説明

ゴム材料の観察方法

【課題】厚さ200nm以上のゴム材料でも充填剤の分散状態を詳細に観察できるゴム材料の観察方法を提供する。
【解決手段】充填剤を含有するゴム材料の観察方法であって、走査透過電子顕微鏡を用いて取得した該ゴム材料の各回転角度における画像からトモグラフィー法により3次元構造を再構築し、ゴム材料中の充填剤の分散状態を観察することを特徴とするゴム材料の観察方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム材料の観察方法に関し、詳しくはゴム材料中の充填剤の分散状態を観察する観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、カーボンブラックやシリカなどの充填剤を配合したゴム材料が補強性などの点からタイヤなどに使用されている。ゴム材料中の充填剤の分散性はゴム強度などに大きく影響するため、充填剤の分散状態を正確に観察できる方法の確立が望まれている。
【0003】
ゴム材料中の充填剤を観察する方法として、3次元透過型電子顕微鏡(3D−TEM)を用いた方法が一般的に知られている。これは、観察するサンプルに対して電子線を照射し、透過した電子を結像して観察する顕微鏡(TEM)とCT法を組み合わせた方法である。しかしながら、3D−TEMでは、サンプルの厚さが200nm以上であると、電子線が透過せず鮮明な像が得られないため、充填剤の分散性を観察する方法として満足できるものではない。
【0004】
また、特許文献1には、透過型電子顕微鏡を用いてゴム材料中のカーボンブラックの分散状態を観察することが記載されているが、未だ満足できる方法ではなく、3次元構造中での分散状態を観察することについても検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−131774号公報
【特許文献2】特開2008−66057号公報
【特許文献3】特開2010−108633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題を解決し、厚さ200nm以上のゴム材料でも充填剤の分散状態を詳細に観察できるゴム材料の観察方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、充填剤を含有するゴム材料の観察方法であって、走査透過電子顕微鏡を用いて取得した該ゴム材料の各回転角度における画像からトモグラフィー法により3次元構造を再構築し、ゴム材料中の充填剤の分散状態を観察することを特徴とするゴム材料の観察方法に関する。
【0008】
上記観察方法において、上記ゴム材料の厚さは200〜1500nmであることが好ましい。また、上記ゴム材料と検出器との距離は5〜200cmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、充填剤を含有するゴム材料の観察方法であって、走査透過電子顕微鏡を用いて取得した該ゴム材料の各回転角度における画像からトモグラフィー法により3次元構造を再構築し、ゴム材料中の充填剤の分散状態を観察することを特徴とするゴム材料の観察方法であるので、厚さ200nm以上のゴム材料でもサンプル内の充填剤の分散状態を正確に観察できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】走査透過電子顕微鏡装置の一例を示した概略図である。
【図2】暗視野制限用の散乱角制限絞りの一例を示した概略図である。
【図3】試料傾斜部の説明図である。
【図4】3D−STEMを用いてサンプル(1)を観察した3次元像である。
【図5】3D−TEMを用いてサンプル(2)を観察した3次元像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の充填剤を含有するゴム材料の観察方法は、走査透過電子顕微鏡(STEM)を用いて取得した該ゴム材料の各回転角度における画像からトモグラフィー法により3次元構造を再構築し、ゴム材料中の充填剤の分散状態を観察する方法である。STEMを用いてTEMよりも電子線を集束することにより、電子線が照射された箇所の焦点を合わせることが可能な距離をサンプルの厚さ方向に深くできる。そのため、厚み200nm以上のゴム材料であっても電子線を走査し、サンプルの種々の測定角度において、それぞれ鮮明な電子線透過像を得ることができる。従って、得られた各電子線透過像をトモグラフィー法により再構築して3次元構造を示す立体画像を取得でき、ゴム材料中の充填剤の分散状態を正確に観察できる。
【0012】
本発明では、公知の特開2008−66057号公報に記載の走査透過電子顕微鏡を使用でき、例えば、図1で示した走査透過電子顕微鏡装置100を使用できる。
【0013】
図1では、電子銃1、該電子銃1から放出された一次電子線2、該一次電子線2を試料5上に集束させるための集束レンズ3、試料5上をX方向、Y方向に走査するためのX方向走査コイル4X、Y方向走査コイル4Yを示している。試料5を固定する試料ホルダー6は、中央部に電子線光軸Oに沿って、試料5を透過した電子(透過電子7)が通過する孔(電子線通過孔8)が設けられている。
【0014】
試料ステージ9には、試料ホルダー6が装着され、中央部に電子線光軸Oに沿って、電子線通過孔8に連続する電子線通過孔10が設けられている。また、透過電子7の通過を制限する散乱角制限絞り11が設けられ、該散乱角制限絞り11を通過した透過電子12が示されている。更に、透過電子12を光に変換するシンチレーター13及び該変換された光を電子信号に変換する光電子増倍管14が設けられ、透過電子検出手段を構成する。なお、試料ステージ9、散乱角制限絞り11、シンチレーター13、光電子増倍管14は走査透過電子顕微鏡装置本体の試料室(図示せず)内に配置され、試料ホルダー6は試料ステージ9に対し着脱可能である。
【0015】
上記構成の走査透過電子顕微鏡装置は以下のように動作する。
先ず、オペレーターは、試料5が固定されている試料ホルダー6を試料ステージ9上に装着する。電子銃1から放出された一次電子線2は、加速手段(図示せず)で加速され、集束レンズ3によって集束され、X方向、Y方向走査コイル4X、4Yによって試料5上を走査する。このような電子線2による試料5上の走査により、試料5中で散乱し、又は散乱することなく試料5を透過した電子7が試料5の下面から出射する。
【0016】
透過電子7は、試料5の内部状態、厚さ、原子種によって、強度、散乱角度が異なる。また、透過電子7の散乱角度は、電子線2の加速電圧でも変化し、例えば、加速電圧が低くなると試料5で散乱される割合が多くなり、試料5の下面から出射する透過電子の電子線光軸Oからの出射角度(散乱角度)が大きくなる。
【0017】
試料5の下面から出射した透過電子7は、試料ホルダー6と試料ステージ9の孔8、10を通過した後、散乱角制限絞り11に達する。該絞り11は、特定の散乱角を有する透過電子のみが通過できるように中心部に開けられた孔の口径が制限されている。このような透過電子の通過を制限させる散乱角制限絞りとしては、上記に示した構造のように中央部に孔を有し、該孔の口径で透過電子の通過を制限するものの外に、図2に示すように、中心部に遮蔽板17を配置して透過電子7の通過を制限するもの(散乱角制限絞り16)も挙げられる。一般的に、散乱角制限絞り11を使用すると電子線透過像は明視野像を形成し、散乱角制限絞り16を使用すると暗視野像を形成する。
【0018】
散乱角制限絞り11を通過した透過電子12は、シンチレーター13に衝突して光に変換され、更に光電子増倍管14によって電気信号に変換される。増幅手段(図示せず)で増幅され、A/D変換器(図示せず)を介して表示手段(図示せず)に送られる。表示手段は、送られてきた信号を輝度変調し、試料5の内部構造を反映した電子線透過像を表示し、走査位置に応じた複数の像を取得できる。
【0019】
本発明は、上記構成を持つSTEMなどにより取得した画像をトモグラフィー法で3次元構造を再構築する方法であり、通常、走査透過電子顕微鏡装置には試料5を回転させる試料傾斜部が設けられている。
【0020】
図3は試料傾斜部の説明図であり、試料5は水平線Hに対してθだけ傾斜している。傾斜した試料5に電子線eが照射され、試料5を透過した電子線は透過電子線e′となる。パソコンなどから試料傾斜部に制御信号が出力され、試料を所定角度に傾斜できる。
【0021】
例えば、オペレーターが測定開始角度まで試料を傾斜させ、STEM像を取得する。ここで、最初の回転角度θはオペレーターが適宜設定でき、例えば+70度に設定される。STEM像の取得後、オペレーターが設定した測定終了角度まで、試料の傾斜及び画像の取得のステップを繰り返し、回転シリーズ像(複数の画像)が得られる。なお、オペレーターは設定により、試料を任意の角度の単位で傾斜させることができる。得られた複数の画像をトモグラフィー法で3次元構造を再構築し、ゴム材料中の充填剤の分散状態を観察できる立体画像を取得できる。
【0022】
以上のとおり、充填剤を含有するゴム材料のサンプルについて、例えば、走査透過電子顕微鏡を用いて集束された電子線をサンプルに走査して複数の電子線透過像を取得する工程1と、該サンプルを所定角度単位で回転し、各角度ごとに同様の方法で複数の電子線透過像を取得するステップを繰り返す工程2と、トモグラフィー法を用いて、該工程1及び2で取得した電子線透過像を再構築する工程3とを含む方法により、サンプル中の充填剤の分散状態を観察できる。
【0023】
走査透過電子顕微鏡装置100では、電子線2の加速電圧は、好ましくは100〜3000kVである。該加速電圧が下限未満であると電子線がサンプルを透過しないため、観察できないおそれがある。上限を超えると、厚みが厚いサンプルでも電子線が透過するが、ダメージが大きく観察できないおそれがある。
【0024】
試料5(ゴム材料)の傾斜角度単位(試料傾斜部の傾斜ステップ毎に傾ける角度)は、好ましくは0.5〜4度、より好ましくは1〜2度である。0.5度未満であると、撮影時間が長くなりサンプルがダメージを受け、鮮明な像を取得できないおそれがあり、4度を超えると、再構成後のスライス像が不鮮明になるおそれがある。
【0025】
また、試料5の回転角度θは特に限定されず、サンプルをロッドの形状に加工し理論上の理想としては−180度〜+180度の全範囲で測定することが好ましいが、装置上の制限より好ましくは−90度〜+90度、より好ましくは−70度〜+70度の範囲で測定する。
【0026】
走査透過電子顕微鏡装置100において、試料5とシンチレーター13との距離L1(カメラ長)は、好ましくは5〜200cmである。5cm未満であると、像が不鮮明になるおそれがある。200cmを超えると、像が不鮮明になるおそれがある。
【0027】
試料5の厚さL2は特に限定されず、200nm未満、200nm以上のいずれのサンプルでも充填剤の分散状態を良好に観察できる。厚さL2は、好ましくは200〜1500nm、より好ましくは500〜1000nmである。1500nmまで観察可能になることで、200nm以上のサンプルの充填剤の凝集構造の観察精度が高まり、充填剤の正確な分散状態を解析できる。
【0028】
本発明におけるゴム材料に含まれるゴム成分としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などが挙げられる。充填剤としては特に限定されず、例えば、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。また、上記ゴム材料には、硫黄、加硫促進剤などゴム工業において一般的に用いられている各種材料が適宜配合されてもよい。
【実施例】
【0029】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0030】
<実施例及び比較例>
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品、装置について、まとめて説明する。
(薬品)
SBR:住友化学(株)製のSBR1502
シリカ:ローディアジャパン(株)製の115Gr
シランカップリング剤:デグッサ社製のSi69
硫黄:鶴見化学(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤A:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS
加硫促進剤B:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD
(装置)
ミクロトーム:LEICA社製のウルトラミクロトームEM VC6
電子顕微鏡:日本電子(株)製の透過型電子顕微鏡JEM2100F
【0031】
表1に示す配合処方にしたがい、バンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を排出温度160℃の条件下で4分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、100℃の条件下で2分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。更に、得られた未加硫ゴム組成物を175℃で30分間加硫することにより、加硫ゴム組成物を得た。
【0032】
得られた加硫ゴム組成物をミクロトームを用いてサンプル(切片)を作製した。サンプルの厚さは以下の通りであった。
サンプル(1):500nm
サンプル(2):189nm
【0033】
【表1】

【0034】
(実施例)
得られたサンプル(1)をメッシュに載せ、電子顕微鏡のサンプル室内にセットし、カメラ長150cm、電子線照射の加速電圧を200kVに設定した。STEMモードにて、様々な回転角度(−60度〜+60度)で電子線を走査し、各STEM像を取得した。なお、サンプルを1度ずつ回転させて所定の回転角度に調整して、各回転角度におけるSTEM像を取得した。得られたすべてのSTEM像をコンピュータトモグラフィー法により再構成することで、各断面スライス像を取得し、ゴム成分を黒色、フィラーを白色として各画像を得た。各画像を再構築し、サンプルの3次元像を取得した(図4)。
【0035】
(比較例)
試料としてサンプル(2)を使用した点、モードを3D−TEMとした点以外は、実施例と同様の条件で3次元像を取得した(図5)。
【0036】
3D−TEMによる観察は厚さ200nm以下のサンプルに限られたが、走査透過電子顕微鏡を用いたトモグラフィー(3D−STEM)により、厚さ500nmのサンプルでもフィラーの分散状態を観察できることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0037】
1 電子銃
2 一次電子線
3 集束レンズ
4X X方向走査コイル
4Y Y方向走査コイル
5 試料
6 試料ホルダー
7、12、15 透過電子
8、10 電子線通過孔
9 試料ステージ
11、16 散乱角制限絞り
13 シンチレーター
14 光電子増倍管
17 遮蔽板
100 走査透過電子顕微鏡装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填剤を含有するゴム材料の観察方法であって、
走査透過電子顕微鏡を用いて取得した該ゴム材料の各回転角度における画像からトモグラフィー法により3次元構造を再構築し、ゴム材料中の充填剤の分散状態を観察する
ことを特徴とするゴム材料の観察方法。
【請求項2】
前記ゴム材料の厚さが200〜1500nmである請求項1記載のゴム材料の観察方法。
【請求項3】
前記ゴム材料と検出器との距離が5〜200cmである請求項1又は2記載のゴム材料の観察方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−149890(P2012−149890A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6433(P2011−6433)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】