説明

コーヒー飲料抽出器

【課題】公知のサイフォンコーヒーメーカーは、抽出したコーヒー飲料が高温状態の下フラスコに接触して香りや風味成分が劣化し損なわれる。また、抽出温度に選択性が無く、浸出抽出時の環境が不安定である。
【解決手段】有底上部開放で底部に第2容器201に気密接続される接続部202を備える第1容器101。第1容器内の底部付近に構成され、夾雑物の濾過に適したフィルター104。第1容器との気密接続部と、減圧装置301との気密接続部を備えた気密容器である第2容器。第2容器に接続され、空気を排出して減圧をおこなう減圧装置。これらを相互に気密接続し、第1容器内で抽出に使用する全量の湯とコーヒー粉を混ぜ合わせ、保持して浸出抽出を行ったのち、減圧装置で第2容器内を減圧して第1容器内の混合液を第2容器に吸引、第1容器に構成されたフィルターで濾過して、コーヒー飲料を抽出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、業務用および家庭用として用いられる、コーヒー飲料抽出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1990年前後から日本や欧米の資本企業が主導となり、中南米・太平洋・アフリカなどのコーヒー生産国へ直接の資金補助や技術支援を行うことで、コーヒーの品質と信頼性・生産性を向上させる活動が活発におこなわれてきた。
こういった活動の成果として市場にあらわれたコーヒーは、おもにスペシャルティコーヒーと呼ばれ、生産国・地域・農家・果肉をとりのぞく精製方式・収穫時期まで徹底して管理された単一の出荷ロットに対して、鑑定士によって官能検査を行ったうえで評価される。
スペシャルティコーヒーは品種や土壌・精製方式に由来する香りや風味の個性が強く、繊細な風味をあわせもつ。環境配慮やフェアトレード、オーガニックなどの認証機関によってそれらの認証を受けるものも多い。
スペシャルティコーヒー生産各国では毎年国際オークションが開催され、日本の事業者も多く参加し、落札されたコーヒーはローストされたのち、付加価値の高いコーヒー豆として流通している。
【0003】
こうしたスペシャルティコーヒーの出現などにより、世界各国で生産されるコーヒー生豆の品質が大幅に向上し、優れた香りと風味をもつことを付加価値として訴求するコーヒーが市場に流通するようになった。
必然的にコーヒー飲料の品質に対して高い関心が持たれ、これに伴ってコーヒー飲料を抽出するための抽出方式や装置にも、従来に比べ高い水準が求められる傾向にある。
コーヒー飲料を抽出するための公知の方式や装置は多く、ドリップ方式をはじめとして、サイフォンコーヒーメーカー・エスプレッソマシン・フレンチプレスなど、さまざまな方式の装置が流通している。
【0004】
公知のサイフォンコーヒーメーカーは、水が上下にダイナミックに移動しながら抽出が行われ、その様子から趣味性が高く優雅であるとされる。このことからサイフォンコーヒーメーカーは、コーヒー専門店や家庭において趣向性の強いコーヒー抽出器として根強い人気がある。
サイフォンコーヒーメーカーはコーヒー飲料の抽出方法として広く認知されており、2003年からはSCAJ(スペシャルティコーヒーアソシエーションジャパン)の主催により、サイフォンコーヒーメーカーを使用して抽出技術やサービスを競う競技会である、ジャパンサイフォニストチャンピオンシップが毎年開催されている。
また、公知のドリップ方式ではコーヒーかす(夾雑物)に水分が多く残存するため、その水分に含まれる香りや風味成分ごとコーヒーかす(夾雑物)として破棄されてしまうが、サイフォンコーヒーメーカーでは、濾過時に抽出液が下フラスコへ吸引されるため、コーヒーかす(夾雑物)が保持しようとする水分の大半が吸い出され、そこに含まれているドリップ方式ではコーヒーかす(夾雑物)ごと破棄されてしまう香りや風味成分を、効率よくコーヒー飲料へと抽出できるという利点がある。
【0005】
サイフォンコーヒーメーカーは、上フラスコ、下フラスコ、フィルター、下フラスコ加熱源によって構成されるコーヒー飲料抽出装置である。
下フラスコは加熱に耐える素材で形成された気密容器で、加熱や操作が円滑に行えるよう、自立するスタンドを備えているものが一般的である。下フラスコが上部に備える開口接続部は上フラスコと気密接続される。
上フラスコは筒状有底かつ上部開放で、底部に下フラスコへ挿入され下フラスコ底部付近まで到達する長さの管と、下フラスコと気密接続される接続部を備える。
下フラスコ加熱源はアルコールランプが主流だが、電気式ヒーターやガスコンロなどによる加熱源も多く用いられる。下フラスコ加熱源は下フラスコ内に注水された水を沸騰させる能力を持ったものであれば方式は限定されない。
フィルターは一般的にフランネル素材が使用され、上フラスコ底部の下フラスコ接続部を覆い塞ぐ位置に設置され、適切に濾過が行われるようにバックプレートや固定具を備える。またサイフォンコーヒーメーカー用のペーパーフィルターと、それを適切に設置するためのバックプレートや固定具も考案され製品化されている。
これまでも、サイフォンコーヒーメーカーについて多くの考案がなされ、改良がおこなわれてきた。その多くは熱源や制御に関するもので、本発明同様に品質に優れたコーヒー飲料の抽出を実現するべく開発されたものである。これらを先行技術文献として本明細の段落0006に示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−272619号公報
【特許文献2】特開平07−148071号公報
【特許文献3】特開平08−038360号公報
【0007】
サイフォンコーヒーメーカーでコーヒー飲料を抽出するには、下フラスコに水を入れ、フィルターを設置した上フラスコを、下フラスコに挿入して気密接続する。下フラスコ加熱源を用いて下フラスコを加熱し水が沸騰すると、加熱された水は蒸気圧によって下フラスコから上フラスコへと押し上げられて保持される。
加熱された水が保持された上フラスコへコーヒー粉を加え、竹ベラなどで軽く攪拌した後に安置して浸出抽出をおこなう。浸出抽出のための安置時間は1〜3分で行われることが多い。
浸出抽出が完了したら下フラスコの加熱を中止する。温度の低下とともに下フラスコ内部の水蒸気が収縮し減圧され、上フラスコ内の混合液が下フラスコへ吸引される。この際、混合液は上フラスコ底部付近に構成されたフィルターでコーヒーかす(夾雑物)が濾過・分離され、下フラスコにコーヒー飲料が抽出される。
以上がサイフォンコーヒーメーカーの抽出手順である。尚、コーヒー粉を投入するタイミングと、上フラスコを挿入するタイミングは上記に限定されないが、サイフォンコーヒーメーカーの抽出原理と動作はすべて同一である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
サイフォンコーヒーメーカーは、浸出抽出の後に下フラスコの加熱を止めて水蒸気を収縮させ、減圧によって上フラスコ内の混合液を吸引し、上フラスコ底部付近のフィルターを通して濾過をおこない回収することから、濾過されたコーヒー飲料は、直前まで加熱されていた高温の下フラスコに接触することとなり、この熱によってコーヒー飲料に含まれる香りや風味成分が劣化し損なわれる。
【0009】
また、ドリップ方式では一般的な範囲でも68℃〜93℃で抽出温度を任意に選択して、コーヒー粉の特性と嗜好にあわせた味わいのコーヒー飲料を抽出することができるが、サイフォンコーヒーメーカーは、下フラスコ内で沸騰、気化膨張した水蒸気の圧力で上ビーカーへ加熱された水が移動し、上フラスコ内に保持された状態で浸出抽出が行われるため、湯の温度は摂氏90度以上に達し、コーヒー飲料の抽出温度として湯温が高く不適切な場合があるほか、サイフォンコーヒーメーカーは原理上湯の温度を任意に選択することができないため、風味に優れたコーヒー飲料の抽出に適した温度環境を実現することが難しい。
さらに、下フラスコから上フラスコへ断続的に水蒸気の気泡が供給されるため、水温が浸出抽出の過程で2分間に実測平均4℃上昇するほか、水面へ気泡が移動することで混合液を攪拌するため、浸出抽出の環境が温度的・物理的ともに不安定であることが、コーヒー飲料の香りや風味を低下させる原因となる。
【0010】
これらの原理と現象を精査するとサイフォンコーヒーメーカーは、抽出したコーヒー飲料の香りと風味を高熱で損なう問題点と、浸出抽出における環境が不安定かつ選択性がない問題点を、それぞれもっていることが明らかになる。
つまり公知のサイフォンコーヒーメーカーには、風味に優れた高品質のコーヒー飲料を抽出するために、解決すべきこれらの課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の飲料抽出器は、第1容器(101)、フィルター(104)、第2容器(201)、減圧装置(301)で構成される。
第1容器(101)は有底上部開放の槽状で、底部に第2容器に気密接続される開口接続部(102)を備える。
フィルター(104)は第1容器内に設置され、第1容器内で浸出抽出をおえた混合液からコーヒーかす(夾雑物)を濾過するに適した開口構造をもつフランネル、金属メッシュなどの素材で構成される。
フィルターを構成する位置は、第1容器内底部に構成され、第1容器底部の第2容器接続部(102)を覆い塞ぎ、かつ構成したフィルター上部の第1容器内に、抽出に使用する全量の湯または水とコーヒー粉の混合液(501)を保持でき、浸出抽出に必要な容量が確保できる位置に設置される。
飲料回収のための気密容器である第2容器(201)は、第1容器と気密接続される開口接続部(202)と、減圧装置と気密接続される開口接続部(203)を備える。この減圧装置との接続部(203)は飲料回収の際に飲料の水面に没しない位置に設ける。
減圧装置(301)は第2容器の減圧装置との開口接続部(203)に気密接続される。減圧装置は第2容器内の空気を排出して減圧をおこない、第1容器内の混合液を吸引できる能力を備える。
家庭用としては実施例1および実施例2、符号301に示したピストン式などの手動ポンプ。業務用としては実施例3、符号305に示した電動ポンプなどが適している。
このように、本発明の飲料抽出器は第1容器(101)と第2容器(201)、さらに第2容器と減圧装置(301)を、相互に接続してコーヒー飲料の抽出をおこなう。
【0012】
本発明の飲料抽出器における、コーヒー飲料の抽出手順を説明する。
フィルター(104)を設置した第1容器(101)の第2容器との接続部(102)に、注水していない第2容器(201)の第1容器との接続部(202)を気密接続する。さらに第2容器の減圧装置接続部(203)に減圧装置(301)を気密接続する。
あらかじめ用意した湯を、抽出に使用する全量、第1容器内に注ぐ。フィルター面が濡れるとフィルター面下の空気が逃れる空間が存在せず、第1容器へ注がれた湯は界面張力のはたらきによって最小の表面積を保とうとするため、第2容器に落ちることなく第1容器内のフィルター上部に保たれる。
湯が保持された第1容器内へコーヒー粉を加え、竹ベラなどで軽く攪拌したのち安置して浸出抽出をおこなう。
浸出抽出が完了したら、第2容器に接続した減圧装置(301)を作動させる。第2容器内が減圧され、第1容器内の混合液が第2容器へ吸引される。これにより第1容器内フィルター(104)上部の浸出抽出をおえた混合液は、第1容器内のフィルターでコーヒーかす(夾雑物)が濾過され、第2容器(201)にコーヒー飲料が回収される。
【0013】
また本発明の飲料抽出器において、飲料抽出操作時に減圧が必要なのは、第2容器(201)内を減圧し、混合液を第1容器から第2容器内へ吸引・濾過する工程に限られる。
そのほかの工程において減圧装置(301)は、第2容器内の減圧装置接続部(203)を気密的に閉塞させて、第2容器内の空気が逃げるのを防いでいるに過ぎない。
そこで請求項1に加えて請求項2に基づく本発明の飲料抽出器は、第1容器(101)と第2容器(201)が気密接続される接続部(102、202)、第2容器と減圧装置が気密接続される接続部(203)、このいずれか、または複数に開閉栓(204)を備えて閉塞を可能にすることで気密性を保ち、減圧装置接続の必要性を、第2容器内を減圧し混合液を第1容器から第2容器内へ吸引・濾過する工程に限定する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の飲料抽出器は、第1容器内で湯とコーヒー粉を混ぜあわせ、その混合液を保持して浸出抽出をおこない、減圧装置で第2容器内を減圧し、第1容器の混合液を第2容器へ吸引・濾過し、コーヒー飲料を抽出・回収する。
このため、本発明の飲料抽出器はサイフォンコーヒーメーカーの風味的利点である、コーヒーかす(夾雑物)が吸水保持しようとする水分のほとんどが吸い出され、そこに含まれるドリップ方式では破棄されてしまう風味成分までも、コーヒー飲料へと効率よく抽出できる特徴を備えながら、サイフォンコーヒーメーカーのもつ、直前まで加熱されていた高温の下フラスコに抽出されたコーヒー飲料が直接回収されることによって生じる、コーヒー飲料に含まれる香りや風味成分が、高温の下フラスコに触れることで劣化し損なわれる問題を解消する。
【0015】
また本発明の飲料抽出器は、あらかじめ沸かした湯を第1容器に注水してコーヒー粉を混ぜて浸出抽出を行うため、浸出抽出時の湯温に対しての外乱要因がなく、温度環境が安定している。飲料抽出器を使用するにあたり、それぞれに加熱源を用意する必要がなく、操作を簡便にし、コストを軽減することができる。
かつサイフォンコーヒーメーカーのもっている、下フラスコから上フラスコへ供給される水蒸気に起因する水温上昇や混合液の攪拌といった現象が無く、浸出抽出の環境が温度的・物理的に不安定になる問題を解消する。
【0016】
さらに本発明の飲料抽出器は、任意の温度の湯を抽出に使用することができるため、サイフォンコーヒーメーカーのもつ、水が沸騰することに伴う気化膨張と収縮を抽出のために欠かせない原理とするために、潜在的に抽出温度の選択性がないという問題が無く、選択性と柔軟性をもって適切な抽出温度を容易に得られ、抽出温度の違いによる味わいの異なるコーヒー飲料を任意に提供することを可能にする。
【0017】
このように本発明の飲料抽出器は、サイフォンコーヒーメーカーの利点である、浸出抽出と吸引濾過による効率の良いコーヒー飲料の抽出を実現しながら、サイフォンコーヒーメーカーが抱える課題を解決し、優れた香りと風味をもった高品質なコーヒー飲料の提供を可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の飲料抽出器の実施方法である、実施例1にもとづく操作と抽出過程を示した外観図。
【図2】本発明の飲料抽出器の実施方法である、実施例1を示した断面図。
【図3】本発明の飲料抽出器の実施方法である、実施例2を示した断面図。
【図4】本発明の飲料抽出器の実施方法である、実施例3を示した構造透視を含む外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本件発明者は、サイフォンコーヒーメーカーのもつ課題を解消し、安定した浸出抽出環境の実現と、コーヒー飲料が高温の下フラスコに接触して香りと風味が劣化し損なわれるのを防ぐことで、より高い品質のコーヒー飲料の提供を可能にするという結論に達し、本発明を開発するに至った。
本発明の飲料抽出器はサイフォンコーヒーメーカーの風味的な利点を保ちながら、コーヒー飲料の香りと風味を損なう要因を排除し、香りと風味に優れたコーヒー飲料の提供を可能にする。
【0020】
本発明の飲料抽出器は、業務用途においてサイフォンコーヒーメーカーの抽出のために用意された給湯装置や排水設備、抽出操作・コーヒー粉の挽き具合といったスキルなどがそのまま流用できるため、サイフォンコーヒーメーカーから本発明の飲料抽出器への移行が容易である。
【0021】
本発明は飲料抽出器であるため、飲料やコーヒー粉が接触する部分については、食品衛生上好ましい材質と構造によって構成されるべきである。
【0022】
サイフォンコーヒーメーカーの上フラスコには、蒸気圧で下フラスコ内の湯を上フラスコに移動させるための、下フラスコ付近まで到達する長さの管を備えているが、本発明の飲料抽出器はサイフォンコーヒーメーカーのように下フラスコから上フラスコに水を移動させる仕組みや動作がない。
本発明の飲料抽出器の第1容器底部に備える第2容器接続部(102)は、第2容器の第1容器接続部(202)と気密接続されるに適した構造であればよく、サイフォンコーヒーメーカーのように第2容器底部付近まで到達する長さの管を備えなくてよい。

【実施例】
【0023】
本発明の飲料抽出器の実施例として、図1に実施例1の操作と抽出過程を図解した外観図、図2に実施例1の構造断面図、図3に実施例2の構造断面図、図4に実施例3の構造透視を含む外観図を示した。
実施例1は請求項1、および請求項3に基づく実施の形態。実施例2は請求項1および請求項2・請求項3にもとづく実施の形態。実施例3は請求項1、請求項4にもとづく実施の形態である。
【0024】
本発明によるコーヒー飲料抽出器の第1容器である、図1・図2に示した実施例1の第1容器(101)、および図3に示した実施例2の第1容器(101)は、上部開放有底の円筒型である。
本発明の飲料抽出器の第1容器は、底部に第2容器と気密接続される開口接続部(102)を備える。第1容器の形状は浸出抽出の混合液が保持できる槽であれば、図4に示した実施例3の第1容器(101)のような形状や、たとえば半球型などの形状でもよいが、濾過時にコーヒーかす(夾雑物、502)から風味成分の含まれる水をより効率よく吸引しコーヒー飲料(503)の一部とするには、図1・図2に示した実施例1の第1容器(101)、および図3に示した実施例2の第1容器(101)のように一定に近い断面形状をもつ有底の筒型で、かつフィルター(104)が第1容器の断面形状に近いものが効率的である。
【0025】
フィルターは図中符号104に示されたように、第1容器内底部に構成され、第1容器底部の第2容器接続部(102)を覆い塞ぎ、適切に混合液の濾過がおこなわれるように設置される。また、濾過時の吸引に耐えられるようなバックプレート(105)や固定具(106)を備えるとよい。
フィルターに使用する濾材はフランネル・ペーパーフィルター・不織布・金属メッシュなど、コーヒーかす(夾雑物、502)を濾過するに適した開口をもつ材質であれば限定されず、かつフィルターを境として第1容器内に湯や混合液がとどまろうとする現象を妨げない程度の、適切な開口をもつ材質であればよい。
【0026】
本発明によるコーヒー飲料抽出器の第2容器である、実施例1および、実施例2の第2容器(201)はフラスコ型の気密容器で、第1容器の第2容器接続部(102)と気密接続される開口接続部(202)と、減圧装置との気密接続される開口接続部(203)を備える。
実施例1の第2容器(201)は減圧装置(301)と一体構造の自立スタンド(401)に保持され、シール性のある吸気管(306)によって第2容器の減圧装置接続部(203)と減圧装置(301)を接続する。
【0027】
実施例2の第2容器(201)は自立スタンド(401)に保持され、請求項2にもとづいた開閉栓(204)を第2容器の減圧装置接続部(203)に備える。実施例2の開閉栓(204)はスプリングと弁を組み合わせたもので、通常は閉塞状態にあるが、開閉栓(204)に減圧装置を接続して吸引し、ある程度減圧装置側の圧力が下がると、直接の操作なしに弁が開いて第2容器(201)内の空気を排出し、減圧をおこなえる構造を備える。
【0028】
図4に示した実施例3の第2容器(201)の上部開口は、第1容器と気密接続される接続部(202)として適合する形状を備える。また第2容器(201)は飲料が回収された際に水面に没しない容器上部付近に、減圧装置接続部(203)を備え、ハンドル内のシール性のある吸気管(306)を介して減圧装置(301,305)に接続される。
【0029】
本発明の飲料抽出器の第1容器・第2容器の材質は飲料抽出器としての用途上、耐熱ガラスが適しているが、本発明の飲料抽出器が沸点である大気圧中の水の沸点(摂氏100度)を超える温度にさらされることはないため、食品衛生に合致すれば材質は限定されず、たとえばステンレスやチタン、樹脂などの材質で形成してもよい。
【0030】
実施例1および実施例2は減圧装置(301)として、一方向弁(303)とピストン(302)を組み合わせた、請求項3にもとづく手動方式の吸気ポンプを備える。この減圧装置である手動方式の吸気ポンプは、第2容器内を減圧して第1容器内の湯とコーヒー粉の混合液を第2容器内へ吸引・濾過する能力を備える。
【0031】
実施例1の減圧装置(301)は自立スタンド(401)に組み込まれた一体構造としており、第2容器の減圧装置接続部(203)とシール性のある吸気管(306)で接続することで、抽出と提供における操作を簡便なものにする。
【0032】
また実施例2では、減圧装置(301)である手動方式の吸気ポンプは、第2容器の減圧装置接続部(203)に備えた、直接の操作を必要としない開閉栓(204)を介して接続される。
【0033】
実施例3は第2容器(201)の底部に、電動ポンプ式の減圧装置(301、305)を内蔵した一体構造の台座をもち、ハンドル内部の吸気管(306)を通して減圧装置(301、305)と第2容器の減圧装置接続部(203)を気密接続する構造を特徴とする。
接続の手間を省くことができるほか、8人分1200ccなどの容量の大きい飲料抽出器での抽出を容易にするほか、外観デザインや用途など製品設計の幅を広げることができる。
【0034】
本発明の飲料抽出器では第1容器(101)・第2容器(201)・減圧装置(301)は気密接続され、接続部はそれぞれがお互いに適合する形状と材質をもっていなくてはならない。
抽出が適切におこなえる気密接続状態を保つために、図中符号103に示される弾性のある素材などでシール材を備えたり、図中符号306のようにシール性のある吸気管を備えると機密性を実現するのが容易である。生産コストを低減が可能なだけでなく、取り扱いを平易にすることができる。
【0035】
実施例1の抽出過程を示した図1を主として、本発明による飲料抽出器の抽出過程を説明する。
実施例1および実施例3は、第1容器(101)と第2容器(201)、第2容器(201)と減圧装置(301)、それぞれが気密接続された状態でコーヒー飲料の抽出操作を行う。
【0036】
実施例2では、第2容器と減圧装置が気密接続される接続部(203)に開閉栓(204)を備えることで、減圧装置(301)を接続する必要性を、第1容器内の混合液を第2容器へ吸引・濾過する過程のみに、限定することができる。
これによって請求項2にもとづく本発明の飲料抽出器は、複数の本発明の飲料抽出器を使用する際に、一台の減圧装置を使いまわすことを可能にし、また抽出操作前にあらかじめ減圧装置を接続しておく手間を省く。
【0037】
また、実施例2では第2容器と減圧装置が気密接続される接続部(203)に開閉栓(204)が構成されているが、第1容器に第2容器が気密接続される接続部(102)、第2容器に第1容器が気密接続される接続部(202)、これらいずれか、もしくは複数に開閉栓(204)を備えることで、同様に減圧装置の接続の必要性を限定することができる。
【0038】
第1容器(101)に湯を注水すると、フィルター面が濡れて空気が逃がれる空間がなくなり、湯は第1容器内のフィルター(104)上部に貯まる。第1容器内の湯にコーヒー粉を加え竹べらなどで軽く攪拌し、任意の時間そのまま安置して浸出抽出を行う。本発明による飲料抽出器の標準的な抽出時間は1分30秒〜4分である。(図1‐抽出過程1)
【0039】
浸出抽出をおこなっているあいだ、本発明の飲料抽出器は浸出抽出をおこなう混合液(501)に対して温度的・物理的外乱要因がなく、安定した環境で浸出抽出が行なわれる。(図1‐抽出過程2)
【0040】
浸出抽出が完了したら、減圧装置を用いて第2容器内を減圧する。実施例1では減圧装置(301)のピストン(302)を手動で上下に動かして操作を加える。ピストン(302)と一方向弁(303)が相互に働き空気が排出され第2容器内が減圧される。
【0041】
また、実施例2では減圧装置(301)を第2容器の減圧装置接続部に備えた開閉栓(204)に接続後、操作をくわえて第2容器内の減圧を行う。実施例3の減圧操作時には電気スイッチ(308)を操作して電動ポンプ(305)に電力を供給して作動させ、ハンドル内の吸気管(306)を通じて第2容器内の空気を排出して減圧を行う。
【0042】
それぞれ第1容器内のコーヒー粉と湯の混合液(501)の液面には大気圧がかかっているため、減圧された第2容器(201)内へ混合液(501)が吸引される。
その際に第1容器内に構成されたフィルター(104)が、混合液に含まれるコーヒーかす(夾雑物、502)を濾過・分離して、コーヒー飲料(503)が抽出され第2容器(201)に回収される。(図1‐抽出過程3)
【0043】
こうして吸引による濾過により第2容器に回収されたコーヒー飲料(503)には、ドリップ方式では抽出できない、コーヒーかす(夾雑物,502)が保持しようとする水分とそこに含まれる香りと風味成分が含まれている。なおかつ本発明の飲料抽出器で抽出されたコーヒー飲料は、サイフォンコーヒーメーカーの課題である熱によるダメージを受けることなく、第2容器に回収される。(図1‐抽出過程4)
【0044】
第1容器(101)を第2容器接続部(202)からはずし、スタンドもしくはハンドルを操作して、コーヒー飲料(503)を第2容器(201)からコーヒーカップなどの飲料提供容器に移し替えて提供する。

【0045】
本件発明者は、公知のサイフォンコーヒーメーカーと、本発明によるコーヒー飲料抽出器の実施例2を用いて、15gのコーヒー粉・湯量200cc・湯温93℃・抽出時間2分を条件1としてコーヒー飲料の抽出をおこない、それぞれで得られたコーヒー飲料を比較した。
【0046】
条件1にもとづいたサイフォンコーヒーメーカーの抽出過程において、浸出抽出過程に下フラスコから上フラスコへ水蒸気の泡が断続的に供給され、上フラスコの混合液を攪拌して水面に到達して泡が生じた。濾過直前の混合液の温度は96℃で、浸出抽出の浸出抽出の2分間で3℃の上昇がみられた。
条件1にもとづいてサイフォンコーヒーメーカーで抽出されたコーヒー飲料は、抽出後10分程度経過するとコーヒー飲料に濁りが生じて透明度が下がり、飲用には適するものの味覚的に雑味やざらつきが強く感じられた。
条件1にもとづいて本発明の飲料抽出器の実施例2によって抽出されたコーヒー飲料は、30分以上経過しても濁りが生じず透明度の低下がみられず、味覚的にも香りが強く味わいが豊かで、舌にのこるざらつきが無かった。
【0047】
また、スペシャルティコーヒーに関わる活動に関して、中心的な組織であるSCAA(スペシャルティコーヒーアソシエーションアメリカ)によれば、コーヒー飲料の抽出において、コーヒーパウダーと湯が接している時間は4分間未満が適切であり、それ以上の抽出によるコーヒー飲料は官能上不快な味わいになりやすいとされる。
【0048】
そこで前出の条件のなかから抽出時間を10分に変え、公知のサイフォンコーヒーメーカーと、本発明によるコーヒー飲料抽出器の実施例2を用いて、15gのコーヒー粉・湯量200cc・湯温93℃・抽出時間10分とした条件2でコーヒー飲料の抽出をおこない、それぞれのコーヒー飲料を比較した。
【0049】
条件2にもとづいたサイフォンコーヒーメーカーの抽出過程においても、浸出抽出過程に下フラスコから上フラスコへ水蒸気の泡が断続的に供給され、やはり上フラスコの混合液を攪拌し、水面に到達して泡が生じた。濾過直前の混合液の温度は98℃で、浸出抽出の10分間で5℃の上昇がみられた。
条件2にもとづいてサイフォンコーヒーメーカーで抽出されたコーヒー飲料は、抽出直後の下フラスコ内に回収されたコーヒー飲料に激しく濁りが生じた。味覚的には飲用に適さないほど雑味による刺激が強く感じられた。
条件2にもとづいた本発明によるコーヒー飲料抽出器の実施例2によって抽出されたコーヒー飲料は、濁りや透明度の低下はわずかにみられ、濃度が高く苦味が強いものの、不快な味わいが少なく飲用に適したコーヒー飲料を得ることができた。
【符号の説明】
【0050】
101 第1容器
102 第2容器接続部
103 シール材
104 フィルター
105 バックプレート
106 フィルター固定具
201 第2容器
202 第1容器接続部
203 減圧装置接続部
204 開閉栓
301 減圧装置
302 ピストン
303 一方向弁
304 逆止弁
305 電動ポンプ
306 吸気管
307 排気口
308 電気スイッチ
309 電気コード
401 スタンド
501 混合液(湯・コーヒー粉)
502 コーヒーかす(夾雑物)
503 コーヒー飲料









【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内で湯もしくは水と、コーヒー粉を主とした被抽出物を混合し保持、安置して浸出抽出を行う有底上部開放の抽出槽で、底部に第2容器に気密接続される接続部を備える第1容器。
第1容器内に構成され、第1容器底部の第2容器接続部を覆い塞して設置される、第1容器内の湯もしくは水と被抽出物の混合液を濾過、飲料と夾雑物を分離するのに適した開口構造をもつフィルター。
さらに第1容器底部の第2容器接続部に接続され、抽出された飲料を回収し貯めるための気密容器で、第1容器と気密接続される接続部と、減圧装置と気密接続される接続部を備えた第2容器。
そして第2容器の減圧装置接続部に気密接続され、第2容器内の空気を排出して減圧をおこなう減圧装置。
これらを相互に気密接続し、第1容器内で抽出に使用する全量の湯もしくは水と、被抽出物を混ぜ合わせ、その混合液を第1容器内に保持して浸出抽出を行った後、第1容器に接続された第2容器内を、第2容器に接続された減圧装置で空気を排出して減圧し、第1容器内の混合液を第2容器内へ吸引する際、第1容器内に構成されたフィルターで濾過を行い、第2容器に飲料を回収する飲料抽出器。
【請求項2】
請求項1の飲料抽出器のうち、第1容器と第2容器が気密接続される接続部、第2容器と減圧装置が気密接続される接続部、このいずれか、または複数に開閉栓を備えるもの。
【請求項3】
請求項1の飲料抽出器のうち、第2容器の減圧装置接続部に気密接続される、第2容器内の空気を排出して減圧する減圧装置の動力が手動によるもの。
【請求項4】
請求項1の飲料抽出器のうち、第2容器の減圧装置接続部に気密接続される、第2容器内の空気を排出して減圧する減圧装置の動力が電力によるもの。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−19839(P2011−19839A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169406(P2009−169406)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(508272352)
【Fターム(参考)】