説明

コーティング層及びコーティング層形成方法

【課題】基材に対して、優れた撥水性及び良好な光沢を付与し得るコーティング層を提供し、並びに、使用する剤の保存安定性及び分散性に優れる等のコーティング層形成方法を提供する。
【解決手段】分子内に加水分解性官能基を1つ以上有するポリオルガノシロキサン、硬化触媒、及び、炭素数8〜15の飽和炭化水素系溶剤及び芳香族炭化水素系溶剤の所定比率から成る有機溶剤の所定量を含む被膜形成剤を硬化して得られる層(I)、並びに、分子側鎖にアミノ基を1つ以上有するポリオルガノシロキサン、分子鎖末端にアミノ基を2つ以上有するポリオルガノシロキサン、ノニオン系又はアニオン系界面活性剤により乳化されたシリコーン樹脂エマルジョン、親水性基含有有機溶剤、及び水の所定量を含む仕上げ処理剤を固化して得られる層(II)を少なくとも備えるコーティング層、及び、該コーティング層の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング層及びコーティング層形成方法に関し、更に詳しくは、基材、例えば、車両外装等に施与するコーティング層及びそのコーティング層を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車及び産業車両等の屋外で使用される車両の外装、例えば、自動車の塗装面に撥水性、光沢及び艶を付与するために、各種の処理剤を用いたコーティング処理が行われてきた。例えば、アミノ変性シリコーンオイルエマルジョンを塗布後に、その他のエマルジョンを重ね塗りする車輌外装用撥水剤の塗布方法(特許文献1)、アミノ変性シリコーンオイルを主成分とするコーティング剤を塗布及び乾燥後に、ジメチルシリコーンオイル及びアミノ変性シリコーンオイルを含有する水性エマルジョンからなる、車両塗装面の艶出し剤を重ねて塗布及び乾燥する、車両塗装面の艶出し方法(特許文献2)、及び、アミノ変性シリコーンオイルエマルジョンを基剤表面に塗布後、アニオン性シリカ微粒子分散液を塗布することにより、シリコーンからなる滑水性被膜を基材表面に形成する方法(特許文献3)等が知られている。これらは、いずれもアミノ変性シリコーンオイルを主成分とする剤を、まず、基材、例えば、車両塗装面に塗布するものである。これらの方法は異なる2種の剤を重ね塗りするものであるが、各剤の保存性が不十分であり、また、各剤を塗布する際の作業性に問題があった。
【0003】
また、車両塗装面に撥水性及び光沢を与えるコーティング剤組成物も、種々のものが知られている。例えば、特許文献4には、ジメチルポリシロキサン、アミノ変性ジメチルポリシロキサン、アミノ変性ジメチルポリシロキサンの中和に必要な量の酸、アルコール類及び水を含有する艶出し撥水剤組成物が記載されている。特許文献5には、湿気硬化性シリコーンオリゴマー、硬化触媒及び両末端型反応性シリコーンオイルを所定量で含有する車両用コーティング剤が記載されている。ここで、両末端型反応性シリコーンオイルに含まれる反応性官能基は、ヒドロキシル基、カルビノール基(−ROH、Rはアルキレン基を示す)、アミノアルキル基(−RNH、Rはアルキレン基を示す)、カルボキシアルキル基(−RCOOH、Rはアルキレン基を示す)である。特許文献6には、両末端に三官能の加水分解性基を有するポリジメチルシロキサン、1〜4個の加水分解性基を有するアルコキシシランの部分加水分解縮合物、有機チタン系触媒、脂肪族炭化水素系溶剤又はエステル系溶剤、アルコール系溶剤からなる撥水コーティング用シリコーン組成物が記載されている。特許文献7には、25℃で所定の粘度を有するアミノ変性シリコーンオイルとジメチルシリコーンオイルの所定量を水中に分散させたエマルジョンであって、さらに油滴の平均粒径を所定値にしたエマルジョンタイプ艶出し剤が記載されている。特許文献8には、両末端型反応性ポリオルガノシロキサン、金属アルコキシド系硬化触媒、アルコール系溶剤からなる撥水剤組成物が記載されている。特許文献9には、湿気硬化性液状シリコーンオリゴマー、硬化触媒、両末端シラノール基を含有する直鎖状変性ポリジメチルシロキサン及び所定の揮発性溶剤を所定量で含む表面撥水保護剤が記載されている。特許文献10には、アミノ変性シリコーンを含むシリコーン、アルコール等の水溶性有機溶剤、界面活性剤で乳化されたシリコーンエマルジョンからなる撥水処理剤が記載されている。該撥水処理剤は、従来実施していた下地処理等が不要であり、該剤を直接基材に塗布して、単独で良好な撥水性を発揮するものである。これらの剤はいわゆる一液の撥水処理剤であるが、剤中に界面活性剤又は酸を使用するものでは、それにより塗膜への密着性が退化し、また、撥水性、光沢が十分ではない等の問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−28337号公報
【特許文献2】特開2005−29695号公報
【特許文献3】特開2006−247544号公報
【特許文献4】特開平11−80668号公報
【特許文献5】特開2008−75021号公報
【特許文献6】特開2002−356651号公報
【特許文献7】特開昭64−75576号公報
【特許文献8】特開平7−305053号公報
【特許文献9】特開2009−138063号公報
【特許文献10】特開2001−11435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、基材、例えば、車両外装等に対して、優れた撥水性及び良好な光沢を付与し得るコーティング層を提供し、並びに、使用する剤の保存安定性及び分散性に優れ、かつ塗布時の作業性に優れるばかりではなく、得られたコーティング層が、基材、例えば、車両外装等に対して、優れた撥水性及び良好な光沢を付与し得る、コーティング層形成方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく、従来の種々のコーティング剤及びコーティング剤の塗布方法には如何なる問題点が存在するのかを検討した。その結果、上記のように、異なる2種の剤を重ね塗りするものであって、アミノ変性シリコーンオイルを主成分とする剤を、まず、基材、例えば、車両塗装面に塗布する従来技術にあっては、各剤の保存安定性が不十分であると共に、各剤を塗布する際の作業性に問題があることをつきとめた。その一方、上記のような一液の撥水処理剤では、撥水性及び光沢を十分に高めることができないという問題があることもつきとめた。本発明者は、これらの問題を解決するために更に検討を重ねたところ、一液の撥水処理剤、即ち、重ね塗りをしない処理では、如何に丁寧かつ慎重に処理してもその表面等に生ずる不均質部分を取り除くことができない故に、撥水性及び光沢の向上には限界があることを見出した。一方、異なる2種の剤を重ね塗りする方法を採用するにあたっては、各剤が保存安定性及び分散性に優れていることが重要であり、かつ、各剤は臭気等がなく、また、拭き上げ易いと言うような、いわゆる作業性に優れていることが必要であるのみならず、第1層に生じた不均質部分を第2層が十分に補完し、かつ第2層が第1層の撥水性及び光沢を妨げることなく、むしろ向上せしめる必要があることを見出した。そして、本発明者は、上記観点、及び、とりわけ、如何なる層を組み合わせれば好適な撥水性及び光沢を有するコーティング層が得られるかと言う観点に立って、更に検討を続けたところ、下記の所定の剤を組み合わせて2層を形成すれば、これら2層が相互作用して、得られたコーティング層が優れた撥水性及び良好な光沢を有し、また、これら所定の剤を使用する下記所定のコーティング層形成方法を使用すれば、塗布する剤が保存安定性及び分散性に優れ、かつ、臭気がなく、また、塗布時の作業性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、
(1)(a−1)分子内に加水分解性官能基を1つ以上有するポリオルガノシロキサン 3〜45質量部、
(a−2)硬化触媒 0.05〜5質量部、及び
(a−3)炭素数8〜15の飽和炭化水素系溶剤と炭素数8〜15の芳香族炭化水素系溶剤とから成り、上記飽和炭化水素系溶剤と上記芳香族炭化水素系溶剤との質量比が100/0〜50/50である有機溶剤 50〜96.95質量部
の合計100質量部を含む被膜形成剤(A)
を硬化して得られる層(I)、
並びに、
(b−1)分子側鎖にアミノ基を1つ以上有するポリオルガノシロキサン(但し、(b−2)が分子側鎖にアミノ基を有するときは分子鎖末端にアミノ基を2つ以上有しない。) 0.05〜15質量部、
(b−2)分子鎖末端にアミノ基を2つ以上有するポリオルガノシロキサン 0.01〜10質量部、
(b−3)ノニオン系又はアニオン系界面活性剤により乳化されたシリコーン樹脂エマルジョン 固形分として1〜20質量部、
(b−4)親水性基含有有機溶剤 0.1〜25質量部、及び
(b−5)水 30〜98.84質量部
の合計100質量部を含む仕上げ処理剤(B)
を固化して得られる層(II)
を少なくとも備え、かつ、基材側に層(I)を備え、表面側に層(II)を備えるコーティング層である。
【0008】
好ましい態様として、
(2)基材上に層(I)を備え、かつ、その上に層(II)を備える、上記(1)記載のコーティング層、
(3)層(I)の厚さが0.1〜0.5μmであり、かつ、層(II)の厚さが0.1〜0.5μmである、上記(1)又は(2)記載のコーティング層、
(4)成分(a−1)の配合量が、被膜形成剤(A)100質量部中、5〜45質量部である、上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載のコーティング層、
(5)成分(a−1)の配合量が、被膜形成剤(A)100質量部中、7〜45質量部である、上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載のコーティング層、
(6)成分(a−1)の配合量が、被膜形成剤(A)100質量部中、7〜30質量部である、上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載のコーティング層、
(7)成分(b−1)の配合量が、仕上げ処理剤(B)100質量部中、0.1〜5質量部である、上記(1)〜(6)のいずれか一つに記載のコーティング層、
(8)成分(b−2)の配合量が、仕上げ処理剤(B)100質量部中、0.1〜3質量部である、上記(1)〜(7)のいずれか一つに記載のコーティング層、
(9)成分(b−1)及び(b−2)の配合量の合計が、仕上げ処理剤(B)100質量部中、0.06〜20質量部である、上記(1)〜(8)のいずれか一つに記載のコーティング層、
(10)成分(b−3)の配合量が、仕上げ処理剤(B)100質量部中、3〜15質量部である、上記(1)〜(9)のいずれか一つに記載のコーティング層、
(11)成分(a−3)を構成する炭素数8〜15の飽和炭化水素系溶剤がイソパラフィン系溶剤である、上記(1)〜(10)のいずれか一つに記載のコーティング層、
(12)成分(a−3)が、炭素数8〜15の飽和炭化水素系溶剤100質量部より成る、上記(1)〜(11)のいずれか一つに記載のコーティング層、
(13)成分(b−4)がアルコールである、上記(1)〜(12)のいずれか一つに記載のコーティング層、
(14)成分(a−1)が、分子鎖両末端に加水分解性官能基を有するポリジメチルシロキサンである、上記(1)〜(13)のいずれか一つに記載のコーティング層、
(15)成分(a−1)が、分子鎖両末端メトキシ基含有ポリジメチルシロキサンである、上記(1)〜(13)のいずれか一つに記載のコーティング層、
(16)成分(a−2)が、有機金属化合物である、上記(1)〜(15)のいずれか一つに記載のコーティング層、
(17)基材が車両外装である、上記(1)〜(16)のいずれか一つに記載のコーティング層
を挙げることができる。
【0009】
本発明は、また、
(18)(a−1)分子内に加水分解性官能基を1つ以上有するポリオルガノシロキサン 3〜45質量部、
(a−2)硬化触媒 0.05〜5質量部、及び
(a−3)炭素数8〜15の飽和炭化水素系溶剤と炭素数8〜15の芳香族炭化水素系溶剤とから成り、上記飽和炭化水素系溶剤と上記芳香族炭化水素系溶剤との質量比が100/0〜50/50である有機溶剤 50〜96.95質量部
の合計100質量部を含む被膜形成剤(A)
を、基材上に塗布し、次いで、5〜90分間環境温度で乾燥して層(I)を形成する工程(I)、
並びに、
(b−1)分子側鎖にアミノ基を1つ以上有するポリオルガノシロキサン(但し、(b−2)が分子側鎖にアミノ基を有するときは分子鎖末端にアミノ基を2つ以上有しない。) 0.05〜15質量部、
(b−2)分子鎖末端にアミノ基を2つ以上有するポリオルガノシロキサン 0.01〜10質量部、
(b−3)ノニオン系又はアニオン系界面活性剤により乳化されたシリコーン樹脂エマルジョン 固形分として1〜20質量部、
(b−4)親水性基含有有機溶剤 0.1〜25質量部、及び
(b−5)水 30〜98.84質量部
の合計100質量部を含む仕上げ処理剤(B)
を、上記の層(I)上に塗布し、次いで、10分間以上環境温度で乾燥して層(II)を形成する工程(II)
を少なくとも含む、コーティング層形成方法である。
【0010】
好ましい態様として、
(19)工程(I)における被膜形成剤(A)の塗布が、乾布を使用して実施され、かつ、工程(II)における仕上げ処理剤(B)の塗布が、湿布を使用して実施される、上記(18)記載のコーティング層形成方法、
(20)工程(I)における被膜形成剤(A)の使用量が、基材1m当たり0.1〜10ミリリットルである、上記(18)又は(19)記載のコーティング層形成方法、
(21)工程(II)における仕上げ処理剤(B)の使用量が、基材1m当たり0.1〜10ミリリットルである、上記(18)〜(20)のいずれか一つに記載のコーティング層形成方法、
(22)成分(a−1)の配合量が、被膜形成剤(A)100質量部中、5〜45質量部である、上記(18)〜(21)のいずれか一つに記載のコーティング層形成方法、
(23)成分(a−1)の配合量が、被膜形成剤(A)100質量部中、7〜45質量部である、上記(18)〜(21)のいずれか一つに記載のコーティング層形成方法、
(24)成分(a−1)の配合量が、被膜形成剤(A)100質量部中、7〜30質量部である、上記(18)〜(21)のいずれか一つに記載のコーティング層形成方法、
(25)成分(b−1)の配合量が、仕上げ処理剤(B)100質量部中、0.1〜5質量部である、上記(18)〜(24)のいずれか一つに記載のコーティング層形成方法、
(26)成分(b−2)の配合量が、仕上げ処理剤(B)100質量部中、0.1〜3質量部である、上記(18)〜(25)のいずれか一つに記載のコーティング層形成方法、
(27)成分(b−1)及び(b−2)の配合量の合計が、仕上げ処理剤(B)100質量部中、0.06〜20質量部である、上記(18)〜(26)のいずれか一つに記載のコーティング層形成方法、
(28)成分(b−3)の配合量が、仕上げ処理剤(B)100質量部中、3〜15質量部である、上記(18)〜(27)のいずれか一つに記載のコーティング層形成方法、
(29)成分(a−3)を構成する炭素数8〜15の飽和炭化水素系溶剤がイソパラフィン系溶剤である、上記(18)〜(28)のいずれか一つに記載のコーティング層形成方法、
(30)成分(a−3)が、炭素数8〜15の飽和炭化水素系溶剤100質量部より成る、上記(18)〜(29)のいずれか一つに記載のコーティング層、
(31)成分(b−4)がアルコールである、上記(18)〜(30)のいずれか一つに記載のコーティング層形成方法、
(32)成分(a−1)が、分子鎖両末端に加水分解性官能基を有するポリジメチルシロキサンである、上記(18)〜(31)のいずれか一つに記載のコーティング層、
(33)成分(a−1)が、分子鎖両末端メトキシ基含有ポリジメチルシロキサンである、上記(18)〜(31)のいずれか一つに記載のコーティング層形成方法、
(34)成分(a−2)が、有機金属化合物である、上記(18)〜(33)のいずれか一つに記載のコーティング層形成方法、
(35)基材が車両外装である、上記(18)〜(34)のいずれか一つに記載のコーティング層形成方法、
を挙げることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のコーティング層は、基材、例えば、車両外装等に対して、優れた撥水性及び良好な光沢を付与し得る。また、本発明のコーティング層形成方法は、使用する剤の保存安定性及び分散性に優れ、かつ塗布時の作業性に優れるばかりではなく、得られたコーティング層が、基材、例えば、車両外装等に対して、優れた撥水性及び良好な光沢を付与し得る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のコーティング層は、被膜形成剤(A)を硬化して得られる層(I)と、仕上げ処理剤(B)を固化して得られる層(II)とを少なくとも備え、かつ、基材側に層(I)を備え、表面側、即ち、層(I)と比較してより大気に近い側に層(II)を備える。ここで、被膜形成剤(A)は、(a−1)分子内に加水分解性官能基を1つ以上有するポリオルガノシロキサン、(a−2)硬化触媒、及び、(a−3)炭素数8〜15の飽和炭化水素系溶剤及び炭素数8〜15の芳香族炭化水素系溶剤から成り、上記飽和炭化水素系溶剤と上記芳香族炭化水素系溶剤との質量比が100/0〜50/50である有機溶剤の合計100質量部を含む。一方、仕上げ処理剤(B)は、(b−1)分子側鎖にアミノ基を1つ以上有するポリオルガノシロキサン(但し、(b−2)が分子側鎖にアミノ基を有するときは分子鎖末端にアミノ基を2つ以上有しない。)、(b−2)分子鎖末端にアミノ基を2つ以上有するポリオルガノシロキサン、(b−3)ノニオン系又はアニオン系界面活性剤により乳化されたシリコーン樹脂エマルジョン、(b−4)親水性基含有有機溶剤、及び、(b−5)水の合計100質量部を含む。
【0013】
被膜形成剤(A)に含まれる(a−1)ポリオルガノシロキサンは、分子内に加水分解性官能基を1つ以上有するものであればよい。加水分解性官能基の数は、好ましくは2〜6個である。該加水分解性官能基は、ポリオルガノシロキサン分子の主鎖末端及び側鎖のいずれに存在していてもよい。被膜形成後の強度に優れることから、分子鎖末端に存在することが好ましい。加水分解性官能基としては、例えば、アルコキシ基、アミノキシ基、ケトオキシム基、アルケニルオキシ基、アミド基、アセトキシ基等が挙げられる。好ましい加水分解性官能基は、アルコキシ基であり、より好ましくはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基である。該基を有するポリオルガノシロキサンを使用することにより、より一層良好な硬化を達成することができると共に、作業時における臭気を低減することができる。成分(a−1)として、好ましくは、分子鎖両末端に加水分解性官能基、より好ましくはメトキシ基を有するポリオルガノシロキサンが挙げられる。成分(a−1)の粘度(25℃)は、JIS Z 8803に準拠して測定した値で、上限が好ましくは1,000mm−1、より好ましくは500mm−1であり、下限が好ましくは10mm−1、より好ましくは50mm−1である。
【0014】
(a−2)硬化触媒は、好ましくは有機金属化合物である。有機金属化合物としては、例えば、錫、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、鉛等の各種の化合物を使用することができる。ここで、錫化合物としては、例えば、オクチル酸錫、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクチレート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫マレート、ジブチル錫ビスオクチロキシカルボニルメチルチオラートなどが挙げられる。チタン化合物としては、例えば、テトラブチルチタネート、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラキス(エチレングリコールモノメチルエーテル)チタネート、テトラキス(エチレングリコールモノエチルエーテル)チタネート、テトラキス(エチレングリコールモノブチルエーテル)チタネート、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトナート)チタネート、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタネート、テトラキス(2−ブトキシエチルアルコラート)チタネートなどが挙げられる。アルミニウム化合物としては、例えば、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、ジイソプロポキシ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、イソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトン)アルミニウムなどが挙げられる。ジルコニウム化合物としては、例えば、アセチルアセトンジルコニウム、トリスセチルアセトンジルコニウム、テトラキス(エチレングリコールモノメチルエーテル)ジルコニウム、テトラキス(エチレングリコールモノエチルエーテル)ジルコニウム、テトラキス(エチレングリコールモノブチルエーテル)ジルコニウム、ジブトキシビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(2−ブトキシエチルアルコラート)ジルコニウムなどが挙げられる。鉛化合物としては、例えば、オクチル酸鉛、ナフテン酸鉛などが挙げられる。これらの化合物は、最終的に形成されるコーティング層に所望の性質を付与することができるものであれば、特に制限はない。本発明においては、好ましくはチタン化合物が使用される。
【0015】
また、(a−2)硬化触媒には、有機金属化合物以外に、(a−1)分子内に加水分解性官能基を1つ以上有するポリオルガノシロキサンに硬化反応を起こさせる化合物を更に含むこともできる。該化合物の配合量は、有機金属化合物100質量部に対して、上限が好ましくは10質量部、より好ましくは5質量部であり、下限が好ましくは0.001質量部、より好ましくは0.01質量部である。該化合物としては、例えば、ブチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、t−ブチルアミン、エチレンジアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、イミダゾール、イソホロンジアミン、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸、モノアルキルリン酸、ジアルキルリン酸、モノアルキル亜リン酸、ジアルキル亜リン酸、p−トルエンスルホン酸、トリクロロ酢酸、フッ素化合物等が挙げられる。本発明においては、これらを適宜選択して使用することができる。
【0016】
(a−3)有機溶剤は、炭素数8〜15の飽和炭化水素系溶剤と、任意成分としての炭素数8〜15の芳香族炭化水素系溶剤とから成る。炭素数8〜15の飽和炭化水素系溶剤と炭素数8〜15の芳香族炭化水素系溶剤との質量比は、臭気及び揮発性の観点から好ましくは100/0〜50/50、より好ましくは100/0〜80/20、更に好ましくは100/0である。成分(a−3)は、上記で述べた成分(a−1)及び(a−2)を溶解して分散するものであり、塗布後に蒸発して層(I)中には実質的に存在しないものである。飽和炭化水素系溶剤の炭素数を8〜15にすることにより、成分(a−1)及び(a−2)を良好に溶解して分散させることができる。加えて、塗布時の作業性を大きく左右する揮発性と粘度とのバランスを良好にすることができる。炭素数が上記下限未満では、揮発性が高過ぎて塗布作業を著しく迅速に行わなければならず、作業性が悪い。一方、炭素数が上記上限を超えると、逆に揮発性が低下し、後工程、例えば、仕上げ処理剤(B)の塗布に移るまでに長時間を要するばかりではなく、得られた被膜形成剤(A)の粘度が高くなり、人力で該剤を塗布するに際して、平滑な塗膜を形成することが困難になる。該溶剤としては、例えば、n−オクタン、iso−オクタン、n−ノナン、iso−ノナン、n−デカン、iso−デカン、n−ウンデカン、iso−ウンデカン、n−ドデカン、iso−ドデカン、n−トリデカン、iso−トリデカン、n−テトラデカン、iso−テトラデカン、n−ペンタデカン、iso−ペンタデカン及びこれらの構造異性体などから選ばれる直鎖または分岐鎖を有するノルマルパラフィンまたはイソパラフィン系の化合物が挙げられる。これらのうち、好ましくはイソパラフィン系溶剤が使用される。これらの溶剤は単独で使用しても、複数を混合して使用してもよい。引火点及び揮発性等を調整するため適宜選択することができる。一方、炭素数8〜15の芳香族炭化水素系溶剤とは、上記飽和炭化水素系溶剤以外の芳香環を有する化合物からなる有機溶剤であって、原油の蒸溜留分のうち主成分の炭素数が8〜15の範囲にあるものである。例えば、メシチレン、ヘミメリテン、プソイドクメン、エチルトルエン、クメン、プレーニテン、イソジュレン、ジュレン、プロピルベンゼン、メリテン、シメン、ビベンジル等が挙げられる。該芳香族炭化水素系溶剤としては、市販品を使用することができ、好ましくは、出光興産株式会社製イプゾール100(炭素数9の芳香族炭化水素を主成分とする)、イプゾール150(炭素数10の芳香族炭化水素を主成分とする)(いずれも商標)、丸善石油化学株式会社製スワゾール1000(炭素数8〜10の芳香族炭化水素を主成分とする)(商標)、エクソンモービルケミカル社製ソルベッソ100(炭素数9〜10のジアルキル及びトリアルキルベンゼン)、ソルベッソ150(炭素数10〜11のアルキルベンゼンを主成分とする)、ソルベッソ200(炭素数10〜14のアルキルナフタレンを主成分とする)(いずれも商標)、株式会社ジャパンエナジー製カクタスソルベントP−100(炭素数9〜10のアルキルベンゼン)、カクタスソルベントP−180(メチルナフタレンとジメチルナフタレンの混合物)、カクタスソルベントP−200(メチルナフタレンとジメチルナフタレンの混合物)、カクタスソルベントP−220(メチルナフタレンとジメチルナフタレンの混合物)(いずれも商標)、シェルケミカル社製シェルゾールA150(ナフタレンとトリメチルベンゼンの混合物)(商標)などが特に好ましく挙げられる。
【0017】
上記(a−1)分子内に加水分解性官能基を1つ以上有するポリオルガノシロキサン、(a−2)硬化触媒、及び、(a−3)炭素数8〜15の飽和炭化水素系溶剤と、任意成分としての炭素数8〜15の芳香族炭化水素系溶剤とから成る有機溶剤の配合量は、下記の通りである。成分(a−1)の配合量は、成分(a−1)、(a−2)、及び、(a−3)の合計100質量部に対して、上限が45質量部、好ましくは30質量部であり、下限が、3質量部、好ましくは5質量部、より好ましくは7質量部である。上記下限未満では、強靭な硬化被膜を形成することはできず、上記上限を超えては、塗布時の作業性が低下し、加えて、平滑な被膜を形成することが困難となる。
【0018】
成分(a−2)の配合量は、成分(a−1)、(a−2)、及び、(a−3)の合計100質量部に対して、上限が5質量部、好ましくは3質量部であり、下限が0.05質量部、好ましくは0.5質量部である。上記下限未満では、硬化が不十分となり良好な被膜が形成されず、一方、上記上限を超えては、被膜形成剤(A)の保存安定性が悪くなる。
【0019】
成分(a−3)の配合量は、成分(a−1)、(a−2)、及び、(a−3)の合計が100質量部となるように調節される。即ち、成分(a−3)の配合量は、成分(a−1)、(a−2)、及び、(a−3)の合計100質量部に対して上限が96.95質量部、好ましくは95質量部であり、下限が50質量部である。上記下限未満では、被膜形成剤(A)の粘度が高くなり過ぎるため、平滑な被膜を形成することが困難となる。
【0020】
本発明において、成分(a−1)、(a−2)、及び、(a−3)を含む被膜形成剤(A)を硬化して得られる層(I)は基材側に備えられる。該被膜形成剤(A)は、直接又は他の層を介して基材に塗布して硬化することにより層(I)を形成することができる。被膜形成剤(A)は、好ましくは、基材上に直接塗布される。該層(I)において、成分(a−1)が被塗布部材との間で化学反応による強固な密着性を発現する。加えて、成分(a−1)自体が架橋反応を起こして硬化することにより、コーティング層全体に特に優れた撥水性を付与する。
【0021】
仕上げ処理剤(B)に含まれる(b−1)ポリオルガノシロキサンは、分子側鎖にアミノ基を1つ以上有するものであればよい。また、(b−1)は分子鎖の末端にアミノ基を有していてもよいが、下記(b−2)が分子側鎖にアミノ基を有するときは、(b−1)は分子鎖の末端にアミノ基を2つ以上有しない。該成分(b−1)は、仕上げ処理剤(B)を塗布して得られる層(II)を、上記の被膜形成剤(A)を塗布して得られる層(I)に密着させて、コーティング層全体に撥水性を発現せしめるものである。成分(b−1)ポリオルガノシロキサンの官能基当量は、上限が好ましくは100,000、より好ましくは10,000であり、下限が好ましくは300、より好ましくは500である。また、成分(b−1)の粘度(25℃)は、JIS Z 8803に準拠して測定した値で、上限が、好ましくは30,000mm−1、より好ましくは3,000mm−1であり、下限が、好ましくは10mm−1、より好ましくは50mm−1である。上記上限を超えては、仕上げ処理剤(B)全体の粘度が高くなり、平滑かつ均一な層を塗布し得ないことがあり、一方、上記下限未満では、逆に粘度が低くなり、同様に平滑かつ均一な層を塗布し得ないことがある。成分(b−1)としては、これらのうちの1種類を単独で使用してもよく、また、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
本発明の成分(b−2)ポリオルガノシロキサンは、分子鎖の末端にアミノ基を2つ以上有するものであればよい。該成分(b−2)は、上記の成分(b−1)と共にコーティング層全体に撥水性を発現せしめるものである。成分(b−2)ポリオルガノシロキサンの官能基当量は、上限が好ましくは10,000、より好ましくは5,000であり、下限が好ましくは50、より好ましくは100である。また、成分(b−2)の粘度(25℃)は、JIS Z 8803に準拠して測定した値で、上限が、好ましくは1,000mm−1、より好ましくは500mm−1であり、下限が、好ましくは1mm−1、より好ましくは10mm−1である。上記上限を超えては、仕上げ処理剤(B)全体の粘度が高くなり、平滑かつ均一な層を塗布し得ないことがあり、一方、上記下限未満では、逆に粘度が低くなり、同様に平滑かつ均一な層を塗布し得ないことがある。成分(b−2)としては、これらのうちの1種類を単独で使用してもよく、また、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
本発明の(b−3)ノニオン系又はアニオン系界面活性剤により乳化されたシリコーン樹脂エマルジョンは、ポリオルガノシロキサン骨格を有するシリコーン樹脂を、ノニオン系又はアニオン系界面活性剤により乳化したものであり、仕上げ処理剤(B)を硬化して得られる層(II)を平滑にするために、仕上げ処理剤(B)に滑り性を付与するものである。該成分(b−3)は、固形分を、好ましくは5〜90質量%、より好ましくは10〜50質量%含む。ここで、(b−3)シリコーン樹脂エマルジョンのpHの上限が好ましくは6.4、より好ましくは6.1であり、下限が好ましくは4.0、より好ましくは5.0である。pHが上記上限を超えては、エマルジョンが不安定となり、上記下限未満では被塗布部材の表面を侵す可能性がある。該成分(b−3)としては、例えば、粘度2,000cSt(25℃)のトリメチルシロキシケイ酸を、粘度350cStのジメチルポリシロキサンに溶解し、更に、ノニオン系界面活性剤で水中に乳化分散せしめたもの[トリメチルシロキシケイ酸含有量:12質量%、ジメチルポリシロキサン含有量:28質量%、pH:6、旭化成ワッカーシリコーン株式会社製R2701(商標)]、シリコーンレジンオイルの乳化物[固形分:40質量%、pH:6、旭化成ワッカーシリコーン株式会社製NP2804(商標)]、アミノシリコーンエマルジョン[固形分:40質量%、pH:6、旭化成ワッカーシリコーン株式会社製NP2609(商標)]等が挙げられる。
【0024】
(b−4)親水性基含有有機溶剤は、上記の成分(b−1)、(b−2)及び(b−3)を溶解して分散させるものであり、塗布後に蒸発して層(II)中には実質的に存在しないものである。親水性基とは、OH基、COOH基、NH基など水和に寄与する官能基のことであり、親水性基含有有機溶剤とは任意の割合で水と相溶する化合物からなる有機溶剤のことである。当該成分(b−4)としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ヘキサントリオール、グリセリン、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール等の水と相溶するアルコールが特に好適に使用される。これら溶剤は、単一で用いても複数を混合して用いてもよい。また、これらのうちから、適宜選択して、粘度及び引火点、並びに、揮発性等を調節することができる。
【0025】
(b−5)水は、仕上げ処理剤(B)を構成する上記成分(b−1)、(b−2)、(b−3)及び(b−4)を溶解又は分散して、揮発性及び保存安定性のバランスを良好にするために使用され、塗布後に蒸発して層(II)中には実質的に存在しないものである。
【0026】
上記(b−1)分子側鎖にアミノ基を1つ以上有するポリオルガノシロキサン、(b−2)分子鎖末端にアミノ基を2つ以上有するポリオルガノシロキサン、(b−3)ノニオン系又はアニオン系界面活性剤により乳化されたシリコーン樹脂エマルジョン、(b−4)親水性基含有有機溶剤、及び、(b−5)水の配合量は、下記の通りである。成分(b−1)の配合量は、成分(b−1)、(b−2)、(b−3)、(b−4)、及び、(b−5)の合計100質量部に対して、上限が15質量部、好ましくは5質量部であり、下限が、0.05質量部、好ましくは0.1質量部である。上記下限未満では、所望の撥水性を発揮することができず、一方、上記上限を超えては、保存安定性が低下する。
【0027】
成分(b−2)の配合量は、成分(b−1)、(b−2)、(b−3)、(b−4)、及び、(b−5)の合計100質量部に対して、上限が10質量部、好ましくは3質量部であり、下限が0.01質量部、好ましくは0.1質量部である。上記下限未満では、良好な光沢を発揮することができない。一方、上記上限を超えては、保存性が低下するおそれがある。また、本発明においては、成分(b−1)及び(b−2)の配合量の合計の上限が、好ましくは20重量部である。このように成分(b−1)及び(b−2)の配合量の合計を制御することにより、良好な保存安定性を有しつつ、撥水性と光沢を発揮することができる。
【0028】
成分(b−3)の配合量は、成分(b−1)、(b−2)、(b−3)、(b−4)、及び、(b−5)の合計100質量部に対して、上限が20質量部、好ましくは15質量部であり、下限が1質量部、好ましくは3質量部である。上記下限未満では、所望の滑り性を発揮することができず、一方、上記上限を超えては、仕上げ処理剤(B)が凝集を起こして保存安定性が低下する。
【0029】
成分(b−4)の配合量は、成分(b−1)、(b−2)、(b−3)、(b−4)、及び、(b−5)の合計100質量部に対して、上限が25質量部、好ましくは15質量部であり、下限が0.1質量部、好ましくは1質量部である。上記下限未満であると、成分(b−1)及び(b−2)を十分溶解して分散することができず、かつ仕上げ処理剤(B)全体の揮発性が低下するために作業性が悪くなる。一方、上記上限を超えると、成分(b−3)のエマルジョンが不安定になり仕上げ処理剤(B)の保存安定性が低下するのみならず、揮発性が高くなることから、仕上げ処理剤(B)の塗布作業を完結するために必要な時間が短くなり過ぎて作業性が低下する。
【0030】
成分(b−5)の配合量は、成分(b−1)、(b−2)、(b−3)、(b−4)、及び、(b−5)の合計が100質量部となるように調節される。即ち、成分(b−5)の配合量は、成分(b−1)、(b−2)、(b−3)、(b−4)、及び、(b−5)の合計が100質量部に対して、上限が98.84質量部であり、下限が30質量部、好ましくは70質量部である。該範囲にすることにより、仕上げ処理剤(B)の揮発性及び保存安定性のバランスを良好にすることができる。
【0031】
また、本発明の仕上げ処理剤(B)には、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて各種の成分を配合することができる。例えば、防錆剤、防腐剤、界面活性剤、pH調節剤、凍結防止剤、紫外線吸収剤、安定剤等が挙げられる。
【0032】
本発明においては、成分(b−1)、(b−2)、(b−3)、(b−4)、及び、(b−5)を含む仕上げ処理剤(B)を、層(I)上に塗布して固化することにより、層(II)を形成することができる。このようにして得られた層(II)は、層(I)と相互作用することにより揮発性及び光沢を高めることができる。加えて、層(II)は、厚い被膜とすることが可能である故、層(I)の不均質部分を埋めて全体として平滑なコーティング層とすることができる。
【0033】
上記の被膜形成剤(A)及び仕上げ処理剤(B)は下記のようにして基材上に塗布されて夫々硬化及び固化される。被膜形成剤(A)は、好ましくは乾布を使用して、基材、又は基材上に既に塗布された他の層上に塗布される。ここで、乾布とは、通常、水分20%以下、より好ましくは水分5%以下の布、例えば、ポリエステル、ナイロン、ポリエステル/ナイロン複合繊維、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル等の合成繊維から成る布帛、綿、絹、麻、レーヨン、カシミヤ、モヘア等の天然繊維から成る布帛等が挙げられる。繊維の強度と塗液の浸透性とのバランスから、ポリエステル、ナイロン、ポリエステル/ナイロン複合繊維から選ばれる合成繊維から成る布帛が特に好ましい。被膜形成剤(A)の使用量は、基材の種類等及び塗布する剤の種類により異なるが、通常、塗布面積1m当たり、0.1〜10ミリリットルである。基材等への塗布は、通常、人力により乾布を使用して実施されるが、もちろん、機械的に実施することも可能である。このように塗布された被膜形成剤(A)は、5〜90分間、好ましくは10〜30分間、環境温度で架橋反応が進むことにより硬化被膜が形成される。このようにして、被膜形成剤(A)を硬化して得られる層(I)が形成される。層(I)の厚さは、被膜形成剤(A)の使用量により適宜変えることができるが、通常、0.1〜0.5μmである。
【0034】
次いで、該層(I)上に仕上げ処理剤(B)が塗布される。仕上げ処理剤(B)の塗布は、好ましくは湿布を使用して実施される。ここで、湿布としては、JIS L 1906に規定する保水率が600%以下、より好ましくは190〜230%の範囲であり、かつ、JIS L 1907に規定する吸水率が4秒以下、好ましくは2秒以下の布帛に水を50%以上含ませたものが特に好ましい。湿布として用いられる布帛には、乾布と同様に、例えば、ポリエステル、ナイロン、ポリエステル/ナイロン複合繊維、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル等の合成繊維から成る布帛、綿、絹、麻、レーヨン、カシミヤ、モヘア等の天然繊維から成る布帛等が挙げられる。これらの布帛は、上記規定の範囲の吸水性と保水性とを有するものであることが好ましい。仕上げ処理剤(B)の使用量は、被膜形成剤(A)を硬化して得られる層(I)の平滑性等を考慮して変えることができるが、通常、塗布面積1m当たり、0.1〜10ミリリットルである。塗布は、上記と同様に、通常、人力により湿布を使用して実施されるが、もちろん、機械的に実施することも可能である。仕上げ処理剤(B)は塗布後、10分間以上、好ましくは30分間以上240分間以下、環境温度で乾燥して固化し、被膜が形成される。このようにして、仕上げ処理剤(B)を固化して得られる層(II)が形成される。層(II)の厚さは、仕上げ処理剤(B)の使用量により適宜変えることができるが、通常、0.1〜0.5μmである。
【0035】
本発明において、コーティング層を形成する基材の種類に特に制限はない。例えば、車両の外装、好ましくは自動車の塗装面等に形成される。自動車の塗装面に塗布する際の被膜形成剤(A)及び仕上げ処理剤(B)の使用量は、一般的目安として、例えば、軽自動車では50ミリリットル程度であり、普通自動車では60〜70ミリリットル程度であり、ミニバンでは80ミリリットル程度である。また、本発明では、層(I)と層(II)との間に他の被膜形成能を有する組成物からなる被膜形成剤を塗布して新たな層を設けても構わず、当該被膜形成剤が本発明の被膜形成剤(A)であること、すなわち被膜形成剤を重ね塗りすることを許容する。さらに本発明は、層(II)を塗布した後の表面に新たな層を設けることも許容するものである。
【0036】
以下、実施例において本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
[被膜形成剤(A)及び仕上げ処理剤(B)の調製]
物質
被膜形成剤(A)及び仕上げ処理剤(B)の調製に使用した物質は下記の通りである。
【0038】
<成分(a−1):分子内に加水分解性反応基を1つ以上有するポリオルガノシロキサン>
(i)メトキシ官能性ポリジメチルシロキサン[信越化学工業株式会社製X−40−9225(商標)、分子側鎖と分子鎖両末端にメトキシ基を有するポリジメチルシロキサン、メトキシ基含有量:24重量%、粘度(JIS Z 8803に準拠して測定した値):100mm−1
(ii)メトキシ官能性ポリジメチルシロキサン[信越化学工業株式会社製X−40−9250(商標)、分子側鎖と分子鎖両末端にメトキシ基を有するポリジメチルシロキサン、メトキシ基含有量:25重量%、粘度(JIS Z 8803に準拠して測定した値):160mm−1
(iii)メトキシ官能性メチル/フェニル置換ポリシロキサン[信越化学工業株式会社製KR−401N(商標)、分子側鎖と分子鎖両末端にメトキシ基を有するメチル/フェニル置換ポリシロキサン、メトキシ基含有量:33重量%、粘度(JIS Z 8803に準拠して測定した値):20mm−1
(iv)メトキシ官能性メチル/フェニル置換ポリシロキサン[信越化学工業株式会社製KR−510(商標)、分子側鎖と分子鎖両末端にメトキシ基を有するメチル/フェニル置換ポリシロキサン、メトキシ基含有量:17重量%、粘度(JIS Z 8803に準拠して測定した値):100mm−1
【0039】
<比較成分(a−1)>
(i)両末端メチル基封鎖型ポリジメチルシロキサン[信越化学工業株式会社製KF−96−100CS(商標)、粘度(JIS Z 8803に準拠して測定した値):100mm−1
【0040】
<成分(a−2):有機金属化合物を含む硬化触媒>
(i)チタンアルコキシド[信越化学工業株式会社製D−20(商標)、金属含有量:21重量%]
(ii)チタンアルコキシド[信越化学工業株式会社製D−25(商標)、金属含有量:14重量%]
(iii)アルミニウムアルコキシド[信越化学工業株式会社製DX−9740(商標)、金属含有量:9重量%]
【0041】
<成分(a−3):炭素数8〜15の飽和炭化水素系溶剤>
(i)イソパラフィン系炭化水素溶剤[エクソンモービル社製アイソパーM(商標)、炭素数12〜15のイソパラフィン系炭化水素を主成分とする、蒸留温度範囲:225〜254℃、引火点:92℃]
(ii)イソパラフィン系炭化水素溶剤[エクソンモービル社製アイソパーL(商標)、炭素数11〜13のイソパラフィン系炭化水素を主成分とする、蒸留温度範囲:185〜199℃、引火点:64℃]
(iii)芳香族炭化水素系溶剤[エクソンモービル社製ソルベッソ150(商標)、炭素数8〜12の芳香族炭化水素の混合物よりなる重質芳香族ソルベントナフサ、蒸留温度範囲:189〜210℃、引火点:65℃]
【0042】
<比較成分(a−3)>
(i)イソパラフィン系炭化水素溶剤[出光興産株式会社製IPクリーンHX(商標)、炭素数16のイソパラフィン系炭化水素を主成分とする、蒸留温度範囲:211〜255℃、引火点:84℃]
(ii)イソヘキセン[炭素数6個のイソオレフィン系炭化水素、沸点:62℃、引火点:−26℃](和光純薬株式会社製イソヘキセン)
(iii)イソプロピルアルコール[エクソンモービル社製エクソンモービルIPA(商標)、蒸留温度:80℃、引火点:0℃以下]
(iv)エチレングリコールジメチルエーテル[蒸留温度:82〜83℃、引火点:−1.5℃](ナカライテスク株式会社製エチレングリコールジメチルエーテル)
【0043】
<成分(b−1):シリコーン側鎖にアミノ基を1つ以上有するポリオルガノシロキサン>
(i)側鎖型モノアミン変性ポリシロキサン[信越化学工業株式会社製KF−865(商標)、官能基当量:5,000gmol−1、粘度(JIS Z 8803に準拠して測定した値):110mm−1、分子鎖末端にアミノ基を有しない]
(ii)側鎖型ジアミン変性ポリシロキサン[信越化学工業株式会社製KF−880(商標)、官能基当量:1,800gmol−1、粘度(JIS Z 8803に準拠して測定した値):650mm−1、分子鎖末端にアミノ基を有しない]
(iii)側鎖型アミノポリエーテル両変性ポリシロキサン[信越化学工業株式会社製X−22−3939A(商標)、官能基当量:1,500gmol−1、粘度(JIS Z 8803に準拠して測定した値):3,300mm−1、分子鎖末端にアミノ基を有しない]
【0044】
<比較成分(b−1)>
(i)側鎖型エポキシ変性ポリシロキサン[信越化学工業株式会社製X−22−343(商標)、官能基当量:525gmol−1、粘度(JIS Z 8803に準拠して測定した値):25mm−1
(ii)側鎖型エポキシエーテル両変性ポリシロキサン[信越化学工業株式会社製X−22−4741(商標)、官能基当量:2,500gmol−1、粘度(JIS Z 8803に準拠して測定した値):350mm−1
【0045】
<成分(b−2):分子鎖末端にアミノ基を2つ以上有するポリオルガノシロキサン>
(i)末端型ジアミノ変性ポリシロキサン[信越化学工業株式会社製X−22−161B(商標)、分子鎖両末端に夫々一つアミノ基を有する、官能基当量:1,500gmol−1、粘度(JIS Z 8803に準拠して測定した値):55mm−1、分子側鎖にアミノ基を有しない]
【0046】
<比較成分(b−2)>
(i)末端型カルボキシル変性ポリシロキサン[信越化学工業株式会社製X−22−162C(商標)、官能基当量:2,300gmol−1、粘度(JIS Z 8803に準拠して測定した値):220mm−1
(ii)末端型シラノール変性ポリシロキサン[信越化学工業株式会社製KF−9701(商標)、官能基当量:1,500gmol−1、粘度(JIS Z 8803に準拠して測定した値):60mm−1
【0047】
<成分(b−3):ノニオン系又はアニオン系界面活性剤で乳化処理されたシリコーンレジンエマルジョン>
(i)アニオン分散性シリコーンレジンエマルジョン[旭化成ワッカーシリコーン株式会社製R2701(商標)、固形分40%、pH6]
(ii)ノニオン分散性シリコーンレジンエマルジョン[旭化成ワッカーシリコーン株式会社製NR2706(商標)、固形分55%、pH6]
(iii)ノニオン分散性アミノ変性シリコーンレジンエマルジョン[旭化成ワッカーシリコーン株式会社製NP2609(商標)、固形分40%、pH6]
【0048】
<比較成分(b−3)>
(i)カチオン分散性シリコーンレジンエマルジョン[信越化学工業株式会社製Polon MF−52(商標)、固形分32%、pH6.5]
【0049】
<成分(b−4):親水性基含有有機溶剤>
(i)イソプロピルアルコール(エクソンモービル社製エクソンモービルIPA)
(ii)ノルマルプロピルアルコール(三協化学株式会社製ノルマルプロピルアルコール)
(iii)エタノール(三協化学株式会社製エタノール)
(iv)エチレングリコール(三協化学株式会社製エチレングリコール)
【0050】
<比較成分(b−4)>
(i)エチレングリコールジメチルエーテル(日本乳化剤株式会社製ジメチルグリコール)
【0051】
<被膜形成剤(A)の調製>
成分(a−1)、(a−2)及び(a−3)、並びに、比較成分(a−1)及び(a−3)を、夫々、表1及び2に示した配合比を使用して室温で撹拌混合して、被膜形成剤(A−1)〜(A−10)及び比較被膜形成剤(A’−1)〜(A’−9)を調製した。各被膜形成剤及び比較被膜形成剤について、保存安定性及び臭気を評価した。
【0052】
<仕上げ処理剤(B)の調製>
成分(b−1)、(b−2)、(b−3)及び(b−4)、並びに、比較成分(b−1)、(b−2)、(b−3)及び(b−4)を、夫々、表3及び4に示した配合比を使用して室温で撹拌混合して、仕上げ処理剤(B−1)〜(B−11)及び比較仕上げ処理剤(B’−1)〜(B’−10)を調製した。各仕上げ処理剤及び比較仕上げ処理剤について、分散性及び保存安定性を評価した。
【0053】
各被膜形成剤及び比較被膜形成剤、並びに、各仕上げ処理剤及び比較仕上げ処理剤の評価に使用した試験法は下記の通りである。
【0054】
<保存安定性>
被膜形成剤(A)を200メッシュのステンレス製篩でろ過して100ミリリットル採取した。採取した被膜形成剤(A)の全量をガラス容器中に封入した。また、仕上げ処理剤(B)についても、上記と同一にろ過して100ミリリットル採取した。採取した仕上げ処理剤(B)の全量をポリエチレン製密閉容器中に封入した。被膜形成剤(A)及び仕上げ処理剤(B)のいずれも、40℃で30日間保存し、次いで、−5℃で30日間保存した。次いで、これらの外観を目視で検査して評価した。被膜形成剤(A)及び仕上げ処理剤(B)の評価結果を、夫々、下記の記号で示した。
被膜形成剤(A)の評価結果:
○:液の濁り、変色、沈殿、結晶物の析出のいずれも認められなかったもの
Δ:液の濁り、変色、沈殿、結晶物の析出のいずれか一つが認められたもの
×:液の濁り、変色、沈殿、結晶物の析出のいずれか二つ以上が認められたもの
仕上げ処理剤(B)の評価結果:
○:変色、分散物の凝集、液相の分離のいずれも認められなかったもの
Δ:変色、分散物の凝集、液相の分離のいずれか一つが認められたもの
×:変色、分散物の凝集、液相の分離のいずれか二つ以上が認められたもの
【0055】
<臭気>
被膜形成剤(A)を、約20ミリリットルガラス容器に採取して密栓した。これを室温で5分間放置した後、開栓して匂いを嗅ぐことにより臭気の評価を行った。評価結果を、下記の記号で示した。
○:臭気を僅かに感じた程度のもの
Δ:臭気をやや強く感じたもの
×:臭気を非常に強く感じたもの
【0056】
<分散性>
仕上げ処理剤(B)を200メッシュのステンレス製篩でろ過して、100ミリリットル採取した。このようにして採取した仕上げ処理剤(B)を、ポリエチレン製密閉容器中に封入した。これらを、常温で静置し、外観の経時変化を目視観察して評価を行った。評価結果を、下記の記号で示した。
○:30日間経過後も液が完全に均一な状態を保っていたもの
Δ:10日間以上30日間未満で凝集及び沈降が認められたもの
×:10日間未満で凝集及び沈降が認められたもの
【0057】
上記の評価結果を、夫々、表1及び2、並びに、表3及び4に示した。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【0062】
表1には本発明の被膜形成剤(A)に関し、成分(a−1)、(a−2)及び(a−3)の種類及び配合比を変化させた配合例(A−1)〜(A−10)を示した。いずれも良好な保存安定性及び臭気を示した。このうち配合例(A−10)は、成分(a−3)として、本発明の範囲の炭素数を有する飽和炭化水素系溶剤と芳香族炭化水素系溶剤とを所定の比率で配合した溶剤を使用したものである。臭気を多少感じたものの本発明の効果を損なうものではなかった。
【0063】
一方、表2には、成分(a−1)、(a−2)及び(a−3)の配合比が本発明の範囲外のものである配合例(A’−2)、並びに、比較成分(a−1)及び(a−3)を使用した(A’−1)及び(A’−3)〜(A’−9)の比較被膜形成剤を示した。(A’−1)、(A’−3)、(A’−4)及び(A’−9)では、保存安定性及び臭気ともに比較的良好な結果が得られた。しかし、それ以外の比較被膜形成剤では、保存安定性又は臭気が悪い結果となった。
【0064】
表3には、本発明の仕上げ処理剤(B)に関し、成分(b−1)、(b−2)、(b−3)、(b−4)及び(b−5)の種類及び配合比を変化させた配合例(B−1)〜(B−11)を示した。いずれも良好な分散性及び保存安定性を示した。このうち配合例(B−10)に関しては、多少の変色等が見られたものの本発明の効果を損なうものではなかった。
【0065】
一方、表4には、成分(b−1)、(b−2)、(b−3)、(b−4)及び(b−5)の配合比が本発明の範囲外のものである配合例(B’−1)、(B’−2)、(B’−9)及び(B’−10)、並びに、比較成分(b−1)、(b−2)、(b−3)及び(b−4)を使用した(B’−3)〜(B’−8)の比較仕上げ処理剤を示した。(B’−1)〜(B’−6)では、分散性及び保存安定性ともに良好な結果が得られた。しかし、それ以外では、分散性及び保存安定性のいずれか一つ以上が悪い結果となった。
【0066】
(実施例1〜20及び比較例1〜16)
上記のようにして調製した被膜形成剤(A−1)〜(A−10)及び比較被膜形成剤(A’−1)〜(A’−9)、並びに、仕上げ処理剤(B−1)〜(B−11)及び比較仕上げ処理剤(B’−1)〜(B’−10)を、表5〜8に示すように組み合わせて実施し、拭き上げ易さ、撥水性(初期撥水性、耐久撥水性及び保存後撥水性)及び光沢を評価した。拭き上げ易さ、撥水性及び光沢の評価に使用した試験法は下記の通りである。
【0067】
<拭き上げ易さ>
黒色塗装板(材質:SPCC−SD、規格:JIS−G−3141、寸法:0.8mm×70mm×150mm、電着後片面アクリル塗装したもの、株式会社アサヒビーテクノ製)の塗装面に、表5〜8に示した被膜形成剤(A−1)〜(A−10)及び比較被膜形成剤(A’−1)〜(A’−9)を、スポイトを使用して3滴(約3cc)滴下した。次いで、該被膜形成剤が均一な薄膜になるように、乾燥した清浄な布(原糸径が1〜5μmのポリエステル/ナイロン複合繊維からなる布帛、水分:5%以下)を使用し、拭き上げることにより塗布した。このようにして得られた黒色塗装板を、23℃、65%RH環境下で20分間放置して被膜形成剤を塗布した試験片(I)とした。
【0068】
表5〜8に示した仕上げ処理剤(B−1)〜(B−11)及び比較仕上げ処理剤(B’−1)〜(B’−10)を、水に濡らした微細繊維布(繊維径300dT以下のポリエステル/ナイロン複合繊維から成る布帛)の中心付近に約1g滴下した。該微細繊維布を、上記のようにして得た被膜形成剤を塗布した試験片(I)上で往復10回擦り、仕上げ処理剤で処理した試験片(II)とした。
【0069】
拭き上げ易さの評価は、上記のように試験片(I)上で仕上げ処理剤を含浸させた微細繊維布を往復10回擦った際に、試験者が感じた滑らかさの感覚で評価した。また、比較のため、被膜形成剤(A)を塗布していない黒色塗装板についても、同様にして、該黒色塗装板上で往復10回擦り評価した(比較例2)。評価結果を下記の記号で示した。
○:全く引っ掛かり感がなかったもの
Δ:多少の引っ掛かり感があったもの
×:非常に引っ掛かり感があったもの
【0070】
<撥水性>
撥水性は、下記の初期撥水性、耐久撥水性及び保存後撥水性にて評価した。
【0071】
<初期撥水性>
上記のようにして製造した、仕上げ処理剤で処理した試験片(II)を、23℃、65%RH環境下で30分間放置した。該試験片の処理表面の接触角を、自動接触角計装置(協和界面化学株式会社製自動接触角計DM500(商標)、液滴:0.2マイクロリットル、純水、測定:θ/2法)を使用して測定し評価した。評価結果を下記の記号で示した。
◎:接触角100°以上のもの
○:接触角100未満95°以上のもの
Δ:接触角95未満85°以上のもの
×:接触角85°未満のもの
【0072】
<耐久撥水性>
上記のようにして製造した、仕上げ処理剤で処理した試験片(II)を、23℃、65%RH環境下で1日間放置した。次いで、該試験片を、ASTMG154促進耐候性試験機(ALTAS社製ユウブコンUC−1型(商標)、蛍光UVランプ使用、1サイクル:UV照射(60℃×8時間)+散水(50℃×4時間))に装填し、1,000時間処理した後取り出し、初期撥水性評価と同じ条件で接触角を測定し評価した。評価結果を下記の記号で示した。
◎:接触角100°以上のもの
○:接触角100未満95°以上のもの
Δ:接触角95未満85°以上のもの
×:接触角85°未満のもの
【0073】
<保存後撥水性>
上記のようにして保存安定性を評価した被膜形成剤(A)及び仕上げ処理剤(B)を使用した。上記の拭き上げ易さの評価と同一の方法で、被膜形成剤(A)を塗布し、次いで、仕上げ処理剤(B)で処理して試験片(III)とした。該試験片(III)を、上記の初期撥水性の評価と同じ条件で接触角を測定し評価した。評価結果を下記の記号で示した。
◎:接触角100°以上のもの
○:接触角100未満95°以上のもの
Δ:接触角95未満85°以上のもの
×:接触角85°未満のもの
【0074】
<光沢>
上記のようにして製造した、仕上げ処理剤で処理した試験片(II)を、23℃、65%RH環境下で30分間放置した。該試験片の処理表面の光沢を、JIS Z 8741に規定する鏡面光沢度測定方法に準拠して測定した。該測定に使用した鏡面光沢度測定装置は、堀場製作所製グロスチェッカーIG−331(商標)であった。評価結果を下記の記号で示した。
◎:鏡面光沢度測定値が90°以上のもの
○:鏡面光沢度測定値が85°以上90°未満のもの
Δ:鏡面光沢度測定値が80°以上85°未満のもの
×:鏡面光沢度測定値が80°未満のもの
【0075】
上記の評価結果を表5〜8に示す。評価結果において、Δが3個以上あるもの、及び、×が1個以上あるものは不良と判定した。下記の表中、比較例1は、仕上げ処理剤での処理を施していないものである。比較例1においては、上記のようにして被膜形成剤を均一な薄膜になるように塗布し10分間経過した後、その表面を、乾燥した清浄な微細繊維布で軽く擦り、次いで、23℃、65%RH環境下で1日間放置した後、初期撥水性については、上記と同一の自動接触角計装置を使用して接触角を測定し評価した。耐久撥水性については、上記比較例1の初期撥水性のときと同様に処理し、更に、23℃、65%RH環境下で1日間放置し、次いで、上記と同一のASTMG154促進耐候性試験機を使用して処理した後、上記と同一の自動接触角計装置を使用して接触角を測定し評価した。また、保存後撥水性については、保存安定性を評価した被膜形成剤(A)を使用し、上記比較例1の初期撥水性のときと同様に、被膜形成剤を均一な薄膜になるように塗布し10分間経過した後、その表面を、乾燥した清浄な微細繊維布で軽く擦り、次いで、23℃、65%RH環境下で1日間放置した後、上記と同一の自動接触角計装置を使用して接触角を測定し評価した。また、光沢については、上記の初期撥水性と同一にして処理した試験片を用いて、上記の光沢の評価と同一に23℃、65%RH環境下で30分間放置し、次いで、同一の鏡面光沢度測定装置を使用して測定した。比較例2は、被膜形成剤(A)での処理をせず、黒色塗装板に、直接、仕上げ処理(B)による処理を施したものである。比較例15(表8中の*2)は、上記の拭き上げ易さの項目で述べたと同様にして、乾燥した清浄な布を使用して、被膜形成剤(A−1)を塗布した後、更に、同一種類の新しい乾燥した布を使用して、仕上げ処理剤(B−1)による処理を施したものである。また、比較例16(表8中の*1)は、上記の拭き上げ易さの項目で述べたと同様にして、水に濡らした微細繊維布を使用して、被膜形成剤(A−1)を塗布した後、更に、同一種類の新しい水に濡らした微細繊維布を使用して、仕上げ処理剤(B−1)による処理を施したものである。
【0076】
【表5】

【0077】
【表6】

【0078】
【表7】

【0079】
【表8】

*1:水に濡らした微細繊維布を使用して、被膜形成剤(A−1)を塗布したもの
*2:乾燥した布を使用して、仕上げ処理剤(B−1)による処理を施したもの
【0080】
表5に示した実施例1〜10は、被膜形成剤(A)として、表1に示した配合例(A−1)〜(A−10)を使用し、かつ、仕上げ処理剤(B)として、表3に示した配合例(B−1)を使用したものである。いずれも良好な性状を示した。一方、比較例1は、仕上げ処理剤(B)を使用しなかったものである。被膜形成剤(A)のみでは、良好な性状を有するコーティング層は得られず、本発明の仕上げ処理剤(B)と組み合わせると著しく良好な性状を有するコーティング層が得られることが分かった。表6に示した実施例11〜20は、被膜形成剤(A)として、表1に示した配合例(A−1)を使用し、かつ、仕上げ処理剤(B)として、表3に示した配合例(B−2)〜(B−11)を使用したものである。いずれも得られたコーティング層は良好な性状を示した。一方、比較例2は、被膜形成剤(A)を使用しなかったものである。仕上げ処理剤(B)のみを使用しても、被膜形成剤(A)と併用しなければ、良好な性状を有するコーティング層を得ることができないことが分かった。
【0081】
一方、表7の比較例3〜6は、本発明の仕上げ処理剤(B−1)と比較被膜形成剤(A’−1)、(A’−3)、(A’−4)及び(A’−9)とを組み合わせたものである。該比較被膜形成剤(A’−1)、(A’−3)、(A’−4)及び(A’−9)は、保存安定性及び臭気ともに比較的良好なものであったが、得られたコーティング層の性状は良好ではなかった。表8の比較例7〜12は、本発明の被膜形成剤(A−1)と比較仕上げ処理剤(B’−1)〜(B’−6)とを組み合わせたものである。該比較仕上げ処理剤(B’−1)〜(B’−6)は、分散性及び保存安定性ともに良好な結果が得られたものではあるが、得られたコーティング層の性状は良好ではなかった。比較例13は、比較被膜形成剤(A’−1)と比較仕上げ処理剤(B’−1)とを組み合わせて使用したものである。(A’−1)は保存安定性及び臭気共に良好であり、かつ、(B’−1)も分散性及び保存安定性ともに良好であったが、これらから得られたコーティング層の性状は著しく悪いものとなった。比較例14は、本発明の被膜形成剤(A−1)と仕上げ処理剤(B−1)とを使用して、まず、(B−1)を基材上に塗布した後、その上に(A−1)を塗布したものである。得られたコーティング層の性状は著しく悪いものとなった。比較例15及び16は、いずれも、本発明の被膜形成剤(A−1)と仕上げ処理剤(B−1)とを使用したものである。比較例15は、乾燥した布を使用して、仕上げ処理剤(B−1)による処理を施したものであり、比較例16は、水に濡らした微細繊維布を使用して、被膜形成剤(A−1)を塗布したものである。いずれも得られたコーティング層の性状は悪いものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のコーティング層は、基材、例えば、車両外装等に対して、優れた撥水性及び良好な光沢を付与し得る。また、本発明のコーティング層形成方法は、使用する剤の保存性に優れ、かつ塗布時の作業性に優れるばかりではなく、得られたコーティング層が、基材、例えば、車両外装等に対して、優れた撥水性及び良好な光沢を付与し得る。従って、本発明コーティング層及び該コーティング層を形成する方法は、自動車の外装等のコーティングに、今後、大いに使用されることが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a−1)分子内に加水分解性官能基を1つ以上有するポリオルガノシロキサン 3〜45質量部、
(a−2)硬化触媒 0.05〜5質量部、及び、
(a−3)炭素数8〜15の飽和炭化水素系溶剤と炭素数8〜15の芳香族炭化水素系溶剤とから成り、上記飽和炭化水素系溶剤と上記芳香族炭化水素系溶剤との質量比が100/0〜50/50である有機溶剤 50〜96.95質量部
の合計100質量部を含む被膜形成剤(A)
を硬化して得られる層(I)、
並びに、
(b−1)分子側鎖にアミノ基を1つ以上有するポリオルガノシロキサン 0.05〜15質量部、
(b−2)分子鎖末端にアミノ基を2つ以上有するポリオルガノシロキサン 0.01〜10質量部、
(b−3)ノニオン系又はアニオン系界面活性剤により乳化されたシリコーン樹脂エマルジョン 固形分として1〜20質量部、
(b−4)親水性基含有有機溶剤 0.1〜25質量部、及び
(b−5)水 30〜98.84質量部
の合計100質量部を含む仕上げ処理剤(B)
を固化して得られる層(II)
を少なくとも備え、かつ、基材側に層(I)を備え、表面側に層(II)を備えるコーティング層。
【請求項2】
基材上に層(I)を備え、かつ、その上に層(II)を備える、請求項1記載のコーティング層。
【請求項3】
成分(a−3)を構成する炭素数8〜15の飽和炭化水素系溶剤がイソパラフィン系溶剤である、請求項1又は2記載のコーティング層。
【請求項4】
成分(b−4)がアルコールである、請求項1〜3のいずれか一つに記載のコーティング層。
【請求項5】
成分(a−1)が、分子鎖両末端に加水分解性官能基を有するポリジメチルシロキサンである、請求項1〜4のいずれか一つに記載のコーティング層。
【請求項6】
基材が車両外装である、請求項1〜5のいずれか一つに記載のコーティング層。
【請求項7】
(a−1)分子内に加水分解性官能基を1つ以上有するポリオルガノシロキサン 3〜45質量部、
(a−2)硬化触媒 0.05〜5質量部、及び
(a−3)炭素数8〜15の飽和炭化水素系溶剤と炭素数8〜15の芳香族炭化水素系溶剤とから成り、上記飽和炭化水素系溶剤と上記芳香族炭化水素系溶剤との質量比が100/0〜50/50である有機溶剤 50〜96.95質量部
の合計100質量部を含む被膜形成剤(A)
を、基材上に塗布し、次いで、5〜90分間環境温度で乾燥して層(I)を形成する工程(I)、
並びに、
(b−1)分子側鎖にアミノ基を1つ以上有するポリオルガノシロキサン 0.05〜15質量部、
(b−2)分子鎖末端にアミノ基を2つ以上有するポリオルガノシロキサン 0.01〜10質量部、
(b−3)ノニオン系又はアニオン系界面活性剤により乳化されたシリコーン樹脂エマルジョン 固形分として1〜20質量部、
(b−4)親水性基含有有機溶剤 0.1〜25質量部、及び
(b−5)水 30〜98.84質量部
の合計100質量部を含む仕上げ処理剤(B)
を、上記の層(I)上に塗布し、次いで、10分間以上環境温度で乾燥して層(II)を形成する工程(II)
を少なくとも含む、コーティング層形成方法。
【請求項8】
工程(I)における被膜形成剤(A)の塗布が、乾布を使用して実施され、かつ、工程(II)における仕上げ処理剤(B)の塗布が、湿布を使用して実施される、請求項7記載のコーティング層形成方法。
【請求項9】
成分(a−3)を構成する炭素数8〜15の飽和炭化水素系溶剤がイソパラフィン系溶剤である、請求項7又は8記載のコーティング層形成方法。
【請求項10】
成分(b−4)がアルコールである、請求項7〜9のいずれか一つに記載のコーティング層形成方法。
【請求項11】
成分(a−1)が、分子鎖両末端に加水分解性官能基を有するポリジメチルシロキサンである、請求項7〜10のいずれか一つに記載のコーティング層形成方法。
【請求項12】
基材が車両外装である、請求項7〜11のいずれか一つに記載のコーティング層形成方法。

【公開番号】特開2012−241093(P2012−241093A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111744(P2011−111744)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000132404)株式会社スリーボンド (140)
【Fターム(参考)】