説明

ゴム成形体のスリット加工装置及びゴム成形体のスリット加工方法

【課題】高い精度でスリットの加工ができるゴム成形体のスリット加工装置及びゴム成形体のスリット加工方法を提供する。
【解決手段】本発明にかかるゴム成形体10のスリット加工装置1は、ゴム成形体10の成形に用いられ、かつ、スリット加工時における前記ゴム成形体10の保持具として用いられる金型例えば中板9を固定する固定部8と、前記中板9に保持された前記ゴム成形体10に対向配置されたスリット加工刃20と、前記スリット加工刃20を前記ゴム成形体10に対し進退移動して前記ゴム成形体10にスリット17を形成するスリット加工刃移動機構22と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム成形体のスリット加工装置及びゴム成形体のスリット加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のブレーキ液のリザーバタンクの蓋に用いられるダイヤフラムなどのゴム成形体へのスリット加工とその検査とをほとんど同時に行うことができる装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような装置では、ゴム成形体を移送用ロボットでひとつずつ加工検査部へ移送していた。
【0003】
スリットが形成されたゴム成形体としては、前記ダイヤフラム以外にも医療用に用いられる逆止弁、いわゆる医療用混注ゴムがある(例えば、特許文献2及び特許文献3参照)。医療用混注ゴムは、点滴などの輸液回路において、主ラインの医療用チューブ(送液路)を流れる液体に注射器などから薬液を混注する場合や、医療用チューブを流れる液体を採取する場合などに用いられる医療用コネクタの逆止弁である。このような医療用混注ゴムは、医療用に用いられる部品であるため、例えばスリットの形状やスリットの位置などに高い精度が要求されている。
【0004】
しかしながら、従来のスリット加工と検査を行なう装置では、ゴム成形体をひとつずつ加工検査部へ移送するため、装置が複雑化し、高価なものとなっていた。
【特許文献1】特開平11−254390号公報
【特許文献2】特開平10−118178号公報
【特許文献3】特開2006−43354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、高い精度でスリットの加工ができるゴム成形体のスリット加工装置及びゴム成形体のスリット加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明にかかるゴム成形体のスリット加工装置は、ゴム成形体の成形に用いられ、かつ、スリット加工時における前記ゴム成形体の保持具として用いられる金型を固定する固定部と、
前記金型に保持された前記ゴム成形体に対向配置されたスリット加工刃と、
前記スリット加工刃を前記ゴム成形体に対し進退移動して前記ゴム成形体にスリットを形成するスリット加工刃移動機構と、
を有する。
【0007】
本発明にかかるゴム成形体のスリット加工装置によれば、ゴム成形体が金型に保持されたままなので、金型をスリット加工装置の固定部に固定するだけで、スリット加工装置におけるゴム成形体の位置決めが可能となる。したがって、本発明にかかるゴム成形体のスリット加工装置によれば、複雑で高価な位置決め用ロボットを用いることなくゴム成形体をスリット加工装置へ移送することができる。
【0008】
本発明にかかるゴム成形体のスリット加工装置において、
前記固定部は、前記金型を加熱する加熱機構を有することができる。
【0009】
このような構成とすることで、金型温度を所定の温度に設定することができ、金型の温度変化、特に成形温度からの降温による金型の収縮を制御し、固定部に対するゴム成形体の位置変化を防止することができる。
【0010】
本発明にかかるゴム成形体のスリット加工装置において、
前記固定部を移動させる固定部移動機構をさらに有し、
前記金型には複数の前記ゴム成形体が保持され、
前記固定部移動機構は、複数の前記ゴム成形体を前記スリット加工刃に対向するスリット加工位置へ順次移動させる機構であることができる。
【0011】
このような構成とすることで、金型を固定部に一度固定するだけで複数のゴム成形体の全てを一度に位置決めすることができる。
【0012】
本発明にかかるゴム成形体のスリット加工装置において、
前記ゴム成形体に対し進退移動し、前記ゴム成形体の一部と接触して前記ゴム成形体と前記スリット加工刃との位置決めを行なう位置決め機構をさらに有することができる。
【0013】
このような構成とすることで、ゴム成形体をスリット加工刃に対してさらに正確に位置決めすることができる。
【0014】
本発明にかかるゴム成形体のスリット加工装置において、
前記スリット加工刃に隣設した検査装置を有し、
前記検査装置は、前記固定部移動機構によって前記検査装置の対向位置に配置された前記ゴム成形体の前記スリットを検査することができる。
【0015】
このような構成とすることで、スリット加工と同じ位置決め状態で検査を行うことができ、検査装置用に別途位置決め用の機構を必要とせず、精度の高い検査を行うことができる。
【0016】
本発明にかかるゴム成形体のスリット加工装置において、
前記ゴム成形体は、医療用混注ゴムであることができる。
【0017】
このような構成とすることで、高い精度が要求される医療用混注ゴムであっても、高い精度で所望のスリットを形成することができる。
【0018】
本発明にかかるゴム成形体のスリット加工方法は、
ゴム成形体を金型内で成形する成形工程と、
前記成形工程で成形された前記ゴム成形体を前記金型の一部で保持したままスリット加工するスリット加工工程と、
を含む。
【0019】
本発明にかかるゴム成形体のスリット加工方法によれば、ゴム成形体を金型の一部で保持したままスリット加工するので、ゴム成形体単体を保持して移送させるような複雑で高価な位置決め用ロボットを用いることなく、ゴム成形体をスリット加工位置へと移送することができる。
【0020】
本発明にかかるゴム成形体のスリット加工方法において、
前記成形工程で成形された前記ゴム成形体を前記金型の一部で保持したままスリット加工装置へ搬送する搬送工程と、
前記スリット加工装置に搬送された前記金型の一部を所定温度に加熱する加熱工程と、
をさらに含み、
前記スリット加工工程は、前記搬送工程後であって前記加熱工程中に行なうことができる。
【0021】
このような構成とすることで、金型の一部を所定温度に加熱することができるため、金型の一部の温度変化、特に成形温度からの降温による金型の一部の収縮を抑え、固定部に対するゴム成形体の位置変化を防止することができる。また、加熱工程中にスリット加工工程を行なうことで、ゴム成形体の位置がほとんど変化しない状態でスリット加工を行うことができる。
【0022】
本発明にかかるゴム成形体のスリット加工方法において、
前記スリット加工工程は、前記ゴム成形体に対しスリット加工刃と位置決め部とを移動させて前記位置決め部を前記ゴム成形体の一部と接触させ、前記ゴム成形体と前記スリット加工刃との位置決めを行なった後に前記スリット加工刃で前記スリットを加工することができる。
【0023】
このような構成とすることで、ゴム成形体をスリット加工刃に対してさらに正確に位置決めすることができる。
【0024】
本発明にかかるゴム成形体のスリット加工方法において、
前記ゴム成形体は、医療用混注ゴムであることができる。
【0025】
このような構成とすることで、高い精度が要求される医療用混注ゴムであっても、高い精度で所望のスリットを形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0027】
図1は、ゴム成形体10を模式的に示す正面図である。図2は、ゴム成形体10を模式的に示す平面図である。図3は、図2のゴム成形体10のIII−III’縦断面図である。図4は、金型90を模式的に示す平面図である。図5は、図4の金型90のV−V’縦断面図である。図6は、スリット検査装置3を含むスリット加工装置1を模式的に示す正面図である。図7は、スリット加工装置1を模式的に示す縦断面図である。図8は、スリット検査装置3を含むスリット加工装置1を模式的に示す平面図である。図9は、スリット加工機構2を模式的に示す拡大縦断面図である。図10は、スリット検査装置3の一部を模式的に示す拡大縦断面図である。図11は、撮影機構30によって撮影されたスリット形成部13を模式的に示す平面図である。図12は、スリット形成部13にオイルを滴下する工程を模式的に示す側面図である。図13は、スリット形成部13にオイルを馴染ませる工程を模式的に示す側面図である。
【0028】
本発明の実施形態にかかるゴム成形体10のスリット加工装置1は、ゴム成形体10の成形に用いられ、かつ、スリット加工時における前記ゴム成形体10の保持具として用いられる金型例えば中板9を固定する固定部8と、前記中板9に保持された前記ゴム成形体10に対向配置されたスリット加工刃20と、前記スリット加工刃20を前記ゴム成形体10に対し進退移動して前記ゴム成形体10にスリット17を形成するスリット加工刃移動機構22と、を有する。
【0029】
本発明の実施形態にかかるゴム成形体10のスリット加工方法は、ゴム成形体10を金型90内で成形する成形工程と、前記成形工程で成形された前記ゴム成形体10を前記金型90の一部である中板9で保持したままスリット加工するスリット加工工程と、を含む。
【0030】
1.ゴム成形体
まず、本発明の実施形態にかかるスリット加工装置1で用いるゴム成形体10について図1〜図3を用いて説明する。ゴム成形体10は、内部に中空部18を有する略円柱状の胴部14と、胴部14の上端で閉塞する円錐台形の頭部12と、胴部14の下端で開口する底部16と、を有する。頭部12の頂部には平坦な略円形のスリット形成部13が形成され、胴部14の中ほどには胴部14の外周にそって帯状に括れたくびれ部15が形成されている。スリット形成部13には、スリット形成部13を貫通して中空部18へ連通する一本の直線のスリット17が形成されている。スリット17は、通常、密着状態にある。
【0031】
本実施の形態にかかるゴム成形体10は、医療用混注ゴムとして用いることができる。医療用混注ゴムとしても用いられるゴム成形体10は、例えば、図示しない医療用コネクタの挿入ポートに固定される。医療用コネクタは、例えば、医療用チューブを両端に接続する円筒状であって、この円筒状の中間部分に注射器を挿入するための挿入ポートが突出している。そして、医療用チューブを流れる液体に注射器から別の液体を混注する際に、ゴム成形体10のスリット17を押し開いて注射器を差し込む。したがって、注射器を差し込まない状態にあっては、スリット17は密着状態を保ち、医療用チューブを流れる液体がスリット17から漏れることはない。
【0032】
ゴム成形体10を構成する材料としては、例えば天然ゴム、シリコーンゴムやニトリルゴムなどの合成ゴム、或いは熱可塑性エラストマーなどを採用することができる。特に、ゴム成形体10が医療用混注ゴムである場合には、イソプレンゴム(IR)、エチレン−プロピレンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)などを好適に用いることができる。
【0033】
2.ゴム成形体の金型
図4及び図5に示すように、ゴム成形体10は、ゴムの種類に応じて所定温度に加熱された金型90内で成形される。金型90は、図示しないゴム成形機に取り付けられ、上型であるポット92及びプランジャー94と、中型である中板9と、下型96と、を組み合わせて構成されるプランジャ・ポット方式の金型である。ゴム成形体10を成形するためのキャビティ98は、プランジャー94及び中板9を組み合わせることで形成されるキャビティ面95と、下型96に固定されたコアピン97と、によって形成される。金型90は図示しないゴム成形機にセットされ、原料ゴム例えばシリコーンゴムがポット92とプランジャー94との間に投入され、加圧されることでプランジャー94に形成されたゲート93からキャビティ98内へ注入されて複数(例えば15個×7列=105個)のゴム成形体10が同時成形される。本実施の形態においては、成形された複数のゴム成形体10は、金型から完全に離型されず、金型の一部である中板9に保持されたままポット92、プランジャー94及び下型96から離型される。そして、複数のゴム成形体10を保持したまま中板9をゴム成形機から取り外し、中板9はスリット加工装置1へと搬送される。中板9は、スリット加工装置1において、スリット17の加工時におけるゴム成形体10の保持具として用いられる。なお、本実施の形態においては、ゴム成形体10の成形に圧縮注入型方式を採用したためプランジャー・ポット方式の金型90を説明したが、金型の一部でゴム成形体10を保持したままゴム成形機から取り外すことができるものであればこれに限らず、例えば、圧縮プレス成形用の圧縮三枚型方式の金型であってもよく、また、他の方式の金型であってもよい。
【0034】
3.スリット加工装置
図6〜図13に示すように、スリット検査装置3を含むスリット加工装置1は、ゴム成形体10のスリット17の加工及び検査に用いられる。スリット加工装置1は、機台7内に第1押圧部駆動機構38が設けられ、機台7上に中板9の移動スペースを確保して架設された取付枠70にスリット加工機構2と、スリット検査装置3と、オイル付着機構4と、第2押圧機構5と、が隣接して設けられている。機台7上には、ゴム成形体10を保持したままの中板9を固定する固定部8と、固定部8を移動させる固定部移動機構80と、が配置されている。スリット加工装置1の各機構は、制御部6によって制御されている。制御部6にはディスプレイ62が接続されている。
【0035】
スリット加工機構2は、中板9に保持されたゴム成形体10に対向配置されたスリット加工刃20と、スリット加工刃20をゴム成形体10に対し進退移動してゴム成形体10にスリット17を形成するスリット加工刃移動機構22と、スリット加工刃移動機構22によってスリット加工刃20と共にゴム成形体10に対し進退移動し、ゴム成形体10の一部と接触してゴム成形体10とスリット加工刃20との位置決めを行なう位置決め機構24と、を有する。スリット加工刃移動機構22は、スリット加工刃20及び位置決め機構24をゴム成形体10に対し進退させるものであれば、エアシリンダや油圧シリンダであってもよいし、電動モータによるボールネジ機構であってもよい。
【0036】
図9に示すように、スリット加工刃20は、中空円筒状のスリット加工刃固定部23内に固定され、位置決め機構24はスリット加工刃固定部23内でゴム成形体10側へ付勢部材であるスプリング26によって常時付勢されている。位置決め機構24は、略円筒状であって、そのゴム成形体10側の先端はゴム成形体10の円錐台形状の頭部12の側壁にほぼ合致する円形の内周面を有する位置決め部25を有している。スリット加工刃20の先端は尖っており、スリット加工刃20を下降させることで、ゴム成形体10のスリット形成部13の所定の位置に突き刺さり、貫通してスリット17を成形する。
【0037】
固定部移動機構80は、複数のゴム成形体10が保持されたままの中板9を固定部8と共に機台7上の水平面上を移動させ、ゴム成形体10をスリット加工機構2、スリット検査装置3、オイル付着機構4及び第2押圧機構5の下方位置へと順次配置させる。したがって、中板9とゴム成形体10との位置関係は成形されたままの状態なので、中板9を固定部8の所定位置に固定するだけでゴム成形体10をスリット加工装置1の所定位置に容易に配置することができる。図6〜図8に示すように、固定部移動機構80は、機台7上にY方向に沿って延びる2本の第1のレール844及び第1の固定部移動アクチュエータ84と、第1の固定部移動アクチュエータ84と第1の連結部材840によって連結され、かつ、ガイド846によって第1のレール844に案内された板状の第1の移動部材842と、第1の移動部材842上に設置されたY方向と直交するX方向に延びる2本の第2のレール864及び第2の固定部移動アクチュエータ86と、第2の固定部移動アクチュエータ86と第2の連結部材860によって連結され、かつ、ガイド866によって第2のレール864に案内された板状の第2の移動部材862と、第2の移動部材862上に固定された固定部8と、を有する。したがって、固定部8を第2の固定部移動アクチュエータ86によって移動させることで、固定部8に固定された中板9をスリット加工機構2、スリット検査装置3、オイル付着機構4及び第2押圧機構5が並ぶX方向へ順次水平移動させることができる。また、固定部8を第1の固定部移動アクチュエータ84によって移動させることで、固定部8に固定された中板9をY方向へ水平移動させることができる。なお、第1の固定部移動アクチュエータ84及び第2の固定部移動アクチュエータ86は、電動モータによるボールねじ機構である。
【0038】
固定部8は、図示しないゴム成形機から搬送されてきた中板9を所定位置に固定する図示しない固定部と、中板9を加熱する加熱機構82と、を有し、中板8の温度を所定温度に保つことができる。加熱機構82によって、中板9が放冷して中板9が収縮するのを防止することで、中板9に保持された複数のゴム成形体10の位置、特に隣接間隔が変化してしまうことを防止する。なお、固定部移動機構80の移動距離は、所定温度に加熱された中板9におけるゴム成形体10の隣接間隔に合わせて予め制御部6に設定されている。
【0039】
スリット検査装置3は、スリット加工機構2に隣接して配置されている。スリット検査装置3は、取付枠70に配置された撮影機構30と、固定部8の下方からゴム成形体10に対し昇降する第1押圧部34と、を有する。なお、スリット検査装置3の詳細については、後述する。
【0040】
オイル付着機構4は、スリット検査装置3に隣接して取付枠70に固定配置されている。オイル付着機構4は、ゴム成形体10のスリット形成部13にオイルを滴下するものであって、オイルが充填された容器40が容器移動機構42によって昇降移動可能に保持されている。容器40の先端に設けられた滴下部44は、ゴム成形体10側に向けられて配置され、スリット形成部に対してオイルを一定量ずつ滴下するようにディスペンサー64によって制御されている。
【0041】
第2押圧機構5は、オイル付着機構4に隣接して取付枠70に固定配置されている。第2押圧機構5は、棒状の第2押圧部50と、第2押圧部50を昇降する第2押圧部駆動機構52と、を有する。図12及び図13に示すように、オイル付着機構4の滴下部44からスリット形成部13に滴下されたオイル46は、第2押圧機構5で第2押圧部50が下降してスリット17を多少押し開くことでスリット形成部13とオイル46が馴染むと共に、オイル46の一部はスリット17内に染み込む。このように、オイル46をスリット17内に染み込ませることで、スリット17が密着状態のまま固着してしまうことを防止する。
【0042】
4.スリット検査装置
スリット検査装置3について詳細に説明する。スリット検査装置3は、スリット加工機構2に隣設し、スリット加工刃20によってスリット17が形成されたゴム成形体10を固定部移動機構80によってスリット検査装置3の対向位置に配置させた状態で、スリット17を検査する。スリット検査装置3は、ゴム成形体10のスリット形成部13に形成されたスリット17を押し広げる第1押圧部34と、第1押圧部34をスリット17に対し進退移動させる第1押圧部駆動機構38と、第1押圧部34によって押し広げられたスリット17を撮影する撮影機構30と、撮影機構30によって撮影されたスリット17の画像データからスリット17の良否判定を行なう判定機構60と、スリット形成部13と撮影機構30との間に配置された照射機構32と、を含む。撮影機構30は、取付枠70に固定された例えばCCDカメラであり、照射機構32に設けられた複数のLED33の発光によってスリット17を照射した状態で撮影する。撮影機構30で撮影された画像データは制御部6の判定機構60へと送られて、スリット17の寸法やスリット17の有無などの良否判定が行なわれる。また、判定機構60における判定結果は、制御部6に接続されたディスプレイ62に表示される。
【0043】
図10には、スリット検査装置3の各機構の配置をわかりやすく説明するために各機構の間隔を短くして表示されている。スリット検査装置3は、ゴム成形体10の上方に照射機構32及び撮影機構30が配置され、ゴム成形体10の下方に第1押圧部34が配置されている。照射機構32のLED33は、撮影機構30がスリット17を撮影することを妨げないように配置されている。第1押圧部34は、その先端の縦断面が円弧状に形成された棒状部材であって、ガイド部35及びスプリング36と共に第1押圧部駆動機構38によってスリット17に対して昇降する。第1押圧部駆動機構38によって上昇した第1押圧部34は、ゴム成形体10の底部16を通って中空部18へと進入し、スリット17を中空部18側から押し広げながらスリット17にその先端が挿入される。
【0044】
図11に示されるように、スリット17は、第1押圧部34によって押し広げられることによってその形状が確実に撮影される。このように撮影機構30によって撮影されたスリット形成部13及びスリット17の画像データは、判定機構60によってスリットの有無やスリット寸法、例えばスリットの幅W、ゴム成形体10の外周からスリット端部までのX方向の距離XL,XR、ゴム成形体10の外周からスリット17中心までのY方向の距離YL,YRなどを計測し、判定機構60に予め設定された判定基準値と照らし合わせて良否判定を行が行なわれる。例えば、画像データから計測された距離XL,XRは、スリット17のX方向のズレを判定することができ、また距離YL,YRは、スリット17のY方向のズレを判定することができる。判定機構60による良否判定結果は、各ゴム成形体10の画像データと共にディスプレイ62に表示される。また、例えば、良否判定結果のディスプレイ62への表示は、中板9に保持された全てのゴム成形体10を模式的に複数の円形としてディスプレイ62に一覧表示し、良否判定された良品に対応する円形についてはディスプレイ62に緑色で表示され、不良品に対応する円形ついてはディスプレイ62に赤色で表示されてもよい。このようにディスプレイ62に表示することで、操作者はディスプレイ62に表示された複数の円形と中板9に保持された複数のゴム成形体10との位置を視覚的に比較して、どのゴム成形体10が不良品と判定されたかを容易に判別することができ、全てのゴム成形体10の検査後、不良品を確実に取り除くことができるため好ましい。
【0045】
5.スリット加工方法
次に、ゴム成形体10をスリット加工装置1を用いてスリット17を加工するスリット加工方法について説明する。スリット加工方法は、図示しないゴム成形機でゴム成形体10を金型90内で成形する成形工程と、この成形工程で成形されたゴム成形体10を金型90の一部である中板9で保持したままスリット17を加工するスリット加工工程と、を含む。また、スリット加工方法は、成形工程で成形されたゴム成形体10を中板9で保持したままスリット加工装置1へ搬送する搬送工程と、スリット加工装置1に搬送された中板9を所定温度に加熱する加熱工程と、をさらに含み、スリット加工工程は、搬送工程後であって加熱工程中に行なわれることが好ましい。そして、スリット加工方法の実施後、ゴム成形体10に対しスリット検査方法が実施される。
【0046】
ゴム成形体10の成形工程は、図4及び図5に示される金型90を図示しないゴム成形機に取り付け、ポット92とプランジャー94との間に原料ゴムを投入し、ポット92をプランジャー94に対し加圧することで原料ゴムをゲート93を介してキャビティ98内へ注入させ、所定時間加熱・加圧した後、中板9に対しポット92、プランジャー94及び下型96を型開する。ゴム成形機から取り出された中板9には、成形されたゴム成形体10のくびれ部15が中板9のキャビティ面95に保持されている。そして、搬送工程は、ゴム成形体10を保持したままの中板9をスリット加工装置1へ例えば操作者が迅速に搬送する。
【0047】
スリット加工装置1に搬送された中板9は、固定部移動機構80によって原点位置に配置された固定部8上に固定され、固定部8の加熱機構82によって所定温度に加熱される。加熱工程は、中板9が固定部8に固定されている間、つまり、スリット加工方法の各工程及びスリット検査方法の各工程の間継続され、中板9の温度変化による寸法変化を防止し、中板9に保持された複数のゴム成形体10の間隔が変化することを防止する。
【0048】
スリット加工装置1へと搬送されてきた中板9は、例えば、まず、図8における左手前端のゴム成形体10をスリット加工機構2の下方であってスリット加工刃20に対向するスリット加工位置へ移動させる。そして、スリット加工が終わったゴム成形体10は、第2の固定部移動アクチュエータ86によって例えばX方向左側へ移動してスリット検査装置3、オイル付着機構4及び第2押圧部移動機構5の下方位置へと順次間欠移動して、スリット検査方法などが実施され、スリット加工機構2の下方へはスリット17が加工されていないゴム成形体10が順次移動されてくる。このようにして、図8における手前側のゴム成形体10の列のスリット加工工程からオイル馴染ませ工程までが終わると、第1の固定部移動アクチュエータ84によって中板9をY方向手前側へ1列分移動させて同様に一連の工程を実施し、全ての列のゴム成形体10のスリット加工工程及びスリット検査方法を順次実施する。
【0049】
なお、スリット加工工程は、図9に詳細に示すように、スリット加工刃移動機構22によってゴム成形体10に対しスリット加工刃20と位置決め機構24とを移動させ、位置決め部25をゴム成形体10の一部例えば頭部12の側壁と接触させ、ゴム成形体10とスリット加工刃20との位置決めを行なった後、位置決め機構24が中板9の上面と接触して下降が規制されるとスプリング26を圧縮しながらスリット加工刃20がさらに下降し、スリット形成部13を貫通してスリット17を加工する。
【0050】
6.スリット検査方法
スリット検査方法は、スリット加工機構2でスリット17が加工され、スリット検査装置3の対向位置に配置されたゴム成形体10に対して順次実施される。まず、第1のスリット検査工程として、スリット加工方法によってスリット17が形成されたスリット形成部13を撮影機構30によって撮影し、撮影されたスリット形成部13の外観の画像データを判定機構60で解析して良否判定を行なう。この良否判定において、例えば、スリット形成部13の外観不良と判断されたゴム成形体10は、不良品として制御部6に記憶され、ディスプレイ62に画像データと共に赤く表示される。次に、第2のスリット検査工程として、ゴム成形体10に対し第1押圧部34を前進させ、第1押圧部34でスリット17を押し広げ、スリット17が所定の形状に形成されていることを検査する。検査は、第1押圧部34によって押し広げられたスリット17を撮影機構30によって撮影し、撮影された画像データを判定機構60で解析してスリット形状の良否判定を行う。この良否判定において、例えば、スリット幅Wが予め設定された許容値よりも大きかった場合、このゴム成形体10は不良品として制御部6に記憶され、ディスプレイ62に画像データと共に赤く表示される。スリット17は密着した状態のままでは撮影機構30によって撮影された画像データで判別することが難しいが、このように第1押圧部34によってスリット17を広げた状態で撮影することでスリット17の形状を容易に判別することができる。なお、スリット17の撮影は、図10に示すように、照射機構32によってスリット17を照射した状態で、撮影機構30によって撮影する。
【0051】
スリット検査装置3によって第1のスリット検査工程及び第2のスリット検査工程が終了したゴム成形体10は、固定部移動機構80によってX方向左側へ移動され、オイル付着機構4の下方位置に配置されてオイル付着工程が順次実施される。オイル付着工程は、まず、容器移動機構42によってオイルが充填された容器40がゴム成形体10に対して下降移動し、容器40の先端の滴下部44がスリット17の上方で停止する。次に、ディスペンサー64によって適量のオイル46がスリット形成部13上に滴下される。そして、容器40は、容器移動機構42によって上方へ移動してオイル付着工程が完了する。しかし、オイル46は、このままではスリット形成部13上にオイル46が付着しただけであり、スリット17内にはほとんど染み込んでいない。
【0052】
スリット形成部13上にオイル46が付着したゴム成形体10は、固定部移動機構80によってX方向左側へさらに移動され、第2押圧機構5の下方位置に配置されてオイル馴染ませ工程が順次実施される。オイル馴染ませ工程は、棒状の第2押圧部50を第2押圧部駆動機構52によってスリット形成部13を押圧させ、スリット17を多少押し開くことでスリット形成部13上のオイル46がスリット17内に染み込む。そして、第2押圧部50を第2押圧部駆動機構52によって上方へ移動してオイル馴染ませ工程が完了する。このように、オイル46をスリット17内に染み込ませることで、スリット17が固着することを防止する。
【0053】
中板9に保持された全てのゴム成形体10のスリット加工工程、第1のスリット検査工程、第2のスリット検査工程、オイル付着工程およびオイル馴染ませ工程が終了すると、固定部移動機構80によって固定部8を原点位置へ移動させ、操作者はディスプレイ62に不良品として表示されているゴム成形体10を取り除く。そして、固定部移動機構80によって再度固定部8を移動させ、制御部6に記憶された不良品のゴム成形体10が中板9から除去されていることを撮影機構30の撮影によって判定機構60が確認し、不良品が確実に除去されていることを確認する。不良品が除去されていない場合には同じ工程を繰り返して操作者が不良品を除去するまで行なわれる。そして、中板9に残った良品のゴム成形体10を中板9から離型することで良品のゴム成形体10のみを得ることができる。このように、ゴム成形体10をスリット加工工程からオイル馴染ませ工程までを一貫して中板9に保持したまま実施することで、ゴム成形体10それぞれをハンドリングする必要がなく、複雑な機構を用いることなく各工程での確実な位置決めを達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】ゴム成形体10を模式的に示す正面図である。
【図2】ゴム成形体10を模式的に示す平面図である。
【図3】図2のゴム成形体10のIII−III’縦断面図である。
【図4】金型90を模式的に示す平面図である。
【図5】図4の金型90のV−V’縦断面図である。
【図6】スリット検査装置3を含むスリット加工装置1を模式的に示す正面図である。
【図7】スリット加工装置1を模式的に示す縦断面図である。
【図8】スリット検査装置3を含むスリット加工装置1を模式的に示す平面図である。
【図9】スリット加工機構2を模式的に示す拡大縦断面図である。
【図10】スリット検査装置3の一部を模式的に示す拡大縦断面図である。
【図11】撮影機構30によって撮影されたスリット形成部13を模式的に示す平面図である。
【図12】スリット形成部13にオイルを滴下する工程を模式的に示す側面図である。
【図13】スリット形成部13にオイルを馴染ませる工程を模式的に示す側面図である。縦断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 スリット加工装置
2 スリット加工機構
3 スリット検査装置
4 オイル付着機構
5 第2押圧機構
6 制御部
7 機台
8 固定部
9 中板
10 ゴム成形体
12 頭部
13 スリット形成部
14 胴部
15 くびれ部
16 底部
17 スリット
18 中空部
20 スリット加工刃
22 スリット加工刃移動機構
23 スリット加工刃固定部
24 位置決め機構
25 位置決め部
26 スプリング
30 撮影機構
32 照射機構
33 LED
34 第1押圧部
35 ガイド部
36 スプリング
38 第1押圧部駆動機構
40 容器
42 容器移動機構
44 滴下部
50 第2押圧部
52 第2押圧部駆動機構
60 判定機構
62 ディスプレイ
64 ディスペンサー
70 取付枠
80 固定部移動機構
82 加熱機構
84 第1の固定部移動アクチュエータ
86 第2の固定部移動アクチュエータ
90 金型
92 ポット
93 ゲート
94 プランジャー
95 キャビティ面
96 下型
97 コアピン
98 キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成形体の成形に用いられ、かつ、スリット加工時における前記ゴム成形体の保持具として用いられる金型を固定する固定部と、
前記金型に保持された前記ゴム成形体に対向配置されたスリット加工刃と、
前記スリット加工刃を前記ゴム成形体に対し進退移動して前記ゴム成形体にスリットを形成するスリット加工刃移動機構と、
を有するゴム成形体のスリット加工装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記固定部は、前記金型を加熱する加熱機構を有するゴム成形体のスリット加工装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記固定部を移動させる固定部移動機構をさらに有し、
前記金型には複数の前記ゴム成形体が保持され、
前記固定部移動機構は、複数の前記ゴム成形体を前記スリット加工刃に対向するスリット加工位置へ順次移動させる機構であるゴム成形体のスリット加工装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、
前記ゴム成形体に対し進退移動し、前記ゴム成形体の一部と接触して前記ゴム成形体と前記スリット加工刃との位置決めを行なう位置決め機構をさらに有するゴム成形体のスリット加工装置。
【請求項5】
請求項3において、
前記スリット加工刃に隣設した検査装置を有し、
前記検査装置は、前記固定部移動機構によって前記検査装置の対向位置に配置された前記ゴム成形体の前記スリットを検査するゴム成形体のスリット加工装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記ゴム成形体は、医療用混注ゴムであるゴム成形体のスリット加工装置。
【請求項7】
ゴム成形体を金型内で成形する成形工程と、
前記成形工程で成形された前記ゴム成形体を前記金型の一部で保持したままスリット加工するスリット加工工程と、
を含むゴム成形体のスリット加工方法。
【請求項8】
請求項7において、
前記成形工程で成形された前記ゴム成形体を前記金型の一部で保持したままスリット加工装置へ搬送する搬送工程と、
前記スリット加工装置に搬送された前記金型の一部を所定温度に加熱する加熱工程と、
をさらに含み、
前記スリット加工工程は、前記搬送工程後であって前記加熱工程中に行なわれるゴム成形体のスリット加工方法。
【請求項9】
請求項7または8において、
前記スリット加工工程は、前記ゴム成形体に対しスリット加工刃と位置決め部とを移動させて前記位置決め部を前記ゴム成形体の一部と接触させ、前記ゴム成形体と前記スリット加工刃との位置決めを行なった後に前記スリット加工刃で前記スリットを加工するゴム成形体のスリット加工方法。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれかにおいて、
前記ゴム成形体は、医療用混注ゴムであるゴム成形体のスリット加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−93793(P2008−93793A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−279086(P2006−279086)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(597096161)株式会社朝日ラバー (74)
【Fターム(参考)】