説明

コンベヤベルトの消費電力特性の評価方法、およびベルトコンベヤ装置の消費電力の推定方法

【課題】コンベヤベルトの使用経過時間、配置環境、使用環境の影響なども加味された消費電力特性を求める方法、および消費電力の推定方法を提供する。
【解決手段】コンベヤベルトをベルトコンベヤ装置に装着した後の、複数の装着後経過時間それぞれにおける、前記コンベヤベルトの消費電力情報と、前記複数の装着後経過時間それぞれにおける、前記コンベヤベルトの設置地域の気温情報を取得し、前記複数の装着後経過時間それぞれの情報と、前記消費電力情報および前記気温情報と、を用いて、前記コンベヤベルトの消費電力特性を表す特性値を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルトコンベヤ装置に装着されるコンベヤベルトの消費電力特性の評価方法、およびベルトコンベヤ装置の消費電力の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉱山等の採掘現場から、採掘した鉱石等の資源を、数km〜10数km離れた処理施設や輸送基地等に搬送する場合、一般にベルトコンベヤ(ベルトコンベヤ装置)を用いる。このベルトコンベヤは、鉱山の搬送地点と処理施設や輸送基地等の集積地点の2地点とに回転ドラムを配し、この回転ドラムにコンベヤベルトからなるエンドレスベルトが巻きつけられる。また、搬送地点と集積地点とを結ぶベルトコンベヤのラインに沿って、多数の従動ローラが設けられる。この従道ローラは、鉱石等の資源を載せて負荷状態にあるコンベヤベルトを下方から支持するために、集積地点に向かって進む(順行する)コンベヤベルトの下方面と当接して設けられ、また、集積地点から搬送地点に逆行するコンベヤベルトを円滑に移動させるために、コンベヤベルトと当接するように設けられている。
また、2地点に設けられた回転ドラムのうち、少なくとも1つには、コンベヤベルトからなるエンドレスベルトを駆動するための駆動モータが設けられている。このように、エンドレスベルトと、駆動ローラと、多数の従動ローラとを有するベルトコンベヤ装置を用いて、鉱石等の資源が数km〜10数km離れた場所に安定して供給される。上記ベルトコンベヤ装置においては、コンベヤベルトの駆動のためにかかる消費電力を効率よく低減するコンベヤベルトの開発が進み、種々のコンベヤベルトが試作され、提案されている。
【0003】
しかし、ベルトコンベヤ装置の消費電力は、例えば、搬送高低差や搬送高低プロファイル等や駆動ローラの配置構成等のベルトコンベヤ装置の構成あるいはコンベヤベルトの種類によって様々に異なることから、試作等により作製されたコンベヤベルトにおける消費電力の低減効果を知るには、実際に設置されたベルトコンベヤ装置に作製したコンベヤベルトを用い、実測によって確認する必要がある。
【0004】
しかし、実際に設置されたベルトコンベヤ装置の既存のコンベヤベルトからなるエンドレスベルトを、試作等により作製したコンベヤベルトに交換して消費電力を測定するには、当然であるが、数km〜10数kmに及ぶ長いベルトコンベヤ装置のライン(ベルトコンベヤライン)に対応するような、極めて長い試作コンベヤベルトを作製する必要がある。消費電力の低減効果を知るために、このような極めて長い試作コンベヤベルトを作製して交換作業を行なうと、交換にも多大の費用、時間および労力を要する。そして、このように多大の費用や労力を費やしても、試作ベルトについて消費電力の低減が見込まれないことが明らかになった場合は、試作等により作製した数km〜10数kmに及ぶコンベヤベルトが、環境に多大な負荷をかけるとともに、消費電力の上昇にともなう搬送コストアップを生じさせてしまうといった問題がある。
【0005】
下記特許文献1には、このような問題点を解決するために提案された、エンドレスベルトを駆動してエンドレスベルトの1周期の平均消費電力を測定し、測定したエンドレスベルトの一部分のコンベヤベルトを、このコンベヤベルトと異なる種類のコンベヤベルトに交換することにより構成を変えたエンドレスベルトの1周期の平均消費電力を測定し、これらの測定結果を用いて、前記交換したコンベヤベルトの消費電力特性を評価することを特徴とするコンベヤベルトの消費電力特性の予測方法が記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ベルトコンベヤ装置の消費電力は、上記した、搬送高低差や搬送高低プロファイル等や駆動ローラの配置構成等のベルトコンベヤ装置の構成あるいはコンベヤベルトの種類等のみに依存するのではなく、例えばコンベヤベルトが配置される環境(ベルトコンベヤが設置される環境)や、コンベヤベルトに積載される荷物の搬送量などの使用環境にも依存し、また、使用経過時間によっても変化する(使用経過時間にも依存する)。このため、下記特許文献1記載の消費電力特性の予測方法を用いても、このような、コンベヤベルトの使用経過時間、配置環境、使用環境の影響なども加味された消費電力特性は、予測することができなかった。このため、交換した試作コンベヤベルトについて、長期間使用した場合の消費電力特性を知りたい場合、実際に長期間にわたって消費電力特性をモニタし続けなければならず、多大の費用、時間および労力を要するままであった。
【0007】
そこで、本発明は、コンベヤベルトの使用経過時間、配置環境、使用環境の影響なども加味された消費電力特性を求める方法、および消費電力の推定方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本願発明は、コンベヤベルトの消費電力特性を評価する方法であって、前記コンベヤベルトをベルトコンベヤ装置に装着した後の、複数の装着後経過時間それぞれにおける、前記ベルトコンベヤ装置の消費電力情報を取得するステップと、前記複数の装着後経過時間それぞれにおける、前記コンベヤベルトの設置地域の気温情報を取得するステップと、前記複数の装着後経過時間それぞれの情報と、前記消費電力情報および前記気温情報と、を用いて、前記コンベヤベルトの消費電力特性を表す特性値を求めることを特徴とするコンベヤベルトの消費電力特性の評価方法を提供する。
【0009】
なお、各装着後経過時間x1i(i=1、2、・・・n)における、前記消費電力をy、前記気温情報をx2iとしたとき、前記特性値を求めるステップでは、前記特性値として、下記式(1)に示す係数A、B、C、および定数項Eを求めることが好ましい。
=A・exp(B・x1i)+C・x2i+E+σ ・・・(1)
なお、σiは、装着後経過時間x1iにおける消費電力yの測定誤差を表す。
【0010】
さらに、前記装着後経過時間それぞれにおける、前記コンベヤベルトの搬送量情報を取得するステップを有し、前記特性値を求めるステップでは、前記搬送量情報も用いて、前記特性値を求めることが好ましい。
【0011】
この場合、前記コンベヤベルトの、各装着後経過時間x1i(i=1、2、・・・n)における、前記消費電力をy、前記気温情報をx2i、前記搬送量情報をx3iとしたとき、
前記特性値を求めるステップでは、前記特性値として、下記式(2)に示す係数A、B、C、D、および定数項Eを求めることを特徴とする、請求項3記載のコンベヤベルトの消費電力特性の評価方法。
=A・exp(B・x1i)+C・x2i+D・x3i+E+σ ・・・(2)
なお、σiは、装着後経過時間x1iにおける消費電力yの測定誤差を表す。
【0012】
本発明は、また、ベルトコンベヤ装置の所望の時点における消費電力を推定する方法であって、前記ベルトコンベヤ装置に装着されたコンベヤベルトの消費電力特性を表す特性値A、B、C、およびEを取得するステップと、前記所望の時点における前記コンベヤベルトの装着後経過時間情報xを取得するステップと、前記所望の時点における、前記コンベヤベルトの設置地域の気温情報xを取得するステップと、前記装着後経過時間情報xおよび前記気温情報xを、下記式(3)に代入することで、前記ベルトコンベヤ装置の前記所望の時点における消費電力の推定値yを求めることを特徴とするベルトコンベヤ装置の消費電力の推定方法を、併せて提供する。
y=A・exp(B・x)+C・x+E ・・・(3)
【0013】
本発明は、また、ベルトコンベヤ装置の所望の時点における消費電力を推定する方法であって、前記コンベヤベルトの消費電力特性を表す特性値A、B、C、D、およびEを取得するステップと、前記所望の時点における前記コンベヤベルトの装着後経過時間情報xを取得するステップと、前記所望の時点における前記コンベヤベルトの設置地域の気温情報xを取得するステップと、前記所望の時点における前記コンベヤベルトの搬送量情報xを取得するステップを有し、前記装着後経過時間情報x、前記気温情報x、および前記搬送量情報xを、下記式(4)に代入することで、前記ベルトコンベヤ装置の前記所望の時点における消費電力の推定値yを求めることを特徴とするベルトコンベヤ装置の消費電力の推定方法も、併せて提供する。
y=A・exp(B・x)+C・x+D・x+E ・・・(4)
【発明の効果】
【0014】
本発明の、コンベヤベルトの消費電力特性の評価方法、およびベルトコンベヤ装置の消費電力の推定方法によれば、コンベヤベルトの使用経過時間や配置環境、コンベヤベルトの搬送量などの使用環境の影響も加味された消費電力特性を求めることができる。配置環境のうち、特に気温による消費電力変動は、コンベヤベルトの設置地域に応じて様々である。本発明のように、気温に応じた消費電力特性を評価することで、様々な設置地域にコンベヤベルトを設置した場合それぞれについて、消費電力の変動をそれぞれ推定することができる。また、各種コンベヤベルトについて、装着後経過時間や配置環境、使用環境など、変動要因に応じた消費電力特性を推定することができる。このような情報を用いれば、例えば、各種変動要因が基準状態である場合の、各種コンベヤベルトそれぞれの消費電力特性を推定することもできる。このように各種コンベヤベルトが基準状態にある場合の消費電力特性を比較することで、各種コンベヤベルトの消費電力特性について、定量的に比較することもできる。これらの情報は、環境条件や使用条件に応じたコンベヤベルトや、より高い消費電力効果を有するコンベヤベルトの開発に、寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のコンベヤベルトの消費電力特性の評価方法、およびベルトコンベヤ装置の消費電力の推定方法について、添付の図面に示される好適実施例を基に詳細に説明する。
【0016】
図1(a)は、本発明のコンベヤベルトの消費電力特性の評価方法に用いるベルトコンベヤ装置の概略の構成図である。図1(a)に示すベルトコンベヤ(ベルトコンベヤ装置)10は、スチールコード補強ベルトや有機繊維補強ベルトをゴム材で被覆した長尺状のコンベヤベルトの両端を結合したエンドレスベルト12と、ベルトコンベヤ10の両端あるいは両端近傍に配置した、エンドレスベルト12が巻きつけられてエンドレスベルト12を回転駆動する駆動ローラ14、16、18と、エンドレスベルト12のコンベヤベルトのラインに沿って設けられた多数の従動ローラ20と、を有し、地点Lから地点Lに向けて、採掘された鉱石の資源Sを搬送するように構成される。
【0017】
エンドレスベルト12のうち、地点Lから地点Lに移動する(順行する)コンベヤベルト部分は、資源Sを積載して負荷状態にあり、従動ローラは、このコンベヤベルト部分を下方から支持するように設けられている。また、従動ローラ20は、地点Lから地点Lに移動する(逆行する)コンベヤベルト部分が、無積載の状態で円滑に移動するようにガイドする。
【0018】
図1(b)は、ベルトコンベヤ10の駆動モータの配置構成、および本発明のコンベヤベルトの消費電力特性の評価方法、およびベルトコンベヤ装置の消費電力の推定方法を実施するための装置を説明する図で、ベルトコンベヤ10を上方から見た場合の概略の構成図である。図1(b)からわかるように、駆動ローラ16は駆動モータMおよびMと接続され、駆動ローラ18は駆動モータMと接続され、駆動ローラ14は駆動モータMと接続されて、エンドレスベルト12が回転するように構成されている。各駆動モータは、消費電力計測部32と接続されている。
【0019】
以下、本発明のコンベヤベルトの消費電力特性の評価方法の一例として、このようなエンドレスベルト12を構成するコンベヤベルトについて消費電力の特性値を導出する場合について説明する。このような消費電力特性値の導出は、導出・推定装置40によって実施する。導出・推定装置40は、下記の各ステップを実施するためのプログラムが記憶された図示しないメモリと、このプログラムを実行するための図示しないCPUを備えた公知のコンピュータである。なお、導出・推定装置40は、下記ステップを実施するための専用回路によって構成された専用装置であってもよい。
【0020】
上記ベルトコンベヤ10において、試作等を行なって作製したコンベヤベルトの消費電力の特性を調べる場合、導出・推定装置40は、まず、ベルトコンベヤ10に、このコンベヤベルト(評価対象コンベヤベルト)で構成されたエンドレスベルト12を装着した後の、複数の装着後経過時間それぞれにおける、ベルトコンベヤ10の消費電力情報を取得する。ベルトコンベヤ10の消費電力とは、各駆動モータM〜Mが消費する電力量の情報であり、各駆動モータM〜Mにかかるエンドレスベルト12の1周期(評価対象コンベヤベルトの一周期)の消費電力の平均で表される。導出・推定装置40は、消費電力情報として、公知の電力計を備えて構成された消費電力計測部32によって測定された、各装着後経過時間だけ経過した時点における、各駆動モータM〜Mの負荷電力の情報を取得すればよい。なお、消費電力情報は、ベルトコンベヤの消費電力の大きさを表す情報であればよく、各駆動モータM〜Mに与える制御装置からの制御信号を用いて表された情報であってもよい。例えば、コンベヤベルト1周期分の積算した消費電力を、1周期にかかる時間で割ることで、消費電力の時間平均が求められ消費電力情報とされる。なお、消費電力情報は、エンドレスベルト1周期分の積算した消費電力の時間平均で表されていることに限らない。例えば、コンベヤベルト複数周分の積算した消費電力を、この複数周分にかかる時間で割ることで、消費電力の時間平均を求め、消費電力情報としてもよい。
【0021】
図2は、このようにして計測された、ベルトコンベヤ10における消費電力情報を示すグラフであり、ベルトコンベヤ10における消費電力情報の、装着後経過時間に応じた変動を示すグラフである。本実施形態では、図2のグラフに示すように、同一の評価対象コンベヤベルトについて、約20ヶ月間にわたって各月毎の消費電力を測定した。各月毎の消費電力情報は、評価対象コンベヤベルト1周期分(図2に示すグラフの場合、約30分)の消費電力を、1周期にかかる時間で割った値を表しており、各月毎に、搬送状態における平均的な消費電力情報を表している。なお、図2に示すグラフには、ベルトコンベヤ10を用いて運搬した荷物搬送量の、装着後経過時間に応じた変動についても併せて示している。本実施形態では、各月毎によって荷物搬送量は殆ど変化することはなく、図2のグラフで示す平均消費電力は、定格2450t/h(約2400〜2500t/h)搬送時のデータである。図2に示すグラフから、大まかには、時間が経過するとともに消費電力情報は減少しているが、消費電力情報は、時間が経過するに応じて単調に減少するのみではなく、時期によっては消費電力が上昇したり、また、より急激に下降したりしていることがわかる。
【0022】
そして、導出・推定装置40は、複数の装着後経過時間それぞれにおける、評価対象コンベヤベルトの設置地域の気温情報を取得する。この設置地域の気温情報としては、例えば、評価対象コンベヤベルト自体(エンドレスベルト12自体)の温度であってもよく、例えば、エンドレスベルト12(評価対象コンベヤベルト)が設置されている坑道内の温度であってもよい。本実施形態では、より広域的なコンベヤベルトの設置地域の気温情報を用いる。具体的には、気象庁により測定された各地域の気温変動情報のうち、評価対象コンベヤベルトの設置位置(すなわち、ベルトコンベヤ10の設置地域)に最も近い地域の気温変動情報を取得し、この気温変動情報を、評価対象コンベヤベルトの設置位置(すなわち、ベルトコンベヤ10の設置地域)の設置地域の気温情報として用いている。このような設置位置における気温変動情報は、例えば、インターネット等の電気情報通信回線を通じて、例えば気象庁のデータベースから取得すればよい。図3には、このようにして取得した、図2に示す消費電力情報の取得時間範囲に対応する時間範囲の、評価対象コンベヤベルトの設置地域の気象情報を示している。
【0023】
導出・推定装置40は、複数の装着後経過時間の情報と、取得した消費電力情報および気温情報とを用いて、評価対象コンベヤベルトの消費電力特性を表す特性値を求める。具体的には、ベルトコンベヤ10の、各装着後経過時間x1i(i=1、2、・・・n)における、前記消費電力をy、気温情報をx2i、搬送量情報をx3iとしたとき、評価対象コンベヤベルトの消費電力の特性値として、下記式(1)に示す係数A、B、C、および定数項Eを求める。
=A・exp(B・x1i)+C・x2i+E+σ ・・・(1)
なお、σiは、装着後経過時間x1iにおける消費電力yの測定誤差を表す。
【0024】
このような各値A,B,C,Eは、各装着後経過時間x1i(i=1、2、・・・n)における、取得した、上記消費電力の情報y、気温の情報x2iを用いて、上記式(1)について重回帰分析を行なうことで実施する。
【0025】
このような式(1)は、本願発明者の以下のような考察に基づいて創作されたものである。本願発明者は、図2に示す測定結果から、ベルトコンベヤ装置の消費電力は、基本的には、コンベヤベルトを装着してからの時間の経過とともに減少していくと思料した。本願発明者は、図2に示すグラフから、この消費電力の減少が、指数関数的な減少であることを推察した。すなわち、図4に示すような、y=A・exp(B・x)のグラフ(yは消費電力、xは経過時間)によって、時間の経過(経年変化)に起因する消費電力の変動を表すことができると推察した。
【0026】
そして、コンベヤベルトの主材料であるゴムについて、弾性などの力学的特性が温度に対して敏感であることにも着目し、コンベヤベルトの設置地域の気温情報が、このコンベヤベルトが装着されているベルトコンベヤ装置の消費電力に影響を及ぼしていることを推測した。また、気温が変化することで、ベルトコンベヤ装置のモータの効率や、ベルトコンベヤ装置の機械的要素も変動し、これらの変動もベルトコンベヤ装置の消費電力に影響を与えていると考察した。その上で、図3に示す気温変動のグラフと図2に示す消費電力のグラフとを比較し、気温と消費電力との間に、比較的単純な相関関係があることを見出し、y=C・xといった式(yは消費電力、xは気温)によって、気温の変化に応じた消費電力の変動を表すことができると推察した。
【0027】
また、コンベヤベルトによる搬送量と、ベルトコンベヤ装置の消費電力との間には、当然、比較的単純な相関関係があると推察し、y=D・xといった式(yは消費電力、xは搬送量)によって、搬送量の変化に応じた消費電力の変動を表すことができると推察した。
【0028】
このような考察に基き、本願発明者は、コンベヤベルトの各装着後経過時間x1i(i=1、2、・・・n)における、消費電力(平均消費電力)をy、気温情報をx2i、搬送量情報をx3iとしたとき、消費電力yは、下記の式(2)を用いて表されるものと推察した。本実施形態では、コンベヤベルトによる搬送量は、経過時間(時期)によって殆ど変動はない。このため、上記式(2)について、搬送量の影響を表す項を除去して表した上記式(1)用いている。すなわち、コンベヤベルトの各装着後経過時間x1i(i=1、2、・・・n)における、消費電力(平均消費電力)をy、気温情報をx2iとしたとき、消費電力yは、上記式(1)を用いて表されるものと推察したのである。
=A・exp(B・x1i)+C・x2i+D・x3i+E+σ・・・(2)
なお、σiは、装着後経過時間x1iにおける消費電力yの測定誤差を表す。
【0029】
本実施形態では、このような式(1)を用いて、評価対象コンベヤベルトの消費電力の特性値として、上記式(1)に示す係数A、B、C、および定数項Eを求める。このような特性値は、図2および図3に示す各グラフの表す数値を上記式(1)に代入し、重回帰分析することで求めることができる。例えば、係数Bを、重回帰分析における最適化の設計変数として、重回帰分析を行なう。この場合、係数Bの値を、それぞれ異なる設定値に順次変更して重回帰分析を行ない、各設定値毎にA、CおよびEの組み合わせの最適値、すなわち決定係数R(Rは相関係数)が1に最も近い場合の、A、CおよびEの組み合わせを求める。図5に示すグラフは、係数Bの値をそれぞれ異なる設定値に順次変更して、図2および図3に示す各グラフの数値を上記式(1)に代入して重回帰分析を行なった結果を示すグラフである。係数Bの各設定値毎に、決定係数Rの最適値は異なっている。このようなグラフから、係数Bとして各設定値を設定した場合それぞれのうち、この決定係数Rが最も1に近い場合の各値(係数A,Cおよび定数項E)の組み合わせを、抽出する。例えば、図5に示すグラフでは、グラフ中の白丸で示す場合の各係数A〜C、定数項Eを、コンベヤベルトの消費電力の特性値として抽出する。導出・推定装置40は、このようにして抽出した消費電力の特性値を、ディスプレイやプリンタなどの出力部42(図1(b)参照)に出力する。
【0030】
図5に示すグラフの場合、係数BがB=0.006727であるとき、相関係数Rについて決定係数Rの値が約0.9と最も1に近くなっていた。この場合、係数AがA=93.68、係数CがC=−1.905、および、定数項EがE=342.39であった。すなわち、ベルトコンベヤ10における消費電力yの変動は、下記式(5)で表すことができる。
y=93.68・exp(−0.006727・x)−1.905・x+342.39 ・・・(5)
【0031】
すなわち、ベルトコンベヤ10では、気温の変動や搬送量の変動が無かったとしても、消費電力は経年変化により94kW程度低減する(A=93.68)。そして、気温が上昇(0℃基準)すれば、消費電力は低減する(B=−1.905)。消費電力の初期値(経年変化なし、気温0℃)は、x=0、x=0として、A+E=93.68+342.39=436.07(kW)となっている。
【0032】
図6は、本発明によって導出された消費電力の特性値A〜Eを用いて表された、上記式(3)による消費電力の推定値を示している。図6中のグラフGは、式(3)に、経過時間xと、図3に示す気温情報xとを代入して得られた値である。グラフGで表す、式(3)を用いて導出した推定値は、図6に示す実測値(図6のグラフ中の白丸印)と、よく一致している。図6中のグラフGは、気温xが変動せず一定(0℃)であるとした場合の、式(3)によって導出される推定値である。なお、この場合の設定気温(0℃)は、計測期間中の、当該地域の最低気温にほぼ対応する。また、図6中のグラフGは、気温xが変動せず一定(27℃)であるとした場合の、式(3)によって導出される推定値である。なお、この場合の設定気温(27℃)は、計測期間中の最高気温である。図6中のグラフGは、経年変化を考慮しなかった場合(A=0とした場合)の、すなわち、図3に示す気温の実測値のみに基いた消費電力の変動を表すグラフである。図6から、消費電力推定値のグラフGは、グラフGとグラフGとで挟まれた領域で推移していることが、よくわかる。
【0033】
ベルトコンベヤ10では、交換直後の消費電力は高かったが、図6中のグラフGやグラフGに示されているように、経緯変化の影響のみによって、消費電力は20%程度低減している。また、グラフGに示すように、気温変化の影響のみによって、消費電力は12%程度増減している。本願発明で求められた消費電力の特性値は、このように、各要因毎の、実際のベルトコンベヤ10の消費電力に対する、評価対象コンベヤベルトの影響度をよく表しているといえる。
【0034】
なお、グラフGおよびGに表すデータ(式(3)によって導出される推定値)から、経年変化による消費電力の低減率(前月の消費電力量と当月の消費電力量との差の、前月の消費電力量に対する比)の変動を求めると、図7に示すグラフが得られる。ベルトコンベヤ10の評価対象コンベヤベルトでは、将来に向けて、消費電力の低減率は収束していっていることがわかる。本発明の消費電力特性の評価方法によれば、このような低減率の変動(収束)についても、定量的に評価することが可能となる。
【0035】
本実施形態では、約20ヶ月もの間にわたって各月毎のベルトコンベヤ装置の消費電力を測定し、この測定情報と気温情報とを用いて、消費電力の特性値を重回帰分析によって導出している。本発明では、重回帰分析によって消費電力の特性値を導出するために、複数の消費電力情報と、複数の気温情報とが取得できればよく、情報を取得する期間は20ヶ月よりも短くてもよく、また、必ずしも各月毎に情報を取得しなくともよい。ただし、特に気温の変動を比較的精度良く表す特性値を導出する場合など、気温が最低状態になってから最高状態になるまで(最高状態になってから最低状態になるまででもよい)の1期間を、少なくとも含んでいることが好ましい。
【0036】
なお、上記実施形態では、搬送量が時期によらずほぼ一定の場合について説明した。時期によって搬送量が変動する場合などは、複数の装着後経過時間それぞれにおける搬送量情報をx3iを取得し、上記式(1)について重回帰分析を行なうことで、係数A、B、C、Dおよび定数項Eを求めればよい。なお、この搬送量情報x3iは、例えば、ベルトコンベヤ装置におけるコンベヤベルトの張力の情報などで代用してもよい。搬送量情報x3iは、コンベヤベルトの搬送状態を定量的に表す情報であればよく、特に限定されない。
【0037】
このようにして求められた消費電力の特性値を用いれば、所望の時点における、ベルトコンベヤ装置の消費電力を推定することができる。このような消費電力の推定は、下記の各ステップを実施するためのプログラムが記憶された、CPUとメモリとを備えた公知のコンピュータによって実施されればよい。本願発明では、このような、ベルトコンベヤ装置における消費電力の推定方法についても提案する。導出・推定装置14には、このような消費電力推定のためのプログラムも記憶されているとする。
【0038】
この場合、導出・推定装置14が、コンベヤベルトの消費電力特性を表す特性値A、B、C、およびEを取得する。このような特性値は、上述の方法によって、予め取得しておけばよい。そして、所望の時点におけるコンベヤベルトの装着後経過時間の情報xと、所望の時点におけるコンベヤベルトの設置地域の気温の情報xを取得する。例えば、過去のある時点での消費電力量を知りたい場合は、この過去の時点での装着後経過時間の情報と、設置地域の気温の実測値の情報とを取得する。また、未来のある時点での消費電力量を予測したい場合など、この予測する時点での装着後経過時間の情報と、設置地域の気温の予測値(長期予報による予測や、過去の平均値など)を取得する。
【0039】
各情報を取得すると、導出・推定装置14は、推定したい時点の動作経過情報xと、推定したい設置地域の気温情報xを、下記式(3)に代入することで、ベルトコンベヤ装置の所望の時点における消費電力の推定値yを求めることができる。
y=A・exp(B・x)+C・x+E ・・・(3)
【0040】
なお、時期によって搬送量が変動する場合など、所望の時点におけるコンベヤベルトによる搬送量の情報xを取得する。例えば、過去のある時点での消費電力量を知りたい場合は、この過去の時点での搬送量の情報xを、併せて取得する。また、未来のある時点での消費電力量を予測したい場合など、この予測する時点での搬送量の予測値xを取得する。そして、下記式(4)を用いて、消費電力の予測値yを求めればよい。
y=A・exp(B・x)+C・x+D・x+E ・・・(4)
【0041】
本発明の消費電力の推定方法を用いれば、このように、将来の所望の時点での消費電力量を、比較的高い精度で導出することができる。特に、経年変化のみによる消費電力の低減を表す上記低減率(図7参照)が、一向に収束しないような場合など、将来の消費電力量の予測は困難である。しかし、本願発明の推定方法を用いれば、気温や搬送量の状態も加味して、消費電力を比較的高精度に導出することができる。
【0042】
また、従来では、例えば、異なる2つの地域に設置されたベルトコンベヤ装置同士では、それぞれ気温が異なっているため、各ベルトコンベヤ装置の消費電力の程度を、同一条件のものとして取り扱うことができなかった。しかし、本願発明の消費電力の推定方法を用いれば、各ベルトコンベヤ装置について、それぞれ同一の気温条件下で消費電力を推定することができ、各ベルトコンベヤ装置それぞれのコンベヤベルトの消費電力特性を、同一条件下において比較検討することができる。
【0043】
また、例えば、所望のベルトコンベヤについて、元々装着されていたコンベヤベルトを、新たなコンベヤベルトに交換した場合、交換当初では、経年変化による消費電力の低減が充分ではなく、また気温も変動するために、交換前後での消費電力の違いを定量的に評価することは難しかった。例えば、コンベヤベルトの製造業者が、ベルトコンベヤ装置における消費電力を低減させることができる省電力用コンベヤベルトを開発したとしても、交換直後の段階では経年変化による消費電力の低減効果が充分でないため、納入先業者では、その効果を感覚的に把握することができなかった。本願発明で求めた上記消費電力の特性値や、消費電力の予測値を、上記納入先業者に提示することで、コンベヤベルトの製造業者にとっては、コンベヤベルトの効果を納入先に充分に理解してもらうことができる。また、各種の試作コンベヤベルトについて、同一条件下での消費電力の大きさを比較評価することもでき、このような比較情報は、コンベヤベルトの製造業者による、更に効果的に消費電力を低減させるコンベヤベルトの開発に寄与することができる。
【0044】
以上、本発明のコンベヤベルトの消費電力特性の評価方法、およびベルトコンベヤ装置の消費電力の推定方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】(a)は、本発明のコンベヤベルトの消費電力特性の評価方法に用いるベルトコンベヤ装置の概略の構成図であり、(b)は、ベルトコンベヤ装置の駆動モータの配置構成、および本発明のコンベヤベルトの消費電力特性の評価方法およびベルトコンベヤ装置の消費電力の推定方法を実施するための装置について説明する概略構成図である。
【図2】本発明のコンベヤベルトの消費電力特性の評価方法において取得する、ベルトコンベヤ装置における消費電力情報の一例のグラフである。
【図3】本発明のコンベヤベルトの消費電力特性の評価方法において取得する、気象情報の一例のグラフである。
【図4】ベルトコンベヤ装置の消費電力の変動について説明する図であり、ベルトコンベヤ装置の消費電力の、時間の経過に起因する変動を表すグラフである。
【図5】本発明のコンベヤベルトの消費電力特性の評価方法における、消費電力の特性値の導出の一例について説明する図であり、1つの特性値をそれぞれ異なる設定値に順次変更して重回帰分析を行なった結果を示すグラフである。
【図6】本発明のコンベヤベルトの消費電力特性の評価方法によって導出された消費電力の特性値を用いて導出された、ベルトコンベヤ装置の消費電力の推定値を示すグラフである。
【図7】本発明のコンベヤベルトの消費電力特性の評価方法によって求められた、経年変化によるベルトコンベヤ装置の消費電力の低減率の変動の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0046】
10 ベルトコンベヤ
12 エンドレスベルト
14、16、18 駆動ローラ
20 従動ローラ
32 消費電力計測部
40 導出・推定装置
42 出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンベヤベルトの消費電力特性を評価する方法であって、
前記コンベヤベルトをベルトコンベヤ装置に装着した後の、複数の装着後経過時間それぞれにおける、前記ベルトコンベヤ装置の消費電力情報を取得するステップと、
前記複数の装着後経過時間それぞれにおける、前記コンベヤベルトの設置地域の気温情報を取得するステップと、
前記複数の装着後経過時間それぞれの情報と、前記消費電力情報および前記気温情報と、を用いて、前記コンベヤベルトの消費電力特性を表す特性値を求めることを特徴とするコンベヤベルトの消費電力特性の評価方法。
【請求項2】
各装着後経過時間x1i(i=1、2、・・・n)における、前記消費電力をy、前記気温情報をx2iとしたとき、
前記特性値を求めるステップでは、前記特性値として、下記式(1)に示す係数A、B、C、および定数項Eを求めることを特徴とする、請求項1記載のコンベヤベルトの消費電力特性の評価方法。
=A・exp(B・x1i)+C・x2i+E+σ ・・・(1)
なお、σiは、装着後経過時間x1iにおける消費電力yの測定誤差を表す。
【請求項3】
さらに、前記装着後経過時間それぞれにおける、前記コンベヤベルトの搬送量情報を取得するステップを有し、
前記特性値を求めるステップでは、前記搬送量情報も用いて、前記特性値を求めることを特徴とする請求項1記載のコンベヤベルトの消費電力特性の評価方法。
【請求項4】
前記コンベヤベルトの、各装着後経過時間x1i(i=1、2、・・・n)における、前記消費電力をy、前記気温情報をx2i、前記搬送量情報をx3iとしたとき、
前記特性値を求めるステップでは、前記特性値として、下記式(2)に示す係数A、B、C、D、および定数項Eを求めることを特徴とする、請求項3記載のコンベヤベルトの消費電力特性の評価方法。
=A・exp(B・x1i)+C・x2i+D・x3i+E+σ ・・・(2)
なお、σiは、装着後経過時間x1iにおける消費電力yの測定誤差を表す。
【請求項5】
ベルトコンベヤ装置の所望の時点における消費電力を推定する方法であって、
前記ベルトコンベヤ装置の消費電力特性を表す特性値A、B、C、およびEを取得するステップと、
前記所望の時点における前記コンベヤベルトの装着後経過時間情報xを取得するステップと、
前記所望の時点における、前記コンベヤベルトの設置地域の気温情報xを取得するステップと、
前記装着後経過時間情報xおよび前記気温情報xを、下記式(3)に代入することで、前記ベルトコンベヤ装置の前記所望の時点における消費電力の推定値yを求めることを特徴とするベルトコンベヤ装置の消費電力の推定方法。
y=A・exp(B・x)+C・x+E ・・・(3)
【請求項6】
ベルトコンベヤ装置の所望の時点における消費電力を推定する方法であって、
前記ベルトコンベヤ装置の消費電力特性を表す特性値A、B、C、D、およびEを取得するステップと、
前記所望の時点における前記コンベヤベルトの装着後経過時間情報xを取得するステップと、
前記所望の時点における前記コンベヤベルトの設置地域の気温情報xを取得するステップと、
前記所望の時点における前記コンベヤベルトの搬送量情報xを取得するステップを有し、
前記装着後経過時間情報x、前記気温情報x、および前記搬送量情報xを、下記式(4)に代入することで、前記ベルトコンベヤ装置の前記所望の時点における消費電力の推定値yを求めることを特徴とするベルトコンベヤ装置の消費電力の推定方法。
y=A・exp(B・x)+C・x+D・x+E ・・・(4)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−74525(P2008−74525A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−254244(P2006−254244)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】