説明

コーマ

【課題】ニッパアームに固定されたトップニッパの開閉タイミングの調整を、ギヤボックスの外での作業によって行うことができるコーマを提供する。
【解決手段】ニッパアーム25は、その上方に設けられた支持部材29に支軸35を介して支持され、支持部材29は上側において偏心体28に旋回可能に支持されるとともに、伸縮可能なロッド部32の下部に支軸35が支持されている。ニッパシャフト20に一体回転可能に固定された第1クランク37と、偏心体28が一体回転可能に固定された回転軸27に一体回転可能に固定された第2クランク38と、両クランクの先端間に連結された連結リンク39とで四節リンクが構成されている。第2クランク38は、回転軸27が挿通される孔42b及び孔42bの中心を中心とする円弧状の長孔42cを有する本体42と、本体42に対する固定位置調整可能な調整部材43とを備え、調整部材43において回転軸27に一体回転可能に固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーマに係り、詳しくはニッパフレームの前進、後退に伴ってボトムニッパとの間でラップを把持、解放するトップニッパの駆動機構に特徴を有するコーマに関する。
【背景技術】
【0002】
コーマは、複数(一般には8個)のコーミングヘッドを配設した作業部を備えている。各コーミングヘッドは、所定量ずつ送り出されてニッパ装置に把持されたラップの先端を、コーミングシリンダにより梳り、梳られたフリースをニッパ装置の前進によってデタッチングローラへ向けて移動させる。このフリースの前進に対応してデタッチングローラが逆転し、先に引き取ったフリース(先行フリース)を後退させ、このフリースの後端部と新たに梳られたフリース(後続フリース)の先端部とを重ね合わせる。その後、デタッチングローラが正転してニッパ装置からフリースを引き取るとともに、フリース内に突き刺されたトップコームによりフリースの後端を梳る。そして、この作用の繰返しにより各コーミングヘッドにおいて作られたフリースを束ねてドラフトした後、カレンダローラで圧縮してスライバとする。
【0003】
ニッパ装置は基本的にはニッパフレームと、その先端に固定されたボトムニッパと、ボトムニッパと協同してラップを把持するトップニッパとからなり、トップニッパはボトムニッパの先端においてラップを把持する。そして、ニッパ装置はボトムニッパの先端がコーミングシリンダのシリンダ針の回動軌跡と近接する位置と、デタッチングローラの近傍に近づく位置との間で揺動するように構成されている。
【0004】
ニッパフレームの前進後退運動に同期して所定のタイミングでトップニッパを開閉するとともに、その開閉タイミングを変更可能な機構が提案されており(特許文献1参照。)、また、実施もされている。特許文献1に記載の機構は、トップニッパが固定されるとともにニッパフレームに回動可能に支持されたニッパアームが、ニッパアームの上方に設けられた支持部材に支軸を介して支持されている。支持部材は上側において偏心体に旋回可能に支持されるとともに、ばねにより伸縮可能なロッド部を備え、ロッド部の下部に前記支軸が支持されている。偏心体が一体回転可能に固定された回転軸には、往復回動(揺動)するニッパシャフトの回動がギヤ列を介して伝達されるようになっている。そして、ギヤ列を調整することにより、トップニッパの開閉タイミングを調整可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】EPO特許EP−B1−0967307
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、前記ギヤ列の調整は、ギヤボックス(オイルバス)内での調整のため、調整の度にギヤボックスを開ける必要があり、しかも油のついた部品(ギヤ)を調整する必要があり、作業性が悪い。また、開放中にギヤボックス内に風綿等のゴミが入り駆動の信頼性を低下させるという問題がある。
【0007】
本発明は前記の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、ニッパアームに固定されたトップニッパの開閉タイミングの調整を、ギヤボックスの外での作業によって行うことができるコーマを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、前進後退運動を行うニッパフレームに固定されたボトムニッパと、前記ニッパフレームに回動可能に支持されたニッパアームに固定されるとともに前記ボトムニッパと協働してラップの把持、解放を行うトップニッパとを備え、前記ニッパアームが、支持部材の一端に支持され、前記支持部材は他端において偏心体に旋回可能に支持されているコーマである。そして、ニッパシャフトに一体回転可能に固定された第1クランクと、前記偏心体が一体回転可能に固定された回転軸に一体回転可能に固定された第2クランクと、両クランクの先端間にピンを介して連結された連結リンクとからなる四節リンクを備えている。前記第2クランクは、前記ピンが挿通される孔を有する第1部材と、前記回転軸に一体回転可能に固定され、かつ前記第1部材に対する固定位置を調整可能な第2部材とを備える。
【0009】
この発明では、ニッパフレームが最前進位置に移動した状態では、ニッパアームはトップニッパが最大開放位置(ボトムニッパとの距離が最大の位置)に配置される。ニッパシャフトの回動によりニッパフレームが後退する場合、ニッパアームは、トップニッパが閉じる方向へ回動される。そして、トップニッパがボトムニッパと協働してラップを把持する位置までニッパアームが回動した後もニッパフレームは後退を続け、ニッパアームの回動中心は上方へ移動するが、トップニッパは把持位置に保持される。また、ニッパアームが最後退位置から前進移動する際は、前進途中からニッパアームはトップニッパによるラップの把持を解除する方向へ回動される。
【0010】
また、第2クランクの第2部材の第1部材に対する固定位置を調整することにより、ニッパフレームが同じ位置に配置された状態における偏心体の中心位置が変化する。その結果、ニッパアームを支持部材に支持する支軸の位置が変化し、トップニッパ及びボトムニッパによるラップの把持、解放タイミングを調整することができる。第2部材はギヤボックスの外にあるため、ニッパシャフトの回動をギヤ列を介して回転軸に伝達する従来構成と異なり、第2部材の位置調整の際にギヤボックスを開ける必要がない。そして、ニッパアームに固定されたトップニッパの開閉タイミング、即ちボトムニッパと協働して行うラップの把持、解放タイミングの調整を、ギヤボックスの外での作業によって行うことができる。そのため、油のついた部品(ギヤ)を調整する必要がなく作業性が良い。また、調整作業中にギヤボックス内に風綿等のゴミが入ることが回避され、駆動の信頼性を低下させることがない。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第1部材及び前記第2部材のいずれか一方は、前記回転軸の中心を中心とする円弧状の長孔を有し、前記長孔を貫通する締結部を介して前記第1部材及び前記第2部材が一体回転可能に固定されている。この発明では、第2部材の第1部材に対する固定位置を連続的に調整することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記四節リンクとして平行四節リンクを備えている。この発明では、第1クランク及び第2クランクが同じ回動量(回動角度)で回動されるため、ニッパシャフトの回動をギヤ列を介して行う構成と同様にすることができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発明において、前記ニッパシャフトは両側から駆動され、前記四節リンクは、前記回転軸及び前記ニッパシャフトの両側に設けられている。ニッパシャフトが片側駆動の場合、高速化(例えば、コーミングシリンダの回転速度300rpm以上)を図った際に、駆動側から離れたコーミングヘッドに対応するニッパシャフトの部分の捩れ角度が大きくなり、四節リンクを介した回転軸の捩れ角度も同様に変化する。この発明では、ニッパシャフトが両側から駆動され、四節リンクも回転軸及びニッパシャフトの両側に設けられているため、片側駆動に比べて各コーミングヘッドに対応する部分のニッパシャフト及び回転軸の捩れ角度の差が小さくなる。したがって、高速化を図った場合に、各コーミングヘッドから紡出されるスライバ品質のバラツキを抑制して、製品スライバの品質低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ニッパアームに固定されたトップニッパの開閉タイミングの調整を、ギヤボックスの外での作業によって行うことができるコーマを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)はコーミングヘッドのニッパ装置の駆動機構を示す側面図、(b)は支持部材の一部破断側面図、(c)は第2クランクの側面図、(d)は(c)を裏面側から見た図。
【図2】第1クランク、第2クランク及び支持部材の支持状態を示す断面図。
【図3】(a)は第1部材と第2部材との位置を変更した場合の一例を示す第2クランクの側面図、(b)はそれに対応する偏心体の状態を示す模式図。
【図4】(a)はニッパ装置の作用を示す模式図、(b)はニッパフレーム17の最前進位置及び最後退位置を変更したときの模式図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図4にしたがって説明する。
図1(a)に示すように、コーミングヘッド11は、フィードローラ12を備えたニッパ装置13と、シリンダシャフト14と一体に回転するコーミングシリンダ15と、デタッチングトップローラ16aを備えた前後2対のデタッチングローラ16とを備えている。
【0017】
ニッパ装置13は、コーミングシリンダ15の上方で前後進揺動可能に配設されたニッパフレーム17を有する。ニッパフレーム17の前端は、シリンダシャフト14に回転可能に支持された支持レバー18の先端に対して支軸19を介して回動可能に支持されている。コーミングシリンダ15の後方、かつニッパフレーム17の下方はニッパシャフト20が往復回動可能に配設されている。ニッパフレーム17の後端は、ニッパシャフト20に対して基端が一体回動可能に固定されたニッパフレーム駆動アーム21の先端に支軸22を介して回動可能に支持されている。そして、ニッパフレーム17は、ニッパシャフト20の揺動(往復回動)により前後方向に揺動される。シリンダシャフト14及びニッパシャフト20は、図示しない機台フレームに回動可能に支持されている。
【0018】
ニッパフレーム17の前側にはボトムニッパ23が固定されている。ニッパフレーム17は、ニッパシャフト20の往復回動(揺動運動)によって、ボトムニッパ23の先端部がデタッチングローラ16に対して接近・離間するように前後に揺動するようになっている。ニッパフレーム17にはボトムニッパ23より後側の位置に設けられた支軸24を介してニッパアーム25の基端が回動可能に支持され、ニッパアーム25の先端にトップニッパ26が固定されている。
【0019】
ニッパアーム25の上方には、回転軸27がニッパシャフト20と平行に設けられている。回転軸27には円板状の偏心体28が一体回転可能に固定されている。偏心体28にはニッパアーム25を支持する支持部材29の基端側が回動可能に支持されている。図1(b)及び図2に示すように、支持部材29は、偏心体28の外周面に対して回動可能に取り付けられる環状部30と、環状部30の中心から径方向に延びるガイド部31と、ガイド部31に移動可能に設けられたロッド部32とを有する。ロッド部32は、先端に軸支持部33を有し、基端に鍔部を有するとともに、ガイド部31と軸支持部33との間に介在するばね34により環状部30から離れる側へ付勢されている。即ち、支持部材29は、ロッド部32が伸縮することにより環状部30の中心から軸支持部33までの距離が変化可能に構成されている。ニッパアーム25は、軸支持部33に支軸35を介して回動可能に支持されている。即ち、ニッパアーム25は、偏心体28に回動可能に支持された支持部材29に対して、支軸35を介して回動可能に支持されており、支持部材29の回動中心は回転軸27の中心(軸心)ではなく、偏心体28の中心である。
【0020】
ニッパアーム25は、ニッパフレーム17の前進移動時には所定のタイミングで支軸24を中心に図1(a)の時計方向に回動され、ニッパフレーム17の後退移動時には所定のタイミングで支軸24を中心に図1(a)の反時計方向に回動される。そして、トップニッパ26はニッパフレーム17の前後進揺動運動により所定のタイミングで開閉して、ボトムニッパ23と協同してラップ(図示せず)を把持、解放するようになっている。ニッパフレーム17にはトップコーム36がボトムニッパ23の前方において、ニッパフレーム17と同期して所定の運動を行うように取り付けられている。
【0021】
図1(a)及び図2に示すように、ニッパシャフト20には第1クランク37が一体回転可能に固定され、回転軸27には第2クランク38が一体回転可能に固定されている。第1クランク37の先端と第2クランク38の先端との間には連結リンク39がピン40,41を介してそれぞれ回動可能に連結されている。この実施形態では、第1クランク37の長さ(回動中心とピン40の中心との距離)が、第2クランク38の長さ(回動中心とピン41の中心との距離)より長く形成されている。
【0022】
図1(c),(d)及び図2に示すように、第2クランク38は、ピン41が挿通される孔42a、回転軸27が挿通される孔42bと、孔42bの中心を中心とする円弧状の長孔42cとを有する第1部材としての本体42と、本体42に対する固定位置調整可能な第2部材としての調整部材43とを備えている。調整部材43は回転軸27に対する固定状態が変更可能に構成されている。具体的には、調整部材43は、回転軸27が挿通される孔43aを有するとともに、孔43a及び外周面に連通する溝43bと、溝43bと直交するボルト孔43cとを有する。また、調整部材43は、本体42の長孔42cを貫通するボルト45が螺合するねじ穴43dを有する。ボルト45及びねじ穴43dは、本体42及び調整部材43を一体回転可能に固定する締結部を構成する。そして、調整部材43は、ボルト孔43cに螺合している締め付けボルト44を締め付けることにより、回転軸27に対して一体回転可能に固定される。また、本体42は、ボルト45を弛めた状態で回転軸27を中心に調整部材43及び回転軸27に対して相対回動可能になり、ボルト45を締め付けた状態では調整部材43に固定されて回転軸27と一体回転するようになっている。
【0023】
図1(d)に示すように、本体42には、ボルト45の頭部と対応する側の面に、目盛り46が長孔42cに沿って形成されている。目盛り46は、ボルト45を弛めて調整部材43と本体42との位置関係を調整する際に、調整部材43を目的の位置に固定する目安となる。調整部材43の目盛り46に対する位置関係と、トップニッパ26の開閉状態、即ちニッパアーム25の基準位置からの回動量との関係を予め試験で調べて、調整部材43の位置調整データとして保管しておき、そのデータを用いて調整部材43の位置調整を行うのが好ましい。
【0024】
次に前記のように構成された装置の作用を説明する。
図示しないメインモータにより駆動されて揺動運動(往復回動)を行うニッパシャフト20の揺動に基づいてボトムニッパ23がニッパフレーム17と共に前後に揺動され、トップニッパ26が上下に揺動されてボトムニッパ23の先端部との間でラップの把持、解放を行う。図1(a)は、ニッパフレーム17及びボトムニッパ23が最前進位置に配置された状態を示し、トップニッパ26は解放位置に配置されている。この状態からニッパシャフト20が図1(a)の時計方向に回動されると、ニッパフレーム駆動アーム21及び第1クランク37もニッパシャフト20と一体に時計方向に回動される。
【0025】
図4(a)は、ニッパフレーム17が最前進位置に配置された状態と、最後退位置に配置された状態とにおけるニッパフレーム17、ニッパアーム25、トップニッパ26、回転軸27、偏心体28、支持部材29、第1クランク37、第2クランク38及び連結リンク39等の位置関係を示し、実線が最前進位置、2点鎖線が最後退位置を示す。ニッパシャフト20の時計方向への回動に伴ってニッパフレーム17が後退し、ニッパアーム25の回動中心となる支軸24は、図4(a)に示すように上昇移動する。支軸24の移動に伴ってニッパアーム25も後退する。ニッパアーム25は、支軸35を介して支持部材29のロッド部32に連結されており、ロッド部32は、ばね34によりニッパアーム25をトップニッパ26が閉じる方向へ付勢されているため、支軸24の上方への移動はニッパアーム25に対してトップニッパ26が閉じる方向への力を作用させる。
【0026】
一方、第1クランク37の時計方向への回動に伴って連結リンク39を介して第2クランク38が回転軸27と共に図1(a)及び図4(a)の時計方向に回動される。そして、偏心体28も回転軸27と共に図1(a)及び図4(a)の時計方向に回動される。偏心体28が回転軸27と共に時計方向に回動されると、支持部材29の回動中心である偏心体28の中心O1は、図4(a)にAで示す位置からBで示す位置に移動する。即ち支持部材29が支軸35を介してニッパアーム25を引き上げる方向へ移動する。
【0027】
そして、支軸24の上方への移動量が、支持部材29が支軸35を介してニッパアーム25を引き上げる移動量に比べて大きい。そのため、トップニッパ26がボトムニッパ23と協働してラップを把持する位置に達するまでは、ニッパフレーム17の後退移動に伴ってニッパアーム25が支軸24を中心に図1(a)及び図4(a)の反時計方向、即ちトップニッパ26が閉じる方向に回動される。トップニッパ26は、ニッパフレーム17の後退途中からボトムニッパ23と協働してラップを把持する把持位置に配置され、その後は、ニッパフレーム17が最後退位置に達するまで、支軸24の上昇に伴いロッド部32がばね34の付勢力に抗して押し上げられて、トップニッパ26は無理な力が加えられることなく把持位置に保持される。そして、ニッパフレーム17が後退する間に、トップニッパ26とボトムニッパ23の先端部に把持されたラップ(図示せず)は、コーミングシリンダ15のニードルセグメント(図示せず)によって梳られる。
【0028】
一方、図4(a)に2点線鎖線で示すニッパフレーム17が最後退位置に配置された状態からニッパシャフト20の反時計方向への回動に伴って、ニッパフレーム17の前進移動と、第1クランク37及び連結リンク39を介した第2クランク38の反時計方向への回動が行われる。そして、ニッパフレーム17の前進途中からニッパアーム25が支軸24を中心に時計方向に回動されて、ニッパフレーム17が最前進位置に移動した状態では、ニッパアーム25はトップニッパ26が最大開放位置(ボトムニッパ23との距離が最大の位置)に配置される。
【0029】
トップニッパ26及びボトムニッパ23によるラップの把持、解放タイミングは、コーマの運転条件、例えば、繊維種やコーミングシリンダ15の回転速度によっては、最適時期が同じではない場合がある。また、コーマによっては、図4(b)に示すように、ニッパフレーム17の最前進位置及び最後退位置を変更可能な装置もある。そのような装置においては、例えば、図4(b)に実線及び2点鎖線で示す基準位置と破線で示す変更位置の範囲で最前進位置及び最後退位置が変化する。その場合、第2クランク38及び支持部材29の位置調整を行わないと、ニッパフレーム17の最前進位置及び最後退位置を変更することにより、トップニッパ26及びボトムニッパ23によるラップの把持、解放タイミングが適正な時期からずれてしまう場合がある。
【0030】
本発明のコーマでは、コーマの運転条件を変更する際に、トップニッパの開閉タイミングの調整を、ギヤボックスの外での作業によって行うことが可能になっている。具体的には、トップニッパ26及びボトムニッパ23によるラップの把持、解放タイミングは、第2クランク38の調整部材43の本体42に対する固定位置を調整することにより可能である。
【0031】
調整部材43の本体42に対する固定位置の調整は、コーマの運転を停止した状態で行われる。調整部材43の固定位置の調整は、四節クランクを予め所定の位置関係に配置し、かつ本体42を固定した状態で、ボルト45を弛める。そして、ボルト45を調整部材43と共に長孔42cに沿って移動させると、本体42が固定されているため、調整部材43は回転軸27と共に回動し、偏心体28も回転軸27と一体に回動する。例えば、図3(a)に示すように、調整部材43の位置を角度θ変更すると、図3(b)に示すように、偏心体28も調整部材43の回動角と同じ角度θ回動するため、支持部材29の回動中心となる偏心体28の中心O1の位置はCからDに変化する。その結果、支持部材29の環状部30の位置も変化して、支持部材29とニッパアーム25を連結している支軸35の位置が変わり、ニッパアーム25のニッパフレーム17に対する角度が変わる。なお、図3(b)において、実線の図が調整部材43の位置調整前を示し、2点鎖線の図が位置調整後を示す。
【0032】
作業者は、トップニッパ26あるいはニッパアーム25の状態と、目盛り46を見ながら調整部材43の位置を調整し、適切な位置に調整部材43を移動させた状態でボルト45を締め付けて、調整部材43を本体42に対して固定することにより、調整部材43の位置調整が完了する。
【0033】
運転条件に対応して、予め調整部材43の調整試験を行って得たデータがある場合は、そのデータに基づいて、調整部材43のおおよその位置決めを行った後、最終的な微調整を、トップニッパ26あるいはニッパアーム25の状態を見ながら行うようにすれば、短時間で調整が可能になる。
【0034】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)コーマは、前進後退運動を行うニッパフレーム17に固定されたボトムニッパ23と、ニッパフレーム17に回動可能に支持されたニッパアーム25に固定されるとともにボトムニッパ23と協働してラップの把持、解放を行うトップニッパ26とを備えている。ニッパアーム25は、ニッパアーム25の上方に設けられた支持部材29に支軸35を介して支持され、支持部材29は上側において偏心体28に旋回可能に支持されるとともに、ばね34により伸縮可能なロッド部32を備え、ロッド部32の下部に支軸35が支持されている。そして、ニッパシャフト20に一体回転可能に固定された第1クランク37と、偏心体28が一体回転可能に固定された回転軸27に一体回転可能に固定された第2クランク38と、両クランクの先端間にピン40,41を介して連結された連結リンク39とからなる四節リンクを備えている。第2クランク38は、回転軸27が挿通される孔42b及び孔42bの中心を中心とする円弧状の長孔42cを有する本体42と、本体42に対する固定位置調整可能な調整部材43とを備え、調整部材43において回転軸27に一体回転可能に固定されている。したがって、トップニッパ26は、ニッパフレーム17の前進後退運動に伴い、所定のタイミングでボトムニッパ23と協働してラップの把持、解放を行う。また、ギヤボックスの外にある第2クランク38の調整部材43の本体42に対する固定位置を調整することにより、トップニッパ26及びボトムニッパ23によるラップの把持、解放タイミングを調整することができる。したがって、ニッパアーム25に固定されたトップニッパ26の開閉タイミング、即ちボトムニッパ23と協働して行うラップの把持、解放タイミングの調整を、ギヤボックスの外での作業で行うことができる。そのため、油のついた部品(ギヤ)を調整する必要がなく作業性が良い。また、調整作業中にギヤボックス内に風綿等のゴミが入ることが回避され、駆動の信頼性を低下させることがない。
【0035】
(2)第2クランク38を構成する本体42には、長孔42cに沿って目盛り46が設けられている。したがって、コーマの運転条件に応じて、調整部材43の位置を示す目盛り46の値と、トップニッパ26との位置関係を予め試験で確認してデータとして保管しておくことにより、調整部材43の位置調整を簡単に行うことができる。
【0036】
(3)本体42と調整部材43との固定が、長孔42cを貫通するボルト45を介して行われる。したがって、調整部材43の位置調整の際、ボルト45を弛めてボルト45を長孔42cに沿って移動させることにより、調整部材43を本体42に対して相対回動させることができ、他の方法で固定する場合に比べて、調整部材43の位置調整が簡単になる。
【0037】
(4)第1クランク37の長さが、第2クランク38の長さより長く形成されているため、第1クランク37の長さが、第2クランク38の長さ以下の場合に比べて、第1クランク37の同じ回動量で第2クランク38を第1クランク37の回動量より大きく回動することができる。
【0038】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 第1クランク37の長さと、第2クランク38の長さとが同じで、かつ第1クランク37及び第2クランク38を平行に、即ち四節リンクを平行四節リンクで構成してもよい。この場合、第1クランク37及び第2クランク38が同じ回動量(回動角度)で回動されるため、ニッパシャフト20の回動をギヤ列を介して回転軸27に伝達する構成と同様にすることができる。また、第1クランク37及び第2クランク38が同じ回動量で回動されるため、設計の際にニッパ装置13の動作を把握し易くなる。
【0039】
○ 第2クランク38の長さを第1クランク37の長さより長く形成してもよい。
○ ニッパシャフト20が両側から駆動される構成のコーマにおいて、四節リンクを回転軸27及びニッパシャフト20の両側に設けてもよい。ニッパシャフト20が片側駆動の場合、高速化(例えば、コーミングシリンダ15の回転速度300rpm以上)を図った際に、駆動側から離れたコーミングヘッド11に対応するニッパシャフト20の部分の捩れ角度が大きくなり、四節リンクを介した回転軸27の捩れ角度も同様に変化する。しかし、ニッパシャフト20が両側から駆動され、四節リンクも回転軸27及びニッパシャフト20の両側に設けられているため、片側駆動に比べて各コーミングヘッド11に対応する部分のニッパシャフト20及び回転軸27の捩れ角度の差が小さくなる。したがって、高速化を図った場合に、各コーミングヘッド11から紡出されるスライバ品質のバラツキを抑制して、製品スライバの品質低下を抑制することができる。
【0040】
○ 目盛り46を設けずに、調整部材43の位置調整をニッパアーム25あるいはトップニッパ26を見ながら行なうようにしてもよい。
○ 調整部材43に回転軸27の中心を中心とする円弧状の長孔を設け、その長孔を貫通するボルト45が螺合するねじ穴を本体42に設けてもよい。この場合も、調整部材43の本体42に対する固定位置の調整は、ボルト45を弛めて調整部材43を目的の位置まで回動させた後、ボルト45を締め付けることで行われる。しかし、本体42に長孔42cが形成され、調整部材43にねじ穴43dが形成されている構成の方が、ボルト45と共に調整部材43を移動させることができるため、作業が行い易い。
【0041】
○ 本体42と調整部材43とを固定するのに、一方に設けられたねじ穴にボルトを螺合する構成に代えて、締結部を構成するボルト及びナットで固定するようにしてもよい。しかし、本体42あるいは調整部材43に形成されたねじ穴にボルトを螺合する方が、調整が簡単で調整部材43を目的の位置に固定し易い。
【0042】
○ 本体42及び調整部材43の一方に回転軸27の中心を中心とする円弧状の長孔を設け、他方にその長孔を貫通するねじ軸を設ける。そして、ねじ軸に螺合するナットを締め付けることにより本体42と調整部材43とを固定するようにしてもよい。この場合、ねじ軸及びナットが締結部を構成する。
【0043】
○ 調整部材43の本体42に対する固定位置の調整機構は、長孔に限らず、複数の取付孔や交換可能なゲージ体を介した固定等の公知の調整機構を適用しても良い。
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
【0044】
(1)請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記締結部は、前記第1部材及び第2部材のうちの一方に設けられた前記長孔を貫通するボルトと、前記第1部材及び第2部材のうちの他方に設けられるとともに前記ボルトが螺合されるねじ穴とで構成されている。
【0045】
(2)前記技術的思想(1)に記載の発明において、前記長孔は第1部材に設けられ、前記第2部材には前記ねじ穴が形成されている。
【符号の説明】
【0046】
O1…中心、17…ニッパフレーム、19,22,24,35…支軸、20…ニッパシャフト、23…ボトムニッパ、25…ニッパアーム、26…トップニッパ、27…回転軸、28…偏心体、29…支持部材、32…ロッド部、34…ばね、37…第1クランク、38…第2クランク、39…連結リンク、40,41…ピン、42…第1部材としての本体、42a,42b,43a…孔、42c…長孔、43…第2部材としての調整部材、43d…締結部を構成するねじ穴、45…同じくボルト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前進後退運動を行うニッパフレームに固定されたボトムニッパと、前記ニッパフレームに回動可能に支持されたニッパアームに固定されるとともに前記ボトムニッパと協働してラップの把持、解放を行うトップニッパとを備え、前記ニッパアームが、支持部材の一端に支持され、前記支持部材は他端において偏心体に旋回可能に支持されているコーマであって、
ニッパシャフトに一体回転可能に固定された第1クランクと、前記偏心体が一体回転可能に固定された回転軸に一体回転可能に固定された第2クランクと、両クランクの先端間にピンを介して連結された連結リンクとからなる四節リンクを備え、前記第2クランクは、前記ピンが挿通される孔を有する第1部材と、前記回転軸に一体回転可能に固定され、かつ前記第1部材に対する固定位置を調整可能な第2部材とを備えることを特徴とするコーマ。
【請求項2】
前記第1部材及び前記第2部材のいずれか一方は、前記回転軸の中心を中心とする円弧状の長孔を有し、前記長孔を貫通する締結部を介して前記第1部材及び前記第2部材が一体回転可能に固定されている請求項1に記載のコーマ。
【請求項3】
前記四節リンクとして平行四節リンクを備えている請求項1又は2に記載のコーマ。
【請求項4】
前記ニッパシャフトは両側から駆動され、前記四節リンクは、前記回転軸及び前記ニッパシャフトの両側に設けられている請求項1〜3のいずれか一項に記載のコーマ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−7251(P2012−7251A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141521(P2010−141521)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】