説明

コークスの製造方法

【課題】 新たな設備を設けることなく、コークス炉に装入する石炭の充填密度を向上させることが可能なコークスの製造方法を提供すること。
【解決手段】 コークス炉内で石炭を乾留することによりコークスを製造するコークスの製造方法であって、石炭の滑り性を向上させるための粉体を5重量%以下の範囲内で石炭に添加して乾留するコークスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉内で石炭を乾留することによりコークスを製造するコークスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コークス炉に装入する石炭の充填密度を向上させることで、コークス強度は向上することが知られている。このような方法としては、例えば、オイル添加法、粉砕制御法、石炭調湿法、予熱炭装入法、微粉炭塊成化法、成型炭装入法、スタンピング法が挙げられる。
【0003】
また、特許文献1には、粘度10〜45mPa・sに調整された嵩密度向上剤をコークス製造用原料炭に添加するコークス製造方法が開示されている。特許文献1のコークス製造方法では、嵩密度向上剤として界面活性作用を有する薬剤を採用し、噴霧によって原料炭表面に分散させている。
【0004】
また、特許文献2には、石炭に嵩密度向上剤を添加した後、調湿し、調湿した石炭をコークス炉に装入するコークスの製造方法が開示されている。特許文献2では、嵩密度向上剤として界面活性剤を溶媒に溶かした溶液を採用し、これを石炭に添加することで、石炭表面に付着した水の表面張力を低下させ、かつ潤滑性を利用して装入炭の嵩密度を大きくさせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−63420号公報
【特許文献2】特開2010−77332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、粉砕制御法は、粉砕による微粒子の発生のおそれがあり、環境上好ましくない。また、石炭性状により事前に適切な粉砕程度を決定する必要があり、適切に粉砕されない場合には、製造されるコークス強度が低下するといった問題がある。
【0007】
また、石炭調湿法は、水分が低下すると発塵が顕著となり環境上好ましくない。また、水分の下限値の設定や、粉塵対策設備が必要になるといった点で問題がある。
【0008】
また、予熱炭装入法は、300℃程度の高温で扱われる。そのため、発火や石炭の酸化・劣化を防止するために窒素雰囲気としなければならず、窒素を必要とする。また、石炭の水分が少ないため、コークス炉装入時の微粉が発生ガスと同伴され、タール中に入り、タール品質を阻害するといった問題がある。また、乾留時に膨張圧が高くなりコークス炉壁破損を招くおそれもある。
【0009】
また、微粉炭塊成化法は、微粉と粗粉を乾燥・分離し、微粉は塊成化されるが、塊成化の強度が不充分であると、途中で塊が壊れ、発塵や粉塵が発生するといった問題がある。また、粉塵は堆積すると、水分が低いために自然発火するといったおそれもある。
【0010】
また、成型炭装入法は、成型のためのバインダーが必要となる。また、装入時の成型物の偏在化が大きいといった問題がある。
【0011】
また、スタンピング法は、成型ケーキをコークス炉に装入するため、炉壁とのクリアランス部分が自由膨張し、局部的な品質低下があるといった問題や、ケーキ装入時に外部への発煙があるといった問題がある。
【0012】
また、上述した粉砕制御法、石炭調湿法、予熱炭装入法、微粉炭塊成化法、成型炭装入法、スタンピング法は、いずれも石炭をコークス炉に装入する前に行なわれるものであり、大掛かりで特別な設備が必要となる。
【0013】
また、特許文献1や特許文献2に開示されている嵩密度向上剤やオイル添加法は、溶液状のものであるため、従来の製造ラインに対して、嵩密度向上剤を噴霧等する設備や臭気対策設備を新たに設ける必要がある。
【0014】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、新たな設備を設けることなく、コークス炉に装入する石炭の充填密度を向上させることが可能なコークスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るコークスの製造方法は、コークス炉内で石炭を乾留することによりコークスを製造するコークスの製造方法であって、石炭の滑り性を向上させるための粉体を5重量%以下の範囲内で石炭に添加して乾留することを特徴とする。
【0016】
前記構成によれば、石炭の滑り性を向上させるための粉体を石炭に添加する。従って、コークス炉に装入する石炭の充填密度を向上させることができる。その結果、一定容積を持つコークス炉により乾留し得られるコークス量を増加させることができ、コークスの生産性を向上させることができる。また、石炭の滑り性を向上させるための粉体を5重量%以下の範囲内で石炭に添加することにより、石炭の充填密度を向上させることができ、コークス強度を向上させることができる。また、粉体(石炭の滑り性を向上させるための粉体)を石炭に添加するため、新たな設備(例えば、噴霧用のライン)を設けることなく、従来の製造設備(例えば、配合槽)にそのまま装入すればよい。従って、新たな設備を設けることなく、コークス炉に装入する石炭の充填密度を向上させることができる。
【0017】
前記構成において、前記滑り性を向上させるための粉体が、黒鉛であることが好ましい。前記滑り性を向上させるための粉体が黒鉛であると、黒鉛は炭素含有量の高い炭素物質であることから、冶金用コークスの役割である還元剤として作用することが可能である。また揮発分が低いことから、コークス歩留りを向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、新たな設備を設けることなく、コークス炉に装入する石炭の充填密度を向上させることが可能なコークスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態に係るコークス製造設備の概要を示すブロック図である。
【図2】充填密度測定装置の一例を模式的に示す断面図である。
【図3】充填密度の向上量を示すグラフである。
【図4】黒鉛添加量とドラム強度指数(DI)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施形態に係るコークスの製造方法について説明する。図1は、本実施形態に係るコークス製造設備の概要を説明するためのブロック図である。
コークス製造設備10は、配合槽12、粉砕機14、調湿機16及びコークス炉18を備える。配合槽12では、複数種類の銘柄の石炭が配合される。本実施形態において、石炭の滑り性を向上させるための粉体20(以下、粉体20ともいう)は、配合槽12に装入される。
【0021】
配合槽12にて配合された石炭と粉体20は、粉砕機14に送られ、石炭の性状にあわせて適切な粒度となるように粉砕される。次に、調湿機16に送られ、粉砕された石炭の水分が調整される。調湿機16により水分調整された石炭は、その後、コークス炉18に装入される。コークス炉18では、石炭は乾留されコークスとなる。
【0022】
本発明において、石炭の滑り性を向上させるための粉体とは、石炭に添加することにより、石炭の滑り性を向上させることができる粉体をいい、当該粉体を石炭に添加した試料が当該粉体を添加していない試料よりも、下記方法1により算出される充填密度が高くなる粉体をいう。すなわちこの粉体とは、一定容積の容器に石炭のみを充填する場合より、特定の粉体を石炭に添加することで充填密度を高くできるような性質を持つ粉体である。該当する粉体は、粉体自体が濡れ難くサラサラとして滑りやすく、石炭に添加した場合に石炭粒子間に存在することで石炭同士が滑り易くなるため、石炭の滑り性を向上させることができる。
【0023】
(方法1)
図2は、充填密度測定装置の一例を模式的に示す断面図である。
図2に示すように、充填密度測定装置40は、幅90mm、長さ(図2では奥行き)250mmの空洞を有する中空体42、中空体42の上部に設けられた試料ホッパー44、及び、中空体42と試料ホッパー44との間に設けられたストッパー46を有する。ストッパー46は、中空体の最下部から高さ1317mmの箇所に設けられており、試料ホッパー44内の試料を中空体42内に落下、又は、落下を停止させることができる。
まず、総重量(水分等を含む場合は、水分等を含んだ重量)7.5kgの粉体を充填密度測定装置40の試料ホッパー44に充填する。次に、試料ホッパー44を押し込み、粉体を落下させる。次に、落下した粉体(堆積物)の高さ(粉体充填高さ)を測定する。次に、落下した粉体(堆積物)の粉体重量を計量し、計量後の粉体を縮分して水分測定を行う。水分測定後、下記式1を用いて充填密度(ドライベース)を算出する。
【0024】
【数1】


BD(d.b):充填密度(kg/m
粉体重量:kg
粉体水分:粉体に対する水分の重量%
装置幅:m(すなわち、0.09m)
装置長さ:m(すなわち、0.25m)
粉体充填高さ:m
【0025】
粉体20は、上記(方法1)により算出される充填密度が石炭のみを充填したときよりも石炭に添加することで充填密度を高くすることができる粉体であれば、特に限定されないが、例えば、黒鉛、化粧品原料(例えば、シクロペンタシロキサン)、テフロン(登録商標)粉末、フッ素パウダー等を挙げることができる。これらの物質は、一般的に粉末の潤滑剤として使用されているものも含まれる。なかでも、コークス歩留りを向上させることができる観点から、黒鉛が好ましい。粉体20が石炭の滑り性を向上させることができる理由としては、粉体20が石炭表面の水分により石炭表面に付着し石炭の滑り性が粉体20に依存され、これにより石炭の滑り性が向上すると推察される。
【0026】
一般的に、石炭の装入密度が向上するとコークス強度が向上することが知られている(例えば、鉄鋼便覧,第3版,II,製銑・製鋼,170参照)。従って、充填密度が向上した石炭を用いると、コークス強度が向上する。
【0027】
コークス製造工程で調湿機16を有する工場にて調整される石炭水分量、または調湿機を有しない工場での石炭水分量は、一般的に石炭に対して6~10重量%であるが、本発明は7~8.5%に適用するのがより好ましい。この水分量を上記数値範囲とすることにより、石炭の充填密度の向上をより大きくすることができる。
【0028】
粉体20の添加量は、石炭に対して5重量%以下であり、3重量%以下が好ましい。石炭に対する粉体20の添加量を5重量%以下にすることで、製造されるコークスのコークス強度を向上させることができる。以下、具体的に説明すると、コークス製造では、通常、原料炭は加熱していくと、軟化溶融現象を示すが、特に、黒鉛は軟化溶融現象を示さない。ここで、コークスを製造する際、一般的に、軟化溶融する石炭に軟化溶融しない物体を添加して乾留するとコークス強度は低下することは知られている。一方、石炭の充填密度を上げて乾留するとコークス強度は高くなる。本願発明は、粉体を添加することによるコークス強度の低下と、粉体を添加することによる石炭の充填密度の向上との関係について鋭意検討した結果、粉体の添加量を石炭に対して5重量%以下にすることで、製造されるコークスのコークス強度を向上させることができることを見出し、完成するに至った発明である。
【0029】
以上、本実施形態に係るコークスの製造方法によれば、石炭の滑り性を向上させるための粉体20を石炭に添加する。従って、コークス炉18に装入する石炭の充填密度を向上させることができる。一定容積を有するコークス炉で乾留し得られるコークス量を増加させることができ、コークスの生産性を向上させることができる。また、石炭の滑り性を向上させるための粉体20を石炭に添加することにより、石炭の充填密度を向上させることができるため、コークス強度を向上させることができる。さらに、粉体(石炭の滑り性を向上させるための粉体20)を石炭に添加するため、新たな設備を設けることなく、従来の製造設備(本実施形態では、配合槽12)にそのまま装入すればよい。従って、新たな設備を設けることなく、コークス炉18に装入する石炭の充填密度を向上させることができる。
【0030】
上述した実施形態では、粉体20を配合槽12に装入する場合について説明した。しかしながら、本発明において、石炭に滑り性を向上させるための粉体を石炭に添加するタイミングは、上記例に限定されず、石炭のコークス炉装入までの搬送工程で、粉砕機の前後で石炭に添加してもよく、調湿機前後でもよい。すなわち、本発明において、石炭の滑り性を向上するための粉体は、コークス炉に装入される前の石炭に添加すればよい。また、本発明において、石炭の滑り性を向上するための粉体は、コークス炉に石炭を装入するとき同時に添加し装入してもよい。これにより、石炭の粒子間に本発明に関する粉体が添加されるからである。石炭の滑り性を向上するための粉体を、石炭がコークス炉に装入する前に添加するか、コークス炉に装入する際に添加すれば、石炭の滑り性を向上でき、その結果、一定容積を有するコークス炉により多くの石炭重量を装入でき、乾留して得られるコークス重量も増加させることができる。また、石炭の滑り性を向上させるための粉体を、コークス炉に石炭を装入する前に添加するか、コークス炉に装入する際に添加すれば、石炭の充填密度を向上させることができるため、コークス強度を向上させることができる。
【0031】
上述した実施形態では、コークス製造設備10が、配合槽12、粉砕機14、調湿機16及びコークス炉18を備える場合について説明したが、コークス製造設備は、この例に限定されず、従来公知のものを採用することができる。すなわち、本発明においては、従来公知のコークス製造設備に対して、新たな設備を設けることなく、石炭の滑り性を向上させるための粉体を、石炭に添加して乾留できる構成であれば、特に限定されない。
【実施例】
【0032】
以下、本発明に関し実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
<充填密度の評価>
(実施例1)
試料としての石炭に、石炭の滑り性を向上させるための粉体としての黒鉛を石炭に対して3重量%添加し、V型ブレンダーを用いて5分間混合した。次に、水分調整のために、純水を石炭に対して7.5重量%となるように添加し、さらに、V型ブレンダーを用いて15分間混合した。調整した配合炭を、図2を用いて説明した充填密度測定装置40の試料ホッパー44に充填した。充填量は、総重量(石炭と石炭の滑り性を向上させるための粉体と水分等を含む場合は、水分等とを含んだ重量)7.5kgとした。次に、試料ホッパー44を押し込み、配合炭を落下させた。次に、落下した配合炭(堆積物)の高さ(配合炭充填高さ)を測定した。次に、落下した配合炭(堆積物)の配合炭重量を計量し、計量後の配合炭を縮分して水分測定を行なった。水分測定後、下記式2を用いて充填密度(ドライベース)を算出した。
【0034】
【数2】


BD(d.b):充填密度(kg/m
配合炭重量:kg
配合炭水分:配合炭に対する水分の重量%
装置幅:m(すなわち、0.09m)
装置長さ:m(すなわち、0.25m)
配合炭充填高さ:m
【0035】
(実施例2)
水分調整のために、純水を石炭に対して8.5重量%となるように添加したこと以外は、実施例1と同様にして充填密度(ドライベース)を算出した。
【0036】
図3は、充填密度の向上量を示すグラフである。図3中、ΔBD(d.b)は、黒鉛配合の石炭の充填密度と黒鉛無配合の石炭の充填密度との差を示している。
【0037】
(結果)
黒鉛を添加することにより、石炭の充填密度を向上させることができた。水分の量は、石炭に対して8.5重量%であるよりも、7.5重量%である方が、向上効果が大きかった。
【0038】
<コークス強度の評価>
(実施例3)
試料としての石炭に、石炭の滑り性を向上させるための粉体としての黒鉛を石炭に対して3重量%添加し、V型ブレンダーを用いて5分間混合した。次に、水分調整のために、純水を石炭に対して7.5重量%となるように添加し、さらに、V型ブレンダーを用いて15分間混合した。調整した配合炭を、図2を用いて説明した充填密度測定装置40の試料ホッパー44に充填した。充填量は、総重量(石炭と石炭の滑り性を向上させるための粉体と水分等を含む場合は、水分等とを含んだ重量)7.5kgとした。次に、試料ホッパー44を押し込み、配合炭を落下させた。次に、落下した配合炭(堆積物)の高さ(配合炭充填高さ)を測定した。次に、落下した配合炭(堆積物)の配合炭重量を計量し、計量後の配合炭を縮分して水分測定を行なった。水分測定後、上記式2を用いて充填密度(ドライベース)を算出した。結果を表1に示す。
【0039】
(比較例1)
石炭の滑り性を向上させるための粉体を添加しなかったこと以外は、実施例3と同様にして、試料を調整した。その後、実施例3と同様にして、充填密度(ドライベース)を算出した。結果を表1に示す。
【0040】
(比較例2)
石炭の滑り性を向上させるための粉体の添加量を10重量%としたこと以外は、実施例3と同様にして、試料を調整した。その後、実施例3と同様にして、充填密度(ドライベース)を算出した。ΔBD(d.b)は、黒鉛配合の石炭の充填密度と黒鉛無配合の石炭の充填密度との差を示している。結果を表1に示す。
【0041】
実施例3、及び、比較例1〜比較例2にて調整した試料を炭芯温度が1000℃に到達するまで加熱した後、窒息冷却してコークスを製造した。次に、得られたコークスについて、JIS K 2151に準拠して、コークス強度としてのドラム強度指数(DI)を求めた。ドラム強度指数の測定は2回行ない、その平均値を求めた。図4は、黒鉛添加量とドラム強度指数(DI)との関係を示すグラフである。なお、図4中、ドラム強度指数は、2回の測定の平均値を用いている。
【0042】
【表1】

【0043】
(結果)
黒鉛の添加量が石炭に対して3重量%である実施例3では、ドラム強度指数(DI)が、添加しない場合(比較例1)に比べて向上した。また、黒鉛の添加量が石炭に対して10重量%である比較例2では、ドラム強度指数(DI)は、3重量%添加した場合や、添加しない場合よりも低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉内で石炭を乾留することによりコークスを製造するコークスの製造方法であって、
石炭の滑り性を向上させるための粉体を5重量%以下の範囲内で石炭に添加して乾留することを特徴とするコークスの製造方法。
【請求項2】
前記滑り性を向上させるための粉体が、黒鉛であることを特徴とする請求項1に記載のコークスの製造方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−107930(P2013−107930A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251774(P2011−251774)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000156961)関西熱化学株式会社 (117)
【Fターム(参考)】