説明

ゴム用離型剤

【課題】環境にやさしく、より短時間で乾燥でき、金型からの離型性の良好なゴム用離型剤を提供する。
【解決手段】食物繊維を含む炭水化物を含有するゴム用離型剤である。食物繊維を含む炭水化物が粒径1〜100nmの粉であることが好ましく、食物繊維を含む炭水化物を0.1〜10質量%含有する水溶液であることが好ましい。また、食物繊維を含む炭水化物が、コーンスターチ、小麦粉および米粉よりなる群から選ばれる一種以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム用離型剤に関し、詳しくは、タイヤ、ホース、コンベアベルトなどを製造する際に、加硫ゴムを金型などから離型させるためにゴム加硫前に未加硫ゴム表面に塗布するゴム用離型剤、特に、タイヤ加硫時に、加硫ブラダーとタイヤ間の離型性を損なうことなく加硫ブラダーの耐久性等を向上させるために好適に使用されるゴム用離型剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ゴム用離型剤は、タイヤ、ホース、コンベアベルトなどを製造する際に、加硫ゴムを金型などから容易に離型させるためにゴム加硫前に未加硫ゴム表面に予め塗布するものであり、既に数多くのものが知られている。特に、タイヤ加硫時に使用されるゴム加硫用離型剤は、加硫ゴムを金型又は加硫ブラダー(以下、単に「ブラダー」という)から離型させるために使用されている。
【0003】
このタイヤ加硫時、ブラダーとの離型に使用されるゴム加硫用離型剤として、例えば、
特許文献1には、ジオルガノポリシロキサン、乳化分散剤およびマイカ粉末またはタルク粉末等からなる離型剤が開示されている。かかる技術では、鉱物性粉体であるマイカ粉末またはタルク粉末および乳化分散剤をゴム表面に塗布することで、ゴムと金型との密着を防止していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−39575号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の方法は、金型からのゴムの離型作用が十分でなく、ゴムと金型の密着の問題が生じていた。また、鉱物性粉体を使用する場合、粉塵が発生するため、作業環境の改善が望まれていた。さらに、乳化分散剤等の界面活性剤を使用する場合、乾燥が遅く塗布面が濡れた状態になるため、より短時間で乾燥できる方法が求められていた。
【0006】
そこで本発明の目的は、上記問題を解消して、環境にやさしく、より短時間で乾燥でき、金型からの離型性の良好なゴム用離型剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、特定の炭水化物を含有することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のゴム用離型剤は、食物繊維を含む炭水化物を含有することを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明のゴム用離型剤は、前記炭水化物が粒径1〜100nmの粉であることが好ましく、前記炭水化物を0.1〜10質量%含有する水溶液であることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明のゴム用離型剤は、前記炭水化物が、コーンスターチ、小麦粉および米粉よりなる群から選ばれる一種以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、環境にやさしく、より短時間で乾燥でき、金型からの離型性の良好なゴム用離型剤を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適実施形態について、詳細に説明する。
本発明のゴム用離型剤は、食物繊維を含む炭水化物を含有することを肝要とするものであり、例えば、タイヤを製造する際に、加硫前の段階で生タイヤ表面に塗布等するものである。ゴム表面の金型への密着は、ゴム表面の分子運動によって双極子モーメントが生じ、この双極子モーメントによってゴム表面に表面エネルギーを生じさせる。鉱物性粉体はこのゴム表面の分子に付着することによりゴム表面の分子運動を低減させ、その結果、表面エネルギーを低下させることができるものであるが、ゴム表面に付着した鉱物性粉体の付着膜は破れやすく、新たに露出したゴム表面によりゴムと金型とが密着する問題がある。また、界面活性剤を使用した場合には、界面活性剤中の金属イオンや分子極性イオンにより界面活性剤がゴム表面の分子に結合してゴム表面の分子運動を低減させ、ゴム表面エネルギーを低下させることができるものであるが、ゴム表面の界面活性剤の塗布膜の破れにより新たに露出したゴム表面のゴム表面エネルギーを低下させることができるものではなかった。これに対し、本発明は、ゴム表面の分子に直接、炭水化物中の低分子ポリマーが物理的に結合し、ゴム表面の分子運動を停止することができる。さらに、ゴムの歪等により新たにゴム表面が露出した場合であっても、炭水化物が歪に追従して崩壊し、分子レベルで新たなゴム表面に付着して離型性を維持することができる。
【0013】
本発明において、食物繊維を含む炭水化物としては、特に限定されるものではないが、例えば、コーンスターチ、小麦粉、米粉、ライ麦粉、じゃがいも、サツマイモ等の芋類、小豆、えんどう豆等の豆類を挙げることができ、中でもコーンスターチ、小麦粉および米粉よりなる群から選ばれる一種以上であることが好ましく、特にコーンスターチが好ましい。
【0014】
また、本発明において、炭水化物が粒径1〜100nmの粉であることが好ましい。かかる粒径の粉をゴム表面に付着させることで、ゴムと金型との密着を防止することができる。また、炭水化物を使用しているため環境にやさしく、乾燥が遅く塗布面が濡れた状態になることもなく、より短時間でゴム表面を乾燥できる。なお、粒径は、例えば株式会社日立ハイテクノロジーズ社製のSEM S−5000を用いたSEM観察等で測定することができる。
【0015】
また、本発明のゴム用離型剤は、炭水化物を0.1〜10質量%含有する水溶液であることが好ましい。かかる濃度の水溶液とすることで、容易にゴム表面に付着または塗布することができる。また、炭水化物を使用しているため環境にやさしく、乾燥が遅く塗布面が濡れた状態になることもなく、より短時間でゴム表面を乾燥できる。
【0016】
本発明のゴム用離型剤は、上記炭水化物の他に、必要に応じて、界面活性剤などを離型剤の任意成分として含有することができる。この成分は、目的に応じ、0〜2重量%含有されるものである。
【0017】
また、本発明のゴム用離型剤は、上記炭水化物、および必要に応じて含有することができる上記任意成分などを撹拌機などで撹拌させ、炭水化物を離型剤等成分中に充分分散または溶解等させることにより調製される。また、本発明のゴム用離型剤の塗布方法は、特に制限されるものではないが、仕上がりの均一性、生産性の点からスプレー塗布が好ましい。
【0018】
本発明のゴム用離型剤は、上述のごとく、タイヤを製造する際に、加硫前の段階で生タイヤ表面に塗布する実施形態に限定されるものではなく、ホース、コンベアベルトなどの加硫ゴム製品を製造する際に、加硫ゴムを金型から離型させるためにゴム加硫前にホース、コンベアベルトなどの未加硫ゴム表面に塗布する場合にも好適に使用できるものである。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、以下の記載により何ら限定されるものではない。
【0020】
(実施例1、2および比較例1、2)
下記表1に示す配合組成に基づいて調製した、実施例1、2および比較例1、2の離型剤を生タイヤ表面にスプレー塗布により塗布した。次いで、各離型剤を塗布した生タイヤを加硫して加硫タイヤ(サイズ:185/60R14)を作製した。この各々のタイヤにおけるタイヤ:ブラダー離型効果、離型剤塗布直後の粘着力について評価を行った結果を下記表1に示す。タイヤ:ブラダー離型効果、離型剤塗布直後の粘着力の評価は、下記の方法により行った。
【0021】
(タイヤ:ブラダー離型効果)
タイヤ−ブラダー離型効果は、加硫後のタイヤ及びブラダーの接触面のタイヤ300回加硫後の外観検査により行い、下記評価基準により評価した。
(評価基準)
○:外観が極めて良好で、離型剤の影響による表面変化がない。
×:タイヤ−ブラダー間の加硫が起こり、表面にゴム取られなどの現象が観察できる。
【0022】
(粘着力)
離型剤塗布直後の粘着力、1時間放置後の粘着力および1日放置後の粘着力の評価は、室温にてピックアップ式タッキネス計(東洋精機(株)製ピクマタックメーター)を用いて、粉砕天然ゴムと比較して測定した。評価については、比較例1の離型剤付着直後の粘着力を100として指数にて表示した。数値が小さいほど結果は良好である。
【0023】
【表1】

※1:コーンスターチ粉体(日本コーンスターチ社製、コーンスターチ、粒径50nm)
※2:炭酸カルシウム粉体(白石カルシウム社製、白艶華cc、粒径50nm)
※3:界面活性剤(花王(株)製、ポイズ532A)
【0024】
上記表1に示すように、実施例1および2のゴム用離型剤は、粘着性も低く、環境にやさしく、より短時間で乾燥でき、金型からの離型性も良好であった。これに対し、比較例1および2のゴム用離型剤は、炭酸カルシウム粉体または界面活性剤が付着したゴム用離型剤の付着膜が破れ、タイヤ−ブラダー間の加硫が起こり、表面にゴム取られなどの現象が観察された。また、粘着力も大きかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食物繊維を含む炭水化物を含有することを特徴とするゴム用離型剤。
【請求項2】
前記炭水化物が粒径1〜100nmの粉である請求項1記載のゴム用離型剤。
【請求項3】
前記炭水化物を0.1〜10質量%含有する水溶液である請求項1または2記載のゴム用離型剤。
【請求項4】
前記炭水化物が、コーンスターチ、小麦粉および米粉よりなる群から選ばれる一種以上である請求項1〜3のうちいずれか一項記載のゴム用離型剤。