説明

ゴムホース

【課題】補強層を撚り構造のスチールコードによって形成してホースの軽量化、柔軟化を図りつつ、ホース金具の加締め性能低下を抑制するゴムホースを提供する。
【解決手段】内面ゴム層と外面ゴム層5との間に、スチールコード6をスパイラル状に巻付けて形成した補強層3a、3b、或いは、スチールコード6を編組して形成した補強層3a、3bを備えたゴムホースにおいて、補強層3a、3bを形成するスチールコード6を、癖付けしていない複数本のコード素線7を撚り合わせた1×N構造にして、N=2〜4にするとともに、スチールコード6の外径Aに対するコード素線7の撚りピッチPの比率を示す撚り倍数(P/A)を15.0以上35.0以下にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムホースに関し、さらに詳しくは、補強層を撚り構造のスチールコードによって形成することにより、ホースの軽量化、柔軟化を図りつつ、ホース金具の加締め性能の低下を抑えることができるゴムホースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
油圧機器等の高圧流体を流通させるゴムホースでは、高い耐圧性を確保するために、内面ゴム層と外面ゴム層との間にスチールコードで形成された補強層を設けている。この補強層は、スチールコードをスパイラル状に巻付けて形成されるか、編組して形成されている。一般に、ゴムホースの補強層は、単線のスチールコードによって形成されている。
【0003】
一方、タイヤの補強層では、複数のコード素線を撚り合せた撚り構造のスチールコードが使用されている。撚り構造のスチールコードを用いた補強層をゴムホースに適用すると、ホースの軽量化や柔軟性を向上させることができる等の利点がある。しかしながら、撚り構造のスチールコードを用いると、ホース金具をホース端部に加締める際に、強固にホース金具を固定することができず、ホース金具の加締め性能に劣るという問題が生じる。
【0004】
例えば、ゴムホースの補強層として、予め癖付けしたコード素線、または、予め波付けしたコード素線を撚り合せた撚り構造のスチールコードを用いることが提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、このような撚り構造のスチールコードでは、撚り合わされたコード素線の間に隙間があるため、ホース金具の加締め性能が一段と低下する。ホース金具を確実に固定して金具抜けを防止することは、ゴムホースに求められる基本性能であるため、撚り構造のスチールコードによって形成された補強層を用いると多くの利点があるにも関わらず、用いることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−41361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、補強層を撚り構造のスチールコードによって形成することにより、ホースの軽量化、柔軟化を図りつつ、ホース金具の加締め性能の低下を抑えることができるゴムホースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明のゴムホースは、内面ゴム層と外面ゴム層との間に、スチールコードをスパイラル状に巻付けて形成した補強層、或いは、スチールコードを編組して形成した補強層を備えたゴムホースにおいて、前記補強層を形成するスチールコードが、癖付けしていない複数本のコード素線を撚り合わせた1×N構造であり、N=2〜4とするとともに、前記スチールコードの外径Aに対するコード素線の撚りピッチPの比率を示す撚り倍数(P/A)が15.0以上35.0以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のゴムホースによれば、補強層を撚り構造のスチールコードによって形成することにより、単線のスチールコードによって形成された補強層を用いた場合に比して、ホースの軽量化、柔軟化を図ることができる。一方で、撚り構造のスチールコードによって、補強層を形成することで低下し易くなるホース金具の加締め性能については、スチールコードを1×N構造でN=2〜4にするとともに、スチールコードの外径Aに対するコード素線の撚りピッチPの比率を示す撚り倍数(P/A)を15.0以上35.0以下にすることにより、性能低下を抑えることができる。このように、撚り構造のスチールコードによって形成された補強層を用いることによるメリットを活かしつつ、デメリットを抑制することが可能になる。
【0009】
また、前記補強層の外周側に単線のスチールコードによって形成した単線コード補強層を設けた仕様にすることもできる。この仕様によれば、ホース金具の加締め性能をさらに向上させることができる。
【0010】
前記癖付けしていないコード素線の素線径が、0.1mm以上0.4mm未満である仕様にすることもできる。この仕様によれば、ホース金具を加締める時のコード素線の破断を防止しつつ、ホースの曲げ剛性アップおよび重量アップを抑制することができる。
【0011】
前記癖付けしていないコード素線で構成されるスチールコードの外径が、0.2mm以上1.0mm未満である仕様にすることもできる。この仕様によれば、ホースの破壊圧の低下を防止しつつ、ホース外径の過大化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】スチールコードをスパイラル状に巻付けて形成した補強層を備えた本発明のゴムホースを例示する一部切欠き図である。
【図2】スチールコードを編組して形成した補強層を備えた本発明のゴムホースを例示する一部切欠き図である。
【図3】単線コード補強層を設けた本発明のゴムホースを例示する一部切欠き図である。
【図4】本発明で使用する撚り構造のスチールコードを例示する説明図である。
【図5】ホース金具を加締める前の撚り構造のスチールコードの状態を模式的に例示する拡大断面図である。
【図6】ホース金具を加締めた後の撚り構造のスチールコードの状態を模式的に例示する拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のゴムホースを図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0014】
本発明のゴムホース1は、図1に例示するように、内面ゴム層2の外側に順次、補強層3a、中間ゴム層4、補強層3b、外面ゴム層5が同軸状に積層されて構成されている。内面ゴム層2と外面ゴム層5との間に配置された補強層3a、3bは、スチールコード6を内側の構成部材の外周面にスパイラル状に巻付けて形成されている。それぞれの補強層3a、3bでは、スチールコード6の巻付け方向が反対になっている。補強層3a、3bは、図2に例示するようにスチールコード6を編組して形成されたものでもよい。
【0015】
本発明のゴムホース1は、高圧流体を流通させる高圧ホースであり、単層または複層の補強層を有している。補強層の層数は特に限定されるものではなく、主に要求耐圧性能に応じて設定される。スチールコード6をスパイラル状に巻付けて形成された補強層を設ける場合は、例えば4層〜6層程度であり、スチールコード6を編組して形成された補強層を設ける場合は、例えば1層〜2層程度である。
【0016】
それぞれの補強層3a、3bを形成するスチールコード6は、図4に例示するように、癖付けしていない直線状の2本のコード素線7を撚り合わせた1×2構造になっている。さらに、スチールコード6の外径Aに対するコード素線7の撚りピッチPの比率を示す撚り倍数(P/A)が15.0以上35.0以下に設定されている。
【0017】
互いのコード素線7は、隙間なく密着するように撚り合わされている。スチールコード6の外径Aは、例えば、0.20mm〜0.80mm程度であるので、コード素線7の素線径は、0.10mm〜0.40mm程度である。
【0018】
コード素線7の素線径が0.1mm未満であるとホース金具を加締める時にコード素線7が破断し易くなり、0.4mm以上であると補強層3a、3bの剛性が高くなってゴムホース1の曲げ剛性が大きくなるとともに、重量が増大する。そのため、コード素線7の素線径は0.1mm以上0.4mm未満が好ましい。
【0019】
また、スチールコード6の外径Aが0.2mm未満であると十分なコード強力を得難くなるためゴムホース1の破壊圧が低下し、1.0mm以上であるとゴムホース1の外径が過大になり、ホース金具を大型化する必要が生じる。そのため、スチールコード6の外径は0.2mm以上1.0mm未満が好ましい。
【0020】
実施形態では、内面ゴム層2と外面ゴム層5との間に配置されるすべての補強層3a、3bを形成するスチールコード6が、この1×2構造になっている。このようにすべての補強層3a、3bを、この1×2構造のスチールコード6によって形成することもできるが、図3に例示するように1×2構造のスチールコード6によって形成される補強層3a、3bの外周側に、単線のスチールコード6aによって形成された単線コード補強層3cを設けることもできる。このように最外周に単線コード補強層3cを配置することにより、ホース金具の加締め性能を向上させることができる。
【0021】
単線コード補強層3cは、単線のスチールコード6aをスパイラル状に巻付けて形成したもの、或いは、編組して形成したものを採用することができる。基本的には、補強層3a、3bがスパイラル構造であれば単線コード補強層3cもスパイラル構造とし、補強層3a、3bが編組構造であれば単線コード補強層3cも編組構造にして、補強層3a、3bと単線コード補強層3cとの構造を同じにする。
【0022】
ホース金具を加締める前のゴムホース1では、図5に例示するように、スチールコード6の撚り合わされたコード素線7どうしがランダムに並んだ状態になっている。
【0023】
次いで、図6に例示するようにゴムホース1の端部にホース金具8を外嵌して加締めると、補強層3bは外周側から内周側に向かって押圧される。スチールコード6の押圧された部分は、最も安定した状態になるように、撚り合わされている2本のコード素線7が、押圧力に対して直交する方向に並列するように移動する。
【0024】
ここで、この1×2構造のスチールコード6のコード素線7の撚り倍数(P/A)が15.0倍未満であると、ホース金具を加締めた際に、2本のコード素線7が押圧力に対して直交する方向に並列するように移動し難くなり、ホース金具の加締め性能が低下し易くなる。一方、撚り倍数(P/A)が35.0倍超であると、このスチールコード6をリール等に取った時にこの撚り構造を維持し難くなり、取扱いが難しくなる。或いは、ゴムホース1成型後、ホース端末部分のスチールコード6がばらけてホース金具の装着が困難になる。そのため、2本のコード素線7の撚り倍数(P/A)は15.0倍以上35.0倍以下にする。
【0025】
図6に例示するようにコード素線7が、最も安定した状態になってホース金具8が加締められるため、ホース金具8は強固にゴムホース1に固定されて抜けが防止される。このように本発明では、撚り構造のスチールコード6によって形成された補強層3a、3bを用いることにより、ホースの軽量化、柔軟化を図ることができるとともに、撚り構造のスチールコードを用いることで低下し易くなるホース金具8の加締め性能の低下を抑えることができる。
【0026】
上記実施形態では、癖付けしていないコード素線7を撚り合わせて形成した1×2構造のスチールコード6を例示したが、本発明では、これに限定されず、スチールコード6を、癖付けしていないコード素線7を撚り合わせた1×N構造であり、Nを2〜4にした仕様にすることができる。即ち、本発明では、スチールコード6について、1×2構造、1×3構造、1×4構造を採用することができる。
【0027】
5本以上のコード素線を撚り合わせた1×N構造のスチールコードを用いて補強層を形成した場合は、4本以下のコード素線を撚り合わせた場合に比して、スチールコートの芯部分に形成される空洞部分の面積割合が大きくなることから、加締め時にコード構造が崩れて、1本のスチールコード6を構成するコード素線間、もしくは、隣接するスチールコードのコード素線どうしの干渉が増加する。その結果、十分な加締め性能を得ることができなくなる。
【実施例】
【0028】
スチールコードをスパイラル状に巻付けて形成した補強層を、内面ゴム層と外面ゴム層との間に、中間ゴム層を介在させて4層設けたゴムホースを、ホース内径を同一にして、補強層を形成するスチールコードの仕様のみを表1のように異ならせた7種類(従来例、実施例1〜3、比較例1〜3)作製した。従来例では単線のスチールコード、実施例1、比較例1、2では癖付けしていない2本のコード素線を撚り合せたスチールコード、実施例2では癖付けしていない3本のコード素線を撚り合せたスチールコード、実施例3では癖付けしていない4本のコード素線を撚り合せたスチールコード、比較例3では癖付けしていない5本のコード素線を撚り合せたスチールコードを用いて4層の補強層を形成した。
【0029】
この7種類のゴムホースに対して、下記の加締め性能、曲げ剛性、重量を評価し、その結果を表1に示す。表1の充填率とは、スチールコードの外径Aを直径とする円の面積に対して、スチールコードを構成するコード素線の断面積の総和が占める割合を百分率で示すものである。
【0030】
[加締め性能]
それぞれのホースの端部に、縮径程度を3段階に変化させてホース金具を加締め、そのホースに対して破壊するまで圧力を上げた時に、ホースの損傷状態を確認した。表1の加締め率が大きい程、きつく加締めたことを示す。「ホース本体破壊」とは、ホース金具が抜けずにホースが破壊したことを意味しており、加締め性能が優れていることを示す。「金具抜け」とは、ホースが破損する前にホース金具が脱落したことを意味しており、加締め性能が劣ることを示す。「素線破断」とは、補強層のホース金具に押圧された部分のコード素線が破断したことを意味しており、加締め性能が劣ることを示す。
【0031】
[曲げ剛性]
従来例を基準の100として指数表示した。数値が小さい程、剛性が小さく曲げ易いことを示す。
【0032】
[重量]
従来例を基準の100として、単位長さ当りの重量を指数表示したものであり、数値が小さい程、軽量であることを示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1の結果から、実施例1〜3は従来例に比して、ホースの軽量化、柔軟化を図りつつ、ホース金具の加締め性能の低下を抑えることが可能であることが分かる。また、実施例1は比較例1に比して軽量でホース金具の加締め性能に優れていることが分かる。比較例2は、コードの撚りのばらけによりホース本体の外径がホース金具の内径よりも大きくなるため、ホース金具を装着することができなかった。
【符号の説明】
【0035】
1 ゴムホース
2 内面ゴム層
3a、3b 補強層
3c 単線コード補強層
4 中間ゴム層
5 外面ゴム層
6 スチールコード
6a 単線のスチールコード
7 コード素線
8 ホース金具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面ゴム層と外面ゴム層との間に、スチールコードをスパイラル状に巻付けて形成した補強層、或いは、スチールコードを編組して形成した補強層を備えたゴムホースにおいて、前記補強層を形成するスチールコードが、癖付けしていない複数本のコード素線を撚り合わせた1×N構造であり、N=2〜4とするとともに、前記スチールコードの外径Aに対するコード素線の撚りピッチPの比率を示す撚り倍数(P/A)が15.0以上35.0以下であることを特徴とするゴムホース。
【請求項2】
前記補強層の外周側に単線のスチールコードによって形成した単線コード補強層を設けた請求項1に記載のゴムホース。
【請求項3】
前記癖付けしていないコード素線の素線径が、0.1mm以上0.4mm未満である請求項1または2に記載のゴムホース。
【請求項4】
前記癖付けしていないコード素線で構成されるスチールコードの外径が、0.2mm以上1.0mm未満である請求項1〜3にいずれかに記載のゴムホース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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