説明

コーティング剤

【課題】コーティング剤の貯蔵中ないし塗膜形成後における撥水効果の低下を抑制し、優れた撥水性能を安定して発揮することができるコーティング剤を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主単量体成分とするアクリル樹脂、及び環状シロキサン化合物を主単量体成分とするシリコーン樹脂が99:1〜30:70の重量比率でエマルション粒子内に混在する合成樹脂エマルション(A)、ならびに、平均粒子径0.5〜500μm、吸油量60ml/100g以下の粉粒体(B)を必須成分とし、当該粉粒体(B)の顔料容積濃度が10〜90%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なコーティング剤に関するものである。なお前記コーティング剤には、水性塗料組成物、水性インク組成物などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物、土木構造物等の表面に防水性、汚染防止性等を付与するため材料として撥水性塗料が知られている。撥水性塗料の一例としては、フッ素樹脂を含有するもの等が挙げられ、これらから形成される塗膜表面は、水に対する接触角が高く、水との接触面積を小さくすることで水をはじき、防水性、汚染防止性等を付与することができる。
【0003】
近年、塗料分野において溶剤系から水性系への要望が高まりつつあるなか、撥水性塗料も例外ではなく水性化の検討が種々なされている。
【0004】
例えば、特許文献1では、樹脂水性液に、特定の水性撥水剤を配合してなる水性塗料が記載されている。しかしながら、特許文献1のような水性塗料では、ある程度水をはじくことはできるが、水滴が塗膜表面に残留してしまう場合がある。このような水滴がそのまま気化すると、しみ等の原因となるおそれがある。また、特許文献1の水性塗料では、塗料貯蔵中に撥水効果が失活してしまい、使用時に所望の撥水性能が発揮できない場合がある。さらに、塗膜形成後において、経時的に撥水効果が損なわれる場合もある。
【0005】
【特許文献1】特開2003−301139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑みなされたものであり、塗料などのコーティング剤の貯蔵中ないし塗膜形成後における撥水効果の低下を抑制し、優れた撥水性能を安定して発揮することができるコーティング剤を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、特定のアクリル樹脂とシリコーン樹脂がエマルション粒子内に混在する合成樹脂エマルションと、特定の平均粒子径と吸油量を具備する粉粒体を必須成分とし、当該粉粒体の顔料容積濃度を特定範囲に設定したコーティング剤に想到し、本発明を完成させるに到った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
【0009】
1.(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主単量体成分とするアクリル樹脂、及び環状シロキサン化合物を主単量体成分とするシリコーン樹脂が99:1〜30:70の重量比率でエマルション粒子内に混在する合成樹脂エマルション(A)、ならびに、
平均粒子径0.5〜500μm、吸油量60ml/100g以下の粉粒体(B)を必須成分とし、当該粉粒体(B)の顔料容積濃度が10〜90%であることを特徴とするコーティング剤。
【0010】
2.少なくとも前記エマルション粒子表層に前記シリコーン樹脂が存在する上記のコーティング剤。
【0011】
3.前記エマルション粒子が、前記アクリル樹脂、及び前記シリコーン樹脂が混在する外層と、前記アクリル樹脂を含む内層を有する上記いずれかに記載のコーティング剤。
【0012】
4.(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主単量体成分とするアクリル樹脂、及び環状シロキサン化合物を主単量体成分とするシリコーン樹脂が99:1〜30:70の重量比率でエマルション粒子内に混在する合成樹脂エマルションであって、
(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主単量体成分とするアクリル樹脂、及び環状シロキサン化合物を主単量体成分とするシリコーン樹脂が混在する外層と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主単量体成分とするアクリル樹脂を含む内層を有し、前記外層におけるアクリル樹脂のガラス転移温度よりも前記内層におけるアクリル樹脂のガラス転移温度が低く設定された多層構造型合成樹脂エマルション(A−1)、ならびに、
平均粒子径0.5〜500μm、吸油量60ml/100g以下の粉粒体(B)を必須成分とし、当該粉粒体(B)の顔料容積濃度が10〜90%であることを特徴とする上記いずれかに記載のコーティング剤。
【0013】
5.前記粉粒体(B)がリン片状のものを含む上記いずれかに記載のコーティング剤。
【0014】
6.コーティング剤全体の顔料容積濃度が40〜90%であることを特徴とする上記いずれかに記載のコーティング剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明のコーティング剤は、長期貯蔵後であっても優れた撥水性を示す。さらに、形成塗膜においては初期の撥水効果を保持し続けることができる。したがって、本発明のコーティング剤によれば、優れた撥水性能を安定して得ることができ、防水性、汚染防止性等においても有利な効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0017】
本発明のコーティング剤における合成樹脂エマルション(A)(以下「(A)成分」という)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するアクリル樹脂、及び環状シロキサン化合物に由来するシリコーン樹脂がエマルション粒子内に混在するものである。(A)成分におけるアクリル樹脂とシリコーン樹脂の形態は特に限定されず、均一に混ざり合った形態であってもよいが、海島構造等により相互に分離した形態が好適である。
【0018】
なお、本発明における(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するアクリル樹脂とは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主単量体成分(アクリル樹脂を構成する全モノマーに対し30重量%以上、好ましくは40重量%以上、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上)とするアクリル樹脂をいう。
【0019】
また、本発明における環状シロキサン化合物に由来するシリコーン樹脂とは、環状シロキサン化合物を主単量体成分(シリコーン樹脂を構成する全モノマーに対し50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上)とするシリコーン樹脂をいう。
【0020】
(A)成分におけるアクリル樹脂とシリコーン樹脂の重量比率は、通常99:1〜30:70、好ましくは97:3〜40:60、より好ましくは95:5〜50:50である。このような比率で両成分が混在することにより、撥水性、造膜性、ひび割れ防止性等の各物性を兼備するコーティング剤を得ることができる。
【0021】
このような(A)成分は、本発明のコーティング剤の形成塗膜に優れた撥水性を付与するものである。加えて、本発明では結合材としてこのような(A)成分を使用することにより、コーティング剤の貯蔵中における撥水効果の失活を抑制し、さらには塗膜形成後において初期の撥水効果を長期にわたり保持することができる。
【0022】
一般に、コーティング剤(水性塗料などを含む)においては界面活性剤等の両親媒成分が少なからず含まれており、コーティング剤中にシリコーン樹脂等の撥水剤が配合されている場合、このような両親媒成分が撥水剤本来の撥水効果を阻害する傾向がある。また、結合材とは別に撥水剤を配合したコーティング剤では、その形成塗膜において経時的に撥水剤が脱離してしまい、撥水効果が損なわれるおそれがある。
【0023】
これに対し、本発明では上述の如き(A)成分を結合材として使用することで、コーティング剤(水性塗料などを含む)貯蔵中ないし塗膜形成後における撥水性能の低下を十分に抑制することができる。
【0024】
(A)成分を構成するアクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とする重合体であり、必要に応じその他のモノマーを共重合したものである。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。このような(メタ)アクリル酸アルキルエステルの使用量は、(A)成分を構成する全モノマーに対し、通常30重量%以上、好ましくは40〜99.9重量%、より好ましくは50〜99.5重量%、さらに好ましくは70〜99.5重量%である。
【0025】
その他のモノマーとしては、例えばカルボキシル基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、ピリジン系モノマー、水酸基含有モノマー、ニトリル基含有モノマー、アミド基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、カルボニル基含有モノマー、アルコキシシリル基含有モノマー、芳香族モノマー等が挙げられる。これらモノマーの使用量は、(A)成分を構成する全モノマーに対し、通常0.1〜60重量%、好ましくは0.5〜50重量%、より好ましくは0.5〜30重量%である。
【0026】
このうち、カルボキシル基含有モノマーを共重合して、カルボキシル基含有アクリル樹脂とした場合には、(A)成分の安定性を高めることができ、さらにカルボキシル基と反応可能な化合物を別途添加することにより、塗膜の諸物性向上を図ることができる。カルボキシル基含有モノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸またはそのモノアルキルエステル、イタコン酸またはそのモノアルキルエステル、フマル酸またはそのモノアルキルエステル等が挙げられる。このうち、特にアクリル酸、メタクリル酸から選ばれる1種以上が好適である。カルボキシル基含有モノマーの使用量は、(A)成分を構成する全モノマーに対し、通常0.1〜40重量%、好ましくは0.5〜20重量%である。
【0027】
(A)成分におけるシリコーン樹脂は、環状シロキサン化合物を重合して得られるものである。環状シロキサン化合物としては、例えばヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等が挙げられる。このような環状シロキサン化合物を重合する際には、直鎖状シロキサン化合物、分岐状シロキサン化合物、アルコキシシラン化合物等を用いることもでき、重合用の触媒を適宜用いることもできる。このうち、アルコキシシラン化合物としては、分子中に1個以上のアルコキシル基を有するシラン化合物が使用でき、例えばテトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン等の他、ビニルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤等が使用できる。環状シロキサン化合物を重合する際、このようなアルコキシシラン化合物を併用することにより、シリコーン樹脂とアクリル樹脂を化学的に結合させることが可能となり、耐水性等の塗膜物性向上の点で有利である。シリコーン樹脂の平均分子量は、通常10000以上、好ましくは50000以上である。
【0028】
本発明における(A)成分としては、上述の如きアクリル樹脂とシリコーン樹脂が混在する合成樹脂エマルションであって、少なくとも前記エマルション粒子表層に前記シリコーン樹脂が存在することが好ましい。また、特に、上述の如きアクリル樹脂とシリコーン樹脂が混在する合成樹脂エマルションであって、アクリル樹脂及びシリコーン樹脂が混在する外層と、アクリル樹脂を含む内層を有し、外層におけるアクリル樹脂のガラス転移温度よりも内層におけるアクリル樹脂のガラス転移温度が低く設定された多層構造型合成樹脂エマルション(A−1)(以下「(A−1)成分」という)が好適である。このような(A−1)成分を使用すれば、撥水性能において一層顕著な効果を得ることができ、さらにひび割れ防止性等の塗膜性能を高めることもできる。外層と内層の重量比率は、通常80:20〜20:80、好ましくは70:30〜30:70である。
【0029】
このような(A−1)成分は、例えば、内層を構成するアクリル樹脂を乳化重合により合成した後、外層を構成するアクリル樹脂及びシリコーン樹脂を乳化重合により合成する方法等によって得ることができる。(A−1)成分においては、内層を構成する樹脂として上述の如きシリコーン樹脂が含まれていてもよい。内層にシリコーン樹脂が含まれることにより、ひび割れ防止性等を高めることができる。
【0030】
ここで、内層を構成するアクリル樹脂のガラス転移温度(以下「Tg」という)は、通常−60〜20℃(好ましくは−50〜10℃)に設定すればよい。外層のTgは、通常20〜100℃(好ましくは30〜90℃)である。各層のアクリル樹脂のTgがこのような範囲内であれば、上述の如き効果を安定して得ることができる。なお、本発明におけるTgは、Foxの計算式により求められる値である。
【0031】
本発明では、(A)成分にカルボキシル基含有アクリル樹脂が含まれる場合、カルボキシル基と反応可能な化合物を別途配合することにより、膨れ防止性、剥れ防止性、耐洗浄性等の効果を高めることができる。さらに、塗膜表面の粘着性が軽減され、耐水性および耐汚染性が高まる。このような化合物としては、例えば、カルボジイミド基、エポキシ基、アジリジン基、オキサゾリン基等から選ばれる1種以上の官能基を有する化合物が挙げられる。このうち、本発明では特にエポキシ基を有する反応性化合物が好適である。
【0032】
エポキシ基を有する反応性化合物としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリヒドロキシアルカンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。この他、エポキシ基含有モノマーの重合体(ホモポリマーまたはコポリマー)からなる水溶性樹脂やエマルションを使用することもできる。このような化合物の混合量は、通常(A)成分の樹脂固形分100重量部に対し0.1〜50重量部、好ましくは0.3〜20重量部である。
【0033】
本発明では、上記(A)成分を結合材として使用するが、(A)成分以外の結合材を(A)成分と併用することもできる。このような結合材としては、例えば、(A)成分以外の合成樹脂エマルションや、各種水溶性樹脂等を使用することができる。これらは架橋反応性を有するものであってもよい。使用可能な樹脂の種類としては、例えば、セルロース、ポリビニルアルコール、酢酸ビニル樹脂、アルキッド樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂等、あるいはこれらの複合系等を挙げることができる。本発明では、(A)成分と、それ以外の結合材を併用することにより、経時的な撥水性能の向上等の効果を得ることもできる。(A)成分と、それ以外の結合材との混合比率は、固形分換算で通常95:5〜20:80(好ましくは90:10〜30:70)程度とすればよい。
【0034】
(A)成分以外の結合材として、架橋反応型合成樹脂エマルションを使用した場合は、さらに耐水性、汚染防止性等の物性を高めることもできる。このような架橋反応型合成樹脂エマルションにおける架橋反応としては、例えば水酸基とイソシアネート基、カルボニル基とヒドラジド基、カルボキシル基と金属イオン、エポキシ基とアミノ基、エポキシ基とカルボキシル基、エポキシ基とヒドラジド基、カルボキシル基とカルボジイミド、カルボキシル基とオキサゾリン、アルコキシシリル基どうし等の組合せが挙げられる。架橋反応型エマルションとしては、ここに例示したような架橋反応をエマルション粒子内で生じるものであってもよいし、エマルション粒子と架橋剤との間で架橋反応を生じるものであってもよい。架橋反応型合成樹脂エマルションを使用する場合、(A)成分と架橋反応型合成樹脂エマルションの混合比率は、固形分換算で通常95:5〜20:80(好ましくは90:10〜30:70)程度とすることが望ましい。本発明では、上述のカルボキシル基と反応可能な化合物と、このような架橋反応型合成樹脂エマルションを併用することもできる。
【0035】
本発明では上述の(A)成分に加え、平均粒子径0.5〜500μm、吸油量60ml/100g以下の粉粒体(B)(以下「(B)成分」という)を必須成分とし、この(B)成分を顔料容積濃度が10〜90%となる範囲内で配合する。本発明では、このように(B)成分を配合することで、形成塗膜の表面に微細な凹凸構造が付与され、塗膜に水滴が接触した際の接触面積を小さくすることができるため、優れた撥水効果が得られる。
【0036】
(B)成分における好適な平均粒子径の範囲は1〜200μm(より好ましくは2〜100μm、さらに好ましくは3〜80μm)である。(B)成分の平均粒子径が上記範囲外である場合は、撥水性能において十分な効果が得られ難くなる。具体的に、(B)成分の平均粒子径が大きすぎる場合は、塗膜表面が粗くなりすぎ、水が塗膜中に浸入するおそれがある。平均粒子径が小さすぎる場合は、撥水性向上に寄与する微細な凹凸構造を形成することが困難となる。なお、(B)成分の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡の観察によるものであり、各粒子の円相当径を直径としたときの粒子径分布(個数基準)を求めることによって得られる値である。
【0037】
(B)成分の吸油量は60ml/100g以下であり、好ましくは40ml/100g以下、より好ましくは20ml/100g以下である。(B)成分の吸油量が上記範囲を超える場合は、(B)成分を分散させるために多量の分散剤が必要となり、撥水効果が阻害されてしまうこととなる。なお、吸油量(ml/100g)とは、JIS K 5101−13−2:2004に規定されている方法によって求められる値であり、粉粒体100gに対する煮アマニ油のmlで表されるものである。
【0038】
本発明における(B)成分としては、上記物性を満たす限り、その材質は特に限定されず各種粉粒体を使用することができる。例えば、重質炭酸カルシウム、カオリン、クレー、陶土、チャイナクレー、タルク、バライト粉、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、シリカ粉、水酸化アルミニウム等が挙げられる。この他、大理石、御影石、蛇紋岩、花崗岩、蛍石、寒水石、長石、石灰石、珪石、珪砂、砕石、雲母、珪質頁岩、及びこれらの粉砕物、陶磁器粉砕物、セラミック粉砕物、ガラス粉砕物、樹脂粉砕物、ゴム粒、プラスチック片、金属粒等や、これらの表面を着色コーティングしたもの等も使用できる。
【0039】
また、本発明では(B)成分として、平均粒子径等が異なる2種以上の粉粒体を併用することもできる。また、前記粉粒体(B)は球状のものでないことが好ましく、粒状のもの、角状のもの、針状のもの、不規則形のもの、リン片状のものなど非球状体を含むことが好ましい。このうち、リン片状のものの具体例としては、たとえば、タルク、マイカ、クレーなどがあげられる。また、前記粉粒体(B)における前記リン片状のものの含有量は10体積%とすることができ、20体積%とすることが好ましく、30体積%とすることがより好ましい。
【0040】
本発明のコーティング剤における(B)成分は、その顔料容積濃度が10〜90%(好ましくは20〜80%、より好ましくは25〜70%)となる範囲内で混合する。特に、滑水性(接触角)の向上を重視する場合には、前記顔料容積濃度が55%以上であることが好ましく、一方、シール性(透水量が低い)の向上や汚染防止を重視する場合には、前記顔料容積濃度が55%未満であることが好ましい。(B)成分の顔料容積濃度が小さすぎる場合は、十分な撥水効果が得られ難くなる。(B)成分の顔料容積濃度が大きすぎる場合は、塗膜にひび割れが発生しやすくなり、防水性、汚染防止性等の物性が不十分となるおそれもある。なお、本発明における(B)成分の顔料容積濃度は、乾燥塗膜中に含まれる(B)成分の容積百分率であり、コーティング剤を構成する結合材及び(B)成分の配合量から計算により求められる値である。
【0041】
本発明では、上述の成分による撥水効果等が著しく損なわれない範囲内であれば、上記(B)成分以外の粉粒体成分、例えば無機系着色顔料、有機系着色顔料等を混合することもできる。このような着色顔料を混合することで、コーティング剤を所望の色相に調色することができ、形成塗膜の撥水性能等を高めることもできる。着色顔料の平均粒子径は、通常0.5μm未満(好ましくは0.4μm以下)である。
【0042】
本発明のコーティング剤におけるコーティング剤全体の顔料容積濃度は40〜90%(好ましくは45〜80%)に設定することが望ましい。特に、滑水性(接触角)の向上を重視する場合には、前記顔料容積濃度が60%以上であることが好ましく、一方、シール性(透水量が低い)の向上や汚染防止を重視する場合には、前記顔料容積濃度が60%未満であることが好ましい。コーティング剤全体の顔料容積濃度をこのような範囲内に設定することにより、本発明の効果を安定して得ることができる。なお、コーティング剤全体の顔料容積濃度は、乾燥塗膜中に含まれる粉粒体全体の容積百分率であり、コーティング剤(塗料を含む)を構成する結合材及び粉粒体の配合量から計算により求められる値である。
【0043】
この他、本発明のコーティング剤においては、本発明の効果を著しく損なわない限り、通常塗料に使用可能な成分を含むこともできる。このような成分としては、例えば、増粘剤、造膜助剤、レベリング剤、湿潤剤、可塑剤、凍結防止剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、吸着剤、骨材、繊維、撥水剤、架橋剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、触媒等が挙げられる。本発明のコーティング剤は、以上のような成分を常法により均一に混合することで製造することができる。
【0044】
本発明のコーティング剤は、主に建築物や土木構造物等の塗装などのコーティングに使用することができるものである。適用可能な基材としては、例えば、石膏ボード、合板、コンクリート、モルタル、磁器タイル、繊維混入セメント板、セメント珪酸カルシウム板、スラグセメントパーライト板、ALC板、サイディング板、押出成形板、鋼板、プラスチック板等が挙げられる。これら基材の表面は、何らかの表面処理(例えば、シーラー、サーフェーサー、フィラー、パテ等)が施されたものでもよく、既に塗膜が形成されたもの等であってもよい。
【0045】
本発明では、基材の表面にシーラー、サーフェーサー等の下塗材を塗付しておくことにより、基材に対する本発明のコーティング剤の密着性を高めることができる。さらに、外部から基材への水等の浸入等を確実に抑えることができる。本発明では、このような下塗材を用いることで、本発明のコーティング剤の撥水性能を長期にわたり安定して発揮させ、防水性等においても安定した効果を得ることができる。
【0046】
下塗材における結合材としては、水溶性樹脂、水分散性樹脂(樹脂エマルション)、溶剤可溶形樹脂、無溶剤形樹脂、非水分散形樹脂等の各種結合材、あるいはこれらを複合化した結合材等を使用することができる。本発明では、水溶性樹脂及び/または水分散性樹脂が好適である。これらは架橋反応性を有するものであってもよい。また、結合材の形態は特に限定されず、1液型、2液型のいずれであってもよい。使用可能な樹脂の種類としては、例えば、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂等、あるいはこれらの複合系等を挙げることができる。本発明では、下塗材の結合材として、上述の(A)成分、さらには(A−1)成分等を用いることもできる。
【0047】
下塗材の顔料容積濃度は、本発明のコーティング剤の顔料容積濃度よりも低く設定しておくことが望ましい。具体的に下塗材の顔料容積濃度は、通常60%以下(好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下)程度に設定しておくことが望ましい。下塗材の顔料容積濃度がこのような範囲内であれば、密着性、防水性等において有利な効果を得ることができる。
【0048】
下塗材の塗装方法としては、公知の方法を採用することができ、例えば、スプレー塗り、ローラー塗り、刷毛塗り等が可能である。下塗材の塗付量は、シーラーの場合は通常0.05〜0.3kg/m程度、サーフェーサーの場合は通常0.3〜2kg/m程度である。下塗材としては、1種のみを用いて塗付すればよいが、2種以上を塗り重ねることもできる。
【0049】
本発明では、上述の如き基材に本発明のコーティング剤を塗装することによって、優れた撥水性能を示す塗膜が得られる。具体的には、水に対する接触角が110°以上(好ましくは120°以上、より好ましくは130°以上、さらに好ましくは140°以上)の塗膜を形成することができる。なお、ここに言う接触角は、接触角計で測定される静的接触角の値である。
【0050】
本発明のコーティング剤の塗装方法としては、公知の方法を採用することができ、例えば、スプレー塗り、ローラー塗り、刷毛塗り等が可能である。乾式建材を工場内で塗装する場合は、ロールコーター、フローコーター等によって塗装することも可能である。本発明のコーティング剤は基材に対する濡れ性が良好であるため、塗装時にハジキ等の欠陥が生じにくいという利点もある。
【0051】
本発明のコーティング剤を塗装する際の塗付量は、コーティング剤(塗料を含む)の種類や用途により適宜選択すればよいが、通常は0.05〜0.5kg/m程度である。本発明のコーティング剤は、複数回重ね塗りすることもできる。また、塗付時には、水等で希釈することによって、塗料などのコーティング剤の粘性を適宜調整することもできる。希釈割合は、通常0〜20重量%程度である。本発明のコーティング剤を塗装した後の乾燥は通常、常温で行えばよいが、加熱することも可能である。
【0052】
本発明のコーティング剤の塗装においては、塗装器具の種類とその使用方法を適宜選定することで、種々の凹凸模様を形成することができる。この場合の塗装器具としては、例えば、多孔質ローラーや、ローラー表面に種々の凹凸形状を有するデザインローラー等が使用できる。また、塗料などのコーティング剤が乾燥するまでに塗面をデザインローラー、刷毛、櫛、へら等で処理することで、凹凸模様を形成させることもできる。一般に、塗膜に凹凸模様を付与した場合は、塗膜の凹部に汚れが溜まりやすくなる傾向があるが、本発明のコーティング剤によって形成された塗膜では、このような凹部の汚れも容易に除去することができる。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0054】
(コーティング剤(塗料)の製造)
表1に示す配合に従い、各原料を常法により混合・攪拌することによってコーティング剤(塗料)を製造した。原料としては下記のものを使用した。
【0055】
・樹脂1:多層構造型合成樹脂エマルション
外層;アクリル樹脂(Tg45℃、構成成分;t−ブチルメタクリレート,n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート,メタクリル酸;カルボキシル基含有モノマー5重量%)、シリコーン樹脂(構成成分;ヘキサメチルシクロトリシロキサン,オクタメチルシクロテトラシロキサン,デカメチルシクロペンタシロキサン)、外層アクリル樹脂とシリコーン樹脂との重量比80:20、
内層;アクリル樹脂(Tg−50℃、構成成分;n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート)、
外層と内層の重量比45:55、固形分50重量%。
【0056】
・樹脂2:多層構造型合成樹脂エマルション
外層;アクリル樹脂(Tg45℃、構成成分;t−ブチルメタクリレート,n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート,メタクリル酸;カルボキシル基含有モノマー5重量%)、シリコーン樹脂(構成成分;ヘキサメチルシクロトリシロキサン,オクタメチルシクロテトラシロキサン,デカメチルシクロペンタシロキサン)、外層アクリル樹脂と外層シリコーン樹脂との重量比80:20、
内層;アクリル樹脂(Tg−50℃、構成成分;n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート)、シリコーン樹脂(構成成分;ヘキサメチルシクロトリシロキサン,オクタメチルシクロテトラシロキサン,デカメチルシクロペンタシロキサン)、内層アクリル樹脂と内層シリコーン樹脂との重量比80:20、
外層と内層の重量比45:55、固形分50重量%。
【0057】
・樹脂3:多層構造型合成樹脂エマルション
外層;アクリル樹脂(Tg45℃、構成成分;t−ブチルメタクリレート,n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート,メタクリル酸;カルボキシル基含有モノマー5重量%)、シリコーン樹脂(構成成分;ヘキサメチルシクロトリシロキサン,オクタメチルシクロテトラシロキサン,デカメチルシクロペンタシロキサン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン)、外層アクリル樹脂と外層シリコーン樹脂との重量比92:8、
内層;アクリル樹脂(Tg−50℃、構成成分;n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート)、シリコーン樹脂(構成成分;ヘキサメチルシクロトリシロキサン,オクタメチルシクロテトラシロキサン,デカメチルシクロペンタシロキサン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン)、内層アクリル樹脂と内層シリコーン樹脂との重量比92:8、
外層と内層の重量比45:55、固形分50重量%。
【0058】
・樹脂4:多層構造型合成樹脂エマルション
外層;アクリル樹脂(Tg45℃、構成成分;t−ブチルメタクリレート,n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート,メタクリル酸;カルボキシル基含有モノマー5重量%)、シリコーン樹脂(構成成分;ヘキサメチルシクロトリシロキサン,オクタメチルシクロテトラシロキサン,デカメチルシクロペンタシロキサン)、外層アクリル樹脂と外層シリコーン樹脂との重量比55:45、
内層;アクリル樹脂(Tg−50℃、構成成分;n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート)、シリコーン樹脂(構成成分;ヘキサメチルシクロトリシロキサン,オクタメチルシクロテトラシロキサン,デカメチルシクロペンタシロキサン)、内層アクリル樹脂と内層シリコーン樹脂との重量比55:45、
外層と内層の重量比45:55、固形分50重量%。
【0059】
・樹脂5:多層構造型合成樹脂エマルション
外層;アクリル樹脂(Tg45℃、構成成分;t−ブチルメタクリレート,n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート,メタクリル酸;カルボキシル基含有モノマー5重量%)、
内層;シリコーン樹脂(構成成分;ヘキサメチルシクロトリシロキサン,オクタメチルシクロテトラシロキサン,デカメチルシクロペンタシロキサン)、
外層と内層の重量比70:30、固形分50重量%。
【0060】
・樹脂6:多層構造型合成樹脂エマルション
外層;アクリル樹脂(Tg45℃、構成成分;t−ブチルメタクリレート,n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート,メタクリル酸;カルボキシル基含有モノマー5重量%)、
内層;アクリル樹脂(Tg−50℃、構成成分;n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート)、
外層と内層の重量比50:50、固形分50重量%。
【0061】
・樹脂7:アクリル樹脂エマルション(Tg12℃、構成成分;t−ブチルメタクリレート,n−ブチルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート,メタクリル酸;固形分50重量%)。
【0062】
・樹脂8:架橋反応型アクリル樹脂エマルション(Tg20℃、構成成分;メチルメタクリレート、スチレン、2−エチルヘキシルアクリレート、ダイアセトンアクリルアミド、アクリル酸、架橋剤;アジピン酸ジヒドラジド、固形分50重量%)。
【0063】
・架橋剤:エポキシ基含有化合物(ポリヒドロキシアルカンポリグリシジルエーテル)
・粉粒体1:シリカ粉(平均粒子径18μm、吸油量10ml/100g、比重2.7)
・粉粒体2:シリカ粉(平均粒子径4μm、吸油量10ml/100g、比重2.7)
・粉粒体3:シリカ粉(平均粒子径72μm、吸油量10ml/100g、比重2.7)
・粉粒体4:タルク(平均粒子径12μm、吸油量35ml/100g、比重2.7)
・粉粒体5:珪藻土(平均粒子径9μm、吸油量170ml/100g、比重2.3)
・着色顔料1:酸化チタン(平均粒子径0.2μm、吸油量13ml/100g、比重
4.2)
・着色顔料2:ファストイエロー10G(平均粒子径0.2μm、吸油量40ml/1
00g、比重1.6)
・撥水剤:ジメチルシロキサン化合物分散液、固形分50重量%)
・造膜助剤:2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート
・分散剤:ポリカルボン酸系分散剤(固形分30重量%)
・増粘剤:ポリウレタン系増粘剤(固形分30重量%)
・消泡剤:シリコン系消泡剤(固形分50重量%)。
【0064】
(試験例1〜18)
試験例1〜18については、以下に示す方法にて試験を行った。
【0065】
(1)接触角測定
150×70×0.8mmのアルミニウム板に、エポキシ樹脂系プライマー(顔料容積濃度0%。以下同様)を塗付量0.1kg/mでスプレー塗装し、温度23℃・相対湿度50%下(以下、標準状態)で8時間乾燥した後、上記方法にて得られた水性塗料(製造翌日品)を水で10%希釈して塗付量0.2kg/mでスプレー塗装し、標準状態で14日間乾燥したものを試験体とした。この試験体の塗膜表面に、0.2ccの脱イオン水を滴下し、滴下直後の接触角を協和界面科学株式会社製CA−A型接触角測定装置にて測定した。
【0066】
また、上記方法にて得られた水性塗料を容器に密封し、50℃恒温器に7日間貯蔵した後に、同様の方法で試験体を作製し接触角を測定した。
【0067】
(2)滑水性試験
150×70×0.8mmのアルミニウム板に、エポキシ樹脂系プライマーを塗付量0.1kg/mでスプレー塗装し、標準状態で8時間乾燥した後、上記方法にて得られた水性塗料(製造翌日品)を水で10%希釈して塗付量0.2kg/mでスプレー塗装し、標準状態で14日間乾燥したものを試験体とした。この試験体を水平面に対し15度傾け、試験体の塗膜表面に脱イオン水を連続滴下したときの水滴の滑落状態及び滴下後の水滴残痕有無を目視にて観察した。評価基準は、水滴が球状に滑落し水滴痕が残らなかったものを「◎」、水滴が球状に滑落し水滴痕がほとんど残らなかったものを「○」、水滴が球状に滑落したものの水滴痕が残ったものを「△」、水滴が球状に滑落せず水滴痕が残ったものを「×」とした。
【0068】
また、上記方法にて得られた水性塗料を容器に密封し、50℃恒温器に7日間貯蔵した後に、同様の方法で試験を行った。
【0069】
(3)塗装性試験
900×900×3mmのスレート板に、エポキシ樹脂系プライマーを塗付量0.1kg/mでスプレー塗装し、標準状態で8時間乾燥した後、各水性塗料(製造翌日品)を水で10%希釈して塗付量0.2kg/mでスプレー塗装したときの表面状態を確認した。評価基準は、はじきが生じなかったものを「○」、わずかにはじきが生じたものを「△」、明らかにはじきが生じたものを「×」した。
【0070】
(4)耐水性試験
150×70×3mmのスレート板に、エポキシ樹脂系プライマーを塗付量0.1kg/mでスプレー塗装し、標準状態で8時間乾燥した後、各水性塗料(製造翌日品)を水で10%希釈して塗付量0.2kg/mでスプレー塗装し、14日間養生したものを試験体とした。この試験体を50℃の温水に24時間浸漬した後、JIS K 5600−5−6に準じた碁盤目テープ法にて密着性を評価した。評価基準は、欠損部面積が5%未満のものを「◎」、欠損部面積が5%以上15%未満のものを「○」、欠損部面積が15%以上35%未満のものを「△」、欠損部面積が35%以上のものを「×」とした。
【0071】
(5)耐湿潤冷熱繰返し性試験
150×70×3mmのスレート板に、エポキシ樹脂系プライマーを塗付量0.1kg/mでスプレー塗装し、標準状態で8時間乾燥した後、各水性塗料(製造翌日品)を水で10%希釈して塗付量0.2kg/mでスプレー塗装し、14日間養生したものを試験体とした。この試験体を23℃の水中に18時間浸した後、直ちに−20℃に保った恒温槽にて3時間冷却し、次に50℃に保った別の恒温槽で3時間加温した。この操作を10回繰り返した後、標準状態に約1時間置いて、塗膜表面の状態を目視にて観察した。評価基準は、異常発生(割れ・膨れ・剥れ)の程度を確認することにより行い、異常が全く発生しなかったものを「◎」、異常がほとんど発生しなかったものを「○」、異常が部分的に発生したものを「△」、異常が著しく発生したものを「×」とした。
【0072】
(6)撥水持続性試験
150×70×0.8mmのアルミニウム板に、エポキシ樹脂系プライマーを塗付量0.1kg/mでスプレー塗装し、標準状態で8時間乾燥した後、各水性塗料(製造翌日品)を水で10%希釈して塗付量0.2kg/mでスプレー塗装し、標準状態で14日間乾燥したものを試験体とした。この試験体の塗膜表面に、0.2ccの脱イオン水を滴下し、滴下直後の接触角を協和界面科学株式会社製CA−A型接触角測定装置にて測定した。
【0073】
次いで、試験体を23℃の水中に3時間浸し、標準状態で1時間乾燥後、同様に接触角を測定した。この試験では、水浸漬後の接触角が、初期接触角に対しどの程度低下したかを確認することによって評価した。評価基準は、水浸漬後の接触角の低下が5度未満であったものを「○」、5度以上10度未満であったものを「△」、10度以上であったものを「×」とした。
【0074】
(7)汚染防止性試験
(7−1)汚染防止性試験1
150×70×3mmのスレート板に、エポキシ樹脂系プライマーを塗付量0.1kg/mでスプレー塗装し、標準状態で8時間乾燥した後、各水性塗料(製造翌日品)を水で10%希釈して塗付量0.2kg/mでスプレー塗装し、14日間養生したものを試験体とした。この試験体を水平面に対し15度傾け、試験体の塗膜表面にスポイドを用いて市販の醤油を2cc滴下し、15分放置後、塗膜表面に水を流した。このときの塗膜表面の状態を目視にて確認した。評価基準は、汚れが認められないものを「◎」、著しく汚れが認められるものを「×」とする4段階(◎>○>△>×)で行った。
【0075】
(7−2)汚染防止性試験2
上記汚染防止性試験1と同様の方法で試験体を用意し、この試験体を水平面に対し15度傾け、試験体の塗膜表面にスポイドを用いて、食用色素(赤色102号)の0.01%水溶液を2cc滴下し、15分放置後、塗膜表面に水を流した。このときの塗膜表面の状態を、上記汚染防止性試験1と同様の基準で評価した。
【0076】
(7−3)汚染防止性試験3
上記汚染防止性試験1と同様の方法で試験体を用意し、この試験体を水平面に対し15度傾け、試験体の塗膜表面にスポイドを用いて市販の植物油を2cc滴下し、15分放置後、残存した植物油を乾いたガーゼで除去し、次いで中性洗剤を染み込ませたガーゼで塗膜表面を拭いた。このときの塗膜表面の状態を、上記汚染防止性試験1と同様の基準で評価した。
【0077】
(7−4)汚染防止性試験4
上記汚染防止性試験1と同様の方法で試験体を用意し、試験体の塗膜表面に黒色ゴムを擦り付けた後、水拭きを行った。このときの塗膜表面の状態を、上記汚染防止性試験1と同様の基準で評価した。
【0078】
(8)透水試験
400×200×6mmのスレート板に、エポキシ樹脂系プライマーを塗付量0.1kg/mでスプレー塗装し、標準状態で8時間乾燥した後、各水性塗料(製造翌日品)を水で10%希釈して塗付量0.2kg/mでスプレー塗装し、14日間養生したものを試験体とした。得られた試験体の透水量を、JIS A 6909 7.13「透水試験B法」の手順に従って測定した。評価基準は、透水量が0.2ml未満を「◎」、0.2ml以上0.5ml未満を「○」、0.5ml以上1ml未満を「△」、1ml以上を「×」とした。
【0079】
(9)促進耐候性試験
150×70×0.8mmのアルミニウム板に、エポキシ樹脂系プライマーを塗付量0.1kg/mでスプレー塗装し、標準状態で8時間乾燥した後、各水性塗料(製造翌日品)を水で10%希釈して塗付量0.2kg/mでスプレー塗装し、標準状態で14日間乾燥したものを試験体とした。
【0080】
この試験体について、促進耐候性試験機(「メタルウェザーメーター」、ダイプラ・ウィンテス株式会社製)で320時間曝露を行い、曝露後の塗膜外観を目視にて確認した。評価基準は、塗膜に異常(割れ、剥れ、膨れ等)が認められないものを「○」、異常が認められたものを「×」とした。また、曝露後の塗膜表面に、0.2ccの脱イオン水を滴下し、滴下直後の接触角を協和界面科学株式会社製CA−A型接触角測定装置にて測定した。
【0081】
(試験例19)
試験例19では、上記(1)〜(8)の各試験において、エポキシ樹脂系プライマーに代えて試験例4の塗料を用い、水性塗料として試験例2の塗料を用いた仕様につき試験を行った。
【0082】
(試験例20)
150×70×3mmのスレート板に、エポキシ樹脂系プライマーを塗付量0.1kg/mでスプレー塗装し、標準状態で8時間乾燥した後、試験例6の水性塗料(製造翌日品)を水で10%希釈して塗付量0.1kg/mで短毛ローラーを用いて塗装した。2時間乾燥後、試験例6の水性塗料(製造翌日品)を希釈せずに塗付量0.35kg/mで多孔質ローラーを用いて塗装し、直ちにデザインローラー(ローラー表面に格子状の凹凸を有するもの)を用いて塗面に凹凸を形成させた。その後、14日間養生したものを試験体とした。この試験体につき、上記汚染防止性試験1〜4と同様の方法で汚染防止性試験を行った。
【0083】
(試験例21)
150×70×3mmのスレート板に、エポキシ樹脂系プライマーを塗付量0.1kg/mでスプレー塗装し、標準状態で8時間乾燥した後、試験例17の水性塗料(製造翌日品)を水で10%希釈して塗付量0.1kg/mで短毛ローラーを用いて塗装した。2時間乾燥後、試験例17の水性塗料(製造翌日品)を希釈せずに塗付量0.35kg/mで多孔質ローラーを用いて塗装し、直ちにデザインローラー(ローラー表面に格子状の凹凸を有するもの)を用いて塗面に凹凸を形成させた。その後、14日間養生したものを試験体とした。この試験体につき、上記汚染防止性試験1〜4と同様の方法で汚染防止性試験を行った。
【0084】
(試験結果)
試験結果を表3〜4に示す。試験例1〜13、試験例19〜20では、いずれの試験においても優れた結果を得ることができた。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
【表3】

【0088】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主単量体成分とするアクリル樹脂、及び環状シロキサン化合物を主単量体成分とするシリコーン樹脂が99:1〜30:70の重量比率でエマルション粒子内に混在する合成樹脂エマルション(A)、ならびに、
平均粒子径0.5〜500μm、吸油量60ml/100g以下の粉粒体(B)を必須成分とし、当該粉粒体(B)の顔料容積濃度が10〜90%であることを特徴とするコーティング剤。
【請求項2】
少なくとも前記エマルション粒子表層に前記シリコーン樹脂が存在する請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項3】
前記エマルション粒子が、前記アクリル樹脂、及び前記シリコーン樹脂が混在する外層と、前記アクリル樹脂を含む内層を有する請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項4】
前記合成樹脂エマルションが、前記外層におけるアクリル樹脂のガラス転移温度よりも前記内層におけるアクリル樹脂のガラス転移温度が低く設定された多層構造型合成樹脂エマルション(A−1)であることを特徴とする請求項3に記載のコーティング剤。
【請求項5】
前記粉粒体(B)がリン片状のものを含む請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項6】
コーティング剤全体の顔料容積濃度が40〜90%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のコーティング剤。

【公開番号】特開2008−163310(P2008−163310A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−268145(P2007−268145)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【分割の表示】特願2007−524103(P2007−524103)の分割
【原出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000180287)エスケー化研株式会社 (227)
【Fターム(参考)】