説明

ゴムシート部材に付着した防着剤の除去方法および装置

【課題】効率よくゴムシート部材に付着した防着剤を除去できる防着剤の除去方法および装置を提供する。
【解決手段】防着剤が付着したゴムシート部材Rを搬送ローラ3によって長手方向に搬送し、表面全体が水槽2に貯留された水Wに浸かるように水中を通過させて、防着剤を水Wによってゴムシート部材Rの表面から剥離させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、効率よくゴムシート部材に付着した防着剤を除去することができる防着剤の除去方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
混合機等により混練された後、シーティングされたゴムシート部材は、未加硫ゴムなので折り重ねて一時保管等する際に、接触した部分どうしが強固に付着するため、防着液を塗布して防着剤が付着した状態にしている。防着剤の付着量が多いゴムシート部材を使用すると、加硫した際に、ゴム物性が低下しスチールワイヤとの接着が悪くなる等の不具合が生じる。そのため、防着剤が付着したゴムシート部材を使用する際には、できるだけ事前に防着剤を除去している。
【0003】
従来、防着剤を除去する方法としては、未加硫のゴムホースの表面に付着した防着剤(離型剤)を、蒸気と水との混合液を高圧で噴射することにより除去する方法が提案されている。しかしながら、ゴムシート部材は、ホースに比べて表面積が大きいため、水分を高圧噴射して防着剤を除去しようとすると処理時間が長くなり、効率よく防着剤を除去することが困難であった。
【0004】
さらに、広範囲に噴射ノズルを移動させながら処理を行なうので、防着剤の除去残りが多くなるという問題があった。除去した防着剤は再使用することができるが、ゴムシート部材から除去できずに付着したままになる防着剤が多い程、再使用できる防着剤の量が少なくなるので、新たな防着剤がより多く必要になりコスト負担が増大するという問題もあった。未加硫ゴムどうしが付着し易い夏場においては、防着剤の付着量を増加させるために、防着剤の使用量が増える。そのため、高価な防着剤を使用する必要があるゴムの場合には、一段と大きなコスト負担が生じていた。
【特許文献1】特開2004−344730公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の主な目的は、効率よくゴムシート部材に付着した防着剤を除去することができる防着剤の除去方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明のゴムシート部材に付着した防着剤の除去方法は、防着剤が付着したゴムシート部材を長手方向に搬送して、表面全体が水に浸かるように水中を通過させて水によって防着剤をゴムシート部材の表面から剥離させることを特徴とするものである。
【0007】
ここで、前記ゴムシート部材が通過する水に超音波振動を与えることもできる。水中の前記ゴムシート部材の表面にブラシ体を接触させることもできる。前記ゴムシート部材が通過する水を攪拌して水流を生じさせることもできる。また、前記ゴムシート部材の表面から剥離した防着剤を含んだ防着液を回収して、防着剤の再利用工程に送るようにすることもできる。
【0008】
本発明のゴムシート部材に付着した防着剤の除去装置は、防着剤が付着したゴムシート部材を長手方向に搬送する搬送手段と、ゴムシート部材が内部を通過する水槽とを備え、前記ゴムシート部材が水槽の内部を通過する際に、ゴムシート部材の表面全体が水槽に貯留した水に浸かるように構成したことを特徴とするものである。
【0009】
ここで、前記水槽に貯留した水を振動させる超音波振動手段を設けることもできる。前記水槽の内部に、ゴムシート部材の表面に接触するブラシ体を設けることもできる。前記水槽に貯留した水を攪拌する攪拌手段を設けることもできる。また、前記水槽を配管を介して防着液作製タンクに接続することもできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、防着剤が付着したゴムシート部材を長手方向に搬送して、表面全体が水に浸かるように水中を通過させて水によって防着剤をゴムシート部材の表面から剥離させるので、表面積が大きいゴムシート部材であっても、処理時間の増大を抑えつつ、より多くの防着剤を除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明のゴムシート部材に付着した防着剤の除去方法および装置を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0012】
図1に例示するように、防着剤が付着した帯状のゴムシート部材Rは、折り畳んで積層された状態でストックされている。このゴムシート部材Rは、長手方向に搬送されて、本発明のゴムシート部材に付着した防着剤の除去装置1(以下、除去装置1という)が設置された防着剤の除去工程を通過した後、乾燥装置12が配置された乾燥工程を経て、後処理工程に搬送される。この実施形態では、後処理工程は押出し機14による押出し工程になっているが、これに限定されず、混練工程等の場合もある。防着剤は、未加硫ゴムどうしの付着を防止する公知のものである。
【0013】
図1、図2に例示するように除去装置1は、水温調整手段8を備えた水槽2と、防着剤が付着したゴムシート部材Rを長手方向に搬送する搬送ローラ3(搬送手段)を有している。水槽2の内部には超音波振動子4a、攪拌手段5、回転ブラシ6が設けられている。防着剤が付着したゴムシート部材Rは、搬送ローラ3の他に複数の支持ローラに掛け渡されて、表面全体が水槽2に貯留された水Wに浸かって通過するように構成されている。
【0014】
また、水槽2の上方には、給水管7が設けられている。給水管7の先端は、水槽2の中に搬送されるゴムシート部材Rの上に位置している。水槽2の下方にはポンプ10を備えた配管11aが接続され、この配管11aは防着液作製タンク9に接続されている。防着液作製タンク9にはさらに別の配管11bが接続されている。この配管11bは例えば、防着液Lの塗布工程に設置されたディップ槽に接続されている。この塗布工程は防着剤の再利用工程となる。
【0015】
水温調整手段8は、水槽2の底面に設置された加温体8aと制御装置8bとで構成されている。制御装置8bによって水槽2の中の水温を任意の温度に設定、維持することができる。
【0016】
超音波振動子4aは、制御装置4bとともに超音波振動手段を構成している。超音波振動子4aによって発生する振動周波数、振幅(出力の大きさ)は、制御装置4bによってコントロールすることができる。
【0017】
超音波振動子4aの設置数は、実施形態のように2つに限定されず、適切な数を設置することができる。また、超音波振動子4aの設置位置は、できるだけゴムシート部材Rの近くにすることが好ましい。
【0018】
攪拌手段5は、水槽2の中の水Wを攪拌できるものであればよく、この実施形態では、スクリューが攪拌手段5として設置されている。攪拌手段5の数や設置位置は適宜決定することができるが、攪拌手段5により発生した水流ができるだけ強くゴムシート部材Rに当るようにすることが好ましい。
【0019】
回転ブラシ6は、水中のゴムシート部材Rを厚さ方向に挟むように対向して設置されている。回転ブラシ6はゴムシート部材Rの表面に接触しながら回転する。回転ブラシ6の回転数は図示しない制御装置によりコントロールすることができ、回転方向(正回転、逆回転)も任意にコントロールすることができる。回転ブラシ6の数は適宜決定することができるが、設置位置は水中にする。
【0020】
この実施形態では、回転ブラシ6を設けているが、水中のゴムシート部材Rに接触するブラシ体であればよく、非回転の固定ブラシを用いることもできる。尚、本発明のブラシ体とは、ゴムシート部材Rの表面に接触することにより、付着している防着剤を引き剥がすことができるものであり、ブラシ相当物を含むものである。
【0021】
次に、本発明のゴムシート部材Rに付着した防着剤の除去方法を説明する。
【0022】
まず、防着剤が付着した帯状のゴムシート部材Rが、搬送ローラ3によって長手方向に搬送されて水槽2の水Wの中に進入する。即ち、ゴムシート部材Rの表面全体は水槽2に貯留された水に浸かり、いわゆるドブ漬け状態になる。ここで、ゴムシート部材Rの搬送を停止して、ゴムシート部材Rの所定範囲を一定時間水中に置いたままにする。ゴムシート部材Rを搬送し続けることもできるが、その場合は、なるべく搬送速度を遅くする。
【0023】
これにより、付着した防着剤が、水Wによってゴムシート部材Rの表面から剥離される。ゴムシート部材Rが水Wにドブ漬けされた状態になっているので、防着剤の除去残りが生じ難くなる。
【0024】
この実施形態では、水温調整手段8を設けているので、水槽2の中の水温を、防着剤がゴムシート部材Rから剥離し易い温度に設定する。例えば、水槽2の中の水温を5℃〜60℃程度にする。
【0025】
また、超音波振動子4aを作動させて水槽2の中の水Wに振動を与える。この超音波振動により、ゴムシート部材Rの表面の微細な凹凸に入り込んだ防着剤も浮き上がり、除去することが可能になる。最適な超音波振動子4aの振動周波数は、防着剤の付着状況等によって異なるが、例えば、20kHz〜50kHzにする。また、振動周波数は所定値に固定することもできるが変化させるようにしてもよい。
【0026】
また、回転ブラシ6を作動させてゴムシート部材Rの表面を引っかくようにして付着した防着剤を引き剥がす。回転ブラシ5の回転数は、適宜決定することができる。回転ブラシ6の回転数は、所定値に固定することもできるが変化させることもできる。また、回転ブラシ6の回転方向は、一定方向にすることもできるが、途中で回転方向を変えることもできる。回転方向を所定時間毎に変えることで、より効率的に防着剤を除去することができる。
【0027】
また、攪拌手段5を作動させて水槽2内に水流を生じさせる。これにより、ゴムシート部材Rには、順次、連続的に新たな水Wが衝突するので、付着した防着剤が剥離し易くなる。
【0028】
この実施形態では、超音波振動手段4、攪拌手段5、ブラシ体(回転ブラシ5)を設けているが、これら3つのうち、少なくとも1つを設けるようにする。これら3つのうち複数を組み合わせると相乗効果が得られるので、防着剤をより効率的に除去することが可能になる。
【0029】
例えば、水槽2に貯留した水Wに超音波振動を与えつつ、回転ブラシ6を作動させると、ゴムシート部材Rに付着した防着剤が除去できるだけでなく、剥離した防着剤が超音波振動によって回転ブラシ6にまとわり付かなくなるので、より一層効率的に防着剤を除去することが可能になる。
【0030】
防着剤が除去されたゴムシート部材Rは、除去装置1から乾燥装置12に送られる。乾燥装置12では、ゴムシート部材Rは、複数のラックバー13に掛け渡されて蛇行した状態で保持され、ファン等の送風によって水分が強制的に乾燥される。乾燥が完了したゴムシート部材Rは、乾燥装置12から後処理工程の押出し機14に搬送されて押出し材料として使用される。
【0031】
このように本発明によれば、ゴムシート部材Rの表面全体が水Wに浸かるので、表面積が大きなゴムシート部材Rであっても、防着剤を除去する処理時間の増大を抑制することができ、また、ゴムシート部材Rに付着した防着剤をより多く除去して、ゴムシート部材Rに付着したまま残る防着剤の量を削減することができる。したがって、このゴムシート部材Rを使用したゴムを加硫した際に、ゴム物性が低下してスチールワイヤとの接着が悪くなる等の不具合を防止することができる。
【0032】
このように効率よく防着剤を除去できるので、ゴムシート部材Rに付着していた防着剤がより多く水槽2の水Wの中に落される。水槽2の水Wに含まれる防着剤の量が多くなった際には、ポンプ10を稼働することにより防着液L(防着剤を含んだ水)が配管11aを通じて防着液作製タンク9に送られて回収される。
【0033】
防着液Lが防着液作製タンク9に送られると、水槽2の水Wが減少するので給水管7を通じて新たな水Wを水槽2の中に供給する。この際に、水槽2の水Wに浸かる前のゴムシート部材Rの表面に給水管7からの水Wを当てるようにすると、この水Wの水流によって付着した防着剤を剥離させることができる。
【0034】
防着液作製タンク9では、新たな水と防着剤とが混合されるとともに、水槽2から送られた防着液Lが加えられて、新たな防着液Lが作製される。防着液作製タンク9で作製された防着液Lは、例えば、防着液Lの塗布工程に設置されたディップ槽に送られる。そして、ディップ槽の防着液Lには、別のゴムシート部材Rがドブ漬けされる。
【0035】
本発明では、ゴムシート部材Rに付着した防着剤を従来に比して多く除去することができるので、防着剤の損失を最小限になり、再利用工程(塗布工程)において防着剤を有効に再利用することが可能になる。したがって、追加的に必要になる新たな防着剤の量が少なくて済み、高価な防着剤を使用する場合には、特に大きなコスト負担軽減効果を得ることができる。
【実施例】
【0036】
同じゴムシート部材で、防着剤が付着していないサンプル(参考例1)と、同程度に防着剤が付着したゴムシート部材に対して、防着剤の除去処理をしないサンプル(比較例1)と、図2に例示するような除去装置を使用して下記の防着剤の除去処理をしたサンプル(実施例1〜4)との6種類のサンプルについて、防着剤の残存付着量を測定するとともに、それぞれのサンプルを混練したゴムを用いて、ASTM D2229に準拠して引抜きサンプルを作製し、ワイヤー引抜き試験を行なった。その結果を表1に示す。
【0037】
実施例1は、ゴムシート部材を30秒の間、表面全体を水槽の中の水に浸ける処理を行なったものである。実施例2は、実施例1の処理に加えて、30秒の間、水槽の水に40kHzの超音波振動を与える処理を行なったものである。実施例3は、実施例1の処理に加えて、30秒の間、水槽の水を攪拌する処理を行なったものである。実施例4は、実施例1の処理に加えて、30秒の間、ゴムシート部材の両表面にまんべんなく回転ブラシを接触させる処理を行なったものである。
【0038】
表1中の残存付着量は、それぞれのサンプルの(防着剤重量/ゴム重量)の百分率で示している。表1中の引抜き力は、参考例1の測定結果を基準の100として指数表示したものであり、数値が大きい程、引抜き力が大きいことを示している。
【0039】
【表1】

【0040】
表1の結果より、ゴムシート部材の表面全体を水に浸けて、本発明の防着剤の除去処理を行なった実施例1〜4は、防着剤の除去処理をしない比較例1に比べて、防着剤の残存付着量が少なく、加硫した際のゴム物性(接着力)も優れていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】防着剤の除去工程および乾燥工程を例示する説明図である。
【図2】本発明の除去装置を例示する説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1 除去装置
2 水槽
3 搬送ローラ
4 超音波振動手段
4a 超音波振動子
4b 制御装置
5攪拌手段
6回転ブラシ
7給水管
8水温調整手段
8 加温体
8 制御装置
9防着液作製タンク
10 ポンプ
11a、11b 配管
12 乾燥装置
13 ラックバー
14 押出し機
R ゴムシート部材
L 防着液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防着剤が付着したゴムシート部材を長手方向に搬送して、表面全体が水に浸かるように水中を通過させて水によって防着剤をゴムシート部材の表面から剥離させるゴムシート部材に付着した防着剤の除去方法。
【請求項2】
前記ゴムシート部材が通過する水に超音波振動を与える請求項1に記載のゴムシート部材に付着した防着剤の除去方法。
【請求項3】
水中の前記ゴムシート部材の表面にブラシ体を接触させる請求項1または2に記載のゴムシート部材に付着した防着剤の除去方法。
【請求項4】
前記ゴムシート部材が通過する水を攪拌して水流を生じさせる請求項1〜3のいずれかに記載のゴムシート部材に付着した防着剤の除去方法。
【請求項5】
前記ゴムシート部材の表面から剥離した防着剤を含んだ防着液を回収して、防着剤の再利用工程に送るようにした請求項1〜4のいずれかに記載のゴムシート部材に付着した防着剤の除去方法。
【請求項6】
防着剤が付着したゴムシート部材を長手方向に搬送する搬送手段と、ゴムシート部材が内部を通過する水槽とを備え、前記ゴムシート部材が水槽の内部を通過する際に、ゴムシート部材の表面全体が水槽に貯留した水に浸かるように構成したゴムシート部材に付着した防着剤の除去装置。
【請求項7】
前記水槽に貯留した水を振動させる超音波振動手段を設けた請求項6に記載のゴムシート部材に付着した防着剤の除去装置。
【請求項8】
前記水槽の内部に、ゴムシート部材の表面に接触するブラシ体を設けた請求項6または7に記載のゴムシート部材に付着した防着剤の除去装置。
【請求項9】
前記水槽に貯留した水を攪拌する攪拌手段を設けた請求項6〜8のいずれかに記載のゴムシート部材に付着した防着剤の除去装置。
【請求項10】
前記水槽を配管を介して防着液作製タンクに接続した請求項6〜9のいずれかに記載のゴムシート部材に付着した防着剤の除去装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−115811(P2010−115811A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289233(P2008−289233)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】