説明

コーヒー配合飲食品用組成物

【課題】コーヒーを配合した様々な種類の飲食品に、モカコーヒーの特徴的な風味や香味の付加ないし強化剤、当該付加ないし強化剤組成物、及びこれらの剤又は組成物を添加したコーヒー配合飲食品を提供する。
【解決手段】ラズベリーケトンを、コーヒー配合飲食品用のモカコーヒー調香味付加ないし強化剤又はこれを含有する組成物とする。当該付加ないし強化剤又はこれを含有する組成物を、コーヒー又はコーヒーフレーバーを配合した様々な種類の飲食品に配合することによって、モカコーヒー調の香味を付加し、あるいは強化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーヒー配合飲食品用の、モカコーヒーの特徴的な風味や香味の付加ないし強化剤、当該付加ないし強化剤を含有する組成物、及びこれらの剤又は組成物を添加したコーヒー配合飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒーは、嗜好飲料として多くの人々に愛好され、また、コーヒーを配合した様々な種類の飲食品が知られている。
コーヒーは原料豆の産地によってそれぞれ特徴的な風味や香味を持つが、様々な産地のうちエチオピアやイエメン産の豆から得られるコーヒーはモカコーヒーと称され、独特のフルーティーで甘く、ワイニーな香りやソフトで滑らかな味わいを有し、日本人の嗜好に合うことから、たいへん好まれているものである。
コーヒー配合飲食品にこのモカコーヒー調の風味や香味を付加ないし強化するためには、コーヒー配合飲食品を製造する際に、コーヒーの原料として、エチオピアやイエメン産のコーヒー豆を主に使用すれば良いが、コストが高くなったり、製造方法や製造工程が複雑になるなどの問題点があった。
一方、モカコーヒー調の香味を付加できるフレーバー組成物も市販されてはいるが、モカコーヒー調の香味へ寄与するフレーバー成分が明らかでないことから、多数のフレーバーがブレンドされたものであり、コストが高いことや期待される効果が得られないという問題点があった。
そのため、簡便にかつ効果的に、コーヒー配合飲食品にモカコーヒー調の風味や香味を付与ないし強化するための手段が求められているが、単品でモカコーヒー調の風味や香味を付与ないし強化するフレーバーは、これまで見出されていない。
【0003】
特許文献1には、コーヒーフレーバーに添加されるべき香料成分として極めて多数の物質が列記され、その中にラズベリーケトンが含まれているが、ラズベリーケトンの効能や添加量を含め実質的な記載はない。
ラズベリーケトンはラズベリーの主要香気成分として知られ、ラズベリー香の調合香料として食品や香粧品に用いられている。また、例えば、茶本来の香気を発現させることのできる、茶飲料のためのフレーバーエンハンス用添加剤としての使用も提案されている(特許文献2)。しかし、ラズベリーケトンが、コーヒーのフレーバーの含有成分であること、また、当該ケトンがモカコーヒーの特徴香に寄与する香気成分であることの、いずれも未だ報告されていない。
【特許文献1】特開2006−20526号公報
【特許文献2】特開2004−329094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、コーヒーを配合した様々な種類の飲食品に、モカコーヒーの特徴的な風味や香味の付加ないし強化剤、当該付加ないし強化剤を含有する組成物、及びこれらの剤又は組成物を添加したコーヒー配合飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、コーヒーの風味や香味について様々な観点から検討してきた結果、コーヒーのフレーバーの中にラズベリーケトン(4−(p−ヒドロキシフェニル)−2−ブタノン)が含まれていることを新たに見出し、特にエチオピア産のコーヒーのフレーバー中には、他の産地のコーヒーに比較して多量に、あるいは全香気成分量中に比較的高い比率でラズベリーケトンが含まれていて、当該香気成分がモカコーヒーの特徴的な風味や香味の形成に寄与していることを見出し、これを、コーヒー配合飲食品に添加すれば、モカコーヒー調の風味や香味が付加ないし強化されることを見出して本発明を完成した。
本願明細書において、モカコーヒー調香味とは、エチオピアやイエメンで産出されるコーヒー豆から抽出されるコーヒーの持つフルーティーで甘く、ワイニーな香りやソフトで滑らかな味わいなどの独特な香味をいう。
【0006】
すなわち本発明は、
(1)ラズベリーケトンを有効成分とするコーヒー配合飲食品用のモカコーヒー調香味付加ないし強化剤。
(2)ラズベリーケトンを有効成分とするコーヒー配合飲食品用のモカコーヒー調香味付加ないし強化剤組成物。
(3)ラズベリーケトンの含有量が10ppb〜200ppmである、上記(2)に記載のモカコーヒー調香味付加ないし強化剤組成物。
(4)上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の付加ないし強化剤又は付加ないし強化剤組成物を添加した、モカコーヒー調香味が付加ないし強化されたコーヒー配合飲食品。
(5)ラズベリーケトンの添加量が、コーヒー配合飲食品全質量に対し0.1ppb〜200ppbである、上記(4)に記載のモカコーヒー調香味が付加ないし強化されたコーヒー配合飲食品。
(6)ラズベリーケトンを添加することからなる、コーヒー配合飲食品のモカコーヒー調香味付加ないし強化方法。
(7)ラズベリーケトンの添加量がコーヒー配合飲食品質量に対し0.1ppb〜200ppbである、上記(6)に記載の、モカコーヒー調香味付加ないし強化方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のモカコーヒー調香味付加ないし強化剤、又はこれを含有する組成物は、コーヒー配合飲食品に添加したときに、モカコーヒー調の特徴的な風味や香味を付加ないし強化することができる。また、他産地の原料豆から得られたコーヒーに添加した場合にもモカコーヒー調の風味や香味を付加することができるため、日本人に好まれるモカコーヒーの代替品として、コーヒー配合飲食品に広く使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のコーヒー配合飲食品用モカコーヒー調香味付加ないし強化剤の有効成分であるラズベリーケトンは、バラ科キイチゴ属に属するラズベリーの香気成分のうち最も重要な特徴成分であり、甘くソフトなラズベリー又はストロベリー様の香気を有するため、主として果実用フレーバーとして用いられている。当該物質は、果実から抽出する方法、あるいは合成法によって得られ、市販品として入手可能である。
【0009】
本発明のコーヒー配合飲食品用モカコーヒー調香味付加ないし強化剤は、粉末状であってもよく、また、ラズベリーケトンのモカコーヒー調風味や香味増強作用を損なわない範囲で、通常使用される添加剤や賦形剤、例えば、アルコール類、グリセリンやプロピレングリコールなどの多価アルコール、植物油や動物油などの油類、アラビアガム、トラガントガムなどの天然ガム類、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどの多価アルコールエステル、グルコース、セルローズ、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、デンプン、デキストリンなどの多糖類、ゼラチン、コラーゲンのような硬質蛋白質類、あるいは界面活性剤などを適宜に配合して、粉末、溶液、乳化・懸濁液状の組成物とし、あるいは該組成物を包接体ないしマイクロカプセルに封入してもよい。
また、水蒸気蒸留など通常の方法で製造したコーヒーフレーバーや、コーヒー豆を圧搾して得られるコーヒーオイルに添加してもよい。
組成物中のラズベリーケトンの配合量は、組成物に対し、質量ベースで10ppb〜200ppm、好ましくは40ppb〜100ppmである。
【0010】
本発明において、ラズベリーケトン、又はこれを配合した組成物を添加するのに適したコーヒー配合飲食品としては、インスタントコーヒー、コーヒーエキストラクト、レギュラーコーヒーのほか、適宜の割合でコーヒー又はコーヒーフレーバーを配合したコーヒー風味清涼飲料や乳飲料、ゼリー、ババロワ、プリン、ケーキ類などのデザート菓子、アイスクリームやシャーベットなどの冷菓、クリーム類、コーヒーミックスパウダー類、キャンディーやガムなどの菓子などが挙げられる。
コーヒー配合飲食品に対するラズベリーケトンの配合量は、コーヒー配合飲食品中のコーヒー濃度・添加量、食品の種類に応じ、モカコーヒー調風味や香味増強作用を奏する範囲で任意であるが、通常、コーヒー配合飲食品の全質量に対し0.1ppb〜200ppb(0.00002%)程度であり、0.4ppb〜100ppb程度となるようにするのが好ましい。配合量が0.1ppbより少ないと、モカコーヒー調のコーヒー風味や香味の増強作用が十分に得られなくなる傾向にあり、200ppbより多いと、ラズベリーケトン本来の甘くソフトなラズベリー又はストロベリー様の香気が強調されるようになるため、コーヒー風味や香味の強化目的には適しにくくなる。
【0011】
本発明のモカコーヒー調香味付加ないし強化剤又はこれを含有する組成物のコーヒー配合飲食品への添加は、対象飲食品の製造工程のいずれの段階で添加してもよく、飲食品の種類に応じて、これらの剤形を適宜に選択して用いる。
【0012】
以下に、実施例及び比較例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0013】
[ラズベリーケトンの同定]
・試料
A:原料豆(産地・品種・グレード)
エチオピア産アラビカ種シダモ Grade2(G2)(モカコーヒー)
タンザニア産アラビカ種キリマンジャロ AB
グァテラマ産アラビカ種 Strictly Hard Bean (SHB)
B:焙煎度
L値 18(深煎り) 23(中煎り) 26(浅煎り)
3産地の生豆を3段階で焙煎した計9種類を試料とした。
ここでL値は、コーヒーの粉末の表面色に光を照射して色差を測定する方法で得られるハンターLab表色系の明度(明るさ)を表わす値で、数値が小さいほど焙煎が深いことを表す。実際には、日本電色工業株式会社製の色差計ZE-2000にて測定した。
【0014】
・実験方法
A:香気成分の捕集
各試料を市販の粉砕機(メリタ CG4B(メリタジャパン社製))を用いて粉砕し、同じく市販のペーパードリップ式のコーヒーメーカー(東芝製 HCD−6GJ)で抽出して抽出直後のコーヒーサーバーのヘッドスペース部の香気成分を捕集した。
香気成分の捕集は、図1に示すとおり、コーヒーサーバーのヘッドスペース部に、固相マイクロ抽出(Solid-phase Microextraction, SPME)のためのSPMEデバイス(SPMEファイバー(50/30μm Divinylbenzene/Carboxen/Polydimethylsiloxane))を装着した。
焙煎後の試料を粉砕機の目盛2でドリップ用に粉砕し、その24gをイオン交換水420gで、約7分間抽出し、Brix値約1.7°、液温約85℃の抽出液約360mLを得た。
ヘッドスペースの温度は約70℃であり、抽出終了後2分間の香気をSPMEデバイスで捕集した。また、ガスクロマトグラフィー/オルファクトメトリー(GC/O)分析における順次希釈を行なうために、ファイバー長を2cm、1cm、0.5cm、0.25cmの4段階にて捕集した。
B:香気成分の分析
捕集した香気成分について、ガスクロマトグラフィー分析と嗅覚法を組み合わせたGC/O分析(チャームアナリシス)を行い、各希釈倍率と匂いの保持時間をもとに、匂いの絶対強度としてのチャームバリューを算出した。結果は、匂い表現、匂い成分名とともに表1に示した。表中のチャームバリューは、3回測定の平均値である。表中には、最も強い匂いの成分強度を100として、スティーブンスの法則(Stevens’ Law,n=0.5使用)(「刺激の強さ」と「感覚の強さ」の間に成立する法則)を用いて示した相対強度を表すOdor Spectrum Value(OSV)が50%以上の匂い成分について示した。
【0015】
【表1】

【0016】
GC/O分析結果(表1)を用いた主成分分析による第1主成分の寄与率は38.1%、第2主成分の寄与率は24.3%であり、第1及び第2主成分の累積寄与率は62.4%となる。
図2は、各サンプルの主成分得点をプロットしたものであり、図3は、各匂い成分の因子負荷量をプロットしたものである。図2によれば、いずれの焙煎度でも、エチオピア産のモカコーヒーは第2主成分の負の領域にプロットされており、第2主成分の正の領域に多くのサンプルがプロットされているタンザニア、グァテマラ産とは香りの香調が異なっていることがわかる。また、図3によれば、ほとんど全ての匂い成分の因子負荷量が第2主成分の正の領域にプロットされているが、他の匂い成分とは明らかに異なる第2主成分の負の領域に、スウィート/フルーティー香に属する成分(表1の2−4に該当する未知成分)のみが認められた(図中の○で囲った成分)。この結果は、このスウィート/フルーティー香に属する未知成分が、モカコーヒーの特徴香の形成に寄与していることを示している。
【0017】
C:香気成分の同定
(1)エチオピア産コーヒーの特徴的な香りに寄与していると示唆されるスウィート/フルーティー香に属する当該未知成分の同定と定量を行った。
同定と定量は、前述のエチオピア産、タンザニア産、グァテマラ産のアラビカ種3産地、L値18、23、26の計9種類の焙煎豆を原料とし、ガスクロマトグラフィー/質量分析機(GC/MS、Agilent 6890 GC/Agilent 5973 inert MSD カラムAgilent DB−WAX(0.25mm×60m)(アジレントテクノロジー社))、及びGC/O分析機器(チャームアナリシスシステム(DATU,Inc.Geneva,NY カラムAgilent DB−WAX(0.32mm×15m(アジレントテクノロジー社)))を用いて行った。エチオピア産コーヒー(L値26)抽出液のヘッドスペース香気成分のGC/O分析により、未知成分は、ガスクロマトグラム上の保持指標が2966(図4)の物質であり、フルーツ様の甘い香り(ラズベリー、ストロベリー様の香調)からラズベリーケトンと推定された。
(2)ラズベリーケトンの標準品を希釈し、GC/O分析を行ったところ保持指標2968、フルーツ様(ラズベリー、ストロベリー様)の甘い香調のいずれも前記未知成分と一致した。
(3)エチオピア産豆を、後記と同様に焙煎、粉砕、ドリップし、ドリップ液を冷却した後、エーテルで抽出し、濃縮後、GC/MS分析を行ったところ、ラズベリーケトンが検出され、コーヒー抽出液にラズベリーケトンが含まれていることが証明され、また、生豆を粉砕し、ドリップ抽出した抽出液を同様にGC/MS分析したところ、ラズベリーケトンの存在が確認された。
【0018】
[ラズベリーケトンの定量]
・原料豆
香気成分の同定に用いたものと同じエチオピア産、タンザニア産、グァテマラ産の豆の、焙煎度(L値)が18、23、及び26の各試料を使用した。
・実験方法
焙煎後の豆を粉砕(メリタ パーフェクトタッチII(メリタジャパン社製)、目盛り2)し、粉砕豆24gをイオン交換水420mLをもちいて、ドリップ式コーヒーメーカー(東芝製 HCD−6HJ)によりドリップした。
ドリップ液を容器ごと氷水に浸けて25℃まで冷却した後、ドリップ液300mLをエーテル150mL(内部標準としての3−ヘプタノール 50μgを含む)で30分間抽出し、エーテル抽出液を茫硝で乾燥後、0.5mLまで濃縮した。
GC/MS測定をSIMモード、選択イオンm/z164、107を用い、内部標準3−ヘプタノール(m/z87)との比率から、内部標準法によりラズベリーケトンの含量を算出した。結果を表2に示す。表中の量単位はppb、数値は測定3回の平均値である。
【0019】
【表2】

【0020】
表2の結果から、いずれの焙煎度でも、エチオピア産が最も高い値を示し、L値26については、他の2品種との多重比較検定により、有意に(p<0.05)差のあることが明らかとなった。
[実施例1]
エチオピアシダモ G2(モカコーヒー)を焙煎後(焙煎度L値26)、粉砕機(メリタ パーフェクトタッチII、目盛り:2(メリタジャパン社製))で粉砕した。粉砕豆24gを、ペーパードリップ式のコーヒーメーカー(東芝製 HCD−6HJ)を用いて、イオン交換水420mLでドリップし、缶に充填し、25℃以下に冷却して、これをコントロールとした。
タンザニア産のアラビカ種キリマンジャロ ABを焙煎後(焙煎度L値26)抽出液粉砕機(メリタ パーフェクトタッチII、目盛り:2(メリタジャパン社製))で粉砕した。粉砕豆24gを、ペーパードリップ式のコーヒーメーカー(東芝製 HCD−6HJ)を用いて、イオン交換水420mLでドリップし、缶に充填して、25℃以下に冷却した。主要香気成分10個のGC/MSの合計ピーク面積値比より、コントロールと総香気量を同等にすることにより、全体の匂い強度による香質への影響を排除するために、試験時にドリップ液をイオン交換水で1.7倍に希釈した。また、希釈時に、コントロールのラズベリーケトンの含有量と等しくなるようにラズベリーケトン0.9ppbを添加して試料1を得た。
【0021】
[実施例2]
グァテマラ産のアラビカ種SHBを使用し、同様の理由により希釈倍率を1.5に変更し、ラズベリーケトンの添加量を0.8ppbに変更する以外は実施例1と同様にして試料2を得た。
[比較例1]
ラズベリーケトンを添加しない以外は実施例1と同様にして、比較試料1を得た。
[比較例2]
ラズベリーケトンを添加しない以外は実施例2と同様にして、比較試料2を得た。
【0022】
ラズベリーケトンを添加後、35℃の水浴中で1時間加温し、300mL容のビーカーに180mL入れて、官能評価及び電子嗅覚システムによる分析を行った。
<官能評価>
A 評価は、フレーバリスト10名により行い、官能評価に先立ち、産地名は伏せて、パネラーに以下のグループI及び特徴香(モカ香)を有するグループIIの抽出液の香りを嗅がせ、エチオピア産モカコーヒーの特徴香を認識させた。
グループI:ブラジルNo.2、コロンビア Supremo(エチオピア産モカコーヒー以外)
グループII:エチオピア産シダモ Grade4、エチオピア産ハラ−(モカコーヒー代表)
官能評価は、まず、コントロール(エチオピア産シダモ G2)を提示し、次いで、試料1、比較試料1を提示して、特徴香の点におけるコントロールとの類似性について1対2点試験法により評価を行った。
結果は、試料1の方がこのコントロールに近いと評価した者は9名、比較試料1の方が近いと評価した者は1名であり、有意に(p<0.05)その類似性が認められた。
また、試料2及び比較試料2についても同様に行い、結果は、試料2の方がコントロールに近いと評価した者は9名、比較試料2の方が近いと評価した者は1名であり、有意に(p<0.05)その類似性が認められた。
【0023】
<電子嗅覚システムαFOX4000による分析>
官能評価Aで使用した5種の試料(コントロール、試料1、比較試料1、試料2、比較試料2)を用い、以下の条件で匂い識別分析を行った。
(1)使用機器 フランスALPHA M.O.S社αFOX4000
(2)測定条件
使用センサ:金属酸化物半導体センサ18個
サンプル量:1mL(10mL容のバイアル中)
ヘッドスペースジェネレーション:35℃、10分
キャリアガス:純空気
ガス流量:150mL/分
ヘッドスペースインジェクション:インジェクション量1500μL、速度1500μL/秒
データ採取時間:120秒
【0024】
18個のセンサの内、サンプル間の識別能に優れた7個のセンサー応答値を用いた主成分分析結果は、図5に示すとおりである。主成分分析による第1主成分の寄与率は98.68%、第2主成分の寄与率は0.57%であり、第1及び第2主成分の累積寄与率は99.25%となる。エチオピア産のモカコーヒー(コントロール)は、タンザニア産(比較試料1)やグァテマラ産コーヒー(比較試料2)と異なった領域にプロットされた。これは、モカコーヒーと他の2産地のコーヒーの香調が異なることを示している。ラズベリーケトンを加えた試料1(図5中、Tanzania+RK)及び2(図5中、Guatemala+RK)では、ラズベリーケトンを添加しない比較試料1及び2に比較して第1主成分の負の領域にプロットされ、コントロール(エチオピア産)との距離が近くなる結果となった。このことは、ラズベリーケトンを加えた試料1及び2が、電子嗅覚システムによる分析上も、エチオピア産のモカコーヒーに近い香調となったことを意味している。
これらの官能評価及び電子嗅覚システムによるセンサ分析の結果から、 ラズベリーケトンがエチオピア産に代表されるモカコーヒーの特徴香の形成に寄与していること、実際、他産地のコーヒーにラズベリーケトンを添加することによって、モカコーヒー様の香調とすることができることが明らかとなった。
【0025】
[実施例3]
下表3に示す組成物100部に、ラズベリーケトンの400ppm溶液1部を加え、ラズベリーケトンを4ppm含有する本発明の組成物を得た。
【0026】
【表3】

【0027】
[実施例4]
実施例3で得られた本発明の組成物を、コーヒー含有乳飲料100部に対して0.01部又は0.1部添加して、ラズベリーケトンを0.4ppb又は4ppb含有するコーヒー含有乳飲料をそれぞれ調製した。これらのコーヒー含有乳飲料は、いずれもモカコーヒー調の香味が付加されたものであった。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ドリップコーヒー抽出液のヘッドスペース部の香気成分捕集のためのSPMEデバイスを装着した、コーヒーメーカーを利用した香気サンプリング装置の模式図である。
【図2】GC/O分析結果を用いた主成分分析による、各サンプルの主成分得点をプロットした図である。
【図3】GC/O分析結果を用いた主成分分析による、各匂い成分の因子負荷量をプロットした図である。
【図4】エチオピア産コーヒー(L値26)のGC/O分析における、オーダースペクトラムである。
【図5】電子嗅覚システムαFOX4000によるセンサ応答値の主成分分析による各サンプルの主成分得点を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 SPMEデバイス
2 ヘッドスペース



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラズベリーケトンを有効成分とする、コーヒー配合飲食品用のモカコーヒー調香味付加ないし強化剤。
【請求項2】
ラズベリーケトンを有効成分とする、コーヒー配合飲食品用のモカコーヒー調香味付加ないし強化剤組成物。
【請求項3】
ラズベリーケトンの含有量が10ppb〜200ppmである、請求項2に記載のモカコーヒー調香味付加ないし強化剤組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の付加ないし強化剤又は付加ないし強化剤組成物を添加した、モカコーヒー調香味が付加ないし強化されたコーヒー配合飲食品。
【請求項5】
ラズベリーケトンの添加量が、コーヒー配合飲食品全質量に対し0.1ppb〜200ppbである、請求項4に記載のモカコーヒー調香味が付加ないし強化されたコーヒー配合飲食品。
【請求項6】
ラズベリーケトンを添加することからなる、コーヒー配合飲食品のモカコーヒー調香味付加ないし強化方法。
【請求項7】
ラズベリーケトンの添加量がコーヒー配合飲食品質量に対し0.1ppb〜200ppbである、請求項6に記載のモカコーヒー調香味付加ないし強化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−212010(P2008−212010A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−50770(P2007−50770)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年8月29日 日本大学湘南キャンパスにて開催された、日本食品科学工学会主催の日本食品科学工学会第53回大会において、文書をもって発表
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】