コーヒー抽出装置
【課題】コーヒーの風味成分を苦味成分と分離して抽出することが可能なコーヒー抽出装置を提供する。
【解決手段】コーヒー顆粒を収容する顆粒収容部と、第1の方向から前記顆粒収容部に抽出溶媒を注入する第1の注入手段と、前記抽出溶媒で抽出されたコーヒー抽出液をコーヒー顆粒層に対して第1の方向と同じ側から回収する回収手段とを備えるコーヒー抽出装置で、前記顆粒収容部が、コーヒー顆粒を略密封状に収容するための着脱可能な制動部材を備えるコーヒー抽出装置。
【解決手段】コーヒー顆粒を収容する顆粒収容部と、第1の方向から前記顆粒収容部に抽出溶媒を注入する第1の注入手段と、前記抽出溶媒で抽出されたコーヒー抽出液をコーヒー顆粒層に対して第1の方向と同じ側から回収する回収手段とを備えるコーヒー抽出装置で、前記顆粒収容部が、コーヒー顆粒を略密封状に収容するための着脱可能な制動部材を備えるコーヒー抽出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーヒーの風味成分を苦味成分と区別して抽出することが可能なコーヒー抽出液の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
焙煎したコーヒー豆を粉砕して顆粒状としたもの(以下、コーヒー顆粒という)から熱水または水で抽出して得られるコーヒー抽出液が、コーヒー飲料として飲用に供されている。コーヒー飲料には、300種類を超える風味成分と10種類程度の栄養成分が含まれることが知られ、嗜好飲料としてだけでなく栄養機能飲料としての役割も担っている。したがって、長期間に渡って通常の生活においてコーヒー飲料の摂取を続けるためには、風味の良いコーヒー抽出液を得ることが重要である。
コーヒーを抽出するときの最初の濃い数滴は、「エキスコーヒー」と呼ばれ、濃厚かつ香り高いコーヒー液で、口に含むとトロっとしており、しかも後味がよく、すっきり消えるコーヒーとして知られ、このエキスの魅力を最大限に引き出して入れたコーヒーこそ至高のコーヒーであるとの報告がある(非特許文献1参照)。
【0003】
コーヒーの抽出方法は、濾過法(ドリップ式)、浸漬法(撹拌またはボイリング式)、およびエスプレッソ法(蒸気式)に大別される。それぞれの抽出方法においても、風味の良いコーヒー抽出液を得る方法が種々提案されており、例えば、湯量を制限して一定時間放置するという浸漬法(非特許文献2参照)や、両端が解放されたガラス管にコーヒー顆粒を詰め、ガラス容器に入れた冷水を上部からゆっくりと滴下し、長時間を掛けて溶出液をガラス容器に回収する方法(ダッチコーヒー、水出しコーヒー、または点滴コーヒーと呼ばれる)がある。
【0004】
また、不快成分の抽出を抑える、或いは不快成分を選択除去することにより、コーヒー抽出液の風味を改善する方法が報告されている。例えば、コーヒー顆粒を抽出器に充填し、抽出器の下方から熱水を注入し、コーヒー顆粒と熱水とを混合した後、抽出器の下方からコーヒー抽出液を流出させる方法がある。この方法では、コーヒー顆粒と抽出溶媒(熱水)とを十分に撹拌混合することにより、抽出時間の短縮化が可能となり、長時間の抽出で溶出していたコーヒー豆中のエグミや渋味などの不快成分を減少できることが記載されている(特許文献1、2参照)。不快成分を選択的除去する方法としては、例えば、吸着剤として平均再孔半径が30〜100Å付近に分布した活性炭を使用し、この吸着剤を内蔵するフィルター部を着脱自在にコーヒー抽出部の下に設けたコーヒーメーカーが報告されている。このコーヒーメーカーによると、コーヒー抽出液中の渋味の原因となるクロロゲン酸の多量体などの高分子黒褐色成分を選択的に吸着除去できることが記載されている(特許文献3)。
【0005】
さらに、抽出器に抽出溶媒を注入する際にコーヒー顆粒が運動しないよう、コーヒー顆粒を上下2枚のフィルター間に収容してコーヒー抽出器に静置し、コーヒー顆粒の上方から下方に向けて、或いはコーヒー顆粒の下方から上方に向けて熱水等の抽出溶媒を流して抽出を行う、清澄なコーヒー抽出液の製造方法についての報告もある(特許文献4、5参照)。
【0006】
一方、コーヒー豆を焙煎すると、ハチの巣構造(ハニカム構造)が形成されることが知られ、ハニカム構造の隔壁は、その表面積が多孔質ゲルに匹敵する広い面積であり成分吸着能を有することが報告されている。(非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平01−148152号公報
【特許文献2】特開2004−16586号公報
【特許文献3】特許第2578316号公報
【特許文献4】特許第3827079号公報
【特許文献5】特開2002−291412号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】広瀬幸雄、他、コーヒー学講義、人間の科学社(東京)、2003
【非特許文献2】高木 誠、コーヒー文化研究、15、113-134、2008
【非特許文献3】M.R.Jisha, et al., Mater. Chem. Phys., 115, 33-39, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、コーヒーの風味成分を苦味成分と分離して抽出することが可能なコーヒー抽出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、苦味成分がコーヒー豆のハニカム構造の隔壁と親和力が強いことを発見した。そして、この親和力を利用してクロマトグラフィー式に苦味成分を除去すべく検討した結果、コーヒー顆粒を制動部材で略密封にした状態で顆粒収容部に収容し、堆積したコーヒー顆粒の層内を抽出溶媒が往復動するように通液させることによって、強過ぎる苦味成分を分離して抽出できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下に関する。
1.コーヒー顆粒を収容する顆粒収容部と、第1の方向から前記顆粒収容部に抽出溶媒を注入する第1の注入手段と、前記抽出溶媒で抽出されたコーヒー抽出液をコーヒー顆粒層に対して第1の方向と同じ側から回収する回収手段とを備えるコーヒー抽出装置で、
前記顆粒収容部が、コーヒー顆粒を略密封状に収容するための着脱可能な制動部材を備えるコーヒー抽出装置。
2.さらに、第1の方向と対向する第2の方向から前記顆粒収容部に抽出溶媒を注入する第2の注入手段を備える、1に記載のコーヒー抽出装置。
3.顆粒収容部が、コーヒー顆粒を軸線に沿う方向の断面形状において略四角形状に堆積した状態で収容しうる形状である、1又は2に記載のコーヒー抽出装置。
4.制動部材が網目部材である、1〜3のいずれかに記載のコーヒー抽出装置。
5.顆粒収容部内を流れる液体の流れを制御する、流れ制御装置を備える、1〜4のいずれかに記載のコーヒー装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明のコーヒー抽出装置を用いると、コーヒーの強過ぎる苦味成分を選択的に分離して抽出することができ、極めて風味の良いコーヒー抽出液を簡便に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、コーヒー抽出装置1を示す図である。
【図2】図2は、図1と同様の円柱状のコーヒー抽出装置1を示す図である。
【図3】図3は、図2と同様の円柱状のコーヒー抽出装置1を示す図である。
【図4】図4は、顆粒収容部2が横向きの姿勢となるように設置されたコーヒー抽出装置1を示す図である。
【図5】図5は、コーヒー顆粒Mの堆積層全体を制動部材である不織布で覆った形態、すなわち袋状の制動部材の図である。
【図6】図6は、制動部材11が蓋体の形態であるものを示した図である。
【図7】図7は、上下に開口を有する略円柱状のガラス管を顆粒収容部2を有するコーヒー抽出装置の図である。
【図8】図8は、上下に開口を有する略円柱状のガラス管を顆粒収容部を有するコーヒー抽出装置の図である。
【図9】図9は、顆粒収容部2の下部開口2Bに2方コックを有する抽出管が形成されている装置の図である。
【図10】図10は、制動部材を示す図である。
【図11】図11は、電動式のコーヒーメーカーの図である。
【図12】図12は、電動式のコーヒーメーカーの図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の抽出装置は、クロマトグラフのように苦味成分を分離して抽出することができる装置である。すなわち、コーヒー顆粒のハニカム構造の隔壁に吸着している苦味成分を一旦離脱させ、次いでこの苦味成分を露出した隔壁に親和性を利用して再吸着させることにより、強過ぎる苦味成分を分離できる。この苦味成分の脱離、再吸着を高効率で行うためには、コーヒー顆粒を略密封にした状態で顆粒収容部に収容することが重要である。また、本発明の装置では、苦味成分の脱離、再吸着を連続でスムーズに行うために、堆積したコーヒー顆粒の層内を抽出溶媒が往復動するように通液させることを特徴とする。以下、本発明を図面に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0014】
図1には、円柱状の顆粒収容部2を有するコーヒー抽出装置1が図示されている。図1におけるコーヒー抽出装置では、本発明でいう「第1の方向」が顆粒収容部2の下方に相当する。コーヒー抽出装置1は、上端の上部開口2A、下端の下部開口2B(注入口)、2B’(取出し口)が形成され、コーヒー顆粒Mを貯留する抽出部Eを備える顆粒収容部2と、前記上部開口2Aに対して着脱自在となる蓋体3と、抽出溶媒タンク4と、この抽出溶媒タンク4から前記顆粒収容部2の下部開口2Bに抽出溶媒を注入する供給弁5Aを備えた供給路5と、前記下部開口2B’からコーヒー抽出液を貯留タンク6に送る送液弁7Aを備えた送液管路7とで構成されている。ここで、図1に示すコーヒー抽出装置1では、抽出溶媒タンク4と供給路5と供給弁5Aが、本発明でいう「第1の注入手段」に相当し、貯留タンク6と送液管路7と送液弁7Aが、本発明でいう「回収手段」に相当する。前記顆粒収容部2の抽出部Eは、顆粒収容部2の下端位置に備えた下部濾材(第1の濾材とも表記する)10と、この下部顆粒より上方位置で顆粒収容部2に内接する位置に着脱自在に備えられる制動部材(第2の濾材、上部濾材とも表記する)11とを備えて構成されている。前記制動部材11は、下部濾材10の上面に投入されたコーヒー顆粒Mが自然に堆積した状態における上面と略一致する位置に、抽出溶媒を注入した際にコーヒー顆粒Mが流動しないようにセットされている。
【0015】
コーヒー顆粒Mが動かないようにするため、また苦味成分を再吸着しやすくするため、顆粒収容部2の形状は、コーヒー抽出液の進行方向に対して内径がほぼ均一の形状であることが好ましい。内径がほぼ均一の形状とは、コーヒー顆粒Mの堆積層の軸線に沿う方向の断面形状が略四角形状、すなわちコーヒー顆粒を円柱状または直方体状(立方体状を含む)に堆積して収容しうる形状を意味する。また、抽出溶媒の注入時に発生する泡による抽出効率の低下を防止するため、抽出部Eの形状(断面積と高さの関係)は、顆粒収容部2が図1〜図4に示すような円筒形状である場合、抽出部Eの軸線の沿う方向の略四角形状の断面形状において、四角形の幅(L)と高さ(H)の比(H/L)が0.5〜5.0の範囲となるように抽出部Eの形状を設計するのが好ましい。
【0016】
制動部材11は、コーヒー顆粒Mを略密封にホールドしうるもので、顆粒収容部2に内接しうるものであれば、その材質や形状など特に制限されない。制動部材としては、金属メッシュ、不織布(ネル布、リント布など)、紙フィルターなどの網目部材を例示することができる。図1には、コーヒー顆粒の上面と略同一形状の網目部材を制動部材11として設置した図が図示されている。網目部材を用いる場合、その周辺部を弾力性のある素材(例えば、綿ネルなどの不織布)で構成し、制動部材11を顆粒収容部2の内面に圧着するようにして、制動機能を強化するのが好ましい(図10参照)。また、図5には、コーヒー顆粒Mの堆積層全体を、制動部材である不織布で覆った形態、すなわち袋状の制動部材が図示されている。この形態では、第1の濾材および第2の濾材の区別がなく、制動部材11が第1の濾材としても機能する。さらに、図6に示すような制動部材11が蓋体の形態であるものも本発明に含まれるものとする。
【0017】
制動部材11は、コーヒー顆粒Mを略密封する状態になるよう、コーヒー顆粒Mの堆積層の最上面に当接する位置または近接する位置に設置する。近接する位置とは、コーヒー顆粒Mを抽出溶媒で湿潤させた際に、コーヒー顆粒が自然に膨潤する分(空隙)だけコーヒー顆粒Mの堆積層の最上面から離間した位置をさす。具体的にはコーヒー顆粒を僅かに圧縮する位置(コーヒー顆粒の体積の約0.9倍)から、抽出溶媒に接触させた後のコーヒー顆粒の膨潤を考慮し、コーヒー顆粒の体積の約2倍(好ましくは約1.5倍)に対応する位置との間の領域内をさす。
【0018】
第1の濾材は、抽出溶媒および抽出液が通過可能でコーヒー顆粒がコーヒー抽出液に落下して混入するのを防止できるものであれば特に制限はない。具体的には、金属メッシュ、不織布(ネル布、リント布など)、紙フィルターなどの網目部材を例示できる。濾材のメッシュを小さくし過ぎると目詰まりが発生しやすく、抽出に時間を要して過抽出を引き起こす可能性があることから、メッシュサイズは金属メッシュの場合、アメリカ式メッシュ20〜200番程度のものを用いるのが好ましい。また、コーヒー抽出液に含まれる油分を吸着除去できる観点からは、不織布を用いることが好ましい。
【0019】
図2には、図1と同様の円柱状のコーヒー抽出装置1が図示されている。図1と同様に、図2におけるコーヒー抽出装置では、本発明でいう「第1の方向」が顆粒収容部2の下方に相当する。コーヒー抽出装置1は、上端の上部開口2A、下端の下部開口2B(注入口兼取出し口)が形成され、コーヒー顆粒Mを貯留する抽出部Eを備える顆粒収容部2と、前記上部開口2Aに対して着脱自在となる蓋体3と、前記顆粒収容部2の下部開口2Bに連通する導管路8と、抽出溶媒タンク4と、この抽出溶媒タンク4から前記下部開口2Bに抽出溶媒を注入する供給路5と、下部開口2Bからコーヒー抽出液を貯留タンク6に送る送液管路7とで構成されている。前記導管路8は三方弁9で、供給路5および送液管路7と接続されている。図2に示すコーヒー抽出装置1では、抽出溶媒タンク4と供給路5と導管路8と三方弁9が、本発明でいう「第1の注入手段」に相当し、貯留タンク6と送液管路7と導管路8と三方弁9が、本発明でいう「回収手段」に相当する。図1と同様に、前記顆粒収容部2の抽出部Eは、顆粒収容部2の下端位置に備えた下部濾材10と、この下部顆粒より上方位置で顆粒収容部2に内接する位置に着脱自在に備えられる制動部材11とを備えて構成されている。
【0020】
図3には、図2と同様の円柱状のコーヒー抽出装置1が図示されている。図3におけるコーヒー抽出装置では、本発明でいう「第1の方向」が顆粒収容部2の下方に相当し、「第1の方向と対向する方向」が顆粒収容部2の上方に相当する。コーヒー抽出装置1は、上端の上部開口2A、下端の下部開口2B(注入口兼取出し口)が形成され、コーヒー顆粒Mを貯留する抽出部Eを備える顆粒収容部2と、前記上部開口2Aに対して着脱自在で開口3Aを有する蓋体3と、蓋体3の開口3Aを介して前記上部開口2Aに抽出溶媒タンク4から抽出溶媒を注入する供給弁5A’を備えた供給路5’と、前記顆粒収容部2の下部開口2Bに連通する導管路8と、抽出溶媒タンク4から前記下部開口2Bに抽出溶媒を注入する供給路5と、下部開口2Bからコーヒー抽出液を貯留タンク6に送る送液管路7とで構成されている。前記導管路8は三方弁9で、供給路5および送液管路7と接続されている。図3に示すコーヒー抽出装置1では、抽出溶媒タンク4と供給路5と導管路8と三方弁9が本発明でいう「第1の注入手段」に相当し、抽出溶媒タンク4と供給路5’と供給弁5A’が本発明でいう「第2の注入手段」に相当する。また、貯留タンク6と送液管路7と導管路8と三方弁9が、本発明でいう「回収手段」に相当する。図1と同様に、前記顆粒収容部2の抽出部Eは、顆粒収容部2の下端位置に備えた下部濾材10と、この下部顆粒より上方位置で顆粒収容部2に内接する位置に着脱自在に備えられる制動部材11とを備えて構成されている。
【0021】
図4には、図3と同様のコーヒー抽出装置で、顆粒収容部2が横向きの姿勢となるように設置されたコーヒー抽出装置1が図示されている。図4におけるコーヒー抽出装置では、本発明でいう「第1の方向」が顆粒収容部2の左側方向に相当し、「第1の方向と対向する方向」が顆粒収容部2の右側方向に相当する。コーヒー抽出装置1は、右端の右部開口2A、左端の左部開口2B(注入口兼取出し口)が形成され、コーヒー顆粒Mを貯留する抽出部Eを備える顆粒収容部2と、前記右部開口2Aに対して着脱自在で開口3Aを有する蓋体3と、蓋体3の開口3Aを介して前記右部開口2Aに抽出溶媒タンク4から抽出溶媒を注入する供給弁5A’を備えた供給路5’と、前記顆粒収容部2の左部開口2Bに連通する導管路8と、抽出溶媒タンク4から前記左部開口2Bに抽出溶媒を注入する供給路5と、左部開口2Bからコーヒー抽出液を貯留タンク6に送る送液管路7とで構成されている。前記導管路8は三方弁9で、供給路5および送液管路7と接続されている。顆粒収容部2の左端開口2Bには、コーヒー抽出液へのコーヒー顆粒Mの混入を防止する濾材10が着脱自在に備えられている。図4に示すコーヒー抽出装置1では、抽出溶媒タンク4と供給路5と導管路8と三方弁9が本発明でいう「第1の注入手段」に相当し、抽出溶媒タンク4と供給路5’と供給弁5A’が本発明でいう「第2の注入手段」に相当する。また、貯留タンク6と送液管路7と導管路8と三方弁9が、本発明でいう「回収手段」に相当する。
【0022】
本発明の装置では、まず制動部材11を利用して、コーヒー顆粒Mを略密封状に抽出部Eにセットする。つまり、図1〜3の装置では、下部濾材10の上面にコーヒー顆粒Mを投入する作業を行い、このコーヒー顆粒Mの上面に当接又は近接する位置に制動部材11をセットし、上部開口2Aを蓋体3で閉塞する。この工程は、本発明の装置を起動させる前に作業者が行う作業である。
【0023】
この作業の終了後、供給弁5Aを開放操作して又は三方弁9を供給路5側に開放操作して必要とする量の抽出溶媒(水、好ましくは熱水)を抽出部Eに注入して、コーヒー顆粒Mの堆積層の最上面に近いレベルに達するまで抽出溶媒を満たす。ここで、供給弁5及び/又は三方弁9は手動式であっても、電磁式等にして制御装置Cによる自動制御可能な形態としてもよい。また、抽出溶媒の注入量は、顆粒収容部2及び/又は抽出溶媒タンク4に液量計を設け、注入される又は流出する抽出溶媒量を計測して制御してもよいし、顆粒収容部2に液位計を設け、液面の高さを計測して抽出溶媒量を制御してもよい。コーヒー顆粒Mの堆積層の最上面に近いレベルとは、具体的には、抽出部Eに対して、0.9〜2.0倍、好ましくは1.0〜1.5倍の高さとなるまで抽出溶媒を注入する。この量の水を注入することにより、後述する工程ハにおいて、強過ぎる苦味成分を分離した抽出液を回収することができる。この量より多い量の抽出溶媒を注入すると、渋味が過度に溶出してしまうことがある。
【0024】
抽出溶媒を抽出部に注入すると、コーヒー顆粒内に封入されている気泡が抽出部Eに放出され、気泡となって存在する。この気泡が抽出溶媒の注入を妨げることがあることから、顆粒収容部2には脱気手段を設けておくことが好ましい。脱気手段としては、顆粒収容部2内を引圧にする装置、微細振動を与える装置等が例示できる。コーヒーの香気成分を良好に保つためには、微細振動を与える装置が特に好ましい。
【0025】
抽出溶媒がコーヒー顆粒Mの堆積層の最上面に近いレベルに到達するまで、抽出液の取出しは行わず、静粛なホールド状態を維持しておく。所定の位置まで抽出溶媒が注入されたら、供給弁5を閉鎖操作して送液弁7Aを開放操作する、あるいは供給弁5を開放したまま送液弁7Aを開放操作する。または、三方弁9を送液管路7側が開放となるように切替操作して、顆粒収容部2の開口2Bより抽出液を取り出す。
【0026】
抽出液の取出しを自然落下により行うのは時間を要し、過抽出を引き起こすことがあることから、図1及び2のような第2の注入手段を有していない装置の場合には、抽出液Eの取出しをスムーズに行うために、送液管路7又は導管路8にポンプ等の吸引手段を設ける、顆粒抽出部2の抽出部Eの上方(抽出部Eに対して開口2Bと対向する位置)から第1の方向に向かって空気等を送風してその空気圧により開口2Bより吐出を促すなど、力学的な回収手段を設けることが好ましい。
【0027】
図3及び4のような第2注入手段を備えた装置は、抽出部Eからの抽出液が水押しによりスムーズに行われる。また、コーヒー顆粒Mの苦味成分がコーヒー顆粒のハニカム構造に捕捉された状態で、第2の注入手段より注入される抽出溶媒により抽出処理がなされるので、図1及び2に示すような装置よりも、多くのコーヒー抽出液を回収できる。
【0028】
本発明の装置では、コーヒー顆粒Mを略密封にした状態でセットし、この顆粒Mの堆積層内を抽出溶媒が往復動するように進行する。抽出溶媒の流れを確実に制御するために、制御装置Cには流れ制御装置を設けることが好ましい。流れ制御装置は、堆積層内を進行する抽出溶媒およびコーヒー抽出液の流れる方向を制御し、かつ、流速を制御する。具体的には、圧力を変える圧力調整機を備えることにより抽出部Eへの抽出溶媒の流れを制御することができる。
【0029】
なお、コーヒー抽出液を取出す際にも、抽出部E内に存在する気泡が妨げとなることがある。上記の流れ制御装置により第2の注入手段からの流量を多くして流速を制御してもよいし、上記の顆粒収容部2に設けた脱気手段を用いて脱気してもよい。
本発明のコーヒー抽出装置は、工業規模の抽出装置としても家庭で淹れるコーヒー抽出装置(コーヒーメーカーともいう)としても利用可能である。以下、特に家庭で用いられる態様を例に詳細に説明する。
【0030】
図7及び8は、上下に開口(2A,2B)を有する略円柱状のガラス管を顆粒収容部2を有するコーヒー抽出装置である。使用者は、まず顆粒収容部2の底部にフィルター(下部濾材)を設置し、その上面にコーヒー顆粒Mを収容し、堆積面の上面に当接又は近接する位置に、コーヒー顆粒Mの流動を制する制動部材を配置する。制動部材としては、堆積面の上面と略一致する形状を有する金属メッシュ、不織布(ネル布、リント布など)、紙フィルターなどの網目部材が例示できる。制動部材は、顆粒Mの流動を制するという目的から、顆粒収容部2に内接する位置に設置するが、特に、網目部材の周辺部を弾力性のある素材(例えば、綿ネルなど)で構成し、制動部材を顆粒収容部2の内面に圧着できるようにするとよい。(図10参照)。
【0031】
図7に示す装置では、顆粒収容部2の下部開口2Bに3方コック9を有する抽出管が形成され、チューブを介して熱水容器(溶媒タンク)4と接続されている。この装置では、コーヒー顆粒Mを略密封状に収容した後、3方コック9を閉じた状態で熱水容器4に熱水を加え、次いで3方コック9を操作して熱水を抽出部Eに注入し(図8A)、コーヒー顆粒Mの堆積層の最上面に近いレベルまで熱水が満たされた時点で三方コック9を閉じ、上部開口2Aから抽出部Eに向けて熱水を注入する(図8B)。適量の熱水を上部開口から注入したら、3方コック9を操作して抽出管の下端にある回収口からコーヒー抽出液を取り出す(図8C)。第2の方向(図6では抽出部Eの上方で開口2Aのある側)から注入される水の量は、得られるコーヒー抽出液が抽出率20%以下、好ましくは15%以下とするのに適当な量を注入するとよい。ここで、抽出率を20%とするのは、抽出の中期から後期にかけて溶出する舌に残る渋味を回収しないためである。
【0032】
図9に示す装置では、顆粒収容部2の下部開口2Bに2方コックを有する抽出管が形成されている。コーヒー顆粒Mを略密封状に収容した後、上部開口2Aに安全ピペッターを装着した。抽出管の下端にある回収口の下に熱水容器を設置し、回収口を熱水容器に入れた熱水中に挿入し、2方コックと安全ピペッターを操作して、抽出部の顆粒Mの上面に近いレベルまで熱水を吸い上げる。次に、2方コックを閉じ、安全ピペッターを取り外して、顆粒収容部2の上部開口2Aから抽出部Eに向けて熱水を注入し、再度安全ピペッターを装着し、顆粒収容部2に空気圧を加えてから2方コックを開き、抽出管の下端にある回収口よりコーヒー抽出液を回収する。
【0033】
図11及び12に、電動式のコーヒーメーカー(コーヒー抽出装置1)を例示する。抽出装置1本体には、使用者がコーヒー抽出に使用する水を貯蔵する水タンク4と使用者がコーヒー顆粒をセットする豆貯蔵室(顆粒収容部2)とを備えている。水タンク4に貯蔵されている水は、加熱ヒーター12と一体となっている加熱パイプ12’に導かれて加熱され熱湯となり、流路切替弁9を通り、導管路8から顆粒収容部2に供給される。図11に示す装置では、まず下部注入口2Bから顆粒収容部2に所定量の熱湯が供給された後、上部注入口2Aに所定量の熱湯が供給され、抽出液が保存容器13に溜められ、加熱ヒーター12によって保温される。図12に示す装置では、導管路8から注入口2Aを介して顆粒収容部2に所定量の熱湯が供給されると、モータに14よって顆粒収容部2が回動し、反転する(すなわち、注入口2Bが軸方向上方向に、注入口2Aが軸方向下方向に位置する)。再度、所定量の熱湯が導管路8から顆粒収容部2に注入口2Aを介して供給される。この際、顆粒収容部2が反転することにより、実質的に顆粒層に対して第1の方向と対向する第2の方向から熱湯が供給されることになり、顆粒層内を熱湯が往復動するのと同じ動きとなる。すなわち、抽出溶媒を注入した第1の方向とコーヒー顆粒層に対して第1の方向と同じ側(この場合、第2の濾材11と同じ側)からコーヒー抽出液を回収するものである。本発明の装置には、便宜上、このような実質的にコーヒー顆粒層に対して第1の方向と同じ側から回収する手段を有する装置も、好適な態様として含まれるものとする。
【0034】
抽出に際し、使用者が顆粒収容部2に第1の濾材、コーヒー顆粒、第2の濾材の順にセットした後、コーヒーメーカーのスイッチを入れて抽出してもよいが、網目部材で一部又は全面を覆ったカセット式のコーヒー顆粒を用いると便利である。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例について、図6及び図7に基づいて説明する。
【0036】
<実施例1>
図7と同様のコーヒー抽出装置1を使用した。フレンチタイプに焙煎したインドネシア産ロブスタ種の焙煎豆30gを中挽きにして顆粒収容部2に収容し、3方コック9を閉じた状態で、熱水容器4に熱水(95℃)100mLを注入し、熱水容器4の下部先端を抽出部E上端(制動部材11の位置)に合わせ、3方コック9を開放操作して、下部開口2Bより熱水を抽出部Eに注入した。抽出部Eの顆粒層を上昇する熱水の表面が制動部材11を通過し、さらに制動部材11の上部10mmに達したら、コック9を閉じた。続いて、顆粒収容部の上部開口2Aから熱水350mLを注入し、コック9を開いて無色および薄黄色の流出液(抽出率1%程度)を廃棄し、流出液が褐色を呈し始めたら風味を確認しながら回収を開始し、濃褐色となった後に再度薄くなってきたら、同じく風味を確認しながら、「非常に優れている」が流出し終わるまで回収を続け、次に回収容器を変えて回収を続け、「優れている」が流出し終わった時点で終了とした。回収した抽出液の量は、「非常に優れている」が60mL(本発明品1)、「優れている」が40mL(本発明品2)であった。
【0037】
比較として、本実施例と同一の焙煎豆(同一の条件で粉砕したもの)を、熱水(95℃)350mLを使ってドリップ式(カリタ式ドリッパー、型番:102D、2〜4人用)(図12)で抽出率15%程度となるように抽出を行った(比較例1)。6名の専門パネラーで、本発明品1、本発明品2および本発明品1と本発明品2の全量を混合したもの(本発明品3)について、比較例1と風味を比較した。パネラーの全員が、本発明品1〜3のいずれもが比較例1と比べて格段に風味がよいと判断した。本発明品1〜3は、濃厚かつ香り高いコーヒー液で強過ぎる苦味がなく、後味のすっきり感が極めて高く後味に舌に残る渋味がない、優れた風味を有するコーヒーであった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーヒーの風味成分を苦味成分と区別して抽出することが可能なコーヒー抽出液の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
焙煎したコーヒー豆を粉砕して顆粒状としたもの(以下、コーヒー顆粒という)から熱水または水で抽出して得られるコーヒー抽出液が、コーヒー飲料として飲用に供されている。コーヒー飲料には、300種類を超える風味成分と10種類程度の栄養成分が含まれることが知られ、嗜好飲料としてだけでなく栄養機能飲料としての役割も担っている。したがって、長期間に渡って通常の生活においてコーヒー飲料の摂取を続けるためには、風味の良いコーヒー抽出液を得ることが重要である。
コーヒーを抽出するときの最初の濃い数滴は、「エキスコーヒー」と呼ばれ、濃厚かつ香り高いコーヒー液で、口に含むとトロっとしており、しかも後味がよく、すっきり消えるコーヒーとして知られ、このエキスの魅力を最大限に引き出して入れたコーヒーこそ至高のコーヒーであるとの報告がある(非特許文献1参照)。
【0003】
コーヒーの抽出方法は、濾過法(ドリップ式)、浸漬法(撹拌またはボイリング式)、およびエスプレッソ法(蒸気式)に大別される。それぞれの抽出方法においても、風味の良いコーヒー抽出液を得る方法が種々提案されており、例えば、湯量を制限して一定時間放置するという浸漬法(非特許文献2参照)や、両端が解放されたガラス管にコーヒー顆粒を詰め、ガラス容器に入れた冷水を上部からゆっくりと滴下し、長時間を掛けて溶出液をガラス容器に回収する方法(ダッチコーヒー、水出しコーヒー、または点滴コーヒーと呼ばれる)がある。
【0004】
また、不快成分の抽出を抑える、或いは不快成分を選択除去することにより、コーヒー抽出液の風味を改善する方法が報告されている。例えば、コーヒー顆粒を抽出器に充填し、抽出器の下方から熱水を注入し、コーヒー顆粒と熱水とを混合した後、抽出器の下方からコーヒー抽出液を流出させる方法がある。この方法では、コーヒー顆粒と抽出溶媒(熱水)とを十分に撹拌混合することにより、抽出時間の短縮化が可能となり、長時間の抽出で溶出していたコーヒー豆中のエグミや渋味などの不快成分を減少できることが記載されている(特許文献1、2参照)。不快成分を選択的除去する方法としては、例えば、吸着剤として平均再孔半径が30〜100Å付近に分布した活性炭を使用し、この吸着剤を内蔵するフィルター部を着脱自在にコーヒー抽出部の下に設けたコーヒーメーカーが報告されている。このコーヒーメーカーによると、コーヒー抽出液中の渋味の原因となるクロロゲン酸の多量体などの高分子黒褐色成分を選択的に吸着除去できることが記載されている(特許文献3)。
【0005】
さらに、抽出器に抽出溶媒を注入する際にコーヒー顆粒が運動しないよう、コーヒー顆粒を上下2枚のフィルター間に収容してコーヒー抽出器に静置し、コーヒー顆粒の上方から下方に向けて、或いはコーヒー顆粒の下方から上方に向けて熱水等の抽出溶媒を流して抽出を行う、清澄なコーヒー抽出液の製造方法についての報告もある(特許文献4、5参照)。
【0006】
一方、コーヒー豆を焙煎すると、ハチの巣構造(ハニカム構造)が形成されることが知られ、ハニカム構造の隔壁は、その表面積が多孔質ゲルに匹敵する広い面積であり成分吸着能を有することが報告されている。(非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平01−148152号公報
【特許文献2】特開2004−16586号公報
【特許文献3】特許第2578316号公報
【特許文献4】特許第3827079号公報
【特許文献5】特開2002−291412号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】広瀬幸雄、他、コーヒー学講義、人間の科学社(東京)、2003
【非特許文献2】高木 誠、コーヒー文化研究、15、113-134、2008
【非特許文献3】M.R.Jisha, et al., Mater. Chem. Phys., 115, 33-39, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、コーヒーの風味成分を苦味成分と分離して抽出することが可能なコーヒー抽出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、苦味成分がコーヒー豆のハニカム構造の隔壁と親和力が強いことを発見した。そして、この親和力を利用してクロマトグラフィー式に苦味成分を除去すべく検討した結果、コーヒー顆粒を制動部材で略密封にした状態で顆粒収容部に収容し、堆積したコーヒー顆粒の層内を抽出溶媒が往復動するように通液させることによって、強過ぎる苦味成分を分離して抽出できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下に関する。
1.コーヒー顆粒を収容する顆粒収容部と、第1の方向から前記顆粒収容部に抽出溶媒を注入する第1の注入手段と、前記抽出溶媒で抽出されたコーヒー抽出液をコーヒー顆粒層に対して第1の方向と同じ側から回収する回収手段とを備えるコーヒー抽出装置で、
前記顆粒収容部が、コーヒー顆粒を略密封状に収容するための着脱可能な制動部材を備えるコーヒー抽出装置。
2.さらに、第1の方向と対向する第2の方向から前記顆粒収容部に抽出溶媒を注入する第2の注入手段を備える、1に記載のコーヒー抽出装置。
3.顆粒収容部が、コーヒー顆粒を軸線に沿う方向の断面形状において略四角形状に堆積した状態で収容しうる形状である、1又は2に記載のコーヒー抽出装置。
4.制動部材が網目部材である、1〜3のいずれかに記載のコーヒー抽出装置。
5.顆粒収容部内を流れる液体の流れを制御する、流れ制御装置を備える、1〜4のいずれかに記載のコーヒー装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明のコーヒー抽出装置を用いると、コーヒーの強過ぎる苦味成分を選択的に分離して抽出することができ、極めて風味の良いコーヒー抽出液を簡便に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、コーヒー抽出装置1を示す図である。
【図2】図2は、図1と同様の円柱状のコーヒー抽出装置1を示す図である。
【図3】図3は、図2と同様の円柱状のコーヒー抽出装置1を示す図である。
【図4】図4は、顆粒収容部2が横向きの姿勢となるように設置されたコーヒー抽出装置1を示す図である。
【図5】図5は、コーヒー顆粒Mの堆積層全体を制動部材である不織布で覆った形態、すなわち袋状の制動部材の図である。
【図6】図6は、制動部材11が蓋体の形態であるものを示した図である。
【図7】図7は、上下に開口を有する略円柱状のガラス管を顆粒収容部2を有するコーヒー抽出装置の図である。
【図8】図8は、上下に開口を有する略円柱状のガラス管を顆粒収容部を有するコーヒー抽出装置の図である。
【図9】図9は、顆粒収容部2の下部開口2Bに2方コックを有する抽出管が形成されている装置の図である。
【図10】図10は、制動部材を示す図である。
【図11】図11は、電動式のコーヒーメーカーの図である。
【図12】図12は、電動式のコーヒーメーカーの図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の抽出装置は、クロマトグラフのように苦味成分を分離して抽出することができる装置である。すなわち、コーヒー顆粒のハニカム構造の隔壁に吸着している苦味成分を一旦離脱させ、次いでこの苦味成分を露出した隔壁に親和性を利用して再吸着させることにより、強過ぎる苦味成分を分離できる。この苦味成分の脱離、再吸着を高効率で行うためには、コーヒー顆粒を略密封にした状態で顆粒収容部に収容することが重要である。また、本発明の装置では、苦味成分の脱離、再吸着を連続でスムーズに行うために、堆積したコーヒー顆粒の層内を抽出溶媒が往復動するように通液させることを特徴とする。以下、本発明を図面に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0014】
図1には、円柱状の顆粒収容部2を有するコーヒー抽出装置1が図示されている。図1におけるコーヒー抽出装置では、本発明でいう「第1の方向」が顆粒収容部2の下方に相当する。コーヒー抽出装置1は、上端の上部開口2A、下端の下部開口2B(注入口)、2B’(取出し口)が形成され、コーヒー顆粒Mを貯留する抽出部Eを備える顆粒収容部2と、前記上部開口2Aに対して着脱自在となる蓋体3と、抽出溶媒タンク4と、この抽出溶媒タンク4から前記顆粒収容部2の下部開口2Bに抽出溶媒を注入する供給弁5Aを備えた供給路5と、前記下部開口2B’からコーヒー抽出液を貯留タンク6に送る送液弁7Aを備えた送液管路7とで構成されている。ここで、図1に示すコーヒー抽出装置1では、抽出溶媒タンク4と供給路5と供給弁5Aが、本発明でいう「第1の注入手段」に相当し、貯留タンク6と送液管路7と送液弁7Aが、本発明でいう「回収手段」に相当する。前記顆粒収容部2の抽出部Eは、顆粒収容部2の下端位置に備えた下部濾材(第1の濾材とも表記する)10と、この下部顆粒より上方位置で顆粒収容部2に内接する位置に着脱自在に備えられる制動部材(第2の濾材、上部濾材とも表記する)11とを備えて構成されている。前記制動部材11は、下部濾材10の上面に投入されたコーヒー顆粒Mが自然に堆積した状態における上面と略一致する位置に、抽出溶媒を注入した際にコーヒー顆粒Mが流動しないようにセットされている。
【0015】
コーヒー顆粒Mが動かないようにするため、また苦味成分を再吸着しやすくするため、顆粒収容部2の形状は、コーヒー抽出液の進行方向に対して内径がほぼ均一の形状であることが好ましい。内径がほぼ均一の形状とは、コーヒー顆粒Mの堆積層の軸線に沿う方向の断面形状が略四角形状、すなわちコーヒー顆粒を円柱状または直方体状(立方体状を含む)に堆積して収容しうる形状を意味する。また、抽出溶媒の注入時に発生する泡による抽出効率の低下を防止するため、抽出部Eの形状(断面積と高さの関係)は、顆粒収容部2が図1〜図4に示すような円筒形状である場合、抽出部Eの軸線の沿う方向の略四角形状の断面形状において、四角形の幅(L)と高さ(H)の比(H/L)が0.5〜5.0の範囲となるように抽出部Eの形状を設計するのが好ましい。
【0016】
制動部材11は、コーヒー顆粒Mを略密封にホールドしうるもので、顆粒収容部2に内接しうるものであれば、その材質や形状など特に制限されない。制動部材としては、金属メッシュ、不織布(ネル布、リント布など)、紙フィルターなどの網目部材を例示することができる。図1には、コーヒー顆粒の上面と略同一形状の網目部材を制動部材11として設置した図が図示されている。網目部材を用いる場合、その周辺部を弾力性のある素材(例えば、綿ネルなどの不織布)で構成し、制動部材11を顆粒収容部2の内面に圧着するようにして、制動機能を強化するのが好ましい(図10参照)。また、図5には、コーヒー顆粒Mの堆積層全体を、制動部材である不織布で覆った形態、すなわち袋状の制動部材が図示されている。この形態では、第1の濾材および第2の濾材の区別がなく、制動部材11が第1の濾材としても機能する。さらに、図6に示すような制動部材11が蓋体の形態であるものも本発明に含まれるものとする。
【0017】
制動部材11は、コーヒー顆粒Mを略密封する状態になるよう、コーヒー顆粒Mの堆積層の最上面に当接する位置または近接する位置に設置する。近接する位置とは、コーヒー顆粒Mを抽出溶媒で湿潤させた際に、コーヒー顆粒が自然に膨潤する分(空隙)だけコーヒー顆粒Mの堆積層の最上面から離間した位置をさす。具体的にはコーヒー顆粒を僅かに圧縮する位置(コーヒー顆粒の体積の約0.9倍)から、抽出溶媒に接触させた後のコーヒー顆粒の膨潤を考慮し、コーヒー顆粒の体積の約2倍(好ましくは約1.5倍)に対応する位置との間の領域内をさす。
【0018】
第1の濾材は、抽出溶媒および抽出液が通過可能でコーヒー顆粒がコーヒー抽出液に落下して混入するのを防止できるものであれば特に制限はない。具体的には、金属メッシュ、不織布(ネル布、リント布など)、紙フィルターなどの網目部材を例示できる。濾材のメッシュを小さくし過ぎると目詰まりが発生しやすく、抽出に時間を要して過抽出を引き起こす可能性があることから、メッシュサイズは金属メッシュの場合、アメリカ式メッシュ20〜200番程度のものを用いるのが好ましい。また、コーヒー抽出液に含まれる油分を吸着除去できる観点からは、不織布を用いることが好ましい。
【0019】
図2には、図1と同様の円柱状のコーヒー抽出装置1が図示されている。図1と同様に、図2におけるコーヒー抽出装置では、本発明でいう「第1の方向」が顆粒収容部2の下方に相当する。コーヒー抽出装置1は、上端の上部開口2A、下端の下部開口2B(注入口兼取出し口)が形成され、コーヒー顆粒Mを貯留する抽出部Eを備える顆粒収容部2と、前記上部開口2Aに対して着脱自在となる蓋体3と、前記顆粒収容部2の下部開口2Bに連通する導管路8と、抽出溶媒タンク4と、この抽出溶媒タンク4から前記下部開口2Bに抽出溶媒を注入する供給路5と、下部開口2Bからコーヒー抽出液を貯留タンク6に送る送液管路7とで構成されている。前記導管路8は三方弁9で、供給路5および送液管路7と接続されている。図2に示すコーヒー抽出装置1では、抽出溶媒タンク4と供給路5と導管路8と三方弁9が、本発明でいう「第1の注入手段」に相当し、貯留タンク6と送液管路7と導管路8と三方弁9が、本発明でいう「回収手段」に相当する。図1と同様に、前記顆粒収容部2の抽出部Eは、顆粒収容部2の下端位置に備えた下部濾材10と、この下部顆粒より上方位置で顆粒収容部2に内接する位置に着脱自在に備えられる制動部材11とを備えて構成されている。
【0020】
図3には、図2と同様の円柱状のコーヒー抽出装置1が図示されている。図3におけるコーヒー抽出装置では、本発明でいう「第1の方向」が顆粒収容部2の下方に相当し、「第1の方向と対向する方向」が顆粒収容部2の上方に相当する。コーヒー抽出装置1は、上端の上部開口2A、下端の下部開口2B(注入口兼取出し口)が形成され、コーヒー顆粒Mを貯留する抽出部Eを備える顆粒収容部2と、前記上部開口2Aに対して着脱自在で開口3Aを有する蓋体3と、蓋体3の開口3Aを介して前記上部開口2Aに抽出溶媒タンク4から抽出溶媒を注入する供給弁5A’を備えた供給路5’と、前記顆粒収容部2の下部開口2Bに連通する導管路8と、抽出溶媒タンク4から前記下部開口2Bに抽出溶媒を注入する供給路5と、下部開口2Bからコーヒー抽出液を貯留タンク6に送る送液管路7とで構成されている。前記導管路8は三方弁9で、供給路5および送液管路7と接続されている。図3に示すコーヒー抽出装置1では、抽出溶媒タンク4と供給路5と導管路8と三方弁9が本発明でいう「第1の注入手段」に相当し、抽出溶媒タンク4と供給路5’と供給弁5A’が本発明でいう「第2の注入手段」に相当する。また、貯留タンク6と送液管路7と導管路8と三方弁9が、本発明でいう「回収手段」に相当する。図1と同様に、前記顆粒収容部2の抽出部Eは、顆粒収容部2の下端位置に備えた下部濾材10と、この下部顆粒より上方位置で顆粒収容部2に内接する位置に着脱自在に備えられる制動部材11とを備えて構成されている。
【0021】
図4には、図3と同様のコーヒー抽出装置で、顆粒収容部2が横向きの姿勢となるように設置されたコーヒー抽出装置1が図示されている。図4におけるコーヒー抽出装置では、本発明でいう「第1の方向」が顆粒収容部2の左側方向に相当し、「第1の方向と対向する方向」が顆粒収容部2の右側方向に相当する。コーヒー抽出装置1は、右端の右部開口2A、左端の左部開口2B(注入口兼取出し口)が形成され、コーヒー顆粒Mを貯留する抽出部Eを備える顆粒収容部2と、前記右部開口2Aに対して着脱自在で開口3Aを有する蓋体3と、蓋体3の開口3Aを介して前記右部開口2Aに抽出溶媒タンク4から抽出溶媒を注入する供給弁5A’を備えた供給路5’と、前記顆粒収容部2の左部開口2Bに連通する導管路8と、抽出溶媒タンク4から前記左部開口2Bに抽出溶媒を注入する供給路5と、左部開口2Bからコーヒー抽出液を貯留タンク6に送る送液管路7とで構成されている。前記導管路8は三方弁9で、供給路5および送液管路7と接続されている。顆粒収容部2の左端開口2Bには、コーヒー抽出液へのコーヒー顆粒Mの混入を防止する濾材10が着脱自在に備えられている。図4に示すコーヒー抽出装置1では、抽出溶媒タンク4と供給路5と導管路8と三方弁9が本発明でいう「第1の注入手段」に相当し、抽出溶媒タンク4と供給路5’と供給弁5A’が本発明でいう「第2の注入手段」に相当する。また、貯留タンク6と送液管路7と導管路8と三方弁9が、本発明でいう「回収手段」に相当する。
【0022】
本発明の装置では、まず制動部材11を利用して、コーヒー顆粒Mを略密封状に抽出部Eにセットする。つまり、図1〜3の装置では、下部濾材10の上面にコーヒー顆粒Mを投入する作業を行い、このコーヒー顆粒Mの上面に当接又は近接する位置に制動部材11をセットし、上部開口2Aを蓋体3で閉塞する。この工程は、本発明の装置を起動させる前に作業者が行う作業である。
【0023】
この作業の終了後、供給弁5Aを開放操作して又は三方弁9を供給路5側に開放操作して必要とする量の抽出溶媒(水、好ましくは熱水)を抽出部Eに注入して、コーヒー顆粒Mの堆積層の最上面に近いレベルに達するまで抽出溶媒を満たす。ここで、供給弁5及び/又は三方弁9は手動式であっても、電磁式等にして制御装置Cによる自動制御可能な形態としてもよい。また、抽出溶媒の注入量は、顆粒収容部2及び/又は抽出溶媒タンク4に液量計を設け、注入される又は流出する抽出溶媒量を計測して制御してもよいし、顆粒収容部2に液位計を設け、液面の高さを計測して抽出溶媒量を制御してもよい。コーヒー顆粒Mの堆積層の最上面に近いレベルとは、具体的には、抽出部Eに対して、0.9〜2.0倍、好ましくは1.0〜1.5倍の高さとなるまで抽出溶媒を注入する。この量の水を注入することにより、後述する工程ハにおいて、強過ぎる苦味成分を分離した抽出液を回収することができる。この量より多い量の抽出溶媒を注入すると、渋味が過度に溶出してしまうことがある。
【0024】
抽出溶媒を抽出部に注入すると、コーヒー顆粒内に封入されている気泡が抽出部Eに放出され、気泡となって存在する。この気泡が抽出溶媒の注入を妨げることがあることから、顆粒収容部2には脱気手段を設けておくことが好ましい。脱気手段としては、顆粒収容部2内を引圧にする装置、微細振動を与える装置等が例示できる。コーヒーの香気成分を良好に保つためには、微細振動を与える装置が特に好ましい。
【0025】
抽出溶媒がコーヒー顆粒Mの堆積層の最上面に近いレベルに到達するまで、抽出液の取出しは行わず、静粛なホールド状態を維持しておく。所定の位置まで抽出溶媒が注入されたら、供給弁5を閉鎖操作して送液弁7Aを開放操作する、あるいは供給弁5を開放したまま送液弁7Aを開放操作する。または、三方弁9を送液管路7側が開放となるように切替操作して、顆粒収容部2の開口2Bより抽出液を取り出す。
【0026】
抽出液の取出しを自然落下により行うのは時間を要し、過抽出を引き起こすことがあることから、図1及び2のような第2の注入手段を有していない装置の場合には、抽出液Eの取出しをスムーズに行うために、送液管路7又は導管路8にポンプ等の吸引手段を設ける、顆粒抽出部2の抽出部Eの上方(抽出部Eに対して開口2Bと対向する位置)から第1の方向に向かって空気等を送風してその空気圧により開口2Bより吐出を促すなど、力学的な回収手段を設けることが好ましい。
【0027】
図3及び4のような第2注入手段を備えた装置は、抽出部Eからの抽出液が水押しによりスムーズに行われる。また、コーヒー顆粒Mの苦味成分がコーヒー顆粒のハニカム構造に捕捉された状態で、第2の注入手段より注入される抽出溶媒により抽出処理がなされるので、図1及び2に示すような装置よりも、多くのコーヒー抽出液を回収できる。
【0028】
本発明の装置では、コーヒー顆粒Mを略密封にした状態でセットし、この顆粒Mの堆積層内を抽出溶媒が往復動するように進行する。抽出溶媒の流れを確実に制御するために、制御装置Cには流れ制御装置を設けることが好ましい。流れ制御装置は、堆積層内を進行する抽出溶媒およびコーヒー抽出液の流れる方向を制御し、かつ、流速を制御する。具体的には、圧力を変える圧力調整機を備えることにより抽出部Eへの抽出溶媒の流れを制御することができる。
【0029】
なお、コーヒー抽出液を取出す際にも、抽出部E内に存在する気泡が妨げとなることがある。上記の流れ制御装置により第2の注入手段からの流量を多くして流速を制御してもよいし、上記の顆粒収容部2に設けた脱気手段を用いて脱気してもよい。
本発明のコーヒー抽出装置は、工業規模の抽出装置としても家庭で淹れるコーヒー抽出装置(コーヒーメーカーともいう)としても利用可能である。以下、特に家庭で用いられる態様を例に詳細に説明する。
【0030】
図7及び8は、上下に開口(2A,2B)を有する略円柱状のガラス管を顆粒収容部2を有するコーヒー抽出装置である。使用者は、まず顆粒収容部2の底部にフィルター(下部濾材)を設置し、その上面にコーヒー顆粒Mを収容し、堆積面の上面に当接又は近接する位置に、コーヒー顆粒Mの流動を制する制動部材を配置する。制動部材としては、堆積面の上面と略一致する形状を有する金属メッシュ、不織布(ネル布、リント布など)、紙フィルターなどの網目部材が例示できる。制動部材は、顆粒Mの流動を制するという目的から、顆粒収容部2に内接する位置に設置するが、特に、網目部材の周辺部を弾力性のある素材(例えば、綿ネルなど)で構成し、制動部材を顆粒収容部2の内面に圧着できるようにするとよい。(図10参照)。
【0031】
図7に示す装置では、顆粒収容部2の下部開口2Bに3方コック9を有する抽出管が形成され、チューブを介して熱水容器(溶媒タンク)4と接続されている。この装置では、コーヒー顆粒Mを略密封状に収容した後、3方コック9を閉じた状態で熱水容器4に熱水を加え、次いで3方コック9を操作して熱水を抽出部Eに注入し(図8A)、コーヒー顆粒Mの堆積層の最上面に近いレベルまで熱水が満たされた時点で三方コック9を閉じ、上部開口2Aから抽出部Eに向けて熱水を注入する(図8B)。適量の熱水を上部開口から注入したら、3方コック9を操作して抽出管の下端にある回収口からコーヒー抽出液を取り出す(図8C)。第2の方向(図6では抽出部Eの上方で開口2Aのある側)から注入される水の量は、得られるコーヒー抽出液が抽出率20%以下、好ましくは15%以下とするのに適当な量を注入するとよい。ここで、抽出率を20%とするのは、抽出の中期から後期にかけて溶出する舌に残る渋味を回収しないためである。
【0032】
図9に示す装置では、顆粒収容部2の下部開口2Bに2方コックを有する抽出管が形成されている。コーヒー顆粒Mを略密封状に収容した後、上部開口2Aに安全ピペッターを装着した。抽出管の下端にある回収口の下に熱水容器を設置し、回収口を熱水容器に入れた熱水中に挿入し、2方コックと安全ピペッターを操作して、抽出部の顆粒Mの上面に近いレベルまで熱水を吸い上げる。次に、2方コックを閉じ、安全ピペッターを取り外して、顆粒収容部2の上部開口2Aから抽出部Eに向けて熱水を注入し、再度安全ピペッターを装着し、顆粒収容部2に空気圧を加えてから2方コックを開き、抽出管の下端にある回収口よりコーヒー抽出液を回収する。
【0033】
図11及び12に、電動式のコーヒーメーカー(コーヒー抽出装置1)を例示する。抽出装置1本体には、使用者がコーヒー抽出に使用する水を貯蔵する水タンク4と使用者がコーヒー顆粒をセットする豆貯蔵室(顆粒収容部2)とを備えている。水タンク4に貯蔵されている水は、加熱ヒーター12と一体となっている加熱パイプ12’に導かれて加熱され熱湯となり、流路切替弁9を通り、導管路8から顆粒収容部2に供給される。図11に示す装置では、まず下部注入口2Bから顆粒収容部2に所定量の熱湯が供給された後、上部注入口2Aに所定量の熱湯が供給され、抽出液が保存容器13に溜められ、加熱ヒーター12によって保温される。図12に示す装置では、導管路8から注入口2Aを介して顆粒収容部2に所定量の熱湯が供給されると、モータに14よって顆粒収容部2が回動し、反転する(すなわち、注入口2Bが軸方向上方向に、注入口2Aが軸方向下方向に位置する)。再度、所定量の熱湯が導管路8から顆粒収容部2に注入口2Aを介して供給される。この際、顆粒収容部2が反転することにより、実質的に顆粒層に対して第1の方向と対向する第2の方向から熱湯が供給されることになり、顆粒層内を熱湯が往復動するのと同じ動きとなる。すなわち、抽出溶媒を注入した第1の方向とコーヒー顆粒層に対して第1の方向と同じ側(この場合、第2の濾材11と同じ側)からコーヒー抽出液を回収するものである。本発明の装置には、便宜上、このような実質的にコーヒー顆粒層に対して第1の方向と同じ側から回収する手段を有する装置も、好適な態様として含まれるものとする。
【0034】
抽出に際し、使用者が顆粒収容部2に第1の濾材、コーヒー顆粒、第2の濾材の順にセットした後、コーヒーメーカーのスイッチを入れて抽出してもよいが、網目部材で一部又は全面を覆ったカセット式のコーヒー顆粒を用いると便利である。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例について、図6及び図7に基づいて説明する。
【0036】
<実施例1>
図7と同様のコーヒー抽出装置1を使用した。フレンチタイプに焙煎したインドネシア産ロブスタ種の焙煎豆30gを中挽きにして顆粒収容部2に収容し、3方コック9を閉じた状態で、熱水容器4に熱水(95℃)100mLを注入し、熱水容器4の下部先端を抽出部E上端(制動部材11の位置)に合わせ、3方コック9を開放操作して、下部開口2Bより熱水を抽出部Eに注入した。抽出部Eの顆粒層を上昇する熱水の表面が制動部材11を通過し、さらに制動部材11の上部10mmに達したら、コック9を閉じた。続いて、顆粒収容部の上部開口2Aから熱水350mLを注入し、コック9を開いて無色および薄黄色の流出液(抽出率1%程度)を廃棄し、流出液が褐色を呈し始めたら風味を確認しながら回収を開始し、濃褐色となった後に再度薄くなってきたら、同じく風味を確認しながら、「非常に優れている」が流出し終わるまで回収を続け、次に回収容器を変えて回収を続け、「優れている」が流出し終わった時点で終了とした。回収した抽出液の量は、「非常に優れている」が60mL(本発明品1)、「優れている」が40mL(本発明品2)であった。
【0037】
比較として、本実施例と同一の焙煎豆(同一の条件で粉砕したもの)を、熱水(95℃)350mLを使ってドリップ式(カリタ式ドリッパー、型番:102D、2〜4人用)(図12)で抽出率15%程度となるように抽出を行った(比較例1)。6名の専門パネラーで、本発明品1、本発明品2および本発明品1と本発明品2の全量を混合したもの(本発明品3)について、比較例1と風味を比較した。パネラーの全員が、本発明品1〜3のいずれもが比較例1と比べて格段に風味がよいと判断した。本発明品1〜3は、濃厚かつ香り高いコーヒー液で強過ぎる苦味がなく、後味のすっきり感が極めて高く後味に舌に残る渋味がない、優れた風味を有するコーヒーであった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒー顆粒を収容する顆粒収容部と、第1の方向から前記顆粒収容部に抽出溶媒を注入する第1の注入手段と、前記抽出溶媒で抽出されたコーヒー抽出液をコーヒー顆粒層に対して第1の方向と同じ側から回収する回収手段とを備えるコーヒー抽出装置で、
前記顆粒収容部が、コーヒー顆粒を略密封状に収容するための着脱可能な制動部材を備えるコーヒー抽出装置。
【請求項2】
さらに、第1の方向と対向する第2の方向から前記顆粒収容部に抽出溶媒を注入する第2の注入手段を備える、請求項1に記載のコーヒー抽出装置。
【請求項3】
顆粒収容部が、コーヒー顆粒を軸線に沿う方向の断面形状において略四角形状に堆積した状態で収容しうる形状である、請求項1又は2に記載のコーヒー抽出装置。
【請求項4】
制動部材が網目部材である、請求項1〜3のいずれかに記載のコーヒー抽出装置。
【請求項5】
顆粒収容部内を流れる液体の流れを制御する、流れ制御装置を備える、請求項1〜4のいずれかに記載のコーヒー装置。
【請求項1】
コーヒー顆粒を収容する顆粒収容部と、第1の方向から前記顆粒収容部に抽出溶媒を注入する第1の注入手段と、前記抽出溶媒で抽出されたコーヒー抽出液をコーヒー顆粒層に対して第1の方向と同じ側から回収する回収手段とを備えるコーヒー抽出装置で、
前記顆粒収容部が、コーヒー顆粒を略密封状に収容するための着脱可能な制動部材を備えるコーヒー抽出装置。
【請求項2】
さらに、第1の方向と対向する第2の方向から前記顆粒収容部に抽出溶媒を注入する第2の注入手段を備える、請求項1に記載のコーヒー抽出装置。
【請求項3】
顆粒収容部が、コーヒー顆粒を軸線に沿う方向の断面形状において略四角形状に堆積した状態で収容しうる形状である、請求項1又は2に記載のコーヒー抽出装置。
【請求項4】
制動部材が網目部材である、請求項1〜3のいずれかに記載のコーヒー抽出装置。
【請求項5】
顆粒収容部内を流れる液体の流れを制御する、流れ制御装置を備える、請求項1〜4のいずれかに記載のコーヒー装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図11】
【図12】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図11】
【図12】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−161223(P2011−161223A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7382(P2011−7382)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】
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