説明

コーヒー含有飲料の製造方法

【課題】コーヒーの香り成分を高めたコーヒー含有飲料の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、温水を用いてコーヒー豆からコーヒー成分を抽出する第一抽出工程(S101)と、第一抽出工程終了後、第二の温水を用いて前記コーヒー豆からコーヒー成分を抽出する第二抽出工程(S103)と、第一抽出工程及び前記第二抽出工程を経ることにより得られた抽出液の成分を調整してコーヒー含有飲料を得る調整工程(S105)と、調整工程で得られたコーヒー含有飲料を密閉容器に封入するパッケージ工程(S107)と、を含むコーヒー含有飲料の製造方法である。第二の温水は35℃以上の温水であり、調整工程において、抽出液に対し、水による希釈を行わない、または、抽出液に対する水の添加量の上限を、コーヒー豆の重量を基準として300重量%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーヒー含有飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のコーヒー飲料の製造方法としては、例えば特許文献1に記載されたものがある。この方法では、コーヒー抽出液を得る抽出工程において、抽出桶に熱水、温水若しくは水(以下、温水等という)の供給を経た後、所定の待ち時間を置く。こうすることにより、抽出桶内でコーヒー豆微粉末層が濾材として機能し、コーヒー抽出液の濁り成分となるコーヒー豆に由来する微小な粒子の量を低減させる。これにより、コーヒー独特の風味を保ちつつ、コーヒー抽出の濁度を低減させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−17262号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】最新・ソフトドリンクス、社団法人 全国清涼飲料工業会、財団法人 日本炭酸飲料検査協会 監修、平成15年9月30日発行
【非特許文献2】「コーヒーの風味向上の研究−脱酵素いれたてパック製法の開発」 小杉浩章 化学と教育 55巻11号(2007年)542頁〜545頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、容器入りコーヒー飲料の製造においては、トップフレーバーは最初に抽出されること、したがって、できるだけ短時間に必要最小量だけ抽出し全量使用することが必要であること、が知られていた(非特許文献1)。そのため、従来の抽出工程では、コーヒー豆に対して少量の温水等でコーヒー成分を抽出し、得られたコーヒー抽出液にイオン交換水等の水を加えて全体の容量を調整するのが一般的であった(非特許文献2)。また、多量の温水でコーヒー成分を抽出すると時間がかかるため、工場での大量生産には非効率であった。
【0006】
そして、特許文献1のように抽出工程を2段階で行うことは、コーヒー成分を高濃度に抽出するのにより適していた。したがって、抽出工程を2段階で行う方法は、さらに製造工程を効率化させる点でも優れていた。
【0007】
しかしながら、上記文献記載の従来技術は、コーヒーの香りを十分に立たせる点でさらに改善の余地を有していた。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、コーヒーの香り成分を高めたコーヒー含有飲料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、2段階抽出工程を含むコーヒー含有飲料の製造方法において、調整工程で使用していた調整用の水をできるだけ少なくし、減らした調整用水と同量の温水をコーヒー豆に供給してコーヒー成分の抽出を行う方法を見出した。この方法によれば、従来と異質な香りを備える芳醇なコーヒー含有飲料を製造することができる。
【0010】
そのメカニズムは明らかではないが、本発明がもたらす特有な香り成分は他のコーヒー成分より溶出速度が遅いことが原因の一つと考えられる。そのため、コーヒーの主要な成分を取りきった後もこの香り成分はコーヒー豆に残存しているものと考えられる。したがって、大量の温水を用いて、当該香り成分を十分に抽出させることにより、抽出液中に含まれる香り成分の濃度を高めることができるものと考えられる。
【0011】
本発明によれば、
第一の温水を用いてコーヒー豆からコーヒー成分を抽出する第一抽出工程と、
前記第一抽出工程終了後、第二の温水を用いて前記コーヒー豆からコーヒー成分を抽出する第二抽出工程と、
前記第一抽出工程及び前記第二抽出工程を経ることにより得られた抽出液の成分を調整してコーヒー含有飲料を得る調整工程と、
前記調整工程で得られた前記コーヒー含有飲料を密閉容器に封入するパッケージ工程と、
を含み、
前記第二の温水は35℃以上の温水であり、
前記調整工程において、
前記抽出液に対し、水による希釈を行わない、または、
前記抽出液に対する水の添加量の上限を、前記コーヒー豆の重量を基準として300重量%とすることを特徴とするコーヒー含有飲料の製造方法
が提供される。
【0012】
この発明によれば、調整工程において、抽出液に対し、水による希釈を行わない、または、抽出液に対する水の添加量の上限を、コーヒー豆の重量を基準として300重量%とする。これにより、従来調整工程で用いていた温水を第一抽出工程及び第二抽出工程のいずれかに用いてコーヒー成分を抽出することができる。したがって、コーヒーの香り成分をコーヒー豆から十分に抽出することが可能になる。
【0013】
本発明は、前記調整工程において、前記抽出液に対し、水による希釈を行わない、または、前記抽出液に対する水の添加量の上限を、前記コーヒー豆の重量を基準として30重量%とする構成を採用することができる。これにより、スモーキーな香り成分をより効果的に楽しむことができる。
【0014】
本発明において、第二の温水の温度が第一の温水の温度よりも低い構成を採用することができる。これにより、余分な雑味成分の溶出を抑えつつ、抽出液に含まれるコーヒーの香り成分の濃度を相対的に高めることができる。
【0015】
本発明において、第一の温水及び第二の温水は、いずれも35℃以上100℃以下の温水である構成を採用することができる。これにより、コーヒーの香り成分を効率よく抽出しつつ、雑味成分の溶出を抑えることが可能となる。
【0016】
本発明において、第一の温水は60℃以上100℃以下の温水であり、第二の温水は35℃以上55℃以下の温水である構成を採用することができる。これにより、第一の温水にはコーヒー成分を効率よく抽出させる一方、第二の温水には、コーヒーの香り成分のうちスモーキー感、やわらかなロースト感を与える成分を選択的に抽出させることができる。したがって、より芳醇なコーヒー含有飲料を提供することが可能となる。
【0017】
本発明において、第一抽出工程の終了後、3分〜15分経過した時点で前記第二抽出工程を開始する構成を採用することができる。これにより、第一抽出工程の後、一度お湯切りの保持工程を置くことで、続けて抽出するよりも、第一抽出と第二抽出の温度差の効果をより得やすい。したがって、雑味の抽出を効果的に抑制することができる。
【0018】
本発明において、調整工程において、水による希釈を行わない構成を採用することができる。これにより、従来調整工程で用いていた温水の全量を第一抽出工程及び第二抽出工程のいずれかに用いてコーヒー成分を抽出することができる。したがって、コーヒーの香り成分をコーヒー豆からさらに十分に抽出させ、香り高い容器入りコーヒー含有飲料を提供することが可能となる。
【0019】
本発明において、第一の温水および第二の温水の合計重量が、コーヒー豆の重量に対して15倍以上35倍以下である構成を採用することができる。これにより、コーヒーの香り成分を効率よく抽出させつつ、雑味の抽出を抑えることが可能となる。
【0020】
本発明において、第一の温水および前記第二の温水の合計重量が、コーヒー豆の重量に対して20倍以上30倍以下である構成を採用することができる。これにより、コーヒーの香り成分をさらに効率よく抽出させつつ、雑味の抽出をさらに抑えることが可能となる。
【0021】
本発明によれば、調整工程において、抽出液に対して、甘味成分、香味成分および乳成分のうち、いずれか一種以上を添加する構成を採用することができる。これにより、ブラックコーヒー以外のコーヒー成分を含有する飲料であっても、コーヒーの良好な香り成分を楽しむことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、容器入りコーヒー含有飲料の香り成分を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る製造方法の工程を示すフローチャートである。
【図2】本発明の実施の形態に係る原理を説明するための図である。
【図3】本発明の実施例のコーヒー豆の粒度評価の結果を示す図である。
【図4】本発明の実施例及び比較例の香気成分の評価の結果を示す図である。
【図5】本発明の実施例及び比較例のグアヤコール類の評価の結果を示す図である。
【図6】本発明の実施例及び比較例の官能評価の結果を示す図である。
【図7】従来の技術を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0025】
本発明の第1の実施形態は、容器入りのコーヒー含有飲料を製造する方法である。
【0026】
図1は、本実施形態の製造方法の工程を示すフローチャートである。図2は、本実施形態の原理を説明するための図である。
【0027】
この方法は、温水15aを用いてコーヒー豆からコーヒー成分を抽出する第一抽出工程(図1S101、図2(A))と、第一抽出工程終了後、温水15bを用いてコーヒー豆からコーヒー成分を抽出する第二抽出工程(S103、図2(C))と、第一抽出工程及び第二抽出工程を経ることにより得られたコーヒー抽出液17の成分を調整してコーヒー含有飲料を得る調整工程(S105)と、調整工程で得られたコーヒー含有飲料を密閉容器に封入するパッケージ工程(S107)と、を含む。温水15bは35℃以上の温水である。調整工程において、コーヒー抽出液17に対し、水による希釈を行わない、または、コーヒー抽出液17に対する水の添加量の上限を、コーヒー豆の重量を基準として300重量%とする。
【0028】
本実施形態では、コーヒー豆は、従来公知のものが使用できる。コーヒー豆はブレンドしてもよく、一種類のみを用いてもよい。
【0029】
本実施形態において、コーヒー豆は、コーヒー豆を粉砕することによって形成される粉砕コーヒー豆微粉末(以下、「粉砕コーヒー豆」という)を使用することができる。粉砕コーヒー豆は、抽出機の大きさに合わせた粒度に粉砕する。
【0030】
具体的には、目開き1.0mmのタイラー(TYLER)規格の篩上に粉砕コーヒー豆の重量が70%以上保持されると好ましい。これにより、抽出工程における篩の目詰まりを防ぐことができる。
【0031】
本実施形態では、コーヒー豆に対し、最大35倍もの大量の温水を用いて抽出工程を行うため、目詰まりによるプロセストラブルが生じやすい。特にブラックコーヒーの製造では、調整工程で甘味成分や乳製品を投入しないため、抽出工程が最終製品の味を決定するといっても過言ではない。したがって、抽出工程は精密に制御して実施しなければならず、目詰まりによるプロセストラブルの発生を抑止することは重要な課題となる。
【0032】
そこで、目開き1.0mmのタイラー(TYLER)規格の篩上に残る粉砕コーヒー豆の重量を75%〜95%とすることにより、目詰まりの問題をさらに低減させることができる。これにより、抽出工程のトラブルをさらに低減させることができる。粉砕コーヒー豆の粒度を調整することにより、製造される飲料の味の厚みを調整することも可能となる。
【0033】
なお、ブラックコーヒーとは、甘味成分及び乳成分をいずれも含まないコーヒー含有飲料をいう。
【0034】
このように粉砕されたコーヒー豆は、通常は、図2(A)に示されるように、抽出桶10内のメッシュ12上にチャージする。
【0035】
第一抽出工程では、シャワー14から温水15aを粉砕コーヒー豆13に供給する。抽出桶10の下部に設置されているバルブ11を開くことにより、コーヒー抽出液17が得られる。
【0036】
温水15aは、粉砕コーヒー豆13の重量に対して2〜4倍とする。温水15aが、粉砕コーヒー豆13の重量に対して少なすぎると、コーヒーの基本的な味(うまみ成分、有機酸)が抽出されないという点で好ましくない。一方、温水15aが、粉砕コーヒー豆13の重量に対して多すぎると、雑味成分が多くなるという点で好ましくない。
【0037】
温水15aは35℃以上100℃以下の温水とすることができる。温水15aの温度が低すぎるとコーヒー成分の抽出率が低下するため好ましくない。温水15aの温度が高温すぎると、雑味成分の溶出が増加してしまうという点で好ましくない。温水15aは60℃以上100℃以下とするとより好ましく、60℃以上70℃以下とすると特に好ましい。こうすることにより、コーヒー成分を効率よく抽出させることが可能となる。
【0038】
第一抽出工程で抽出されたコーヒー抽出液17を溜めずに、第二抽出工程の温水15bを流してもよく、第一抽出工程で抽出されるコーヒー抽出液17は、抽出桶10に溜めておいて、第二抽出工程の際に一緒に流してもよい。
【0039】
図2(B)で示すように、第一抽出工程の終了後、放置し、3分〜15分経過した時点で第二抽出工程を開始する(図2(C))。3分以上経過後に第二抽出工程を行うことで、第一抽出工程で使用した温水15aをお湯切りすることができる。したがって、第一抽出工程と第二抽出工程との温度差の効果をより効果的に得ることができる。よって、良好なコーヒー成分を余すことなく抽出できるため好ましい。また、15分以内で第二抽出工程を行うことで、香気成分の希散を抑えるため好ましい。この方法は、スモーキーな香り成分を効果的に抽出できるため、ブラックコーヒーの製法としてより好適である。
【0040】
第二抽出工程では、シャワー14から温水15bを粉砕コーヒー豆13に供給する。抽出桶10の下部に設置されているバルブ11を開くことにより、コーヒー抽出液17が得られる。
【0041】
温水15bの供給量は、温水15aおよび温水15bの合計重量が、粉砕コーヒー豆13の重量に対して15倍以上35倍以下となるように調整することができる。温水15bの量が少なすぎると、香気成分を十分に抽出できないため好ましくない。また、温水15bの供給量が多すぎると、雑味成分が溶出されてしまうという点、またブラックコーヒーとしてはコーヒーとしての味わいが弱くなるという点で好ましくない。温水15bの供給量は、温水15aおよび温水15bの合計重量が、粉砕コーヒー豆13の重量に対して20倍以上30倍以下とするとより好ましい。こうすることにより、香気成分と他のコーヒー成分とをバランスよく含むコーヒー抽出液17を得ることができる。
【0042】
温水15bは温水15aの温度よりも低くする。これにより、余分な雑味成分の溶出を抑えつつ、抽出液に含まれるコーヒーの香り成分の濃度を相対的に高めることができる。具体的には、35℃以上100℃以下の温水とすることができ、35℃以上55℃以下とするとより好ましい。温水15bの温度が低すぎると香り成分の抽出率が低下するため好ましくない。温水15bの温度が高温すぎると、雑味成分の溶出が増加してしまうという点で好ましくない。35℃以上50℃以下とすると効果的に香り成分を抽出でき、かつ、雑味成分の抽出を抑制することができる。したがって、香り成分をバランスよく抽出することができる。
【0043】
温水15bは35℃以上45℃以下とするとより好ましい。これにより、コーヒーの香り成分のうち、コーヒーの香り成分のうちスモーキー感、やわらかなロースト感を与える成分を選択的に抽出させることができる。具体的には、グアヤコール類を効率よく抽出することができ、中でもグアヤコール、4−アルキルグアヤコール及び4−アルケニルグアヤコールを好適に抽出することができる。4−エチルグアヤコールは柔らかなスモーキー感を与える一方、4−ビニル−グアヤコールは甘いスモーキー感を与える。したがって、より芳醇なコーヒー含有飲料を提供することが可能となる。
【0044】
なお、コーヒー抽出液17は比較的速やかに冷却、濾過又は遠心処理を行うことが好ましい。
【0045】
調整工程では、第一抽出工程及び第二抽出工程を経ることにより得られたコーヒー抽出液17の成分を調整してコーヒー含有飲料を得る。
【0046】
調整工程において、コーヒー抽出液17に対して、一又は二以上の添加物を添加することができる。添加物としては、甘味成分、香味成分、乳成分、抗酸化剤、pH調整剤が挙げられる。甘味成分として、砂糖などの糖類、マルチトール、エリスリトールなどの糖アルコール、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、ステビアなどの高甘味度甘味料等が挙げられる。また、香味成分として、香料、エキス等が挙げられる。また、乳成分として、ミルク、クリーム、濃縮乳、脱脂乳、練乳等が挙げられる。また、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸ナトリウム等の抗酸化剤や、炭酸カリウム、重曹、水酸化カリウム、リン酸水素ニカリウム、リン酸ニ水素ナトリウム、リン酸水素ニナトリウム等のpH調整剤を抽出液中に添加することもできる。
【0047】
調整工程において、添加する添加物は、水又は温水に溶解して添加することができる。ただし、抽出液に対する水の添加量の上限を、コーヒー豆の重量を基準として300重量%とするようにして添加する。使用する水の量が多すぎるとコーヒー成分の抽出に用いる温水の量を減らすこととなる。そうすると、コーヒーの香気成分を十分抽出することができなくなり好ましくない。抽出液に対する水の添加量の上限を、コーヒー豆の重量を基準として30重量%とすると、より好的にスモーキーな香気成分を抽出でき、水による希釈をせず、抽出液にそのまま溶解するのとさらにスモーキーな香気成分の濃度をさらに高めることができる。抽出液に対する水の添加量を少なくすることにより、ブラックコーヒーの製法としてより好適な方法とすることができる。
【0048】
パッケージ工程では、調整工程で得られたブラックコーヒー飲料を密閉容器に封入する。「密閉容器」は、店頭における陳列等のためにコーヒー飲料が封入される容器のことであり、そのようなものとしては缶、PETボトル、ビン、バッグインボックス、紙容器等が挙げられる。
【0049】
なお、上述の抗酸化剤又はpH調整剤は、調整工程で添加するかわりに、温水15a及び/又は温水15b中に添加してもよい。
【0050】
抗酸化剤としてアスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸ナトリウムを添加して抽出することで、酸化を抑えた抽出をすることができる。アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸ナトリウム粉末の添加量は、粉砕コーヒー豆の重量に対して0.01〜5重量%の範囲であることが好ましい。より好ましくは0.2重量%〜1重量%である。0.01重量%以上であると抗酸化の効果が期待できるため好ましく、5重量%以下であると香味に悪い影響を与えないので好ましい。
【0051】
また、pH調整剤として炭酸カリウム及び/又は重層を添加して抽出することで、抽出時のpHを変化させコーヒーの品質を安定化させることができる。pHを変化させるための添加物の量は、粉砕コーヒー豆の重量に対して0.1〜2重量%の範囲であることが好ましい。より好ましくは0.3重量%〜1重量%である。0.1重量%以上であると酸味を抑えボディーのある抽出液が採れるので好ましく、2重量%以下であると炭酸カリウム等の味の影響を抑えられるので好ましい。
【0052】
本実施形態において、コーヒー成分の抽出方法は特に限定されないが、抽出方法として例えば、ドリップ式抽出法、浸漬抽出法、カラム抽出法、エスプレッソ式抽出法等が挙げられる。
【0053】
つづいて、本実施形態の効果について説明する。本実施形態によれば、調整工程において、抽出液に対し、水による希釈を行わない、または、抽出液に対する水の添加量の上限を、コーヒー豆の重量を基準として300重量%とすることにより、従来調整工程で用いていた温水を第一抽出工程及び第二抽出工程のいずれかに用いてコーヒー成分を抽出することができる。したがって、コーヒーの香り成分をコーヒー豆から十分に抽出させることが可能になる。
【0054】
非特許文献1で記載されているように、従来から抽出の目的は、コーヒーの香りを抽出させるためであることは知られていた。しかし、トップフレーバーは最初に抽出されるため、できるだけ短時間に必要最少量だけ抽出し全量使用することが必要であることが、容器入りコーヒー飲料製造のスタンダードとなっていた。そして、コーヒー成分を低倍率で抽出し、水を加えて全体の容量を調整していた。
【0055】
また、図7で示すように、抽出倍率が7倍程度で固形分の回収率(抽出率)が頭打ちになることが知られていた。したがって、10倍以上の回収は製造時間が長くなるだけと考えられ、12倍以上の抽出は行われていなかった。なお、抽出倍率とは、コーヒー豆重量の何倍の抽出液を回収するかをいう。たとえば、抽出率12倍とは、コーヒー豆10gから120g又は120mLの抽出液をとることをいう。
【0056】
このような技術常識の中、本発明者は、従来の方法により抽出を終えたメッシュ上に残存した粉砕コーヒー豆にさらに温水を供給し抽出を行ったところ、コーヒーの香味成分が抽出されるという知見を得た。抽出された香味成分は、特にグアヤコール、4−エチルグアヤコール及び4−ビニル−グアヤコールが顕著に含まれていることがわかった。これらの成分はスモーキー感ややわらかなロースト感を与えることが知られている。
【0057】
そこで、調整工程において、抽出液に対し、水による希釈を行わない、または、抽出液に対する水の添加量の上限を、コーヒー豆の重量を基準として300重量%と構成を採用した。これにより、従来調整工程で用いていた温水を第一抽出工程及び第二抽出工程のいずれかに用いてコーヒー成分を抽出させることが可能となった。これにより、上記の特定の香味成分をバランスよく抽出することが可能となった。
【0058】
以上のように、得られた抽出液は風味の劣化も少なく、そのままパッケージして殺菌等することにより、芳醇なコーヒー含有飲料を得ることができる。
【0059】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0060】
[コーヒー豆の粒度評価]
コーヒー豆を粉砕機で粉砕し、目開き1mmのタイラー規格に則って作成された篩上に残る粉砕コーヒー豆の重量が75%、85%、95%である粉砕コーヒー豆をそれぞれ用意した。この粉砕コーヒー豆64kgを抽出桶10に投入してシャワー14から給水した。第一抽出工程では、65℃の温水を粉砕コーヒー豆の重量に対して3倍用いた。第一抽出工程後、5分放置し、第二抽出工程を行った。第二抽出工程では、40℃の温水を供給した。第二抽出工程では、第一抽出工程及び第二抽出工程の抽出液の合計重量が粉砕コーヒー豆の重量に対して23.3倍となるように抽出液を回収した。第一抽出工程及び第二抽出工程の間は、バルブ11は開放状態とし、自然な抽出が行われるようにした。
【0061】
第一抽出工程及び第二抽出工程を経て得られた抽出液について回収率をそれぞれ求めた。結果を図3に示す。なお、回収率は式1により求めた。
回収率=抽出液量/豆の重量×回収液のブリックス(糖度)・・・(式1)
【0062】
図3で示すように、いずれの粒度においても5倍程度で固形分としては取れきった状態となった。
【0063】
[抽出液の調整]
(実施例1)
図1および図2に示す工程に沿って、第一抽出工程及び第二抽出工程を行った。 200gの焙煎したコーヒー豆を粉砕機で粉砕し、粒度1.0mm以上、50%の粉砕コーヒー豆を用意した。この粉砕コーヒー豆200gを抽出桶10に投入してシャワー14から給水した。第一抽出工程では、65℃の温水を粉砕コーヒー豆の重量に対して3倍用いた。第一抽出工程後、5分放置し、第二抽出工程を行った。第二抽出工程では、40℃の温水を供給した。第二抽出工程では、第一抽出工程及び第二抽出工程の抽出液の合計重量が粉砕コーヒー豆の重量に対して23.3倍となるように抽出液を回収した。第一抽出工程及び第二抽出工程の間は、バルブ11は開放状態とし、自然な抽出が行われるようにした。
【0064】
(比較例1)
以下のようにコーヒー豆を調製し、第二抽出工程で用いる温水の温度及び重量を変えた以外は実施例1と同様にした。200gの焙煎したコーヒー豆を粉砕機で粉砕し、粒度1.0mm以上、10%の粉砕コーヒー豆を用意した。第二抽出工程では、65℃の温水を供給した。第二抽出工程では、第一抽出工程及び第二抽出工程の抽出液の合計重量が粉砕コーヒー豆の重量に対して5.8倍となるように抽出液を回収した。
【0065】
(比較例2)
以下のようにコーヒー豆を調製し、第一抽出工程及び第二抽出工程で用いる温水の温度及び重量をそれぞれ変えた以外は実施例1と同様にした。200gの焙煎したコーヒー豆を粉砕機で粉砕し、粒度1.0mm以上、10%の粉砕コーヒー豆を用意した。第一抽出工程では、95℃の温水を用いた。第二抽出工程では、95℃の温水を供給した。第二抽出工程では、第一抽出工程及び第二抽出工程の抽出液の合計重量が粉砕コーヒー豆の重量に対して4.5倍となるように抽出液を回収した。
【0066】
(比較例3)
以下のように第二抽出工程で用いる温水の温度及び重量を変えた以外は実施例1と同様にした。第二抽出工程では、65℃の温水を供給した。第二抽出工程では、第一抽出工程及び第二抽出工程の抽出液の合計重量が粉砕コーヒー豆の重量に対して13.5倍となるように抽出液を回収した。
【0067】
(比較例4)
以下のように第一抽出工程及び第二抽出工程で用いる温水の温度及び重量をそれぞれ変えた以外は実施例1と同様にした。第一抽出工程では、95℃の温水を用いた。第二抽出工程では、95℃の温水を供給した。第二抽出工程では、第一抽出工程及び第二抽出工程の抽出液の合計重量が粉砕コーヒー豆の重量に対して6.9倍となるように抽出液を回収した。
【0068】
(比較例5)
以下のように第二抽出工程で用いる温水の温度及び重量を変えた以外は実施例1と同様にした。第二抽出工程では、9℃の水を供給した。第二抽出工程では、第一抽出工程及び第二抽出工程の抽出液の合計重量が粉砕コーヒー豆の重量に対して23.3倍となるように抽出液を回収した。
【0069】
実施例1及び比較例1〜5で示す第一抽出工程及び第二抽出工程を経て得られた抽出液から回収率を求めた。実施例1及び比較例1〜5の工程条件と回収率の結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
[香気成分の評価]
実施例1および比較例1〜5で得られたそれぞれの抽出液に重曹等の添加物を同量ずつ加えた。実施例1及び比較例5の抽出液には、添加物をそのまま添加し、4650Lの調合液を得た。一方、比較例1〜4の抽出液には、添加物を水に溶解して加え、適宜水を添加して調合液の全量が4650Lとなるように調整した。このように作成した調合液を缶に充填し、レトルト殺菌を施した。
【0072】
得られた各サンプルの香気成分をガスクロマトグラフィーで分析した。図4に結果をしめす。なお、ガスクロマトグラフィーの条件は以下の通りである。
<測定条件>
測定装置:Hewlett Packard 6890 Gas Chromatography
カラム:DB−WAX キャピラリーカラム(0.25mm I.D.×30m、J&W製)
キャリアーガス:ヘリウム
キャリアーガス流量:1ml/分
カラム温度:40℃・5分→240℃(3℃/分にて昇温)
検出器:Hewlett Packard 5973 series MS (検出器温度 230℃)
【0073】
図4で示すように、実施例1の抽出液から得られた飲料では、香料成分がいずれも比較例1〜5に比べて高い傾向にあった。図5で示すように、特に、グアヤコール、4−ビニルグアヤコール、4−エチルグアヤコールの成分は比較例1〜5のいずれの抽出液から得られた飲料と対しても高かった。
【0074】
[官能評価]
パネラー120名にて、実施例1の抽出液から製造した本発明の飲料(ブラックコーヒー)、市販のブラックコーヒー飲料(市販品1、市販品2)の評価を行った。評価項目はおいしさ、香り、苦み、酸味、コーヒー感、味の濃さ、飲みやすさ、後味、コク、味の個性、購入意向である。パネラーに5:非常に満足、4:満足、3:やや満足、2:ふつう、1:不満と本発明の実施例1の飲料と比較例の各飲料に対して5段階評価してもらった。「5:非常に満足」と「4:満足」との合計人数をパネラー総数(120名)で割り、Top2Boxを算出した。結果を図6に示す。
【符号の説明】
【0075】
10 抽出桶
11 バルブ
12 メッシュ
13 コーヒー豆
14 シャワー
15a 温水
15b 温水
17 コーヒー抽出液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の温水を用いてコーヒー豆からコーヒー成分を抽出する第一抽出工程と、
前記第一抽出工程終了後、第二の温水を用いて前記コーヒー豆からコーヒー成分を抽出する第二抽出工程と、
前記第一抽出工程及び前記第二抽出工程を経ることにより得られた抽出液の成分を調整してコーヒー含有飲料を得る調整工程と、
前記調整工程で得られた前記コーヒー含有飲料を密閉容器に封入するパッケージ工程と、
を含み、
前記第二の温水は35℃以上の温水であり、
前記調整工程において、
前記抽出液に対し、水による希釈を行わない、または、
前記抽出液に対する水の添加量の上限を、前記コーヒー豆の重量を基準として300重量%とすることを特徴とするコーヒー含有飲料の製造方法。
【請求項2】
前記調整工程において、
前記抽出液に対し、水による希釈を行わない、または、
前記抽出液に対する水の添加量の上限を、前記コーヒー豆の重量を基準として30重量%とすることを特徴とする請求項1に記載のコーヒー含有飲料の製造方法。
【請求項3】
前記第二の温水の温度が前記第一の温水の温度よりも低いことを特徴とする請求項1または2に記載のコーヒー含有飲料の製造方法。
【請求項4】
前記第一の温水及び前記第二の温水は、いずれも35℃以上100℃以下の温水であることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載のコーヒー含有飲料の製造方法。
【請求項5】
前記第一の温水は60℃以上100℃以下の温水であり、
前記第二の温水は35℃以上55℃以下の温水であることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載のコーヒー含有飲料の製造方法。
【請求項6】
前記第一抽出工程の終了後、3分〜15分経過した時点で前記第二抽出工程を開始することを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載のコーヒー含有飲料の製造方法。
【請求項7】
前記調整工程において、水による希釈を行わないことを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載のコーヒー含有飲料の製造方法。
【請求項8】
前記第一の温水および前記第二の温水の合計重量が、前記コーヒー豆の重量に対して15倍以上35倍以下であることを特徴とする請求項1乃至7いずれかに記載のコーヒー含有飲料の製造方法。
【請求項9】
前記第一の温水および前記第二の温水の合計重量が、前記コーヒー豆の重量に対して20倍以上30倍以下であることを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載のコーヒー含有飲料の製造方法。
【請求項10】
前記調整工程において、前記抽出液に対して、甘味成分、香味成分および乳成分のうち、いずれか一種以上を添加することを特徴とする請求項1乃至9いずれかに記載のコーヒー含有飲料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−165763(P2012−165763A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−132361(P2012−132361)
【出願日】平成24年6月11日(2012.6.11)
【分割の表示】特願2008−145914(P2008−145914)の分割
【原出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(596126465)アサヒ飲料株式会社 (84)
【Fターム(参考)】