説明

コーマ用の紡績針とそれを用いたシリンドリカルコーム

【課題】繊維の品質を損なわず高速化に十分耐えられる寿命のながいものとする。
【解決手段】鋸歯状ワイヤ7よりなり、少なくとも歯部7aの表面層7bが、高硬度、低摩擦特性を有していることにより、上記の目的を達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーマに用いられる紡績針とそれを用いたシリンドリカルコームに関するものである。
【背景技術】
【0002】
コーマのシリンドリカルコームは、アルミニウム系の基台のシリンドリカル面に、その周方向に向いて紡績針としての歯を鋸歯状に連設した鋸歯状ワイヤを軸方向に配列して固定したものが古くから提供されている(例えば、特許文献1、2参照。)。一方、針先ないしは歯先がシリンドリカル面の周方向に対して所定の傾斜角を持って並ぶようにして、針や歯による繊維に対する扱き効率を高めることも周知である(例えば、特許文献1、3参照。)。現在では特許文献1に見られるような周方向に何区分かのジグザグ配置により十分な扱き効率を得ることが主流になっている。また、鋸歯状ワイヤのジグザグ配置や、周方向の何区分かに歯の種類を変えることに対応して、周方向の各区分単位で鋸歯状ワイヤを分断して配置することも行われている(例えば、特許文献2、4参照。)。
【0003】
本出願人は、図10に示すようなシリンドリカルコームを従来から提供している。このものは、基台aのシリンドリカル面に歯の周方向ピッチが大きいものから小さいものまで4種類の鋸歯状ワイヤb〜eを周方向Aに配置し、それらの配置区分ごとに鋸歯状ワイヤb〜eの同じ種類のものどうしを軸方向Bに配列しており、一例として、各配置区分ごとの各鋸歯状ワイヤb〜eにつき、周方向の一方から他方へ周方向Aに対する傾斜角θが反転する向きで軸方向Bに配列したものとしている。基台aの軸方向Bでの両端にはアルミニウム系で図11に示すように平板状の側板f、fをネジgで止めて取り付け、鋸歯状ワイヤb〜eの先端を残して両側から覆い保護するようにしている。
【0004】
一方、特許文献4は、連続的にコーミングすべきファイバタクトのファイバーがまだ比較的練れていてかつあらゆる夾雑物およびネップを有しているので、最前部のコーミング針布の先端は比較的高い摩耗負荷にさらされるとし、特に最前部の針布の先端は高い耐摩耗性を有したものとすること、そのために耐摩耗性の鋼使用や、表面焼き戻し、耐摩耗性の被覆の処理を行い、耐用寿命の延長を図ることを提案している。
【特許文献1】実公昭47−15639号公報
【特許文献2】実公昭47−15642号公報
【特許文献3】実公昭47−15542号公報
【特許文献4】特開平9−188921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、コーマは近時生産性向上のために高速化の一途をたどっているなか、開繊による繊維の引き揃えや夾雑物、ネップなどの異物除去が低下しない十分な扱き度を確保する上で、コーマ用の紡績針の耐寿命性の低下が再び課題となり、羊毛では特に問題となっている。併せ、十分な扱き度を確保する上で却って繊維を傷めたり繊維切れを招くなど品質を損いかねない現状となっている。
【0006】
そこで、本発明の目的は、繊維の品質を損なわず高速化に十分耐えられる寿命の長いコーマ用の紡績針とそれを用いたシリンドリカルコームを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のコーマ用の紡績針は、鋸歯状ワイヤよりなり、少なくとも歯部の表面層が、高硬度、低摩擦特性を有していることを特徴としている。
【0008】
このような構成では、コーマ用の紡績針として用いられる鋸歯状ワイヤの、少なくとも繊維を扱く歯部の表面の、高硬度性によって耐摩耗性が高くなり、低摩擦特性によって繊維との滑り性を高めながらも歯のピッチや形状などの条件によって十分な扱き度を確保することができる。
【0009】
前記表面層は、コーティングされたダイヤモンド様炭素層であるものとすることができる。
【0010】
このような構成では、表面にコーティングしたダイヤモンド様炭素層の炭素系特性である平滑性、低摩擦特性、離型性によって繊維との滑り性がより高められ、ダイヤモンド様炭素層のダイヤモンド様特性であるsp3結合のアモルファス構造での高硬度性によって繊維に対する高速下での扱き時の耐摩耗度もより高められる。
【0011】
鋸歯状ワイヤは打ち抜き加工品であり、歯先、エッジに対する丸味付け加工後に、ダイヤモンド様炭素層がコーティングされているものとすることができる。
【0012】
このような構成では、打ち抜き加工された鋸歯状ワイヤのバリの除去を含む鋭利な歯先やエッジが丸味付けされる形状的特徴上、噛み込み時や扱き時の繊維の引っ掛かりを軽減し、また、その部分へのダイヤモンド様炭素のコーティング性を高めて繊維の滑り性を高め安定させることができ、併せ、鋸歯状ワイヤの繊維への噛み込みや扱きの重点部である歯先やエッジ部にダメージをより受けにくくする。
【0013】
本発明のシリンドリカルコームは、以上のような各場合のコーマ用の紡績針を、基台の軸方向両端面に取り付けた側板間で、基台のシリンドリカル面上にその周方向に対し所定の傾斜角を持つよう軸方向に配列し固定したことを特徴としている。
【0014】
このような構成では、紡績針をなす鋸歯状ワイヤのシリンドリカル面周方向に対し所定の傾斜角を持った配置での歯並びにて繊維に対する扱き度を高めながら、表面の高硬度と低摩擦性とによって繊維の扱き時の耐摩耗性と繊維への過剰な負荷を回避ないしは軽減することができる。
【0015】
各側板の一方または双方に、前記所定の傾斜角を持って配列する鋸歯状ワイヤを所定の傾斜角を持つように倣わせる向きのゲージ面を設けたものとすることができる。
【0016】
このような構成では、側板が基台の軸方向端面に取り付けられることで、基台のシリンドリカル面の周方向に対するゲージ面の傾斜向きと位置とが、基台の軸方向端面を基準に一義的に決まる。これによって、鋸歯状ワイヤをゲージ面に沿って順次軸方向に配列していくことで、個人差なく容易かつ安定に所定の傾斜角を持って迅速に配列、配置することができるし、配列、配置後の鋸歯状ワイヤはゲージ面に沿ったままであるので、接着剤が固化するまで重しなどによる基台のシリンドリカル面への押圧した状態を保つ過程で、作業の速さや荒っぽさなどが原因して配列や配置が狂ったり、変位したりし難く、両端の側板がゲージ面を持っていると軸方向に配列した鋸歯状ワイヤを両側の平行なゲージ面間に挟み持つ状態が得られて、鋸歯状ワイヤの配列や配置が狂ったり、変位したりするのを確実に防止することができる。
【0017】
鋸歯状ワイヤは、周方向には、複数の区分に分断して配置され、鋸歯状ワイヤの周方向に対する傾斜角が区分によって規則的または不規則的に反転し、側板のゲージ面は、各区分ごとの鋸歯状ワイヤの傾斜角の反転に対応して、周方向一方側から他方側に区分によって向きが反転しているものとすることができる。
【0018】
このような構成では、上記のシリンドリカルコームの場合に加え、さらに、鋸歯状ワイヤを基台のシリンドリカル面の周方向に複数の区分に分断して配置することで、区分ごとに鋸歯状ワイヤの傾斜角や歯の種類を選択でき、周方向の一方側区分から他方側区分に順次に規則的または不規則的に傾斜角を反転させられ、傾斜角が反転する先行区分と後行区分とで、歯並びの向きが傾斜角の違いに応じ周方向に走る繊維に対し異なった扱き作用を前後して複合させ、一方側の傾斜角による扱き作用の偏りを解消または軽減することができ、規則的な反転は前記複合をきめ細かく、また均等な複合を図れるし、不規則的な反転は歯の種類などに対し規則を外した複合パターンにて自由に対応できる。
【0019】
側板は、合成樹脂成形品であるものとすることができる。
このような構成では、側板のゲージ面は、側板の基台軸方向端面への取り付け部からシリンドリカル面より外方に張り出した張り出し部の内面にシリンドリカル面側に突出して形成されることになるが、合成樹脂成形品であると金属に比し容易かつ安価に得られる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のコーマ用の紡績針によれば、鋸歯状ワイヤの、少なくとも繊維を扱く歯部の表面層の、高硬度性によって耐摩耗性が高くなり耐用寿命を延長でき、平滑性、低摩擦特性、離型性によって繊維との滑り性を高めて繊維が傷んだり繊維切れが生じないようにしながら歯のピッチや形状などの条件によって十分な扱き度を確保して、繊維の品質を向上し歩留まりを高められる。
【0021】
表面層をなすダイヤモンド様炭素層の炭素系特性である低摩擦特性、離型性によって繊維との滑り性がより高められ、ダイヤモンド様炭素層のダイヤモンド様特性であるアモルファス構造での高硬度性によって繊維に対する高速化での扱き時の耐摩耗度もより高められる。
【0022】
打ち抜き加工された鋸歯状ワイヤのバリの除去を含む鋭利な歯先やエッジが丸味付けされる形状的特徴上、噛み込み時や扱き時の繊維の引っ掛かりを軽減し、また、その部分へのダイヤモンド様炭素のコーティング性を高めて繊維の滑り性をより高め安定させて、繊維の傷みや繊維切れをより防止することができ、併せ、鋸歯状ワイヤの繊維への噛み込みや扱きの重点部である歯先やエッジ部にダメージをより受けにくくして耐用寿命をさらに延ばせる。
【0023】
本発明のシリンドリカルコームによれば、紡績針をなす鋸歯状ワイヤのシリンドリカル面周方向に対し所定の傾斜角を持った配置での歯並びにて繊維に対する扱き度を高めて開繊、異物除去効果を高めながら、表面のダイヤモンド様炭素層の低摩擦性によって繊維への過剰な負荷を回避ないしは軽減して傷みや繊維切れを防止し、繊維の品質および歩留まりを向上することができ、併せ、表面のダイヤモンド様炭素層の高硬度での耐摩耗性によって鋸歯状ワイヤの耐用寿命が延びる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係るコーマ用の紡績針とそれを用いたシリンドリカルコームの実施の形態につき、図1〜図5を参照しながら説明し、本発明の理解に供する。しかし、以下の説明は本発明の具体例であって、特許請求の範囲を限定するものではない。
【0025】
本実施の形態のコーマ用の紡績針は、図1、図2、図5に示すような構成のシリンドリカルコーム1に適用しており、例えば、図5に示すようなアルミニウム系で円弧形の横断面を有した基台2のシリンドリカル面3上にその周方向Aに対し図2に示すような所定の傾斜角θを持つよう、基台2の軸方向Bで見た両端面4、4に図5に示すネジ5または及び接着により取り付けた側板6、6間に、軸方向Bに配列し固定した鋸歯状ワイヤ7を紡績針として有した構成としている。このような鋸歯状ワイヤ7の傾斜角θを持っての歯並びにより、既述したように周方向Aに平行な歯並びの場合よりも、その周方向Aに走る繊維に対して全ての歯が、周方向配列ピッチがやや小さくなり、かつ、さらに小さな軸方向Bでの配列ピッチにて順次に働き繊維に対する扱き効率を高められる。しかし、このように繊維に対する扱き度を高めれば、開繊、異物除去効率は高まる反面、繊維を傷めたり、繊維切れ、短繊維化が生じて却って品質や歩留まりの低下を招きかねない。同時に鋸歯状ワイヤ7はステンレス鋼、または高炭素鋼などを採用するが、繊維との摩擦によって摩耗し初期扱き度を長期に保ちにくい。
【0026】
一方、鋸歯状ワイヤ7は通常打ち抜き加工によってバリがありかつ歯先やエッジが鋭く立った状態に形成されて繊維を傷めたり、繊維切れや短繊維化が生じやすいことに対し、歯先やエッジに対する化学研磨や電解研磨などによる丸味付け加工を施している。図6(a)、図7(a)、図8(a)は出願人製品UNI Comb(高炭素鋼SK5:炭素量0.6〜0.85%)の顕微鏡写真であって鋸歯状ワイヤ7にフッ酸を用いた化学研磨による丸味付け加工を施した場合の表面状態を示しており、図6(a)は150倍での歯先部からエッジ部に続く部分、図7(a)は2000倍でのエッジ部、図8(a)は2000倍での側面部である。150倍での図6(a)、図7(a)では歯先やエッジの丸味付け状態がよく視認できる。化学研磨では、丸味付けに併せ、表面の凹凸を図6(a)に見られるようになだらかにする平滑化および酸化被膜の生成がなされ、耐摩耗性、繊維に対する滑りの向上が見込める。
【0027】
しかし、近時の400rpmにも達する高速化には化学研磨や電解研磨による対応では限界にきており、開繊負荷の高い羊毛では極く短期での交換を余儀なくされ、さらなる高速化の要求には耐えられない。これを解析すべく倍率を図7(a)、図8(a)に示すように2000倍として見ることで、化学研磨後の表面でもかなり荒れた凹凸状態が見て取れる。
【0028】
そこで、本発明者は、高炭素鋼SK5は炭素工具鋼といわれる硬度の高いものであるが、鋸歯状ワイヤ7のさらなる耐摩耗性、平滑性、低摩擦性を図るために、ダイヤモンド様炭素層の炭素系特性である平滑性、低摩擦特性、離型性によって繊維との滑り性がより高められ、ダイヤモンド様炭素層のダイヤモンド様特性であるsp3結合のアモルファス構造での高硬度性に着目し、成功した。
【0029】
基本的には、鋸歯状ワイヤ7よりなり、図9に示すように少なくとも歯部7aの表面層7bが、高硬度、低摩擦特性を有していることを主構成とすることにより、鋸歯状ワイヤ7の、少なくとも繊維を扱く歯部7aの表面の、高硬度性によって耐摩耗性が高くなり、低摩擦特性によって繊維との滑り性を高めて繊維が傷んだり繊維切れが生じないようにしながらも歯7aのピッチや形状、傾斜角θなどの条件によって十分な扱き度を確保して、繊維の品質を向上し歩留まりを高められるようにした。
【0030】
具体的には、表面層7bは、プラズマを応用してコーティングされたダイヤモンド様炭素層(Diamond−like Carbon層)であり、表面にコーティングしたダイヤモンド様炭素層7bの炭素系特性である平滑性、低摩擦特性、離型性によって繊維との滑り性がより高められ、ダイヤモンド様炭素層7aのダイヤモンド様特性であるsp3結合のアモルファス構造での高硬度性によって繊維に対する高速下での扱き時の耐摩耗度もより高められる。しかも、図示例は、打ち抜き加工品である高炭素鋼製の鋸歯状ワイヤ7に化学研磨によるバリの除去を含む、歯先、エッジに対する丸味付け加工後に、ダイヤモンド様炭素層7aをコーティングしている。図6(a)、図7(a)、図8(a)の従来品に対応して、コーティング処理後の表面状態を示せば図6(b)、図7(b)、図8(b)の実施例品UNI Comb(高炭素鋼SK5:炭素量0.6〜0.85%)の顕微鏡写真顕微鏡写の通りであり、図9に示すように鋸歯状ワイヤ7の丸み付けされ、酸化被膜7cが再生された上にダイヤモンド様炭素層7bが形成されている。これにより、打ち抜き加工されたステンレス鋼製の鋸歯状ワイヤ7の鋭利な歯先やエッジが丸味付けされる形状的特徴上、噛み込み時や扱き時の繊維の引っ掛かりを軽減し繊維の傷みや繊維切れ、短繊維化をより防止することができ、また、その部分へのダイヤモンド様炭素層7bのコーティング性を高めて繊維の滑り性をより高め安定させることができ、併せ、鋸歯状ワイヤの繊維への噛み込みや扱きの重点部である歯先やエッジ部にダメージをより受けにくくして耐用寿命をさらに延ばせる。因みに、図7(b)、図8(b)の実施例製品では図6(a)、図7(a)に示す従来製品に比べ、表面状態の平滑度が非常に高いことが認められる。
【0031】
なお、ステンレス鋼の電解研磨では、丸味付けに併せ、表面の凹凸をなだらかにする平滑化および図9に示す酸化被膜7cに代わって、Crに富んだ不動態被膜の再生と厚みの均一化がなされ、耐摩耗性、繊維に対する滑りの向上が見込める。
【0032】
このような本発明の鋸歯状ワイヤ7は、また、コーマ用の紡績針として既述の基台2の軸方向両端面4に取り付けた側板6間で、基台2のシリンドリカル面3上にその周方向Aに対し所定の傾斜角θを持つよう軸方向Bに配列し固定したシリンドリカルコーム1を提供する。これにより、紡績針をなす鋸歯状ワイヤ7のシリンドリカル面周方向Aに対し所定の傾斜角θを持った配置での歯並びにて繊維に対する扱き度を高めて開繊、異物除去効果をながら、表面の高硬度と低摩擦性とによって繊維の扱き時の耐摩耗性と繊維への過剰な負荷を回避ないしは軽減して傷みや繊維切れを防止し、繊維の品質および歩留まりを向上することができ、併せ、表面のダイヤモンド様炭素層の高硬度での耐摩耗性によって鋸歯状ワイヤの耐用寿命が延びる。
【0033】
このように、鋸歯状ワイヤ7を周方向Aに対して所定の角度θを持って配置し扱き度を高めるのに、その配置作業が容易かつ適正に達成されるように本実施の形態では、各側板6の一方または双方に、所定の傾斜角θを持って配列する鋸歯状ワイヤ7を所定の傾斜角θを持つように倣わせる向きのゲージ面8を設けてある。図示例では両側板6、6の双方にゲージ面8を設けてあり、軸方向に対向し合う一対ずつのゲージ面8、8はそれぞれ図1、図3、図4に示すように互いに平行になる。
【0034】
以上のように、側板6、6は基台2の軸方向Bでの端面4、4に取り付けられることで、図1、図2に示すように基台2のシリンドリカル面3の周方向Aに対するゲージ面8の傾斜向きと位置とが、基台2の軸方向Bでの端面4、4を基準に一義的に決まる。これによって、鋸歯状ワイヤ7をゲージ面8に沿って順次軸方向Bに配列していくことで、個人差なく容易かつ安定に所定の傾斜角θを持って迅速に配列、配置することができる。また、配列、配置後の鋸歯状ワイヤ6はゲージ面8に沿ったままであるので、図5に示すように接着剤9が固化するまで作業台10上において重し11などによる基台2のシリンドリカル面3への押圧した状態を保つ過程で、作業の速さや荒っぽさなどで配列や配置が狂ったり、変位したりし難く、図示例のように両端の側板6、6がゲージ面8を持っていることで、図1に示すように軸方向Bに配列した鋸歯状ワイヤ6を両側の平行なゲージ面8、8間に挟み持つ状態が得られて、鋸歯状ワイヤ6の配列や配置が狂ったり、変位したりするのを確実に防止することができる。
【0035】
このようなシリンドリカルコーム1は、シリンドリカル面3を持った基台2の軸方向Bでの両端面4、4に側板6、6を取り付ける工程と、基台2のシリンドリカル面3に接着剤9を塗布する工程と、鋸歯状ワイヤ7を側板6、6に形成したゲージ面8に倣って基台2の周方向Aに対し所定の傾斜角θを持つようにして接着剤塗布面上に軸方向Bに配列する工程と、配列した鋸歯状ワイヤ7を基台2のシリンドリカル面3に押圧した状態で接着剤9の固化を図る工程と、を含む製造方法によって、鋸歯状ワイヤ7を個人差なく容易かつ安定に所定の傾斜角θを持って迅速に配列、配置し、また、接着剤9が固化するまで重し11などによる基台2のシリンドリカル面4への押圧した状態を保つ過程で配列や配置が狂ったり、変位したりし難くすることができる。
【0036】
以上の結果、基板6、6のゲージ面8の、基台2のシリンドリカル面3の周方向Aに対するゲージ面8の傾斜向きと位置とが、基台3の側板6、6を取り付ける軸方向Bでの端面4、4を基準に一義的に決まって、鋸歯状ワイヤ7をゲージ面8に沿って順次軸方向Bに配列していくことで、個人差なく容易かつ安定に所定の傾斜角を持って迅速に配列、配置でき、鋸歯状ワイヤ7はゲージ面8による案内保持で接着剤9が固化するまで基台2のシリンドリカル面3への押圧した状態を保つ過程で配列や配置が狂ったり、変位したりし難く、両端の側板6、6がゲージ面8を持っていると鋸歯状ワイヤ7を両側からの案内、保持によって鋸歯状ワイヤ7の配列や配置が狂ったり、変位したりするのを確実に防止することができるので、生産性に優れ、高精度で歩留まりも高く、製品コストが低減する。
【0037】
また、別の製造方法例として、シリンドリカル面3を持った基台2の軸方向Bでの両端面4、4に側板6、6を取り付ける工程と、基台2のシリンドリカル面3に接着剤9を塗布する工程と、各側板6、6に形成した鋸歯状ワイヤ7をシリンドリカル面3の周方向Aに対し所定の傾斜角θを持つように倣わせる向きとした互いに平行なゲージ面8、8間で鋸歯状ワイヤ7の向きを規正して接着剤塗布面上に軸方向Bに配列する工程と、配列した鋸歯状ワイヤ7を基台2のシリンドリカル面3に押圧した状態を保って接着剤9の固化を図り、鋸歯状ワイヤ7を基台2のシリンドリカル面3に固定する工程と、を含むことで、上記の場合に比し、特に、両端の側板6、6がゲージ面8、8を持って軸方向Bに配列する鋸歯状ワイヤ7を両側の平行なゲージ面8、8間で規正し挟み持つ状態が得られて、鋸歯状ワイヤ7の配列や配置が狂ったり、変位したりするのを確実に防止することができる。
【0038】
シリンドリカルコーム1は、さらに、鋸歯状ワイヤ7は、周方向Aには図1、図2、図5に示すように、複数の区分C、D、E、Fなどに分断して配置され、鋸歯状ワイヤ7の周方向Aに対する傾斜角θが区分C、D、E、Fなどによって図示するように1区分ごとあるいは適数区分ごとなど規則的に、または不規則的に反転し、側板6、6のゲージ面8は、各区分C、D、E、Fごとの鋸歯状ワイヤ7の傾斜角θの反転に対応して、周方向Aでの一方側から他方側に区分C、D、E、Fによって向きが反転しているようにすることができる。
【0039】
このように、鋸歯状ワイヤ7を基台2のシリンドリカル面3の周方向Aに複数の区分C、D、E、Fなどに分断して配置することで、区分C、D、E、Fなどごとに鋸歯状ワイヤ7の傾斜角θや歯の種類を選択でき、周方向Aでの一方側区分から他方側区分に順次に規則的または不規則的に傾斜角θを反転させられ、傾斜角θが反転する先行区分と後行区分とで、歯並びの向きが傾斜角θの向きの違いに応じ周方向Aに走る繊維に対し異なった扱き作用を前後して複合させ、一方側の傾斜角θのみによる扱き作用の偏りを解消または軽減することができ、規則的な反転は前記複合をきめ細かく、また均等な複合を図れるし、不規則的な反転は歯の種類などに対し規則を外した複合パターンにて自由に対応できる。
【0040】
なお、側板6,6は、合成樹脂成形品であり、金属製に比して鋸歯状ワイヤ7に対する拘束力や強度の点で劣ることに対し、図1、図3に示すようにネジ止めのための取り付け穴12を利用した中央1箇所でのネジ止めに加え、接着を併用して取り付けている。しかし、ネジ止め箇所を複数にして接着を省略することもできる。側板6のゲージ面8は図3〜図5に示すように、側板6の基台2軸方向Bでの端面4への取り付け部6aからシリンドリカル面4より外方に張り出した張り出し部6bの内面にシリンドリカル面3側に図3に示すように突出して形成された立体形状になるが、合成樹脂成形品であることにより金属に比し容易かつ安価に得られる。
【0041】
ここで、上記シリンドリカルコーム1またはその製造方法は、それらに用いられる側板6、6として、鋸歯状ワイヤ7が軸方向Bに配列され接着剤9で固定するシリンドリカル面3を持った基台2の軸方向Bでの両端面4、4に当てがい取り付けられて、配列されている鋸歯状ワイヤ7を、その軸方向Bでの両側から覆う側板6、6であって、側板6、6における基台2への取り付け部6aからシリンドリカル面3よりも上に張り出す張り出し部6bの内面に、基台2のシリンドリカル面3に軸方向Bに配列する鋸歯状ワイヤ7をシリンドリカル面3の周方向Aに対して所定の傾斜角θを持つように倣わせるゲージ面8を形成したものとして提供しており、これを単独にユーザに提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、コーマの鋸歯状ワイヤを所定の傾斜角を持つように配列したシリンドリカルコームに実用して、さらなる高速化に対応する耐用寿命、繊維の品質および歩留まり性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施形態に係る紡績針を用いたシリンドリカルコームの1つの例を示す斜視図である。
【図2】図1のシリンドリカルコームの一端部を示す平面図である。
【図3】図1のシリンドリカルコームに用いている両側の側板の斜視図である。
【図4】図3の側板の平面図である。
【図5】図1のシリンドリカルコームの一部を断面して見た側面図である。
【図6】従来の出願人製品と実施例製品との歯先部とそれに続くエッジ部の表面状態を150倍して(a)(b)で比較例示した顕微鏡写真である。
【図7】従来の出願人製品と実施例製品とのエッジ部の表面状態を2000倍して(a)(b)で比較例示した顕微鏡写真である。
【図8】従来の出願人製品と実施例製品との側面部の表面状態を2000倍して(a)(b)で比較例示した顕微鏡写真である。
【図9】図6(b)〜図9(b)に示す実施例製品の断面図である。
【図10】従来のシリンドリカルコームの一端部を示す平面図である。
【図11】図10のシリンドリカルコームに用いている両側の側板の斜視図である。
【符号の説明】
【0044】
1 シリンドリカルコーム
2 基台
3 シリンドリカル面
4 端面
5 ネジ
6 側板
7 鋸歯状ワイヤ
7a 歯部
7b ダイヤモンド様炭素層(表面層)
7c 不動態被膜
8 ゲージ面
9 接着剤
10 作業台
11 重し
12 取り付け穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋸歯状ワイヤよりなり、少なくとも歯部の表面層が、高硬度、低摩擦特性を有していることを特徴とするコーマ用の紡績針。
【請求項2】
表面層は、コーティングされたダイヤモンド様炭素層である請求項1に記載のコーマ用の紡績針。
【請求項3】
鋸歯状ワイヤは打ち抜き加工品であり、歯先、エッジに対する丸味付け加工後に、ダイヤモンド様炭素層がコーティングされている請求項1、2のいずれか1項に記載のコーマ用の紡績針。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のコーマ用の紡績針を、基台の軸方向両端面に取り付けた側板間で、基台のシリンドリカル面上にその周方向に対し所定の傾斜角を持つよう軸方向に配列し固定したことを特徴とする鋸歯状ワイヤを有することを特徴とするシリンドリカルコーム。
【請求項5】
各側板の一方または双方に、前記所定の傾斜角を持って配列する鋸歯状ワイヤを所定の傾斜角を持つように倣わせる向きのゲージ面を設けた請求項4に記載のシリンドリカルコーム。
【請求項6】
鋸歯状ワイヤは、周方向には、複数の区分に分断して配置され、鋸歯状ワイヤの周方向に対する傾斜角が区分によって規則的または不規則的に反転し、側板のゲージ面は、各区分ごとの鋸歯状ワイヤの傾斜角の反転に対応して、周方向一方側から他方側に区分によって向きが反転している請求項4に記載のシリンドリカルコーム。
【請求項7】
側板は、合成樹脂成形品である請求項5、6のいずれか1項に記載のシリンドリカルコーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−197349(P2009−197349A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38064(P2008−38064)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(392007511)株式会社中川製作所 (5)
【Fターム(参考)】