説明

コーティング組成物

支持体をコーティングするためのコーティング組成物であって、約1.5〜3重量%の量の炭素と、約10〜15重量%の量のクロムと、約1〜3重量%の量の鉄と、約15重量%未満の量のニッケルと、約1〜3重量%の量の10ケイ素と、約10〜55重量%の量のタングステンとを含み、残りの重量%はコバルトである、コーティング組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング組成物、特に、ガラス加工産業における使用のための金属支持体をコーティングするためのコーティング組成物に関する。本発明はまた、当該コーティング組成物でコーティングされた物品、特に、コーティング組成物をその表面上に融着させて有するガラス加工産業における使用のためのプランジャーにまで拡張される。
【背景技術】
【0002】
ガラスを必要とされる形状および大きさにする操作は数世紀にわたって行われてきており、ガラスは、ガラスが操作され得るほど十分にその粘度が低い温度点である、作業温度まで加熱される必要がある。ガラスの作業温度は、使用されるガラスの種類によって決まるのではあるが、一般的には約500〜600℃近辺である。
【0003】
現代では、ガラスの容器(例えば、ジャーおよびビン)への成形は、大規模な工場操業において行われている。工場操業におけるガラス容器の主要な成形方法には、「プレス・アンド・ブロー」方式および「ブロー・アンド・ブロー」方式として知られる2つがある。いずれの場合においても、ガラスは、その作業温度より高くした状態で、金型に押し込まれる。プレス・アンド・ブロー方式では、ガラスは、まず部分的に成形された容器を作製するためにプランジャーを用いて金型にプレスされ、次いで、この部分的に成形された容器は、ガスを用いてブローされて、完成容器にされる。
【0004】
プレス・アンド・ブロー技術において使用されるプランジャーは、一般的に、表面コーティング材でコーティングされた金属支持体(通常は鋳鉄または鋼)でできている。表面コーティング材は、ガラス加工において経験される高温に耐えると同時に、許容される潤滑性および耐摩耗性を提供するように設計される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そうしたプランジャーをコーティングするために使用される公知の表面コーティング材は、多くの場合、ニッケル含有量の多い炭化タングステン材料を基材とする。しかしながら、こうした材料は、そうした高い作業温度において問題を呈することがあり、これが、成形されたガラス容器における問題(例えば、ニッケルボイド(nickel voids))に繋がり得る。そのような容器は解体され、作り直されなければならない。また、ガラス容器を成形するための高速機械に移行したいという要望がこの産業にある。これは、さらにより高い作業温度を必要とし、したがって、公知のコーティング材を用いて経験される問題を悪化させるであろう。
【0006】
ガラス加工産業において使用されるプランジャーのための改善されたコーティング材を提供することが、本発明の態様の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の最初の態様によれば、支持体をコーティングするためのコーティング組成物であって、
約1〜2.5重量%の量のホウ素と、
約1.5〜3重量%の量の炭素と、
約10〜15重量%の量のクロムと、
約1〜3重量%の量の鉄と、
約15重量%未満の量のニッケルと、
約1〜3重量%の量のケイ素と、
約10〜55重量%の量のタングステンと
を含み、残りの重量%はコバルトである、コーティング組成物が提供される。
【0008】
有利なことに、上述の成分を有するコーティングは、少量のニッケルを有し、したがって、先行技術にまつわる問題を回避する。しかしながら、驚くことに、このような組成物は、優れた耐熱性、潤滑および耐摩耗特性を有しており、したがって、先行技術の組成物より優れた組成物を提供することが見出された。
【0009】
好ましくは、支持体は、金属支持体であり、好ましくは、鋳鉄または鋼である。
好ましくは、コーティング組成物は、可融性組成物である。
用語「可融性組成物」とは、適切な温度条件下で、溶融し、融着して、それに続く冷却後に、単一の固体エンティティを形成し得る組成物を意味する。この単一の固体エンティティは、融着物と呼ばれ得る。
【0010】
好ましくは、ホウ素は、コーティング組成物中に約1.5〜2.0重量%の量で存在する。
好ましくは、炭素は、コーティング組成物中に約2〜2.75重量%の量で存在する。
【0011】
好ましくは、クロムは、コーティング組成物中に約11〜13重量%の量で存在する。
好ましくは、鉄は、コーティング組成物中に約1.75〜2.5重量%の量で存在する。
【0012】
好ましくは、ニッケルは、コーティング組成物中に約8〜15重量%、より好ましくは、約10〜13重量%の量で存在する。
好ましくは、ケイ素は、コーティング組成物中に約1.5〜2.25重量%の量で存在する。
【0013】
好ましくは、タングステンは、コーティング組成物中に約15〜50重量%の量で存在する。
好ましくは、コバルトは、コーティング組成物中に約10〜60重量%、より好ましくは、約14.5〜57.25重量%の量で存在する。好ましくは、コバルトは、コーティング組成物中に約20〜40重量%の量で存在する。
【0014】
好ましくは、コーティング組成物は、粉末である。
本発明のさらなる態様によれば、物品であって、その物品は、コーティングをその上に有するキャリア部分を含み、コーティングは、コーティング組成物から形成され、コーティング組成物は、
約1〜2.5重量%の量のホウ素と、
約1.5〜3重量%の量の炭素と、
約10〜15重量%の量のクロムと、
約1〜3重量%の量の鉄と、
約15重量%未満の量のニッケルと、
約1〜3重量%の量のケイ素と、
約10〜55重量%の量のタングステンと
を含み、残りの重量%はコバルトである、物品が提供される。
【0015】
好ましくは、キャリア部分は、金属、好ましくは鋳鉄または鋼を含む。このキャリア部分は、鋳鉄または鋼のロッドであり得る。
好ましくは、物品は、ガラス加工産業における使用のためのプランジャーである。
【0016】
本発明のさらなる態様によれば、ガラス加工産業における使用のためのプランジャーであって、プランジャーは、コーティングをその上に融着させて有する金属キャリア部分を含み、コーティングは、コーティング組成物から形成され、コーティング組成物は、
約1〜2.5重量%の量のホウ素と、
約1.5〜3重量%の量の炭素と、
約10〜15重量%の量のクロムと、
約1〜3重量%の量の鉄と、
約15重量%未満の量のニッケルと、
約1〜3重量%の量のケイ素と、
約10〜55重量%の量のタングステンと
を含み、残りの重量%はコバルトである、プランジャーが提供される。
【0017】
本発明のさらなる態様によれば、物品を形成する方法であって、方法は、コーティング組成物をキャリア部分上に融着させる工程を包含し、コーティング組成物は、
約1〜2.5重量%の量のホウ素と、
約1.5〜3重量%の量の炭素と、
約10〜15重量%の量のクロムと、
約1〜3重量%の量の鉄と、
約15重量%未満の量のニッケルと、
約1〜3重量%の量のケイ素と、
約10〜55重量%の量のタングステンと
を含み、残りの重量%はコバルトである、方法が提供される。
【0018】
好ましくは、コーティング組成物は、キャリア部分上に高速酸素燃料(High Velocity Oxy Fuel:HVOF)溶接により融着される。
本明細書に含まれる特徴は全て、上記の態様の任意のものと任意の組み合わせで組み合され得る。
【0019】
本発明のより良い理解のために、また本発明の実施形態がどのように実施され得るかを示すために、ここで、以下の図面および実施例配合物を例として参照する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の可融性材料組成物をその上に融着させて有する、ガラス加工産業における使用のためのプランジャーを示す部分切断図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、僅かにテーパーのついた細長軸メンバー104およびベース部分106を有し、切断面が円形である、プランジャー102を示している。このプランジャー102は、コーティング材110をその上に融着させて有する鋼コア108を含む。コーティング材は、0.3〜0.8mmの厚さで塗布される。このコーティング材は本発明の可融性組成物であり、当該技術分野において知られているようにHVOF溶接により鋼コアに塗布される。
【0022】
このプランジャーは、上記の導入部分において検討されるようにガラス加工産業において使用される。しかしながら、融着された本発明の可融性組成物であるこのコーティング材は、耐熱性、耐摩耗性および潤滑の点で、先行技術に勝る利点を提供する。
(実施例)
AISI−SAE 8620の熱処理可能低合金(Heat Treatable Low Alloy:HTLA)鋼から作られたプランジャーは、高速酸素燃料(High
Velocity Oxy Fuel:HVOF)溶接を用いてその上に融着させた可融性材料を有していた。
【0023】
可融性材料を支持体プランジャーに塗布し、そのコーティング合金を、重量法、容量法、IR燃焼法および誘導結合プラズマ質量分析法を用いて試験し、それは以下の組成を有することが分かった。
ホウ素:1.97重量%
炭素:2.58重量%
コバルト:33.23重量%
クロム:11.68重量%
鉄:1.82重量%
ニッケル:13.00重量%
ケイ素:1.72重量%
タングステン:34.00重量%
上述のコーティング組成物をその上に融着させて有するプランジャーは、先行技術のプランジャーよりも高い温度にて、先行技術のプランジャーよりも速い速度で機能することができ、したがって、より速い速度およびより高い温度に関してより高い収量および原価効率をもたらす。
【0024】
さらに、上記で検討したコーティング組成物でコーティングされたプランジャーは、ニッケルベースのコーティング材にまつわる問題(例えば、ガラス中のニッケルボイド)を回避する。
【0025】
本明細書と同時にまたは本明細書に先立って本願に関連して提出され、本明細書とともに公衆の閲覧に付された全ての書類および文献に注意が向けられ、全てのそのような書類および文献の内容が、参照により本明細書に援用される。
【0026】
本明細書(いずれの添付の特許請求の範囲、要約および図面も含む)に開示された特徴の全て、および/またはそのように開示されたあらゆる方法またはプロセスの工程の全てが、そのような特徴および/または工程の少なくとも一部が相互に両立し得ない場合の組み合わせを除き、あらゆる組み合わせで組み合され得る。
【0027】
本明細書(いずれの添付の特許請求の範囲、要約および図面も含む)に開示された各特徴は、明示的に別段の指定がない限り、同一、同等または類似の目的に適う代替的な特徴と取り替えられ得る。したがって、明示的に別段の指定がない限り、開示された各特徴は、包括的な一連の同等または類似の特徴の一例であるにすぎない。
【0028】
本発明は、上述の1つまたは複数の実施形態の詳細に限定されない。本発明は、本明細書(いずれの添付の特許請求の範囲、要約および図面も含む)に開示された特徴のあらゆる新規な特徴もしくはあらゆる新規な組み合わせ、またはそのように開示されたあらゆる方法もしくはプロセスの工程のあらゆる新規な工程もしくはあらゆる新規な組み合わせにまで拡張される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体をコーティングするためのコーティング組成物であって、
約1〜2.5重量%の量のホウ素と、
約1.5〜3重量%の量の炭素と、
約10〜15重量%の量のクロムと、
約1〜3重量%の量の鉄と、
約15重量%未満の量のニッケルと、
約1〜3重量%の量のケイ素と、
約10〜55重量%の量のタングステンと
を含み、残りの重量%はコバルトである、コーティング組成物。
【請求項2】
前記コーティング組成物は、可融性組成物である、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
ホウ素が、前記コーティング組成物中に約1.5〜2.0重量%の量で存在する、請求項1または2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
炭素が、前記コーティング組成物中に約2〜2.75重量%の量で存在する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
クロムが、前記コーティング組成物中に約11〜13重量%の量で存在する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
鉄が、前記コーティング組成物中に約1.75〜2.5重量%の量で存在する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
ニッケルが、前記コーティング組成物中に約8〜15重量%の量で存在する、請求項1〜6のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
ケイ素が、前記コーティング組成物中に約1.5〜2.25重量%の量で存在する、請求項1〜7のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項9】
タングステンが、前記コーティング組成物中に約15〜50重量%の量で存在する、請求項1〜8のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項10】
前記コバルトが、前記コーティング組成物中に約10〜60重量%の量で存在する、請求項1〜9のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項11】
前記コーティング組成物が、粉末である、請求項1〜10のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項12】
物品であって、前記物品は、コーティングをその上に有するキャリア部分を含み、前記コーティングは、コーティング組成物から形成され、前記コーティング組成物は、
約1〜2.5重量%の量のホウ素と、
約1.5〜3重量%の量の炭素と、
約10〜15重量%の量のクロムと、
約1〜3重量%の量の鉄と、
約15重量%未満の量のニッケルと、
約1〜3重量%の量のケイ素と、
約10〜55重量%の量のタングステンと
を含み、残りの重量%はコバルトである、物品。
【請求項13】
前記キャリア部分が、金属を含む、請求項12に記載の物品。
【請求項14】
ガラス加工産業における使用のためのプランジャーであって、前記プランジャーは、コーティングをその上に融着させて有する金属キャリア部分を含み、前記コーティングは、コーティング組成物から形成され、前記コーティング組成物は、
約1〜2.5重量%の量のホウ素と、
約1.5〜3重量%の量の炭素と、
約10〜15重量%の量のクロムと、
約1〜3重量%の量の鉄と、
約15重量%未満の量のニッケルと、
約1〜3重量%の量のケイ素と、
約10〜55重量%の量のタングステンと
を含み、残りの重量%はコバルトである、プランジャー。
【請求項15】
物品を形成する方法であって、前記方法は、コーティング組成物をキャリア部分上に融着させる工程を包含し、前記コーティング組成物は、
約1〜2.5重量%の量のホウ素と、
約1.5〜3重量%の量の炭素と、
約10〜15重量%の量のクロムと、
約1〜3重量%の量の鉄と、
約15重量%未満の量のニッケルと、
約1〜3重量%の量のケイ素と、
約10〜55重量%の量のタングステンと
を含み、残りの重量%はコバルトである、方法。
【請求項16】
前記コーティング組成物が、前記キャリア部分上に高速酸素燃料(High Velocity Oxy Fuel:HVOF)溶接により融着される、請求項15に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−532202(P2012−532202A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516855(P2012−516855)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【国際出願番号】PCT/GB2010/050930
【国際公開番号】WO2011/001157
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(511314739)ハンプレンコ プレシジョン エンジニアズ リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】HUNPRENCO PRECISION ENGINEERS LIMITED
【Fターム(参考)】