの温度と残存活性との関係を示す。
【図6】本発明のコンドロイチナーゼABCについて、HPLCによるゲル濾過を行ったときのクロマトグラムを示す。
【図7】本発明の実施例1のコンドロイチナーゼABCの精製工程の各段階におけるSDS-PAGEのバンドを示す。A:プロタミン処理上澄液、B:CM−セファロース処理液、C:S−セファロース処理液(非還元)、D:S−セファロース処理液(還元)
【図8】本発明の実施例3の菌体からコンドロイチナーゼABC抽出時間とコンドロイチナーゼABC活性との関係を示す。
【図9】本発明の実施例4の菌体を濃度の異なるTriton X-100含有緩衝液で25℃と37℃の条件で抽出したものの抽出時間とコンドロイチナーゼABC活性との関係を示す。1:界面活性剤濃度 2%、抽出温度25℃(□)、2:界面活性剤濃度 2%、抽出温度37℃:(+)、3:界面活性剤濃度 5%、抽出温度25℃(◇)、4 界面活性剤濃度 5%、抽出温度37℃(△)
【図10】本発明の実施例4の菌体を濃度の異なるBrij-35 含有緩衝液で25℃と37℃の条件で抽出したものの抽出時間とコンドロイチナーゼABC活性との関係を示す。1:界面活性剤濃度 2%、抽出温度25℃(□)、2:界面活性剤濃度 2%、抽出温度37℃(+)、3:界面活性剤濃度 5%、抽出温度25℃(◇)、4:界面活性剤濃度 5%、抽出温度37℃:(△)
【図11】本発明の実施例4の菌体を濃度の異なるNonidet P-40含有緩衝液で25℃と37℃の条件で抽出したものの抽出時間とコンドロイチナーゼABC活性との関係を示す。 1:界面活性剤濃度 2%、抽出温度25℃(□)、2:界面活性剤濃度 2%、抽出温度37℃(+)、3:界面活性剤濃度 5%、抽出温度25℃(◇)、4:界面活性剤濃度 5%、抽出温度37℃(△)
【図12】本発明の実施例4の菌体を濃度の異なるPOELE 含有緩衝液で25℃と37℃の条件で抽出したものの抽出時間とコンドロイチナーゼABC活性との関係を示す。1:界面活性剤濃度 2%、抽出温度25℃(□)、2:界面活性剤濃度 2%、抽出温度37℃(+)、3:界面活性剤濃度 5%、抽出温度25℃(◇)、4:界面活性剤濃度 5%、抽出温度37℃(△)
【技術分野】
【0001】
本発明は、極めて精製度が高く、安定性の高い精製コンドロイチナーゼABC、コンドロイチナーゼABC結晶及びその製造法に関する。また、本発明は、このようなコンドロイチナーゼABCを有効成分とする医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンドロイチナーゼABC(Chondroitinase ABC)〔EC 4.2.2.4〕は、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン、デルマタン硫酸等を不飽和糖を含む二糖又はオリゴ糖に分解する酵素である。この酵素は、プロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris) 等の細菌から生産されることが知られている。
そして、コンドロイチナーゼABCを得るには、菌体破壊液をストレプトマイシン処理、硫安処理、DEAEセルロース処理及びホスホセルロース処理を順次行う方法(非特許文献1 J.Biol.Chem.,243 (7),1523-1535(1968))あるいは菌体破壊液をDEAEセルロース処理、ハイドロキシアパタイト処理、亜鉛固定化アガロース処理、ゲル濾過処理を順次行う方法(非特許文献2 Agric.Biol.Chem.,50(4),1057-1059(1986);特許文献1 特開昭62-122588号公報) 等が知られている。
一方、近年コンドロイチナーゼABCまたはACを椎間板腔に直接投与して椎間板ヘルニアを治療する試みが行なわれており椎間板ヘルニアの治療薬としての用途が期待されている〔特許文献2 米国特許第4696816号明細書、非特許文献3 Clinical Orthopaedics,253,301-308(1990) 〕
【0003】
特に、プロテウス・ブルガリスの生産するコンドロイチナーゼABCは、プロテオグリカンからコンドロイチン硫酸またはデルマタン硫酸側鎖を選択的に除去し、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸には作用しないこと、及び酵素の生産量が多いことから産業上の利用に適していると考えられている。そして、上記した方法によりプロテウス・ブルガリスの培養物からコンドロイチナーゼABC活性を有する酵素調製物を得ることが行なわれているが、これらは、いずれもプロテアーゼ活性、エンドトキシン、核酸が混在しており、あるいは酵素蛋白として不安定であったりするので前記のような椎間板ヘルニアの治療薬として投与したり高純度の試薬として用いるには不適当であった〔非特許文献4 J.Biol.Chem., 243(7),1523-1535(1968)、特許文献3 英国特許第1067253号明細書、非特許文献5 Agric.Biol.Chem., 50(4),1057-1059(1986) 、特許文献4 特開昭62−122588号公報、特許文献5 特開平2-57180号公報〕。
特に、このような不純物の混在あるいは安定性が劣ることは、コンドロイチナーゼABCを医薬品として利用する場合に致命的な欠点になるおそれがある。
【特許文献1】特開昭62-122588号公報
【特許文献2】米国特許第4696816号明細書
【特許文献3】英国特許第1067253号明細書
【特許文献4】特開昭62−122588号公報
【特許文献5】特開平2-57180号公報
【非特許文献1】J.Biol.Chem.,243 (7),1523-1535(1968)
【非特許文献2】Agric.Biol.Chem.,50(4),1057-1059(1986)
【非特許文献3】Clinical Orthopaedics,253,301-308(1990)
【非特許文献4】J.Biol.Chem., 243(7),1523-1535(1968)
【非特許文献5】Agric.Biol.Chem., 50(4),1057-1059(1986)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような欠点を改善することを目的としてなされたものである。すなわち、本発明の課題は、不純物が混在せず高純度で比活性が高く、安定性の高い医薬品としても使用可能な新規な精製コンドロイチナーゼABC、その結晶化物及びこのような精製もしくは結晶コンドロイチナーゼABCを高収率で製造する方法を提供しようとするものである。さらに、本発明は、このようなコンドロイチナーゼABCを有効成分とするコンドロイチナーゼABC含有医薬組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決することを目的としてコンドロイチナーゼABCの精製について検討を重ねたところ、菌体から酵素を抽出し、酵素抽出液から核酸を除去し、この核酸を除去した酵素抽出液を弱カチオン交換樹脂と強カチオン交換樹脂を組合せてクロマトグラフィー処理するとエンドトキシン、核酸、蛋白分解酵素等の不純物が完全に除去され、電気泳動(SDS-PAGE)で単一のバンドを示し、高速液体クロマトグラフィー(ゲル濾過、カチオン交換)でも単一のピークを示すほど純化された精製コンドロイチナーゼABCが得られることを見出して本発明を完成するに到った。
そしてこのコンドロイチナーゼABCは、結晶化することができ、比活性が従来のコンドロイチナーゼABC調製品にくらべて約3倍以上高く、長期間保存しても安定であり、医薬品としても充分使用しえるものとなる。
【0006】
すなわち、本発明は、後にその特性で示すように精製度が高く、安定性の高い精製コンドロイチナーゼABCに関する。
【0007】
さらに、本発明は次の工程よりなるこのような精製度が高く、安定性の高い精製コンドロイチナーゼABCの製造法に関する。
(i) コンドロイチナーゼABC産生菌体から酵素抽出液を得る工程(工程1)、(ii) 得られた酵素抽出液から核酸を除去する工程(工程2)、
(iii) 核酸が除去された酵素抽出液を、
(a)弱カチオン交換樹脂を用いてクロマトグラフィー処理を行ってコンドロイチナーゼABCを吸着させ、吸着された該酵素を溶出させ、溶出液を強カチオン交換樹脂を用いてクロマトグラフィー処理を行ってコンドロイチナーゼABCを吸着、溶出させる工程(工程3−1)、または
(b)強カチオン交換樹脂を用いてクロマトグラフィー処理を行ってコンドロイチナーゼABCを吸着、溶出させ、溶出液を弱カチオン交換樹脂を用いてクロマトグラフィー処理を行ってコンドロイチナーゼABCを吸着、溶出させる工程
(工程3−2)。
【0008】
本発明ではコンドロイチナーゼABCを含む菌体抽出液から核酸を除去し、これを弱カチオン交換樹脂と強カチオン交換樹脂とを組合せて用いてクロマトグラフィー処理するという簡単な操作で、従来のコンドロイチナーゼABCにくらべて純粋で安定性が高く、比活性が約3倍以上高い精製コンドロイチナーゼABCを得ることができる。
また、本発明ではコンドロイチナーゼABC産生菌体から酵素抽出液を得る際に、抽出を界面活性剤を用いて行うと抽出効率が非常に良く、同時に不純物が少く、目的酵素の比活性が高い抽出液を得ることができる。
また、本発明では、コンドロイチナーゼABC産生菌体から界面活性剤を用いてコンドロイチナーゼABCを抽出し、抽出液を弱カチオン交換樹脂または強カチオン交換樹脂のいずれかを用いてクロマトグラフィー処理を行ってコンドロイチナーゼABCを該樹脂に吸着させ、吸着された該酵素をグラジェント法によって溶離液のイオン強度を連続的に変化させて溶出することによっても上記と同様に精製度の高い精製コンドロイチナーゼABCを得ることができる。
またさらに、本発明は、上記のような精製度の高いコンドロイチナーゼABCを原料とし、両末端が水酸基である構造を有するポリエーテル(例えば、ポリエチレングリコール)を用いて結晶化することによって製造することができ、精製コンドロイチナーゼABCの特性を有し、かつ針状もしくは柱状結晶であるコンドロイチナーゼABC結晶に関する。
このようなコンドロイチナーゼABCとその結晶は、均一性が高く、品質が安定しており、比活性も高く、保存安定性も優れている(例えば、約25〜40℃で1ケ月放置してもほとんど活性が低下しない)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の精製コンドロイチナーゼABCおよびコンドロイチナーゼABC結晶の製造法について詳細に説明する。
本発明におけるコンドロイチナーゼABC産生菌体としては、従来コンドロイチナーゼABCを産生することが知られていたどのような微生物の菌体でも用いられる。例えば、プロテウス・ブルガリス等に属するコンドロイチナーゼABC産生菌が用いられる。このような菌の具体例としては、プロテウス・ブルガリスNCTC 4636(=ATCC 6896,=IFO 3988) を挙げることができる。
これらの菌体は通常の方法 (J.Biol.Chem.,243(7),1523-1535(1968) 、特開昭62-122588 号、特開平2-57180 号公報参照) で培養し、培養液から湿菌体を採取し、これを中性付近のpHを有する緩衝液に懸濁させ、懸濁液から酵素の抽出を行う。中性付近の緩衝液は、通常pH 6.0〜8.0 の 1〜100mM リン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、酢酸緩衝液等の緩衝液を用い超音波処理あるいは菌体破壊装置(Dyno Mill等) による処理を行って菌体を破砕し、コンドロイチナーゼABC、プロテアーゼ、その他の酵素、核酸、蛋白質等を含む酵素液を抽出する。
【0010】
さらに、コンドロイチナーゼABCの菌体からの抽出は、界面活性剤溶液、例えば界面活性剤を添加した緩衝液を用いることにより、酵素の抽出効率を一段と高めることができる。
本発明で使用する界面活性剤は、前記酵素を効率よく抽出できるものであればよい。
【0011】
抽出に用いる界面活性剤としては非イオン性界面活性剤がすぐれており、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンp-t-オクチルフェニルエーテル、ポリソルベート等が好ましい。ポリオキシエチレンアルキルエーテルには、Emulgen 系界面活性剤、Liponox 系界面活性剤、Brij系界面活性剤等がある。これらの市販されている界面活性剤にはEmulgen 120, Emulgen 109 P,Liponox DCH, Brij 35, 78, 76, 96, 56, 58 もしくは98, Nikkol BL-9EX, BL-21もしくはBL-25 などがある。また、ポリオキシエチレンp-t-オクチルフェニルエーテルには、Triton系界面活性剤、Nonidet 系界面活性剤、Neutronyx 系界面活性剤あるいはConco 系界面活性剤などがある。これらの市販されている界面活性剤には、Triton X-100, X-45, X-114, X-102, X-165, X-305, X-405, Nonidet P-40, Igepal CA-630, Neutronyx 605, Conco NIX-100等が例示することができる。またポリソルベートは、ソルビタンモノ-9- オクタデセノエートポリ (オキシ-1,2- エタンジイル) 誘導体が好ましく、Tween 80が市販されている。その他のポリソルベートとしては、Tween 20, 40もしくは60, Emasol 4115 もしくは4130が市販されている。
【0012】
これらのうち、特に好ましい界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル(POELE)などのポリオキシエチレンアルキルエーテル類を挙げることができる。これらの界面活性剤を用いて菌体から酵素を抽出すると、酵素の抽出効率を高めることができるばかりでなく、他の抽出法と比較して酵素以外の夾雑蛋白や核酸あるいはプロテアーゼの混入の少ない酵素抽出液を得ることができる。DYNO(登録商標名)MILLを用いた従来の抽出法では湿菌体1g当りの酵素抽出量は、約 150乃至200 単位程度であったが、界面活性剤を用いて抽出した場合は湿菌体1g当り少なくとも約500 〜600 単位の酵素を抽出することができる。界面活性剤による抽出液から、弱カチオン交換樹脂および/または強カチオン交換樹脂によるクロマトグラフィー処理を行うことによって、エンドトキシン含量が医薬品用に対応できるほど微量で、電気泳動的に単一バンドを示す活性の高いコンドロイチナーゼABCを容易に高収率で得ることができる。
【0013】
抽出は湿菌体を前記界面活性剤を2〜7%含む緩衝液に加えて菌体懸濁液とし、15〜45℃で、好ましくは37℃前後に加温して約1〜10時間、好ましくは2〜6時間撹拌し、懸濁液を室温程度に冷却し、これを遠心分離等の分離手段で菌体残渣と抽出液とに分離する。このようにして得られる抽出液には主としてコンドロイチセナーゼABC、その他の酵素、蛋白質、核酸が含まれているので、次に述べるコンドロイチナーゼABCの精製工程を行う。
【0014】
このようにして抽出された菌体抽出液から蛋白質、核酸等を除去する。蛋白質、核酸の除去は、通常行なわれているいずれの方法を用いてもよいが、特に核酸を除去するためには硫酸プロタミンを添加して行なうことが本酵素を医薬品として使用する場合を考慮すると好ましい。
プロタミン処理は、前記の菌体抽出液に3〜7%の硫酸プロタミン水溶液を最終濃度が約0.25〜1 %濃度になるように添加して約10〜30分間4℃乃至室温付近で撹拌して核酸等の沈澱を生じさせ、これを遠心その他の方法によって分離除去する。
【0015】
得られた上澄液は、コンドロイチナーゼABC、プロテアーゼ、その他の酵素を含んでいるのでカチオン交換樹脂を用いてクロマトグラフィー処理を行う。
本発明の精製コンドロイチナーゼABCの製造法においては、弱カチオン交換樹脂と強カチオン交換樹脂を組合せて使用し、クロマトグラフィー処理を行う。 ここで使用する弱カチオン交換樹脂としては、交換基がカルボキシメチル基等のカルボキシアルキル基であるカチオン交換樹脂を例示することができる。具体的には交換基としてカルボキシメチル基を有する多糖類誘導体 (アガロース誘導体、架橋デキストラン誘導体等) が挙げられ、市販品としてはCMセファロース、CMセファデックス (いずれも商品名、ファルマシア社) 等が挙げられる。
強カチオン交換樹脂としては、交換基がスルホアルキル基であるカチオン交換樹脂を例示することができる。具体的には、交換基としてスルホエチル基、スルホプロピル基等を有する多糖類誘導体 (アガロース誘導体、架橋デキストラン誘導体等) が挙げられ、市販品としてはSセファロース又はSPセファロース(商品名、ファルマシア社)、SPセファデックス(商品名、ファルマシア社)、SPトヨパール(商品名、東ソー(株))等が挙げられる。
上記2種類のカチオン交換樹脂を組合せたクロマトグラフィー処理としては、以下の方法を一例として挙げることができる。
【0016】
まず最初のクロマトグラフィー処理は、弱カチオン交換樹脂を菌体の抽出に用いたのと同様の緩衝液、例えばpH 6.5〜7.5 の緩衝液 (例えば、 1〜50mMのリン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、酢酸緩衝液など) で平衡化し、これに前記の酵素含有上澄液を接触させ、酵素を吸着させ、このカチオン交換樹脂を、必要に応じて塩類溶液(例えば、20〜25mM NaCl 溶液および/または前記界面活性剤溶液 (例えば、0.5 %POELE 溶液)) を用いて洗浄する。上記緩衝液に 0.1Μ程度の食塩を溶解させた溶出液を調製し、前記樹脂と接触させて酵素活性を有する画分を溶出する。溶出法は濃度勾配法 (グラジエント法) によっても、ステップワイズ法によってもよい。このようなクロマトグラフィー処理は、カラム法でも、バッチ法でもよい。
得られた画分を、同様の緩衝液で平衡化した強カチオン交換樹脂と接触させ、コンドロイチナーゼABCを吸着させ、このカチオン交換樹脂を、必要に応じて塩類溶液 (例えば20〜50mM NaCl 溶液および/または水を用いて洗浄後、0〜約 0.5Μの食塩を含む前記と同様の緩衝液 (例えばリン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、酢酸緩衝液など) で濃度勾配法によってコンドロイチナーゼABCを溶出単離する。このようなクロマトグラフィー処理は、カラム法で行うことが好ましい。
以上の2種類のカチオン交換樹脂を使用するクロマトグラフィー処理を、上記と逆の順序で行うことも可能である。
【0017】
また、菌体を界面活性剤を含有する緩衝液で抽出した場合は、前記したように抽出液中の不純物の量が少ないので、プロタミン処理などの抽出液からの核酸除去操作を行なわず、直接CMセファロースカラムに通してコンドロイチナーゼABCをカラム吸着させ、カラムを洗滌後、濃度勾配法(グラジエント法)等でカラムから酵素を溶出するという簡単な操作で酵素を精製することもできる。
クロマトグラフィー処理を行って精製した酵素溶液を常法によって濃縮、脱塩し、そのまま精製酵素溶液として医薬品、試薬等として用いてもよく、また、濃縮、脱塩した酵素溶液を酵素を変性、失活させない条件下で一般的乾燥法(凍結乾燥法等)によって粉末化してもよい。
さらに、上記の精製酵素溶液を、両末端が水酸基である構造を有するポリエーテル(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)と混合接触させ、コンドロイチナーゼABCを結晶化させることもできる。例えば、コンドロイチナーゼABC溶液にポリエチレングリコール (分子量4,000 、6,000
等) を添加し、酵素濃度 250〜500U/ml 、ポリエチレングリコール濃度5〜20%、好ましくは10〜15%に調整し、室温〜4℃程度で結晶が生成するまで放置する。この結晶は、斜方晶系または単斜晶系の針状もしくは柱状結晶であって、実施例に示すような結晶パラメーターを示す。
【0018】
このようにして得られたコンドロイチナーゼABCは、不純物のエンドトキシン、核酸、プロテアーゼ、その他の蛋白質等が除去されており、電気泳動(SDS-PAGE)で単一のバンドを示し、HPLC (ゲル濾過、カチオン交換) においても単一のピークを示し、しかも比活性も従来のコンドロイチナーゼABCにくらべて約3倍以上高いものとなる。しかも本発明の方法においては従来の方法におけるように硫安分画や製造工程の途中で濃縮脱塩操作を行う必要がなくなったので、コンドロイチナーゼABCの製造時間を短縮し、収率を向上することができ、製造経費をコストダウンすることができる。さらにまた少量のコンドロイチナーゼABCであっても、あるいは大量のコンドロイチナーゼABCであってもその生産量に関係なく自由に生産することができる。
また、上記方法により結晶化して得られたコンドロイチナーゼABC結晶は、針状もしくは柱状結晶(図1参照)であり、均一で品質が安定しており、比活性が高く、保存安定性が優れている。
【0019】
本発明の前記方法で得られたコンドロイチナーゼABCの性質を示すと次のとおりである。
(1) 作用
ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン、デルマタン硫酸に作用し、反応初期には少量の大きな不飽和オリゴ糖を生成し、最終的には不飽和二糖(Δ4-グルクロニル−N−アセチルヘキソサミンおよびその4−または6−硫酸エステル)及び不飽和オリゴ糖混合物を生成する。
(2) 至適pH及び安定pH
コンドロイチン硫酸Cを基質にした場合(トリス−塩酸緩衝液中)の至適pHは 8.0〜8.2 である(図2)。pH5〜9において25℃で24時間放置した場合約80%以上の残存活性を示す(図3)。
【0020】
(3) 力価の測定法
酵素反応により紫外部に顕著な吸収を有する不飽和二糖及び不飽和オリゴ糖が生成することに基づく。コンドロイチン硫酸C(基質)1.2mg 、50mM酢酸ナトリウムを含有する50mMトリス−塩酸緩衝液(pH8〜8.5)、カゼイン10μgに酵素を加えた酵素反応液を、37℃で10分間保温して反応させ、pH 1.8の0.05Μ塩酸を加えて反応を止め、232nm における吸収を測定する。一方、対照として熱変性させた酵素液を上記組成の基質溶液中に保持し、同様の処理を行って232nm における吸収を測定する。生成物の不飽和糖の量は、対照に対する吸収の増加から計算する。なお、2-アセトアミド -2-デオキシ-3-0-(β-D- グルコ -4-エンピラノシルウロン酸)-6-0-スルフォ -D-ガラクトースのミリモル分子吸光係数は 5.5 とする。この結果、1単位(U) の酵素量は、上記反応条件下において1分間に不飽和二糖を1マイクロモル遊離する反応を触媒する量と定義する。
【0021】
(4) 作用適温及び温度安定性
作用至適温度は37℃であり、30〜37℃で約90%以上の活性を示す(図4 )。またpH 7.0のトリス−塩酸緩衝液を用い各温度に1時間保持し、残存活性を測定したところ2℃から30℃の間で安定であり、50℃で失活する(図5)。
【0022】
(5) 阻害
表1に示すように亜鉛(Zn2+)、ニッケル(Ni2+)、鉄(Fe3+)、銅(Cu2+)の各イオンによって活性が阻害される。
【0023】
【表1】
【0024】
(6) 分子量
ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動 (SDS-PAGE) により単一バンドとなり、還元状態においてもあるいは非還元状態においても約100,000 ダルトンである。また、ゲル濾過(HPLC)により同様に約 100,000ダルトンである (図6参照;条件は後述)。
(7) 等電点約 8.2及び約8.5 〔Phast Gel IEF pH3〜9およびスタンダードとしてpIカリブレーションキット 3〜10を使用し、Phast System装置を使用して測定した (試薬、装置は全てファルマシア社製) 〕
【0025】
(8) アミノ酸分析
表2に示すとおりである。
【0026】
【表2】
【0027】
なお、この分析はコンドロイチナーゼABCを 6N 塩酸中で減圧し、110 ℃で24時間加水分解して行ったものである。
試料は3回測定し、その平均値を示した。
全分子量を100,000 として算出した。
Trp, Cysは未測定である。
【0028】
(9) 末端アミノ酸
N末端アミノ酸残基は、エドマン(Edman) 分解(「生化学実験講座1-タンパク質の化学II、一次構造決定法」132 〜142 頁、1976年 8月28日、(株)東京化学同人発行)によって同定したところアラニンであった。N末端アミノ酸配列は、アラニン−スレオニン−X −アスパラギン−プロリン−アラニン−フェニルアラニン−アスパラギン酸−プロリン−(ただし、X は未同定)であった。
また、C末端アミノ酸配列は、カルボキシペプチダーゼYを使用してカルボキシペプチダーゼ法 (「生化学実験講座1-タンパク質の化学II、一次構造決定法」 203〜211 頁) によって同定したところ、−セリン−ロイシン−プロリンであった。
この結果、本発明のコンドロイチナーゼABCの末端は、次のアミノ酸残基よりなる。
Ala-Thr-X-Asn-Pro-Ala-Phe-Asp-Pro- ………Ser-Leu-Pro
X: 未同定
【0029】
(10) 安定性
リン酸緩衝剤 (pH6〜8)存在下において溶液状態、乾燥状態ともに室温で3カ月以上安定である。
(11) 比活性
300U/mg 蛋白以上
(12) その他
HPLC(カチオン交換クロマトグラフィー)及びHPLC(GPC; ゲル濾過) において単一のピークを示した。
なお、ゲル濾過の条件および結果は以下のとおりである。
【0030】
条件
カラム: TSK G3000SWxl(東ソー(株)製)
溶出液: 0.2M 塩化ナトリウムを含む0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)
溶出速度:0.5ml/分
操作温度:35℃
検出波長:280nm
注入量:20μl
分子量マーカー:チトクロームC(12.4キロダルトン)
アデニル酸キナーゼ (32キロダルトン)
エノラーゼ (67キロダルトン)
乳酸デヒドロゲナーゼ(142キロダルトン)
グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(290キロダルトン)
(以上、全てオリエンタル酵母工業(株)製)
【0031】
結果
本発明のコンドロイチナーゼABCは、保持時間18.43 分の位置に単一ピークとして溶出された (図6)。この保持時間を上記分子量マーカーと比較し、分子量を約100 キロダルトンと決定した。
エンドトキシンを実質的に含まず、DNA 、プロテアーゼは検出限界以下であった。市販コンドロイチナーゼABC (生化学工業(株)、カタログNo.100332)について同様に測定したところ、DNAは検出限界の5,000 倍、プロテアーゼは検出限界の 200倍であった。
【0032】
なお、本発明のコンドロイチナーゼABCと従来知られている最も精製度の高いコンドロイチナーゼABC(生化学工業株式会社製、コンドロイチナーゼABCプロテアーゼフリー、カタログNo.100332)とを対比すると分子量は、前者はSDS-PAGE及びゲル濾過のいずれにおいても約100,000 ダルトンであるのに対し、後者は、SDS-PAGEによると約80,000ダルトンであり、ゲル濾過によると約 120,000〜145,000 ダルトンであり、この点で大きく相違する。しかも比活性は前者が300U/mg蛋白以上であるのに対し、後者は110U/mg蛋白前後であり、安定性も前者が室温で3カ月以上安定であるのに対し、後者は−70℃で3カ月以上安定であってこの点でも相違する。さらに前者のコンドロイチナーゼABCは電気泳動およびHPLCにおいても単一で、かつ結晶化することができ、このため末端アミノ酸、等電点等を測定できるのに対し、後者は、物質として同定可能な純度の酵素標品ではなかったために、末端アミノ酸、等電点等を測定できず、この点においても相違する。
【0033】
本発明のコンドロイチナーゼABCは、前記したように純度の高い精製された酵素であって、試薬としては勿論、医薬品としても用いることができる。
医薬としては、例えば、本発明の精製コンドロイチナーゼABCまたはコンドロイチナーゼABC結晶に必要により適当なpH調節剤 (例えば、リン酸緩衝剤)
を添加して安定pH範囲内のpHとし、精製水、生理食塩水等を加えてそのまま液体製剤とするか、あるいはデキストラン類、サッカロース、ラクトース、マルトース、マンニトール、キシリトール、ソルビトールあるいは血清アルブミンなどと混合した固体製剤として、コンドロイチナーゼABCを有効成分とする椎間板ヘルニア治療剤とすることができる。この治療剤は、ヘルニア症患者の椎間板腔に注入し、ヘルニアを溶解して治療する椎間板溶解療法に用いることができる。使用量は、症状、年令等によって異なり、一概には特定できないが、通常1回10〜100U程度を注入する。
【実施例1】
【0034】
次に、本発明のコンドロイチナーゼABCの製造法について実施例を挙げて具体的に説明する。
プロテウス・ブルガリス(NCTC 4636, ATCC 6896, IFO 3988) を従来知られている通常の方法(J.Biol.Chem.,243 (7), 1523-1535(1968))で培養して湿菌体を得た。この湿菌体200gに5mMリン酸緩衝液 (pH6.5 〜7.0)600ml を加えて懸濁させ、DYNO(登録商標名)MILLにより菌体を破砕し遠心分離して、酵素抽出液を得た(工程1)。 この菌体抽出液から核酸を除くために硫酸プロタミンを用いた。上記酵素抽出液に最終濃度 0.5%となるように5%硫酸プロタミン溶液を加え、4℃で約30分間撹拌し、生じた沈澱を遠心分離によって除去し、上澄液を得た(工程2)。
得られた上澄液に約5倍量の水を加えカラムクロマトグラフィーで精製した。すなわち、CMセファロースを充填したカラムに5mMリン酸緩衝液(pH6.5〜7.0)を流して平衡状態とした後、上記上澄液を流し吸着させた。その後カラムを同じ緩衝液で洗浄し次いで0.025 M食塩を含んだ同じ緩衝液で洗浄し、次に 0.1Mの食塩を含んだ上記緩衝液で溶出し、酵素活性を有する画分を得た(工程3)。
【0035】
この酵素活性画分に約5倍量の水を加え、予め5mMリン酸緩衝液(pH6.5〜7.0)で平衡化したS−セファロースカラムに吸着させた。その後、カラムを上記緩衝液で洗浄し、次いで0.025 M食塩を含む上記緩衝液で洗浄し、次に 0.025〜約0.35Mの食塩を含む上記緩衝液で濃度勾配法により溶出した。
溶出したコンドロイチナーゼABCは単一バンド(SDS-PAGE)を示し、かつ核酸(DNA) 、プロテアーゼ等が除去されており、比活性は380U/mgであって、従来のコンドロイチナーゼABCにくらべて比活性は約3倍程度以上高く、高純度の酵素となった。
この酵素溶液(リン酸緩衝液(pH7.0)) に15%となるようにポリエチレングリコール (分子量 4,000) を添加し、室温で約1週間放置したところ、針状もしくは柱状結晶状で白色乃至無色のコンドロイチナーゼABC結晶が生成した。得られた結晶の顕微鏡写真(2.5倍)を図1に示す。
得られた結晶は、X線結晶解析を行った結果、斜方晶系または単斜晶系の針状もしくは柱状結晶であって、次の結晶パラメーターを示す。
【0036】
斜方晶系の場合; 単斜晶系の場合;
空間群 P2221 空間群 P21
格子定数 a= 214Å 格子定数 a= 214Å
b= 92Å b= 56Å
c= 56Å c= 92Å
α= 90゜ α= 90゜
β= 90゜ β≧ 90゜(108゜程度)
γ= 90゜ γ= 90゜
【0037】
この精製各工程におけるSDS-PAGEの結果を図7に示す。
SDS-PAGEは10%ゲルを使用し、常法 (Laemmli, U.K., Nature, 227, 680-685
(1970))に従って行った。
S−セファロース処理すると、還元及び非還元状態において明瞭な単一のバンドとなっている(図7、C,D参照)。
本発明の各工程におけるコンドロイチナーゼABCの精製度を示すと表3に示すとおりとなる。
【0038】
【表3】
【0039】
また、各工程におけるエンドトキシンの含量及び、プロテアーゼ残存量を表4に示す。
【0040】
【表4】
* コンドロイチナーゼABC 100単位(U) 当りのエンドトキシン含量;トキシカラーシステム (生化学工業(株)製) を用いて測定。EUはエンドトキシン単位(Endotoxin Unit)を示す。
** FITC−カゼインを基質として測定。
〈0.3μg(<0.1%)は検出限界以下を意味する。
工程4により得られた酵素溶液中のエンドトキシン含量は、上記のように 5.0pg/100U 程度の極微量で実質的に含有されておらず、また核酸(DNA)についてスレッシュホールド法〔DNA測定装置:スレッシュホールド(モレキュラーデバイス社製)〕で測定したが、DNAは検出されなかった(検出限界以下)。
【0041】
また本発明の工程4で得られた上記コンドロイチナーゼABCを溶液状態で各温度に放置したときの安定性を表5に示す。350U/ml の濃度で5日間保存し、−40℃で保存したときの活性を 100%として相対活性で表わした。
【0042】
【表5】
【実施例2】
【0043】
実施例1で用いたプロテウス・ブルガリス(NCTC4636 ATCC 6896, IFO 3988)
の湿菌体7.5kg を、10%ポリオキシエチレンラウリルエーテル〔(POELE; Nikkol BL-9EX(商品名) 〕を添加した40mMリン酸緩衝液(pH7.0±0.5)約15l と精製水約7.5lとを入れたタンクに投入して攪拌し、菌体懸濁液とした。この菌体懸濁液を、35℃±3 ℃に加温し、同温度で約2 時間攪拌した。約2時間経過後、20mMリン酸緩衝液(pH7.0 ±0.5)約30l を加えて希釈し、液温が20℃になるまで懸濁液を冷却した。
この懸濁液をシャープレス遠心分離器で遠心分離し、その遠心上清を得た。遠心の前後に液温を測定して20℃を越えないようにした。
【0044】
得られた遠心上清に、2 〜15℃に冷却した精製水30l を加えて希釈し、これをCM- セファロースカラム (ゲル量約5l) に通し、コンドロイチナーゼABCをカラムに吸着させた。
このカラムに精製水1L を通してカラムを洗滌し、さらに0.5 %POELE 水溶液10L 、0.04M リン酸緩衝液(pH6.2±0.2) 5 Lを通してカラムを洗浄した。次に、このカラムにO M 及び0.25M のNaClを含む0.04M リン酸緩衝液(pH 6.2 ±0.2)約10L ずつを用いてリニアーグラジェントによって溶離液を流し、コンドロイチナーゼABCを溶出した。
この溶出液を孔径0.22μm の濾過滅菌フィルターを通し、滅菌容器に集めてコンドロイチナーゼABC酵素溶液を得た。
POELE による菌体抽出時間(hr)と酵素活性との関係を示すと次の表6のとおりである。
【0045】
【表6】
【0046】
菌体の抽出は1〜2時間で酵素濃度が平衡に達した。
また抽出液の全核酸量は、攪拌後0.25時間のうちに最高となり (約25g/菌体)、その後低減し、約1時間後には平衡(約2-3g/菌)に達した。
【実施例3】
【0047】
実施例1で用いたプロテウス・ブルガリス(NCTC4636, ATCC6896,IFO3988) の湿菌体5kg を、5%のPOELE を加えた5倍容量の20mMリン酸緩衝液(pH7.0) に加え、37℃で3時間抽出した。この抽出液を実施例1と同様にプロタミン処理、CM- セファロース処理及びS-セファロース処理し(これらの条件は表7に示す) 、グラジエント溶出によってコンドロイチナーゼABCを溶出した。この溶液は、電気泳動(SDS-PAGE)でコンドロイチナーゼABCの単一のバンドを示した。この酵素溶液を送液ポンプを用いて、孔径0.22μm の濾過滅菌フィルターを通し、濾液を滅菌容器に集めてコンドロイチナーゼABC酵素液とした。
この結果、表に基づいて算出すると菌体1g当り約500 ユニットのコンドイチナーゼABCを抽出することができた。
次に、実施例3の各工程におけるコンドロイチナーゼABCの精製度を示すと表7のとおりとなった。
【0048】
【表7】
1) は凍結菌体からの回収率、他はプロタミン処理後の液からの回収率
【0049】
また、この菌体からのコンドロイチナーゼABCの抽出における抽出時間とコンドロイチナーゼABCの活性との関係を図8に示した。
【実施例4】
【0050】
実施例3と同様にして界面活性剤をとしてTriton,Brij 、Nonidet あるいはPOELE を用いて、その濃度を2 %あるいは5%とし、懸濁液の温度を25℃あるいは37℃でコンドロイチナーゼABCの抽出を行った。その結果を図9〜12に示す。いずれの場合も37℃加温下、界面活性剤濃度5%で行った方が抽出液の活性が高く、約1〜2時間でほとんどの活性が抽出された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の精製コンドロイチナーゼABCあるいはその結晶は極めて精製度が高く、プロテアーゼ、核酸およびエンドトキシンを実質的に含まないため、医薬品および研究用試薬としての有用性が極めて高い。
すなわち、本発明の精製コンドロイチナーゼABCあるいはその結晶を医薬品として使用する場合、保存安定性が優れているのでほとんど活性が低下しない。また、比活性が高く不純物を含まないので、投与量を少くすることができ、副作用を示さない。
また、研究用試薬として使用する場合、例えば、動物細胞を使用した実験においては、本発明の酵素はエンドトキシンおよびプロテアーゼを含まないので、実験結果の再現性が高まる効果がある。
さらに、本発明の精製法は、従来必要とされていた硫安分画、精製途中での濃縮脱塩操作を省略したので、精製の工程数および時間を短縮し、収率を向上させるとともに製造コストを低減させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明のコンドロイチナーゼABC結晶の顕微鏡写真を示す。
【図2】本発明のコンドロイチナーゼABCの活性と反応pHとの関係を示す。
【図3】本発明のコンドロイチナーゼABCを所定のpHにおいて25℃で24時間放置したときのpHと残存活性との関係を示す。○−−○:酢酸緩衝液、×----×:トリス−酢酸緩衝液、△----△:トリス−塩酸緩衝液、●−−●:グリシン緩衝液の各緩衝液中に保持したときの残存活性
【図4】本発明のコンドロイチナーゼABCの活性と反応温度との関係を示す。
【図5】本発明のコンドロイチナーゼABCを所定の温度において1時間保持したときの温度と残存活性との関係を示す。
【図6】本発明のコンドロイチナーゼABCについて、HPLCによるゲル濾過を行ったときのクロマトグラムを示す。
【図7】本発明の実施例1のコンドロイチナーゼABCの精製工程の各段階におけるSDS-PAGEのバンドを示す。A:プロタミン処理上澄液、B:CM−セファロース処理液、C:S−セファロース処理液(非還元)、D:S−セファロース処理液(還元)
【図8】本発明の実施例3の菌体からコンドロイチナーゼABC抽出時間とコンドロイチナーゼABC活性との関係を示す。
【図9】本発明の実施例4の菌体を濃度の異なるTriton X-100含有緩衝液で25℃と37℃の条件で抽出したものの抽出時間とコンドロイチナーゼABC活性との関係を示す。1:界面活性剤濃度 2%、抽出温度25℃(□)、2:界面活性剤濃度 2%、抽出温度37℃:(+)、3:界面活性剤濃度 5%、抽出温度25℃(◇)、4 界面活性剤濃度 5%、抽出温度37℃(△)
【図10】本発明の実施例4の菌体を濃度の異なるBrij-35 含有緩衝液で25℃と37℃の条件で抽出したものの抽出時間とコンドロイチナーゼABC活性との関係を示す。1:界面活性剤濃度 2%、抽出温度25℃(□)、2:界面活性剤濃度 2%、抽出温度37℃(+)、3:界面活性剤濃度 5%、抽出温度25℃(◇)、4:界面活性剤濃度 5%、抽出温度37℃:(△)
【図11】本発明の実施例4の菌体を濃度の異なるNonidet P-40含有緩衝液で25℃と37℃の条件で抽出したものの抽出時間とコンドロイチナーゼABC活性との関係を示す。 1:界面活性剤濃度 2%、抽出温度25℃(□)、2:界面活性剤濃度 2%、抽出温度37℃(+)、3:界面活性剤濃度 5%、抽出温度25℃(◇)、4:界面活性剤濃度 5%、抽出温度37℃(△)
【図12】本発明の実施例4の菌体を濃度の異なるPOELE 含有緩衝液で25℃と37℃の条件で抽出したものの抽出時間とコンドロイチナーゼABC活性との関係を示す。1:界面活性剤濃度 2%、抽出温度25℃(□)、2:界面活性剤濃度 2%、抽出温度37℃(+)、3:界面活性剤濃度 5%、抽出温度25℃(◇)、4:界面活性剤濃度 5%、抽出温度37℃(△)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンドロイチナーゼABCを含有した医薬組成物において、コンドロイチナーゼABCとして、以下(a)〜(f)のいずれかに記載の精製コンドロイチナーゼABC又は結晶性コンドロイチナーゼABCを用いたことを特徴とするコンドロイチナーゼABC含有医薬組成物。
(a)次の特性を有する精製コンドロイチナーゼABC
(i)N末端アミノ酸がアラニンである
(ii)エンドトキシンを実質的に含まず、核酸およびプロテアーゼ含量は検出限界以下である
(iii)比活性が300U/mg以上である
(b)次の特性を有する精製コンドロイチナーゼABC
(i)N末端アミノ酸がアラニンである
(ii)エンドトキシンを実質的に含まず、核酸およびプロテアーゼ含量は検出限界以下である
(iii)比活性が300U/mg以上である
(iv)C末端アミノ酸がプロリンである
(v)SDS−ポリアクリルアミドゲル電気流動(SDS-PAGE)により単一のバンドを示し、高速液体クロマトグラフィー(ゲル濾過およびカチオン交換)においても単一のピークを示す
(vi)結晶化しうる
(c)次の特性を有する請求項1又は2記載の精製コンドロイチナーゼABC
(i)N末端アミノ酸がアラニンである
(ii)エンドトキシンを実質的に含まず、核酸およびプロテアーゼ含量は検出限界以下である
(iii)比活性が300U/mg以上である
(iv)C末端アミノ酸がプロリンである
(v)SDS−ポリアクリルアミドゲル電気流動(SDS-PAGE)により単一のバンドを示し、高速液体クロマトグラフィー(ゲル濾過およびカチオン交換)においても単一のピークを示す
(vi)結晶化しうる
(vii)分子量が、SDS-PAGEによる測定(非還元及び還元のいずれにおいても)及びゲル濾過法による測定において約100,000ダルトンである
(viii)等電点が約pH8.2及び約pH8.5である
(ix)至適pHは8.0〜8.2(基質:コンドロイチン硫酸C,緩衝液:トリス−塩酸緩衝液)、至適温度は37℃である
(x)Zn2+、Ni2+、Fe3+、及びCu2+によって活性が阻害される
(d)針状もしくは柱状結晶であって、以下の性質を有するコンドロイチナーゼABCの結晶
(i)N末端アミノ酸がアラニンである
(ii)エンドトキシンを実質的に含まず、核酸およびプロテアーゼ含量は検出限界以下である
(iii)比活性が300U/mg以上である
(e)両末端が水酸基である構造を有するポリエーテルを用いて結晶化された針状もしくは柱状結晶であって、以下の性質を有するコンドロイチナーゼABCの結晶
(i)N末端アミノ酸がアラニンである
(ii)エンドトキシンを実質的に含まず、核酸およびプロテアーゼ含量は検出限界以下である
(iii)比活性が300U/mg以上である
(f)以下(i)〜(iii)の特性を有し、以下(iv)の結晶パラメーターを示す斜方晶系または単斜晶系のコンドロイチナーゼABCの針状もしくは柱状結晶
(i)N末端アミノ酸がアラニンである
(ii)エンドトキシンを実質的に含まず、核酸およびプロテアーゼ含量は検出限界以下である
(iii)比活性が300U/mg以上である
(iv)
斜方晶系の場合;
空間群 P2221
格子定数 a=214Å
b= 92Å
c= 56Å
α= 90°
β= 90°
γ= 90°
単斜晶系の場合;
空間群 P21
格子定数 a=214Å
b=56Å
c=92Å
α=90°
β≧90°
γ=90°
【請求項2】
医薬組成物は、椎間板ヘルニア治療用である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項1】
コンドロイチナーゼABCを含有した医薬組成物において、コンドロイチナーゼABCとして、以下(a)〜(f)のいずれかに記載の精製コンドロイチナーゼABC又は結晶性コンドロイチナーゼABCを用いたことを特徴とするコンドロイチナーゼABC含有医薬組成物。
(a)次の特性を有する精製コンドロイチナーゼABC
(i)N末端アミノ酸がアラニンである
(ii)エンドトキシンを実質的に含まず、核酸およびプロテアーゼ含量は検出限界以下である
(iii)比活性が300U/mg以上である
(b)次の特性を有する精製コンドロイチナーゼABC
(i)N末端アミノ酸がアラニンである
(ii)エンドトキシンを実質的に含まず、核酸およびプロテアーゼ含量は検出限界以下である
(iii)比活性が300U/mg以上である
(iv)C末端アミノ酸がプロリンである
(v)SDS−ポリアクリルアミドゲル電気流動(SDS-PAGE)により単一のバンドを示し、高速液体クロマトグラフィー(ゲル濾過およびカチオン交換)においても単一のピークを示す
(vi)結晶化しうる
(c)次の特性を有する請求項1又は2記載の精製コンドロイチナーゼABC
(i)N末端アミノ酸がアラニンである
(ii)エンドトキシンを実質的に含まず、核酸およびプロテアーゼ含量は検出限界以下である
(iii)比活性が300U/mg以上である
(iv)C末端アミノ酸がプロリンである
(v)SDS−ポリアクリルアミドゲル電気流動(SDS-PAGE)により単一のバンドを示し、高速液体クロマトグラフィー(ゲル濾過およびカチオン交換)においても単一のピークを示す
(vi)結晶化しうる
(vii)分子量が、SDS-PAGEによる測定(非還元及び還元のいずれにおいても)及びゲル濾過法による測定において約100,000ダルトンである
(viii)等電点が約pH8.2及び約pH8.5である
(ix)至適pHは8.0〜8.2(基質:コンドロイチン硫酸C,緩衝液:トリス−塩酸緩衝液)、至適温度は37℃である
(x)Zn2+、Ni2+、Fe3+、及びCu2+によって活性が阻害される
(d)針状もしくは柱状結晶であって、以下の性質を有するコンドロイチナーゼABCの結晶
(i)N末端アミノ酸がアラニンである
(ii)エンドトキシンを実質的に含まず、核酸およびプロテアーゼ含量は検出限界以下である
(iii)比活性が300U/mg以上である
(e)両末端が水酸基である構造を有するポリエーテルを用いて結晶化された針状もしくは柱状結晶であって、以下の性質を有するコンドロイチナーゼABCの結晶
(i)N末端アミノ酸がアラニンである
(ii)エンドトキシンを実質的に含まず、核酸およびプロテアーゼ含量は検出限界以下である
(iii)比活性が300U/mg以上である
(f)以下(i)〜(iii)の特性を有し、以下(iv)の結晶パラメーターを示す斜方晶系または単斜晶系のコンドロイチナーゼABCの針状もしくは柱状結晶
(i)N末端アミノ酸がアラニンである
(ii)エンドトキシンを実質的に含まず、核酸およびプロテアーゼ含量は検出限界以下である
(iii)比活性が300U/mg以上である
(iv)
斜方晶系の場合;
空間群 P2221
格子定数 a=214Å
b= 92Å
c= 56Å
α= 90°
β= 90°
γ= 90°
単斜晶系の場合;
空間群 P21
格子定数 a=214Å
b=56Å
c=92Å
α=90°
β≧90°
γ=90°
【請求項2】
医薬組成物は、椎間板ヘルニア治療用である、請求項1に記載の医薬組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−217428(P2007−217428A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−131365(P2007−131365)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【分割の表示】特願平5−177458の分割
【原出願日】平成5年6月24日(1993.6.24)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【分割の表示】特願平5−177458の分割
【原出願日】平成5年6月24日(1993.6.24)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】
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