説明

コーティングされたうま味調味料及びその製造方法

【課題】エキスでうま味調味料をコーティング後に乾燥工程が不要である、エキスでコーティングされたうま味調味料、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】アモルファス状のLグルタミン酸ナトリウム無水塩を水溶性風味エキスでコーティングし、コーティング後に水分の乾燥工程を行わないことを特徴とする水溶性風味エキスでコーティングされたうま味調味料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エキスでうま味調味料をコーティング後に乾燥工程が不要である、風味劣化の少ないエキスでコーティングされたうま味調味料、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
風味エキスを外表面にコーティングした調味料顆粒は、芯物質に新たな風味や機能を付与した付加価値の高い複合調味料として、現在広く製造販売されている。芯物質としては、Lグルタミン酸ナトリウム1水塩に代表されるうまみ調味料や塩化ナトリウム、砂糖などを混合した造粒物、またLグルタミン酸ナトリウム1水塩や塩化ナトリウムの結晶単体そのものなどが例として挙げられる。コーティングする風味エキスとしては、畜肉エキスに代表される水溶性の天然物抽出調味液や、香り付けのための風味油などが例として挙げられる。その中でも特に、うま味の代表成分であるLグルタミン酸ナトリウム1水塩に水溶性の天然物抽出調味液をコーティングし乾燥させたものは、自然感があり、奥深い多様な風味を有し、風味エキス単体の乾燥品を単純配合したものと比較して分級の懸念がなく、水へ溶解させても油浮きがないことから、和風メニューを中心に需要が高い。
【0003】
このような風味調味料製造において、芯物質に風味エキスをコーティングする代表的な手法としては、1)流動層コーティング法、2)攪拌コーティング法、3)転動コーティング法、4)スプレークーリング法などが挙げられる。前述の1)〜3)の方法は、流動層や攪拌羽根による攪拌、転動皿の揺動などにより芯物質に動きを与え、そこへ風味エキスを噴霧し、芯物質表面に被膜や粉体層を形成させた後、乾燥することによってコーティングを行う技術である。水溶性エキス、風味油ともに使用でき、汎用性があることから広く一般に使用されている。4)スプレークーリング法は低融点油脂を溶融させて連続相とし、その中に芯物質を分散相として懸濁させたS/Oエマルションとし、そのエマルションを冷却缶中へスプレー噴霧することにより芯物質外表面の油脂を硬化させコーティング層とする技術であり、油脂コーティングの場合のみ適用される技術である。
【0004】
特にコーティングさせたい風味エキスが水溶性の場合、主として前記1)〜3)の手法を用いることとなるが、安定した乾燥顆粒を得るためにはいずれもエキス噴霧後、乾燥工程により水分を蒸発乾燥させ水分活性(AW)を腐敗が生じない所定の数値以下まで低減させる必要がある。乾燥方法としては熱風乾燥、真空乾燥、フリーズドライなどが一般的な手法として挙げられるが、処理能力やコスト面の問題から通常は熱風乾燥が選択される場合が多い。しかし、熱風乾燥処理ではその熱と大量の通気により、コーティング風味エキスが本来持っていた香気成分の揮発蒸散、酸化劣化、熱による糖とアミノ酸類のメイラード反応促進などが生じ、品質を低下させるという欠点があった。
【0005】
これらの欠点を解消するために、熱風乾燥、真空乾燥、フリーズドライといった従来からある乾燥操作自体を用いずに、含水状態にある調味料から水分を除去する方法がいくつか開発されている。たとえば無水糖質が水分を補足して含水結晶に転化することを利用した可食性脱水剤を調味料等に配合することで、対象物を乾燥させる技術が開示されている(特許文献、特許文献2、特許文献3、特許文献4)。
【0006】
また酢酸ナトリウム、乳酸カルシウム、コハク酸二ナトリウムといった有機もしくは無機酸塩の無水物の含水結晶転化を利用し、水をバインダーとして添加してなる湿式造粒品を乾燥させる技術が開示されている(特許文献5)。また結晶性ニストースを減圧下にて無水化し、その含水結晶転化を利用して食品の保存中における吸湿を防ぐ技術も開示されている(特許文献6)。これらはすべて、従来水和塩として熱的に最も安定している物質から高温焼成や無水種晶共存による晶析などにより、結晶水を持たない不安定な無水塩として回収し、その無水塩が外部に存在する自由水を取り込んで再び安定な水和塩へ戻ろうとする性質を「可食性の乾燥剤」として利用したものである。食品素材そのものが水分を取り込んで固定化するため、乾燥操作自体を不要とし、含水顆粒をその品質劣化させることなく乾燥顆粒に変換するという、優れた特徴を有している。
【0007】
しかしながら、これらに示されている無水物の吸水固定化能力は含水結晶へ転化した後の安定水和数に依存するため、吸水できる水重量は最大でも無水物自重の10%(特許文献4の無水トレハロースの例)がほぼ最大値である。そのため含水量が多い調味料顆粒を低いAW値まで乾燥させるためには多量の無水物を配合させる必要が生じるが、反面これらは甘味や酸味、苦味などそれぞれ固有の味を有しているため、風味バランスの調和が必要な調味料への多量配合ができないことがあるという欠点があった。またこれらの複合配合により最終顆粒の粘性や吸湿性が上がる場合があり、流動性や保存性といった顆粒物性が悪くなるという課題も知られているところである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭62-136240号公報
【特許文献2】特開昭62-152536号公報
【特許文献3】特開昭62-152537号公報
【特許文献4】特開2000-159788号公報
【特許文献5】特開平06-303937号公報
【特許文献6】特開平06-031160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、エキスでうま味調味料をコーティング後に乾燥工程が不要である、エキスでコーティングされたうま味調味料、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成した。具体的には、風味調味料において一般的に配合比率が高く、味の大きな骨格を形成しており、かつ粘性や吸湿特性が安定している水和晶物質に原理を適用することを着想した。そしてうま味調味料であるLグルタミン酸ナトリウムは1つの結晶水を持つ水和塩であり、その良い対象物質として着想した。しかしながら、Lグルタミン酸ナトリウムは水和晶の状態として安定して晶析する物質であり、かつ水和結晶からの結晶水脱離温度は130℃前後であるが、同温度帯でLグルタミン酸ナトリウム1水塩同士の分子内脱水縮合反応によるピロリドンカルボン酸(PCA)の生成反応も並行して起こる。よって通常行われている無水物を得る方法、例えば無水種晶共存下からの晶析で得る方法や、常圧もしくは真空下にて高温焼成して水和結晶から結晶水を脱離させる方法が極めて困難であるという課題がまだ存在していた。そのため本発明者らは更なる鋭意検討を重ねた結果、風味調味料において一般的に配合比率が高く、味の大きな骨格を形成しているLグルタミン酸ナトリウム1水塩を出発物質とし、その製造工程においてLグルタミン酸ナトリウム1水塩同士の分子内脱水縮合反応によるピロリドンカルボン酸(PCA)の生成を伴わずに、Lグルタミン酸ナトリウム無水塩を効率よく得る方法、及び得られたLグルタミン酸ナトリウム無水塩が持つ水和結晶への転化反応をエキス水分の固定化に利用することにより、風味バランスの調和を損なうことなく、乾燥工程が不要で高品質な水溶性エキスコーティング風味調味料を得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明は以下の各発明を包含する。
(1)アモルファス状のLグルタミン酸ナトリウム無水塩を水溶性風味エキスでコーティングし、コーティング後に水分の乾燥工程を行わないことを特徴とする、水溶性風味エキスでコーティングされたうま味調味料の製造方法。
(2)上記発明(1)記載の製造方法により製造される、水溶性風味エキスでコーティングされたうま味調味料。
(3)Lグルタミン酸ナトリウム無水塩重量の1.00質量%以上、9.0質量以下%の水を結晶水として取り込むことができ、かつ取り込んだ後の粉体水分活性(AW)が0.25以下であることを特徴とする、上記発明(2)記載の水溶性風味エキスでコーティングされたうま味調味料。
(4)Lグルタミン酸ナトリウム1水塩を出発物質とし、その水溶液を噴霧乾燥にてアモルファス状乾燥粒子とすることによりLグルタミン酸ナトリウム無水塩を得る第一工程、および第一工程で得たLグルタミン酸ナトリウム無水塩に水溶性風味エキスを噴霧攪拌混合することによって、水溶性風味エキスの水分をLグルタミン酸ナトリウム無水塩に吸収固定化させる第二工程を行うことを特徴とする、上記発明(2)記載の水溶性風味エキスでコーティングされたうま味調味料。
(5)Lグルタミン酸ナトリウム無水塩の平均粒子径が1μm以上、200μm以下である上記発明(2)記載の水溶性風味エキスでコーティングされたうま味調味料。
【0012】
なお本発明は、これらの各構成の任意の組み合わせや、本発明の表現を方法、装置などの間で置きかえたものも含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、乾燥工程を必要とせず、品質劣化が少ない風味良好なエキスでコーティングされたうまみ調味料を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】Lグルタミン酸ナトリウム1水塩の粉末XRD回折パターンの図である。
【図2】噴霧乾燥により得られた白色粉末の粉末XRD回折パターンの図である。
【図3】噴霧乾燥により得られた白色粉末への、水噴霧後の粉末XRD回折パターンの図である。
【図4】Lグルタミン酸ナトリウム無水塩の吸水能力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者等は、本エキスコーティングうまみ調味料の発明に先立ち、まず芯となるLグルタミン酸ナトリウム無水塩の調整方法を発明した。食品添加物用のLグルタミン酸ナトリウムは一般に醗酵法により製造され、醗酵終了後、除菌し、清澄液を蒸発缶で濃縮し、晶析、遠心分離、乾燥させることにより得られる。通常この工程により得られているLグルタミン酸ナトリウムの形態は含結晶水塩であり、晶析条件や乾燥調整により、最終的には安定な1水塩として市場に供される。この晶析工程から含結晶水塩を経由せずに不安定な無水塩として取り出すことは、通常の製造過程では極めて困難である。
【0016】
また一般的に、すでに含水結晶として安定し乾燥状態にある粉末状態から結晶水を脱離させる方法として、含水結晶をその圧力下における自由水の沸点以上(大気圧下なら100℃以上)の温度域で焼成し、結合水として存在している水分子を強制的に結晶格子内から脱離させる手法がある。しかしながらLグルタミン酸ナトリウム1水塩の場合、結晶水脱離温度は130℃前後であるが、同温度帯でLグルタミン酸ナトリウム1水塩同士の分子内脱水縮合反応によるピロリドンカルボン酸(PCA)の生成反応が並行して起こるため、焼成後に高純度のLグルタミン酸無水塩を得ることが極めて困難である。
【0017】
そこで、本発明者等は含水結晶構造における結晶水の配位役割に着目し、それを不要とする構造にて粉末回収する方法を検討した。すなわち、水溶液状態から急冷乾燥によりアモルファス化させて回収することにより、通常安定な結晶構造の形成及び結晶成長に欠かせない配位結晶水を含まない構造状態、すなわち無水物状態で回収する方法である。
【0018】
効率よくアモルファス粉末を得るためには、Lグルタミン酸ナトリウム高濃度水溶液を極力微小液滴とし急冷速乾させ、かつ乾燥時にアモルファス内外に取り残される残留付着水分を極力低減させることが必要である。そのために使用する装置としては、生産能力の高さとコストの面から噴霧乾燥装置が好ましく、その最適な操作条件としては、噴霧溶液を常圧下80℃以上さらに好ましくは95℃以上であり、常圧下安定運転の点からは99℃以下の飽和Lグルタミン酸ナトリウム水溶液とし、噴霧液滴は高速回転円盤型、さらに好ましくは2流体ノズルによる液滴微粒化後にその噴霧流同士を衝突させ更に微粒子化させることを特長とするエッジノズル型噴霧スプレー(例えば、藤崎電機(株)製エッジノズル、あるいは大川原化工機(株)製ツインジェットノズルなど)により極力微小化させ、乾燥室温度は排風温度110℃以上さらに好ましくは150℃以上、経済性、PCA生成抑制の点からは160℃以下さらに好ましくは155℃以下とすることで、有利に実施できる。
【0019】
本発明における粉末は、XRD解析からLグルタミン酸ナトリウム1水塩で確認される回折パターンが観測されず、ハローパターンと呼ばれる明瞭な回折ピークのない、低角度でブロードな回折図形が観察され、アモルファス状態であることが確認された。またHPLCによる成分分析により、高純度のLグルタミン酸ナトリウム塩であることが確認され、かつ結晶水の焼成脱離法では必ず生成してしまうPCAが検出限界以下(10ppm)であった。乾燥減量法において含水量を測定したところ、アモルファス内外に若干結合力の強い残留付着水分が未乾燥で残存しているものの、その水分値は低く全重量の4%未満と実質的に無水塩であった。すなわち、本手法によりPCAを含まないアモルファス状のLグルタミン酸ナトリウム無水塩を効率よく調整できることが判明した。
【0020】
本無水塩の吸水能力は非常に強く、理論上はその重量の約9.6重量%の水分を取り込むことができる。本発明においては、1.0〜9.0重量%、さらに好ましくは2.0〜7.0重量%である。また吸水後の粉末XRD解析からは、Lグルタミン酸ナトリウム1水塩と同様の結晶性ピークが観測されるようになり、このことから吸水された水が結晶水として転化固定され、Lグルタミン酸ナトリウム塩自体がアモルファスから安定な含水結晶へ転相することが示唆される。この吸水後に1水塩として安定化した本粉末、すなわちLグルタミン酸ナトリウム1水塩は、その後において潮解や離水をすることなく、サラサラとしており、味覚官能評価においても通常市販されているLグルタミン酸ナトリウム1水塩と差が生じないことが判明した。
【0021】
本発明における手法で調整したLグルタミン酸ナトリウム無水塩を芯物質とし、水溶性風味エキスを噴霧することにより、乾燥工程が不用である、エキスでコーティングされたうま味調味料(本明細書においては、エキスコーティングうま味調味料、と呼ぶこともある)を極めて容易に製造することができる。コーティングのために使用する装置としては、水溶性風味エキスを均一に添加するための噴霧装置、または滴下装置が付属した粉体用攪拌混合機であればいずれでも良いが、壊砕チョッパー付きの攪拌混合機が効率よく均一にコーティングするために最も好ましい。また本発明における手法により調整したLグルタミン酸ナトリウム無水塩は、噴霧乾燥による微小液滴からの乾燥粉末化操作によるため、その乾燥粒の平均粒子径が1〜200μm、さらに好ましくは35〜40μmと非常に細かい。そのため、コーティング後に他の調味料原料と複合し、造粒顆粒とすることも容易であり、複合調味料原料としても優位に使用することができる。
【0022】
本発明における手法で調整されたLグルタミン酸ナトリウム無水塩、それを芯物質としたエキスコーティングうま味調味料は、Lグルタミン酸ナトリウム1水塩表面に水溶性風味エキスの固形分のみが残存付着した乾燥顆粒状態として得られ、PCA等の不純物を含まず、他の可食性脱水剤添加による風味バランスの不調和がなく、流動性や保存性が高く、乾燥工程が不要のために風味エキス本来が持つ香気成分の揮発蒸散、酸化劣化、熱による糖とアミノ酸類のメイラード反応促進などによる品質劣化がない、高品質なエキスコーティングうま味調味料として有用性が高い。
【0023】
以下、本発明について実施例でさらに説明するが、本発明の技術範囲はこれら実施例によって制限されるものではない。
【実施例】
【0024】
(実施例1:アモルファス状Lグルタミン酸無水塩の調整)
Lグルタミン酸ナトリウム1水塩(味の素(株)製)6.0kgを95℃の水8.0kgに溶解させ、高濃度Lグルタミン酸ナトリウム水溶液とした。ついで、本水溶液を噴霧乾燥機(大川原化工機(株)製 L12型、回転円盤式、蒸発量6kg-水/hr)を用い、除湿エア(絶対湿度0.005kg/kg-DA)、熱風入口温度200℃、熱風出口温度120℃、水溶液フィード流量2.5L/hr、円盤回転数20,000rpmの条件にて噴霧乾燥し、平均粒子径35μmの白色粉末5.5kgを得た。乾燥減量法(130℃、24時間)にて含水率を測定したところ、含水率は4%であった。
得られた粉末のXRD解析から、図1のようなLグルタミン酸ナトリウム1水塩で確認される結晶性回折パターンが観測されず、図2のようなハローパターンと呼ばれる明瞭な回折ピークのない,低角度でブロードな回折パターンが観察され、アモルファス状態であることが確認された。
このアモルファス状態の粉末に水を噴霧すると直ちに吸水乾燥し、その吸水後の粉末XRD解析からは、Lグルタミン酸ナトリウム1水塩と同様の結晶性回折パターンが図3のように観測された。このことから、吸水された水は結晶水として転化固定され、Lグルタミン酸ナトリウム塩自体がアモルファスから安定な含水結晶へ転相することが示唆された。またHPLC成分分析((株)島津製作所製 有機酸分析計 Prominence)により、高純度のLグルタミン酸ナトリウム塩であることが確認され、かつ結晶水の焼成脱離法では必ず生成してしまうPCAが検出限界(10ppm)以下であった。本発明において、このPCA生成を伴わないということが大きな優位的特徴である。
当該Lグルタミン酸ナトリウム無水塩の吸水能力を確認するため、チョッパー壊砕機構付き攪拌混合機(岡田精工(株)製LMA15/2G)に3.0kg仕込み、2流体ノズルにて水を0.6cc/secの速度で噴霧したところ、加水率6%で吸水が飽和し、以降の加水で自由水が増加することが図4のように確認された。
吸水後の当該Lグルタミン酸ナトリウム1水塩に対して味覚官能評価(n=10、先味、すっきり感、えぐみ、くせ、苦味、まろやかさ、うま味、塩味、しつこさ、後味、先味の各項目における線尺度)を実施したところ、t検定でP>0.05と有意な差は認められず、通常市販されているLグルタミン酸ナトリウム1水塩と差が生じないことが判明した。
【0025】
(実施例2:かつおエキスコーティングうま味調味料の作成)
実施例1と同手法により調整したLグルタミン酸ナトリウム無水塩3.0kgを、チョッパー壊砕機構付き攪拌混合機(岡田精工(株)製LMA15/2G)に仕込み、2流体ノズルにてかつおエキス(Brix62.5)を0.6cc/secの速度で0.4kg噴霧した後、10分間攪拌混合した。得られた粉末はサラサラとしており、かつおエキス原液に近い香りを有していた。得られたコーティング粉末の水分活性を水分活性測定機((株)GSIクレオス製 AW-4型)にて測定したところ、AW=0.24と低く非常に乾燥状態良好であった。また乾燥減量法(130℃、24時間)から結晶水量を測定したところ、吸収・固定化された水分量はLグルタミン酸ナトリウム無水塩重量の5%に相当し、かつおエキス固形分として同約8%相当量をコーティングすることができた。
次に、品質比較のために比較例として、乾燥工程を要する通常コーティング品を作成した。市販のLグルタミン酸ナトリウム1水塩3.0kgを、チョッパー壊砕機構付き攪拌混合機(岡田精工(株)製LMA15/2G)に仕込み、2流体ノズルにてかつおエキス(Brix62.5)を0.6cc/secの速度で0.4kg噴霧した後、10分間攪拌混合した。得られた粉末は湿潤状態であるため、これを卓上流動乾燥機((株)レッチェ製 TG200)にて、80℃、30分で流動乾燥させた。得られたかつおエキスコーティング粉末の水分活性を水分活性測定機((株)GSIクレオス製 AW-4型)にて測定したところ、AW=0.23であり、Lグルタミン酸ナトリウム無水塩を使用したコーティング品の乾燥状態とほぼ同様となった。
次に、前述Lグルタミン酸ナトリウム無水塩にて作成した実施例に該当するコーティング品と、Lグルタミン酸ナトリウム1水塩にて作成した比較例に該当するコーティング品について、味覚官能評価(n=10、薫臭、生臭、肉質臭の各項目における強さの相対点数比較)を実施した。コントロールとしては、かつおエキス原液0.4kgと市販Lグルタミン酸ナトリウム1水塩3.0kgを50℃の水5.0kgに溶解させたものを1,000倍希釈した水溶液とし、その官能を10点とした。実施例、比較例に該当する各コーティングサンプルも同率で50℃の水に溶解希釈した。官能評価結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1の結果から、Lグルタミン酸ナトリウム無水塩を利用して得られたコーティング品は、Lグルタミン酸ナトリウム1水塩を用い乾燥工程を経たサンプルに比べ、薫臭、生臭、肉質臭といったかつおエキス本来の持つ風味が維持された良好な風味を有していることが確認された。
【0028】
また、色、流動性、吸湿固結耐性についても評価を行った。評価結果を表2に示す。
ここで流動性とはCarrの流動性指数に基づいた評価であり、80点以上を○(流動性の程度が良好で架橋防止対策不必要)、60点以上79点以下を△(流動性の程度が普通かやや良くなく、バイブレーターが必要な場合がある)とした。
【0029】
【表2】

【0030】
表2の結果から、乾燥工程を経たものは強い褐変が確認され、エキスの熱変性に起因した流動性、吸湿固結耐性の悪化も認められたが、Lグルタミン酸ナトリウム無水塩を利用したものは褐変がほとんどなく、流動性、吸湿固結耐性も良好であることが判明した。
【0031】
次に、前述のLグルタミン酸ナトリウム無水塩にて作成したコーティング品と、Lグルタミン酸ナトリウム1水塩にて作成したコーティング品について、かつおエキスの好ましい薫臭成分である2−メトキシフェノールの残量を測定した。2−メトキシフェノールは、揮発しやすくかつ熱等による新規生成がないため、本成分残量を比較することによって調味料の製造工程による香気成分ロスの度合いを把握する指標となる。測定にはヘッドスペースガスクロマトグラフ(HEWLETT PACKARD製 Mass Selective Detector 5973, 及びTEKMAR DOHRMANN製 SOLATek 72 Multimatrix Vial Autosampler併用)を使用し、各コーティング品1.0gを密閉バイアル中にて純水10.0gに溶解させ、そのヘッドスペースガスをガスクロマトグラフに送り、気中の成分測定を実施した。結果を表3に示す。
【0032】
【表3】

【0033】
表3の結果から、Lグルタミン酸ナトリウム無水塩を利用して得られたコーティング品は、Lグルタミン酸ナトリウム1水塩を用い燥工程を経たコーティング品に比べ、2−メトキシフェノールの残量が約4倍検出され、本発明による香気成分保持の優位性が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、エキスでうま味調味料をコーティング後に乾燥工程が不要である、エキスでコーティングされたうま味調味料、及びその製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アモルファス状のLグルタミン酸ナトリウム無水塩を水溶性風味エキスでコーティングし、コーティング後に水分の乾燥工程を行わないことを特徴とする、水溶性風味エキスでコーティングされたうま味調味料の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法により製造される、水溶性風味エキスでコーティングされたうま味調味料。
【請求項3】
Lグルタミン酸ナトリウム無水塩重量の1.00重量%以上、9.0重量以下%の水を結晶水として取り込むことができ、かつ取り込んだ後の粉体水分活性(AW)が0.25以下であることを特徴とする、請求項2記載の水溶性風味エキスでコーティングされたうま味調味料。
【請求項4】
Lグルタミン酸ナトリウム1水塩を出発物質とし、その水溶液を噴霧乾燥にてアモルファス状乾燥粒子とすることによりLグルタミン酸ナトリウム無水塩を得る第一工程、および第一工程で得たLグルタミン酸ナトリウム無水塩に水溶性風味エキスを噴霧攪拌混合することによって、水溶性風味エキスの水分をLグルタミン酸ナトリウム無水塩に吸収固定化させる第二工程を行うことを特徴とする、請求項2記載の水溶性風味エキスでコーティングされたうま味調味料。
【請求項5】
Lグルタミン酸ナトリウム無水塩の平均粒子径が1μm以上、200μm以下である請求項2記載の水溶性風味エキスでコーティングされたうま味調味料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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