説明

コンバインの運転部

【課題】起立運転時にレバー類に支障されることなく運転部グリップを握って安全な運転を行うことができ、またオペレータが運転部フロア側から脱穀部側に身体を乗り出して行うメンテナンス作業を容易にすることができるコンバインの運転部を提供する。
【解決手段】ステアリング13を有する前部運転パネル部11と、主変速レバー13を有する側部運転パネル部12を平面視で逆L字状に配置し、前部運転パネル部11の後方に運転部フロア10を介して運転シート8を設置するコンバインの運転部3であって、前記側部運転パネル部12と運転シート8との間に、該側部運転パネル部12の前後長さに略沿う運転部グリップ2を設けた構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転部グリップを備えたコンバインの運転部に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にコンバインの運転部は、ステアリング等が設置される前部運転パネル部と、前後進変速を行なう主変速レバー及び副変速を行なう副変速レバーや前処理部及び脱穀部等の動力入り切りを行なう各種の作業部レバー等を設置する側部運転パネル部とを、平面視で逆L字状をなすように立設している。このようなコンバインの運転部において、前部運転パネル部の前部外周に、オペレータが運転部フロアに起立姿勢で運転(以下単に起立運転と言う)する際に把持する運転部グリップを設けたものが公知である(例えば特許文献1。)。
また側部運転パネル部の前部から外側部に把持部(取っ手)を兼ねるサイドアシスト(運転部グリップ)を設けた運転部も既に公知である(例えば特許文献2。)。
【特許文献1】特開2007−300864号公報
【特許文献2】特開2007−236336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1及び特許文献2で示される運転部は、オペレータが中腰姿勢や起立姿勢で運転する際に、機体が激しくピッチングしたりローリングをするとき、運転部グリップを把持して身体の揺れを支えて走行をすることができる利点がある。然し、いずれのコンバインも通常運転時には、右手でステアリングレバーを把持した状態で、左手は主変速レバーを把持するか遊んだ状態にあるため、機体急旋回や畦越え運転により身体が大きく揺れるような場合に、前部運転パネル部の前部外側や側部運転パネル部の外周側に立設される運転部グリップ(左グリップ部)は運転シートから遠いため、左手で咄嗟に把持し体を支える手段がなく、また左グリップ部を把持しようとする際には起立運転姿勢においても、側部運転パネル部に設置される主変速レバー等に身体の一部や手を接触させる等の欠点がある。
【0004】
また特許文献2で示されるように、サイドアシスト(左グリップ部)が側部運転パネル部の前部から外側部に沿って立設される運転部では、オペレータが運転シート側から脱穀部の入口部付近に手を伸ばして、入口部に堆積する藁屑の除去や清掃等のメンテナンス作業を行いたい場合に、各種のレバー類が身体の腹部に直接的に接当したり、サイドアシストが作業の邪魔になる等の問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明のコンバインの運転部は、第1に、ステアリング13を有する前部運転パネル部11と、主変速レバー13を有する側部運転パネル部12を平面視で逆L字状に配置し、前部運転パネル部11の後方に運転部フロア10を介して運転シート8を設置するコンバインの運転部3において、前記側部運転パネル部12と運転シート8との間に、該側部運転パネル部12の前後長さに略沿う運転部グリップ2を設けたことを特徴としている。
【0006】
第2に、運転部グリップ2を長さ方向の後側を運転シート8の肘掛部となる肘掛高さに設定すると共に、前側を肘掛高さより低い高さに設定することを特徴としている。
【0007】
第3に、運転部グリップ2を長さ方向の後側を運転シート8の肘掛部となる肘掛高さに設定すると共に、該運転部グリップ2の肘掛部となる後側を、前側の幅より広幅に形成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
上記のように構成されるコンバインの運転部は次のような効果を奏する。請求項1の発明のように、側部運転パネル部と運転シートとの間に、該側部運転パネル部の前後長さに略沿う運転部グリップを設けることにより、起立運転時にレバー類に支障されることなく、運転部グリップを握ることができ安全な運転を行うことができる。また側部運転パネル部の運転部フロア側に設ける運転部グリップは、オペレータが運転部フロア側から身体を乗り出して脱穀部の入口部付近に手を伸ばす際に、邪魔になることなく藁屑除去等のメンテナンス作業を簡単に行うことができる。
【0009】
請求項2の発明のように、運転部グリップを長さ方向の後側を運転シートの肘掛部となる肘掛高さに設定することにより、簡単な構成によって肘掛部に兼用することができると共に、肘掛高さより低い高さにした前側は、オペレータが肘を掛けた状態で主変速レバー等の操作の邪魔になることなく、またオペレータが運転部フロアに乗り上がる際の取っ手として利便性を有して使用することができる。
【0010】
請求項3の発明のように、運転部グリップの肘掛部となる後側を広幅にしたことにより、オペレータの肘を安定よく支持すると共に、前側は後側より狭幅にしたことにより、運転の邪魔になることなく側部運転パネル部の内側寄りで握り易くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1において符号1は本発明に係わる運転部グリップ2を運転部3に備えたコンバインであり、クローラー式の走行装置1aを備えた走行機台1bに、従来のものと同様に前処理部4と脱穀部5等の作業部を前後方向に配置し、前処理部4の後方で脱穀部5の右側に運転部3とグレンタンク7を配置している。そして、運転部3の運転シート8を支持するエンジンカバー9内にエンジン(図示せず)を搭載している。
【0012】
上記構成からなるコンバイン1は、前処理部4で刈り取った穀稈を扱深搬送装置等を介して脱穀部5のフィードチェンに継送し、脱穀部5によって脱穀選別された穀粒をグレンタンク7に収容し、またグレンタンク7に収容される穀粒は穀粒排出オーガー7aを操作することにより機外に排出することができ、一連のコンバイン作業を行うことができる。
このコンバイン1の運転部3は、運転部フロア10の前側で横方向に立設される前部運転パネル部11と、該前部運転パネル部11に連なり運転部フロア10及び運転シート8の左側で前後方向に立設される側部運転パネル部12を平面視でL字状に構成している。また運転部フロア10の外側フレームには乗降時に足を掛ける補助ステップ10aを設置している。
【0013】
図1〜図3で示すように前部運転パネル部11は、コラム上部のパネル面に右側からステアリング(ステアリングレバー)13とモニター機器類の表示パネル14等を設置し、ステアリング13の後部に把持部を兼ねる手置き台13aを突設している。また前部運転パネル部11は右側面に駐車ブレーキレバー15を設けている。
尚、図示例のステアリング13はレバー操作によって操向操作を行う方式にしているが、回転ハンドルによって行う方式にすることもできる。
【0014】
側部運転パネル部12は平坦な側部上パネル12aに、前側から主変速レバー16とその左右に副変速レバー16aとエンジンコントロールレバー17を並設し、その後方に自動制御操作パネル部18を纏めて配置し、且つ副変速レバー16aの後方に、前処理部4及び脱穀部5のクラッチ操作を行う作業部レバー19b等を設けている。尚、
19aは排藁搬送切換レバーであり、運転シート8の後方側にグレンタンク7及び穀粒排出オーガー7aを操作する籾処理操作部19等を設置している。
また側部運転パネル部12は、側部上パネル12aの右側辺から側部縦壁12bを下向きに設け、少なくとも前部運転パネル部11の左端とエンジンカバー9の左端との間を覆うようにしている。この側部上パネル12aと側部縦壁12bは、図示しない側部パネルフレームにそれぞれ取付固定される。
【0015】
上記構成において前部運転パネル部11は、前記駐車ブレーキレバー15の基部を、運転部フロア10の前部に立設するパネルフレーム25の右側面にレバー軸15aを介して軸支している。この駐車ブレーキレバー15は、図2の実線位置では駐車ブレーキを解除し走行することができる切り位置にあり、前方に回動させた点線位置では駐車ブレーキを効かせる入り位置となる。この構成において平断面視でコ字状をなす前面カバー26は、パネルフレーム25に前方から嵌め込んだ状態で、複数のノブ付のボルト27,27・・によって着脱可能に取付けている。
【0016】
上記前面カバー26を締着する右側面側のボルト27は、その締着位置を駐車ブレーキレバー15の切り位置にラップさせて設けることにより、駐車ブレーキレバー15が切り位置にある状態では、上記ボルト27を緩めようとしても駐車ブレーキレバー15が邪魔になり緩めることを不能にしている。即ち、駐車ブレーキレバー15が入り位置に回動操作されると、前部運転パネル部11の側面を解放しボルト27を緩めることができるので、前面カバー26をパネルフレーム25との固定を解除して開くことができる。
【0017】
従って、このコンバイン1はエンジンを運転した状態で前部運転パネル部11内のメンテナンス作業を行なう際に、駐車ブレーキレバー15を切り位置に移動させないとボルト27を緩めることができないので、作業者が不用意に前面カバー26を外そうとしても駐車ブレーキレバー15に支障されてボルト27を緩めることができないものである。これにより作業者は駐車ブレーキレバー15を必ず入り位置に操作し、駐車ブレーキをかけて機体を確実に停止した状態で前面カバー26を外すので、機体の不慮の発進を防止してメンテナンス作業を行うことができる。
【0018】
また前部運転パネル部11に設置される表示パネル14は、1つのパネル内にエンジン回転及びその作業回転状態等を示すエンジン回転パネル部28と、コンバイン1の各作業部の状態を表示する作業モニタ部29を併設した、シンプルで見易く利便性の高い構成にしている。この作業モニタ部29はメンテナンス指示モニタ30の付設により、作業部の可動時間に基づく消耗部品の交換時期等を表示警報するようにしている。
【0019】
図示例のメンテナンス指示モニタ30は、エンジン負荷ランプ31と燃料フィルタランプ32と前処理ランプ33と藁処理ランプ34と選別調整ランプ35とからなる。尚、36はエンジン水温ランプであり、37は予熱ランプであり、いずれも在来のものと同様な構成からなる。
上記メンテナンス指示モニタ30において、エンジン負荷ランプ31と燃料フィルタランプ32が同時点灯したときは、燃料フィルタの交換時期がきたことを示す。そして、エンジン負荷ランプ31と前処理ランプ33とが同時点灯したときは、刈取部の穀稈搬送チェンの交換時期がきたことを示す。またエンジン負荷ランプ31と藁処理ランプ34とが同時点灯したときは、脱穀フィードチェンと排藁搬送チェンの交換時期がきたことを示す。またエンジン負荷ランプ31と選別調整ランプ35とが同時点灯したときは、脱穀室内の藁切り鎌の交換時期がきたことを示す。
【0020】
以上のように表示パネル14はメンテナンス指示モニタ30に機体の主要な消耗部品の交換時期を示すメンテナンス指示モニタ30を設けて作業者に知らせるようにしているので、エンジン運転パネル部28の表示確認を行なう際に、作業者はメンテナンス指示モニタ30の視認を自ずと行なうことができるから、各交換部品の交換時期を看過することなくモニタ表示された箇所の部品交換を確実に行うことができる。
【0021】
次に運転部3に設置される運転部グリップ2について説明する。図2,図3に示すように運転部グリップ2は側面視において、パイプ部材を門型状に屈曲形成してなり、平面視で略ストレートとなして側部上パネル12aの右側辺に沿わせ、前記側部パネルフレームの前後に前脚部38と後脚部39との下端を強固に取付固定し、側部上パネル12aの内側辺から立設した取付態様にしている。
図示例の運転部グリップ2は、前側が低く後側が高くなるように段差部40を有して、前側グリップ41と後側グリップ42とを形成している。
【0022】
これにより後側グリップ42を前側グリップ41より一段と高くして、作業者が運転シート8に着座した状態で肘をかけ易い高さの肘掛として利用することができる。そして、オペレータが後側グリップ42に左肘を載せた姿勢において、その手で前方の主変速レバー13や副変速レバー16aを操作する際に、前側グリップ41は段差部40を介して、後側グリップ42及び主変速レバー13等より低い位置にあるため操作の邪魔にならないようにしている。
【0023】
また上記構成による運転部グリップ2は、作業者が運転部3に乗るときの取っ手(把持部)として利用することができると共に、作業者が起立姿勢で操縦をする際の把持部にすることができる。また前処理部4と脱穀部5との間における藁詰まり除去や清掃等のメンテナンス作業を、運転部3から身を乗り出して行う際に把持する把持部、並びにこの際に身体を凭れさせる支持部材にすることができる。
また運転部グリップ2は図示例のように前脚部38を、側面視において前部運転パネル部11の後方に手を差し込むことができる間隔を有して取付けるので、この前脚部38を乗車時の取っ手にすることができる。
【0024】
そして、図示例の運転部グリップ2は後側グリップ42に、スポンジ等の弾性部材からなる厚肉パイプを嵌挿することにより広幅な肘掛部43を構成している。これによれば運転部グリップ2の後側に位置する肘掛部43を前側のグリップ幅より簡単な構成によって広く形成することができ、また広幅な肘掛部43は作業者の肘を楽に安定よく支持することができる。尚、実施形態において運転部グリップ2は1本の円形断面形状のパイプ材で前側グリップ41と後側グリップ42とを一体的に形成したが、長方形又は楕円形状断面でもよく、また前後を別部材によって構成することもできる。
【0025】
以上のようにコンバイン1は、運転部3を側部運転パネル部12と運転シート8との間に、該側部運転パネル部12の前後長さに略沿う運転部グリップ2を設けた構成にしていることにより、先ずオペレータが補助ステップ10aに足を掛け前屈みになりながら運転部フロア10に上ろうとする際に、上り方向に手を伸ばすとそのまま運転部グリップ2の前側グリップ41を握ることができるので、これを支えに運転部フロア10に容易に乗ることができ運転シート8に速やかに着座することができる。
この乗車時に後側より把持高さを低くしている前側グリップ41は、背丈の低い婦女子にとって容易に握ることができる。さらに側部上パネル12aに対して立設状となる前脚部38は、前側グリップ41より下側を縦握りすることができるので把持し易いものである。
【0026】
次いで運転シート8に座着したオペレータは、右手でステアリング13を握り操作すると共に、後側グリップ42の肘掛部43に左手の肘を載せた状態で、主変速レバー13を楽に握り操作することができる。このとき前側グリップ41は後側グリップ42より段差部40を介して低く設定されているため、スムーズな運転操作をすることができる。
【0027】
またオペレータが起立姿勢で運転をする際には、右手でステアリング13を把持した自然な立ち姿で、左手で直近にある運転部グリップ2の任意箇所を即座に把持することができるので、機体の急旋回や畦越え運転を行なう場合のように身体が大きく揺れる際に、オペレータは安定姿勢で運転をすることができる。また身体が左側に揺れて足腰部が側部運転パネル部12側に接当するような場合には、身体を各種のレバー類に接当させることなく運転部グリップ2が受け止めるので、大きな揺れに対しても安全性を高めることができる。
【0028】
そして、側部運転パネル部12の運転部フロア10側に位置して立設される運転部グリップ2は、例えば脱穀部5の入口部に藁詰まりを生じたような場合に、オペレータは運転部フロア10側から身体を乗り出して脱穀部5の入口付近に手を伸ばして藁を除去したり清掃を行うが、このとき運転部グリップ2は側部運転パネル部12の外周側に存在しないため、上記メンテナンス作業の邪魔になることなく、体を支える支持部材や把持部として利用することができ、藁屑除去等のメンテナンス作業を行ない易くすることができる等の利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係わる運転部グリップを備えたコンバインの全体斜視図である。
【図2】図1のコンバインの運転部及び運転部グリップの構成を示す側面図である。
【図3】図2の平面図である。
【図4】表示パネルの平面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 コンバイン
1b 走行機台
2 運転部グリップ
3 運転部
8 運転シート
10 運転部フロア
11 前部運転パネル部
12 側部運転パネル部
13 ステアリング
40 段差部
41 前側グリップ
42 後側グリップ





【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリング(13)を有する前部運転パネル部(11)と、主変速レバー(13)を有する側部運転パネル部(12)を平面視で逆L字状に配置し、前部運転パネル部(11)の後方に運転部フロア(10)を介して運転シート(8)を設置するコンバインの運転部(3)において、前記側部運転パネル部(12)と運転シート(8)との間に、該側部運転パネル部(12)の前後長さに略沿う運転部グリップ(2)を設けたコンバインの運転部。
【請求項2】
運転部グリップ(2)を長さ方向の後側を運転シート(8)の肘掛部となる肘掛高さに設定すると共に、前側を肘掛高さより低い高さに設定する請求項1記載のコンバインの運転部。
【請求項3】
運転部グリップ(2)を長さ方向の後側を運転シート(8)の肘掛部となる肘掛高さに設定すると共に、該運転部グリップ(2)の肘掛部となる後側を、前側の幅より広幅に形成する請求項1又は2記載のコンバインの運転部。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−296986(P2009−296986A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−157867(P2008−157867)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】