説明

コーティング剤およびそれを用いたハードコート部材

【課題】基材上に薄膜でも耐擦傷性などに優れるハードコート膜を形成し得るコーティング剤、および該コーティング剤を用いたハードコート部材を提供する。
【解決手段】(A)分子中に酸素原子以外の不対電子含有元素を含む官能基を有する金属アルコキシドの加水分解・縮合物と、(B)亜鉛イオンとを含むコーティング剤、および基材の少なくとも片面に、上記コーティング剤を塗布、乾燥させてハードコート膜を形成してなるハードコート部材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング剤およびそれを用いたハードコート部材に関する。さらに詳しくは、本発明は、基材上に薄膜でも硬度の高いハードコート膜を形成し得るコーティング剤、および基材上に該コーティング剤を用いて形成されたハードコート膜を有するハードコート部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ハードコート部材は、各種画像表示装置、例えばLCD(液晶表示体)、タッチパネル、CRT(ブラウン管)、PDP(プラズマディスプレイパネル)、EL(エレクトロルミネッセンス)などにおいて、表面保護を始め、防眩性や反射防止などの目的で用いられている。また、LCDにおいては、偏光子を保護するために用いられている。
【0003】
このハードコート部材は、一般に例えばアクリル系バインダー中にシリカ粒子等を分散させたものをフイルム上に塗布硬化させることで作製されるが、粒子の分散状態が悪いとコーティング剤中で沈殿物が発生したり、塗膜としたときの均一性が悪くなったりする。特に透明なハードコート部材の場合、凝集物が多いと透明性が低下する問題がある。また添加する粒子の粒子径が小さければ小さいほど透明性が良好になるが、一般的に粒径の小さな粒子ほど分散性が悪く、かつコストが高くなる。また、粒子を分散させる方法として、数mmから数十μmのジルコニアボールを用いたボールミルやビーズミルと呼ばれる装置が知られているが、これらを導入するためのコストも必要となる。
【0004】
ハードコート性を付与するため、金属(金属酸化物)粒子を添加する一方、金属酸化物粒子が機能を有する場合、例えば酸化亜鉛であれば紫外線吸収能、アンチモン酸亜鉛、ITO粒子では導電性(帯電防止性)を付与することが可能となるが、これら機能性金属(金属酸化物)粒子はシリカ粒子に比べて高価であるため、必要以上の機能として付与するにはコストが高くなるという問題がある。
また、アンチモン酸亜鉛は青緑色であるため、塗膜が着色する問題がある。
【0005】
一方、ゾル−ゲル法によって、ハードコート膜を形成する技術として、プラスチック基材の少なくとも片面にコーティングされた、ハードコート膜であって、アルコキシシランおよび亜鉛化合物を含有する組成物をゾル−ゲル法によって加水分解および重縮合して得られる薄膜からなることを特徴とするプラスチック基材用透明ハードコート膜が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7−304873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示されている技術において用いられるアルコキシシランは、一般に使用されている通常のアルコキシシラン化合物であって、分子内に酸素原子以外の不対電子含有元素を含む官能基は導入されておらず、また、亜鉛化合物として、亜鉛アルコキシドを用いているため、加水分解によって酸化亜鉛を形成し、得られるハードコート膜の性能については、必ずしも充分なものではない。
【0007】
本発明は、このような事情のもとで、基材上に薄膜でも硬度の高いハードコート膜を形成し得るコーティング剤、および該コーティング剤を用いたハードコート部材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、下記の知見を得た。
【0009】
金属と配位可能な不対電子含有官能基を有する、例えばアルコキシシラン化合物をゾル−ゲル法により加水分解・縮合反応させることでシロキサン結合のネットワークが形成されると共に、亜鉛イオンを含むことで亜鉛イオンとの配位結合によるネットワークが形成されることによって、塗膜のハードコート性が付与されるものと思われる。一方、ハードコート剤は均一系で反応が進み沈殿物の発生はない。得られる膜は無色透明である。なお亜鉛イオンを添加しているが、酸化亜鉛ではない(X線回折(XRD)により確認)ため、紫外線吸収能は発現しない(紫外線可視分光光度計UV−VISより確認)、などを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1) (A)分子中に酸素原子以外の不対電子含有元素を含む官能基を有する金属アルコキシドの加水分解・縮合物と、(B)亜鉛イオンとを含むことを特徴とするコーティング剤、
(2) 分子中に酸素原子以外の不対電子含有元素を含む官能基を有する金属アルコキシドが、一般式(I)
(m−n)M(OR) …(I)
(式中、Rの少なくともひとつは不対電子含有官能基であり、Rが複数の場合、同一であってもまた異なっていてもよく、Rは炭素数1〜6のアルキル基、MはSi、Ti、ZrまたはAl、mはMの価数で、3または4を示し、nはSi、TiまたはZrの場合は1〜3であり、Alの場合は1または2である。)
で表される化合物である上記(1)項に記載のコーティング剤、
(3) 金属アルコキシドがアルコキシシランである上記(1)または(2)項に記載のコーティング剤、
(4) 酸素原子以外の不対電子含有元素を含む官能基が、メルカプトアルキル基および/またはアミノアルキル基である上記(1)〜(3)項のいずれか1項に記載のコーティング剤、
(5) 亜鉛イオンに対する酸素原子以外の不対電子含有元素を含む官能基の含有割合が、モル基準で0.5〜200倍である上記(1)〜(4)項のいずれか1項に記載のコーティング剤、
(6) 固形分中の亜鉛イオン濃度が、0.1〜40質量%である上記(1)〜(5)項のいずれか1項に記載のコーティング剤、および
(7) 基材の少なくとも片面に、上記(1)〜(6)項のいずれか1項に記載のコーティング剤を塗布、乾燥させてハードコート膜を形成したことを特徴とするハードコート部材、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基材上に薄膜でも硬度の高いハードコート膜を形成し得るコーティング剤、および基材上に該コーティング剤を用いて形成されたハードコート膜を有するハードコート部材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
まず、本発明のコーティング剤について説明する。
本発明のコーティング剤は、(A)分子中に酸素原子以外の不対電子含有元素を含む官能基を有する金属アルコキシドの加水分解・縮合物と、(B)亜鉛イオンとを含むことを特徴とする。
【0013】
前記(A)成分は、本発明のコーティング剤によって形成されるハードコート膜におけるバインダー成分としての機能を有する。
【0014】
この(A)成分の金属アルコキシドは、金属との配位可能な不対電子含有元素を含む官能基を有しているので、該金属アルコキシドをゾル−ゲル法により加水分解・縮合反応させることで、たとえば前記金属アルコキシドとしてアルコキシシラン化合物を用いた場合、シロキサン結合のネットワークを形成すると共に、亜鉛イオンとの配位結合によるネットワークを形成されることによって塗膜のハードコート性が付与されるものと思われる。
【0015】
本発明のコーティング剤において、(A)成分の加水分解・縮合物の原料である、分子中に酸素原子以外の不対電子含有元素を含む官能基を有する金属アルコキシドとしては、例えば一般式(I)
(m−n)M(OR) …(I)
で表される化合物を用いることができる。
【0016】
前記一般式(I)において、Rは酸素原子以外の不対電子含有元素を含む官能基を示す。この不対電子含有元素を含む官能基としては、不対電子をもつ酸素原子以外の元素(例えば硫黄原子、窒素原子など)を有する官能基であればよく、特に制限はないが、例えば炭素数2〜5程度のメルカプトアルキル基やアミノアルキル基などを好ましく挙げることができる。具体的には2−メルカプトエチル基、3−メルカプトプロピル基、2−メルカプトプロピル基、4−メルカプトブチル基、3−メルカプトブチル基、2−メルカプトブチル基、2−アミノエチル基、3−アミノプロピル基、2−アミノプロピル基、4−アミノブチル基、3−アミノブチル基、2−アミノブチル基などが挙げられる。
【0017】
一方、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示し、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、その例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0018】
MはSi、Ti、ZrまたはAlを示し、mはMの価数で、3または4を示し、nはSi、TiまたはZr(いずれも価数4)の場合は1〜3であり、Al(価数3)の場合は1または2である。
【0019】
本発明においては、前記MがSiであるものが好ましく、前記一般式(I)で表される金属アルコキシドとしては、例えば2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリ−n−プロポキシシラン、2−メルカプトエチルトリイソプロポキシシラン、2−メルカプトエチルトリ−n−ブトキシシラン、2−メルカプトエチルトリイソブトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリ−n−プロポキシシラン、3−メルカプトプロピルトリイソプロポキシシラン、3−メルカプトプロピルトリ−n−ブトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリイソブトキシシラン、2−アミノエチルトリメトキシシラン、2−アミノエチルトリエトキシシラン、2−アミノエチルトリ−n−プロポキシシラン、2−アミノエチルトリイソプロポキシシラン、2−アミノエチルトリ−n−ブトキシシラン、2−アミノエチルトリイソブトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリ−n−プロポキシシラン、3−アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、3−アミノプロピルトリ−n−ブトキシシラン、3−アミノプロピルトリイソブトキシシランなどを挙げることができる。これは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
本発明においては、前記の酸素原子以外の不対電子含有元素を含む官能基を有するアルコキシシラン化合物と共に、形成される塗膜の硬度を向上させるために、必要に応じ他の金属アルコキシド化合物やそのオリゴマーを併用することができる。他の金属アルコキシド化合物(II)としては、ケイ素、チタン、ジルコニアなどのアルコキシド化合物があり、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシランなどのテトラアルコキシシラン、並びにこれらに対応するテトラアルコキシチタンおよびテトラアルコキシジルコニウム、さらにはトリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリ−n−プロポキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリ−n−ブトキシアルミニウム、トリイソブトキシアルミニウム、トリ−sec−ブトキシアルミニウム、トリ−tert−ブトキシアルミニウムなどが挙げられる。また、金属アルコキシド化合物のオリゴマーとしては、例えば市販品のアルコキシシランオリゴマーである「メチルシリケート51」、「エチルシリケート40」(いずれもコルコート社製商品名)、「MS−51」、「MS−56」(いずれも三菱化学社製商品名)などが挙げられる。
【0021】
その他、柔軟性や屈折率調整など、各種用途に合わせて塗膜の特性を変化させたい場合には、必要に応じて非加水分解性基を有する金属アルコキシド化合物を組み合わせてもよい。
【0022】
本発明においては、前記の酸素原子以外の不対電子含有元素を含む官能基を有する金属アルコキシド化合物(I)とともに他の金属アルコキシド化合物(II)を使用する場合には、それらの使用割合は、それぞれに含まれる金属元素の比として、通常モル比((I)モル/(II)モル)で0.10〜15.00程度である。この使用割合が上記範囲にあれば、後述の(B)成分である亜鉛イオンに対して良好な相互作用を有し、かつ塗膜の硬度を向上させることができる。好ましい使用割合は、モル比((I)モル/(II)モル)で0.20〜12.00であり、より好ましくは0.25〜5.00であり、さらに好ましくは0.25〜2.50である。
【0023】
これらの金属アルコキシドを加水分解・縮合させることにより、本発明のコーティング剤における(A)成分が形成される。加水分解・縮合方法については、後で述べるコーティング剤の製造方法の説明において詳述する。
【0024】
本発明のコーティング剤において、(B)成分として含まれる亜鉛はイオンの形態で含まれることが、不対電子含有官能基による配位結合によって形成されるネットワークの形成性の観点から必要である。亜鉛イオン源としては、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛などの無機酸亜鉛、酢酸亜鉛などの有機酸亜鉛等を用いることが好ましい。
【0025】
本発明のコーティング剤においては、亜鉛イオンに対する不対電子含有官能基の含有割合は、該不対電子含有官能基が亜鉛イオンに対して良好な相互作用を有し、かつ所望の物性を有する塗膜を形成し得る観点から、モル基準で0.5〜200倍程度が好ましく、0.8〜100倍がより好ましく、1〜50倍が特に好ましい。
【0026】
また、固形分中の亜鉛イオン濃度は、形成される塗膜の硬度および他の物性のバランスなどの観点から、Znとして0.1〜40質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。
【0027】
本発明のコーティング剤には、通常有機溶媒が用いられる。この有機溶媒としては、アルコール類が好ましく、炭素数3以上のエーテル系酸素を有するアルコール類が、加水分解−縮合反応の制御および縮合物の安定化の点からさらに好ましい。この炭素数3以上のエーテル系酸素を有するアルコール類としては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどのセロソルブ系溶剤、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどを挙げることができる。これらの中で、特にセロソルブ系溶剤が好ましい。これらの溶媒は1種を単独で用いもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
本発明のコーティング剤における固形分濃度についは、塗布するのに適した濃度であればよく、特に制限はないが、通常0.5〜30質量%程度、好ましくは1〜20質量%、さらに好ましくは1.25〜15重量%である。
【0029】
次に、本発明のコーティング剤を製造する方法については特に制限はないが、例えば以下に示す方法を採用することができる。
【0030】
まず、前記有機溶媒中に、酸素原子以外の不対電子含有元素を含む官能基を有する金属アルコキシドと、所望により用いられる他の金属アルコキシド化合物やそのオリゴマーを溶解してなる溶液を調製する。次いで、この溶液を攪拌しながら、この溶液に、水、触媒および亜鉛イオン源の化合物を含む水溶液を添加し、前記の金属アルコキシドを加水分解、縮合させる。
【0031】
前記触媒としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸などの酸、あるいは固体酸としてのカチオン交換樹脂が用いられ、通常0〜100℃、好ましくは20〜60℃の温度にて加水分解処理し、固体酸を用いた場合には、それを除去する。温度が低すぎる場合は加水分解が進まず、高すぎる場合は逆に加水分解・重合反応が速く進みすぎ、制御が困難となる。
【0032】
また本発明のコーティング剤に対して、目的に応じて種々の添加物を添加することができる。例えば、帯電防止を目的に帯電防止剤となるイオン性液体や種々の界面活性剤等、コーティング後の薄膜の屈折率調整のために、屈折率の異なるTiOやSiO等の数〜数十nmサイズの微粒子、易滑性を目的とした数百nm〜数μmの微粒子などが挙げられる。
このようにして、本発明のコーティング剤を得ることができる。
【0033】
次に、本発明のハードコート部材について説明する。
本発明のハードコート部材は、基材の少なくとも片面に、前述した本発明のコーティング剤を塗布、乾燥させてハードコート膜を形成したことを特徴とする。
【0034】
本発明のハードコート部材に用いる基材としては、透明なものであればよく、特に制限はないが、従来ハードコート部材の基材として公知のプラスチックフイルムの中から、適宜選択して用いることができる。このようなプラスチックフイルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフイルム、ポリエチレンフイルム、ポリプロピレンフイルム、セロファン、ジアセチルセルロースフイルム、トリアセチルセルロースフイルム、アセチルセルロースブチレートフイルム、ポリ塩化ビニルフイルム、ポリ塩化ビニリデンフイルム、ポリビニルアルコールフイルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フイルム、ポリスチレンフイルム、ポリカーボネートフイルム、ポリメチルペンテンフイルム、ポリスルホンフイルム、ポリエーテルエーテルケトンフイルム、ポリエーテルスルホンフイルム、ポリエーテルイミドフイルム、ポリイミドフイルム、フッ素樹脂フイルム、ポリアミドフイルム、アクリル樹脂フイルム、ノルボルネン系樹脂フイルム、シクロオレフィン樹脂フイルム等を挙げることができる。
【0035】
これらの基材フイルムは、透明、半透明のいずれであってもよく、また、着色されていてもよいし、無着色のものでもよく、用途に応じて適宜選択すればよい。例えば液晶表示体の保護用として用いる場合には、無色透明のフイルムが好適である。
【0036】
これらの基材フイルムの厚さは特に制限はなく、状況に応じて適宜選定されるが、通常15〜300μm、好ましくは20〜200μmの範囲である。また、この基材フイルムは、その表面に設けられる層との密着性を向上させる目的で、所望により片面又は両面に、酸化法や凹凸化法などにより表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材フイルムの種類に応じて適宜選ばれるが、一般にはコロナ放電処理法が効果及び操作性などの面から、好ましく用いられる。
【0037】
本発明のハードコート部材は、前記基材フイルムの少なくとも一方の面に、前述した本発明のコーティング剤を、従来公知の方法、例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などを用いて、コーティングして塗膜を形成させ、乾燥、処理してハードコート膜を形成することにより、作製することができる。
【0038】
ハードコート膜の厚さは、通常0.2〜10μm程度、好ましくは0.25〜5μmである。また、ハードコート部材におけるハードコート膜自体の性能については、基材フイルムの光学特性をできるだけ損なわないのが好ましく、ハードコート部材を形成したフイルムのヘイズ値から基材フイルムのヘイズ値を差し引いた値(ΔHz)は、3%以下が好ましく、2%以下がより好ましい。また、鉛筆硬度は、通常H以上である。さらに、紫外光を吸収する成分をあえて添加しない場合においては、ハードコート部材における波長360nm紫外光の透過率は、通常50%以上、好ましくは70%以上である。
なお、上記の各物性の測定方法については、後で説明する。
【0039】
本発明のハードコート部材は、各種画像表示装置、例えばLCD、タッチパネル、CRT、PDP、ELなどにおいて、表面保護部材として好適に用いられる。
【実施例】
【0040】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0041】
なお、各例で得られたハードコート膜およびハードコート部材の性能の評価、並びにコーティング剤固化物のX線回折は、以下に示す方法に従って行う。
【0042】
<ハードコート膜・部材>
(1)鉛筆硬度
JIS K 5400に準拠し、ヨシミツ精機社製、機種名「C221A」を用いて測定する。
(2)ヘイズ値(ΔHz:測定値−基材のHz値)
ヘイズメーター[日本電色工業社製、機種名「NDH2000」]を用い、JIS K 7361に準拠してヘイズ値(ΔHz)を測定する。
(3)波長360nm紫外光の透過率
紫外・可視分光光度計[日本分光社製、機種名「V−670」]を用い、波長360nm紫外光の透過率を測定する。
【0043】
<コーティング剤>
(4)固形物のX線回折
コーティング剤を乾燥固化し、得られた粉末について、X線回折装置[セイコーインスツルメンツ社製、機種名「SEA−2120」]を用いてX線回折を行う。
【0044】
実施例1
メルカプトプロピルトリメトキシシラン(104.2g)と、MS−51(34.6g)の混合物にエチルセロソルブ(EC)(602.6g)を添加した。攪拌しながら0.1モル/L硝酸(10.3g)と水(73.6g)とZnCl(24.1g)、EC(150.6g)の混合物を添加した。得られた溶液を30℃にて24時間撹拌し無色透明なコーティング剤を得た。
【0045】
片面にハードコート処理された厚さ188μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フイルム[きもと社製、商品名「KB−G01」]のPET面に、前記コーティング剤をバーコート法(No.10)により塗布し、120℃で1.5分間乾燥処理することにより、厚さ2μmのハードコート膜を形成し、ハードコート部材を作製した。諸特性の評価結果を表1に示す。
【0046】
実施例2
メルカプトプロピルトリメトキシシラン(48.0g)と、チタンテトライソプロポキシド(TTIP)(146.0g)と、MS−51(40.0g)の混合物にエチレングリコール−t−ブチルエーテル(ETB)(549.0g)を添加した。攪拌しながら濃硝酸(49.0g)と水(14.0g)とZnCl(16.0g)、ETB(137.0g)の混合物を添加した。得られた溶液を30℃にて4時間撹拌し無色透明なコーティング剤を得た。
以下、実施例1と同様な操作を行い、ハードコート部材を作製した。諸特性の評価結果を表1に示す。
【0047】
実施例3
メルカプトプロピルトリメトキシシラン(84.6g)と、MS−51(28.1g)の混合物にエチルセロソルブ(EC)(608.3g)を添加した。攪拌しながら0.1モル/L硝酸(8.4g)と水(59.8g)とZnCl(58.7g)、EC(152.1g)の混合物を添加した。得られた溶液を30℃にて24時間撹拌し無色透明なコーティング剤を得た。
以下、実施例1と同様な操作を行い、ハードコート部材を作製した。諸特性の評価結果を表1に示す。
【0048】
実施例4
メルカプトプロピルトリメトキシシラン(116.9g)と、MS−51(38.9g)の混合物にエチルセロソルブ(EC)(598.8g)を添加した。攪拌しながら0.1モル/L硝酸(11.6g)と水(82.5g)とZnCl(1.6g)、EC(149.7g)の混合物を添加した。得られた溶液を30℃にて24時間撹拌し無色透明なコーティング剤を得た。
以下、実施例1と同様な操作を行い、ハードコート部材を作製した。諸特性の評価結果を表1に示す。
【0049】
実施例5
メルカプトプロピルトリメトキシシラン(117.3g)と、MS−51(39.0g)の混合物にエチルセロソルブ(EC)(598.7g)を添加した。攪拌しながら0.1モル/L硝酸(11.6g)と水(82.9g)とZnCl(0.8g)、EC(149.7g)の混合物を添加した。得られた溶液を30℃にて24時間撹拌し無色透明なコーティング剤を得た。
以下、実施例1と同様な操作を行い、ハードコート部材を作製した。諸特性の評価結果を表1に示す。
【0050】
実施例6
フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン(100.2g)と、MS−51(35.8g)の混合物にエチルセロソルブ(EC)(621.0g)を添加した。攪拌しながら0.1モル/L硝酸(8.7g)と水(61.2g)とZnCl(17.8g)、EC(155.2g)の混合物を添加した。得られた溶液を30℃にて24時間撹拌し無色透明なコーティング剤を得た。
以下、実施例1と同様な操作を行い、ハードコート部材を作製した。諸特性の評価結果を表1に示す。
【0051】
実施例7
実施例1で得られたコーティング剤500.0gにエチルセロソルブ(EC)(500.0g)を添加し無色透明なコーティング剤を得た。
以下、実施例1と同様な操作を行い、厚さ1μmのハードコート部材を作製した。諸特性の評価結果を表1に示す。
【0052】
実施例8
実施例1で得られたコーティング剤125.0gにエチルセロソルブ(EC)(875.0g)を添加し無色透明なコーティング剤を得た。
以下、実施例1と同様な操作を行い、厚さ0.25μmのハードコート部材を作製した。諸特性の評価結果を表1に示す。
【0053】
実施例9
実施例1で得られたコーティング剤81.0gにエチルセロソルブ(EC)(875.0g)を添加した後、攪拌しながら10wt%の酸化チタンスラリー(電子顕微鏡による1次粒子径が20nm、分散媒:イソプロピルアルコール)44.0gを添加し白色のコーティング剤を得た。
以下、実施例1と同様な操作を行い、厚さ0.25μmのハードコート部材を作製した。諸特性の評価結果を表1に示す。
【0054】
実施例10
実施例1で得られたコーティング剤50.0gにエチルセロソルブ(EC)(875.0g)を添加した後、攪拌しながら10wt%のシリカスラリー(電子顕微鏡による1次粒子径が15nm、分散媒:イソプロピルアルコール)75.0gを添加し薄白色のコーティング剤を得た。
以下、実施例1と同様な操作を行い、厚さ0.25μmのハードコート部材を作製した。諸特性の評価結果を表1に示す。
【0055】
実施例11
実施例1で得られたコーティング剤50.0gにエチルセロソルブ(EC)(875.0g)を添加した後、攪拌しながら10wt%のフッ化マグネシウムスラリー(電子顕微鏡による1次粒子径が20nm、分散媒:イソプロピルアルコール)75.0gを添加し薄白色のコーティング剤を得た。
以下、実施例1と同様な操作を行い、厚さ0.25μmのハードコート部材を作製した。諸特性の評価結果を表1に示す。
【0056】
比較例1
塩化亜鉛を添加しない以外は実施例1と同様に行った。メルカプトプロピルトリメトキシシラン(117.8g)と、MS−51(39.2g)の混合物にエチルセロソルブ(EC)(598.5g)を添加した。攪拌しながら0.1モル/L硝酸(11.7g)と水(83.2g)、EC(149.6g)の混合物を添加した。得られた溶液を30℃にて24時間撹拌し無色透明なコーティング剤を得た。
以下、実施例1と同様な操作を行い、ハードコート部材を作製した。諸特性の評価結果を表1に示す。
【0057】
比較例2
メルカプトプロピルトリメトキシシラン(109.4g)と、MS−51(36.4g)の混合物にエチルセロソルブ(EC)(595.3g)を添加した。攪拌しながら0.1モル/L硝酸(10.8g)と水(77.3g)とVCl(21.9g)、EC(148.8g)の混合物を添加した。得られた溶液を30℃にて24時間撹拌し濃緑色透明なコーティング剤を得た。
以下、実施例1と同様な操作を行い、ハードコート部材を作製した。諸特性の評価結果を表1に示す。
【0058】
比較例3
比較例1で得られた塗工液(850.0g)にEC(100.0g)を加え、攪拌しながら30質量%の酸化亜鉛スラリー(50.0g)を添加し白色のコーティング剤を得た。
以下、実施例1と同様な操作を行い、ハードコート部材を作製した。諸特性の評価結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

[注]
*1)亜鉛イオンに対する酸素原子以外の不対電子含有官能基の含有割合
*2)コーティング剤固形分中の亜鉛イオン濃度
*3)ΔHz:ハードコート膜自体のヘイズ値(測定値-基材のHz値)
*4)透過率:ハードコート部材の波長360nm紫外光の透過率
*5)XRD:コーティング剤固化物のX線回折
【0060】
実施例12
実施例1、9、10、11で得られたコーティング剤をシリコンウエハーにスピンコート法(1000rpm、0.5分) により塗布し、120℃で1.5分間乾燥処理することによりハードコート膜を形成した。
薄膜測定装置[フイルメトリクス社製、機種名「F−20」]を用い得られたサンプルの屈折率を測定した。結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
実施例13
実施例9で得られたコーティング剤を厚さ125μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フイルム[東レ社製、商品名「ルミラーT−60」]にバーコート法(No.10)により塗布し、120℃で1.5分間乾燥処理することにより、厚さ0.25μmのハードコート膜を形成し、ハードコート部材を作製した。
実施例9で得られたコーティング剤を塗布したサンプルで干渉がほとんどみられなかった。
【0063】
図1に薄膜測定装置[フイルメトリクス社製、機種名「F−20」]を用い得られたサンプルの400nm〜1000nmにおける反射スペクトルを測定した結果を示す。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のコーティング剤は、基材上に薄膜でも硬度などに優れるハードコート膜を形成することができる。また該ハードコート膜を有する本発明のハードコート部材は、LCD、タッチパネル、CRT、PDP、ELなどにおいて、表面保護部材として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】実施例13における反射スペクトルの測定結果チャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子中に酸素原子以外の不対電子含有元素を含む官能基を有する金属アルコキシドの加水分解・縮合物と、(B)亜鉛イオンとを含むことを特徴とするコーティング剤。
【請求項2】
分子中に酸素原子以外の不対電子含有元素を含む官能基を有する金属アルコキシドが、一般式(I)
(m−n)M(OR) …(I)
(式中、Rの少なくともひとつは不対電子含有官能基であり、Rが複数の場合、同一であってもまた異なっていてもよく、Rは炭素数1〜6のアルキル基、MはSi、Ti、ZrまたはAl、mはMの価数で、3または4を示し、nはSi、TiまたはZrの場合は1〜3であり、Alの場合は1または2である。)
で表される化合物である請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項3】
金属アルコキシドがアルコキシシランである請求項1または2に記載のコーティング剤。
【請求項4】
酸素原子以外の不対電子含有元素を含む官能基が、メルカプトアルキル基および/またはアミノアルキル基である請求項1〜3のいずれか1項に記載のコーティング剤。
【請求項5】
亜鉛イオンに対する酸素原子以外の不対電子含有元素を含む官能基の含有割合が、モル基準で0.5〜200倍である請求項1〜4のいずれか1項に記載のコーティング剤。
【請求項6】
固形分中の亜鉛イオン濃度が、0.1〜40質量%である請求項1〜5のいずれか1項に記載のコーティング剤。
【請求項7】
基材の少なくとも片面に、請求項1〜6のいずれか1項に記載のコーティング剤を塗布、乾燥させてハードコート膜を形成したことを特徴とするハードコート部材。

【図1】
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【公開番号】特開2010−111787(P2010−111787A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286115(P2008−286115)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】