説明

コーヒー濃縮組成物

【課題】高濃度のクロロゲン酸類を含み、風味の良好なコーヒー濃縮組成物を提供すること。
【解決手段】次の成分(A)及び(B);
(A)クロロゲン酸類:乾燥固形分中に100〜300mg/g、及び
(B)5−ヒドロキシメチルフルフラール:乾燥固形分中に0.33mg/g以下
を含有し、乾燥固形分が10〜100質量%のコーヒー濃縮組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーヒー濃縮組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒー製品には、ポリフェノールの一種である、クロロゲン酸、カフェ酸、フェルラ酸等のクロロゲン酸類が含まれており、クロロゲン酸類は優れた生理活性を有することが知られている。したがって、この生理活性を十分に発現するには、クロロゲン酸類をより多く摂取することが有効である。クロロゲン酸類は生コーヒー豆に多く含まれているが、生コーヒー豆からの抽出物はコーヒー風味に欠ける。一方、コーヒー豆を焙煎すると風味は良くなるがクロロゲン酸類が減少してしまう。
【0003】
そこで、高濃度のクロロゲン酸類を含み、コーヒー風味を高めたコーヒー製品として、例えば、生コーヒー豆と焙煎コーヒー豆を一定の割合で含む混合物を粉砕、抽出して得られたコーヒー製品が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、深焙煎コーヒー豆と浅焙煎コーヒー豆からそれぞれ得られた抽出液を混合し、クロロゲン酸類とタンニンの比率、及びジクロロゲン酸類とクロロゲン酸類の比率を一定の比率にした抽出液に、副原料を混合し、容器に充填後、殺菌した容器詰コーヒー飲料、又は容器詰ミルクコーヒー飲料が提案されている(特許文献2及び3)。
【0005】
一方、5−ヒドロキシメチルフルフラール、又は5−ヒドロキシメチルフラン−2−カルボン酸を一定量以上含有させ、本来の風味を損なわず、長期間にわたり通常の生活において摂取可能で、かつ高脂血症、糖尿病、動脈硬化、血栓、肺炎などの生活習慣病の原因の発生を予防し健康を維持し得る食品又は飲料が提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2008−535506号公報
【特許文献2】特許第4012560号公報
【特許文献3】特許第4012561号公報
【特許文献4】特開2008−193933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
焙煎コーヒー豆から抽出して得られたコーヒー製品は、香ばしいコーヒー風味が豊かで喜ばれるものであるが、抽出プロセスが不便である。そこで、コーヒー抽出液を高濃度化又は粉末化したインスタントーコーヒー等のコーヒー濃縮組成物や、缶入りコーヒー等の容器詰コーヒー飲料が開発され、それによって消費者はコーヒー製品を手軽に楽しむことが可能になった。
【0008】
また、クロロゲン酸類を高含有させて風味の良いコーヒー製品を得るために、前記従来技術にあるように、生コーヒー豆と焙煎コーヒー豆を混合後に抽出したり、深焙煎コーヒー豆と浅焙煎コーヒー豆からそれぞれ得られた抽出液を混合する技術が提案されている。
本発明者らは、生コーヒー豆を用いてクロロゲン酸類含量を高めたコーヒー濃縮組成物は、生コーヒー豆様の異味を有するという課題を見出した。ここで、従来技術として深焙煎コーヒー豆と浅焙煎コーヒー豆からそれぞれ得られた抽出液を組み合わせた容器詰コーヒー飲料の技術もあるが、一般的に、容器詰コーヒー飲料は、製造時にpH調整剤などの副原料を添加して所望の風味に適宜調整されているため、原料由来の風味にはさほど影響を受けない。一方、コーヒー濃縮組成物は、飲用時にお湯、水又は牛乳などで希釈して飲用されるものであるため、原料のコーヒー抽出液の風味の特徴が直接反映されてしまうことが判明した。本発明者らは、コーヒー濃縮組成物を製造する場合には、前記従来技術に記載の容器詰コーヒー飲料のように単に深焙煎コーヒー豆と浅焙煎コーヒー豆から得られた抽出液を組み合わせただけでは、コーヒー風味として重要なコク味と苦味が不充分で、飲用後に口内に残る雑味が強くなるという課題があることを見出した。
【0009】
したがって、本発明の課題は、高濃度のクロロゲン酸類を含み、風味の良好なコーヒー濃縮組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、高濃度のクロロゲン酸類を含有するコーヒー濃縮組成物の風味について種々検討した結果、単に焙煎度(L値)の異なる2種以上の焙煎コーヒー豆を適宜組み合わせて得られたコーヒー抽出液を用いることだけでは、風味の改善には限界があるとの知見を得た。本発明者らは、更に詳細に検討したところ、コーヒー濃縮組成物中に含まれる特定成分の含有量を一定量以下に制御することでコーヒー風味が向上することを見出した。また、そのようなコーヒー濃縮組成物を使用すると、焙煎コーヒー豆特有の香りが増強されて、コク味と苦味が良好で、飲用後の口内に残る雑味が抑制されたコーヒー製品が得られることを見出した。更に、このようなコーヒー濃縮組成物を効率的に製造するには、L値を特定範囲内に制御した2種の焙煎コーヒー豆を必須成分として組み合わせ、混合後の焙煎コーヒー豆のL値を特定範囲内に制御した上で、それを多段階抽出し濃縮することで得られることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、次の成分(A)及び(B);
(A)クロロゲン酸類:乾燥固形分中に100〜300mg/g、及び
(B)5−ヒドロキシメチルフルフラール:乾燥固形分中に0.33mg/g以下
を含有し、乾燥固形分が10〜100質量%のコーヒー濃縮組成物を提供するものである。
【0012】
本発明はまた、L値14〜20の第1の焙煎コーヒー豆と、L値25〜40の第2の焙煎コーヒー豆とを含み、L値の平均値が21〜28.5となる焙煎コーヒー豆の混合物を、多段階抽出し濃縮する、コーヒー濃縮組成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高濃度のクロロゲン酸類を含み、風味の良好なコーヒー濃縮組成物を提供することができる。また、本発明によれば、このような嗜好性の高いコーヒー濃縮組成物を簡便に製造することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(コーヒー濃縮組成物)
本発明のコーヒー濃縮組成物は、乾燥固形分が10〜100質量%であるが、ハンドリングの観点から、20〜99.9質量%、更に25〜99質量%、更に30〜98質量%であることが好ましい。ここで、本明細書において「コーヒー濃縮組成物」とは、焙煎コーヒー豆から得られたコーヒー抽出液を濃縮、又は乾燥したものであって、一般的に飲用されるコーヒー飲料よりも固形分濃度が高いものをいう。なお、本明細書でいう「コーヒー濃縮組成物」には、インスタントコーヒーは含まれるが、焙煎コーヒー豆は含まれない。また、本明細書における「乾燥固形分」の測定条件は、後掲の実施例の「乾燥固形分の測定」の記載に従うものとする。
【0015】
また、本発明のコーヒー濃縮組成物は、当該コーヒー濃縮組成物の乾燥固形分中に(A)クロロゲン酸類を100〜300mg/g含有するが、風味、安定性及び生理効果の観点から、102〜250mg/g、更に105〜200mg/g、更に108〜180mg/g含有することが好ましい。ここで、「クロロゲン酸類」とは、3−カフェオイルキナ酸、4−カフェオイルキナ酸及び5−カフェオイルキナ酸の(A1)モノカフェオイルキナ酸と、3−フェルラキナ酸、4−フェルラキナ酸及び5−フェルラキナ酸の(A2)モノフェルラキナ酸と、3,4−ジカフェオイルキナ酸、3,5−ジカフェオイルキナ酸及び4,5−ジカフェオイルキナ酸の(A3)ジカフェオイルキナ酸を併せての総称である。クロロゲン酸類の含有量は、上記9種の合計量に基づいて定義される。なお、「クロロゲン酸類の含有量」の測定条件は、後掲の実施例の「クロロゲン酸類の測定」の記載に従うものとする。
【0016】
更に、本発明のコーヒー濃縮組成物は、当該コーヒー濃縮組成物の乾燥固形分中の(A3)ジカフェオイルキナ酸と、(A)クロロゲン酸類との含有質量比[(A3)/(A)]が、安定性と風味のバランスを制御し易い点から、0.05〜0.16、更に0.06〜0.14、更に0.07〜0.13であることが好ましい。
【0017】
また、本発明のコーヒー濃縮組成物は、(B)5−ヒドロキシメチルフルフラールを含有する。(B)5−ヒドロキシメチルフルフラールは、コーヒー豆の焙煎により生成する成分であり、生コーヒー豆中には含まれないものである。本発明者らは、(B)5−ヒドロキシメチルフルフラールが飲用後の口内に残る雑味に関与することを見出し、コーヒー濃縮組成物中の(B)5−ヒドロキシメチルフルフラールの含有量をコーヒー抽出液に通常含まれる量よりも低減させたことを特徴とするものである。具体的には、(B)5−ヒドロキシメチルフルフラールの含有量は、当該コーヒー濃縮組成物の乾燥固形分中に0.33mg/g以下であるが、風味の観点から、0.3mg/g以下、更に0.27mg/g以下、更に0.2mg/g以下であることが好ましい。なお、かかる含有量の下限は、製造効率の観点から、0.001mg/g、更に0.005mg/g、更に0.01mg/gであることが好ましい。なお、「5−ヒドロキシメチルフルフラールの含有量」の測定条件は、後掲の実施例の「5−ヒドロキシメチルフルフラールの測定」の記載に従うものとする。
【0018】
更に、本発明のコーヒー濃縮組成物は、コーヒー豆の焙煎により生成する香りに富む(C)2−メチルピラジンと、香りを低下させる原因物質である(D)3−メチルブタナールとを含有する。本発明のコーヒー濃縮組成物は、(D)3−メチルブタナールに対する(C)2−メチルピラジンの含有比率が高いことが、コーヒー濃縮組成物の良好な香りを増強する点から好ましい。
前記成分(D)に対する成分(C)の含有比率は、当該コーヒー濃縮組成物をガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)で分析したときの(C)2−メチルピラジンと(D)3−メチルブタナールとのピーク面積比[(D)/(C)]で測定することができ、当該面積比は、0.1以下、更に0.080以下、更に0.070以下であることが好ましい。他方、下限は、製造効率の観点から、0.0001、更に0.0005、更に0.0010であることが好ましい。なお、「比率[(D)/(C)]」の測定条件は、後掲の実施例の「2−メチルピラジン、3−メチルブタナールの測定」の記載に従うものとする。
【0019】
本発明のコーヒー濃縮組成物には、所望により、苦味抑制剤、酸化防止剤、香料、各種エステル類、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、酸味料、品質安定剤、pH調整剤、植物油脂、タンパク質、カラメル、コーヒー豆微粉砕物、ココアパウダーなどの添加剤を1種又は2種以上配合してもよい。
【0020】
本発明のコーヒー濃縮組成物の形態としては、液体、粉末、顆粒、錠剤等が例示され、適宜選択することができる。本発明のコーヒー濃縮組成物は、そのまま、又は必要により水で希釈するなどの還元操作後、摂取することが可能である。
例えば、本発明のコーヒー濃縮組成物が液体の場合、ポーションタイプの希釈飲料とすることができる。一方、本発明のコーヒー濃縮組成物が粉末の場合、インスタントコーヒーとするのに好適であり、その形態としては、スプーンで計量し調製するもの、透過性浸出パッケージ又はカップ1杯分毎に小分けしたスティックタイプとすることができる。更に、本発明のコーヒー濃縮組成物が液体の場合、凍結乾燥、又は噴霧乾燥することで、インスタントコーヒーに加工することも出来る。
【0021】
また、本発明のコーヒー濃縮組成物は、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アルミ蒸着フィルム等を材質とするレトルトパックで提供しても、更に金属缶、PETボトル、ガラス容器のような形態で提供してもよい。この場合、密封容器内に窒素ガス等の不活性ガスを充填することが品質を維持する上で好ましい。
また、例えば、金属缶のような容器に充填後、加熱殺菌できる場合にあっては適用されるべき法規(日本にあっては食品衛生法)に定められた殺菌条件で製造できる。PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、あらかじめ上記と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器などで高温短時間殺菌後、一定の温度迄冷却して容器に充填する等の方法が採用できる。
【0022】
(容器詰コーヒー飲料)
本発明の容器詰コーヒー飲料は、上記本発明のコーヒ濃縮組成物をそのまま容器に充填するか、あるいは必要により希釈して容器に充填することで調製することができる。
本発明の容器詰コーヒー飲料は、容器詰ブラックコーヒー飲料としても良く、容器詰ミルクコーヒー飲料としても良い。容器詰ミルクコーヒー飲料とする場合、乳成分として、生乳、牛乳、全粉乳、脱脂粉乳、生クリーム、濃縮乳、脱脂乳、部分脱脂乳、練乳等を配合することが可能であり、更に上記添加剤を配合してもよい。
【0023】
本発明の容器詰コーヒー飲料は、上記と同様の包装容器に充填し、加熱殺菌して提供することが可能である。
【0024】
(コーヒー濃縮組成物の製造方法)
本発明のコーヒー濃縮組成物は、以下の方法により製造することができる。
本発明の製造方法では、先ず焙煎度(L値)が特定範囲内にそれぞれ制御された第1の焙煎コーヒー豆と第2の焙煎コーヒー豆を選択する。
第1の焙煎コーヒー豆として、L値が14〜20の焙煎コーヒー豆(深煎り豆)を使用するが、風味の観点から、L値は15〜19、更に16〜18であることが好ましい。また、第2の焙煎コーヒー豆として、L値が25〜40の焙煎コーヒー豆(浅煎り豆)を使用するが、風味の観点から、L値は25.5〜39、更に26〜38であることが好ましい。なお、L値の測定方法は、後掲の実施例の「L値の測定」の記載に従うものとする。なお、第1及び第2の焙煎コーヒー豆は、それぞれ単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
次に、混合後の焙煎コーヒー豆のL値の平均値が特定範囲内となるように、第1の焙煎コーヒー豆と第2の焙煎コーヒー豆を混合する。混合後の焙煎コーヒー豆のL値の平均値は21〜28.5であるが、風味の観点から、21.5〜28、更に22〜27であることが好ましい。ここで、「L値の平均値」は、使用する焙煎コーヒー豆のL値に、当該焙煎コーヒー豆の含有質量比率を乗じた値の総和として求めることができる。
本発明においては、混合後の焙煎コーヒー豆のL値の平均値が上記範囲内にあれば、第1及び第2の焙煎コーヒー豆以外の第3の焙煎コーヒー豆を使用してもよい。第3の焙煎コーヒー豆としては、例えば、ライト、シナモン、ミディアム、ハイ、シティ、フルシティ、フレンチ、イタリアンなどの焙煎度のコーヒー豆を適宜選択することが可能である。また、第3の焙煎コーヒー豆の混合割合も混合後のL値の平均値が21〜28.5となる範囲内で適宜選択することができる。
【0025】
焙煎方法としては、例えば、直火式、熱風式、半熱風式等の公知の方法を適宜選択することが可能であるが、これらの焙煎方式に回転ドラムを有するものが好ましい。焙煎温度は特に限定されないが、100〜300℃、更に150〜250℃であることが好ましい。焙煎後においては、風味の観点から、焙煎後1時間以内に、好ましくは0〜100℃、更に好ましくは10〜60℃まで冷却する。
【0026】
本発明で使用するコーヒー豆種としては、例えば、アラビカ種、ロブスタ種などが例示される。コーヒー豆の産地としては、例えば、ブラジル、コロンビア、グァテマラ、タンザニア、エチオピア、ジャマイカ、インドネシア、インド、ベトナム等が例示される。中でも、コーヒーらしい苦味とコク味の観点から、ロブスタ種が好ましい。
また、本発明においては、同一のL値を有する異種のコーヒー豆をブレンドして用いてもよい。
【0027】
焙煎コーヒー豆は粉砕したものを使用してもよく、例えば、粉砕度合いとして、極細挽き(0.250-0.500mm)、細挽き(0.300-0.650mm)、中細挽き(0.530-1.000mm)、中挽き(0.650-1.500mm)、中粗挽き、粗挽き(0.850-2.100mm)、極粗挽き(1.000-2.500mm)、あるいは平均粒径3mm、同5mm又は同10mm程度のカット品を使用することができる。
【0028】
次に、第1及び第2の焙煎コーヒー豆を含み、L値の平均値が21〜28.5となる焙煎コーヒー豆の混合物を多段階抽出する。「多段階抽出」とは、複数の独立した抽出塔を配管で直列につないだ装置を用いる抽出方法である。各抽出塔に焙煎コーヒー豆の混合物を充填し、初段の抽出塔から排出された抽出液を、順次、次の抽出塔の抽出用溶媒として使用し、抽出液を得る。多段階抽出においては、抽出溶媒を下方から上方への上昇流、あるいは上方から下方への下降流で供給することが可能であるが、風味の観点から、連続相が液体と気体との混合系となる下降流よりも、連続相が液体となる上昇流が好ましく採用される。この場合、抽出溶媒は、密閉系で供給される。このように、多段階抽出は、上方から下方へ抽出溶媒を開放系で供給するドリップ抽出とは抽出方法が全く異なる。
【0029】
多段階抽出では、前段階の抽出液が次の抽出に繰り返し供される。そのため、多段階抽出で得られたコーヒー抽出液は、例えば、ドリップ抽出により得られたコーヒー抽出液や攪拌式の抽出液とは、同一濃度に調整したとしても5−ヒドロキシメチルフルフラール等の組成が異なる。その結果、本発明の製造方法により得られたコーヒー濃縮組成物は、ドリップ抽出等により得られたコーヒー抽出液を用いたコーヒー濃縮組成物とは風味が異なるものになる。すなわち、本発明の製造方法により、焙煎コーヒー豆特有の香りが増強され、コク味と苦味が良好で、飲用後の口内に残る雑味が抑制されたコーヒー濃縮組成物を得ることができる。
【0030】
多段階抽出は公知の方法を採用することが可能であるが、例えば、次の方法が例示される。焙煎コーヒー豆の混合物を、複数の独立した抽出塔それぞれに投入し、1段階目の抽出塔に抽出溶媒を供給して該抽出塔からコーヒー抽出液を排出させる。次いで、1段階目の抽出塔から排出されたコーヒー抽出液を2段階目の抽出塔に供給し該抽出塔からコーヒー抽出液を排出させる。なお、3段階目以降の抽出塔を有する場合、前段階の抽出塔から排出されたコーヒー抽出液を次段階の抽出塔に供給しコーヒー抽出液を排出させるという操作を繰り返し行う。そして、最終段階の抽出塔から排出されたコーヒー抽出液を回収する。ここで、「独立した抽出塔」とは、抽出塔が完全に遮断されていることを意味するのではなく、焙煎コーヒー豆の移動は制限されるが、抽出溶媒又は製造途中のコーヒー抽出液を次段階の抽出塔に送液可能な連結手段を有する1つの抽出塔をいう。また、抽出塔から排出されたコーヒー抽出液は、全ての抽出塔を連続して通過させるだけでなく、抽出塔から排出されたコーヒー抽出液を一旦タンク等に貯留してもよいし、貯留したコーヒー抽出液を次段階の抽出塔に供給してもよい。なお、抽出に使用する抽出塔の段数は2以上であれば特に限定されず、所望の風味が得られるように適宜選択可能である。
【0031】
抽出溶媒としては、水、又はエタノール等のアルコール含有水溶液等が例示され、中でも、風味の観点から、水が好ましい。抽出溶媒のpH(25℃)は、風味の観点から、4〜10、更に5〜7であることが好ましい。
抽出溶媒の温度は、風味の観点から、通常多段抽出で採用される温度(170〜180℃)よりも低いことが好ましい。具体的には、上限は好ましくは150℃、より好ましくは135℃、更に好ましくは120℃、殊更に好ましくは100℃である。他方、下限は、好ましくは50℃、より好ましくは60℃、更に好ましくは70℃、殊更に好ましくは80℃である。
抽出圧力(ゲージ圧)は、風味及び抽出効率の観点から、0.1〜1.5MPa、更に0.2〜1.3MPa、更に0.4〜1MPaであることが好ましい。
抽出倍率は0.5〜2、更に0.6〜1.8、殊更に0.7〜1.6であることが好ましい。ここで、「抽出倍率」とは、抽出で得られた抽出液と抽出に用いた焙煎コーヒー豆の質量比[(抽出液質量)/(焙煎コーヒー豆質量)]をいう。
1段階当たりの抽出液の滞留時間は抽出スケール等により一様ではないが、好ましくは10分〜3時間、更に好ましくは15分〜2時間である。
【0032】
次に、得られたコーヒー抽出液を濃縮する。濃縮操作は、公知の方法及び装置で行えばよく、特に制限されるものではないが、例えば、減圧濃縮、逆浸透膜濃縮が例示される。また、粉体の形態が望ましい場合には、噴霧乾燥、凍結乾燥等により粉体状としてもよい。
【実施例】
【0033】
(クロロゲン酸類の測定)
クロロゲン酸類の測定法は次の通りである。分析機器はHPLCを使用した。
装置の構成ユニットの型番は次の通り。
UV−VIS検出器:L−2420((株)日立ハイテクノロジーズ)、
カラムオーブン:L−2300((株)日立ハイテクノロジーズ)、
ポンプ:L−2130((株)日立ハイテクノロジーズ)、
オートサンプラー:L−2200((株)日立ハイテクノロジーズ)、
カラム:Cadenza CD−C18 内径4.6mm×長さ150mm、粒子径3μm(インタクト(株))。
【0034】
分析条件は次の通りである。
サンプル注入量:10μL、
流量:1.0mL/min、
UV−VIS検出器設定波長:325nm、
カラムオーブン設定温度:35℃、
溶離液A:0.05M 酢酸、0.1mM 1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、10mM 酢酸ナトリウム、5(V/V)%アセトニトリル溶液、
溶離液B:アセトニトリル。
【0035】
濃度勾配条件
時間 溶離液A 溶離液B
0.0分 100% 0%
10.0分 100% 0%
15.0分 95% 5%
20.0分 95% 5%
22.0分 92% 8%
50.0分 92% 8%
52.0分 10% 90%
60.0分 10% 90%
60.1分 100% 0%
70.0分 100% 0%
【0036】
HPLCでは、試料1gを精秤後、溶離液Aにて10mLにメスアップし、メンブレンフィルター(GLクロマトディスク25A,孔径0.45μm,ジーエルサイエンス(株))にて濾過後、分析に供した。
クロロゲン酸類の保持時間(単位:分)9種のクロロゲン酸類
(A1)モノカフェオイルキナ酸:5.3、8.8、11.6の計3点
(A2)モノフェルラキナ酸:13.0、19.9、21.0の計3点
(A3)ジカフェオイルキナ酸:36.6、37.4、44.2の計3点。
ここで求めた9種のクロロゲン酸類の面積値から5−カフェオイルキナ酸を標準物質とし、質量%を求めた。
【0037】
(L値の測定)
試料を、色差計((株)日本電色社製 スペクトロフォトメーター SE2000)を用いて測定した。
【0038】
(乾燥固形分の測定)
乾燥固形分とは、コーヒー濃縮組成物を凍結乾燥させて得られる乾燥物の質量と、コーヒー濃縮組成物の質量の比率であって、(凍結乾燥物の質量/コーヒー濃縮組成物の質量)×100で定義される。コーヒー濃縮組成物約20gを専用のガラス容器に精秤した。この容器を−80℃のエタノールバス中で回転させながらコーヒー濃縮組成物を凍結した。凍結後凍結乾燥機(東京理化器械社製 FD−81)で凍結乾燥させた。凍結乾燥の条件は、圧力0.08Torrとした後、室温に20時間放置した。
【0039】
(5−ヒドロキシメチルフルフラールの測定)
後述の各実施例、及び比較例から得られたコーヒー濃縮組成物を凍結乾燥したコーヒー抽出固形物を用い、下記に示した方法により5−ヒドロキシメチルフルフラールの分析を行った。凍結乾燥機はFD−81型(東京理化器械(株)社製)を用いた。
【0040】
試料1gを精秤し、メスフラスコを用いて純水で20mLに定容した。純水5mLを用いて予備洗浄した固相カラム(Bond Elut SCX、及びSAXを連結したもの)に、先に定容した試料溶解液6mLを供給し、初流液4mLを廃棄後、溶出液を得た。溶出液1mLを10mLのメスフラスコに分取し、純水を用いて10mLに定容した。得られた調製液の5−ヒドロキシメチルフルフラール量をHPLCで測定した。なおこの際、5−ヒドロキシメチルフルフラール(東京化成工業(株)社製)を標準物質として、リテンションタイム10.3分のピーク面積値からコーヒー乾燥固形分中の5−ヒドロキシメチルフルフラールの質量%を求めた。
【0041】
HPLCの装置の構成ユニットの型番は次の通り。
機種:LC−10AS((株)島津製作所)
UV−VIS検出器:SPD−10AV((株)島津製作所)、
カラム:CAPCELL PAK C18 内径4.6mm×長さ250mm、粒子径3
μm((株)資生堂)。
【0042】
分析条件は次の通りである。
サンプル注入量:10μL、
流量:0.7mL/min、
UV−VIS検出器設定波長:285nm、
カラムオーブン設定温度:35℃、
溶離液:水、及びメタノールの混液(5:1)。
【0043】
(2−メチルピラジン、3−メチルブタナールの測定)
後述の各実施例、及び比較例から得られたコーヒー濃縮組成物を凍結乾燥したコーヒー抽出固形物を用い、下記に示した方法により2−メチルピラジン、3−メチルブタナール分析を行った。
【0044】
分析サンプル調製
試料1gを精秤し、イオン交換水を用いて溶解し50gにメスアップした。試料溶解液1mLを0.5gのNaClを加えた20mLのスクリューバイアル瓶に秤量した。得られた調製液の3−メチルブタナールと2−メチルピラジンの含有量をGC/MSにて分析した。
【0045】
GC条件
機種:GCMS−QP2010((株)島津製作所)
使用カラム:DB-1(Agilent J&W社製)長さ60m×内径0.25mm 膜厚0.25μm
固相マイクロ抽出(SPME)対応のオートインジェクター:AOC−5000((株)島津製作 所)
SPMEファイバー:DVB/CarboxenTM/Polidimethylsiloxane(スペルコ シグマ アル ドリッチ社) 昇温条件;40℃(4min. hold)−6℃/min.−60℃−3℃/min.−280℃(20min. hold)
MS条件
MS:スキャンモード;m/z 40〜400,EI;70eV,
SPME:平衡条件;40℃,25min./吸着条件;40℃,35min.
【0046】
GC/MS測定により得られたピークのマススペクトルと保持時間から、保持時間10.9分のピークを3−メチルブタナール、及び保持時間16.9分のピークを2−メチルピラジンと同定し、3−メチルブタナールはm/z 44、2−メチルピラジンはm/z 94のピークの面積値を用いて、3−メチルブタナール/2−メチルピラジン面積比を求めた。
【0047】
(官能評価)
後述の各実施例、及び比較例にて得られたインスタントコーヒーを、乾燥固形分1.4質量%となるように85℃に加温したイオン交換水で希釈し、それらを専門パネル5名により下記の基準で評価し、その後協議により最終スコアを決定して評価値とした。
【0048】
(I)香りに関する評価基準
5:コーヒーの香りが強い。
4:コーヒーの香りがやや強い。
3:どちらでもない。
2:コーヒーの香りがやや弱い。
1:コーヒーの香りが弱い。
【0049】
(II)コク味に関する評価基準
5:コーヒーのコク味が強い。
4:コーヒーのコク味がやや強い。
3:どちらでもない。
2:コーヒーのコク味がやや弱い。
1:コーヒーのコク味が弱い。
【0050】
(III)苦味に関する評価基準
5:コーヒーらしい苦味が強い。
4:コーヒーらしい苦味がやや強い。
3:どちらでもない。
2:コーヒーらしい苦味がやや弱い。
1:コーヒーらしい苦味が弱い。
【0051】
(IV)飲用後の口内に残る雑味に関する評価基準
5:コーヒー飲用後の口内に残る雑味がない。
4:コーヒー飲用後の口内に残る雑味が殆どない。
3:どちらでもない。
2:コーヒー飲用後の口内に残る雑味がやや強い。
1:コーヒー飲用後の口内に残る雑味が強い。
【0052】
(V)生コーヒー様の異味に関する評価基準
5:生コーヒー様の異味がない。
4:生コーヒー様の異味が殆どない。
3:どちらでもない。
2:生コーヒー様の異味がやや強い。
1:生コーヒー様の異味が強い。
【0053】
実施例1〜10、比較例1及び2
表1に示した品種及びL値の焙煎コーヒー豆を用い、それぞれ表1に示した質量比率となるように混合し、円筒状抽出塔(内径160mm×高さ660mm)5本に1塔当たりの充填量が4.2kgとなるように充填した。次いで、95℃の熱水を1段階目の抽出塔下部から上部へ送液した。1段階目の抽出塔上部から排出されたコーヒー抽出液を、2段階目の抽出塔下部から上部へ送液した。この操作を3段階目以降の抽出塔について繰り返し行い、5段階目の抽出塔の上部から排出されたコーヒー抽出液を速やかに冷却するとともに回収した。次いで、得られたコーヒー抽出液をロータリーエバポレーター(N−1100V型、東京理化器械(株)社製)を用い、30torr、50℃にて減圧加熱濃縮し、乾燥固形分が30質量%のコーヒー濃縮組成物を得た。更に、得られたコーヒー濃縮組成物を、噴霧乾燥機(Pulvis GB22、ヤマト科学(株)社製)にて、インレット温度170℃、アウトレット温度102℃の条件で粉末化し、インスタントコーヒーを得た。
コーヒー濃縮組成物の分析、及びインスタントコーヒーの官能評価を行った。その結果を表1に示す。
【0054】
比較例3〜5
表1に示した品種及びL値の焙煎コーヒー豆を用い、それぞれ表1に示した質量比率で400gとなるように混合し、これを円筒状カラム型抽出機(内径76mm×高さ680mm)に投入した。次いで、95℃の熱水を抽出機下部より100mL/minの流度で2分29秒間送液した。次いで、95℃の熱水を抽出機上部より100mL/minの流度で10分12秒間シャワーした。次いで、シャワーを停止し10分間静置した。10分後、95℃の熱水を100mL/minの流度で抽出機上部よりシャワーすると共に、抽出機下部から100mL/minの流度でコーヒー抽出液を抜き出し、速やかに冷却した。得られたコーヒー抽出液を実施例1と同じ方法にて濃縮し、乾燥固形分が30質量%のコーヒー濃縮組成物を得た。更に、得られたコーヒー濃縮組成物を実施例1と同じ方法にて粉末化しインスタントコーヒーを得た。
コーヒー濃縮組成物の分析、及びインスタントコーヒーの官能評価を行った。その結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1から、高濃度の(A)クロロゲン酸類を含有するコーヒー濃縮組成物中の(B)5−ヒドロキシメチルフルフラールの含有量を一定量以下に制御することで、焙煎コーヒー豆特有の香りが増強され、コク味と苦味が良好で、飲用後の口内に残る雑味が抑制されることが確認された。また、このようなコーヒー濃縮組成物は多段階抽出によって得ることが可能であり、ドリップ抽出により得られたコーヒー抽出液を用いたコーヒー濃縮組成物とは組成及び風味が異なることが確認された。
【0057】
比較例6
表2に示したブラジル産アラビカ種のL値16.5の焙煎コーヒー豆を単独で用いたこと以外は、実施例1と同様の操作により焙煎コーヒー豆抽出液を得、実施例1と同様の操作により濃縮した。次に、ベトナム産ロブスタ種の未焙煎原料として生コーヒー豆エキス−P(オリザ油化(株))の粉末を、先に得られた焙煎コーヒー濃縮組成物中の固形分との比率が、表2に示した割合になる様に混合し、乾燥固形分が30質量%のコーヒー濃縮組成物を得た。更に、得られたコーヒー濃縮組成物を実施例1と同じ方法にて粉末化しインスタントコーヒーを得た。
コーヒー濃縮組成物の分析、及びインスタントコーヒーの官能評価を行った。その結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
表2から、焙煎コーヒー豆抽出液と生コーヒー豆抽出液をブレンドして得られたインスタントコーヒーは、生コーヒ豆抽出液に起因する生コーヒー様の異味が感じられ、コーヒー風味が損なわれることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)及び(B);
(A)クロロゲン酸類:乾燥固形分中に100〜300mg/g、及び
(B)5−ヒドロキシメチルフルフラール:乾燥固形分中に0.33mg/g以下
を含有し、乾燥固形分が10〜100質量%のコーヒー濃縮組成物。
【請求項2】
当該コーヒー濃縮組成物の乾燥固形分中の(A3)ジカフェオイルキナ酸類と(A)クロロゲン酸類との含有質量比[(A3)/(A)]が0.05〜0.16である、請求項1記載のコーヒー濃縮組成物。
【請求項3】
当該コーヒー濃縮組成物をガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)で分析したときの(C)2−メチルピラジンと(D)3−メチルブタナールとのピーク面積比[(D)/(C)]が0.1以下である、請求項1又は2記載のコーヒー濃縮組成物。
【請求項4】
L値14〜20の第1の焙煎コーヒー豆と、L値25〜40の第2の焙煎コーヒー豆とを含み、L値の平均値が21〜28.5となる焙煎コーヒー豆の混合物を、多段階抽出し濃縮する、コーヒー濃縮組成物の製造方法。
【請求項5】
前記多段階抽出における抽出溶媒の温度が50〜150℃である、請求項4記載のコーヒー濃縮組成物の製造方法。
【請求項6】
前記多段階抽出における抽出倍率が0.5〜2である、請求項4又は5記載のコーヒー濃縮組成物の製造方法。
【請求項7】
前記多段階抽出における抽出溶媒が水又はアルコール水溶液である、請求項4〜6のいずれか1項記載のコーヒー濃縮組成物の製造方法。
【請求項8】
前記多段階抽出における抽出圧力が0.1〜1.5MPaである、請求項4〜7のいずれか1項記載のコーヒー濃縮組成物の製造方法。