説明

ゴム組成物の製造方法

【課題】軽量化と補強性と低発熱性のバランスを向上することができるゴム組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】フィブリル化されたセルロースの水懸濁体を、沸点120℃以下である一価アルコール及びケトンの少なくとも1種からなる有機溶剤に浸漬し、その後乾燥して、フィブリル化されたセルロースの乾燥体を得て、得られたセルロースの乾燥体をジエン系ゴムに添加し混合するゴム組成物の製造方法である。上記ジエン系ゴムとして、セルロースの繊維表面のヒドロキシル基と結合し得る官能基(例えば、アミノ基やヒドロキシル基等)を有する変性ジエン系ゴムが、ゴム成分100重量部中20重量部以上含まれたものを用い、このゴム成分100重量部に対して、前記セルロースの乾燥体を、セルロース量として5重量部以上添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィブリル化された繊維を含むゴム組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えばタイヤ等に用いられるゴム組成物においては、補強のためにカーボンブラックやシリカなどの粒子状フィラーが配合されている。カーボンブラックやシリカは比重が2程度と高く、従って、タイヤの軽量化のためには、より比重の小さい補強剤でゴム組成物を補強することが求められる。
【0003】
一方、ゴム組成物を繊維で補強する技術が知られており、補強性を高めるためにフィブリル化されたセルロースを配合することも知られている。かかるフィブリル化セルロースは、比重が1.3程度であってカーボンブラックやシリカに比べて小さいことから、軽量化が期待できる。しかしながら、フィブリル化セルロースは、そのささくれ立った形態により絡まり合って凝集しやすく、ゴム組成物中に均一に分散させることが難しい。また、セルロースは繊維表面にヒドロキシル基(OH)を有することから、特に凝集しやすく、取り扱い性のため水懸濁体として市販されている。そのため、ゴム組成物の製造時には、水懸濁体から水を除去しつつ、ゴム組成物中に分散させる必要があり、均一に分散させることは容易ではない。よって、フィブリル化セルロースによる補強性を十分に発揮できていないのが実情である。
【0004】
下記特許文献1には、水懸濁状のフィブリル化セルロースをラテックスゴムと一緒に水中で攪拌混合(いわゆるウェット混合)し、得られたマスターバッチを使用して、従来のバンバリーミキサーや押し出し機などで他の薬品とともに混合(いわゆるドライ混合)して、最終のゴム組成物を得ることが開示されている。しかしながら、この方法ではウェット混合を行うための設備が必要であり、生産性も悪く、更にはゴムポリマーがラテックスゴムに限られるという問題もある。
【0005】
下記特許文献2には、フィブリル化されたセルロースと、カーボンブラックやシリカなどのミネラル粒子(粒子状フィラー)とを組み合わせた乾燥物を、ゴム組成物に配合することが開示されており、また、該乾燥物を得るためにフィブリル化繊維と粒子状フィラーを含む水懸濁体を調製してこれを乾燥させること、及び、該水懸濁体の水の全部又はいくらかをエタノールやメタノールのようなアルコールに替えることが開示されている(段落0096〜0098)。しかしながら、この文献は、フィブリル化セルロースをポリマーマトリックスに分散させるために粒子状フィラーを必須とするものであり、粒子状フィラー無しでフィブリル化セルロースをポリマー中に均一に分散することは開示されていない。また、この文献は、フィブリル化セルロースとともに多量の粒子状フィラーを組み合わせて上記乾燥物を得るものである(段落0094参照)。このように多量の粒子状フィラーを必須とするものでは、フィブリル化セルロースによるゴム組成物の軽量化効果は得られず、また粒子状フィラーによるヒステリシスロスが大きく低発熱性に劣るという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−206864号公報
【特許文献2】特表2002−503621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、補強性と軽量化のバランスを向上することができ、更に低発熱性とのバランスを向上することができるゴム組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、フィブリル化された水懸濁状のセルロースを特定の有機溶剤に浸漬し乾燥させることにより、粒子状フィラーを含有させなくてもフィブリル化したセルロースをジエン系ゴム中に均一に分散させて補強性と軽量化のバランスを向上できること、及び、該乾燥したフィブリル化セルロースと官能基を有する変性ジエン系ゴムを併用することにより更に補強性を向上し、低発熱性とのバランス向上が図れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係るゴム組成物の製造方法は、フィブリル化されたセルロースの水懸濁体を、沸点120℃以下である一価アルコール及びケトンの少なくとも1種からなる有機溶剤に浸漬し、その後乾燥して、フィブリル化されたセルロースの乾燥体を得て、
得られたセルロースの乾燥体を、当該セルロースの繊維表面のヒドロキシル基と結合し得る官能基を有する変性ジエン系ゴムが20重量部以上含まれたジエン系ゴム100重量部に対して、セルロース量として5重量部以上添加し混合するというものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、特定の有機溶剤に浸漬させ乾燥したフィブリル化セルロースを用いることにより、ゴム組成物中でのフィブリル化セルロースの分散性を向上して優れた補強性を発揮することができ、補強性と軽量化のバランスを向上することができる。また、この乾燥したフィブリル化セルロースとこれに結合し得る変性ジエン系ゴムとを併用したことにより、補強性と低発熱性のバランスを向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0012】
本発明に係る製造方法では、フィブリル化されたセルロースの水懸濁体を用いる。フィブリル化されたセルロースとしては、高圧ホモジナイザーなどの機械的せん断力により微細に粉砕してフィブリル化(ミクロフィブリル化)したものを用いることができる。セルロースは比重が約1.3であり、比重が約2であるカーボンブラックやシリカに対して小さいので、これを補強剤として用いることでゴム組成物の軽量化を図ることができる。
【0013】
前記水懸濁体は、フィブリル化されたセルロースが水中に懸濁ないし分散されたものであり、水中で機械的せん断力により微細に粉砕しフィブリル化した水懸濁状のセルロースを用いることができる。このような水懸濁体としては、例えば、微小繊維状セルロースとして、セリッシュPC−110A,PC−110B,PC−110S,PC−110T,FD−100F,FD−100G,KY−100G,KY−100Sなどが市販されており(いずれもダイセル化学工業(株)製)、これらを用いることが好適である。これらの市販品の形態は湿綿状態であり、このような湿綿状態の水懸濁体を用いることができる。
【0014】
フィブリル化されたセルロースの直径(即ち、繊維径)は、特に限定されないが、平均繊維径が5μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.01〜1μmである。また、フィブリル化されたセルロースの長さ(即ち、繊維長)も、特に限定されないが、平均繊維長が10〜1500μmであることが好ましい。ここで、平均繊維径は、走査型電子顕微鏡観察(SEM)により測定される。詳細には、顕微鏡観察により得られた画像データよりフィブリル化繊維を20個無作為抽出し、短径を測定してその相加平均を平均繊維径とする。平均繊維長は、カジャーニ(KAJAANI)社の繊維長測定機(FS−200)を用い、JIS P8121により測定される。
【0015】
前記水懸濁体中に含まれるフィブリル化されたセルロースの比率は、特に限定されない。例えば、繊維比率が5〜95重量%、水の比率が95〜5重量%である水懸濁体を用いることができるが、上記の比率を外れるものであってもよく、また、本発明の効果を損なわない限りにおいて安定剤等の第3成分もしくは不純物を少量含有するものであってもよい。
【0016】
本発明に係る製造方法では、前記水懸濁体を特定の有機溶剤に浸漬し、その後乾燥して、フィブリル化されたセルロースの乾燥体を作製する。
【0017】
該有機溶剤としては、沸点120℃以下である一価アルコール及びケトンの少なくとも1種が用いられる。具体的には、メタノール(沸点64.7℃)、エタノール(沸点78.4℃)、1−プロパノール(沸点97.2℃)、2−プロパノール(沸点82.4℃)、1−ブタノール(沸点117℃)、2−ブタノール(沸点99.5℃)、イソブチルアルコール(沸点108℃)、t−ブチルアルコール(沸点82.4℃)などの一価アルコール、アセトン(沸点56.5℃)、メチルエチルケトン(沸点79.5℃)などのケトンが挙げられる。
【0018】
このような特定の親水性有機溶剤を用いることにより、前記水懸濁体を浸漬したときに、フィブリル化セルロースに取り込まれていた水が有機溶剤に置換されて水を取り除くことができる。その理由は明らかではないが、電気陰性度の関係でフィブリル化セルロース表面が水よりも上記親水性有機溶剤に結合しやすい環境になるためと推測される。このような観点から、上記有機溶剤は、炭素数4以下の一価アルコール及びケトンから選択されることが好ましく、より好ましくは炭素数3以下である。
【0019】
また、有機溶剤として沸点が120℃以下である揮発性の溶剤を用いることにより、浸漬後の乾燥工程、及びジエン系ゴムとの混練工程において、容易に蒸発させることができる。このような観点から、沸点は、100℃以下であることが好ましく、より好ましくは55〜85℃である。
【0020】
前記水懸濁体を有機溶剤に浸漬する際には、該水懸濁体が含む水の重量の5〜15倍量の有機溶剤に水懸濁体を浸漬させることが好ましい。有機溶剤/水の割合が5倍未満では、有機溶剤中に前記水懸濁体を浸漬しても十分な脱水効果が得られない。また、この脱水効果は10〜15倍程度で頭打ちとなるので、15倍以下とすることがコスト面から好ましい。
【0021】
このようにして水懸濁体を有機溶剤に浸漬することで、フィブリル化されたセルロースは上記有機溶剤に対する懸濁体となる。好適には、浸漬後に濾過して過剰の有機溶剤を取り除くことであり、これにより、有機溶剤によって湿潤した湿綿状態をなすフィブリル化セルロースの懸濁体が得られる。この濾過の際、最初に含まれていた水は過剰の有機溶剤とともに除去される。
【0022】
フィブリル化されたセルロースを含む懸濁体の乾燥方法は、懸濁体から有機溶剤を除去することができれば、特に限定されず、例えばオーブンなどを用いて行うことができる。乾燥によって有機溶剤を除去することにより、ジエン系ゴムとの混練時に有機溶剤が存在することに起因する滑りを防いで、混練作業性を向上することができる。但し、乾燥は、含有する有機溶剤を完全に除去しない程度で行うべきである。有機溶剤が完全に除去されると、フィブリル化セルロースが凝集固化するためである。従って、乾燥により得られる上記乾燥体が2〜10重量%程度の有機溶剤を含有していることが好ましく、より好ましくは3〜5重量%の有機溶剤を含有していることである。
【0023】
このようにして得られたフィブリル化されたセルロースの乾燥体は、フィブリル化されたセルロースを主成分として(例えば、80重量%以上)含むものであり、カーボンブラックやシリカなどの粒子状フィラーは実質的に含まないことが好ましい。すなわち、フィブリル化されたセルロースの水懸濁体に、粒子状フィラーを実質的に含有させずに、有機溶剤に浸漬し、その後乾燥させることが好適である。本発明によれば、粒子状フィラーを含有させなくてもフィブリル化されたセルロースをゴム組成物中に均一に分散させて、補強性と軽量化のバランスを向上させることができる。そのため、最終的に得られるゴム組成物を粒子状フィラーが含まれない態様とすることも可能となる。カーボンブラックやシリカなどの粒子状フィラーは、加硫ゴムの比較的小さな歪み変形でも粒子同士の凝集がほどけてエネルギーロスが発生し、そのため損失正接tanδが大きくなって低発熱性が悪化するのに対し、フィブリル化されたセルロースは、フィブリル化による絡み合いがほどけにくいためか、均一に分散させることができれば、粒子状フィラーを用いた場合に比べてtanδが小さく発熱しにくい。従って、粒子状フィラーを含まない態様が可能となることで、粒子状フィラーによるヒステリシスロスの増大を抑えて、低発熱性を向上することができる。このような観点より、上記乾燥体は粒子状フィラーを全く含まないことが好ましいが、その効果を損なわない範囲内であれば、乾燥体に少量の粒子状フィラーが含まれていてもよく、例えば10重量%程度以下含有していても構わない。
【0024】
上記で得られた乾燥体は、その後、ジエン系ゴムに添加し混練されることで、ゴム組成物が作製される。その際の混練には、ゴム組成物の調製において一般に用いられるバンバリーミキサーやロール、ニーダー等の混合機を用いることができる。
【0025】
ゴム成分であるジエン系ゴムとして、セルロースの繊維表面のヒドロキシル基と結合し得る官能基を有する変性ジエン系ゴムが用いられる。このような変性ジエン系ゴムであれば、官能基がフィブリル化セルロースの繊維表面のヒドロキシル基と結合することにより、フィブリル化セルロースの分散性を更に向上することができ、補強性と低発熱性のバランスを一層向上することができる。
【0026】
前記結合としては、共有結合などの狭義の化学結合だけでなく、水素結合などの広義の化学結合も含まれる。このような官能基としては、例えば、アミノ基、エポキシ基、ヒドロキシル基、アルキルシリル基、アルコキシシリル基およびカルボキシル基などが挙げられる。アミノ基としては、1級アミノ基だけでなく、2級アミノ基でもよい。アルキルシリル基としては、モノアルキルシリル基、ジアルキルシリル基、トリアルキルシリル基のいずれでもよい。アルコキシシリル基は、シリル基の3つの水素のうち少なくとも1つがアルコキシル基で置換されたものをいい、これには、トリアルコキシシリル基、アルキルジアルコキシシリル基、ジアルキルアルコキシシリル基が含まれる。
【0027】
前記変性ジエン系ゴムのポリマー種類としては、特に限定されないが、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム等が挙げられ、より好ましくはSBR、BRである。
【0028】
前記変性ジエン系ゴムとしては、アニオン重合で合成されたポリマーを、各種変性剤でポリマー末端を変性することで、上記官能基を導入してなる末端変性ポリマーを用いることができる。このようなポリマーの重合方法、末端変性方法は、従来から公知の方法によることができ、例えば、特開2002−284930号公報、特開2002−284933号公報に記載の方法によることができる。
【0029】
前記変性ジエン系ゴムは、ゴム組成物に配合される全ジエン系ゴム100重量部中20重量部以上にて用いられる。変性ジエン系ゴムの含有量が20重量部未満では、フィブリル化セルロースとの間での結合が不十分となり、補強性、低発熱性の改良効果が十分に得られない。ゴム組成物に配合されるジエン系ゴムは、変性ジエン系ゴム単独(即ち、100重量部)でもよく、変性されていない他のジエン系ゴムとのブレンドでもよい。好ましくは、ゴム成分であるジエン系ゴムは、変性ジエン系ゴム20〜70重量部と未変性ジエン系ゴム80〜30重量部とからなることである。前記他のジエン系ゴムとしては、特に限定されず、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴムなどが挙げられ、これらは1種又は2種以上併用して配合することができる。
【0030】
上記フィブリル化セルロースの乾燥体の配合量は、ゴム組成物の用途に応じて要求される補強性を発揮するように適宜設定すればよいが、ジエン系ゴム100重量部に対し、セルロース量として(即ち、有機溶剤などの他の成分を除くフィブリル化セルロースのみの添加量として)5重量部以上であることが好ましい。この配合量が5重量部未満では、十分な補強性の向上効果を得ることが難しいからである。この配合量の上限は特に限定されないが、通常は200重量部以下であり、100重量部以下であることがより好ましい。
【0031】
上記ゴム組成物には、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、樹脂、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム工業において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。これらの添加剤は、上記乾燥体とともにジエン系ゴムに添加してもよく、また上記乾燥体とは異なるステップで添加してもよく、添加順序は特に限定されない。通常は、第1混合段階で、加硫剤や加硫促進剤などの加硫系添加剤を除く薬品を上記乾燥体とともにジエン系ゴムに添加し混練しておいて、その後の第2混合段階で、第1混合段階で得られた混練物に加硫系添加剤を添加し混合することによりゴム組成物を製造することができる。なお、カーボンブラックやシリカなどの粒子状フィラーは、添加すると軽量化や低発熱性が悪化する傾向となるので、極力添加しないことが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲内で添加しても構わない。
【0032】
本発明に係るゴム組成物は、常法に従い加硫成形することにより、ビードフィラーやサイドウォールゴムなどの空気入りタイヤの各ゴム部材として、あるいはまた防振ゴムやベルトなどの各種ゴム製品に用いることができる。本発明のゴム組成物は、上述したように軽量化と補強性と低発熱性のバランスに優れることから、空気入りタイヤのゴム部材として用いることが特に好適であり、タイヤに要求される補強性と低燃費性のバランスを向上することができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
[製造例1]
フィブリル化されたセルロースの水懸濁体として、ダイセル化学工業(株)製「セリッシュPC−110S」(平均繊維径=1μm、平均繊維長=600μm、微小繊維状セルロース=35重量%、水=65重量%)を用いた。該水懸濁体100重量部を、エタノール650重量部(水懸濁体に含まれる水の10倍量)に浸漬し、軽く攪拌した後、濾過して過剰のエタノールを取り除いた。得られたフィブリル化セルロースの湿潤体を、オーブンにて120℃×120分間乾燥させて、フィブリル化セルロースの乾燥体を得た。得られた乾燥体は、凝集固化することなく、柔らかい綿状の形態であった。この乾燥体の揮発分(エタノールの含有率)を調べたところ、5重量%であった。
【0035】
[製造例2]
エタノールに代えて、アセトンを325重量部(水懸濁体に含まれる水の5倍量)とした以外は、製造例1と同様にして、フィブリル化セルロースの乾燥体を得た。得られた乾燥体は、凝集固化することなく、柔らかい綿状の形態であり、揮発分(アセトンの含有率)は3重量%であった。
【0036】
[製造例3]
エタノールに代えて、メタノールを325重量部(水懸濁体に含まれる水の5倍量)とした以外は、製造例1と同様にして、フィブリル化セルロースの乾燥体を得た。得られた乾燥体は、凝集固化することなく、柔らかい綿状の形態であり、ゴムポリマー中に均一に分散させることができるものである。乾燥体の揮発分(メタノールの含有率)は4重量%であった。
【0037】
[製造例4]
フィブリル化されたセルロースの水懸濁体として、ダイセル化学工業(株)製「セリッシュKY−100G」(平均繊維径=0.1μm、平均繊維長=500μm、微小繊維状セルロース=10重量%、水=90重量%)を用いた。該水懸濁体100重量部を、エタノール630重量部(水懸濁体に含まれる水の7倍量)に浸漬し、軽く攪拌した後、濾過して過剰のエタノールを取り除いた。得られたフィブリル化セルロースの湿潤体を、オーブンにて120℃×120分間乾燥させて、フィブリル化セルロースの乾燥体を得た。得られた乾燥体は、凝集固化することなく、柔らかい綿状の形態であった。この乾燥体の揮発分(エタノールの含有率)を調べたところ、3重量%であった。
【0038】
[製造例5]
エタノールに代えて、アセトンを630重量部(水懸濁体に含まれる水の7倍量)とした以外は、製造例4と同様にして、フィブリル化セルロースの乾燥体を得た。得られた乾燥体は、凝集固化することなく、柔らかい綿状の形態であり、揮発分(アセトンの含有率)は3重量%であった。
【0039】
[製造例6]
エタノールに代えて、メタノールを630重量部(水懸濁体に含まれる水の7倍量)とした以外は、製造例4と同様にして、フィブリル化セルロースの乾燥体を得た。得られた乾燥体は、凝集固化することなく、柔らかい綿状の形態であり、ゴムポリマー中に均一に分散させることができるものである。乾燥体の揮発分(メタノールの含有率)は4重量%であった。
【0040】
[試験例1]
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合に従い、ゴム組成物を調製した。詳細には、ジエン系ゴムに対し、補強剤とステアリン酸と酸化亜鉛を添加し、混練して第1混合物を得た後(排出温度:150℃)、第2混合工程において、第1混合物に加硫促進剤と硫黄を添加し混練してゴム組成物を得た(排出温度:110℃)。補強剤としては、実施例1,2及び比較例1,2では上記製造例1の乾燥体を用い、実施例3,4は上記製造例2の乾燥体を用い、比較例3,4ではダイセル化学工業(株)製「セリッシュPC−110S」をそのまま用い、比較例5ではカーボンブラックを用いた。実施例1〜4及び比較例1〜4では、固形分(即ち、フィブリル化セルロース)の配合量が表1に記載の量となるように添加した。表1中の各成分は以下の通りである。
【0041】
・NR:天然ゴム、RSS3号
・未変性BR:未変性のブタジエンゴム、旭化成(株)製「ジエンNF35R」
・変性BR:アニオン重合で合成された官能基として水酸基を有する変性ポリブタジエンゴム、旭化成(株)製「タフデンE40」
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シーストV」
・ステアリン酸:花王(株)製「工業用ステアリン酸」
・酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製「1号亜鉛華」
・加硫促進剤:N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「5%油処理粉末硫黄」。
【0042】
得られた各ゴム組成物について、160℃×20分で加硫して所定形状の試験片を作製し、得られた試験片を用いて、M300(300%モジュラス)と比重とtanδを測定し評価した。各評価方法は以下の通りである。
【0043】
・M300:JIS K6251に準じた引っ張り試験により、300%伸長時の引っ張り応力を測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほどM300が大きく、補強性に優れることを示す。
【0044】
・比重:JIS K6268に準じて、測定した比重を、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が小さいほど比重が小さく、従って軽量化を図れることを示す。
【0045】
・tanδ:JIS K6394に準じて、温度70℃、周波数10Hz、静歪み10%、動歪み2%の条件で損失係数tanδを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が小さいほどtanδが小さく、発熱しにくいこと、即ち低発熱性に優れることを示す。
【0046】
結果は、表1に示す通りであり、フィブリル化された水懸濁状のセルロースをそのまま配合した比較例4や、補強剤としてカーボンブラックを用いた比較例5に対し、製造例1の乾燥体を用いた比較例1では、M300が高く補強性に優れており、軽量化と補強性のバランスが向上しており、またtanδが低く、低発熱性にも優れていた。かかる比較例1に対して、更にジエン系ゴムに変性ポリマーを併用した実施例1〜4であると、M300が更に向上し、またtanδが低く、補強性と低発熱性のバランスが更に向上していた。
【0047】
なお、比較例2では変性ポリマーの量が少ないため、比較例1に対して補強性や低発熱性の向上代が少なかった。また、比較例3ではジエン系ゴムに変性ポリマーを用いたものの、水懸濁状のフィブリル化セルロースをそのまま用いたので、補強性及び低発熱性ともに不十分であった。
【0048】
【表1】

【0049】
[試験例2]
下記表2に示す配合に従い、その他は上記試験例1と同様にしてゴム組成物を調製した。得られた各ゴム組成物について、試験例1と同様に、加硫した試験片を用いて、M300と比重とtanδを測定し評価した。但し、いずれの評価も比較例6の値を100とした指数で表示した。結果は、表2に示す通りであり、補強剤の配合量を15重量部とした場合でも、試験例1と同じ傾向の結果が得られた。
【0050】
【表2】

【0051】
[試験例3]
下記表3に示す配合に従い、また、補強剤として、実施例7,8及び比較例10,11では上記製造例4の乾燥体を用い、実施例9,10では製造例5の乾燥体を用い、比較例12,13ではダイセル化学工業(株)製「セリッシュKY−110G」をそのまま用い、比較例14ではカーボンブラックを用いた以外は、上記試験例1と同様にしてゴム組成物を調製した。表3中の各成分は、以下のものを除き上記表1と同じである。
【0052】
・未変性SBR:未変性のスチレンブタジエンゴム、ランクセス社製「VSL5025−2HM」
・変性SBR:アニオン重合で合成された官能基としてカルボキシル基を有する変性スチレンブタジエンゴム、ランクセス社製「PBR4003」。
【0053】
得られた各ゴム組成物について、試験例1と同様に、加硫した試験片について、M300と比重とtanδを測定し評価した。但し、いずれの評価も比較例10の値を100とした指数で表示した。
【0054】
結果は、表3に示す通りであり、フィブリル化された水懸濁状のセルロースをそのまま配合した比較例13や、補強剤としてカーボンブラックを用いた比較例14に対し、製造例4の乾燥体を用いた比較例10では、M300が高く補強性に優れており、軽量化と補強性のバランスが向上しており、またtanδが低く、低発熱性にも優れていた。かかる比較例10に対して、更に変性ポリマーを併用した実施例7〜10であると、M300が更に向上し、またtanδが低く、補強性と低発熱性のバランスが更に向上していた。
【0055】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、バンバリーミキサーやロール等といった従来の設備で生産性を悪化させずに、軽量化と補強性と低発熱性のバランスを向上したゴム組成物を製造することができるので、各種タイヤのゴム部材を始めとして、防振ゴムやベルトなどの各種用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィブリル化されたセルロースの水懸濁体を、沸点120℃以下である一価アルコール及びケトンの少なくとも1種からなる有機溶剤に浸漬し、その後乾燥して、フィブリル化されたセルロースの乾燥体を得ること、及び、
得られたセルロースの乾燥体を、当該セルロースの繊維表面のヒドロキシル基と結合し得る官能基を有する変性ジエン系ゴムが20重量部以上含まれたジエン系ゴム100重量部に対して、セルロース量として5重量部以上添加し混合すること、
を含むゴム組成物の製造方法。
【請求項2】
前記セルロースの乾燥体は粒子状フィラーを実質的に含まないものであることを特徴とする請求項1記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
前記水懸濁体を、当該水懸濁体が含む水の重量の5〜15倍量の前記有機溶剤に浸漬させることを特徴とする請求項1又は2記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥体は、2〜10重量%の前記有機溶剤を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項5】
前記官能基が、アミノ基、エポキシ基、ヒドロキシル基、アルキルシリル基、アルコキシシリル基およびカルボキシル基から選択される少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。

【公開番号】特開2011−6551(P2011−6551A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−150132(P2009−150132)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】