説明

ゴム組成物およびそれを用いた電線、ケーブルおよびゴム成形品

【課題】
ハロゲン含有エラストマーを含有するゴム組成物において、鉛を含む化合物を使用せずに、前記ゴム組成物の加硫成形体の耐水性が高く、且つ前記加硫成形体内に水泡を生じる恐れの無い前記ゴム組成物と、前記ゴム組成物を被覆し加硫した耐水性電線、耐水性ケーブル、前記ゴム組成物を成形し加硫してなる耐水性ゴム成形品、ならびに前記ゴム組成物を加硫成形してなる耐水性ゴム成形品を提供する。
【解決手段】
ハロゲン含有エラストマーとビスマス系化合物を含有するゴム組成物、および前記ゴム組成物から得られた耐水性加硫成形体(電線被覆材、ケーブル被覆材またはゴム成形品など)である。前記耐水性加硫成形体は、高い耐水性が要求される加硫成形体に好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン含有エラストマーとビスマス系化合物を含有するゴム組成物およびそれを用いた電線、ケーブルおよびゴム成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン含有エラストマーを含有するゴム組成物には、加工安全性、加硫速度調整および耐熱性向上のために、酸受容体として金属酸化物を添加することが一般的である。前記酸受容体は前記ゴム組成物中で加硫剤として機能する。前記酸受容体としては、酸化マグネシウムが一般的に使用されており、例えばクロロプレン系重合体を含むクロロプレンゴム組成物の場合は、前記酸受容体として、酸化マグネシウムと酸化亜鉛を組み合わせて使用することが一般的である。
【0003】
しかしながら、酸化マグネシウムを前記酸受容体として使用した場合、得られる前記ゴム組成物の加硫成形体の耐水性が低いため、前記加硫成形体の用途が、例えば航空照明用などに用いられるような、屋外配線用電線被覆材、屋外配線用ケーブル被覆材、あるいは空港の照明設備回路用機器として配設される電気機器の防水被覆材など、高い耐水性が要求される用途の場合は、前記ゴム組成物に使用する前記酸受容体として鉛丹などの鉛酸化物が用いられる。なお、本発明において、「加硫成形体」とは、ゴム組成物を被覆し加硫してなる電線またはケーブルの被覆材、ゴム組成物を加硫して成形してなるゴム成形品、およびゴム組成物を加硫成形(加硫と成形を同時に実施)してなるゴム成形品の、いずれをも含む概念である。
【0004】
しかしながら、近年、特に自動車および電気製品などの業界において、製品含有物質から鉛化合物などの環境負荷物質の低減または全廃などの自主規制や法規制が行われている。前記酸受容体として使用する前記鉛酸化物は、前記鉛化合物の一種であるため、製品への使用が制限されつつある。そこで、高い耐水性を要する被覆材などに成形する前記ゴム組成物の酸受容体としては、前記鉛酸化物に代わって湿式法シリカと合成ハイドロタルサイトを含有する耐水性クロロプレンゴム組成物が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−231248号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「合成ゴム加工技術全集6クロロプレンゴム」、株式会社大成社、1972年、p.57−58
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の耐水性クロロプレンゴム組成物には次のような問題がある。すなわち、前記耐水性クロロプレンゴム組成物には湿式法シリカが使用される。前記湿式法シリカには、沈降法シリカとゲル法シリカがあるが、前記沈降法シリカは初期の吸水率が高いことが知られており、前記耐水性クロロプレンゴム組成物に前記湿式法シリカを使用して前記加硫成形体とすると、前記加硫成形体内に水泡が生じるという問題があり、特に電線被覆材またはケーブル被覆材での使用は避けられている(非特許文献1)。
【0008】
また、前記ゲル法シリカは一般に前記沈降法シリカよりも水分吸着しやすいことから、前記ゲル法シリカを使用した耐水性クロロプレンゴム組成物を成形し加硫した前記加硫成形体内は、前記沈降法シリカを使用した耐水性クロロプレンゴム組成物から得た前記加硫成形体と同様に、水泡を生じるものと考えられる。
【0009】
また、前記耐水性クロロプレンゴム組成物において湿式法シリカおよび合成ハイドロタルサイトの配合量が多いため、前記耐水性クロロプレンゴム組成物から得た前記加硫成形体に所望の特性を得ようとしても、他の無機充填剤(例えば無機難燃剤)の配合量にて制限されてしまうため、前記耐水性クロロプレンゴム組成物の配合設計(例えば硬度または難燃性などの調整)の自由度が低いという問題もある。
【0010】
本発明は、上述した問題点に着目し、ハロゲン含有エラストマーを含有するゴム組成物において、鉛を含む化合物を使用せずに、前記ゴム組成物の前記加硫成形体の耐水性が高く、且つ前記加硫成形体内に水泡を生じ難い前記ゴム組成物と、前記ゴム組成物を被覆し加硫した電線またはケーブル、前記ゴム組成物を成形し加硫したゴム成形品、ならびに前記ゴム組成物を加硫成形したゴム成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ハロゲン含有エラストマーとビスマス系化合物を含有するゴム組成物である。
【0012】
前記ハロゲン含有エラストマーは、クロロプレン系重合体、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、エピクロルヒドリン系重合体、クロルスルホン化ポリエチレン、フッ素ゴム、含塩素モノマーを共重合したアクリルゴム、塩素化エチレン-プロピレン共重合体、および塩素化エチレンプロピレン-非共役ジエン三元共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも一種の重合体であっても良い。
【0013】
前記ハロゲン含有エラストマー100質量部に対してビスマス系化合物を5から40質量部含有しても良い。
【0014】
本発明は、前記ゴム組成物を被覆し加硫してなる電線またはケーブルでもある。
【0015】
本発明は、前記ゴム組成物を成形し加硫してなるゴム成形品でもある。
【0016】
前記ゴム組成物を加硫成形してなるゴム成形品でもある。
【0017】
本発明は、耐水性加硫成形体用である前記ゴム組成物でもある。
【0018】
本発明は、航空照明用である前記ゴム組成物でもある。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、ハロゲン含有エラストマーを含有するゴム組成物において、鉛を含む化合物を使用せずに、ビスマス系化合物を使用することで、予想外に、前記ゴム組成物の加硫成形体の耐水性を向上することができた。すなわち、本発明により、ハロゲン含有エラストマーを含有するゴム組成物において、鉛を含む化合物を使用せずに、加硫成形体とした場合に耐水性が高く、且つ前記加硫成形体内に水泡を生じ難いゴム組成物と、該ゴム組成物を被覆し加硫した電線またはケーブル、前記ゴム組成物を成形し加硫したゴム成形品、ならびに前記ゴム組成物を加硫成形したゴム成形品を提供することができる。したがって、本発明のゴム組成物は、ハロゲン含有エラストマーベースの高い耐水性が必要な加硫成形体、例えば航空照明用などに用いられる、屋外配線用電線被覆材、屋外配線用ケーブル被覆材、あるいは空港の照明設備回路用機器として配設される電気機器の防水被覆材、耐水性加硫成形体用として耐水性が要求される各種シール部材、ライニングまたはシートなどのゴム成形品に好適に使用することができ、鉛を含まないことが要求された場合さらに好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を使用した電線の一例で、単心の導体に本発明のゴム組成物を被覆し加硫してなる電線を説明するための電線断面図である。
【図2】本発明を使用したケーブルの一例で、単心の導体に絶縁層を設けた電線一本に本発明のゴム組成物を被覆し加硫してなるケーブルを説明するためのケーブル断面図である。
【図3】本発明を使用したケーブルの一例で、単心の導体に絶縁層を設けた電線二本に本発明のゴム組成物を被覆し加硫してなるケーブルを説明するためのケーブル断面図である。
【図4】本発明を使用したライニングの一例で、本発明のゴム組成物を、導管内面をコートするように成形し加硫してなる防食管を説明するための防食管断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。本発明のゴム組成物は、ハロゲン含有エラストマーに対してビスマス系化合物を含有するゴム組成物である。
【0022】
前記ハロゲン含有エラストマーは、クロロプレン系重合体、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、エピクロルヒドリン系重合体、クロルスルホン化ポリエチレン、フッ素ゴム、含塩素モノマーを共重合したアクリルゴム、塩素化エチレン-プロピレン共重合体または塩素化エチレン-プロピレン-非共役ジエン三元共重合体などが例示され、これらのハロゲン含有エラストマーの群から選ばれる少なくとも一種の重合体である。
【0023】
前記クロロプレン系重合体としては、2−クロロ―1、3―ブタジエン(クロロプレン)の単独重合体、またはクロロプレンと“クロロプレンと共重合可能な他の単量体”からなる共重合体などが例示され、これらのクロロプレン系重合体の群から選ばれる少なくとも一種の重合体である。
【0024】
前記エピクロルヒドリン系重合体としては、エピクロルヒドリンゴム、エピクロルヒドリン−エチレンオキシドゴム、エピクロルヒドリン−アリルグリシジルエーテル共重合体またはエピクロルヒドリドン−エチレンオキシド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体などが例示され、これらのエピクロルヒドリン系重合体の群から選ばれる少なくとも一種の重合体である。
【0025】
前記ハロゲン含有エラストマーは特に限定せず、コスト、加工性、柔軟性、耐水性等の点からクロロプレン系重合体が好ましい。
【0026】
前記ビスマス系化合物としては、前記ハロゲン含有エラストマーを含むゴム組成物に配合すると、前記ゴム組成物の加硫時などに酸受容体として機能できるビスマス系化合物であればよく、好適に酸受容体として機能できるものとしては、酸化ビスマス(三酸化二ビスマス)またはビスマス水酸化物(例えば、オキシ水酸化ビスマス、オキシ水酸化硝酸ビスマスまたは水酸化ビスマスなど)などが例示され、これらのビスマス系化合物の群から選ばれる少なくとも一種の化合物である。コスト面からは、酸化ビスマス(三酸化二ビスマス)の使用が好ましい。前記酸化ビスマスとしては、酸化ビスマスA、酸化ビスマスB(太陽鉱工社製)、前記ビスマス水酸化物としては、IXE−500、IXE−530、IXE−550、IXE−600、IXE−633(東亜合成社製)、などの市販品として入手することも可能である。
【0027】
前記ハロゲン含有エラストマー100質量部に対して、前記ビスマス系化合物の配合量は特に限定せず、好ましくは5質量部から40質量部、より好ましくは5質量部から30質量部、さらに好ましくは7質量部から20質量部である。ビスマス系化合物の配合量が前記ハロゲン含有エラストマー100質量部に対して、5質量部以上であると耐熱性が極めて良好となり、40質量部より多くしても耐熱性は特段向上しない。前記ビスマス系化合物の粒径は特に限定しないが、電線被覆材、ケーブル被覆材あるいはゴム成形品として好適な引張強度を得るためには、前記ビスマス系化合物の平均粒径は、好ましくは0.1μm〜10μm、さらに好ましくは0.5μm〜5μmである。なお、平均粒径は次の方法で測定される。
【0028】
測定対象物(粒状物)を水またはエタノールなどの有機液体に投入し、35kHz〜40kHz程度の超音波を付与した状態にて2分間分散処理して得た分散液を用い、且つその場合の粒状物の量は前記分散液のレーザー透過率(入射光量に対する出力光量の比)が70%から95%となる量とし、次いで前記分散液について、マイクロトラック粒度分析計にかけてレーザー光の散乱により粒度分布を測定し、体積基準粒子分布で累積値50%の粒子径(μm)を求め、平均粒径とした。
【0029】
本発明のゴム組成物には、例えば、加硫剤、加硫促進剤、加硫助剤、老化防止剤、プロセス油、可塑剤、加工助剤、難燃剤、カーボンブラックあるいは無機充填剤などゴム工業で一般的に使用されている配合剤の一種または二種以上を組み合わせて、必要に応じて適宜添加することができる。なお、各配合剤の添加量は、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて適宜設定することができる。
【0030】
前記加硫剤は、前記酸受容体である金属酸化物のほかに、有機過酸化物などが例示され、一種または二種以上を組み合わせて使用できる。
【0031】
前記有機過酸化物としては、ジクミルペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス−(tert−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンなどが例示され、一種または二種を組み合わせて使用できる。
【0032】
前記加硫促進剤は、チオウレア系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤またはイオウなどが例示され、具体的には、チオウレア系加硫促進剤としては、エチレンチオウレア、N,N′-ジエチルチオウレア、N,N′−ジフェニルチオウレア、トリメチルチオウレアまたはテトラメチルチオウレアなどが例示され、チアゾール系加硫促進剤としては、2−メルカプトベンゾチアゾールまたはジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィドなどが例示され、チウラム系加硫促進剤としてはテトラメチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィドなどが例示され、グアニジン系加硫促進剤としては、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、ジカテコールボレートのジ-o-トリルグアニジン塩などが例示され、一種または二種以上を組み合わせて使用できる。
【0033】
前記加硫助剤は、多官能性不飽和化合物などが例示され、具体的には、トリアリルイソシアヌレートなどが例示され、一種または二種以上を組み合わせて使用できる。
【0034】
前記老化防止剤は、アミン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤またはイミダゾール系老化防止剤が例示され、具体的には、アミン系老化防止剤としては、スチレン化ジフェニルアミン、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体またはN−フェニル−1−ナフチルアミンなどが例示され、フェノール系老化防止剤としては2、2′−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)などが例示され、イミダゾール系老化防止剤としては2−メルカプトベンズイミダゾールなどが例示され、一種または二種以上を組み合わせて使用できる。
【0035】
前記プロセス油は、パラフィン系プロセス油、ナフテン系プロセス油またはアロマチック系プロセス油などが例示され、一種または二種以上を組み合わせて使用できる。
【0036】
前記可塑剤は、フタル酸系可塑剤、アジピン酸系可塑剤、セバシン酸系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤または重合型可塑剤が例示され、具体的には、フタル酸系可塑剤としてはフタル酸ジオクチルなどが例示され、アジピン酸系可塑剤としてはジオクチルアジペートなどが例示され、セバシン酸系可塑剤としてはセバシン酸ジオクチルが例示され、トリメリット酸系可塑剤としはトリオクチルトリメリテートが例示され、重合型可塑剤としてはポリエーテル系またはポリエステル系などの重合型可塑剤などが例示され、一種または二種以上を組み合わせて使用できる。
【0037】
前記加工助剤は、ステアリン酸、パルミチン酸またはパラフィンワックスなどが例示され、一種または二種以上を組み合わせて使用できる。
【0038】
前記難燃剤は、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、三酸化アンチモンなどが例示され、一種または二種以上を組み合わせて使用できる。
【0039】
前記無機充填剤は、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、シリカ、酸化亜鉛、水酸化アルミニウムまたは水酸化マグネシウムなどが例示され、一種または二種以上を組み合わせて使用できる。
【0040】
本発明のゴム組成物の加硫促進系は特に限定しないが、チオウレア系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤が好適であり、これらを一種または二種以上を組合せて使用できる。例えば、チオウレア系加硫剤を使用すると、加硫速度、耐熱性、反発弾性、圧縮永久歪が良好となる点が好ましく、チオウレア系加硫促進剤に、チアゾール系加硫促進剤またはチウラム系加硫促進剤を組合せて使用すると、前記ゴム組成物を混練する際の焼け防止および練り生地の貯蔵安定性に対して有効である点が好ましく、チウラム系加硫剤とイオウを併用すると、前記ゴム組成物を混練する際の焼け防止される点が好ましい。
【0041】
本発明のゴム組成物を、従来公知のインタミックス、ニーダまたはバンバリーミキサなどの混練機、オープンロールまたは二軸混練押出機などを用いて混練した後、射出成形機、圧縮成形機、加熱プレス機または押出成形機などを用いて所望の形状に成形し加硫する、あるいは加硫成形することで、加硫成形体を得ることができる。前記加硫あるいは加硫成形においてゴム工業において通常用いられる条件で本発明のゴム組成物を加硫することができ、本発明のゴム組成物について、例えば、120℃〜200℃で2分間〜3時間という条件で加熱することにより加硫することが好ましい。
【0042】
本発明で得られるゴム組成物は、JIS K 6300−1に準拠して実施したムーニースコーチ試験(L型ロータ使用、試験温度125度)において、最低粘度(Vm)が15M以上50M以下と成形加工に適度な粘度であり、且つスコーチタイム(t5)が7分以上と、加工安全性に優れることから、前記ゴム組成物は、ビスマス系化合物を酸受容体として使用することで、良好な加工特性が得られるといえる。
【0043】
また、本発明で得られる前記加硫成形体の100℃×96時間の老化特性が70%以上であることから、本発明で酸受容体として使用したビスマス系化合物による耐熱性向上が良好に行なわれているといえる。
【0044】
さらに、本発明で得られる前記加硫成形体の70℃20日間浸水試験における単位表面積当たりの吸水量が10mg/cm以下と、酸受容体として鉛酸化物を用いたゴム組成物の加硫成形体と同等レベルという非常に優れた耐水性を示していることから、本発明で酸受容体として使用したビスマス系化合物により加硫成形体の耐水性向上が高度に行なわれているといえる。
【0045】
したがって、本発明で得られる加硫成形体はハロゲン含有エラストマーベースの耐水性が必要な加硫成形体に好適であり、例えば航空照明用などに用いられる、屋外配線用電線被覆材、屋外配線用ケーブル被覆材、空港の照明設備回路用機器として配設される電気機器の防水被覆材、耐水性が要求される、各種シール部材、ライニングまたはシートなどのゴム成形品などに好適である。すなわち、浸水するなどの理由により信頼性のある高い耐水性を要求されるものに、本発明で得られる加硫成形体が好適に使用できるといえる。また、鉛化合物の含有を認められない製品にはさらに好適に使用できるといえる。
【0046】
また、本発明で得られる加硫成形体内には水泡が確認されないことから、本発明で得られる加硫成形体は、電線被覆材、ケーブル被覆材あるいは前記加硫成形体内に水泡が含まれることが問題となるゴム成形品に、好適に適応できるといえる。
【0047】
本発明において、「電線」とは単線または撚り線の導体の外周に被覆材を被覆したものであり、「ケーブル」とは前記電線の一本あるいは複数本を束ねたものの外周に被覆材を被覆したものである。
【0048】
本発明の電線は、本発明のゴム組成物の加硫成形体を被覆層(絶縁層またはシース層)として耐水層を設けた電線であり、例えば、図1に例示するように、単心の導体11に本発明のゴム組成物を絶縁層12として被覆し加硫してなる電線が挙げられる。前記導体11は複数本からなる多心としても良く、前記絶縁層12を複数層として、その内の少なくとも一層を、本発明のゴム組成物を被覆し加硫してなる電線としても良い。
【0049】
本発明のケーブルは、本発明のゴム組成物の加硫成形体を被覆層(シース層)とした耐水層を設けたケーブルでもあり、例えば図2に例示するように、単心の導体11に絶縁層13を被覆した電線(一本)に本発明のゴム組成物をシース層14として被覆し加硫してなるケーブルや、図3に例示するように、単心の導体11に絶縁層13を被覆した電線(二本)に本発明のゴム組成物をシース層14として被覆し加硫してなるケーブルや、前記電線を二本以上使用し、本発明のゴム組成物をシース層として被覆し加硫してなるケーブルが挙げられる。前記導体11は複数本からなる多心としても良く、前記シース層14は複数層として、その内の少なくとも一層を本発明のゴム組成物を被覆し加硫したものとしても良く、本発明のゴム組成物を前記導体に被覆して加硫したものを、前記電線として用いても良い。
【0050】
本発明のゴム成形品を使用した照明設備回路用機器として配設される電気機器の前記防水被覆材としては、本発明のゴム組成物で航空照明用変圧器を覆い加硫してなるモールド材が例示される。前記航空照明用変圧器は屋外に設置され浸水する可能性があるため、信頼性のある高い耐水性が要求されるため、本発明のゴム成形品は好適に使用できる。特に鉛を含まないことが要求された場合には本発明のゴム成形品はさらに好適である。
【0051】
前記各種シール部材の形状は特に限定されず、Oリング、Dリング、角リング、XリングあるいはTリングなどのリング形状、シート形状あるいは金属材料や樹脂材料と接着剤などと組み合わせた複合体など、その目的に応じて適宜選ばれる。前記各種シール部材の大きさも特に制限なく目的に応じ適宜選択すれば良い。
【0052】
前記ライニングとしては、例えば、図4に例示するような、導管21内を通過する物質により、前記導管21が腐食することを防止するために、本発明のゴム組成物を、前記導管21の内面をコートするように成形し加硫して防食層22を設けた防食管の防食層22が挙げられる。
また、前記シートとしては屋外用敷きゴムなどが例示される。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例などで使用した材料は以下のとおりである。
【0054】
ハロゲン含有エラストマーとしては、
・クロロプレン系重合体(ポリクロロプレン):ショウプレンW(昭和電工社製)
【0055】
酸受容体(加硫剤としても機能する)としては、
・酸化マグネシウム:キョーワマグ30(協和化学工業社製)
・酸化亜鉛:酸化亜鉛3種(堺化学工業社製)
・鉛丹:鉛丹1号(三井金属工業社製)
・ハイドロタルサイト:DHT-4A・2(協和化学工業社製)
・エポキシ樹脂:JER828(ジャパンエポキシレジン社製)
・酸化カルシウム:CML−35(近江化学工業社製)
・水酸化カルシウム:カルビット(近江化学工業社製)
・ビスマス系化合物(A)/酸化ビスマス:酸化ビスマスB(太陽鉱工社製、平均粒径2μm)
・ビスマス系化合物(B)/ビスマス水酸化物:IXE−550(東亞合成社製、平均粒径1.5μm)
【0056】
加硫促進剤としては、
・エチレンチオウレア(チオウレア系):アクセル22−S(川口化学工業社製)
・イオウ:硫黄(粉末)(林純薬工業社製)
・ジベンゾチアジルジスルフィド(チアゾール系):ノクセラーDM(大内新興化学工業社製)
・テトラメチルチウラムモノスルフィド(チウラム系):ノクセラーTS(大内新興化学工業社製)
【0057】
その他の配合剤としては、
・カーボンブラック:HTC#100(新日化カーボン社製)
・クレイ:デキシークレイ(バンダービルド社製)
・水酸化アルミニウム:ハイジライトH42M(昭和電工社製)
・三酸化アンチモン:三酸化アンチモン(Twinkling Star社製)
・プロセス油:コスモピュアフレックス32(コスモ石油ルブリカンツ社製)
・ワックス:サンノック(大内新興化学工業社製)
・マイクロクリスタリンワックス:HI−MIC1070(日本精蝋社製)
・ステアリン酸:アデカ脂肪酸SA−200金(ADEKA社製)
・スチレン化ジフェニルアミン:アンテージ DDA(川口化学工業社製)
【0058】
実施例1〜実施11については表1に、比較例1〜比較例8については表2に、それぞれ示す配合割合(表中配合の単位は質量部)の配合材料(ゴムおよび配合剤)をオープンロールにて混練してゴム組成物を調整した。次いで、前記ゴム組成物をプレス成形装置にて150℃で30分間プレス架橋成形してゴムシート(2mm厚さ)を得た。なお、表1および表2の“その他配合剤”は、クロロプレン系重合体100質量部に対して、カーボンブラック10質量部、クレイ50質量部、水酸化アルミニウム25質量部、三酸化アンチモン15質量部、プロセス油12質量部、ワックス2.0質量部、マイクロクリスタリンワックス2.0質量部、ステアリン酸0.5質量部およびスチレン化ジフェニルアミン1.5質量部を合わせたものである。
【0059】
実施例1〜実施例11および比較例1〜比較例8を混練して得られたゴム組成物、および前記ゴム組成物を加硫成形して得られたゴムシートを試験片として、以下の(1)〜(6)の測定および評価を行い、それらの結果に基づいて(7)総合評価を実施した。前記評価の結果を、実施例1〜実施例11については表3に、比較例1〜8については表4に示す。
【0060】
(1)鉛化合物の有無
以下の基準で判定した。
○:ゴム組成物に鉛化合物を意図して使用していない
×:ゴム組成物に鉛化合物を意図して使用している
【0061】
(2)耐スコーチ性
JIS K 6300−1ムーニースコーチ試験に準拠して、ムーニースコーチ試験(L型ロータ使用、試験温度125℃)を行い、最低ムーニー粘度(Vm)とスコーチタイム(t5)を測定し、以下の基準で評価する。
○:15M ≦ Vm ≦ 50M、且つ t5 ≧ 7min
×:“Vm < 15M または 50M < Vm”、
または/且つ t5 < 7min
【0062】
(3)基本特性
JIS K 6251引張試験に準拠して、前記ゴムシートから切り出したダンベル状3号形試験片を用いて、200%伸び時の引張応力(200%M)、引張強さ(Ts)および切断時伸び(Elo)を測定する。また、JISK 6253により、タイプAデュロメータ試験機で前記ゴムシートの瞬間値を測定する。以下の基準(電線被覆材、ケーブル被覆材またはゴム成形品として好適な範囲)で評価する。
○:Ts≧13MPa、 Elo≧300% 、200%M ≧ 2.0MPa 、
且つ 50 ≦ 硬さ(ショアA) ≦ 80
×:Ts<13MPa または/且つ Elo<300% または/且つ
200%M < 2.0MPa または/且つ “硬さ(ショアA)< 50
または 硬さ(ショアA)>80”
【0063】
(4)老化特性
JIS K 6251引張試験に準拠して、前記ゴムシートから切り出したダンベル状3号形試験片を、強制循環型空気加熱老化試験機で、100℃、96時間加熱した後、引張強さ(Ts′)および切断時伸び(Elo′)を測定し、下式(1)により引張強さ残率(Ts残)を、下式(2)により切断時伸び残率(El残)を算出し、以下の基準で評価した。
○:Ts残≧70% 且つ El残≧70%
×:Ts残<70% または/且つ El残<70%
【数1】

【0064】
(5)吸水量
前記ゴムシートから、サイズ約25mm×50mmの矩形試験片を切り出し、たての長さ(L)、横の長さ(w)、厚さ(d)および質量(M)を測定し、70℃の温水に120時間あるいは20日間浸漬した後、前記試験片を前記温水から取り出し、前記試験片表面の付着水分を除去した後の質量(M′)を秤量し、下式(3)により、吸水量(A)を算出し、以下の基準で評価した。
○:A ≦ 10mg/cm
×:A > 10mg/cm
【数2】

【0065】
(6)水泡の有無
前記ゴムシートを、カッターナイフで切断して得た断面を、光学顕微鏡(倍率50倍)で観察して、ボイドの有無を調査し、以下の基準で評価した。
○:ボイドが観察されない
×:ボイドが観察される
【0066】
(7)総合評価
前記(1)〜(6)の評価結果から、以下の基準にて評価した。
○:前記(1)〜(6)の評価結果において、すべて○であるもの
×:前記(1)〜(6)の評価結果において、×が一つ以上あるもの
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
【表4】

【0071】
表1は、酸化ビスマスまたは水酸化ビスマスをそれぞれ使用したクロロプレンゴム組成物に関する実施例であり、加硫促進剤として、実施例1〜実施例7および実施例9〜実施例11はチオウレア系およびチアゾール系を併用したものであり、実施例8はチウラム系およびイオウを併用したものである。また表2は比較例であり、一般用途(非耐水用途)で使用する酸受容体の配合(比較例1)、酸受容体を使用しない配合(比較例2)、鉛を含有する耐水配合(比較例3および4)、ビスマス系化合物および酸化マグネシウム/酸化亜鉛以外の非鉛系酸受容体の配合(比較例5〜8)である。
【0072】
表3および表4の物性結果ならびに評価結果から、酸受容体としてビスマス系化合物を使用すると、耐スコーチ性、基本特性および老化特性が良好である上に、現行耐水配合で酸受容体として使用される鉛化合物(鉛丹)を使用した配合である比較例3および4と同等の高い耐水性が確認でき、且つ水泡が確認されなかったことから、総合評価で“○”判定であることが確認された。
【0073】
一方、比較例1は一般用途(非耐水用途)で使用されている酸受容体(酸化マグネシウム/酸化亜鉛)を使用した配合であるが、耐スコーチ性、引張特性および老化特性は好適であるが、耐水性が低く、総合評価で“×”判定であることが確認された。
【0074】
また、比較例5〜8では、鉛系化合物以外であり且つビスマス系化合物および酸化マグネシウム/酸化亜鉛以外の酸受容体を使用した配合であるが、いずれも耐水性に問題があり、比較例2の如く、酸受容体を使用しない場合は、耐水性が極めて低く、いずれも総合評価で“×”判定であることが確認された。
【0075】
また、いずれの実施例および比較例からも、水泡の有無の評価において、光学顕微鏡(倍率50倍)では、ボイド(気泡や水泡などが起因する空孔)は確認されなかったため、今回評価に使用した酸受容体で、光学顕微鏡(倍率50倍)で確認できるレベルの水泡は、発生し難いことが確認された。
【0076】
以上の結果から、実施例の如く、クロロプレン系重合体に対して酸化ビスマス又はビスマス水酸化物を含有するゴム組成物は耐スコーチ性に優れており、前記ゴム組成物の加硫成形体は、基本特性および加熱老化特性に優れる上、鉛化合物を含まないにもかかわらず耐水性が高く、前記加硫成形体内に水泡を生じ難いことから、前記ゴム組成物を被覆し加硫してなる電線およびケーブルは高い耐水性が要求される用途、例えば航空照明用などの屋外用途に好適であり、前記加硫成形体は航空照明用設備機器用防水被覆材料などの高い耐水性が要求されるゴム成形品や、耐水性が要求される各種シール部材、ライニングまたはシートなどのゴム成形品に好適であり、前記加硫成形体は、鉛化合物の含有を認められない製品には特に好適であることが示された。
【0077】
クロロプレン系重合体と同様に、酸を発生する恐れのあるエラストマー(すなわちハロゲンを含有するエラストマー)を含むゴム組成物には、加工安全性、加硫速度調整および耐熱性向上のために酸受容体を使用することから、クロロプレン系重合体以外のハロゲンを含有するエラストマーを含むゴム組成物の酸受容体としてビスマス系化合物を使用したゴム組成物から得た加硫成形体の耐水性は、酸受容体として鉛化合物を使用した耐水性加硫成形体と同等に優れていることは明らかである。なお、クロロプレン系重合体以外のハロゲンを含有するエラストマーとしては、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、エピクロルヒドリン系重合体、クロルスルホン化ポリエチレン、フッ素ゴム、含塩素モノマーを共重合したアクリルゴム、塩素化エチレン−プロピレン共重合体および塩素化エチレン−プロピレン−非共役ジエン三元共重合体などが挙げられる。
【0078】
ゴム組成物に酸受容体を添加すると、前記酸受容体は前記ゴム組成物の加硫時などに発生する「ハロゲンを含む酸」を受容してハロゲン化物となる。実施例および比較例から、酸受容体の種類によって前記酸受容体を含むゴム組成物の加硫成形体の耐水性が異なることが明らかとなっており、このことから、実施例および比較例の加硫時などに生成した前記ハロゲン化物の耐水性(浸水時の安定性)が前記加硫成形体の耐水性に影響すること、及び酸化ビスマス又はビスマス水酸化物を含む前記ゴム組成物の加硫時などに生じたハロゲン化ビスマス系化合物の耐水性が、鉛化合物を含む前記ゴム組成物の加硫時などに生じたハロゲン化鉛系化合物と同等に、耐水性に優れることが明らかとなった。
【0079】
前記ビスマス系化合物を添加したハロゲンを含有するエラストマーを含むゴム組成物の加硫成形時には、前記ビスマス化合物は「ハロゲンを含む酸」を受容して耐水性に優れたハロゲン化ビスマス化合物となることから、前記ビスマス系化合物を添加したハロゲンを含有するエラストマーを含むゴム組成物の加硫成形体においても、酸受容体として鉛化合物を使用した耐水性加硫成形体と同等に耐水性が優れていることは明らかである。
【符号の説明】
【0080】
11 導体
12 絶縁層
13 絶縁層
14 シース層
21 導管
22 防食層(ライニング)




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン含有エラストマーとビスマス系化合物を含有することを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記ハロゲン含有エラストマーが、クロロプレン系重合体、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、エピクロルヒドリン系重合体、クロルスルホン化ポリエチレン、フッ素ゴム、含塩素モノマーを共重合したアクリルゴム、塩素化エチレン-プロピレン共重合体、および塩素化エチレンプロピレン-非共役ジエン三元共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも一種の重合体であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記ハロゲン含有エラストマー100質量部に対して前記ビスマス系化合物5から40質量部含有することを特徴とする請求項1または2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のゴム組成物を被覆し加硫してなること特徴とする電線またはケーブル。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載のゴム組成物を成形し加硫してなることを特徴とするゴム成形品。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか一項に記載のゴム組成物を加硫成形してなることを特徴とするゴム成形品。
【請求項7】
耐水性加硫成形体用であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項8】
航空照明用であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のゴム組成物。










【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−122112(P2011−122112A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282642(P2009−282642)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】