説明

コンバイン

【課題】オペレータの精神的負担を軽減すること。
【解決手段】走行部の上方に運転部と脱穀部と選別部と穀粒貯留部を配設し、走行部の前方に刈取部を昇降自在に設けたコンバインにおいて、運転部に走行部を操作する操向手段を設けると共に、操向手段は、走行部を直接的に操作する操向手段本体と、操向手段本体に着脱自在に取り付けてオペレータが把持して走行部を間接的に操作する把持体と、把持体に設けてオペレータの把持した手の指先で操作する指先操作体とを具備し、把持体は操向手段本体から取り外すことで、指先操作体により走行部を遠隔操作可能な無線リモートコントローラとなした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機体に着脱自在に取り付けたステアリングホイールを無線によるリモートコントローラ(以下、「無線リモコン」ともいう。)として使用可能として、機体から取り外した上記ステアリングホイールにより遠隔操作して機体を前・後方向に直進させることも、また、左・右方向に操向させることも可能としたコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
コンバインの一形態として、無線リモコンを使用して機体を前・後直進変速させることも、また、左・右旋回操向させることもできるようにした構造が特許文献1に開示されている。かかるコンバインでは、不安定な状況、例えば、機体の運転部に着座した状態では、機体の周囲が見難い場合、コンバイン移送用のトラックの荷台へコンバインを積み降ろしする場合や、コンバインを畦越えさせる場合のように、コンバインの機体が大きく前傾又は後傾する場合には、オペレータは機体の運転部から降りて歩きながら機体を遠隔操作することで、オペレータの安全性を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−296371
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、かかるコンバインの場合、前記した不安定な状況に安全に対応することはできるが、無線リモコンの誤操作等によってオペレータを害する不測の事態が生じる虞がある。すなわち、オペレータがあらかじめ無線リモコン操作を許可する何らかの操作をした時に限定して、無線リモコンの操作で機体の前・後直進変速や左・右旋回操向が可能となるようにしておかなければ、安全性を確保したことにはならないという不具合がある。この場合、無線リモコン操作を許可する何らかの操作をしなければならないというオペレータへの精神的負担が増える。また、無線リモコンの収納・管理等の負担も増える。そこで、かかる不具合やオペレータへの精神的負担が生じないコンバインの開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記課題を解決するための手段として、下記の構成に特徴を有する。
請求項1記載の発明に係るコンバインは、走行部の上方に運転部と脱穀部と選別部と穀粒貯留部を配設し、走行部の前方に刈取部を昇降自在に設けたコンバインにおいて、運転部に走行部を操作する操向手段を設けると共に、操向手段は、走行部を直接的に操作する操向手段本体と、操向手段本体に着脱自在に取り付けてオペレータが把持して走行部を間接的に操作する把持体と、把持体に設けてオペレータの把持した手の指先で操作する指先操作体とを具備し、把持体は操向手段本体から取り外すことで、指先操作体により走行部を遠隔操作可能な無線リモートコントローラとなしている。
【0006】
かかるコンバインでは、把持体を操向手段本体から取り外すことで、指先操作体により走行部を遠隔操作可能な無線リモートコントローラとなしているため、畦越え等の機体が大きく傾くところでは遠隔操作を容易に行うことができる。この際、把持体を無線リモートコントローラとして使用する場合には、オペレータが操向手段本体から把持体を取り外さなければならない。つまり、操向手段本体に把持体を取り付けた状態では遠隔操作はできない。また、他の人が運転部に着座しても操向手段本体を直接操作することはできない。そのため、オペレータがあらかじめ無線リモコン操作を許可する何らかの操作をする必要性がない。その結果、無線リモコン操作を許可する何らかの操作をしなければならないというオペレータへの精神的負担が解消される。また、把持体を無線リモートコントローラとして有効利用するため、無線リモコンの収納・管理等の負担も解消される。
【0007】
請求項2記載の発明に係るコンバインは、請求項1記載の発明に係るコンバインであって、前記操向手段本体に取り付けた使用形態の前記把持体では、前記指先操作体により刈取部の昇降操作と走行部の旋回方向微調整操作を可能とする一方、前記操向手段本体から取り外した使用形態の前記把持体では、無線リモートコントローラとして、前記指先操作体により走行部の前・後直進変速操作と左・右旋回操向操作を可能としている。
【0008】
かかるコンバインでは、無線リモートコントローラとして有効利用する把持体は、指先操作体により走行部の前・後直進変速操作と左・右旋回操向操作を可能としているため、前記した不安定な状況においては、オペレータが機体の運転部から降りて歩きながら機体を遠隔操作することで、機体を堅実に遠隔操向操作することができて、オペレータの安全性を確保することができる。
【0009】
請求項3記載の発明に係るコンバインは、請求項2記載の発明に係るコンバインであって、無線リモートコントローラとしての使用形態の前記把持体では、前記指先操作体による前・後直進変速操作における走行速度と左・右旋回操向操作における旋回量がそれぞれ制限されるようにしている。
【0010】
かかるコンバインでは、把持体を無線リモートコントローラとして使用して遠隔操作をする場合には、指先操作体による前・後直進変速操作における走行速度と左・右旋回操向操作における旋回量がそれぞれ制限されるようにしているため、コンバイン移送用のトラックの荷台へコンバインを積み降ろしする場合や、コンバインを畦越えさせる場合のように、コンバインの機体が大きく前傾又は後傾する場合であっても、コンバインの遠隔操作性を簡易化して安全性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は次のような効果を奏する。すなわち、把持体を無線リモートコントローラとして有効利用するため、無線リモコン操作を許可する何らかの操作をしなければならないというオペレータへの精神的負担が生じない。そして、無線リモコンの収納・管理等の負担も解消される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るコンバインの全体構成を示す左側面図。
【図2】走行機体の前部の一部切欠側面図。
【図3】運転部の右側面図。
【図4】運転部の平面説明図。
【図5】動力伝達全体を示す説明図。
【図6】システム全体を示す説明図。
【図7】送・受信部の説明図。
【図8】ステアリングホイールの説明図。
【図9】ステアリングホイールの着脱側面説明図。
【図10】ステアリングホイールの着脱平面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
本発明に係るコンバインは、直進用HST(静油圧式無段変速機)により駆動制御される直進変速機構と、旋回用HSTにより駆動制御される旋回変速機構とを備えている。そして、直進変速機構から出力される動力と旋回変速機構から出力される動力とを合成して合成動力となしている。この合成動力は左右一対のクローラ式の走行部にそれぞれ出力することで、直進変速機構と旋回変速機構の動力が常時接続された状態(常時動力接続状態)にて、走行部による直進走行や旋回走行が滑らかな速度推移で行えるようにしている。
【0015】
そして、直進用HSTにはステアバイワイヤ方式の制御機構を介して変速手段を接続している。また、旋回用HSTにはステアバイワイヤ方式の制御機構を介して操向手段を接続している。
【0016】
このようにして、変速手段により制御機構を介して直進用HSTを変速操作して直進変速機構を駆動制御する。一方、操向手段により制御機構を介して旋回用HSTを変速操作して旋回変速機構を駆動制御する。そうすることで、最終的に走行部を前後に直進走行させることも、左右方向に旋回操向させることもできる。すなわち、操向手段の操作量(例えば、ハンドル切れ角度)が増大するにしたがって、左右の走行部の速度差が徐々に大きくなり、機体中心速度が自動的に減速される。その結果、機体は緩旋回される。この際、左右の走行部の速度は、それぞれ機体中心速度からプラスマイナスされた値になる。そして、操向手段が所定の操作量まで操作された時点(例えば、ハンドル切れ角度の4分の3あたり)で、機体は急旋回であるスピンターンに入り込む。スピンターンでは、それまで同一回転方向に駆動されていた左右の走行部が相互に反対回転方向に駆動される。
【0017】
このように、本発明に係るコンバインは、変速手段と操向手段を操作することで、直進及び旋回用HSTを電気的に制御して直進及び旋回調整を繊細かつ円滑に行うことができる。そのため、特に操向手段による旋回操作性を良好に確保することができる。
【0018】
しかも、本発明に係るコンバインは、上記のように旋回操作性を良好に確保した操向手段に指先操作体としての旋回量微調節手段を設けている。そして、旋回量微調節手段の操作によっても制御機構を介して旋回HSTを電気的に制御して、旋回量を微調節(操向調整)することができるようにしている。つまり、操向手段と旋回量微調節手段の両方で共通する単一の旋回用HSTを操作することができるようにしている。この際、旋回用HSTを駆動制御するアクチュエータ(例えば、比例電磁弁)は、制御機構を介して、操向手段と旋回量微調節手段の両方で、同時にないしは連続的に操作されることになる。
【0019】
このように、旋回量を大きく操向操作可能とした操向手段と、旋回量を微小に操向操作可能とした旋回量微調節手段を設けることで、大雑把な旋回操作を操向手段で行い、それに加えて微妙な細かな操作を旋回量微調節手段で補足的に行うことができる。当然のこと、旋回操作を全域にわたって旋回量微調節手段だけで行うこともできる。
【0020】
さらに、本発明に係るコンバインは、旋回量微調節手段による走行機体の旋回量の調節量を、制御機構を介して変更可能に構成している。そして、旋回量微調節手段による前記走行機体の旋回量の調節量を変更するための調節量変更手段(例えば、ボリュームスイッチ)は、手元操作のし易い箇所、例えば、操向手段のホイール部の内側に設けられるセンターパネル部に設けることも、また、操向手段に向かって左右一側に設けたサイドパネル部に設けることもできる。
【0021】
したがって、旋回量を一定とすることもできるが、種々の状況に即応させるべく、旋回量の調節量を調節量変更手段により変更することで、旋回微調節量、つまり走行機体の曲がり具合を変更することができる。その結果、走行機体の曲がり具合を、オペレータの熟練度や運転状況や作業状況等の種々の状況に適応させることができる。また、旋回量微調節手段による走行機体の旋回量の調節量を多様に変更することができるため、オペレータの細かい要望に適応した旋回操作が可能となる。その結果、オペレータのフィーリング(操作感覚)に即応させることができて、オペレータの旋回操作上の満足度を十分に高めることができる。
【0022】
このように、本実施形態では、制御機構を介した旋回用HSTの操作を、操向手段のみならず旋回量微調節手段によっても可能となすとともに、旋回量微調節手段による走行機体の旋回量の調節量を調節量変更手段により多様に変更可能となしている。そうすることで、オペレータが選択する旋回操作形態の選択枝を無限大となすことができる。また、操向手段の旋回操作方向と旋回量微調節手段の旋回操作方向とが相互に反対となった場合には、両者の旋回量が相殺されて、その相殺された旋回量における旋回方向に走行機体が直進されるように設定している。
【0023】
上記のように構成した実施形態において、操向手段は、走行部を直接的に操作する操向手段本体と、操向手段本体に着脱自在に取り付けてオペレータが把持して走行部を間接的に操作する把持体と、把持体に設けてオペレータの把持した手の指先で操作する旋回量微調節手段としての指先操作体とを具備し、把持体は操向手段本体から取り外すことで、指先操作体により走行部を遠隔操作可能な無線リモートコントローラとなしている。
【実施例】
【0024】
[全体構成]
本発明の一実施例に係るコンバインAの全体構成について、図1を参照しながら説明する。すなわち、コンバインAは、左右一対のクローラ式の走行部1を備え、この走行部1上に、機体フレーム2を設けて走行機体を形成している。機体フレーム2の左側前端部には、刈取フレーム3を介して刈取部4を昇降自在に取り付けている。刈取部4には搬送部5と穀稈移送部6を設けている。機体フレーム2上の左側部には、脱穀部7と選別部8を上下段に配設すると共に、機体フレーム2の後部には、排藁処理部9を配設している。一方、機体フレーム2上の右側前部には、キャビン10を配設すると共に、機体フレーム2の右側中途部には、穀粒貯留部11を配設している。穀粒貯留部11は、穀粒般出用のオーガ12を有する。また、コンバインAは、機体フレーム2上における前部に、駆動源としてのエンジン14を含む原動機部13を備える。原動機部13は、エンジン14の動力を各部の装置に供給する。
【0025】
また、機体フレーム2上における原動機部13の前方には、ミッション部15を設けている。ミッション部15は、原動機部13が有するエンジン14の動力を走行部1や刈取部4等に伝達する前に調整(変速)する。
【0026】
以上のような構成を備えるコンバインAは、刈取部4により穀稈を刈り取り、刈り取った穀稈を搬送部5により後上方の穀稈移送部6まで搬送して、穀稈移送部6に穀稈を受け渡す。穀稈移送部6に受け渡された穀稈は、穀稈移送部6により株元を挟扼されると共に穂先を脱穀部7内に挿入させた状態で後方へ移送される。
【0027】
これにより、穀稈は、脱穀部7によって脱穀される。脱穀により得られた穀粒は、選別部8により選別されて、精粒のみが穀粒貯留部11に搬送されて貯留され、必要に応じてオーガ12を介して搬出される。
【0028】
また、脱穀された穀稈は、排藁として排藁処理部9に搬送され、この排藁処理部9にて細断・排出処理される。
【0029】
そして、キャビン10は、図1〜図4に示すように、全体として略四角形箱型に形成している。キャビン10の内部には、運転部19を設けている。運転部19においては、キャビン10の前面下半部を形成する前壁18に、ステアリングケース21を取り付けている。ステアリングケース21の上端部には、操向手段としてのステアリングホイール22を取り付けている。ステアリングホイール22の後方位置には、運転席23を配置し、運転席23の前方から左側方にかけて、サイドコラム24を配設している。サイドコラム24の上部には、変速手段としての主変速レバー26及び副変速レバー27を含む各種操作具を取り付けている。また、図1に示すように、キャビン10においては、前側にキャビン10の前面上半部を形成するフロントガラス31を設け、左側には左側開閉窓32を設け、右側には乗降用開閉扉33を設けている。
【0030】
ステアリングホイール22は、図9及び図10に示すように、ステアリングケース21の上端部に取り付けている。すなわち、ステアリングケース21の上端部から上下方向に軸線を向けたホイール支軸21aを上方へ突出させ、ホイール支軸21aにはホイール支持体21bを取り付けている。
【0031】
ホイール支持体21bはホイール支軸21aと一体的にその軸線廻りに正逆回転自在となしている。ホイール支持体21bは受け側片21cと着脱側片21dとから形成している。受け側片21cは側面視コ字状に形成してホイール支軸21aに取り付け、後方と左右側方が開口した嵌入用凹部21eを設けて操向手段本体となしている。着脱側片21dは横長四角形板状に形成して、嵌入用凹部21eに後方から抜き差し自在に嵌入させている。21fは受け側片21cに上下方向に進退自在に設けたロック片であり、ステアリングケース21に設けたエンジンキー孔21gにエンジンキーを差し込んで回動操作することでロック片21fを後退させて着脱側片21dのロック(固定)を解除して、着脱側片21dを受け側片21cから離脱可能としている。また、着脱側片21dを受け側片21cに嵌入させるだけでロック片21fにより着脱側片21dが受け側片21cに嵌入された状態でロック(固定)されるようにしている。
【0032】
着脱側片21dには、棒状のスポーク体22aを立ち上げて形成し、スポーク体22aの上端にリング状のホイール体22bを取り付けて、これらを把持体となしている。そして、把持体は操向手段本体に着脱自在に取り付けて、オペレータが把持して走行部1を間接的に操作可能となしている。ホイール体22bの左右側部には支持片22c,22dを内方に膨出させて形成している。左側の支持片22cには機体フレーム2を左右の走行部1に対して昇降操作するための昇降スイッチ22eを設けている。右側の支持片22dには、オペレータの把持した手の指先で操作する指先操作体としての旋回量微調節スイッチ22fを取り付けている。なお、操向手段としては、ステアリングホイール22に限らず、把持部に旋回量微調節スイッチ22fを設けた操作レバーであってもよい。
【0033】
受け側片21c内には無線受信機能を有する受信部21jを設ける一方、離脱側片21d内には受信部21jへの無線送信機能を有する送信部21kを設けている。そして、図7に示すように、受信部21jは第一I/Oドライバ28を介して第一コントローラ34に有線信号を送信可能に電気接続している。送信部21kは受信部21jに電波等の無線信号を送信可能としている。そして、送信部21kは旋回量微調節スイッチ22fにより操作可能としている。
【0034】
受け側片21cには近接スイッチ21mを設けて、近接スイッチ21mは第一I/Oドライバ28を介して第一コントローラ34に電気接続している。そして、受け側片21cに着脱側片21dが嵌入状態でロック片21fによりロック(固定)された状態では近接スイッチ21mがONして、ステアリングホイール22を搭乗操作可能としている。また、ロック片21fによるロック(固定)が解除されて、受け側片21cから着脱側片21dが離脱された状態では近接スイッチ21mがOFFとなって、ステアリングホイール22を無線リモートコントローラ(以下に「リモコン」ともいう)として走行部1を遠隔操作可能としている。
【0035】
旋回量微調節スイッチ22fは、図4及び図8に示すように、前後左右方向に傾倒操作可能としたトグルスイッチを採用している。すなわち、旋回量微調節スイッチ22fは、ステアリングホイール22のホイール体22bを把持した右手の指で操作可能としている。そして、旋回量微調節スイッチ22fは、指で操作可能な操作具としてレバー22gを有している。レバー22gは、直立した中立位置から走行機体の左右各旋回方向に対応する方向に、右手の指先で傾倒操作可能としている。
【0036】
このようにして、ステアリングホイール22を搭乗操作する場合には、図8に示すように、ステアリングホイール22の右側把持部の近傍位置に配置した旋回量微調節スイッチ22fのレバー22gを、直立した中立位置から左(右)側方に右手の指先により傾倒操作することでスイッチをONさせて、走行機体を微少量だけ左(右)旋回方向に旋回操作することができるようにしている。傾倒操作したレバー22gから右手の指を離すと、レバー22gは中立位置に復帰されてスイッチがOFFされるように弾性付勢している。また、旋回量微調節スイッチ22fを前(後)方に右手の指先により傾倒操作することで刈取部4を下降(上昇)させることができるようにしている。
【0037】
また、ステアリングホイール22をリモコン操作する場合には、図10に示すように、旋回量微調節スイッチ22fのレバー22gを、直立した中立位置から左(右)側方に右手の指先により傾倒操作することでスイッチをONさせて、走行機体を微少量だけ左(右)旋回方向に旋回操作することができるようにしている。傾倒操作したレバー22gから右手の指を離すと、レバー22gは中立位置に復帰されてスイッチがOFFされるように弾性付勢している。また、旋回量微調節スイッチ22fを前(後)方に右手の指先により傾倒操作することで走行部1を前(後)方向に直進させるとともに、レバー22gの傾倒角度に比例させて増減速操作することができるようにしている(本実施例では傾倒角度の増(減)量に車速の増(減)量を正比例させている)。
【0038】
この際、旋回量微調節スイッチ22fによる前・後直進変速操作における走行速度と左・右旋回操向操作における旋回量はそれぞれ制限されるようにしている。例えば、リモコン操作する場合の前後進走行速度と左右旋回量(角度)の各最大値は、ステアリングホイール22を搭乗操作する場合の前後進走行速度と左右旋回量(角度)の各最大値の70%に制限されるように第一コントローラ34に予めプログラム設定することで、安全性を高めることができる。
【0039】
上記したステアリングホイール22の搭乗操作とリモコン操作は、近接スイッチ21mのON・OFF信号を第一コントローラ34が受信して、その受信信号に基づいて第一コントローラ34が搭乗操作モードとリモコン操作モードを判別する。そして、第一コントローラ34は、搭乗操作モードないしはリモコン操作モードの判別結果に応じて、旋回量微調節スイッチ22fから送信される操作情報(操作信号)に基づいて、予め設定されたプログラムにしたがって制御情報を生成する。さらに、生成された制御情報に基づいて後述する各電磁弁47,48,57を介して直進用HST40と旋回用HST50を作動制御する。この際、旋回量微調節スイッチ22fの操作信号は、搭乗操作モードとリモコン操作モードのいずれにおいても、送信部21kから受信部21jに無線信号として送信され、受信部21jから第一コントローラ34に有線信号として送信される。また、旋回量微調節スイッチ22fのレバー22gの前後左右方向への傾倒角度はポテンショメータ等で検出することがきる。そして、その検出結果は、各モードにおける旋回量微調節スイッチ22fによる旋回、刈取昇降、ないしは直進の各操作及び操作量の操作情報として第一コントローラ34に送信されて、第一コントローラ34が的確に制御情報を生成する。なお、図8に示す搭乗操作モードないしは図10に示すリモコン操作モードでは、各モード変更時に支持片22dの上面に表示される表示体(銘板)も適宜変更される。
【0040】
ホイール体22bの中央部には、図4及び図8に示すように、センターパネル部119を配設している。センターパネル部119はステアリングケース21の上端部に支持片120を介してパネル本体121を取り付けている。パネル本体121には、種々の操作部122や、走行機体の走行速度や旋回角度や旋回量や選択したモード等の運転状況を数値や図形で液晶表示する液晶表示部123を設けている。そして、オペレータは、種々の操作部122を楽に手元操作することができるとともに、液晶表示部123に表示された運転状況を容易に視認できるようにしている。パネル本体121には、操作部122の一つである調節量変更手段としての調節量変更スイッチ124を設けている。調節量変更スイッチ124は旋回量微調節スイッチ22fによる走行機体の旋回量の調節量を変更するためのスイッチである。本実施例では調節量変更スイッチ124としてボリュームスイッチを採用している。また、調節量変更スイッチ124は手元操作のし易い箇所であるサイドコラム24の上面部に設けたサイドパネル部125に設けることもできる。
【0041】
主変速レバー26は、サイドコラム24内に左右方向に軸線を向けて設けたレバー枢支軸(図示せず)に、上下方向に伸延させて形成したレバー本体26aの下端部を取り付けいる。そして、主変速レバー26の上端部は、サイドコラム24の上面部からレバーガイド孔24aを介して上方へ突出させて把持部26bとなしている。主変速レバー26は、レバー枢支軸を中心に前後方向に揺動自在となしている。そして、主変速レバー26は、直立した中立姿勢から前(後)傾姿勢に姿勢変更操作することで、前(後)進側に変速操作することができるようにしている。
【0042】
[ステアバイワイヤ方式の操作構造]
本実施形態に係るコンバインAにおけるステアリングホイール22と旋回量微調節スイッチ22fと主変速レバー26は、いわゆるステアバイワイヤ方式の操作構造により構成している。すなわち、本実施形態のコンバインAにおけるステアリングホイール22、旋回量微調節スイッチ22f及び主変速レバー26は、機械的な連動機構を採用せずにステアバイワイヤ方式を採用して電気的に制御して操向調整や操向微調整や走行調整を行うように構成している。以下にステアリングホイール22と旋回量微調節スイッチ22fを操向装置に、また、主変速レバー26を走行装置にそれぞれ電気的に接続したステアバイワイヤ方式について説明する。
【0043】
図6に示すように、ステアバイワイヤ方式においては、主変速レバー26の操作量は、第一変速ポテンショメータ100a及び第二変速ポテンショメータ100bにより検出されて、その検出結果が電気信号に変換される。また、ステアリングホイール22の操作量は、第一操向ポテンショメータ110a及び第二操向ポテンショメータ110bにより検出されて、その検出結果が電気信号に変換される。各ポテンショメータ100a,100b,110a,110bにより得られた電気信号は、専用の第一・第二I/Oドライバ28,29を介して専用のコントローラである第一コントローラ34及び第二コントローラ35に送信される。旋回量微調節スイッチ22fは、左右いずれかの方向に操作してスイッチON作動されると、電気信号が専用の第一I/Oドライバ28を介して専用のコントローラである第一コントローラ34に送信される。各コントローラ34,35に送信された電気信号は、各コントローラ34,35からの制御情報として出力され、直進用HST40及び旋回用HST50を駆動制御し、最終的に左右の走行部1による直進走行や旋回操向(急旋回操向であるスピンターンも含む)や旋回量微調節の操作を可能とする。
【0044】
ミッション部15の構成について説明する。図5に示すように、ミッション部15は、直進用HST40と、旋回用HST50と、トランスミッション60とを備える。これら直進用HST40、旋回用HST50、及びトランスミッション60は、ミッションケースに収容され、コンバインAの走行系の伝動機構を構成する。
【0045】
(直進用HST)
直進用HST40は、可変容積型の直進ポンプ40Pと、可変容積型の直進モータ40Mとを備える。直進ポンプ40Pと直進モータ40Mとは、互いに流体接続されている。
【0046】
直進ポンプ40Pは、容積量を変更するための機構として、可動斜板と制御軸とを有し、制御軸にて可動斜板を傾転させることにより、容積量を変更するように構成している。直進ポンプ40Pは、エンジン14の出力軸に連動連結される直進ポンプ軸41を有する。つまり、直進用HST40は、直進ポンプ40Pの直進ポンプ軸41がエンジン14の出力軸に連動連結されることで、エンジン14からの動力の伝達を受ける。なお、エンジン14の出力軸には、脱穀部7、選別部8、排藁処理部9、穀粒貯留部11等に対してエンジン14の動力を伝達するための回転軸を、クラッチ等を介して連動連結している。
【0047】
直進モータ40Mは、容積量を変更するための機構として、可動斜板と制御軸とを有し、制御軸にて可動斜板を傾転させることにより、容積量を変更するように構成している。直進モータ40Mは、副変速機構80の出力軸と連動連結される直進モータ軸42を有する。つまり、直進用HST40は、直進モータ40Mの直進モータ軸42が副変速機構80の入力軸に連動連結されることで、副変速機構80に対して動力を伝達する。
【0048】
直進用HST40は、変速操作装置によって操作可能としている。この変速操作装置には、主変速レバー26等の人為的な操作が可能な変速操作具と、直進ポンプ40P用の作動装置と、直進モータ40M用の作動装置とが含まれる。直進ポンプ40P用の作動装置及び直進モータ40M用の作動装置は、第一コントローラ34により作動制御される。
【0049】
図6に示すように、直進ポンプ40P用の作動装置には、直進ポンプ用電磁弁47と、油圧シリンダ等の変速アクチュエータとが含まれる。直進ポンプ用電磁弁47は、直進ポンプ40Pの可動斜板を傾転させ、直進ポンプ40Pの容積量を変化させる。直進ポンプ用電磁弁47は、変速操作を検出する第一変速ポテンショメータ100aからの検出情報に基づいて、第一コントローラ34により制御される。直進ポンプ40P用の作動装置に含まれる変速アクチュエータは、第一コントローラ34による直進ポンプ用電磁弁47の制御に応じて作動油の給排が切り替えられることで作動する。
【0050】
また、直進モータ40M用の作動装置には、直進モータ用電磁弁48と、油圧シリンダ等の変速アクチュエータとが含まれる。直進モータ用電磁弁48は、直進モータ40Mの可動斜板を傾転させ、直進モータ40Mの容積量を変化させる。直進モータ用電磁弁48は、副変速操作を検出する副変速位置センサ111からの検出情報に基づいて、第二コントローラ35を介して第一コントローラ34により制御される。直進モータ40M用の作動装置に含まれる変速アクチュエータは、第一コントローラ34による直進モータ用電磁弁48の制御に応じて作動油の給排が切り替えられることで作動する。
【0051】
そして、直進ポンプ40P用の作動装置は、変速アクチュエータの作動によって制御軸を介して可動斜板を傾転させることで、直進ポンプ40Pの容積量を変更させる。また、直進モータ40M用の作動装置は、変速アクチュエータの作動によって制御軸を介して可動斜板を傾転させることで、直進モータ40Mの容積量を変更させる。
【0052】
このように、直進用HST40においては、直進ポンプ40Pの駆動時に、可動斜板の傾転に応じて直進ポンプ40Pの容積量が変更される。それによって、直進ポンプ40Pから直進モータ40Mへ吐出される作動油の吐出量及び吐出方向が変更される。その結果、直進モータ軸42の回転方向が正転方向又は逆転方向に変更されると共に、直進モータ軸42の回転数が無段階に変更される。さらに、直進モータ40Mにおいて、可動斜板の傾転に応じて直進モータ40Mの容積量が変更されることによって、直進モータ軸42の回転数が変更される。直進変速機構はこのように構成している。
【0053】
(旋回用HST)
旋回用HST50は、可変容積型の旋回ポンプ50Pと、固定容積型の旋回モータ50Mとを備える。旋回ポンプ50Pと旋回モータ50Mとは、互いに流体接続されている。
【0054】
旋回ポンプ50Pは、容積量を変更するための機構として、可動斜板と制御軸とを有し、制御軸にて可動斜板を傾転させることにより、容積量を変更するように構成している。旋回ポンプ50Pは、エンジン14の出力軸に連動連結される旋回ポンプ軸51を有する。つまり、旋回用HST50は、旋回ポンプ50Pの旋回ポンプ軸51がエンジン14の出力軸に連動連結されることで、エンジン14からの動力の伝達を受ける。
【0055】
旋回モータ50Mは、容積量を固定するための機構として、固定斜板を有し、この固定斜板により、容積量が一定となるように構成している。
【0056】
旋回用HST50は、操向操作装置によって操作可能とされる。この操向操作装置には、ステアリングホイール22や旋回量微調節スイッチ22f等の人為的な操作が可能な操向操作具と、旋回ポンプ50P用の作動装置とが含まれる。旋回ポンプ50P用の作動装置は、第一コントローラ34により作動制御される。
【0057】
図6に示すように、旋回ポンプ50P用の作動装置には、旋回ポンプ用電磁弁57と、油圧シリンダ等の変速アクチュエータとが含まれる。旋回ポンプ用電磁弁57は、旋回ポンプ50Pの可動斜板を傾転させ、旋回ポンプ50Pの容積量を変化させる。旋回ポンプ用電磁弁57は、操向操作を検出する第一操向ポテンショメータ110aからの検出情報ないしは後述する調節量変更スイッチ124により設定された設定情報に基づいて、第一コントローラ34により制御される。旋回ポンプ50P用の作動装置に含まれる変速アクチュエータは、第一コントローラ34による旋回ポンプ用電磁弁57の制御に応じて作動油の給排が切り替えられることで作動する。
【0058】
そして、旋回ポンプ50P用の作動装置は、変速アクチュエータの作動によって制御軸を介して可動斜板を傾転させることで、旋回ポンプ50Pの容積量を変更させる。
【0059】
このように、旋回用HST50においては、旋回ポンプ50Pの駆動時に、可動斜板の傾転に応じて旋回ポンプ50Pの容積量が変更される。それによって、旋回ポンプ50Pから旋回モータ50Mへ吐出される作動油の吐出量及び吐出方向が変更される。その結果、旋回モータ軸52の回転方向が正転方向又は逆転方向に変更されると共に、旋回モータ軸52の回転数が無段階に変更される。操向変速機構はこのように構成している。
【0060】
(トランスミッション)
図5に示すように、トランスミッション60は、遊星歯車機構部70と、副変速機構80と、クラッチ装置90とを備える。
【0061】
遊星歯車機構部70は、一対の遊星歯車機構を含む遊星歯車群として構成し、一対の遊星歯車機構として、第一遊星歯車機構71aと第二遊星歯車機構71bとを有する。遊星歯車機構部70においては、一対の遊星歯車機構71a,71bから、左右に出力軸を延出している。すなわち、第一遊星歯車機構71aから、第一出力軸72aを延出し、第二遊星歯車機構71bから、第二出力軸72bを延出している。各出力軸72a,72bは、それぞれ左右方向で対応する走行部1のクローラの駆動輪に回転動力を伝達する。これにより、左右の走行部1の走行駆動が行われる。
【0062】
副変速機構80は、直進モータ軸42に連結される回転軸を有し、この回転軸を介して直進モータ40Mの直進モータ軸42に連動連結している。副変速機構80は、直進モータ軸42の回転動力を多段変速させることができるように構成している。なお、直進モータ軸42には、刈取プーリ用電磁クラッチ91(図6)を介して刈取プーリを固定し、この刈取プーリから直進モータ40Mの回転動力を刈取部4の伝動機構に伝達する。
【0063】
クラッチ装置90は、旋回用HST50における旋回モータ50Mの旋回モータ軸52に対して連動連結している。クラッチ装置90は、旋回用HST50の旋回モータ50Mからの回転動力を、遊星歯車機構部70に対して伝達又は遮断することができるように構成している。
【0064】
以上のような構成を備えるトランスミッション60において、旋回用HST50の旋回モータ50Mが停止し、直進用HST40の直進モータ40Mが駆動する場合、直進モータ40Mの回転動力が、直進モータ軸42から、副変速機構80を介して遊星歯車機構部70に伝達され、第一出力軸72a及び第二出力軸72bから出力される。
【0065】
この直進モータ40Mから第一出力軸72a及び第二出力軸72bに対する回転動力の伝達によって、第一出力軸72a及び第二出力軸72bが正回転方向または逆回転方向の同一方向に回転させられる。これにより、左右のクローラ式の走行部1が有する駆動輪が、同一回転方向に同一回転数で回転する。その結果、左右の走行部1が駆動され、コンバインAの機体前後方向についての直進走行が行われる。
【0066】
また、直進用HST40の直進モータ40Mが停止し、旋回用HST50の旋回モータ50Mが駆動する場合、旋回モータ50Mの回転動力が、旋回モータ軸52から、クラッチ装置90を介して遊星歯車機構部70に伝達され、第一出力軸72a及び第二出力軸72bから出力される。
【0067】
この旋回モータ50Mから第一出力軸72a及び第二出力軸72bに対する回転動力の伝達によって、第一出力軸72a及び第二出力軸72bが互いに反対方向に回転させられる。これにより、左右のクローラ式の走行部1が有する駆動輪が、互いに反対方向に回転する。その結果、左右の走行部1が駆動され、コンバインAの機体の急旋回であるスピンターンが行われる。スピンターンによれば、例えば圃場や枕地での急速・小半径での方向転換が可能となる。また、いずれか一方の走行部1が有する駆動輪が停止状態となった場合には、停止状態の走行部1側を中心に旋回されるターンが行われる。
【0068】
また、直進用HST40の直進モータ40Mが駆動すると共に、旋回用HST50の旋回モータ50Mが駆動する場合、直進モータ40Mから副変速機構80を介して遊星歯車機構部70に伝達される回転動力と、旋回モータ50Mからクラッチ装置90を介して遊星歯車機構部70に伝達される回転動力とが、遊星歯車機構部70において合成されて合成動力が生成される。そして、その合成動力が第一出力軸72a及び第二出力軸72bから出力される。
【0069】
この直進モータ40M及び旋回モータ50Mから第一出力軸72a及び第二出力軸72bに対する回転動力(合成動力)の伝達によって、第一出力軸72a及び第二出力軸72bが互いに異なる回転数で回転される。その結果、左右の走行部1が相互に速度差をもって駆動され、コンバインAの走行機体の直進走行と左方向又は右方向への旋回操向とが同時に行われて、緩旋回がなされる。なお、コンバインAの旋回方向及び旋回半径は、左右の走行部1の速度差に応じて決定される。そして、ステアリングホイール22が所定の操作量まで操作された時点(例えば、ハンドル切れ角度の4分の3あたり)では、旋回側の走行部1が停止される。さらに、ステアリングホイール22が旋回操作されると左右の走行部1が相互に反対方向に駆動されて、走行機体は急旋回であるスピンターンに入り込む。
【0070】
続いて、図6を用いて、本実施形態に係るコンバインAの制御システムの構成について説明する。図6に示すように、コンバインAの制御システムは、第一変速ポテンショメータ100aと、第二変速ポテンショメータ100bと、第一操向ポテンショメータ110aと、第二操向ポテンショメータ110bと、第一コントローラ34と、第二コントローラ35と、エンジンコントローラ36とを備える。
【0071】
第一変速ポテンショメータ100a及び第二変速ポテンショメータ100bは、オペレータによる主変速レバー26の変速操作状態、つまり主変速レバー26の変速操作位置を検出する。第一操向ポテンショメータ110a及び第二操向ポテンショメータ110bは、オペレータによるステアリングホイール22の操向操作状態、つまりステアリングホイール22の操向操作位置を検出する。調節量変更スイッチ124の操作量は、旋回量微調節スイッチ22fによる走行機体の旋回量の調節量に対応している。したがって、調節量変更スイッチ124の操作量を調節することで走行機体の旋回量の調節量を有段階ないしは無段階に変更することができる。
【0072】
第一コントローラ34は、第一変速ポテンショメータ100a、第一操向ポテンショメータ110a及び調節量変更スイッチ124からの入力情報(検出情報)に基づいて制御情報を生成し、直進ポンプ用電磁弁47、直進モータ用電磁弁48、及び旋回ポンプ用電磁弁57を制御する。第二コントローラ35は、第二変速ポテンショメータ100b及び第二操向ポテンショメータ110bからの入力情報(検出情報)に基づいて制御情報を生成する。エンジンコントローラ36は、エンジン回転数センサ175や温度センサや油温センサ(いずれも図示せず)等からの入力情報(検出情報)に基づいて、エンジン14の運転状態を制御する。
【0073】
第一コントローラ34には、比例弁ドライバ163を介して、直進ポンプ用電磁弁47、直進モータ用電磁弁48、及び旋回ポンプ用電磁弁57を電気的に接続している。また、第一コントローラ34には、コンバインAの走行状態を検出するための手段として、直進回転センサ113及び旋回回転センサ114を接続している。直進回転センサ113は、トランスミッション60におけるコンバインAの前後進(直進)に係る回転部分の回転を検出し、その検出信号を第一コントローラ34に送信する。旋回回転センサ114は、トランスミッション60におけるコンバインAの旋回に係る回転部分の回転を検出し、その検出信号を第一コントローラ34に送信する。
【0074】
また、第一コントローラ34には、副変速ソレノイド115を接続している。副変速ソレノイド115は、トランスミッション60が有する切換部を作動させて、低速出力と高速出力とを切り換える。また、第一コントローラ34には、第一I/Oドライバ28を介して、第一変速ポテンショメータ100a、第一操向ポテンショメータ110a及び調節量変更スイッチ124を電気的に接続している。図3に示すように、第一コントローラ34は、ミッション部15の後方に位置する機体フレーム2上の刈取部支持台150上に立設した支持ケース153の内側面に設けている。
【0075】
第二コントローラ35には、第二I/Oドライバ29を介して、第二変速ポテンショメータ100b、第二操向ポテンショメータ110b、刈取スイッチ117及び脱穀スイッチ118を電気的に接続している。また、第二コントローラ35には、刈取プーリ用電磁クラッチ91及びPTOプーリ用電磁クラッチ93を電気的に接続している。刈取プーリ用電磁クラッチ91は、刈取スイッチ117がON・OFF操作されることで、刈取部4への回転動力を伝達又は遮断する。PTOプーリ用電磁クラッチ93は、脱穀スイッチ118がON・OFF操作されることで、脱穀部7への回転動力を伝達又は遮断する。
【0076】
また、第二コントローラ35には、第三I/Oドライバ30を介して、副変速位置センサ111及び副変速スイッチ112を電気的に接続している。副変速位置センサ111は、副変速レバー27の前後回動操作位置(操作量)を検出する。副変速スイッチ112は、副変速ソレノイド115を介して前記のとおりトランスミッション60が有する切換部を作動させて、トランスミッション60における低速出力と高速出力とを切り換えるための操作部である。図3に示すように、第二コントローラ35は、刈取部支持台150上に立設した支持柱(図示せず)の内側面に設けている。
【0077】
第一I/Oドライバ28と第一コントローラ34とエンジンコントローラ36と比例弁ドライバ163とは、CAN(Controller Area Network)130により電気的に接続している。同様に、第一コントローラ34と第二コントローラ35とは、CAN131により接続し、第二I/Oドライバ29と第三I/Oドライバ30と第二コントローラ35とは、CAN132により接続している。そして、第一コントローラ34、第二コントローラ35、及びエンジンコントローラ36は、第一変速ポテンショメータ100aや第一操向ポテンショメータ110a等を含む各種検出機器からの検出情報を共有するように構成している。図2及び図3に示すように、エンジンコントローラ36は、ミッション部15の前方の位置であって機体フレーム2の前端部に設けている。
【0078】
本実施形態では、第一変速ポテンショメータ100aと第二変速ポテンショメータ100bとは、互いに異なる検出方法によって主変速レバー26の変速操作位置を検出するように構成している。同様に、第一操向ポテンショメータ110aと第二操向ポテンショメータ110bとは、互いに異なる検出方法によってステアリングホイール22の操向操作位置を検出するように構成している。
【0079】
具体的には、第一変速ポテンショメータ100aは、主変速レバー26の変速操作位置の検出において、主変速レバー26の傾倒操作による傾倒角が大きくなるに従って検出信号としての電気信号を増幅させる。これに対し、第二変速ポテンショメータ100bは、主変速レバー26の変速操作位置の検出において、主変速レバー26の傾倒操作による傾倒角が大きくなるにしたがって検出信号としての電気信号を減少させる。
【0080】
また、第一操向ポテンショメータ110aは、ステアリングホイール22の操向操作位置の検出において、ステアリングホイール22の右旋回時の切れ角が大きくなるに従って検出信号としての電気信号を増幅させる(左旋回時の切れ角が大きくなるに従って電気信号を減少させる)。これに対し、第二操向ポテンショメータ110bは、ステアリングホイール22の操向操作位置の検出において、ステアリングホイール22の右旋回時の切れ角が大きくなるに従って検出信号としての電気信号を減少させる(左旋回時の切れ角が大きくなるにしたがって電気信号を増幅させる)。
【0081】
このような検出構成により、第一コントローラ34及び第二コントローラ35は、主変速レバー26やステアリングホイール22の操作にともない、異なる検出方法によって得られた複数の検出情報をそれぞれ入力情報として得る。そして、第一コントローラ34への入力情報と第二コントローラ35への入力情報を、第一コントローラ34及び第二コントローラ35のそれぞれにおいて比較することにより、入力情報が適切であるか否かを判別する。これにより、第一変速ポテンショメータ100aや第一操向ポテンショメータ110a等の検出機器の異常の発生が精度良く検知され、入力情報の信頼性が向上する。
【0082】
第一コントローラ34は、オペレータの変速操作や操向操作や操向微調節操作に応じてコンバインAの走行状態を制御するメインコントローラである。第一コントローラ34は、第一変速ポテンショメータ100a、第一操向ポテンショメータ110a及び調節量変更スイッチ124からの入力情報に基づいて直進用HST40及び旋回用HST50を制御するための制御情報を生成し、かかる制御情報により、直進用HST40及び旋回用HST50を制御する。
【0083】
第二コントローラ35は、メインコントローラである第一コントローラ34に対するサブコントローラである。第二コントローラ35は、第一コントローラ34との間で随時通信を行なって、第一コントローラ34の作動状態(作動しているか否か)を監視する。これと同時に、第一コントローラ34は、第二コントローラ35の作動状態を監視する。つまり、第一コントローラ34と第二コントローラ35は、相互に作動状態を監視するように構成している。なお、第一コントローラ34と第二コントローラ35の電源ラインは別々にしている。
【0084】
また、第一コントローラ34及び第二コントローラ35では、主変速レバー26の操作に応じて第一変速ポテンショメータ100aから入力される入力情報またはステアリングホイール22の操作に応じて第一操向ポテンショメータ110aから入力される入力情報と、同様にして第二変速ポテンショメータ100bまたは第二操向ポテンショメータ110bから入力される入力情報を互いに比較する。
【0085】
さらに、第一コントローラ34及び第二コントローラ35では、第一コントローラ34において前記各ポテンショメータ100a,100b,110a,110bからの入力情報に基づいて生成される制御情報と、第二コントローラ35において前記各ポテンショメータ100a,100b,110a,110bからの入力情報に基づいて生成される制御情報を比較する。この比較の結果、前記各ポテンショメータ100a,100b,110a,110bの作動状態について、正常に作動しているか否かを判定する。
【0086】
第一コントローラ34に接続される直進回転センサ113は、コンバインAの走行状態について、コンバインAが走行中か否かを検出するものである。同じく第一コントローラ34に接続される旋回回転センサ114は、コンバインAが旋回中か否かを検出するものである。ここで、直進回転センサ113は、トランスミッション60における副変速機構80を含む直進用出力伝動機構に設けて、この伝動機構を構成する適宜の軸やギア等の回転を検出する。また、旋回回転センサ114は、トランスミッション60におけるクラッチ装置90を含む旋回用出力伝動機構に設けて、この伝動機構を構成する適宜の軸やギア等の回転を検出する。
【0087】
第一コントローラ34は、直進回転センサ113や旋回回転センサ114からの検出情報に基づいて、コンバインAが目標の走行状態となるようにフィードバック制御を行う。これとともに、第一コントローラ34は、第二コントローラ35からエンジン14の運転状態に係る情報を取得して常にオペレータの要求に応じた走向状態を実現するように制御情報を生成し、直進用HST40及び旋回用HST50の制御を行う。
【0088】
以上のような構成において、主変速レバー26が操作されることで、主変速レバー26の変速操作位置が第一変速ポテンショメータ100a及び第二変速ポテンショメータ100bにより検出され、かかる検出情報が用いられ、第一コントローラ34及び第二コントローラ35によって、直進用HST40が制御される。つまり、主変速レバー26の操作により、エンジン14からの回転動力を変速してトランスミッション60に伝達する直進用HST40が制御される。そして、第一出力軸72a及び第二出力軸72bが同一方向に正逆回転駆動して、左右の走行部1によるコンバインAの前後の直進走行が行われる。
【0089】
また、ステアリングホイール22が操作されることで、ステアリングホイール22の操向操作位置が第一操向ポテンショメータ110a及び第二操向ポテンショメータ110bにより検出され、かかる検出情報に基づいて、第一コントローラ34及び第二コントローラ35によって、旋回用HST50が制御される。つまり、ステアリングホイール22の操作により、エンジン14からの回転動力を変速してトランスミッション60に伝達する旋回用HST50が制御される。そして、第一出力軸72a及び第二出力軸72bが反対方向に回転駆動して、左右の走行部1によるコンバインAの緩・急旋回操向が行われる。
【0090】
図8に示すように、旋回量微調節スイッチ22fのレバー22gが左右側方のいずれかに傾倒操作されることでスイッチがONし、そのON情報が第一コントローラ34に送信されることで、第一コントローラ34によって旋回用HST50が制御される。つまり、旋回量微調節スイッチ22fのレバー22gの操作により、エンジン14からの回転動力を変速してトランスミッション60に伝達する旋回用HST50が制御される。その結果、旋回量微調節スイッチ22fが左右いずれか一方にON操作されている間は、走行機体が微少量の調節量にて継続的に旋回操向される。そして、所望の旋回量が得られた時点で旋回量微調節スイッチ22fからそれを操作している指を離すことで、微調節旋回操作を終了させることができる。
【0091】
この際、旋回量の調節量は、あらかじめ調節量変更スイッチ124により調節して適宜設定することができる。すなわち、旋回量の調節量は、図8に示すように、調節量変更スイッチ124を回動操作することで調節量を任意に設定することができる。すなわち、調節量変更スイッチ124を時計廻りに回動操作すると調節量は漸次増大する一方、調節量変更スイッチ124を反時計廻りに回動操作すると調節量は漸次減少する。126は調節量変更スイッチ124に設けた指標であり、調節量変更スイッチ124の回動操作位置を示すようにしている。127は目安表示片であり、指標126が指し示す目安表示片127の位置で調節量の増減状態の目安とすることができる。かかる調節量変更スイッチ124により設定された調節量は電気信号に変換されて、入力情報として第一コントローラ34に送信される。そして、その入力情報に基づいて第一コントローラ34は制御情報を生成する。その制御情報は旋回ポンプ用電磁弁57に出力されて、旋回ポンプ用電磁弁57の操作量が変更される。その結果、旋回ポンプ用電磁弁57により駆動される旋回用HST50が制御される。したがって、旋回量微調節スイッチ22fのレバー22gが継続的に旋回微調節操作されることで、走行機体に所望の旋回量が得られる。しかも、オペレータは調節量変更スイッチ124により調節量を自由に設定することで、自分が要望するフィーリング(操作感覚)に適応させることができる。
【0092】
また、調節量変更スイッチ124により設定される調節量は、第一コントローラ34にあらかじめ記憶させた関数に基づいて演算させることでその値を取得することもできる。その場合、関数はあらかじめ種々設定しておいて、オペレータが所望の関数をモードとして選択可能とすることで、調節量にバリエーションをもたせることができる。その結果、オペレータが要望するフィーリング(操作感覚)に一層細かく適応可能となる。
【0093】
このように、ステアバイワイヤ方式を採用する本実施形態のコンバインAにおいては、主変速レバー26とステアリングホイール22及び旋回量微調節スイッチ22fの操作により、直進用HST40や旋回用HST50等の電気的な制御がなされる。そして、かかる制御の下、エンジン14の回転動力が歯車群等の機械的な伝動構成を介して走行部1に伝達され、コンバインAの前後直進走行、緩・急旋回操向が常時動力接続状態にて行われる。この際、旋回操作は、ステアリングホイール22で大雑把に、そして、旋回量微調節スイッチ22fで微細に行うことができる。そのため、条合わせ作業等のように、走行機体の走行軌道を調整する際には、少なくとも旋回量微調節スイッチ22fで旋回操作して旋回微調節することで、走行軌道調整を堅実に実行することができる。しかも、オペレータは、旋回量微調節スイッチ22fの操作量の調節量を、自分が要望するフィーリング(操作感覚)が得られるように適宜変更することができる。そのため、オペレータは旋回操作上の満足度を十分に高めることができる。
【符号の説明】
【0094】
A コンバイン
1 走行部
2 機体フレーム
3 刈取フレーム
4 刈取部
5 搬送部
6 穀稈移送部
7 脱穀部
8 選別部
9 排藁処理部
10 キャビン
11 穀粒貯留部
12 オーガ
13 原動機部
14 エンジン
24 サイドコラム
28 第一I/Oドライバ
29 第二I/Oドライバ
30 第三I/Oドライバ
40 直進用HST
50 旋回用HST

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行部の上方に運転部と脱穀部と選別部と穀粒貯留部を配設し、走行部の前方に刈取部を昇降自在に設けたコンバインにおいて、
運転部に走行部を操作する操向手段を設けると共に、操向手段は、走行部を直接的に操作する操向手段本体と、操向手段本体に着脱自在に取り付けてオペレータが把持して走行部を間接的に操作する把持体と、把持体に設けてオペレータの把持した手の指先で操作する指先操作体とを具備し、
把持体は操向手段本体から取り外すことで、指先操作体により走行部を遠隔操作可能な無線リモートコントローラとなしたことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記操向手段本体に取り付けた使用形態の前記把持体では、前記指先操作体により刈取部の昇降操作と走行部の旋回方向微調整操作を可能とする一方、
前記操向手段本体から取り外した使用形態の前記把持体では、無線リモートコントローラとして、前記指先操作体により走行部の前・後直進変速操作と左・右旋回操向操作を可能としたことを特徴とする請求項1記載のコンバイン。
【請求項3】
無線リモートコントローラとしての使用形態の前記把持体では、前記指先操作体による前・後直進変速操作における走行速度と左・右旋回操向操作における旋回量がそれぞれ制限されるようにしたことを特徴とする請求項2記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−157246(P2012−157246A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17237(P2011−17237)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】