説明

ゴム組成物、加硫ゴム及びタイヤ

【課題】タイヤの氷上性能及び耐摩耗性を向上させつつ、転がり抵抗を低減することが可能なゴム組成物を提供する。
【解決手段】ゴム成分(A)に対して、微粒子含有繊維(B)、発泡剤(C)、有機ケイ素化合物(D)、及び無機充填剤(E)を配合してなり、前記微粒子含有繊維(B)が、金属酸化物、金属炭酸塩、及び金属を含有する粘土鉱物からなる群から選択される少なくとも一種の微粒子と、親水性樹脂とからなり、前記有機ケイ素化合物(D)が−S−C−S−部分を含む特定の構造式で表わされることを特徴とするゴム組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物、該ゴム組成物を加硫して得た加硫ゴム、及び該加硫ゴムを具えるタイヤに関し、特にタイヤの氷上性能及び耐摩耗性を向上させつつ、転がり抵抗を低減することが可能なゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スパイクタイヤが規制されて以来、氷雪路面上でのタイヤの制動性や駆動性(氷上性能)を向上させるために、特にタイヤのトレッド部について種々の検討がなされている。例えば、タイヤのトレッドゴム中に中空繊維を配合することにより、氷雪路面上の水を該中空繊維の中空部分で排除し、タイヤの氷上性能を向上させることが行われている。しかしながら、この場合、トレッドゴム成形時における圧力、ゴム流れ、温度等により、中空繊維が中空形状を保つことができず、タイヤの氷上性能を充分に改善できないという問題があった。
【0003】
この問題に対して、特開平11−60770号公報(特許文献1)及び特開2001−2832号公報(特許文献2)では、発泡剤含有繊維を含むゴム組成物をタイヤのトレッド部に用いて、トレッド部にミクロな排水溝を形成することで、タイヤの排水性を向上させ、タイヤの氷上性能を向上させる技術が提案されている。また、特開2001−233993号公報(特許文献3)では、微粒子含有有機繊維を含むゴム組成物をトレッド部に用いたタイヤにおいて、有機繊維中に含まれる微粒子の含有量を増加させることにより、トレッドの水膜除去能に加えて、引っ掻き効果が向上し、タイヤの氷上性能が更に向上することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−60770号公報
【特許文献2】特開2001−2832号公報
【特許文献3】特開2001−233993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、昨今、タイヤの氷上性能に関して、上記特許文献1〜3に記載の技術より更に優れた技術が求められている。また、上記特許文献3に記載のように、氷上性能を向上させるために、有機繊維に微粒子を含有させる場合、微粒子の量を多くすると、氷上性能は高くなるものの、微粒子の含有量には限界があり、例えば、繊維の製造工程において、樹脂を高温で引き伸ばす紡糸・延伸の段階で、樹脂中に混入した微粒子が繊維の切断を誘発することがあるため、該微粒子の含有量を増加させ過ぎると、繊維の製造が著しく困難になるという問題があった。
【0006】
一方、発泡剤含有繊維を含むゴム組成物をタイヤのトレッド部に用いて、トレッド部にミクロな排水溝を形成することで、タイヤの排水性を向上させて、氷上性能を向上させることができるが、この場合、トレッド部に形成されたミクロな排水溝が路面を引っ掻くため、晴天時に乾燥路面上を走行する際のタイヤの耐摩耗性が低下したり、タイヤの転がり抵抗が大きくなるといった問題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、タイヤの氷上性能及び耐摩耗性を向上させつつ、転がり抵抗を低減することが可能なゴム組成物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかるゴム組成物を加硫して得た加硫ゴム、及び該加硫ゴムをトレッド部に備えるタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、ゴム成分に対して、特定の微粒子と親水性樹脂とからなる微粒子含有繊維、発泡剤、特定の有機ケイ素化合物、及び無機充填剤を配合したゴム組成物をタイヤのトレッド部に適用することにより、タイヤの氷上性能及び耐摩耗性を向上させつつ、転がり抵抗を低減できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明のゴム組成物は、
・ゴム成分(A)に対して、
・微粒子含有繊維(B)、
・発泡剤(C)、
・有機ケイ素化合物(D)及び
・無機充填剤(E)を配合してなり、
・前記微粒子含有繊維(B)が、金属酸化物、金属炭酸塩、及び金属を含有する粘土鉱物からなる群から選択される少なくとも一種の微粒子と、親水性樹脂とからなり、
・前記有機ケイ素化合物(D)が、下記一般式(I):
【化1】

[式中、X及びYはそれぞれ独立してO、S又はCH2を表し、R1及びR6はそれぞれ独立して水素、炭素数1〜18の1価炭化水素基、−(Cl2l−O)m7又は−Cl2l−NR78(ここで、l及びmはそれぞれ独立して1〜10であり、R7及びR8はそれぞれ独立して水素又は炭素数1〜10の1価炭化水素である)であり、R2及びR5はそれぞれ独立して炭素数1〜10の2価炭化水素基であり、R3及びR4はそれぞれ独立して水素又は炭素数1〜18の1価炭化水素である]で表わされる
ことを特徴とする。ここで、親水性樹脂は、水を溶媒としたときの接触角が90°以下の樹脂である。
【0010】
本発明のゴム組成物の好適例においては、前記親水性樹脂が、カルボキシル基、水酸基、エステル基、エーテル基及びカルボニル基からなる群から選択される少なくとも一種の官能基を含む樹脂である。この場合、長尺状気泡の集水効果が高い。
【0011】
本発明のゴム組成物において、前記金属酸化物としては、酸化チタン及び酸化アルミニウムが好ましく、該金属酸化物がセラミックス及びゼオライト(アルミノケイ酸塩)の内の少なくとも一方であることが更に好ましい。また、本発明のゴム組成物において、前記金属炭酸塩としては、炭酸カルシウムが好ましく、前記金属を含有する粘土鉱物としては、モンモリロナイトが好ましい。これらの場合、親水性樹脂との接着性を向上できる。
【0012】
本発明のゴム組成物の他の好適例においては、前記微粒子含有繊維(B)が、前記親水性樹脂100質量部に対して、前記微粒子を0.5〜200質量部含有する。この場合、長尺状気泡の引っ掻き効果が高い。
【0013】
本発明のゴム組成物の他の好適例においては、前記微粒子含有繊維(B)の含有量が、前記ゴム成分(A)100質量部に対し0.5〜30質量部である。この場合、長尺状気泡への集水を確実に向上させることができる。
【0014】
本発明のゴム組成物において、前記微粒子は、粒径が0.1〜500μmであることが好ましい。この場合、微粒子含有繊維の製造容易性が高い。
【0015】
本発明のゴム組成物において、前記微粒子含有繊維(B)は、平均径が1〜100μmであり、平均長さが0.1〜20mmであることが好ましい。この場合、長尺状気泡がミクロな排水溝として確実に機能することができる。
【0016】
本発明のゴム組成物において、前記親水性樹脂は、融点又は軟化点が加硫最高温度未満であることが好ましい。
【0017】
本発明のゴム組成物は、前記ゴム成分(A)100質量部に対して、前記無機充填剤(E)5〜140質量部を配合してなり、
前記有機ケイ素化合物(D)を、前記無機充填剤(E)の配合量の1〜20質量%含むことが好ましい。
【0018】
本発明のゴム組成物の他の好適例においては、前記無機充填剤(E)がシリカ又は水酸化アルミニウムである。ここで、該シリカは、BET表面積が40〜350m2/gであることが好ましい。
【0019】
また、本発明の加硫ゴムは、上記のゴム組成物を加硫して得られ、長尺状気泡を有することを特徴とする。ここで、本発明の加硫ゴムは、発泡率が3〜50%であることが好ましい。
【0020】
更に、本発明のタイヤは、上記の加硫ゴムをトレッド部に用いたことを特徴とする。ここで、本発明のタイヤにおいては、前記長尺状気泡がタイヤ周方向に配向していることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、特定の微粒子と親水性樹脂とからなる微粒子含有繊維、発泡剤、−S−C−S−部分を含む特定構造の有機ケイ素化合物、及び無機充填剤が配合されており、タイヤの氷上性能及び耐摩耗性を向上させつつ、転がり抵抗を低減することが可能なゴム組成物を提供することができる。また、かかるゴム組成物を加硫して得た、長尺状気泡を有する加硫ゴムと、該加硫ゴムをトレッド部に具え、氷上性能、耐摩耗性、及び低燃費性に優れるタイヤとを提供することができる。なお、本発明のゴム組成物に配合した微粒子含有繊維は親水性樹脂を含むため、ミクロな排水溝として作用する長尺状気泡の集水効果が高く、タイヤの氷上性能を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の加硫ゴムの一例の断面図である。
【図2】本発明のタイヤの一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<ゴム組成物>
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明のゴム組成物は、ゴム成分(A)に対して、微粒子含有繊維(B)、発泡剤(C)、有機ケイ素化合物(D)、及び無機充填剤(E)を配合してなり、前記微粒子含有繊維(B)が、金属酸化物、金属炭酸塩、及び金属を含有する粘土鉱物からなる群から選択される少なくとも一種の微粒子と、親水性樹脂とからなり、前記有機ケイ素化合物(D)が上記一般式(I)で表わされることを特徴とする。
【0024】
上記した通り、微粒子含有繊維を配合したゴム組成物を用いることでタイヤの氷上性能が向上することが知られるが、該微粒子は製造時に繊維を切断するおそれがあった。ここで、本発明者は、微粒子含有繊維について詳細に検討したところ、親水性の樹脂に金属を含む微粒子を配合すると、樹脂と微粒子との接着作用により、繊維の製造が容易になることを見出した。従って、製造容易性が高い微粒子含有繊維(B)と、発泡剤(C)とが配合された本発明のゴム組成物は、加硫後に形成される長尺状気泡に引っ掻き効果を確実に付与することができ、タイヤの氷上性能を向上させることができる。更に、かかるゴム組成物を加硫して得た加硫ゴムは、一般に疎水性を示すゴム成分(A)と、親水性の樹脂で被覆された長尺状気泡とから構成されるため、氷雪路面上の水を親水性の樹脂で覆われた長尺状気泡に効率的に集め、ミクロな排水溝により確実に排水することができる。従って、本発明のゴム組成物をトレッド部に適用することで、タイヤの氷上性能を大幅に向上させることができる。
【0025】
また、上記した通り、発泡剤含有繊維を含むゴム組成物をタイヤのトレッド部に用いて、トレッド部にミクロな排水溝を形成すると、該ミクロな排水溝が路面を引っ掻くため、乾燥路面上における耐摩耗性が低下したり、転がり抵抗が大きくなるが、上記特定の有機ケイ素化合物(D)をゴム組成物に配合することで、タイヤの転がり抵抗を低減しつつ、耐摩耗性を向上させることができる。理由は必ずしも明らかではないが、上記有機ケイ素化合物(D)においては、加硫時に生成する硫黄ラジカルが該有機ケイ素化合物の−S−C−S−結合と効率的に反応し開裂することによって−S−C・や・S−のようなゴム成分(A)と高い反応性を有するラジカル分子が生成するものと考えられる。また、上記有機ケイ素化合物(D)は、S−C−Sを介し、シリカ等の無機充填剤(E)との親和性や反応性を有する(R1X)3Si−及び(R6X)3Si−のケイ素部位を両末端に有している。そして、加硫時に生成した該ラジカル(Si−Cn−S−C・や・S−Cn−Si)が同一分子内のケイ素部分との相互作用を生じ、シリカ等の無機充填剤(E)との反応性を高め、結果的としてカップリング効率が向上することにより、ヒステリシスロスを大幅に低下させつつ、耐摩耗性を大幅に向上させることができるものと考えられる。
【0026】
<<ゴム成分(A)>>
本発明のゴム組成物のゴム成分(A)としては、特に制限はなく、天然ゴム(NR)の他、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニリトル−ブタジエンゴム(NBR)等の合成ゴムを使用することができ、天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムからなることが好ましい。これらゴム成分(A)は、一種単独で用いてもよいし、二種以上をブレンドして用いてもよい。
【0027】
<<微粒子含有繊維(B)>>
本発明のゴム組成物に用いる微粒子含有繊維(B)は、金属酸化物、金属炭酸塩及び金属を含有する粘土鉱物からなる群から選択される少なくとも一種の微粒子と、親水性樹脂とからなることを要する。本発明のゴム組成物に微粒子含有繊維(B)を配合することにより、長尺状気泡を親水性の樹脂で被覆することができる。なお、ゴム組成物中に繊維を配合することにより、ミクロな排水溝として機能する長尺状気泡が形成されるのであり、樹脂を直接配合するだけでは、長尺状気泡は形成されない。
【0028】
本発明のゴム組成物において、上記微粒子含有繊維(B)を構成する親水性樹脂としては、例えば、カルボキシル基、水酸基、エステル基、エーテル基、カルボニル基等の官能基を含む樹脂が挙げられる。上記親水性樹脂としては、水酸基又はカルボキシル基を含む樹脂が特に好ましい。また、上記親水性樹脂としては、アイオノマーが好ましい。
【0029】
本発明のゴム組成物において、上記微粒子含有繊維(B)を構成する親水性樹脂は、融点又は軟化点が、ゴム組成物の加硫時において該ゴム組成物が達する最高温度、即ち加硫最高温度未満であることが好ましい。発泡剤(C)を含有するゴム組成物中に微粒子含有繊維(B)が配合されている場合、該微粒子含有繊維(B)を構成する親水性樹脂は加硫中に溶融又は軟化し、一方、ゴムマトリクス中で加硫中に発泡剤(C)から発生したガスは、加硫反応が進行したゴムマトリクスに比べ、繊維を構成していた溶融又は軟化した親水性樹脂の内部に留まる傾向がある。ここで、上記親水性樹脂の融点又は軟化点が加硫最高温度未満であれば、ゴム組成物の加硫時に該樹脂が速やかに溶融又は軟化し、長尺状気泡を効率的に形成することができる。一方、上記親水性樹脂の融点又は軟化点が加硫最高温度に近くなり過ぎると、加硫初期に速やかに親水性樹脂が溶融(軟化を含む)せず、加硫終期に親水性樹脂が溶融する。加硫終期では、発泡剤(C)から発生したガスが加硫したゴムマトリクス中に分散乃至取り込まれてしまっており、溶融した樹脂内には十分な量のガスが保持されない。
【0030】
上記親水性樹脂の融点又は軟化点の上限は、以上の点を考慮して選択するのが好ましく、一般的には、ゴム組成物の加硫最高温度よりも、10℃以上低いことが好ましく、20℃以上低いことが更に好ましい。ゴム組成物の工業的な加硫温度は、一般的には最高で約190℃程度であるが、例えば、加硫最高温度が190℃に設定されている場合には、親水性樹脂の融点又は軟化点としては、通常190℃以下の範囲で選択され、180℃以下が好ましく、170℃以下が更に好ましい。
【0031】
本発明のゴム組成物において、上記微粒子含有繊維(B)を構成する微粒子は、親水性樹脂と接着作用を示す。上記微粒子としては、例えば、酸化チタン(チタニア)、酸化アルミニウム(アルミナ)等の金属酸化物の微粒子、炭酸カルシウム等の金属炭酸塩の微粒子、モンモリロナイト等の粘土鉱物の微粒子等が挙げられ、これらの中でも、金属イオンが存在する理由から粘土鉱物の微粒子が特に好ましい。これら微粒子は、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。なお、上記金属酸化物をセラミックス又はゼオライト(アルミノケイ酸塩)として用いてもよい。
【0032】
本発明のゴム組成物において、上記微粒子含有繊維(B)を構成する微粒子は、製造容易性の観点から、その粒径が0.1〜500μmであることが好ましい。該粒径が0.1μm未満では、氷雪路面上での引っ掻き効果が十分に得られず、一方、500μmを超えると、繊維製造時(溶融紡糸時)に糸が切断するため、細径化が困難となる。
【0033】
本発明のゴム組成物において、上記微粒子含有繊維(B)は、親水性樹脂100質量部に対して微粒子を0.5〜200質量部含有することが好ましく、1〜100質量部含有することが更に好ましい。該微粒子の含有量が0.5質量部未満では、氷雪路面上での引っ掻き効果が十分に得られず、一方、200質量部を超えると、紡糸操業性に劣り、糸切れが生じるおそれがある。
【0034】
本発明のゴム組成物において、上記微粒子含有繊維(B)の含有量は、上記ゴム成分(A)100質量部に対し0.5〜30質量部であることが好ましい。該微粒子含有繊維(B)の含有量が0.5質量部未満では、加硫ゴムに占める長尺状の空隙の体積比率が小さいため、十分な氷上性能が得られないおそれがあり、一方、30質量部を超えると、ゴム組成物中での微粒子含有繊維(B)の分散性が低下し、ゴム組成物の加工性が低下するおそれがある。
【0035】
本発明のゴム組成物に用いる微粒子含有繊維(B)は、平均径が1〜100μmであることが好ましく、10〜100μmであることが更に好ましい。この場合、繊維を構成していた親水性樹脂で覆われる長尺状気泡がミクロな排水溝として効率的に機能できる。また、微粒子含有繊維(B)の平均径が1μm未満では、親水性樹脂と微粒子から紡糸することができないおそれがあり、一方、100μmを超えると、微粒子含有繊維(B)の重量が増加し、ゴム組成物中の配合部数が高くなり過ぎるおそれがある。
【0036】
本発明のゴム組成物に用いる微粒子含有繊維(B)は、平均長さが0.1〜20mmであることが好ましく、0.5〜20mmであることが更に好ましく、1〜10mmであることがより一層好ましい。この場合、繊維を構成していた親水性樹脂で覆われる長尺状気泡がミクロな排水溝として効率的に機能できる。また、微粒子含有繊維(B)の平均長さが0.1mm未満では、長尺状気泡が形成され難い。一方、微粒子含有繊維(B)の平均長さが20mmを超えると、繊維の硬度が高くなり過ぎ、十分に混練りすることができず、また、トレッドのサイプが通常20mm程度であり、繊維の平均長さが20mmを超えても、氷上性能の向上効果が得難い。
【0037】
本発明のゴム組成物に用いる微粒子含有繊維(B)は、常法により製造することができ、該繊維の製造方法としては、溶融紡糸法、ゲル紡糸法、溶液紡糸法等が挙げられる。例えば、溶融紡糸法では、押出機中で原料樹脂を加熱・溶融した後、微粒子を分散させ、次いで紡糸ノズルより押し出された繊維の束を紡糸筒内で引き伸ばしつつ空気流により冷却して固化させ、その後、油剤を付与して1本にまとめ、巻き取ることにより、微粒子含有繊維(B)を製造することができる。一方、溶液紡糸法では、原料樹脂を溶解したポリマー溶液に微粒子を分散させ、これを紡糸ノズルより押し出し、脱溶媒等を行うことにより繊維化し、繊維を製造することができる。
【0038】
<<発泡剤(C)>>
本発明のゴム組成物に用いる発泡剤(C)としては、アゾジカルボンアミド(ADCA)、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、ジニトロソペンタスチレンテトラミンやベンゼンスルホニルヒドラジド誘導体、p,p'-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、二酸化炭素を発生する重炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、窒素を発生するニトロソスルホニルアゾ化合物、N,N'-ジメチル-N,N'-ジニトロソフタルアミド、トルエンスルホニルヒドラジド、p-トルエンスルホニルセミカルバジド、p,p'-オキシビスベンゼンスルホニルセミカルバジド等が挙げられる。これら発泡剤(C)の中でも、製造加工性の観点から、アゾジカルボンアミド(ADCA)、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)が好ましく、特にアゾジカルボンアミド(ADCA)が好ましい。これら発泡剤は、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。また、該発泡剤(C)の配合量は、特に限定されるものではないが、上記ゴム成分(A)100質量部に対して0.1〜10質量部の範囲が好ましい。
【0039】
また、上記発泡剤(C)には、発泡助剤として尿素、ステアリン酸亜鉛、ベンゼンスルフィン酸亜鉛や亜鉛華等を併用することが好ましい。これらは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。発泡助剤を併用することにより、発泡反応を促進して反応の完結度を高め、経時的に不要な劣化を抑制することができる。
【0040】
<<有機ケイ素化合物(D)>>
本発明のゴム組成物に用いる有機ケイ素化合物(D)は、上記一般式(I)で表わされる。該有機ケイ素化合物(D)は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
上記一般式(I)において、X及びYは、それぞれ独立してO、S又はCH2である。なお、X及びYは、原料化合物のコストの点や取り扱いの容易さの点から、O又はCH2であることが好ましい。
【0042】
上記一般式(I)において、R1及びR6は、それぞれ独立して水素、炭素数1〜18の1価炭化水素基、−(Cl2l−O)m7又は−Cl2l−NR78を示し、ここで、l及びmはそれぞれ独立して1〜10であり、また、R7及びR8はそれぞれ独立して水素又は炭素数1〜10の1価炭化水素基である。炭素数1〜18の1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデカニル基、ヘキサデカニル基、オクタデカニル基等のアルキル基や、該アルキル基に1個または複数不飽和結合を含んだアリル基、ブテニル基等のアルケニル基、三重結合を含んだアルキニル基が挙げられる。これら1価炭化水素基は、直鎖状でも、分岐状でも、環状でもよい。−Cl2l−は、lが1〜10であるため炭素数1〜10のアルキレン基であり、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、ブチレン基、へキシレン基、デシレン基等が挙げられ、該アルキレン基は、直鎖状でも分岐状でもよく、また、環状構造を含んでいてもよい。また、−(Cl2l−O)mは、mが1〜10であり、エチレンオキシ基やプロピレンオキシ基、ジエチレンジオキシ基やジプロピレンジオキシ基等が挙げられる。また、R7及びR8の炭素数1〜10の1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基や、該アルキル基に不飽和結合を含んだアリル基、ブテニル基等のアルケニル基、三重結合を含んだアルキニル基が挙げられ、これら不飽和結合や三重結合は複数個含んでいてもよい。これら1価炭化水素基は、直鎖状でも、分岐状でも、環状でもよい。式(I)中のR1及びR6は、それぞれ同一でも異なってもよく、3つのR1または3つのR6は、それぞれ下記のように連結して環化していてもよい。
【化2】

【0043】
上記一般式(I)で表わされる有機ケイ素化合物(D)は、式中の2つのR1及び/又は2つのR6が連結し環化して、−Cl2l−NR7−Cl2l−を形成していることが好ましく、ここで、R7及び−Cl2l−については、上述の通りである。
【0044】
なお、上記一般式(I)中の(R1X)3Si−及び(R6X)3Si−の部分については、下記のものを代表例として例示することができる。ここで、Meはメチル基を示し、Etはエチル基を示し、Prはプロピル基を示し、Buはブチル基を示す。
(MeO)3Si−、(EtO)3Si−、(PrO)3Si−、(BuO)3Si−、(C6H13O)3Si−、
(C6H12O)3Si−、[2-(C2H5)C6H12O]3Si−、(C8H17O)3Si−、(C10H21O)3Si−、
(EtO)(CH3)2Si−、(EtO)(CH3)2Si−、(EtO)(C2H4O2)Si−、
(EtO)(C3H7O2)Si−、(EtO)2(MeOC2H4O)Si−、(EtO)2[Me(OC2H4)2O]Si−、
(EtO)2[Me(OC2H4)8O]Si−、(EtO)2(C10H21O)Si−、(EtO)2(Me2NC2H4O)Si−、
(EtO)[MeN(C2H4)2O2]Si−、Me[MeN(C2H4)2O2]Si−、[N(C2H4)3O3]Si−
【0045】
上記一般式(I)において、R2及びR5は、それぞれ独立して1〜10の2価炭化水素基である。これら2価炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、ブチレン基、へキシレン基、デシレン基等のアルキレン基が挙げられ、該アルキレン基には不飽和結合や三重結合を含んでいてもよい。また、これら2価炭化水素基は、直鎖状でも、分岐状でも、環状構造を含んでいてもよい。式(I)中のR2及びR5は、同一でも異なってもよいが、有機ケイ素化合物(D)の製造のし易さの点で同一の方が好ましく、またプロピレン基であることがコストの点からより好ましい。
【0046】
上記一般式(I)において、R3及びR4は、それぞれ独立して水素又は炭素数1〜18の1価炭化水素基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデカニル基、ヘキサデカニル基、オクタデカニル基等のアルキル基や、該アルキル基に不飽和結合を含んだアリル基、ブテニル基等のアルケニル基、三重結合を含んだアルキニル基が挙げられ、これら不飽和結合や三重結合は複数個含んでいてもよい。これら1価炭化水素基は、直鎖状でも、分岐状でも、環状でもよい。式(I)中のR3及びR4は、同一でも異なってもよく、また互いにアルキレン結合等で連結して環化していてもよい。
【0047】
なお、R3に結合しているYはO、S又はCH2であるが、原料化合物のコストの点でO又はCH2であることが好ましく、さらに製造の容易さの点からCH2であることが最も好ましい。なお、上記一般式(I)中の−S−CYR3(R4)−S−の部分については、下記のものを代表例として例示することができる。
−S−CH(CH3)−S−−S−CH(C2H5)−S−、−S−CH(C3H7)−S−、
−S−CH(C4H9)−S−、−S−CH(C8H17)−S−、−S−CH(C11H23)−S−
−S−C(CH3)2−S−、−S−C(CH3)(C4H9)−S−、−S−C(CH3)(C6H13)−S−
−S−C(CH3)(C10H21)−S−、−S−C(C2H5)2−S−−S−C(C4H9)2−S−
−S−C(C8H17)2−S−−S−C(C5H10)−S−−S−CH(OCH3)−S−
−S−CH(OC2H5)−S−−S−C(CH3)(OC2H5)−S−−S−C(C4H9)(OC2H5)−S−
【0048】
また、上記有機ケイ素化合物(D)としては、下記のものを代表例として例示することができる。
(EtO)3Si−(CH2)3−S−CH(CH3)−S−(CH2)3−Si(OEt)3
(EtO)3Si−(CH2)3−S−CH(C2H5)−S−(CH2)3−Si(OEt)3
(EtO)3Si−(CH2)3−S−CH(C4H9)−S−(CH2)3−Si(OEt)3
(EtO)3Si−(CH2)3−S−CH(C8H17)−S−(CH2)3−Si(OEt)3
(EtO)3Si−(CH2)3−S−CH(C11H23)−S−(CH2)3−Si(OEt)3
(EtO)3Si−(CH2)3−S−C(CH3)2−S−(CH2)3−Si(OEt)3
(EtO)3Si−(CH2)3−S−C(CH3)(C4H9)−S−(CH2)3−Si(OEt)3
(EtO)3Si−(CH2)3−S−C(CH3)(C6H13)−S−(CH2)3−Si(OEt)3
(EtO)3Si−(CH2)3−S−C(CH3)(C10H21)−S−(CH2)3−Si(OEt)3
(EtO)3Si−(CH2)3−S−C(C4H9)2−S−(CH2)3−Si(OEt)3
(EtO)3Si−(CH2)3−S−C(C5H10)−S−(CH2)3−Si(OEt)3
(EtO)3Si−(CH2)3−S−CH(OC2H5)−S−(CH2)3−Si(OEt)3
(EtO)3Si−(CH2)3−S−C(CH3)(OC2H5)−S−(CH2)3−Si(OEt)3
(EtO)3Si−(CH2)3−S−C(C4H9)(OC2H5)−S−(CH2)3−Si(OEt)3
(EtO)2(CH3)Si−(CH2)3−S−C(CH3)2−S−(CH2)3−Si(CH3)(EtO)2
(EtO)(CH3)2Si−(CH2)3−S−C(CH3)2−S−(CH2)3−Si(CH3)2(EtO)
(EtO)2(C10H21O)Si−(CH2)3−S−C(CH3)2−S−(CH2)3−Si(OC10H21)(EtO)2
(EtO)[MeN(C2H4)2O2]Si−(CH2)3−S−CH(CH3)−S−(CH2)3−Si(EtO)3
(EtO)[MeN(C2H4)2O2]Si−(CH2)3−S−CH(CH3)−S−(CH2)3−Si[O2(C2H4)2NMe](EtO)
(EtO)2(Me2NC2H4O)Si−(CH2)3−S−C(CH3)2−S−(CH2)3−Si(OC2H4NMe2)(EtO)2
(EtO)[MeN(C2H4)2O2]Si−(CH2)3−S−C(CH3)2−S−(CH2)3−Si[O2(C2H4)2NMe](EtO)
(EtO)[MeN(C2H4)2O2]Si−(CH2)3−S−C(CH3)(C6H13)−S−(CH2)3−Si(EtO)3
[N(C2H4)3O3]Si−(CH2)3−S−C(CH3)2−S−(CH2)3−Si(EtO)3
(EtO)2(Me2NC2H4O)Si−(CH2)3−S−C(CH3)2−S−(CH2)3−Si(OC10H21)(EtO)2
【0049】
上記有機ケイ素化合物(D)は、例えば、メルカプトメチルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルジエトキシメチルシラン、3−メルカプトプロピルジエトキシデカノキシシラン、3−メルカプトプロピルエトキシ(N−メチルアミノジエトキシ)シラン等のメルカプト基を有するシラン化合物とアルデヒド、ケトンのようなカルボニル化合物やアルキン化合物、アセタール化合物やオルトエステル化合物等との反応によって製造することができ、製造法は特に限定されない。
【0050】
また、上記反応において触媒の使用は任意であり、例えば、p−トルエンスルホン酸およびカルボン酸および無機酸などのプロトン性(ブレンステッド)酸、三フッ化ホウ素、塩化アルミニウム、テトライソプロポキシチタン、ハフニウムトリフレート、塩化亜鉛、塩化スズなどの非プロトン性(ルイス)酸、さらにはゼオライト、アルミナ、イオン交換樹脂などの固体触媒等必要に応じて様々な触媒を用いることができ、特に限定されない。
【0051】
また、上記反応の溶媒の使用は任意であり、たとえば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジオキサン塩化メチレンなど種々の炭化水素溶媒が挙げられ、特に限定されないが、製造コストの点で溶媒を使用しないことが最も好ましい。
【0052】
上述の有機ケイ素化合物(D)の配合量は、後述する無機充填剤(E)の配合量の1〜20質量%の範囲が好ましい。有機ケイ素化合物(D)の含有量が無機充填剤(E)の配合量の1質量%未満では、ゴム組成物のヒステリシスロスを低下させる効果、並びに耐摩耗性を向上させる効果が不十分であり、一方、20質量%を超えると、効果が飽和してしまう。
【0053】
<<無機充填剤(E)>>
本発明のゴム組成物に用いる無機充填剤(E)としては、シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ、クレー、炭酸カルシウム等が挙げられ、これらの中でも、補強性の観点から、シリカ及び水酸化アルミニウムが好ましく、シリカが特に好ましい。無機充填剤(E)がシリカの場合は、有機ケイ素化合物(D)は、シリカ表面のシラノール基との親和力の高い官能基及び/又はケイ素原子(Si)との親和性が高い官能基を有するため、カップリング効率が大幅に向上して、ゴム組成物のヒステリシスロスを低下させ、耐摩耗性を向上させる効果が一層顕著になる。なお、シリカとしては、特に制限はなく、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)等を使用することができ、一方、水酸化アルミニウムとしては、ハイジライト(登録商標、昭和電工製)を用いることが好ましい。
【0054】
上記シリカは、BET表面積が40〜350m2/gであることが好ましい。シリカのBET表面積が40m2/g以下の場合、該シリカの粒子径が大きすぎるために耐摩耗性が大きく低下してしまい、また、シリカのBET表面積が350m2/g以上の場合、該シリカの粒子径が小さすぎるためにヒステリシスロスが大きく増加してしまう。
【0055】
上記無機充填剤(E)の配合量は、上記ゴム成分(A)100質量部に対して5〜140質量部の範囲が好ましい。無機充填剤(E)の配合量が上記ゴム成分(A)100質量部に対して5質量部未満では、ヒステリシスを低下させる効果が不十分であり、一方、140質量部を超えると、作業性が著しく悪化するためである。
【0056】
<<ゴム組成物の製造方法>>
本発明のゴム組成物は、上記ゴム成分(A)に、微粒子含有繊維(B)、発泡剤(C)、有機ケイ素化合物(D)、無機充填剤(E)、発泡助剤と共に、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、カーボンブラック等の他の充填剤、軟化剤、ステアリン酸、老化防止剤、亜鉛華、加硫促進剤、加硫剤等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合して、混練り、熱入れ、押出等することにより製造することができる。
【0057】
<加硫ゴム>
次に、図を参照しながら本発明の加硫ゴムを詳細に説明する。図1は、本発明の加硫ゴムの一例の断面図である。本発明の加硫ゴムは、上記のゴム組成物を加硫することにより得られるが、図1に示す通り、本発明の加硫ゴム1は、長尺状気泡2を有し、該長尺状気泡2が被膜3で囲まれており、該長尺状気泡2を囲む被膜3が上記微粒子含有繊維を構成していた親水性樹脂3aと微粒子3bからなる。ここで、被膜3を構成する微粒子3bにより氷雪路面上での引っ掻き効果を高めつつ、親水性樹脂3aにより氷雪路面上の水を効率的に集め、ミクロな排水溝として作用する長尺状気泡2により排水することにより、タイヤの氷上性能を大幅に向上させることができる。
【0058】
図1に示す長尺状気泡2は、一定方向に配向しているが、この長尺状気泡の配向を揃える手法としては、未加硫ゴム組成物中に分散している微粒子含有繊維を一定方向に配列させればよく、例えば、流路断面積が出口に向かって低減する押出機を用いて、微粒子含有繊維を含むゴム組成物を押し出す方法が挙げられる。
【0059】
本発明の加硫ゴムの発泡率(Vs)は、3〜50%が好ましく、3〜40%が更に好ましく、5〜35%がより一層好ましい。発泡率が3%未満では、氷雪路面上の水を除去することができる長尺状気泡の体積が小さ過ぎ、排水性能が低下するおそれがあり、一方、50%を超えると、長尺状気泡の数が多過ぎ、タイヤの耐久性が低下する。なお、上記発泡率(Vs)は、長尺状気泡と、微粒子含有繊維を構成していた親水性樹脂の内部に留まらずに形成された気泡との合計の発泡率である。
【0060】
上記発泡率(Vs)(%)は、下記式(II):
Vs =(ρ0/ρ1−1)×100 ・・・ (II)
[式中、ρ1は加硫ゴムの密度(g/cm3)、ρ0は加硫ゴムにおける固相部の密度(g/cm3)である]により算出できる。
【0061】
<タイヤ>
次に、図を参照しながら本発明のタイヤを詳細に説明する。図2は、本発明のタイヤの一例の断面図である。図2に示すタイヤは、左右一対のビード部4及び一対のサイドウォール部5と、両サイドウォール部5に連なるトレッド部6とを有し、前記一対のビード部4間にトロイド状に延在して、これら各部4,5,6を補強するカーカス7と、該カーカス7のクラウン部のタイヤ半径方向外側に配置されたベルト8とを具える。ここで、本発明のタイヤは、トレッド部6に上述した加硫ゴムを適用することを特徴とする。本発明のタイヤは、上記加硫ゴムをトレッド部6に具えることで、少なくとも接地部分に長尺状気泡が形成されており、優れた氷上性能を発揮することができる。また、上記加硫ゴムに用いるゴム組成物は、ヒステリシスロスが小さいため、トレッド部6が低発熱性になり、タイヤの転がり抵抗を低減することができる。更に、上記ゴム組成物から作製した加硫ゴムは耐摩耗性が高いため、トレッド部6の耐摩耗性も大幅に向上させることができる。
【0062】
図2に示すタイヤのカーカス7は、一枚のカーカスプライから構成されており、また、上記ビード部4内に夫々埋設した一対のビードコア9間にトロイド状に延在する本体部と、各ビードコア9の周りでタイヤ幅方向の内側から外側に向けて半径方向外方に巻上げた折り返し部とからなるが、本発明のタイヤにおいて、カーカス7のプライ数及び構造は、これに限られるものではない。
【0063】
また、図2に示すタイヤのベルト8は、二枚のベルト層から構成されており、各ベルト層は、通常、タイヤ赤道面に対して傾斜して延びるコードのゴム引き層、好ましくは、スチールコードのゴム引き層からなり、更に、二枚のベルト層が、該ベルト層を構成するコードが互いにタイヤ赤道面を挟んで交差するように積層されてベルト8を構成している。なお、図中のベルト8は、二枚のベルト層からなるが、本発明のタイヤにおいて、ベルト8を構成するベルト層の枚数は、これに限られるものではない。
【0064】
また、本発明のタイヤにおいては、上記ゴム組成物を用いて未加硫トレッドゴムを形成し、常法に従って、該未加硫トレッドゴムをトレッド部に備える生タイヤを形成し、該生タイヤを加硫することで、微粒子含有繊維を構成していた親水性樹脂で覆われた長尺状気泡をトレッド部に形成させることができる。
【0065】
更に、本発明のタイヤは、排水性を向上させる観点から、上記長尺状気泡がタイヤ周方向に配向されていることが好ましい。この場合、上述の方法により得た、繊維が一定方向に配列しているゴム組成物を用いて未加硫トレッドゴムを形成し、該未加硫トレッドゴム中の繊維の配向方向がタイヤ周方向と一致するように未加硫トレッドゴムを配置して、生タイヤを形成すればよい。なお、本発明の空気入りタイヤにおいて、タイヤ内に充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を変えた空気、又は窒素等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0066】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0067】
<微粒子含有繊維の製造例>
表1に示す配合処方の親水性樹脂及び微粒子を用い、通常の溶融紡糸法に従って微粒子含有繊維を製造した。なお、該繊維の平均径及び平均長さを下記の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0068】
(1)平均径及び平均長さ
得られた微粒子含有繊維を無作為に20箇所選択し、光学顕微鏡を用いて直径(μm)及び長さ(mm)を測定し、その平均値を求めた。
【0069】
【表1】

【0070】
*1 ポリエチレン,日本ポリエチレン(株)製,「HDPE」,水との接触角=120°
*2 三井デュポンポリケミカル(株)製,「ハイミラン 1557」,官能基としてメタクリル酸由来のカルボキシル基を含む樹脂,水との接触角=73°
*3 繊維化することができなかった
*4 樹脂100質量部に対する微粒子の配合量 (質量部)
【0071】
表1から、樹脂としてポリエチレンを用いた場合(繊維A〜B)、微粒子の含有量が増加すると、繊維化できないことが分かる。一方、親水性樹脂であるアイオノマー樹脂を用いた場合(繊維C〜G)、微粒子の含有量が増加しても、微粒子含有繊維を製造できることが分かる。
【0072】
<有機ケイ素化合物の製造例1>
200 mlのナスフラスコに、3−メルカプトプロピルジエトキシデカノキシシラン 59.1 g、アセトンジエチルアセタール 13.2 g、p−トルエンスルホン酸 0.01 gを仕込み、90℃で2時間反応させた。得られた反応物を室温〜200℃/133Paで低沸点成分を取り除き、このものを1H−NMR、GC−MSで分析したところ、下記有機ケイ素化合物(D−1)が83%の純度であることが分かった。
D−1:(EtO)2(C10H21O)Si−(CH2)3−S−C(CH3)2−S−(CH2)3−Si(OC10H21)(EtO)2
【0073】
<有機ケイ素化合物の製造例2>
200 mlのナスフラスコに、2−ウンデカノン 17.0 g、オルトギ酸トリエチル 17.8 g、トルフルオロメタンスルホン酸ハフニウム(IV)0.08 gを仕込み、室温で8時間反応させた。その後、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン 69.6 gを滴下し、滴下後、室温でさらに2時間反応させた。得られた反応物を室温〜200℃/133Paで低沸点成分を取り除き、このものを1H−NMR、GC−MSで分析したところ、下記有機ケイ素化合物(D−2)が89%の純度であることが分かった。
D−2:(EtO)3Si−(CH2)3−S−C(CH3)(C10H21)−S−(CH2)3−Si(OEt)3
【0074】
<有機ケイ素化合物の製造例3>
200 mlのナスフラスコに、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン 59.1 g、シクロヘキサノンジエチルアセタール 17.2 g、p−トルエンスルホン酸 0.03 gを仕込み、90℃で2時間反応させた。得られた反応物を室温〜200℃/133Paで低沸点成分を取り除き、このものを1H−NMR、GC−MSで分析したところ、下記有機ケイ素化合物(D−3)が92%の純度であることが分かった。
D−3:(EtO)3Si−(CH2)3−S−C(C5H10)−S−(CH2)3−Si(OEt)3
【0075】
<有機ケイ素化合物の製造例4>
200 mlのナスフラスコに、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン 35.7 g、アセタール 11.8 g、p−トルエンスルホン酸 0.02 gを仕込み、90℃で2時間反応させた。得られた反応物をそのまま蒸留を行い、220℃〜230℃/133Paで留分を得た。このものを1H−NMR、GC−MSで分析したところ、下記有機ケイ素化合物(D−4A)が98%の純度であることが分かった。さらに有機ケイ素化合物(D−4A)25.1 gにN−メチルジエタノールアミン 6.0 g、テトラブトキシチタン 0.01 gを加え、120℃で6時間反応させた。得られた反応物を室温〜200℃/133Paで低沸点成分を取り除き、このものを1H−NMR、GC−MSで分析したところ、下記有機ケイ素化合物(D−4A)、(D−4B)、(D−4C)がそれぞれ9/77/14の比で含まれる混合物であることが分かり、これら混合物(D−4A〜C)の純度は95%であった。
D−4A:(EtO)3Si−(CH2)3−S−CH(CH3)−S−(CH2)3−Si(EtO)3
D−4B:(EtO)[MeN(C2H4)2O2]Si−(CH2)3−S−CH(CH3)−S−(CH2)3−Si(EtO)3
D−4C:(EtO)[MeN(C2H4)2O2]Si−(CH2)3−S−CH(CH3)−S−(CH2)3−Si[O2(C2H4)2NMe](EtO)
【0076】
<有機ケイ素化合物の製造例5>
200 mlのナスフラスコに、2−オクタノン 12.8 g、オルトギ酸トリエチル 17.8 g、トルフルオロメタンスルホン酸ハフニウム(IV)0.08 gを仕込み、室温で1時間反応させた。その後、3−メルカプトプロピルジエトキシメチルシラン 41.6 gを滴下し、滴下後、室温でさらに2時間反応させた。得られた反応物を室温〜200℃/133Paで低沸点成分を取り除き、このものを1H−NMR、GC−MSで分析したところ、下記有機ケイ素化合物(D−5)が87%の純度であることが分かった。
D−5:(EtO)2(CH3)Si−(CH2)3−S−C(CH3)(C6H13)−S−(CH2)3−Si(CH3)(EtO)2
【0077】
<ゴム組成物の調製及び評価>
微粒子含有繊維として、上記繊維A、繊維C、繊維D、繊維E、繊維F、繊維Gを用い、有機ケイ素化合物として、上記の方法で合成した有機ケイ素化合物(D−1)、有機ケイ素化合物(D−2)、有機ケイ素化合物(D−3)、有機ケイ素化合物(D−4)[有機ケイ素化合物(D−4A)、(D−4B)、(D−4C)の混合物(質量比=9/77/14)]、有機ケイ素化合物(D−5)、或いはビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドを用いて、表2〜4に従う配合処方のゴム組成物を、バンバリーミキサーにて混練して調製した。次に、得られたゴム組成物の加硫物性を下記の方法で測定した。結果を表2〜4に示す。
【0078】
(2)動的粘弾性
上島製作所製スペクトロメーター(動的粘弾性測定試験機)を用い、周波数52Hz、初期歪10%、測定温度60℃、動歪1%で、加硫ゴムのtanδを測定し、比較例1のtanδの値を100として指数表示した。指数値が小さい程、tanδが低く、ゴム組成物が低発熱性であることを示す。
【0079】
(3)耐摩耗性試験
JIS K 6264−2:2005に準拠し、ランボーン型摩耗試験機を用いて、室温、スリップ率25%の条件で試験を行い、比較例1の摩耗量の逆数を100として指数表示した。指数値が大きい程、摩耗量が少なく、耐摩耗性に優れることを示す。
【0080】
<タイヤの作製及び評価>
表2〜4に示す配合処方に従い、配合した微粒子含有繊維が一定方向に配列しているゴム組成物を調製した。該ゴム組成物を用いてトレッドゴムを作製し、ゴム組成物中の微粒子含有繊維がタイヤ周方向に配向するように、該トレッドゴムを配設して生タイヤを作製した。次に、得られた生タイヤを加硫し、サイズ185/70R13の乗用車用ラジアルタイヤを作製した。なお、各ゴム組成物の加硫中の加硫最高温度は、いずれも200℃であった。得られたタイヤについて、トレッド部を形成する加硫ゴムの発泡率を上記式(II)により算出し、氷上性能を下記の方法で評価し、発泡形態を下記の方法で確認した。結果を表2〜3に示す。
【0081】
(4)氷上性能
トレッド部の摩耗率が20%のタイヤを装着した乗用車にて、氷上平坦路を走行させ、時速20km/hの時点でブレーキをかけてタイヤをロックさせ、停止状態になるまでの制動距離を測定した。比較例1のタイヤの制動距離の逆数を100として指数表示した。指数値が大きい程、氷上での制動性に優れることを示す。なお、トレッド部の摩耗率は、下記式により算出した。
摩耗率(%)=(1−摩耗後の溝深さ/新品時の溝深さ)×100
【0082】
(5)発泡形態
得られたタイヤのトレッドセンター部から加硫ゴム片を切り取り、このサンプルを走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した。いずれのタイヤについても、繊維を構成していた樹脂で覆われた長尺状気泡を確認できた。
【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
【表4】

【0086】
*5 JSR(株)製,「BR01」,シス−1,4−ポリブタジエン
*6 旭カーボン(株)製,「カーボンN220」
*7 日本シリカ工業(株)製,「ニプシル−VN3」,BET表面積=180m2/g
*8 大内新興化学工業(株)製,「ノクラック6C」
*9 ジベンゾチアジルジスルフィド
*10 N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリル−スルフェンアミド
*11 アゾジカルボンアミド
*12 大塚化学(株)製,ベンゼンスルフィン酸亜鉛
*13 尿素:ステアリン酸=85:15(質量比)の混合物
*14 ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド
【0087】
表2〜4から、従来のシランカップリング剤(*14)に代えて、式(I)で表わされる有機ケイ素化合物(D)を配合することで、ゴム組成物のtanδを大幅に低減、即ち、ヒステリシスロスを大幅に低減して、低発熱性にしつつ、耐摩耗性を大幅に改善できることが分かる。
【0088】
また、表2〜4から明らかなように、本発明に従う微粒子含有繊維(B)を配合してなる実施例1〜25のゴム組成物は、通常の樹脂と微粒子の組合せからなる微粒子含有繊維を配合した比較例1のゴム組成物に比べて、タイヤの氷上性能を大幅に向上させることができる。
【符号の説明】
【0089】
1 加硫ゴム
2 長尺状気泡
3 被膜
3a 親水性樹脂
3b 微粒子
4 ビード部
5 サイドウォール部
6 トレッド部
7 カーカス
8 ベルト
9 ビードコア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分(A)に対して、微粒子含有繊維(B)、発泡剤(C)、有機ケイ素化合物(D)及び無機充填剤(E)を配合してなり、
前記微粒子含有繊維(B)が、金属酸化物、金属炭酸塩、及び金属を含有する粘土鉱物からなる群から選択される少なくとも一種の微粒子と、親水性樹脂とからなり、
前記有機ケイ素化合物(D)が、下記一般式(I):
【化1】

[式中、X及びYはそれぞれ独立してO、S又はCH2を表し、R1及びR6はそれぞれ独立して水素、炭素数1〜18の1価炭化水素基、−(Cl2l−O)m7又は−Cl2l−NR78(ここで、l及びmはそれぞれ独立して1〜10であり、R7及びR8はそれぞれ独立して水素又は炭素数1〜10の1価炭化水素である)であり、R2及びR5はそれぞれ独立して炭素数1〜10の2価炭化水素基であり、R3及びR4はそれぞれ独立して水素又は炭素数1〜18の1価炭化水素である]で表わされる
ことを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記親水性樹脂が、カルボキシル基、水酸基、エステル基、エーテル基及びカルボニル基からなる群から選択される少なくとも一種の官能基を含む樹脂であること特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記金属酸化物が、酸化チタン及び酸化アルミニウムの内の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記金属酸化物が、セラミックス及びゼオライトの内の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1又は3に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記金属炭酸塩が炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記金属を含有する粘土鉱物がモンモリロナイトであることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記微粒子含有繊維(B)が、前記親水性樹脂100質量部に対して、前記微粒子を0.5〜200質量部含有することを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項8】
前記微粒子含有繊維(B)の含有量が、前記ゴム成分(A)100質量部に対し0.5〜30質量部であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項9】
前記微粒子は、粒径が0.1〜500μmであることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項10】
前記微粒子含有繊維(B)は、平均径が1〜100μmであり、平均長さが0.1〜20mmであることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項11】
前記親水性樹脂は、融点又は軟化点が加硫最高温度未満であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項12】
前記ゴム成分(A)100質量部に対して、前記無機充填剤(E)5〜140質量部を配合してなり、
前記有機ケイ素化合物(D)を、前記無機充填剤(E)の配合量の1〜20質量%含むことを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項13】
前記無機充填剤(E)がシリカ又は水酸化アルミニウムであることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項14】
前記シリカのBET表面積が40〜350m2/gであることを特徴とする請求項13に記載のゴム組成物。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載のゴム組成物を加硫して得た、長尺状気泡を有することを特徴とする加硫ゴム。
【請求項16】
発泡率が3〜50%であることを特徴とする請求項15に記載の加硫ゴム。
【請求項17】
請求項15又は16に記載の加硫ゴムをトレッド部に用いたタイヤ。
【請求項18】
前記長尺状気泡がタイヤ周方向に配向していることを特徴とする請求項17に記載のタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−57054(P2012−57054A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201854(P2010−201854)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】