ゴムクローラ
【課題】転輪との間での脱輪の発生、突起の摩耗・変形・破損等の問題を抑制し、また走行時に摩擦によって生じる突起の表面の昇温に対する耐久性にも優れたゴムクローラを提供する。
【解決手段】無端状ゴム弾性体の外周面にゴムラグを形成し、内周面に駆動力の伝達或いは転輪との外れ防止に供される突起を形成してなるゴムクローラにおいて、ポリケトン樹脂製の樹脂部材31を、突起2における他部材との接触面に樹脂部材31が露出するように突起本体部と一体的に設けたゴムクローラ。ポリケトン樹脂は、耐熱性、耐磨耗性、耐衝撃性に優れることから、このようなポリケトン樹脂よりなる樹脂部材を設けることにより、突起の摩耗や破損が防止され、走行抵抗も減少し、また、昇温による熱劣化も防止される。
【解決手段】無端状ゴム弾性体の外周面にゴムラグを形成し、内周面に駆動力の伝達或いは転輪との外れ防止に供される突起を形成してなるゴムクローラにおいて、ポリケトン樹脂製の樹脂部材31を、突起2における他部材との接触面に樹脂部材31が露出するように突起本体部と一体的に設けたゴムクローラ。ポリケトン樹脂は、耐熱性、耐磨耗性、耐衝撃性に優れることから、このようなポリケトン樹脂よりなる樹脂部材を設けることにより、突起の摩耗や破損が防止され、走行抵抗も減少し、また、昇温による熱劣化も防止される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行部に使用されるゴムクローラに関するものであって、特に、ゴムクローラの内周面より突出する突起の改良に係るものである。
【背景技術】
【0002】
車両の走行部に使用されるゴムクローラの内周面には、その長手方向に沿って、スプロケットからの駆動力の伝達、或いは転輪との外れ防止のための突起が整列状に形成されている。特に、転輪との間の外れ防止にあっては、ゴムクローラが横方向(幅方向)の力を受け、転輪との間に相対的にズレを生じた場合、転輪と突起との間で接触・衝突が繰り返され、転輪のズレを元の状態に戻そうとする。なお、このときに、突起に摩擦力が加えられ、転輪との間で脱輪が生じ、更には摩耗や破損が生じることがある。
【0003】
図14,図15は、かかる状態を示すゴムクローラの内周面の平面図であって、図14では、無端状ゴム弾性体11よりなるゴムクローラ本体の内周面より突起12、12が対になって二列に形成されている。転輪20は通常はこの突起12、12を跨いで転動するが、ゴムクローラ10と転輪20との間で相互にズレが生じた場合には、転輪20は点線で示す(一方のみを示す)ように突起12、12と接触・衝突し、転輪20のズレを規制して元の転動面に戻そうとする。このため、突起12、12の特に外側面に摩擦力が大きく加えられ、転輪20との間で脱輪が発生し易く、場合によっては、突起12,12の摩耗や破損が生じることとなる。
【0004】
一方、図15は、無端状ゴム弾性体11よりなるゴムクローラ本体の内周面に突起12を一列に形成した場合を示すものであるが、この場合も、転輪20が正規の転動位置よりズレた場合には、転輪20と突起12が点線で示すように接触・衝突を繰り返してズレを防止することとなり、図14の場合と同様に転輪20との間で脱輪が発生し易く、場合によっては、突起12の摩耗や破損が生じることとなる。また、かかる突起12は、図示しないスプロケットと係合し、駆動力の伝達に供される際に、スプロケットピンと突起12とは常に擦れを生じており、このため、突起12の特に根元部に変形が加えられ、このため転輪20との間で脱輪が発生し易いばかりでなく、この部分に摩耗や破損を生じ易い。特に突起12がゴムでできている場合にこの傾向が大きい。
【0005】
更に、この転輪20と突起12との接触・衝突時には、大きな走行抵抗が、生じエネルギ−のロスをもきたしていた。
【0006】
また、このようなゴムクローラの突起には、走行時の摩擦によって生じる昇温の問題もある。即ち、例えば、このような突起駆動型ゴムクローラを4輪に装着した車両を用い、半径15mm、時速25kmで旋回走行試験を実施し、走行時間10分毎に突起表面の温度を測定すると、後述の比較例1に示されるように、走行時間40分後に180℃以上まで突起の温度は昇温する。
【0007】
このような問題を解決し、転輪との間での脱輪の発生を防止すると共に、突起を摩耗・変形・破損等から保護し、更には、走行時に摩擦によって生じる突起の表面の昇温に対する耐久性をも高めたゴムクローラとして、本出願人は先に突起の他部材との接触面に樹脂部材を露出させたゴムクローラを提案した(特許文献1,2,3)。特許文献1では、この樹脂部材は、低摩擦性能を有する耐熱性熱硬化性樹脂よりなり、特許文献2では低摩擦性能を有する耐熱性熱硬化性樹脂よりなり、特許文献3ではバーコール硬度(A型)が40度以下の樹脂よりなる。
【特許文献1】特開平9−301229号公報
【特許文献2】特開平9−301232号公報
【特許文献3】特開平10−53171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜3のように、樹脂部材を設けることにより、樹脂部材の突起部の耐久性が高められ、また転輪との間の脱輪の発生も防止されるが、更なる効果の向上と、工業製品としての更なる材料の多様性が求められているのが実状である。
【0009】
従って、本発明は、特許文献1〜3とは異なる樹脂材料を用いて、転輪との間での脱輪の発生、突起の摩耗・変形・破損等の問題を抑制し、また走行時に摩擦によって生じる突起の表面の昇温に対する耐久性にも優れたゴムクローラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明(請求項1)のゴムクローラは、無端状ゴム弾性体の外周面にゴムラグを形成し、内周面に駆動力の伝達或いは転輪との外れ防止に供される突起を形成してなるゴムクローラにおいて、樹脂部材を、該突起における他部材との接触面に該樹脂部材が露出するように該突起本体部と一体的に設けたゴムクローラであって、該樹脂部材がポリケトン樹脂で構成されることを特徴とする。
【0011】
請求項2のゴムクローラは、請求項1において、前記突起本体はゴム製であり、前記樹脂部材をゴムクローラを形成する金型内にセットし、次いで未加硫ゴム材料を充填して加硫成形することにより該樹脂部材を突起本体部と一体成形してなることを特徴とする。
【0012】
請求項3のゴムクローラは、請求項1又は2において、前記ポリケトン樹脂が下記一般式(I)で表されるポリケトン樹脂であることを特徴とする。
【化2】
((I)式中、Rはエチレン性不飽和化合物由来の連結基であり、各繰り返し単位において、同一であっても異なっていても良い。)
【0013】
請求項4のゴムクローラは、請求項3において、前記一般式(I)におけるRがエチレン由来の連結基であることを特徴とする。
【0014】
請求項5のゴムクローラは、請求項3又は4において、前記ポリケトン樹脂の重合度が、m−クレゾール中、60℃で測定した溶液粘度が1.0〜10.0dL/gの範囲にある重合度であることを特徴とする。
【0015】
請求項6のゴムクローラは、請求項1ないし5のいずれか1項において、前記突起の全体積に占める前記樹脂部材の体積の割合が5〜60%であることを特徴とする。
【0016】
請求項7のゴムクローラは、請求項1ないし6のいずれか1項において、前記突起における他部材との接触面の合計面積に対する突起の露出面積の合計の割合が10〜60%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
ポリケトン樹脂は、耐熱性、耐摩耗性、耐衝撃性に優れることから、このようなポリケトン樹脂よりなる樹脂部材を、突起における他部材との接触面に露出させることにより、転輪とのズレによる接触・衝突が生じた場合でも、突起の摩耗や破損が防止され、更に走行抵抗も減少することとなり、また、昇温による熱劣化も防止されることから、ゴムクロ−ラの寿命は著しく向上する。従って、本発明によれば、ゴムクローラ装着車両の耐久性の向上にも大きく寄与するゴムクローラが提供される。
【0018】
本発明において、突起本体はゴム製であり、樹脂部材をゴムクローラを形成する金型内にセットし、次いで未加硫ゴム材料を充填して加硫成形することにより樹脂部材を突起本体部と一体成形してなることが好ましい(請求項2)。
【0019】
本発明で用いるポリケトン樹脂は、下記一般式(I)で表されるポリケトン樹脂であることが好ましく(請求項3)、この一般式(I)におけるRがエチレン由来の連結基であり(請求項4)、ポリケトン樹脂の重合度は、m−クレゾール中、60℃で測定した溶液粘度が1.0〜10.0dL/gの範囲にある重合度であることが好ましい(請求項5)。
【0020】
【化3】
((I)式中、Rはエチレン性不飽和化合物由来の連結基であり、各繰り返し単位において、同一であっても異なっていても良い。)
【0021】
また、突起の全体積に占める前記樹脂部材の体積の割合は5〜60%であることが好ましく(請求項6)、突起における他部材との接触面の合計面積に対する突起の露出面積の合計の割合は10〜60%であることが好ましい(請求項7)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明のゴムクローラの実施の形態を詳細に説明する。
まず、本発明のゴムクローラの突起に設けられる樹脂部材を構成するポリケトン樹脂について説明する。
【0023】
本発明で用いるポリケトン樹脂としては、下記一般式(I)で表されるポリケトン樹脂が好ましい。
【化4】
((I)式中、Rはエチレン性不飽和化合物由来の連結基であり、各繰り返し単位において、同一であっても異なっていても良い。)
【0024】
上記ポリケトンは、分子中にCO単位(カルボニル基)とエチレン性不飽和化合物由来の単位とが配列された交互共重合体、即ち、高分子鎖中で各CO単位の隣に、例えばエチレン単位等のオレフィン単位が一つずつ位置する構造である。このポリケトンは、一酸化炭素と特定のエチレン性不飽和化合物の1種との共重合体であってもよく、一酸化炭素とエチレン性不飽和化合物の2種以上との共重合体であってもよい。
【0025】
上記(I)中のRを形成するエチレン性不飽和化合物としては、エチレン,プロピレン,ブテン,ペンテン,ヘキセン,ヘプテン,オクテン,ノネン,デセン,ドデセン,スチレン等の不飽和炭化水素化合物、メチルアクリレート,メチルメタクリレート,ビニルアセテート,ウンデセン酸等の不飽和カルボン酸又はその誘導体、更にはウンデセノール,6−クロロヘキセン,N−ビニルピロリドン,及びスルニルホスホン酸のジエチルエステル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、特にポリマーの力学特性や耐熱性等の点から、エチレン性不飽和化合物としてエチレンを主体とするものを用いたポリケトンが好ましい。
【0026】
ポリケトンを構成するエチレン性不飽和化合物として、エチレンと他のエチレン性不飽和化合物とを併用する場合、エチレンは、全エチレン性不飽和化合物に対し、80モル%以上になるように用いるのが好ましい。この割合が80モル%未満では得られるポリマーの融点が200℃以下になり、得られるポリケトン樹脂の耐熱性が不充分となる場合がある。ポリケトン樹脂の力学特性や耐熱性の点から、エチレンの使用量は、特に全エチレン性不飽和化合物に対し90モル%以上が好ましい。
【0027】
前記のポリケトンは、公知の方法、例えばヨーロッパ特許公開第121965号,同第213671号,同第229408号及び米国特許第3914391号明細書に記載された方法に従って製造することができる。
【0028】
上記ポリケトンの重合度は、m−クレゾール中、60℃で測定した溶液粘度が1.0〜10.0dL/gの範囲にあるのが好ましい。溶液粘度が1.0dL/g未満では、得られるポリケトン樹脂の力学強度やガスバリア性が不充分となる場合があり、ポリケトン樹脂の力学強度やガスバリア性の観点から、溶液粘度が1.2dL/g以上であるのが更に好ましい。一方、溶液粘度が10.0dL/gを超えると、柔軟性が不良となる場合があり、柔軟性の観点から、溶液粘度が5.0dL/g以下であるのが更に好ましい。ポリケトン樹脂の力学強度、ガスバリア性及び柔軟性などを考慮すると、この溶液粘度は1.3〜4.0dL/gの範囲が特に好ましい。
【0029】
本発明において、ポリケトン樹脂は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0030】
本発明において、突起に設けられる樹脂部材は、ポリケトン樹脂のみで構成されるものであっても良いが、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルフォン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミドビスマレイミド、ポリオキシベンジレン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリエチレンテレフタレート等の他の樹脂の1種又は2種以上との複合樹脂で構成されるものであっても良い。また、樹脂部材は、ガラス繊維、ケブラー繊維、パルプ、綿等の1種又は2種以上の補強繊維で強化されたものであっても良い。
【0031】
樹脂部材の形状としては、棒状体(円柱状、角柱状)、板状体、筒状体(円柱状、角柱状)、盤状体、ダンベル状体等、任意の形状を採用し得る。
【0032】
以下、図面を参照して、突起部分にこのような樹脂部材を一体的に設けた本発明のゴムクローラの具体的な構成を説明する。
【0033】
図1は本発明のゴムクローラの一例を示す突起2A近傍の斜視図であり、図2はその側面図である。
【0034】
この突起2Aは、ゴムクローラを構成するゴム製本体1の内周面より30mmの高さ(H)を有し、ゴムクローラの幅方向の長さ(L1)が60mm、ゴムクローラの長手方向における頂部の長さ(L2)が25mm、基部の長さ(L3)が55mmである。そして突起2Aの左右側面4、5と前後面7、8は所望の斜視角をもって構成される。この突起2には、直径20mmの断面円形の棒状体31をゴムクローラの幅方向に沿って埋設されている。この棒状体31はポリケトン樹脂製であり、その両端面311、312は突起2Aの左右側面4、5に露呈している。
【0035】
棒状の樹脂部材31を突起2A中に埋設するには突起2Aを形成する凹部を備えた金型を用い、この凹部内に樹脂部材31を予め嵌め込み、この状態を維持しつつゴムクローラの基体を構成する未加硫のゴム材料を金型内に充填した後、加硫成形すれば良い。これにより、ゴム材料の加硫時の接着力によって突起本体と樹脂部材31とは加硫接着されて一体化される。なお、場合によってはフェノ−ル系、エポキシ系、ゴム系等の接着剤の1種又は2種以上を用いて加硫接着しても良い。
【0036】
このゴムクローラでは、突起2Aの両側面4、5に棒状樹脂部材31の両端面311、312が露出しており、転輪や図示しないアイドラ−、スプロケット等との接触・衝突時に樹脂部材31の両端面311、312がこれらと接触するため、棒状樹脂部材31を構成するポリケトン樹脂の優れた特性により転輪との間での脱輪が減少し、また、摩耗や破損が少なく、走行抵抗も著しく低下すると共に、走行時の昇温にも十分に耐え得るものとなる。
【0037】
図3は、本発明のゴムクローラの別の例を示す突起2Bの斜視図であり、直径20mm、厚さ5mmの円盤状のポリケトン樹脂製樹脂部材32,32を突起2Bの側面4、5にそれぞれ一方の面が露呈するように埋設したものである。この樹脂部材32,32もまた、図1,2の樹脂部材31と同様に金型の凹部内に予めこれをセットした後未加硫ゴムを金型内に充填して加硫成形することにより、一体成形することができる。
【0038】
図4は、本発明のゴムクローラの別の例を示す突起2C部の斜視図であり、図5はその側面図である。
【0039】
この例にあっては、平板状のポリケトン樹脂製樹脂部材33を突起2Cの幅方向の中央に埋設したものであって、その両端面331、332が突起2Cの左右側面4、5に露呈したものである。樹脂部材33の厚さは10mmであり、その上端面が突起2Cの頂部を形成している。なお、この例では突起2Cは前後面7、8が2段傾斜面とされている。かかる突起2Cの概形はゴムクローラの長手方向の頂面の幅が10mm、基底部の幅60mm、そして高さ(H)40mm、頂部より15mmの位置で前後面7、8にて折曲部9が形成されている。この樹脂部材33もまた図1〜3の樹脂部材31,32,33と同様に金型の凹部内に予めこれをセットした後未加硫ゴムを金型内に充填して加硫成形することにより、一体成形することができる。
【0040】
なお、これらの各例にあって、突起2A,2B,2Cの表面を別の補強材で保護してもよく、図6は、この場合の一例を示す斜視図であり、ゴムクローラの長手方向に連続又は不連続の補強帆布10でゴムクローラの内周面及びその突起2Aの表面を覆うようにしたものである。この帆布10は捲縮性、非捲縮性のいずれのものでもよく、このような帆布は、これを金型内に予めセットし、ゴム材料との間で加硫接着させることにより、一体成形にて取り付けることができる。図6において、その他の符号は図1におけると同様である。
【0041】
図7は、本発明の更に別の例のゴムクローラの内周面を示す平面図であり、図8は図7のA−A線での断面図、図9は図7のB−B線での断面図である。この例にあっては、十文字状に形成されたポリケトン樹脂製の樹脂部材34が突起2D内に一体的に設けられており、突起2Dの両側面4、5、前後面7、8に、かかる樹脂部材34の表面が露出している。更に、突起2Dの頂面6にも樹脂部材34が露出していても良い。このように構成された突起2Dにあっては、転輪との接触・衝突における場合と同様、スプロケットとの接触の際の突起2Dの摩耗や破損の防止にも効果があることとなる。この樹脂部材34は、4つに分割されたものであっても良い。この樹脂部材34もまた金型の凹部内に予めこれをセットした後未加硫ゴムを金型内に充填して加硫成形することにより、一体成形することができる。
【0042】
図10〜図13は本発明の更に別の例を示すものであり、図10はゴムクローラの内周面における平面図、図11は外周面における平面図、図12は図10のC−C線での断面図、図13は図10,11のD−D線での断面図を示す。かかる例にあっては、突起2Eにおけるゴムクローラの長手方向に山形にポリケトン樹脂製の樹脂部材35が配置され、これによって、転輪との擦れと、駆動ピンとの擦れに対して極めて大きな効果を発揮することになる。
【0043】
なお、この樹脂部材35はゴムクローラの他の部分にも適用可能であり、例えば、ゴムクローラの内周面における転輪の転動面にこれを適用することができ、更には一対の突起間にこれを用いることも可能である。また、場合によっては、この樹脂部材35をスプロケット側に採用することも可能である。
【0044】
なお、本発明において、突起に占める樹脂部材の体積割合が過度に大きいと樹脂を被覆しているゴムの破壊、摩耗が早期に起こり、逆に過度に小さいと樹脂部材を設けることによる本発明の効果を十分に得ることができない。また、突起の他部材との接触面に露出する樹脂部材の露出面積が過度に小さいと、樹脂部材をこの面に露出させることによる本発明の効果を十分に得ることができず、逆に過度に大きいと樹脂を被覆しているゴムの早期破壊につながる。
【0045】
従って、突起の全体積に占める樹脂部材の体積の割合(以下、単に「樹脂部材の体積割合」と称す。)は5〜60%であることが好ましく、突起の他部材との接触面(通常、この接触面はゴムクローラに対し突起の幅方向面及び周長方向面であり、樹脂露出面は幅方向面である。)の合計面積に対する突起の露出面積の合計の割合(以下、単に「樹脂部材の面積割合」と称す。)は10〜60%であることが好ましい。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
実施例1
ポリケトン樹脂により、直径20mmの棒状の樹脂部材を作製し、これを図1,2に示す如く、突起2A内に埋設したゴムクローラを作製した。突起2Aを構成するゴム材料は表1に示す配合によった。この配合によって得られたゴム性状は、Hd:82度、M300:130kgf/cm2、Tb:190kgf/cm2、Eb:430%であった。
【0048】
【表1】
【0049】
また、ポリケトン樹脂としては、前記一般式(I)において、Rがエチレンで、m−クレゾール中、60℃で測定した溶液粘度が4.0dL/gを示す重合度のポリケトン樹脂を用いた。
【0050】
樹脂部材の体積割合は10%で樹脂部材の面積割合は14%であった。
【0051】
得られた突起駆動型ゴムクローラを四輪に装着した車両Dで、半径15mm、時速25kmで旋回走行試験を実施し、走行10分毎に突起頂部から30mmの所(L1mm)の長さ(L2mm)を実測し、(L1−L2mm)を側面摩耗幅とし、これらの結果を表2に示した。
【0052】
比較例1
樹脂部材を設けず、ゴム材料のみの突起としたものについて、実施例1と同様に側面摩耗幅を評価し、結果を表2に示した。また、このとき、走行10分毎に突起の側面温度を測定し、結果を表2に併記した。
【0053】
比較例2〜4
樹脂部材を表2に示す樹脂で構成したこと以外は実施例1と同様に側面摩耗幅を評価し、結果を表2に示した。
【0054】
【表2】
【0055】
表2より次のことが明らかである。
樹脂部材を用いない比較例1にあっては走行試験開始10分後にすでに摩耗が始まり、60分後には幅17mmの摩耗となっている。また、超高分子量ポリエチレン製樹脂部材を用いた比較例2にあっては、走行試験開始後30分で樹脂部材が軟化し、更に摩耗の発生が確認され、走行試験開始60分後には11.8mmの摩耗量であった。また、ポリプロピレン製樹脂部材を用いた比較例3にあっては、走行試験開始後40分で樹脂部材が軟化し、更に摩耗の発生が確認され、走行試験開始60分後には9.2mmの摩耗が見られた。
【0056】
これに対して、本発明例であるポリケトン樹脂製樹脂部材を用いた実施例1にあっては、6−ナイロン製樹脂部材を用いた比較例4と同様に走行試験開始後60分後にあっても用いられた樹脂に軟化の発生は見られず、また、摩耗の発生もなかった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明のゴムクローラの実施の形態を示す突起部分の斜視図である。
【図2】図1の突起部分の側面図である。
【図3】本発明のゴムクローラの他の実施の形態を示す突起部分の斜視図である。
【図4】本発明のゴムクローラの別の実施の形態を示す突起部分の斜視図である。
【図5】図4の突起部分の側面図である。
【図6】本発明のゴムクローラの別の実施の形態を示す突起部分の斜視図である。
【図7】本発明のゴムクローラの別の実施の形態を示すゴムクローラ内周面の平面図である。
【図8】図7のA−A線に沿う断面図である。
【図9】図7のB−B線に沿う断面図である。
【図10】本発明のゴムクローラの別の実施の形態を示すゴムクローラ内周面の平面図である。
【図11】図10のゴムクローラの外周面の平面図である。
【図12】図10のC−C線に沿う断面図である。
【図13】図10,11のD−D線に沿う断面図である。
【図14】従来の一対の突起におけるゴムクローラの内周面を示す平面図である。
【図15】従来の一本突起におけるゴムクローラの内周面を示す平面図である。
【符号の説明】
【0058】
1 ゴム製本体
2A,2B,2C,2D,2E 突起
31,32,33,34,35 樹脂部材
4,5 突起の側面
6 突起の頂面
7,8 突起の前後面
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行部に使用されるゴムクローラに関するものであって、特に、ゴムクローラの内周面より突出する突起の改良に係るものである。
【背景技術】
【0002】
車両の走行部に使用されるゴムクローラの内周面には、その長手方向に沿って、スプロケットからの駆動力の伝達、或いは転輪との外れ防止のための突起が整列状に形成されている。特に、転輪との間の外れ防止にあっては、ゴムクローラが横方向(幅方向)の力を受け、転輪との間に相対的にズレを生じた場合、転輪と突起との間で接触・衝突が繰り返され、転輪のズレを元の状態に戻そうとする。なお、このときに、突起に摩擦力が加えられ、転輪との間で脱輪が生じ、更には摩耗や破損が生じることがある。
【0003】
図14,図15は、かかる状態を示すゴムクローラの内周面の平面図であって、図14では、無端状ゴム弾性体11よりなるゴムクローラ本体の内周面より突起12、12が対になって二列に形成されている。転輪20は通常はこの突起12、12を跨いで転動するが、ゴムクローラ10と転輪20との間で相互にズレが生じた場合には、転輪20は点線で示す(一方のみを示す)ように突起12、12と接触・衝突し、転輪20のズレを規制して元の転動面に戻そうとする。このため、突起12、12の特に外側面に摩擦力が大きく加えられ、転輪20との間で脱輪が発生し易く、場合によっては、突起12,12の摩耗や破損が生じることとなる。
【0004】
一方、図15は、無端状ゴム弾性体11よりなるゴムクローラ本体の内周面に突起12を一列に形成した場合を示すものであるが、この場合も、転輪20が正規の転動位置よりズレた場合には、転輪20と突起12が点線で示すように接触・衝突を繰り返してズレを防止することとなり、図14の場合と同様に転輪20との間で脱輪が発生し易く、場合によっては、突起12の摩耗や破損が生じることとなる。また、かかる突起12は、図示しないスプロケットと係合し、駆動力の伝達に供される際に、スプロケットピンと突起12とは常に擦れを生じており、このため、突起12の特に根元部に変形が加えられ、このため転輪20との間で脱輪が発生し易いばかりでなく、この部分に摩耗や破損を生じ易い。特に突起12がゴムでできている場合にこの傾向が大きい。
【0005】
更に、この転輪20と突起12との接触・衝突時には、大きな走行抵抗が、生じエネルギ−のロスをもきたしていた。
【0006】
また、このようなゴムクローラの突起には、走行時の摩擦によって生じる昇温の問題もある。即ち、例えば、このような突起駆動型ゴムクローラを4輪に装着した車両を用い、半径15mm、時速25kmで旋回走行試験を実施し、走行時間10分毎に突起表面の温度を測定すると、後述の比較例1に示されるように、走行時間40分後に180℃以上まで突起の温度は昇温する。
【0007】
このような問題を解決し、転輪との間での脱輪の発生を防止すると共に、突起を摩耗・変形・破損等から保護し、更には、走行時に摩擦によって生じる突起の表面の昇温に対する耐久性をも高めたゴムクローラとして、本出願人は先に突起の他部材との接触面に樹脂部材を露出させたゴムクローラを提案した(特許文献1,2,3)。特許文献1では、この樹脂部材は、低摩擦性能を有する耐熱性熱硬化性樹脂よりなり、特許文献2では低摩擦性能を有する耐熱性熱硬化性樹脂よりなり、特許文献3ではバーコール硬度(A型)が40度以下の樹脂よりなる。
【特許文献1】特開平9−301229号公報
【特許文献2】特開平9−301232号公報
【特許文献3】特開平10−53171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜3のように、樹脂部材を設けることにより、樹脂部材の突起部の耐久性が高められ、また転輪との間の脱輪の発生も防止されるが、更なる効果の向上と、工業製品としての更なる材料の多様性が求められているのが実状である。
【0009】
従って、本発明は、特許文献1〜3とは異なる樹脂材料を用いて、転輪との間での脱輪の発生、突起の摩耗・変形・破損等の問題を抑制し、また走行時に摩擦によって生じる突起の表面の昇温に対する耐久性にも優れたゴムクローラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明(請求項1)のゴムクローラは、無端状ゴム弾性体の外周面にゴムラグを形成し、内周面に駆動力の伝達或いは転輪との外れ防止に供される突起を形成してなるゴムクローラにおいて、樹脂部材を、該突起における他部材との接触面に該樹脂部材が露出するように該突起本体部と一体的に設けたゴムクローラであって、該樹脂部材がポリケトン樹脂で構成されることを特徴とする。
【0011】
請求項2のゴムクローラは、請求項1において、前記突起本体はゴム製であり、前記樹脂部材をゴムクローラを形成する金型内にセットし、次いで未加硫ゴム材料を充填して加硫成形することにより該樹脂部材を突起本体部と一体成形してなることを特徴とする。
【0012】
請求項3のゴムクローラは、請求項1又は2において、前記ポリケトン樹脂が下記一般式(I)で表されるポリケトン樹脂であることを特徴とする。
【化2】
((I)式中、Rはエチレン性不飽和化合物由来の連結基であり、各繰り返し単位において、同一であっても異なっていても良い。)
【0013】
請求項4のゴムクローラは、請求項3において、前記一般式(I)におけるRがエチレン由来の連結基であることを特徴とする。
【0014】
請求項5のゴムクローラは、請求項3又は4において、前記ポリケトン樹脂の重合度が、m−クレゾール中、60℃で測定した溶液粘度が1.0〜10.0dL/gの範囲にある重合度であることを特徴とする。
【0015】
請求項6のゴムクローラは、請求項1ないし5のいずれか1項において、前記突起の全体積に占める前記樹脂部材の体積の割合が5〜60%であることを特徴とする。
【0016】
請求項7のゴムクローラは、請求項1ないし6のいずれか1項において、前記突起における他部材との接触面の合計面積に対する突起の露出面積の合計の割合が10〜60%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
ポリケトン樹脂は、耐熱性、耐摩耗性、耐衝撃性に優れることから、このようなポリケトン樹脂よりなる樹脂部材を、突起における他部材との接触面に露出させることにより、転輪とのズレによる接触・衝突が生じた場合でも、突起の摩耗や破損が防止され、更に走行抵抗も減少することとなり、また、昇温による熱劣化も防止されることから、ゴムクロ−ラの寿命は著しく向上する。従って、本発明によれば、ゴムクローラ装着車両の耐久性の向上にも大きく寄与するゴムクローラが提供される。
【0018】
本発明において、突起本体はゴム製であり、樹脂部材をゴムクローラを形成する金型内にセットし、次いで未加硫ゴム材料を充填して加硫成形することにより樹脂部材を突起本体部と一体成形してなることが好ましい(請求項2)。
【0019】
本発明で用いるポリケトン樹脂は、下記一般式(I)で表されるポリケトン樹脂であることが好ましく(請求項3)、この一般式(I)におけるRがエチレン由来の連結基であり(請求項4)、ポリケトン樹脂の重合度は、m−クレゾール中、60℃で測定した溶液粘度が1.0〜10.0dL/gの範囲にある重合度であることが好ましい(請求項5)。
【0020】
【化3】
((I)式中、Rはエチレン性不飽和化合物由来の連結基であり、各繰り返し単位において、同一であっても異なっていても良い。)
【0021】
また、突起の全体積に占める前記樹脂部材の体積の割合は5〜60%であることが好ましく(請求項6)、突起における他部材との接触面の合計面積に対する突起の露出面積の合計の割合は10〜60%であることが好ましい(請求項7)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明のゴムクローラの実施の形態を詳細に説明する。
まず、本発明のゴムクローラの突起に設けられる樹脂部材を構成するポリケトン樹脂について説明する。
【0023】
本発明で用いるポリケトン樹脂としては、下記一般式(I)で表されるポリケトン樹脂が好ましい。
【化4】
((I)式中、Rはエチレン性不飽和化合物由来の連結基であり、各繰り返し単位において、同一であっても異なっていても良い。)
【0024】
上記ポリケトンは、分子中にCO単位(カルボニル基)とエチレン性不飽和化合物由来の単位とが配列された交互共重合体、即ち、高分子鎖中で各CO単位の隣に、例えばエチレン単位等のオレフィン単位が一つずつ位置する構造である。このポリケトンは、一酸化炭素と特定のエチレン性不飽和化合物の1種との共重合体であってもよく、一酸化炭素とエチレン性不飽和化合物の2種以上との共重合体であってもよい。
【0025】
上記(I)中のRを形成するエチレン性不飽和化合物としては、エチレン,プロピレン,ブテン,ペンテン,ヘキセン,ヘプテン,オクテン,ノネン,デセン,ドデセン,スチレン等の不飽和炭化水素化合物、メチルアクリレート,メチルメタクリレート,ビニルアセテート,ウンデセン酸等の不飽和カルボン酸又はその誘導体、更にはウンデセノール,6−クロロヘキセン,N−ビニルピロリドン,及びスルニルホスホン酸のジエチルエステル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、特にポリマーの力学特性や耐熱性等の点から、エチレン性不飽和化合物としてエチレンを主体とするものを用いたポリケトンが好ましい。
【0026】
ポリケトンを構成するエチレン性不飽和化合物として、エチレンと他のエチレン性不飽和化合物とを併用する場合、エチレンは、全エチレン性不飽和化合物に対し、80モル%以上になるように用いるのが好ましい。この割合が80モル%未満では得られるポリマーの融点が200℃以下になり、得られるポリケトン樹脂の耐熱性が不充分となる場合がある。ポリケトン樹脂の力学特性や耐熱性の点から、エチレンの使用量は、特に全エチレン性不飽和化合物に対し90モル%以上が好ましい。
【0027】
前記のポリケトンは、公知の方法、例えばヨーロッパ特許公開第121965号,同第213671号,同第229408号及び米国特許第3914391号明細書に記載された方法に従って製造することができる。
【0028】
上記ポリケトンの重合度は、m−クレゾール中、60℃で測定した溶液粘度が1.0〜10.0dL/gの範囲にあるのが好ましい。溶液粘度が1.0dL/g未満では、得られるポリケトン樹脂の力学強度やガスバリア性が不充分となる場合があり、ポリケトン樹脂の力学強度やガスバリア性の観点から、溶液粘度が1.2dL/g以上であるのが更に好ましい。一方、溶液粘度が10.0dL/gを超えると、柔軟性が不良となる場合があり、柔軟性の観点から、溶液粘度が5.0dL/g以下であるのが更に好ましい。ポリケトン樹脂の力学強度、ガスバリア性及び柔軟性などを考慮すると、この溶液粘度は1.3〜4.0dL/gの範囲が特に好ましい。
【0029】
本発明において、ポリケトン樹脂は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0030】
本発明において、突起に設けられる樹脂部材は、ポリケトン樹脂のみで構成されるものであっても良いが、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルフォン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミドビスマレイミド、ポリオキシベンジレン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリエチレンテレフタレート等の他の樹脂の1種又は2種以上との複合樹脂で構成されるものであっても良い。また、樹脂部材は、ガラス繊維、ケブラー繊維、パルプ、綿等の1種又は2種以上の補強繊維で強化されたものであっても良い。
【0031】
樹脂部材の形状としては、棒状体(円柱状、角柱状)、板状体、筒状体(円柱状、角柱状)、盤状体、ダンベル状体等、任意の形状を採用し得る。
【0032】
以下、図面を参照して、突起部分にこのような樹脂部材を一体的に設けた本発明のゴムクローラの具体的な構成を説明する。
【0033】
図1は本発明のゴムクローラの一例を示す突起2A近傍の斜視図であり、図2はその側面図である。
【0034】
この突起2Aは、ゴムクローラを構成するゴム製本体1の内周面より30mmの高さ(H)を有し、ゴムクローラの幅方向の長さ(L1)が60mm、ゴムクローラの長手方向における頂部の長さ(L2)が25mm、基部の長さ(L3)が55mmである。そして突起2Aの左右側面4、5と前後面7、8は所望の斜視角をもって構成される。この突起2には、直径20mmの断面円形の棒状体31をゴムクローラの幅方向に沿って埋設されている。この棒状体31はポリケトン樹脂製であり、その両端面311、312は突起2Aの左右側面4、5に露呈している。
【0035】
棒状の樹脂部材31を突起2A中に埋設するには突起2Aを形成する凹部を備えた金型を用い、この凹部内に樹脂部材31を予め嵌め込み、この状態を維持しつつゴムクローラの基体を構成する未加硫のゴム材料を金型内に充填した後、加硫成形すれば良い。これにより、ゴム材料の加硫時の接着力によって突起本体と樹脂部材31とは加硫接着されて一体化される。なお、場合によってはフェノ−ル系、エポキシ系、ゴム系等の接着剤の1種又は2種以上を用いて加硫接着しても良い。
【0036】
このゴムクローラでは、突起2Aの両側面4、5に棒状樹脂部材31の両端面311、312が露出しており、転輪や図示しないアイドラ−、スプロケット等との接触・衝突時に樹脂部材31の両端面311、312がこれらと接触するため、棒状樹脂部材31を構成するポリケトン樹脂の優れた特性により転輪との間での脱輪が減少し、また、摩耗や破損が少なく、走行抵抗も著しく低下すると共に、走行時の昇温にも十分に耐え得るものとなる。
【0037】
図3は、本発明のゴムクローラの別の例を示す突起2Bの斜視図であり、直径20mm、厚さ5mmの円盤状のポリケトン樹脂製樹脂部材32,32を突起2Bの側面4、5にそれぞれ一方の面が露呈するように埋設したものである。この樹脂部材32,32もまた、図1,2の樹脂部材31と同様に金型の凹部内に予めこれをセットした後未加硫ゴムを金型内に充填して加硫成形することにより、一体成形することができる。
【0038】
図4は、本発明のゴムクローラの別の例を示す突起2C部の斜視図であり、図5はその側面図である。
【0039】
この例にあっては、平板状のポリケトン樹脂製樹脂部材33を突起2Cの幅方向の中央に埋設したものであって、その両端面331、332が突起2Cの左右側面4、5に露呈したものである。樹脂部材33の厚さは10mmであり、その上端面が突起2Cの頂部を形成している。なお、この例では突起2Cは前後面7、8が2段傾斜面とされている。かかる突起2Cの概形はゴムクローラの長手方向の頂面の幅が10mm、基底部の幅60mm、そして高さ(H)40mm、頂部より15mmの位置で前後面7、8にて折曲部9が形成されている。この樹脂部材33もまた図1〜3の樹脂部材31,32,33と同様に金型の凹部内に予めこれをセットした後未加硫ゴムを金型内に充填して加硫成形することにより、一体成形することができる。
【0040】
なお、これらの各例にあって、突起2A,2B,2Cの表面を別の補強材で保護してもよく、図6は、この場合の一例を示す斜視図であり、ゴムクローラの長手方向に連続又は不連続の補強帆布10でゴムクローラの内周面及びその突起2Aの表面を覆うようにしたものである。この帆布10は捲縮性、非捲縮性のいずれのものでもよく、このような帆布は、これを金型内に予めセットし、ゴム材料との間で加硫接着させることにより、一体成形にて取り付けることができる。図6において、その他の符号は図1におけると同様である。
【0041】
図7は、本発明の更に別の例のゴムクローラの内周面を示す平面図であり、図8は図7のA−A線での断面図、図9は図7のB−B線での断面図である。この例にあっては、十文字状に形成されたポリケトン樹脂製の樹脂部材34が突起2D内に一体的に設けられており、突起2Dの両側面4、5、前後面7、8に、かかる樹脂部材34の表面が露出している。更に、突起2Dの頂面6にも樹脂部材34が露出していても良い。このように構成された突起2Dにあっては、転輪との接触・衝突における場合と同様、スプロケットとの接触の際の突起2Dの摩耗や破損の防止にも効果があることとなる。この樹脂部材34は、4つに分割されたものであっても良い。この樹脂部材34もまた金型の凹部内に予めこれをセットした後未加硫ゴムを金型内に充填して加硫成形することにより、一体成形することができる。
【0042】
図10〜図13は本発明の更に別の例を示すものであり、図10はゴムクローラの内周面における平面図、図11は外周面における平面図、図12は図10のC−C線での断面図、図13は図10,11のD−D線での断面図を示す。かかる例にあっては、突起2Eにおけるゴムクローラの長手方向に山形にポリケトン樹脂製の樹脂部材35が配置され、これによって、転輪との擦れと、駆動ピンとの擦れに対して極めて大きな効果を発揮することになる。
【0043】
なお、この樹脂部材35はゴムクローラの他の部分にも適用可能であり、例えば、ゴムクローラの内周面における転輪の転動面にこれを適用することができ、更には一対の突起間にこれを用いることも可能である。また、場合によっては、この樹脂部材35をスプロケット側に採用することも可能である。
【0044】
なお、本発明において、突起に占める樹脂部材の体積割合が過度に大きいと樹脂を被覆しているゴムの破壊、摩耗が早期に起こり、逆に過度に小さいと樹脂部材を設けることによる本発明の効果を十分に得ることができない。また、突起の他部材との接触面に露出する樹脂部材の露出面積が過度に小さいと、樹脂部材をこの面に露出させることによる本発明の効果を十分に得ることができず、逆に過度に大きいと樹脂を被覆しているゴムの早期破壊につながる。
【0045】
従って、突起の全体積に占める樹脂部材の体積の割合(以下、単に「樹脂部材の体積割合」と称す。)は5〜60%であることが好ましく、突起の他部材との接触面(通常、この接触面はゴムクローラに対し突起の幅方向面及び周長方向面であり、樹脂露出面は幅方向面である。)の合計面積に対する突起の露出面積の合計の割合(以下、単に「樹脂部材の面積割合」と称す。)は10〜60%であることが好ましい。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
実施例1
ポリケトン樹脂により、直径20mmの棒状の樹脂部材を作製し、これを図1,2に示す如く、突起2A内に埋設したゴムクローラを作製した。突起2Aを構成するゴム材料は表1に示す配合によった。この配合によって得られたゴム性状は、Hd:82度、M300:130kgf/cm2、Tb:190kgf/cm2、Eb:430%であった。
【0048】
【表1】
【0049】
また、ポリケトン樹脂としては、前記一般式(I)において、Rがエチレンで、m−クレゾール中、60℃で測定した溶液粘度が4.0dL/gを示す重合度のポリケトン樹脂を用いた。
【0050】
樹脂部材の体積割合は10%で樹脂部材の面積割合は14%であった。
【0051】
得られた突起駆動型ゴムクローラを四輪に装着した車両Dで、半径15mm、時速25kmで旋回走行試験を実施し、走行10分毎に突起頂部から30mmの所(L1mm)の長さ(L2mm)を実測し、(L1−L2mm)を側面摩耗幅とし、これらの結果を表2に示した。
【0052】
比較例1
樹脂部材を設けず、ゴム材料のみの突起としたものについて、実施例1と同様に側面摩耗幅を評価し、結果を表2に示した。また、このとき、走行10分毎に突起の側面温度を測定し、結果を表2に併記した。
【0053】
比較例2〜4
樹脂部材を表2に示す樹脂で構成したこと以外は実施例1と同様に側面摩耗幅を評価し、結果を表2に示した。
【0054】
【表2】
【0055】
表2より次のことが明らかである。
樹脂部材を用いない比較例1にあっては走行試験開始10分後にすでに摩耗が始まり、60分後には幅17mmの摩耗となっている。また、超高分子量ポリエチレン製樹脂部材を用いた比較例2にあっては、走行試験開始後30分で樹脂部材が軟化し、更に摩耗の発生が確認され、走行試験開始60分後には11.8mmの摩耗量であった。また、ポリプロピレン製樹脂部材を用いた比較例3にあっては、走行試験開始後40分で樹脂部材が軟化し、更に摩耗の発生が確認され、走行試験開始60分後には9.2mmの摩耗が見られた。
【0056】
これに対して、本発明例であるポリケトン樹脂製樹脂部材を用いた実施例1にあっては、6−ナイロン製樹脂部材を用いた比較例4と同様に走行試験開始後60分後にあっても用いられた樹脂に軟化の発生は見られず、また、摩耗の発生もなかった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明のゴムクローラの実施の形態を示す突起部分の斜視図である。
【図2】図1の突起部分の側面図である。
【図3】本発明のゴムクローラの他の実施の形態を示す突起部分の斜視図である。
【図4】本発明のゴムクローラの別の実施の形態を示す突起部分の斜視図である。
【図5】図4の突起部分の側面図である。
【図6】本発明のゴムクローラの別の実施の形態を示す突起部分の斜視図である。
【図7】本発明のゴムクローラの別の実施の形態を示すゴムクローラ内周面の平面図である。
【図8】図7のA−A線に沿う断面図である。
【図9】図7のB−B線に沿う断面図である。
【図10】本発明のゴムクローラの別の実施の形態を示すゴムクローラ内周面の平面図である。
【図11】図10のゴムクローラの外周面の平面図である。
【図12】図10のC−C線に沿う断面図である。
【図13】図10,11のD−D線に沿う断面図である。
【図14】従来の一対の突起におけるゴムクローラの内周面を示す平面図である。
【図15】従来の一本突起におけるゴムクローラの内周面を示す平面図である。
【符号の説明】
【0058】
1 ゴム製本体
2A,2B,2C,2D,2E 突起
31,32,33,34,35 樹脂部材
4,5 突起の側面
6 突起の頂面
7,8 突起の前後面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状ゴム弾性体の外周面にゴムラグを形成し、内周面に駆動力の伝達或いは転輪との外れ防止に供される突起を形成してなるゴムクローラにおいて、樹脂部材を、該突起における他部材との接触面に該樹脂部材が露出するように該突起本体部と一体的に設けたゴムクローラであって、該樹脂部材がポリケトン樹脂で構成されることを特徴とするゴムクローラ。
【請求項2】
請求項1において、前記突起本体はゴム製であり、前記樹脂部材をゴムクローラを形成する金型内にセットし、次いで未加硫ゴム材料を充填して加硫成形することにより該樹脂部材を突起本体部と一体成形してなることを特徴とするゴムクローラ。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記ポリケトン樹脂が下記一般式(I)で表されるポリケトン樹脂であることを特徴とするゴムクローラ。
【化1】
((I)式中、Rはエチレン性不飽和化合物由来の連結基であり、各繰り返し単位において、同一であっても異なっていても良い。)
【請求項4】
請求項3において、前記一般式(I)におけるRがエチレン由来の連結基であることを特徴とするゴムクローラ。
【請求項5】
請求項3又は4において、前記ポリケトン樹脂の重合度が、m−クレゾール中、60℃で測定した溶液粘度が1.0〜10.0dL/gの範囲にある重合度であることを特徴とするゴムクローラ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記突起の全体積に占める前記樹脂部材の体積の割合が5〜60%であることを特徴とするゴムクローラ。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記突起における他部材との接触面の合計面積に対する突起の露出面積の合計の割合が10〜60%であることを特徴とするゴムクローラ。
【請求項1】
無端状ゴム弾性体の外周面にゴムラグを形成し、内周面に駆動力の伝達或いは転輪との外れ防止に供される突起を形成してなるゴムクローラにおいて、樹脂部材を、該突起における他部材との接触面に該樹脂部材が露出するように該突起本体部と一体的に設けたゴムクローラであって、該樹脂部材がポリケトン樹脂で構成されることを特徴とするゴムクローラ。
【請求項2】
請求項1において、前記突起本体はゴム製であり、前記樹脂部材をゴムクローラを形成する金型内にセットし、次いで未加硫ゴム材料を充填して加硫成形することにより該樹脂部材を突起本体部と一体成形してなることを特徴とするゴムクローラ。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記ポリケトン樹脂が下記一般式(I)で表されるポリケトン樹脂であることを特徴とするゴムクローラ。
【化1】
((I)式中、Rはエチレン性不飽和化合物由来の連結基であり、各繰り返し単位において、同一であっても異なっていても良い。)
【請求項4】
請求項3において、前記一般式(I)におけるRがエチレン由来の連結基であることを特徴とするゴムクローラ。
【請求項5】
請求項3又は4において、前記ポリケトン樹脂の重合度が、m−クレゾール中、60℃で測定した溶液粘度が1.0〜10.0dL/gの範囲にある重合度であることを特徴とするゴムクローラ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記突起の全体積に占める前記樹脂部材の体積の割合が5〜60%であることを特徴とするゴムクローラ。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記突起における他部材との接触面の合計面積に対する突起の露出面積の合計の割合が10〜60%であることを特徴とするゴムクローラ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2007−210447(P2007−210447A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−32414(P2006−32414)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]