説明

コーティング剤組成物及びこれを用いた光情報媒体

【課題】 光情報媒体の表面に十分な硬度を有し且つ帯電防止性に優れる保護コート層を形成するために有用なコーティング剤組成物、及び前記コーティング剤組成物を用いた光情報媒体を提供する。
【解決手段】 活性エネルギー線重合性基及び第4級アンモニウム塩基を有する第4級アンモニウム化合物(A)と、分子内に3つ以上の活性エネルギー線重合性基を有する硬化性化合物(B)と、表面修飾されたシリカ微粒子(C)とを少なくとも含む光情報媒体用コーティング剤組成物。光情報媒体は、前記コーティング剤組成物の硬化物を含む保護コート層8を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光情報媒体の表面に、十分な硬度を有し且つ帯電防止性に優れる保護コート層を形成するために有用なコーティング剤組成物に関する。
【0002】
また、本発明は、前記コーティング剤組成物を用いて形成された十分な硬度を有し且つ帯電防止性に優れる保護コート層を表面に有する再生専用光ディスク、光記録ディスク、光磁気記録ディスク等の光情報媒体に関する。
【背景技術】
【0003】
再生専用光ディスク、光記録ディスク、光磁気記録ディスク等の光情報媒体の表面には、塵埃や大気中のオイルミスト等の付着を防いだり、光情報媒体の帯電による電気信号へのノイズの低減のために帯電防止性が要求される。
【0004】
また、光情報媒体以外について見れば、例えば、光学レンズ、光学フィルター、反射防止膜、及び液晶ディスプレー、CRTディスプレー、プラズマディスプレー、ELディスプレー等の各種表示素子等の表面にも、光ディスクの場合と同様に、塵埃や大気中のオイルミスト等の付着を防いだり、表示素子の帯電による電気信号へのノイズの低減のために帯電防止性が要求される。
【0005】
光ディスクや上記各種物体の表面には、通常、紫外線硬化性材料の硬化物からなる保護コート層が設けられる。このような保護コート層は絶縁性であり、静電気による帯電現象が起こる。
【0006】
特開平5−225612号公報は帯電防止効果を有するコーティング剤とこれを用いた光情報媒体に関し、分子内に重合可能なエチレン性二重結合を少なくとも1つ有するモノマー及び/又はオリゴマー、重合開始剤、及びアクリロイル基を有する第4級アンモニウム塩からなるコーティング剤が開示されている。[0032]には、前記第4級アンモニウム塩として、3−(メタ)アクリオキシ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、3−(メタ)アクリオキシ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムメチルサルフェート、(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムメチルサルフェート等が開示されている。[0033]には、前記第4級アンモニウム塩の添加量が、モノマー及び/又はオリゴマー100重量部に対して、0.5〜30重量部であることが開示されている。
【0007】
特開平6−329819号公報は帯電防止性保護膜のコーティング方法に関し、[0007]には、帯電防止剤が、分子内にアクリロイル基を少なくとも1個有するアミン化合物等であり、前記化合物は、紫外線照射で硬化し、紫外線硬化性樹脂の保護膜中に固定されることが開示されている。[0017]には、3−(メタ)アクリオキシ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムサルフェート、(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムサルフェート等の第4級アンモニウム塩が挙げられている。
【0008】
特開平6−180859号公報は耐擦傷性及び帯電防止性に優れた光ディスク用コーティング剤及び光ディスクに関し、第4級アンモニウム塩基を有する(メタ)アクリル酸エステル20〜99重量%とアルキレンオキサイドを有する(メタ)アクリル酸エステル80〜1重量%との共重合体(A)、3官能(メタ)アクリル酸エステル(B)、2官能(メタ)アクリル酸エステル(C)、単官能(メタ)アクリル酸エステル(D)、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル(E)、及び光重合開始剤(F)を含むコーティング剤が開示されている。前記共重合体(A)において、第4級アンモニウム塩基は側鎖に位置する。
【0009】
特開平6−195749号公報には、帯電防止剤を含有する紫外線硬化型樹脂組成物の硬化皮膜からなるハードコート層を有する光ディスクが開示され、帯電防止剤の親水性部分として第4級アンモニウム塩が例示され[0009]には、疎水性部分として(メタ)アクリロイル基等の官能基が例示されている[0010]。
【0010】
特開2003−173575号公報には、記録/再生レーザー光が薄膜カバー層(X)を通して記録層に照射される光ディスクにおいて、光ディスク支持基体上に記録層が形成され、記録層上に50〜150μm厚の薄膜カバー層(X)が形成され、薄膜カバー層(X)上に0.05〜20μm厚のハードコート層(Y)が形成され、薄膜カバー層(X)は特定の活性エネルギー線硬化性組成物(P)の硬化物層であり、ハードコート層(Y)は表面修飾コロイド状シリカを含む特定の活性エネルギー線硬化性組成物(Q)の硬化物層である光ディスクが開示されている。[0027]には、組成物(P)には帯電防止剤が含まれてもよいこと、[0044]には、組成物(Q)には帯電防止剤が含まれてもよいことが開示され、[0031]には、帯電防止剤として、ノニオン系帯電防止剤、カチオン系帯電防止剤、アニオン系帯電防止剤が挙げられている。
【0011】
また、特開2002−230837号公報にも、光ディスクに関して、上記特開2003−173575号公報と同様の技術が開示されている。
【0012】
また、特許3047094号公報には、分子両末端に(メタ)アクリロイル基を有し、主鎖を構成する繰り返し単位中に第4級アンモニウム塩基を有する帯電防止剤が開示されている。特開平8−291281号公報には、分子の主鎖中にイオン性基が存在することにより、帯電防止効果が高いことが開示されている([0006],[0062])。
【0013】
【特許文献1】特開平5−225612号公報
【特許文献2】特開平6−329819号公報
【特許文献3】特開平6−180859号公報
【特許文献4】特開平6−195749号公報
【特許文献5】特開2003−173575号公報
【特許文献6】特開2002−230837号公報
【特許文献7】特許3047094号公報
【特許文献8】特開平8−291281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記の従来技術では、十分な硬度と帯電防止性を有する保護コート層は得られなかった。特に、光ディスクの使用環境下における長期の使用によっても十分な帯電防止性を維持しうる保護コート層は得られなかった。また、一方で、光ディスクでは、情報の記録/再生の観点から、その表面の防汚性が要求される。
【0015】
そこで、本発明の目的は、光情報媒体の表面に十分な硬度を有し且つ帯電防止性に優れる保護コート層を形成するために有用なコーティング剤組成物を提供することにある。
【0016】
また、本発明の目的は、記録及び/又は再生ビーム入射側表面に十分な硬度を有し且つ帯電防止性に優れる保護コート層を有する光情報媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、鋭意検討した結果、活性エネルギー線重合性基及び第4級アンモニウム塩基を有する第4級アンモニウム化合物と、表面修飾されたコロイド状シリカ微粒子とを共に用いることによって、十分な硬度を有し且つ帯電防止性に非常に優れる保護コート層を形成することのできるコーティング剤組成物が得られることを見いだした。
【0018】
本発明には、以下の発明が含まれる。
(1) 活性エネルギー線重合性基及び第4級アンモニウム塩基を有する第4級アンモニウム化合物(A)と、分子内に3つ以上の活性エネルギー線重合性基を有する硬化性化合物(B)と、表面修飾されたシリカ微粒子(C)とを少なくとも含む光情報媒体用コーティング剤組成物。
【0019】
(2) 表面修飾処理されたシリカ微粒子(C)は、(メタ)アクリロイル基又はメルカプト基を有するシランカップリング剤で表面修飾されたものである、(1) に記載のコーティング剤組成物。
【0020】
(3) 表面修飾処理されたシリカ微粒子(C)は、未修飾のシリカ微粒子100重量部に対して、前記シランカップリング剤を5〜150重量部の量で反応させて得られたものである、(1) 又は(2) に記載のコーティング剤組成物。
【0021】
(4) 第4級アンモニウム化合物(A)は、活性エネルギー線重合性基として(メタ)アクリロイル基を有するものである、(1) 〜(3) のうちのいずれかに記載のコーティング剤組成物。
【0022】
(5) 前記コーティング剤組成物は、組成物中の不揮発分100重量部に対して前記第4級アンモニウム化合物(A) 2重量部以上20重量部以下を含み、且つ前記硬化性化合物(B)100重量部に対して前記シリカ微粒子(C) 5重量部以上500重量部以下を含む、(1) 〜(4) のうちのいずれかに記載のコーティング剤組成物。
不揮発分には、前記アンモニウム化合物(A)、前記硬化性化合物(B)及び前記シリカ微粒子(C)の他、後述する硬化性化合物(B)以外の硬化性モノマー及びオリゴマー、光重合開始剤、各種添加剤等の任意成分が含まれる。
【0023】
(6) 支持基体上に、少なくとも記録層又は反射層を含む、1層又は複数層から構成される膜体を有する光情報媒体であって、前記支持基体側表面及び前記膜体側表面のうちの少なくとも一方の表面が、(1) 〜(5) のうちのいずれかに記載のコーティング剤組成物の硬化物を含む保護コート層によって形成されている光情報媒体。
【0024】
(7) 支持基体上に情報記録層と、情報記録層上の光透過層とを有し、光透過層上に、(1) 〜(5) のうちのいずれかに記載のコーティング剤組成物の硬化物を含む保護コート層を有する光情報媒体。
【0025】
(8) 前記保護コート層は、さらにその表面に、活性エネルギー線重合性基を有するシリコーン化合物、又は活性エネルギー線重合性基を有するフッ素含有化合物の硬化物を有する、(6) 又は(7) に記載の光情報媒体。
【0026】
本発明において、光情報媒体には、再生専用光ディスク、光記録ディスク、光磁気記録ディスク等の各種の媒体が含まれる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、光情報媒体の表面に十分な硬度を有し且つ帯電防止性に優れる保護コート層を形成するために有用なコーティング剤組成物が提供される。
【0028】
また、本発明によれば、前記コーティング剤組成物を用いて、記録及び/又は再生ビーム入射側表面に十分な硬度を有し且つ帯電防止性に優れる保護コート層を有する光情報媒体が提供される。
【0029】
さらに、本発明によれば、記録及び/又は再生ビーム入射側表面に十分な硬度を有し且つ帯電防止性に優れ、さらに防汚性にも優れる保護コート層を有する光情報媒体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
まず、本発明の光情報媒体用コーティング剤組成物について説明する。
【0031】
本発明のコーティング剤組成物は、活性エネルギー線重合性基及び第4級アンモニウム塩基を有する第4級アンモニウム化合物(A)と、分子内に3つ以上の活性エネルギー線重合性基を有する硬化性化合物(B)と、表面修飾されたシリカ微粒子(C)とを少なくとも含む。
【0032】
硬化性化合物(B)は、第4級アンモニウム化合物(A)以外のものであり、コーティング剤組成物における硬化性成分の主成分であり、硬化後に得られる保護コート層マトリックスの主構成成分である。硬化性化合物(B)は、分子内に3つ以上の活性エネルギー線重合性基を有するので、硬化後に、それ自体で保護コート層として十分な硬度が得られる。
【0033】
硬化性化合物(B)は、分子内に3つ以上の活性エネルギー線重合性基を有する化合物であれば、多官能モノマーもしくはオリゴマーであってもよく、特にその構造は限定されない。硬化性化合物(B)が有する活性エネルギー線重合性基は、(メタ)アクリロイル基、ビニル基及びメルカプト基の中から選択される。
【0034】
このような活性エネルギー線硬化性化合物(B)のうち、(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、3官能以上のウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、エステルアクリレート等が挙げられ、具体的には、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0035】
本発明のコーティング剤組成物において、活性エネルギー線硬化性化合物(B)として1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
また、コーティング剤組成物は、硬化性化合物(B)以外に、分子内に1つ又は2つの活性エネルギー線重合性基を有する硬化性化合物を、硬化性成分全体に対して35重量%までの量で含んでもよい。単官能又は2官能性化合物が多くなりすぎると、保護コート層として十分な硬度が得られにくい。
【0037】
第4級アンモニウム化合物(A)は、帯電防止機能のために用いられる。第4級アンモニウム化合物(A)は、分子内に少なくとも1つの活性エネルギー線重合性基と少なくとも1つの第4級アンモニウム塩基を有する。
【0038】
第4級アンモニウム化合物(A)の活性エネルギー線重合性基としては、(メタ)アクリロイル基が好ましい。(メタ)アクリロイル基によって、活性エネルギー線照射により第4級アンモニウム化合物(A)が硬化した保護コート層中に固定され、帯電防止機能が保たれる。
【0039】
第4級アンモニウム塩の対イオンである陰イオンは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、又は硫酸基、アルキル硫酸基、アルキルリン酸基、硝酸基、カルボン酸基などから選ばれる。
【0040】
第4級アンモニウム化合物(A)としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。
【0041】
また、第4級アンモニウム化合物(A)としては、上記化合物を含む(共)重合体でも構わない。例えば、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドと4−ヒドロキシブチルメタクリレートとの共重合体に、ヘキサメチレンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチルメタクリレートを用いてアクリレートを付与した化合物などが挙げられる。
【0042】
特に、第4級アンモニウム化合物(A)としては、第4級アンモニウム塩基が分子中の主鎖上に存在しているものも好ましい。また、主鎖中に第4級アンモニウム塩基が繰り返し存在するのも好ましい。分子の主鎖中にイオン性基が存在することで帯電防止機能が向上すると考えられる。これら第4級アンモニウム塩としては、例えば、N−メチルジエタノールアミン(MEA)とアジピン酸ジメチル(AA)と用いてエステル交換反応を行い両末端が水酸基の中間体(MEA−AA−MEA−AA−MEA)を作製し、ジメチル硫酸で4級化した後、前記両末端水酸基にそれぞれヘキサメチレンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチルメタクリレートを反応させて得られた化合物などが挙げられる。
【0043】
表面修飾処理されたシリカ微粒子(C)は、保護コート層の硬度を高め、耐摩耗性をより高めるために用いられる。前記シリカ微粒子(C)は、(メタ)アクリロイル基又はメルカプト基を有するシランカップリング剤で表面修飾されたものが好ましい。このような反応性シリカ微粒子は、コーティング剤層を硬化させる際の活性エネルギー線照射によって、架橋反応を起こし、ポリマーマトリックス中に固定される。また、シリカ微粒子表面が修飾処理されていることによって、コーティング剤中に第4級アンモニウム化合物(A)を安定に存在させることができる。前記シリカ微粒子(C)は、粉体状であっても、コロイド状であってもよい。
【0044】
このような反応性シリカ微粒子として、例えば特開平9−100111号公報に記載された反応性シリカ微粒子があり、本発明において好ましく用いることができる。
【0045】
また、シリカ微粒子(C)の平均粒子径は、保護コート層の透明性を確保するために平均粒子径100nm以下、好ましくは20nm以下であり、コロイド溶液製造上の制約から、好ましくは5nm以上である。
【0046】
シランカップリング剤による表面修飾は、シランカップリング剤と未修飾のシリカ微粒子とを、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の有機溶媒中において、室温又は加熱下で攪拌することにより行うことができる。シランカップリング剤のアルコキシ基が加水分解し、前記シリカ微粒子表面の水酸残基(シラノール残基)とシランカップリング剤のSiとの結合が形成され、シランカップリング剤が化学的に固定化される。
【0047】
この表面修飾に際しては、シランカップリング剤をあらかじめ加水分解しておくことが好ましい。加水分解は、シランカップリング剤と、その加水分解性基と同モル量の水分と、塩酸、酢酸などの酸触媒又はアンモニア、水酸化ナトリウムなどのアルカリ触媒とを混合し攪拌すれば良い。加水分解を行ったシランカップリング剤と未修飾のシリカ微粒子とを、エチルセルソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の有機溶媒中において、室温又は加熱下で攪拌することにより、前記シリカ微粒子表面にシランカップリング剤が化学的に固定化される。
【0048】
このようにして、シリカ微粒子表面に、(メタ)アクリロイル基又はメルカプト基が導入される。
【0049】
シランカップリング剤による表面修飾においては、前記シランカップリング剤を未修飾のシリカ微粒子100重量部に対して、例えば5〜150重量部、好ましくは20〜50重量部程度反応させると良い。前記シランカップリング剤が5重量部未満では、(メタ)アクリロイル基又はメルカプト基の導入効果が少ない傾向にあり、またコーティング剤中における第4級アンモニウム化合物(A)の安定化効果が少ない傾向にある。一方、前記シランカップリング剤を150重量部も用いれば、十分な量の(メタ)アクリロイル基又はメルカプト基が導入される。また、前記シランカップリング剤が20重量部以上であれば、保護コート層中において第4級アンモニウム化合物(A)がより安定にカチオン状態を維持することができ、その結果、帯電防止効果を高く保つことができる。
【0050】
本発明において、前記コーティング剤組成物は、組成物中の不揮発分100重量部に対して前記第4級アンモニウム化合物(A)2重量部以上20重量部以下を含み、且つ前記硬化性化合物(B)100重量部に対して前記表面修飾されたシリカ微粒子(C)5重量部以上500重量部以下を含むことが好ましい。ここで、不揮発分は、硬化後の保護コート層中に残存する成分であり、アンモニウム化合物(A)、硬化性化合物(B)及びシリカ微粒子(C)の他、2官能又は単官能モノマー及びオリゴマー、光重合開始剤、各種添加剤等の任意成分が含まれる。
【0051】
第4級アンモニウム化合物(A)の添加量が、好ましくは2重量部以上、より好ましくは5重量部以上であると、高い帯電防止効果が得られる。一方、第4級アンモニウム化合物の添加量が20重量部を超えても帯電防止効果に向上はあまり見られず、保護コート層の硬度が低下しやすい。第4級アンモニウム化合物(A)のより好ましい添加量は、5重量部以上20重量部以下である。
【0052】
表面修飾されたシリカ微粒子(C)の添加量は、硬化性化合物(B)100重量部に対して、5重量部以上500重量部以下が好ましく、20重量部以上200重量部以下がより好ましい。シリカ微粒子(C)を500重量部よりも多く含有させると、保護コート層の膜強度が弱くなりやすく、一方、5重量部未満では、シリカ微粒子(C)添加による保護コート層の耐摩耗性向上効果が弱い。
【0053】
本発明のコーティング剤組成物は、公知の光重合開始剤を含んでもよい。光重合開始剤は、活性エネルギー線として電子線を用いる場合には特に必要はないが、紫外線を用いる場合には必要となる。光重合開始剤は、アセトフェノン系、ベンゾイン系、ベンゾフェノン系、チオキサントン系等の通常のものから適宜選択すればよい。光重合開始剤のうち、光ラジカル開始剤としては、例えば、ダロキュア1173、イルガキュア651 、イルガキュア184 、イルガキュア907 (いずれもチバスペシャルティケミカルズ社製)が挙げられる。光重合開始剤の含有量は、例えば、コーティング剤組成物中において、前記(A)、(B)、及び(C)の総和に対して、0.5〜5重量%程度である。
【0054】
また、本発明のコーティング剤組成物はさらに、必要に応じて、非重合性の希釈溶剤、有機フィラー、重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、レベリング剤などを含んでいても差し支えない。
【0055】
コーティング剤組成物は、上記の各成分を常法により混合して製造することができる。コーティング剤組成物は塗布に適した粘度に調整するとよい。以上のようにして、本発明のコーティング剤組成物が構成される。
【0056】
次に、図面を参照して、前記コーティング剤組成物を用いた本発明の光情報媒体(以下、光ディスクと略記することがある)及びその製造方法について説明する。
【0057】
本発明の光情報媒体は、支持基体上に、少なくとも記録層又は反射層を含む、1層又は複数層から構成される膜体を有し、前記支持基体側表面及び前記膜体側表面のうちの少なくとも一方の表面が、前記コーティング剤組成物の硬化物を含む保護コート層によって形成されている。本発明の光情報媒体において、前記支持基体側表面及び前記膜体側表面のうちの少なくとも一方の表面、好ましくは記録/再生ビーム入射側とされる表面が、前記コーティング剤組成物の硬化物からなる保護コート層によって形成されていることが好ましい。
【0058】
光情報媒体の例として、膜体側表面が記録/再生ビーム入射側表面とされる光情報媒体について、図1及び2を参照して説明する。
【0059】
図1は、本発明の光ディスクの層構成の一例を示す概略断面図である。この光ディスクは記録媒体であり、比較的剛性の高い支持基体(20)上に情報記録層としての記録層(4) を有し、記録層(4) 上に光透過層(7) を有し、光透過層(7) 上に光透過性保護コート層(8) を有する。保護コート層(8) が記録/再生ビーム入射側とされ、記録又は再生のためのレーザービームは保護コート層(8) 及び光透過層(7) を通して記録層(4) に入射する。光透過層(7) の厚さは、保護コート層(8) を含めて、好ましくは30〜150μm、より好ましくは70〜150μmである。このような光ディスクは、例えば Blu-ray Disc である。保護コート層(8) 側の鉛筆硬度試験でB以上の硬さを有する。
【0060】
なお、図示されていないが、記録層(4) の上にスペーサー層を介して更に記録層が設けられ、2層以上の記録層を有する光ディスクも、本発明に含まれる。この場合には、光ディスクは、支持基体(20)から最も遠い記録層の上に、光透過層(7) 及び保護コート層(8) を有する。
【0061】
本発明は、記録層の種類によらず適用できる。すなわち、例えば、相変化型記録媒体であっても、ピット形成タイプの記録媒体であっても、光磁気記録媒体であっても適用できる。なお、通常は、記録層の少なくとも一方の側に、記録層の保護や光学的効果を目的として誘電体層や反射層が設けられるが、図1では図示が省略されている。また、本発明は、図示するような記録可能タイプに限らず、再生専用タイプにも適用可能である。その場合、支持基体(20)と一体的にピット列が形成され、そのピット列を被覆する反射層(金属層又は誘電体多層膜)が、情報記録層を構成する。
【0062】
本発明の相変化型記録媒体の場合の光情報媒体について説明する。
図2は、本発明の光ディスクの層構成の一例を示す概略断面図である。図2において、光ディスクは、支持基体(20)の情報ピットやプリグルーブ等の微細凹凸が形成されている側の面上に、反射層(3) 、第2誘電体層(52)、相変化記録材料層(4) 及び第1誘電体層(51)をこの順で有し、第1誘電体層(51)上に光透過層(7) を有し、光透過層(7) 上に保護コート層(8) を有する。この例では、反射層(3) 、第2誘電体層(52)、相変化記録材料層(4) 及び第1誘電体層(51)が情報記録層を構成する。また、前記情報記録層及び光透過層(7) が、記録又は再生のために必要な膜体を構成する。この光ディスクは、保護コート層(8) 及び光透過層(7) を通して、すなわち膜体側から、記録又は再生のためのレーザー光が入射するように使用される。
【0063】
支持基体(20)は、厚さ0.3〜1.6mm、好ましくは厚さ0.4〜1.3mmであり、記録層(4) が形成される側の面に、情報ピットやプリグルーブ等の微細な凹凸が形成されている。
【0064】
支持基体(20)としては、上記のように膜体側からレーザー光が入射するように使用されるので光学的に透明である必要はないが、透明な材料としては、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル系樹脂、ポリオレフィン樹脂等の各種プラスチック材料等が使用できる。あるいは、ガラス、セラミックス、金属等を用いても良い。凹凸パターンは、プラスチック材料を用いる場合には、射出成形することにより作成されることが多く、プラスチック材料以外の場合には、フォトポリマー法(2P法)によって成形される。
【0065】
支持基体(20)上には、通常、反射層(3) がスパッタリング法により形成される。反射層の材料としては、金属元素、半金属元素、半導体元素又はそれらの化合物を単独あるいは複合させて用いる。具体的には、例えばAu、Ag、Cu、Al、Pd等の周知の反射層材料から選択すればよい。反射層は、厚さ20〜200nmの薄膜として形成することが好ましい。
【0066】
反射層(3) 上に、あるいは反射層のない場合には支持基体(20)上に直接、第2誘電体層(52)、相変化記録材料層(4) 、第1誘電体層(51)がこの順でスパッタリング法により形成される。
【0067】
相変化記録材料層(4) は、レーザー光照射によって結晶状態とアモルファス状態とに可逆的に変化し、両状態の間で光学特性が異なる材料により形成される。例えば、Ge−Sb−Te、In−Sb−Te、Sn−Se−Te、Ge−Te−Sn、In−Se−Tl、In−Sb−Te等が挙げられる。さらに、これらの材料に、Co、Pt、Pd、Au、Ag、Ir、Nb、Ta、V、W、Ti、Cr、Zr、Bi、In等から選ばれる金属のうちの少なくとも1種を微量に添加してもよく、窒素等の還元性ガスを微量に添加してもよい。記録材料層(4) の厚さは、特に限定されることなく、例えば、3〜50nm程度である。
【0068】
第2誘電体層(52)及び第1誘電体層(51)は、記録材料層(4) の上下両面側にこれを挟んで形成される。第2誘電体層(52)及び第1誘電体層(51)は、記録材料層(4) の機械的、化学的保護の機能と共に、光学特性を調整する干渉層としての機能を有する。第2誘電体層(52)及び第1誘電体層(51)はそれぞれ、単層からなっていてもよく、複数層からなっていてもよい。
【0069】
第2誘電体層(52)及び第1誘電体層(51)はそれぞれ、Si、Zn、Al、Ta、Ti、Co、Zr、Pb、Ag、Zn、Sn、Ca、Ce、V、Cu、Fe、Mgから選ばれる金属のうちの少なくとも1種を含む酸化物、窒化物、硫化物、フッ化物、あるいはこれらの複合物から形成されることが好ましい。また、第2誘電体層(52)及び第1誘電体層(51)のそれぞれの消衰係数kは、0.1以下であることが好ましい。
【0070】
第2誘電体層(52)の厚さは、特に限定されることなく、例えば、20〜150nm程度が好ましい。第1誘電体層(51)の厚さは、特に限定されることなく、例えば、20〜200nm程度が好ましい。両誘電体層(52)(51)の厚さをこのような範囲で選択することにより、反射の調整ができる。
【0071】
第1誘電体層(51)上に、光透過層(7) を活性エネルギー線硬化性材料を用いて、あるいはポリカーボネートシート等の光透過性シートを用いて形成する。
【0072】
光透過層(7) に用いる活性エネルギー線硬化性材料としては、光学的に透明で、使用されるレーザー波長領域での光学吸収や反射が少なく、複屈折が小さいことを条件として、紫外線硬化性材料及び電子線硬化性材料から選択する。
【0073】
具体的には、活性エネルギー線硬化性材料は、紫外線(電子線)硬化性化合物やその重合用組成物から構成されることが好ましい。このようなものとしては、アクリル酸やメタクリル酸のエステル化合物、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレートのようなアクリル系二重結合、ジアリルフタレートのようなアリル系二重結合、マレイン酸誘導体等の不飽和二重結合等の紫外線照射によって架橋あるいは重合する基を分子中に含有又は導入したモノマー、オリゴマー及びポリマー等を挙げることができる。これらは多官能、特に3官能以上であることが好ましく、1種のみ用いても2種以上併用してもよい。また、単官能のものを必要に応じて用いてもよい。
【0074】
紫外線硬化性モノマーとしては、分子量2000未満の化合物が、オリゴマーとしては分子量2000〜10000のものが好適である。これらはスチレン、エチルアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート等も挙げられるが、特に好ましいものとしては、ペンタエリスリトールテトラ(メタ) アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ) アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ) アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ) アクリレート、フェノールエチレンオキシド付加物の(メタ) アクリレート等が挙げられる。この他、紫外線硬化性オリゴマーとしては、オリゴエステルアクリレートやウレタンエラストマーのアクリル変性体等が挙げられる。
【0075】
紫外線(電子線)硬化性材料は、公知の光重合開始剤を含んでもよい。光重合開始剤は、活性エネルギー線として電子線を用いる場合には特に必要はないが、紫外線を用いる場合には必要となる。光重合開始剤は、アセトフェノン系、ベンゾイン系、ベンゾフェノン系、チオキサントン系等の通常のものから適宜選択すればよい。光重合開始剤のうち、光ラジカル開始剤としては、例えば、ダロキュア1173、イルガキュア651 、イルガキュア184 、イルガキュア907 (いずれもチバスペシャルティケミカルズ社製)が挙げられる。光重合開始剤の含有量は、例えば、前記紫外線(電子線)硬化性成分に対して、0.5〜5重量%程度である。
【0076】
また、紫外線硬化性材料としては、脂環式エポキシ化合物等のエポキシ化合物、及び光カチオン重合触媒を含有する組成物も好適に使用される。光カチオン重合触媒は、公知のいずれのものを用いてもよく、特に制限はない。
【0077】
光透過層(7) の形成において、第1誘電体層(51)上への活性エネルギー線硬化性材料の塗布はスピンコーティング法により行うとよい。
【0078】
あるいは、本発明において、ポリカーボネートシート等の光透過性樹脂シートを用いて光透過層を形成することもできる。この場合には、第1誘電体層(51)上に、光透過層用と同様の活性エネルギー線硬化性材料を塗布し、未硬化の樹脂材料層を形成する。未硬化の樹脂材料層上に、光透過層(7) としての光透過性シートを載置し、その後、紫外線等の活性エネルギー線を照射して樹脂材料層を硬化することにより、光透過性シートを接着し光透過層(7) とする。
【0079】
光透過層(7) 上に前記コーティング剤組成物を用いて保護コート層(8) を形成する。すなわち、光透過層(7) 上に前記コーティング剤組成物を塗布し、未硬化の保護コート層を形成し、その後、紫外線、電子線、可視光等の活性エネルギー線を照射して未硬化層を硬化して、保護コート層(8) とする。
【0080】
塗布方法は、限定されることなく、スピンコート法、ディップコート法、グラビアコート法等の各種塗布方法を用いるとよい。あるいは、光透過層(7) として光透過性シートを使用する場合、長尺状の光透過性シート原反に予め上記と同様の方法で保護コート層(8) を形成しておき、この原反をディスク形状に打ち抜いた後、前記のように未硬化の樹脂材料層上に載置し樹脂材料層を硬化させてもよい。
【0081】
以上のように、膜体側表面が記録/再生ビーム入射側表面とされる光情報媒体として、図2に例示する相変化型光記録ディスクが得られる。
【0082】
さらに、図1及び図2に例示された光ディスクでは、情報の記録/再生の観点から、記録/再生ビーム入射側とされる保護コート層(8) の表面の防汚性が要求される。すなわち、使用時における保護コート層(8) 表面へのユーザーの指紋成分の付着や、各種有機成分の付着、塵埃の付着を防ぐ必要がある。防汚性とは撥水性及び撥油性を意味し、例えば、保護コート層表面の水の接触角が70°以上であることが好ましい。従って、保護コート層(8) の表面が、活性エネルギー線重合性基を有するシリコーン化合物、又は活性エネルギー線重合性基を有するフッ素含有化合物によって防汚処理されていることが好ましい。活性エネルギー線重合性基を有することによって、活性エネルギー線照射によって、防汚処理材料の保護コート層表面への固定化が達成され、長期にわたる表面の防汚性が維持される。
【0083】
防汚処理に用いるシリコーン化合物としては、シリコーン部位と(メタ)アクリロイル基、ビニル基及びメルカプト基の中から選択される活性エネルギー線重合性基とを有する化合物が挙げられ、より詳細には、例えば下記式(1)から(3)に示す化合物が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0084】
R−[Si(CH3)2O]n−R (1)
R−[Si(CH3)2O]n−Si(CH3)3 (2)
(CH3)3SiO −[Si(CH3)20]n−[Si(CH3)(R)O]m−Si(CH3)3 (3)
【0085】
ここで、Rは、(メタ)アクリロイル基、ビニル基及びメルカプト基の中から選択される少なくとも1つの反応性基を含む置換基であり、n、mは重合度であり、nは5〜1000、mは2〜100である。
【0086】
防汚処理に用いるフッ素含有化合物としては、フッ素含有(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。具体的には、例えば、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、3-(パーフルオロ-5- メチルヘキシル)-2- ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロオクチル)エチルアクリレート、3-パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロデシル)エチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロ−9−メチルオクチル)エチル(メタ)アクリレート、3-(パーフルオロ−7−メチルオクチル)エチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロ−9−メチルデシル)エチル(メタ)アクリレート、1H,H,9H −ヘキサデカフルオロノニル(メタ)アクリレート等のフッ化アクリレートが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0087】
また、防汚処理に用いるフッ素含有化合物としては、フッ素含有ポリエーテル部位を有する(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。フッ素含有ポリエーテル部位にはパーフルオロポリエーテル部位が含まれているものが好ましい。このような化合物は、末端にヒドロキシル基を有するフッ素含有ポリエーテル化合物のヒドロキシル基に、(メタ)アクリロイル基が導入されたものである。前記原料としてのフッ素含有ポリエーテル化合物としては、例えば、次の化合物が挙げられる。もちろん、これらに限定されるものではない。
【0088】
HOCH2-CF2O-[CF2CF2O]l-[CF2O]m-CF2CH2OH (Z DOL)
F-[CF2CF2CF2O]l-CF2CF2CH2OH (Demnum-SA)
F-[CF(CF3)CF2O]l-CF(CF3)CH2OH (Krytox-OH)
HO(CH2CH2O)n-CH2-CF2O-[CF2CF2O]l-[CF2O]m-CF2CH2(OCH2CH2)nOH (Zdol-TX)
HOCH2CH(OH)CH2O-CH2-CF2O-[CF2CF2O]l-[CF2O]m-CF2CH2OCH2CH(OH)CH2OH (Z-Tetraol)
ここで、l、m及びnはそれぞれ重合度を表す。
【0089】
前記フッ素含有ポリエーテル部位を有する(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、
・分子量1000当たりに1つ以上の活性エネルギー線反応性基を有するものとして、Fomblin Z DOL diacrylate〔Fomblin Z DOL (アウジモント社製)の末端ヒドロキシル基をアクリレート変性したもの〕や、フルオライトART−4(共栄社化学)、
・分子量1000当たりに2つ以上の活性エネルギー線反応性基を有するものとして、フルオライトART−3(共栄社化学)、
・分子量1000当たりに4つ以上の活性エネルギー線反応性基を有するものとして、Fomblin Z-Tetraol (アウジモント社製)の4つの末端ヒドロキシル基をアクリレート変性したもの、
等が挙げられる。
【0090】
一般的には、シリコーン化合物よりも、フッ素含有化合物の方がより高い防汚性が得られ、すなわち保護コート表面の水のより大きな接触角、例えば90°以上の接触角が発現される。
【0091】
また、本発明の前記コーティング剤組成物は、支持基体側表面が記録/再生ビーム入射側表面とされる光情報媒体にももちろん適用することができる。このような光情報媒体としては、従来から、DVD−ROM、DVD−R、DVD−RAM、DVD−RW等の種々のものが商品化されている。さらに、本発明の前記コーティング剤組成物は、記録/再生ビームとして青色レーザービームが用いられる次世代HD−DVDにも好適に適用することができる。これら光情報媒体では、支持基体の一方の面上に情報記録層が形成され、支持基体の他方の面上に、本発明の前記コーティング剤組成物を用いて光透過性保護コート層が形成される。
【実施例】
【0092】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0093】
[第4級アンモニウム化合物の合成例]
ラウリルアミン−エチレンオキサイド4モル付加物(LAEO4)1444重量部、アジピン酸メチル(AAM)522重量部、及びジブチル錫オキサイド1.5重量部を反応器に仕込み、120℃で攪拌し、エタノールを留去しながらエステル交換反応を行い、両末端水酸基の中間体(I)(LAEO4−AAM−LAEO4−AAM−LAEO4−AAM−LAEO4)を得た。この中間体(I)にジメチル硫酸505重量部を滴下して、70℃で熟成させ、4級化された両末端水酸基の化合物(II)を得た。この化合物(II)1000重量部に、イソホロンジイソシアネート220重量部と2−ヒドロキシエチルアクリレート115重量部とを加えて、80℃で脱水反応を行い、両末端アクリロイル基の第4級アンモニウム化合物(A1)を得た。
【0094】
[コロイド状シリカ微粒子の表面修飾及びコーティング材料(a)の作製]
シランカップリング剤としての3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.5重量部に、純水0.3重量部、及び1Nの酢酸0.0075重量部を加えて、50℃で2時間攪拌し、シランカップリング剤の加水分解を行った。この加水分解済みシランカップリング剤に、未修飾のコロイド状シリカ微粒子(平均粒径12nm、分散媒:プロピレングリコールモノメチルエーテル)100重量部(不揮発分30重量部)を加えて、80℃で2時間攪拌し、アルコール、水の揮発成分を留去し、表面修飾されたコロイド状シリカ微粒子を得た。
【0095】
未修飾のコロイド状シリカ微粒子(不揮発分として)の重量(Ws )に対するシランカップリング剤の重量(Wc )の割合は、
(Wc /Ws )×100=5%であった。
【0096】
得られた表面修飾されたコロイド状シリカ微粒子に、さらにジペンタエリスリトールヘキサアクリレート62.5重量部、前記第4級アンモニウム化合物(A1)6重量部、及び非反応性希釈溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテル30重量部を加えて、常温で攪拌して、コーティング材料(a)を作製した。
【0097】
[コロイド状シリカ微粒子の表面修飾及びコーティング材料(b)〜(d)の作製]
シランカップリング剤としての3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、純水、及び1Nの酢酸の各量を、表1に示すように変更した以外は、上記と同様にして各表面修飾されたコロイド状シリカ微粒子を得た。
得られた各表面修飾されたコロイド状シリカ微粒子に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、前記第4級アンモニウム化合物(A1)、及び非反応性希釈溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルを表1に示す量で加えた以外は、上記と同様にして、各コーティング材料(b)〜(d)を得た。
【0098】
[コロイド状シリカ微粒子の表面修飾及びコーティング材料(e)〜(f)の作製]
シランカップリング剤として3−メルカプトプロピルトリメトキシシランを用いた。3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、純水、及び1Nの酢酸を、表1に示す量で用いた以外は、上記と同様にして各表面修飾されたコロイド状シリカ微粒子を得た。
得られた各表面修飾されたコロイド状シリカ微粒子に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、前記第4級アンモニウム化合物(A1)、及び非反応性希釈溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルを表1に示す量で加えた以外は、上記と同様にして、各コーティング材料(e)〜(f)を得た。
【0099】
[コーティング材料(g)の作製(比較例)]
表面修飾処理されていないコロイド状シリカ微粒子(平均粒子径:12nm、分散媒:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、不揮発分:30重量%)に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、及び非反応性希釈溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルを表1に示す量で加えた以外は、上記と同様にして、コーティング材料(g)を得た。前記第4級アンモニウム化合物(A1)は用いなかった。
【0100】
[コーティング材料(h)の作製(比較例)]
表面修飾処理されていないコロイド状シリカ微粒子(平均粒子径:12nm、分散媒:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、不揮発分:30重量%)に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、前記第4級アンモニウム化合物(A1)、及び非反応性希釈溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルを表1に示す量で加えた以外は、上記と同様にして、コーティング材料(h)を得た。
【0101】
各コーティング材料(a)〜(h)を用いて、次のようにしてディスクサンプルNo.1〜8をそれぞれ作製した。
【0102】
[ディスクサンプルNo.1の作製]
図2に示す層構成の光記録ディスクサンプルNo.1を次のように作製した。
情報記録のためにグルーブが形成されたディスク状支持基体(20)(ポリカーボネート製、直径120mm、厚さ1.1mm)のグルーブが形成された面上に、Al98Pd1 Cu1 (原子比)からなる厚さ100nmの反射層(3) をスパッタリング法により形成した。前記グルーブの深さは、波長λ=405nmにおける光路長で表してλ/6とした。グルーブ記録方式における記録トラックピッチは、0.32μmとした。
【0103】
次いで、反射層(3) 表面に、Al2 3 ターゲットを用いてスパッタリング法により、厚さ20nmの第2誘電体層(52)を形成した。第2誘電体層(52)表面に、相変化材料からなる合金ターゲットを用いてスパッタリング法により、厚さ12nmの記録層(4) を形成した。記録層(4) の組成(原子比)は、Sb74Te18(Ge7 In1 )とした。記録層(4) 表面に、ZnS(80モル%)−SiO2 (20モル%)ターゲットを用いてスパッタリング法により、厚さ130nmの第1誘電体層(51)を形成した。
【0104】
次いで、第1誘電体層(51)表面に、下記組成のラジカル重合性の紫外線硬化性材料をスピンコート法により塗布して、照射強度160W/cm、ランプとの距離11cm、積算光量3J/cm2 にて紫外線を照射して、硬化後の厚さ98μmとなるように光透過層(7) を形成した。
【0105】
(光透過層:紫外線硬化性材料の組成)
ウレタンアクリレートオリゴマー 50重量部
(三菱レイヨン(株)製、ダイヤビームUK6035)
イソシアヌル酸EO変性トリアクリレート 10重量部
(東亜合成(株)製、アロニックスM315)
イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート 5重量部
(東亜合成(株)製、アロニックスM215)
テトラヒドロフルフリルアクリレート 25重量部
光重合開始剤(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン) 3重量部
【0106】
次いで、上記のように得られたコーティング材料(a)を光透過層(7) 上にスピンコート法により、硬化後の厚さ2μmの保護コート層(8) が得られるように塗布して、コーティング材料被膜を形成した。
【0107】
さらに、前記コーティング材料被膜上に、下記組成の防汚剤をスピンコート法により塗布して、大気中で60℃で3分間加熱することにより被膜内部の希釈溶剤を除去し、その後、窒素雰囲気下で電子線(照射線量:40kGy)を照射して、コーティング材料と防汚剤の両者を硬化した。硬化後の保護コート層(8) と防汚処理層を合わせた厚さは約2μmであった。
【0108】
(防汚剤の組成)
パーフルオロポリエーテルジアクリレート 1重量部
Fomblin Z DOL diacrylate[Fomblin Z DOL (アウジモント社製)の末端ヒドロキシル基をアクリレート変性したもの]
3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート 3重量部
フッ素系溶剤(住友スリーエム(株)、フロリナートFC−77) 1600重量部
【0109】
以上のようにしてディスクサンプルNo.1を作製した。
【0110】
[ディスクサンプルNo.2〜6の作製]
表1に示すように各コーティング材料(b)〜(f)を用いた以外は、ディスクサンプルNo.1におけるのと全く同様にしてディスクサンプルNo.2〜6をそれぞれ作製した。
【0111】
[ディスクサンプルNo.7〜8の作製(比較例)]
表1に示すように各コーティング材料(g)及び(h)を用いた以外は、ディスクサンプルNo.1におけるのと全く同様にしてディスクサンプルNo.7及び8をそれぞれ作製した。
【0112】
[ディスクサンプルの評価]
作製した各ディスクサンプルについて、以下に示す性能試験を行った。また、用いた各保護コート層用コーティング材料の安定性についても評価した。
【0113】
(保護コート層用コーティング材料の安定性の測定)
各コーティング材料(a)〜(h)を上述の手順で作製した後、室温で暗室中に24時間放置した。作製直後と24時間放置後のコーティング材料の状態をそれぞれ目視で確認した。作製直後と24時間放置後の状態に、特に変化が見られない場合を「良」とし、ゲル化した場合は「不良」とした。結果を表1に示す。
【0114】
(帯電半減期の測定)
JIS L1094に準拠して、各ディスクサンプルの保護コート表面における半減期の測定を行った。具体的には、各ディスクサンプルから35mm×35mmの大きさの試験片を切り出し、温度25℃、相対湿度10%に設定された試験室において、得られた試験片を測定器にセットし、120分の測定時間まで測定を行った以外は上記測定方法に従った。測定結果は、試験片の帯電圧が1/2に減衰するまでの時間、すなわち半減期(分)として得られ、この時間が短いほど、帯電防止性能に優れている。結果を表1に示す。
【0115】
(硬度の評価)
硬度の評価として、各ディスクサンプルの保護コート表面の耐擦傷性を調べた。各ディスクサンプルの保護コート表面を、スチールウールNo.0000を用いて1cm2 当たり0.98Nの荷重をかけて100往復擦った。その後に、保護コート表面の傷の有無を目視で確認した。いずれのディスクサンプルNo.1〜8にも、傷は全く観察されなかった。
【0116】
(防汚性の評価)
防汚性の評価として、各ディスクサンプルの保護コート表面の純水の接触角を測定した。協和界面科学(株)製の接触角測定計 FACE CONTACT-ANGLEMETERを用いて、温度20℃、相対湿度60%にて、静止接触角を測定した。いずれのディスクサンプルNo.1〜8についても、103度の接触角を得た。
【0117】
【表1】

【0118】
表1から、本発明に合致する各ディスクサンプルNo.1〜6はいずれも、保護コート表面の硬度及び防汚性能を維持しつつ、帯電防止性能に優れていた。主として親水的作用による帯電防止性と、主として疎水的作用による防汚性の両立が達成された。また、用いられた保護コート層用の各コーティング材料の安定性も良好であった。
【0119】
これに対して、比較のディスクサンプルNo.7では、第4級アンモニウム化合物を用いていないので、コーティング材料の安定性は良好であったが、帯電防止性に劣っていた。比較のディスクサンプルNo.8では、コーティング材料において表面修飾処理されていないコロイド状シリカ微粒子を用いたために、第4級アンモニウム化合物が安定に存在することができなかった。
【0120】
上記実施例では、相変化型光ディスクへの保護コート層の付与を示した。しかしながら、本発明は、記録層が相変化型の光ディスクのみならず、再生専用型光ディスクや、追記型光ディスクにも適用される。そのため、前述の実施例はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変更は、すべて本発明の範囲内のものである。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】本発明の光ディスクの層構成の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の光ディスクの層構成の一例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0122】
(20):支持基体
(3) :反射層
(52):第2誘電体層
(4) :記録層
(51):第1誘電体層
(7) :光透過層
(8) :保護コート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性エネルギー線重合性基及び第4級アンモニウム塩基を有する第4級アンモニウム化合物(A)と、分子内に3つ以上の活性エネルギー線重合性基を有する硬化性化合物(B)と、表面修飾されたシリカ微粒子(C)とを少なくとも含む光情報媒体用コーティング剤組成物。
【請求項2】
表面修飾処理されたシリカ微粒子(C)は、(メタ)アクリロイル基又はメルカプト基を有するシランカップリング剤で表面修飾されたものである、請求項1に記載のコーティング剤組成物。
【請求項3】
表面修飾処理されたシリカ微粒子(C)は、未修飾のシリカ微粒子100重量部に対して、前記シランカップリング剤を5〜150重量部の量で反応させて得られたものである、請求項1又は2に記載のコーティング剤組成物。
【請求項4】
支持基体上に、少なくとも記録層又は反射層を含む、1層又は複数層から構成される膜体を有する光情報媒体であって、前記支持基体側表面及び前記膜体側表面のうちの少なくとも一方の表面が、請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載のコーティング剤組成物の硬化物を含む保護コート層によって形成されている光情報媒体。
【請求項5】
前記保護コート層は、さらにその表面に、活性エネルギー線重合性基を有するシリコーン化合物、又は活性エネルギー線重合性基を有するフッ素含有化合物の硬化物を有する、請求項4に記載の光情報媒体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−216134(P2006−216134A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−26465(P2005−26465)
【出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】